平成23年(受)第1043号 傷害保険金等請求事件 平成25年4月16日 第三小法廷判決主文 原判決を破棄する。
本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
 理由
上告代理人新谷勇人の上告受理申立て理由1ないし7について
1 本件は,普通傷害保険契約の契約者兼被保険者か嘔吐した物を誤嚥して窒息 し,死亡したことについて,保険金受取人てある上告人らか,保険者てある被上告 人に対し,死亡保険金の支払を求める事案てある。2 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりてある。
(1) 被上告人は,Aとの間て,同人を被保険者とする普通傷害保険契約(以下 「本件保険契約」という。)を締結していた。本件保険契約に適用される傷害保険 普通保険約款(以下「本件約款」という。)には,次のような定めかあった。ア 被上告人は,被保険者か急激かつ偶然な外来の事故によってその身体に被っ た傷害に対して,保険金を支払う。イ 被上告人は,被保険者の脳疾患,疾病又は心神喪失によって生した傷害に対 しては,保険金を支払わない。ウ 被上告人は,被保険者か上記アの傷害を被り,その直接の結果として,事故 の日からその日を含めて180日以内に死亡したときは,死亡保険金を支払う。エ 死亡保険金か支払われる場合において,死亡保険金受取人の指定かないときは,被保険者の法定相続人を死亡保険金受取人とし,その法定相続分の割合により支払う。
(2) Aは,平成20年12月24日,飲酒を伴う食事をした後,鬱病の治療のために処方されていた複数の薬物を服用した。その後,Aは,うたた寝をしていた か,翌25日午前2時頃,目を覚ました後に嘔吐し,気道反射か著しく低下してい たため,吐物を誤嚥し,自力てこれを排出することもてきす,気道閉塞により窒息 し,病院に救急搬送されたか,同日午前3時18分に死亡か確認された。Aの死因 は,吐物誤嚥による窒息てあった。Aか服用していた薬物は,いすれもその副作用として悪心及ひ嘔吐かあり,その 中には,アルコールと相互に作用して,中枢神経抑制作用を示し,知覚,運動機能 等の低下を増強するものもあった。Aの窒息の原因となった気道反射の著しい低下は,上記誤嚥の数時間前から1, 2時間前まてに体内に摂取したアルコールや服用していた上記薬物の影響による中 枢神経の抑制及ひ知覚,運動機能等の低下によるものてある。3 原審は,本件保険契約における保険金の支払事由てある外来の事故は,外部 からの作用か直接の原因となって生した事故をいい,薬物,アルコール,ウイル ス,細菌等か外部から体内に摂取され,又は侵入し,これによって生した身体の異 変や不調によって生した事故を含まないとした上,Aの窒息の原因となった気道反 射の著しい低下は,体内に摂取したアルコールや服用していた上記薬物の影響によ る中枢神経の抑制及ひ知覚,運動機能等の低下によるものてあるから,Aの窒息は 外部からの作用か直接の原因となって生したものとはいえないと判断して,上告人 らの請求を棄却した。4 しかしなから,原審の上記判断は是認することかてきない。その理由は,次のとおりてある。
 本件約款は,保険金の支払事由を,被保険者か急激かつ偶然な外来の事故によってその身体に傷害を被ったことと定めている。ここにいう外来の事故とは,その文 言上,被保険者の身体の外部からの作用による事故をいうものてあると解される (最高裁平成19年(受)第95号同年7月6日第二小法廷判決・民集61巻5号 1955頁参照)。本件約款において,保険金の支払事由てある事故は,これにより被保険者の身体 に傷害を被ることのあるものとされているのてあるから,本件においては,Aの窒 息をもたらした吐物の誤嚥かこれに当たるというへきてある。そして,誤嚥は,嚥下した物か食道にてはなく気管に入ることをいうのてあり,身体の外部からの作用を当然に伴っているのてあって,その作用によるものというへきてあるから,本件約款にいう外来の事故に該当すると解することか相当てある。この理は,誤嚥による気道閉塞を生しさせた物かもともと被保険者の胃の内容物てあった吐物てあるとしても,同様てある。
5 以上と異なり,Aの窒息は外来の事故による傷害に当たらないとした原審の 判断には,判決に影響を及ほすことか明らかな法令の違反かある。論旨はこの趣旨 をいうものとして理由かあり,原判決は破棄を免れない。そして,保険金支払の可 否を判断すへく,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。よって,裁判官全員一致の意見て,主文のとおり判決する。なお,裁判官田原睦 夫の補足意見かある。裁判官田原睦夫の補足意見は,次のとおりてある。
 誤嚥は,通常経口摂取したものによって惹起されるところ,本件ては,誤嚥の対
象物か吐瀉物てあったところから,原判決はその外来事故性に疑問を抱いたものと 思われる。しかし,誤嚥とは,一般的な医学用語辞典によれは,本来口腔から咽頭を通って 食道に嚥下されるへき液体又は固体か,嚥下時に気管に入ることをいうものてあっ て,誤嚥自体か外来の事故てあり,誤嚥の対象物か口腔に達するに至った経緯の如 何,即ち経口摂取か,吐瀉物(吐物,吐血を含む。)か,口腔内の原因(口腔内出 血,破折歯片等)によるかは問わないものてある。(裁判長裁判官 田原睦夫 裁判官 岡部喜代子 裁判官 大谷剛彦 裁判官 寺田逸郎 裁判官 大橋正春)
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