主文
 被告人を懲役3年に処する。
 未決勾留日数中60日をその刑に算入する。
 押収してある偽造日本銀行券10枚(平成25年押第1号の1ないし10)を没収する。

理由
(罪となるべき事実)
被告人は、
第1 平成24年8月25日午前9時51分頃、大分県杵築市所在のコンビニエンスストア甲店において、同店店員Aに対し、たばこ等の代金として、真正なものであるように装って、偽造された金額千円の日本銀行券1枚(平成25年押第1号の1)をレジカウンター上に置き、同人にこれを受け取らせて行使し、
第2 同日午前10時1分頃、同市所在の有限会社乙給油所において、同社社員Bに対し、ガソリンの代金として、真正なものであるように装って、偽造された金額千円の日本銀行券1枚(平成25年押第1号の2)を手渡して行使し、
第3 同日午前10時8分頃、同市所在の丙株式会社給油所において、同給油所所長Cに対し、ガソリンの代金として、真正なものであるように装って、偽造された金額千円の日本銀行券1枚(平成25年押第1号の3)を手渡して行使し、
第4 同日午前10時37分頃、同市所在の有限会社丁給油所において、同店店員Dに対し、ガソリンの代金として、真正なものであるように装って、偽造された金額千円の日本銀行券1枚(平成25年押第1号の4)を手渡して行使し、
第5 同日午前10時42分頃、同市所在のコンビニエンスストア戊店において、同店店員Eに対し、清酒等の代金として、真正なものであるように装って、偽造された金額千円の日本銀行券1枚(平成25年押第1号の5)を手渡して行使し、
第6 同日午前10時53分頃、同県国東市所在のコンビニエンスストア己店において、同店店員F及び同店店長Gに対し、食料品等の代金として、真正なものであるように装って、偽造された金額千円の日本銀行券合計2枚をレジカウンター上に置いて行使しようとしたが、同人らに偽造通貨であることを見破られたため、その目的を遂げず、
第7 同日午前11時17分頃、同県速見郡所在のコンビニエンスストア庚店において、同店店員Hに対し、清酒等の代金として、真正なものであるように装って、偽造された金額千円の日本銀行券1枚(平成25年押第1号の6)をレジカウンター上に置き、同人にこれを受け取らせて行使し、
第8 同日午前11時35分頃、同県別府市所在の株式会社辛給油所において、同店店長Iに対し、軽油の代金として、真正なものであるように装って、偽造された金額千円の日本銀行券1枚(平成25年押第1号の7)を手渡して行使し、
第9 同日午後0時頃、同市所在の株式会社壬月極駐車場南側歩道上において、同所にて果物等の販売をしていたJに対し、果物等の代金として、さらに、その後、上記Jと共に果物等の販売をしていたKに対し、両替を求めて、いずれも真正なものであるように装って、偽造された金額千円の日本銀行券合計3枚(平成25年押第1号の8ないし10)を手渡して行使したものである。

(証拠の標目)
 省略

(争点に対する判断)
 本件の争点は、被告人が、判示第1ないし第9の偽造された金額千円の日本銀行券(以下「本件千円札」という。)を交付するなどした際に、これらがいずれも偽造されたものであることを認識していたか否かである。
1 本件千円札は、透かしがなく、やや色が薄くて赤みがかっており、真正な千円札と見比べれば偽造されたものであるとすぐにわかるが、それ単体で一べつして偽札とわかるものとまではいえない。
 しかし、裁断がずさんで四辺がまっすぐではなく、余白の大きさも区々になっており、あらためて見直してみれば、偽札ではないかという疑いを持つのが当然といえるものである。
2 被告人は、判示第6の犯行時、本件千円札を手渡した店員から透かしが入っていないと指摘されたが、問い返すことなどもせず、その千円札の透かしの有無などを確認することもなく、その後も別の3軒の店で本件千円札を使って食料品などを購入している。自分のお札が本物であると信じていたのなら、このような指摘を受ければ、驚いたり確認をするのが当然である。それにもかかわらず、確認などしなかったのは、被告人が、当初から本件千円札が偽造されたものであると知っていたためと認められる。
 この点について、被告人は、若い女性店員の前で言い争いになるのを避けたかったなどと述べているが、このような供述は、被告人が店外に出てからもその千円札を確認してみなかったことの理由にはならない。
3 被告人は、約2時間10分の間に9軒もの店を次々と回り、車にガソリンを入れたり、酒や食料品等を買ったりしている。このことは、被告人が本件千円札が偽造されたものであると認識していたため、これらを早く使い切ろうとしていたのだと認められる。
 また、被告人は、判示第9の犯行では本件千円札を1度に2枚手渡しているが、それ以外の店では本件千円札を1枚ずつ使って、複数の給油所で車に給油することを繰り返したり、別の店で同種の物を買ったりしているが、これは、枚数が多ければ確認の際などに本件千円札が偽造されたものであるとばれてしまうなどと考えたためであると認められる。
 この点について、被告人は、複数の店を回って若い女性店員や知人等と話がしたかったなどと供述しているが、不自然である。短時間に複数の給油所で千円分のガソリンを繰り返し給油した理由については、自分でも分からないと述べるに止まっている。
4 加えて、千円札の表面2枚と裏面2枚がそれぞれ印字された各紙片が被告人の自宅から押収されているが、その表面1枚には本件千円札と同じ記番号が印字されており、その裏面1枚には本件千円札と同じ2か所の位置に小さな点が印字されている。
 したがって、これらの紙片は本件千円札と同じ偽造千円札を製造する途中に作られたものであると認められ、このような紙片が被告人方から押収されていることからすれば、被告人は、本件千円札を入手した時点ですでにそれが偽札であると知っていたものと認められる。
 この点について、被告人は、被告人方に上記の各紙片が落ちていることを知らなかったと供述するが、被告人方はひどく散らかっているものの、各紙片の発見場所は台所と居間の間にある引き戸の近辺で、被告人自身も通り道だと述べている場所であって、被告人がこれらに気付いていなかったとは到底思われない。
5 以上に対して、被告人は、3名の者から、それぞれアルバイトの報酬として千円札14枚ずつを受け取った、本件千円札14枚はそのいずれかであり真正なものであると思っていた、うち2名は犯人でないのに、嫌疑が及ぶだけで多大な迷惑をかけてしまうことになるから、いずれの名前も明かしたくない、などと供述する。
 しかし、被告人の供述を前提としても、被告人が、自ら有罪の判決を受けるリスクを負ってまで、その3人の名前を伏せなければならないとは思われないし、その3名から、それぞれ被告人が持っていた偽造千円札と同じ枚数の千円札を受け取ったというのは、あまりにもできすぎた話である。
 また、被告人の供述によれば、アルバイトの報酬として6枚や8枚といった数の千円札を受け取ったことになるが、そうであれば、当然その枚数を確認するところ、その際に本件千円札の四辺や余白の異常に気づかないとは思われない。これらを真正な千円札と一緒に保管していたとも供述しているが、そうだとすれば、なおさらおかしいと思う機会があったはずである。
 被告人の供述はいずれも不自然といわざるを得ない。
6 以上によれば、被告人は、判示第1ないし第9において、本件千円札が、すべて偽造されたものであると知りながら行使し、又は行使しようとしたものと認められる。

(法令の適用)
罰条
判示第1ないし第5及び第7ないし第9の各行為
 いずれも刑法148条2項、1項
判示第6の行為
 刑法151条、148条2項、1項
刑種の選択
 いずれも有期懲役刑を選択
併合罪加重
 刑法45条後段、50条(確定裁判を経ていない第1ないし第9の各罪について更に処断)、45条前段、47条本文、10条(犯情の最も重い判示第9の罪の刑に法定の加重)
未決勾留日数の算入
 刑法21条
没収
第1ないし第5及び第7ないし第9の各事実
 いずれも刑法19条1項1号、2項本文(押収してある偽造日本銀行券10枚(平成25年押第1号の1ないし10)は、それぞれ判示第1ないし第5及び第7ないし第9の各偽造通貨行使の犯罪行為を組成した物で、何人の所有をも許さないもの)
訴訟費用の不負担
 刑事訴訟法181条1項ただし書

(量刑の理由)
 被告人は、手持ちの偽札を早く使い切ろうとして、9軒もの店を次々と回り、合計10枚の偽造の千円札を行使し、又は行使しようとしたものである。
 また、確定裁判となる前件の器物損壊被告事件で執行猶予付きの判決を受けながら、その後わずか3か月ほどで本件各犯行に及んでいる。加えて、当公判廷では、偽札とは知らなかったなどと不自然な弁解をしており、真摯な反省もない。そうすると、本件で行使された千円札が精巧なものではないことなどを考慮しても、法定刑の下限を下回る刑を科すまでの事情があるとはいえず、主文の刑を科すのが相当と判断した。

(求刑-懲役3年6月、偽造日本銀行券10枚没収)

平成25年3月8日

大分地方裁判所刑事部

裁判長裁判官 真鍋 秀永
裁判官 開發 礼子
裁判官 前川 悠
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