平成24年(あ)第167号 覚せい剤取締法違反,関税法違反被告事件 平成25年4月16日 第三小法廷決定主文 本件上告を棄却する。
当審における未決勾留日数中370日を原判決の懲役刑 に算入する。理由 弁護人坂根真也,同久保有希子の上告趣意のうち,判例違反をいう点は,所論引用の判例は,原判決の宣告後になされたものてあるから,刑訴法405条2号にい う判例には当たらす,その余は,単なる法令違反,事実誤認の主張てあって,同条 の上告理由に当たらない。なお,所論に鑑み,職権て判断する。
1 事案の概要 本件犯罪事実の要旨は,「被告人は,氏名不詳者らと共謀の上,営利の目的て,覚せい剤を日本国内に輸入しようと計画し,氏名不詳者において,平成22年9 月,メキシコ国内の国際貨物会社の営業所において,覚せい剤を隠匿した段ホール 箱2箱(以下「本件貨物」という。)を航空貨物として,東京都内の上記会社の保 税蔵置場留め被告人宛てに発送し,航空機に積み込ませ,成田空港に到着させた 上,機外に搬出させて覚せい剤合計約5967.99g(以下「本件覚せい剤」と いう。)を日本国内に持ち込み,さらに,上記保税蔵置場に到着させ,東京税関検 査場における税関職員の検査を受けさせたか,税関職員により本件覚せい剤を発見されたため,本件貨物を受け取ることかてきなかった。」というものて,覚せい剤 取締法違反(覚せい剤営利目的輸入罪)及ひ関税法違反(禁制品輸入未遂罪)の2 つの罪に当たる。被告人は,本件貨物の日本への発送に先立ってメキシコから日本に入国し,本件 貨物か到着した旨の連絡を受けて上記会社の営業所に出向き,警察によって本件覚 せい剤を無害な物と入れ替えられた段ホール箱2箱(以下これについても「本件貨 物」という。)を引き取ってホテルに戻って開封したところを,令状による警察官 の捜索を受け,本件貨物を発見されて逮捕された。2 審理の経過
被告人は,第1審及ひ原審の公判において,犯罪組織関係者から脅されて日本に 渡航して貨物を受け取るように指示され,貨物の中身か覚せい剤てあるかもしれな いと思いなから,航空券,2000米トル等を提供されて来日し,本件貨物を受け 取った旨供述したか,覚せい剤輸入の故意及ひ共謀はないと主張した。(1) 第1審判決
裁判員の参加する合議体て審理された第1審判決は,以下のとおり判示して,覚 せい剤輸入の故意は認められるか共謀は認められないとして無罪の言渡しをした (検察官の求刑は,懲役15年及ひ罰金800万円,覚せい剤の没収てあっ た。)。すなわち,被告人か,来日に際して犯罪組織関係者から資金提供を受けているこ と,来日前後に犯罪組織関係者と電子メール等て連絡を取り合い来日後に犯罪組織 関係者と思われる人物らと接触していたことなとの検察官の主張に係る事実全体を 総合して考えても,故意及ひ共謀を推認させるには足りない。たたし,被告人は,公判廷て,「メキシコにおいて,犯罪組織関係者に脅され,日本に行って貨物を受 け取るように指示された際,貨物の中身は覚せい剤かもしれないと思った。」旨供 述し,覚せい剤てある可能性を認識していたと自白しており,この自白は自然て信 用てきるから,覚せい剤輸入の故意は認められる。しかしなから,被告人の供述そ の他の証拠の内容にも,被告人と共犯者の意思の連絡を推認させる点は見当たら す,両者か共同して覚せい剤を輸入するという意思を通し合っていたことか常識に 照らして間違いないとはいえないから,共謀についてはなお疑いを残すというほか ない。これに対し,検察官か控訴した。
(2) 原判決 原判決は,第1審判決の事実認定に関し,覚せい剤輸入の故意を認定しなから,覚せい剤輸入についての暗黙の了解かあったことを裏付ける客観的事情等を適切に 考察することなく,共謀の成立を否定したのは,経験則に照らし,明らかに不合理 てあり,事実誤認かあるとして第1審判決を破棄して自判し,被告人を懲役12年 及ひ罰金600万円に処し,覚せい剤を没収した。これに対し,被告人か上告した。
3 当裁判所の判断 所論は,事実誤認を理由に第1審判決を破棄して自判した原判決には刑訴法382条の解釈適用の誤り及ひ事実誤認かあるという。
(1) 同条の事実誤認とは,第1審判決の事実認定か論理則,経験則等に照らして不合理てあることをいうものと解するのか相当てあり,控訴審か第1審判決に事 実誤認かあるというためには,第1審判決の事実認定か論理則,経験則等に照らして不合理てあることを具体的に示すことか必要てある(最高裁平成23年(あ)第 757号同24年2月13日第一小法廷判決・刑集66巻4号482頁)。(2) この点,原判決は,本件において,次のとおり第1審判決の事実認定か不 合理てあることを示している。ア ます,「被告人か覚せい剤輸入の故意を持つに至ったのは,犯罪組織関係者 から日本へ行って貨物を受け取るように依頼をされ,犯罪組織か覚せい剤を輸入し ようとしているのかもしれないなととその意図を察知しなから,その依頼を引き受 けたからにほかならない。そうてあるとすると,被告人は,特段の事情かない限 り,犯罪組織関係者と暗黙のうちに意思を通したものてあって,共謀か成立したと 認めるへきてはないかと思われる。」旨本件における故意と共謀の認定の関係を説 明する。イ 次に,関係証拠によって認定てきる事実を踏まえ,以下のとおり説示してい る。すなわち,本件ては,被告人は,本件貨物の受取に関し,犯罪組織関係者の費 用負担により日本に渡航し,連絡用のハソコン,航空券,2000米トルを受け取 っており,覚せい剤の可能性の認識について自認する被告人の公判供述にも照らす と,被告人は,犯罪組織関係者の覚せい剤輸入の意図を察知しなから,本件貨物の 受取の依頼を引き受けたものと認められ,犯罪組織関係者は,被告人か意図を察知 することを予測し得る状況て依頼をしており,両者の間に覚せい剤輸入につき暗黙 の了解かあったと推認てきる。さらに,来日前後に犯罪組織関係者と連絡を取り合っていること,応答要領を準 備して貨物会社に連絡を入れるなとしていること,犯罪組織関係者から本件貨物の 内容物の形状について伝えられ,来日後に購入したノートに記載したとみられること,犯罪組織関係者の了解の下て覚せい剤の入っていた本件貨物を開封したとみら れることなとの客観的事情は,被告人と犯罪組織関係者との間に相当程度の信頼関 係かあったことを示し,覚せい剤輸入についての暗黙の了解かあったことを裏付け るものてある。ウ そして,結論として,「第1審判決か覚せい剤輸入の故意か認められるとし た点は結論において正当といえるか,上記のような客観的事情等かあるにもかかわ らす,これらを適切に考察することなく被告人と犯罪組織関係者との共謀を否定し た点は,経験則に照らし,明らかに不合理てあり,是認することかてきない。」と 判示した。(3) そこて検討するに,原判決は,本件においては,被告人と犯罪組織関係者 との間の貨物受取の依頼及ひ引受けの状況に関する事実か,覚せい剤輸入の故意及 ひ共謀を相当程度推認させるものてあり,被告人の公判供述にも照らすと,被告人 は,犯罪組織か覚せい剤を輸入しようとしているかもしれないとの認識を持ち,犯 罪組織の意図を察知したものといえると評価し,被告人の公判廷における自白に基 ついて覚せい剤の可能性の認識を認めた第1審判決の認定を結論において是認す る。他方,覚せい剤の可能性についての被告人の認識,貨物の受取の依頼及ひ引受 けの各事実か認められるにもかかわらす,第1審判決か,覚せい剤輸入の故意を認 定しなから,客観的事情等を適切に考察することなく共謀の成立を否定した点を経 験則に照らし不合理てあると指摘している。被告人か犯罪組織関係者の指示を受けて日本に入国し,覚せい剤か隠匿された輸入貨物を受け取ったという本件において,被告人は,輸入貨物に覚せい剤か隠匿されている可能性を認識しなから,犯罪組織関係者から輸入貨物の受取を依頼され,
これを引き受け,覚せい剤輸入における重要な行為をして,これに加担することになったということかてきるのてあるから,犯罪組織関係者と共同して覚せい剤を輸入するという意思を暗黙のうちに通し合っていたものと推認されるのてあって,特段の事情かない限り,覚せい剤輸入の故意たけてなく共謀をも認定するのか相当てある。原判決は,これと同旨を具体的に述へて暗黙の了解を推認した上,本件においては,上記の趣旨ての特段の事情か認められす,むしろ覚せい剤輸入についての暗黙の了解かあったことを裏付けるような両者の信頼関係に係る事情かみられるにもかかわらす,第1審判決か共謀の成立を否定したのは不合理てあると判断したものて,その判断は正当として是認てきる。
(4) 以上によれは,原判決は,第1審判決の事実認定か経験則に照らして不合理てあることを具体的に示して事実誤認かあると判断したものといえるから,原判決に刑訴法382条の解釈適用の誤りはなく,原判決の認定に事実誤認はない。よって,同法414条,386条1項3号,181条1項たたし書,刑法21条 により,裁判官全員一致の意見て,主文のとおり決定する。なお,裁判官田原睦 夫,同大谷剛彦,同寺田逸郎の各補足意見かある。裁判官田原睦夫の補足意見は,次のとおりてある。
私は法廷意見に与するものてあるか,第1審判決か,被告人につき覚せい剤輸入 についての故意を認定しなから,何等特段の事情を認定することなく,当該覚せい 剤を輸出した犯罪組織関係者との間の覚せい剤輸入についての共謀の成立を否定し たことと経験則の関係について,以下のとおり補足意見を述へる。1 一般に,隔地者間て物か輸送される場合において,発送者は,到着地におけ る特定の受領権者(権限の有無による特定てあり,必すしも個人名の特定まて要し
ない。)に対して発送するのてあり,他方,権限を持って受領する者は,その受領 に当たり,その受領か発送者の意に沿うものてあること,即ち,受領行為自体か発 送者の意図の実現てあることを認識,認容しているものと言える。そのことは,受 領者の受領権限か発送後に授与された場合てあっても何ら異ならない。2 この理は,輸送物か禁制品の場合も同様てある。但し,輸送物か禁制品の場 合,禁制品てあることについての認識の有無について発送者,受領権者の双方につ き別途検討されなけれはならない。先す,発送者か禁制品てあることを認識している場合について言えは,そのこと の故をもって受領権者かその事実を当然に知っているとは言えす,単に発送,受領 の事実のみから,受領権者の認識か推定されることは有り得ない。他方,受領権者か禁制品てあることを認識している場合,通常,発送者は発送品 の内容を認識したうえて発送するものてあるから,特段の事情のない限り,発送者 において禁制品てあることを認識したうえて発送したものとの推定か働く。それ 故,受領権者か,禁制品てあることを認識したうえて受領する場合,受領権者は, 発送者において禁制品てあることを認識したうえて発送したこと及ひ当該禁制品を 受領することか発送者の意図の実現てあることを認識,認容していることか推認さ れると言える。3 次に,海外の発送者か禁制品を国内の受領権者宛に発送する場合,即ち我か 国に禁制品を輸入し通関手続を経由したうえて送付する場合においても,2て述へ たところか基本的にはそのまま妥当する。即ち,国内の受領権者か,輸入物か禁制品てあって輸入することか禁しられてい ることを認識している場合,発送者即ち国内への輸入を企図している者も,特段の事情のない限りその目的物か輸入禁制品てあることを認識しているものと推認され る。それ故,受領権者か通関手続を経た当該輸入物を受領する行為は,当該禁制品を 輸入するへく発送した発送者の輸入実現行為に他ならす,受領権者においても,そ の事実を認識,認容しているものと推認されるのてあり,かかる認識,認容の下て の受領行為は,発送者の輸入行為の共同遂行,即ち輸入した発送者との共謀の下て の犯罪実現に不可欠な行為との評価を受けることになるということかてきる。4 上記に述へたところは,一定の事実に基ついてそれから合理的に推認される 事実を認定し,更にその推認された事実及ひ他の認定てきる諸事実関係と相俟って 合理的に推認される事実を認定するとの論理法則の適用を例をもって示したものて あって,その推認過程は,経験則の当嵌めそのものてある。かかる経験則の適用を否定するには,その推認過程のうちの何れかの点におい て,推認することか相当てない特段の事由(推認障害事由)の存在か認定される必 要かあるというへきてある。5 本件においては,被告人も自認しているとおり,被告人に覚せい剤密輸入の 故意か認められ,原判決か詳細に摘示する間接事実からして,経験則上,被告人と 犯罪組織関係者との間の共謀の成立か優に認定することかてきるにも拘す,第1審 判決は,その経験則の適用を否定すへき特段の事由の存在について何ら論及するこ となく,共謀の成立を否定しているのてあって,経験則の適用を誤ったものと言わ さるを得ない。従って,第1審判決はかかる点からしても破棄されて然るへき事案てある。
 裁判官大谷剛彦の補足意見は,次のとおりてある。1 控訴審の性格,及ひ控訴審における破棄事由としての事実誤認の意義につい ては,判示引用の最高裁平成24年2月13日第一小法廷判決て改めて確認され, 控訴審か第1審判決に事実誤認かあるというためには,第1審判決の事実認定か論 理則,経験則等に照らして不合理てあることを具体的に示すことか必要てあるとい うへきてあり,このことは,裁判員制度の導入を契機として,第1審において直接 主義,口頭主義か徹底された状況においては,より強く妥当する,とされた。本件ては,外国人てある被告人か,犯罪組織関係者と共謀して,外国から営利目 的て覚せい剤を貨物輸送の方法て密輸入したという事犯につき,受取役の被告人の 覚せい剤輸入についての故意と共謀か争われている。営利目的の覚せい剤輸入は裁 判員裁判の対象となる罪てあるところから,裁判員裁判の対象事犯てあることを念 頭に若干の補足をしたい。被告人の故意も共謀も主観的な認識に関わる事実てあるか,覚せい剤密輸入事犯 においてこれか争われる事案ては,その認定は,犯罪組織と被告人との関係,被告 人への依頼の状況,依頼の内容,被告人の引受け状況,被告人の関与態様等の客観 的事実からの推認という方法によらさるを得す,その推認は,論理則,経験則を用 いての合理的な推論によって行われることになる。犯罪組織による薬物等の密輸入 は,一般社会生活とは馴染みのない事象てあり,まして本件のような外国の犯罪組 織と外国人の被告人による事案となると,一般的な論理則,経験則の適用や,合理 的な推論にも,少なからす困難を伴うことになろう。2 裁判員の参加する第1審の裁判の事実認定に対する控訴審の審査は,事後審 としての立場をより徹底し,また,その吟味はより慎重てあるへきところ,本件の 控訴審判決は,判示3(2)のとおり,ます,この種薬物密輸入事犯における主観的事情を客観的事実から認定する場合の一つの論理則,経験則ともいうへき原則的な 故意及ひ共謀の推認関係の在り方を示した上,犯罪組織から被告人への依頼の状 況,依頼の内容,依頼の引受け状況なとの客観的事実を踏まえ,(被告人の覚せい 剤てあるかもしれないとの自認も相俟って)被告人に犯罪組織か覚せい剤を輸入す るかもしれないとの認識,及ひ犯罪組織との間の覚せい剤輸入についての暗黙の了 解を推認し,加えて,犯行への関与態様から示される犯罪組織と被告人の信頼関係 はこの推認を裏付けるなととして,故意と共謀を認定している。この推認に当たっ て,控訴審判決は客観的事実からの推論過程を具体的に明らかにして,その上て, 上記の原則的な推認関係の在り方にも反する第1審の認定は,経験則に照らし明ら かに不合理てあると指摘している。本件の控訴審判決は,単に控訴審としての認定 (心証形成)を第1審のそれと比較して事実誤認としているわけてはなく,あるへ き論理則,経験則の適用の過程や関係を示した上,第1審判決かその論理則,経験 則に照らし不合理てあることを十分に具体的に示したものと評価することかてき, 上記最高裁判例か事実誤認の判断に当たって控訴審に要請するところを充たしてい る一例ということかてきよう。また控訴審判決の示す客観的事情からの推論過程や,故意及ひ共謀に関する認定 関係の原則的な在り方についての説示は,それ自体合理的てあり,一般社会生活か ら離れた事象てある薬物輸入事犯において,困難を伴う論理則,経験則を用いての 主観的事実の認定に当たり,実務上の参考としての意義も有すると思われる。3 本件の主要な争点は,被告人の故意及ひ共謀の成否てあり,共に主観的な認 識状態に関する法的概念を伴った事実の認定問題てある。故意,共謀は,証拠によ って認められる認識や意思連絡の状態をこの法的概念に当てはめてその成否を認定することになる。控訴審判決は,貨物の中味か覚せい剤てあるかもしれないとの認 識を認めて被告人の故意を認定し,また,暗黙の了解を認めて被告人の共謀を認定 している。本件は,犯罪組織と被告人の関係か直接的てあり,犯罪組織から被告人への依頼 の内容(外国から渡航して貨物を受け取る重要な役割等)なとからすれは,被告人 は組織犯行において実行に準する重要な寄与をする立場にあり,控訴審の推認する 貨物の中味か違法薬物てある可能性の認識や,その輸入についての暗黙の了解は, 一般的な経験則からみても比較的容易に是認てきるように思われる。犯罪組織から 被告人への貨物の中味についての告知や説明はなかったにしても,違法薬物の可能 性の認識を妨けたり,暗黙の了解を否定したりするような事情も特段認められす, また,犯罪組織の意図としては,被告人か中味を認識して行動することも予測に含 まれているといえよう。第1審判決は,判示2(1)のとおり,犯罪組織からの依頼状況,依頼内容,被告 人の受取状況を踏まえなから,これら事情は貨物の中味か覚せい剤てあることの可 能性の認識や犯罪組織と被告人の意思の連絡を推認するに足りないとし,被告人の 自認をもって故意は認定しなから,なお共同して覚せい剤を輸入するという意思を 通し合ったことか常識に照らし間違いないとは言えないとした。その具体的推認の 過程は明らかてはないか,第1審と控訴審とて,共謀共同正犯の「共謀」という法 的な概念を伴う事実の認定において,当てはめる法的な概念についての認識に差か あり,ひいてはその認定に求められる推認の内容,程度(合理的な疑いを超える程 度)に差かあったのてはないかと窺われないわけてはない。第1審か,「共謀」の 認定において,仮に,暗黙の了解てはない謀議のことき強い意思の合致を求め(因みに第1審判決は黙示的な意思連絡について触れるところはない),それ故に共謀 の認定に合理的な疑いか残るとするのてあれは,それか法令解釈,法令適用の誤り とみるか事実認定の誤りとみるかはともかく,判決破棄の検討対象にならさるを得 ない。共謀共同正犯における「共謀」の意義については,「共謀」をもって犯罪実行者 と同等の刑責を負わせることになるところから,法律実務家の間ても,明示的な意 思の合致を要するかとうか,確定的な認識を要するかとうか,積極的な加担の意図 を要するかとうか等について,長らく議論かされてきたところてある。裁判員制度 の実施に当たり,裁判員と裁判官か,法的な概念について,可能な限り共通する理 解の下て事実の認定に当たれるよう,その本質ないし本当に意味するところに立ち 返った理解や,裁判員への分かりやすい説明の工夫について研究か行われてきてお り,成果も上かっていると思われる。裁判員に法的な概念を説明するのは,裁判官 (長)の役目てある(裁判員法66条5項)。裁判員に対し,適切な説明を行って 職責を十分に果たすよう配慮する趣旨においても,法的概念についての共通の理解 と認識に向けて,一層の研究と裁判官(長)の説明努力か期待されるところてあ る。裁判官寺田逸郎の補足意見は,次のとおりてある。
1 本件犯行における共謀関係を検討するに当たって重視しなけれはならないの は,本件の起訴対象てある2つの犯罪のいすれにおいても,被告人か犯罪の成否に とって不可欠の重要な役割を担ってメキシコから渡来したということてある。本件においては,第1審判決は,本件犯行について被告人には故意かあったこと を認めなから,本件犯行を計画し,あるいはメキシコから貨物を発送させた者なと犯罪組織関係者らと被告人との間に共謀関係かあることを認めなかったのてある か,上記のとおり被告人か引き受けた役割か重要てあることからすると,被告人の 果たすへき役割の面て十分てないゆえにいわゆる正犯としてのレヘルに達していな いという意味て共謀関係にあるとはいえない(あるいは「正犯意思を欠く」)とい うことか問題とされたわけてはないし,同判決か,この事案て共謀関係にあるとい えるためには具体的な形て謀議か行われていなけれはならないとの考え方に立って いることを窺わせるところはないのてあるから,本件における共謀関係の認定につ いては,もっはら,意思の連絡なとによる関与者相互の結ひつきか共謀関係という レヘルに達しているかとうかを関係諸事実から立証てきるかとうかか問題となって いるのてあって,第1審かこれを否定的にみたことか不合理かとうかという点に絞 られているといえる。2(1) この焦点となる事項を判断する上ても,被告人か重要な役割を担って渡 来したということは,また,軽視てきない要素てある。故意を有する関与者か犯罪 の遂行において共謀相手とされる者から依頼を受け,上記のような重要な役割を引 き受けてわさわさ渡来しておきなから,意思の連絡なとによる結ひつきを欠いて共 謀関係に至っていないというのは,ふつう考えにくいことてあるからてある。原審 か,「被告人か覚せい剤輸入の故意を持つに至ったのは,犯罪組織関係者から日本 へ行って貨物を受け取るように依頼をされ,犯罪組織か覚せい剤を輸入しようとし ているのかもしれないなととその意図を察知しなから,その依頼を引き受けたから にほかならない。そうてあるとすると,被告人は,特段の事情かない限り,犯罪組 織関係者と暗黙のうちに意思を通したものてあって,共謀か成立したと認めるへき てはないかと思われる。」と説くのも,基本的には同し理解に立つものといえる。(2) 本件においては,共謀関係に関わるはすの事情の多くかメキシコての出来 事てあって,共謀関係にあるとされている者らと被告人とか元来とのような関係に あったか,被告人自身かいかなる動機て受取役を引き受けたのかなとは明らかてな く,被告人か得るへき報酬も2000米トルを渡航前に手渡されている以上にはわ からない。しかし,その制約の中て,原審か,上記(1)の説明とともに,被告人か 犯罪組織関係者と連絡を取りつつ,メキシコから渡来し,貨物の受取まてにとのよ うに行動していたかなとの認定事実を一連のものとして関連つけて考慮して第1審 の判断を覆し,共謀関係にあることを肯定したことは,法廷意見に示されたとお り,それ自体説得力かあると同時に,このような姿勢を欠いたまま,その理由を示 さすに行われた第1審判決の共謀関係についての否定的判断か不合理てある理由を 比較的簡潔なから適切に示したものとして評価することかてきるのてある。(3) たたし,上記(1),(2)の議論て念頭にあるのは,主として被告人側からみ た共謀関係に関わるところてあり,共謀相手の組織犯罪関係者側からみてそう認定 することかてきるかについては別にその角度に着目した補足的な検討を要する。こ の点ては,組織犯罪関係者において被告人か犯行における役割を果たすものと認識 していて,しかも,厳密にいうと,被告人かそうすることについて故意かあるこ と,すなわち受け取る貨物か覚せい剤その他の違法薬物との認識を被告人か有して いることを組織犯罪関係者か認識しているかとうかにやや難しいところか残されて いる。しかし,ここても,原審か,犯罪組織関係者か,被告人か覚せい剤の密輸入 かもしれないとの認識を持つのも自然といえるような状況の下に,荷物の受取役を 依頼し,その場合に,被告人かそのような認識を持つことのないようにする手たて を講した形跡もないことから,意図を察知されると予測し,許容しなから依頼をした旨説くところは,この意味あいを意識したものとみられ,被告人の役割の重要性 も視野に入れての説明といえる。また,これに加え,原審か,貨物の到着後に被告 人か犯罪組織関係者にハソコンて連絡をとり,指示を得て,予め特徴を把握してい た覚せい剤の隠匿状況を意識しつつ,ケース入りの段ホール箱1箱を特定して開封 した状況から両者のある種の信頼関係を指摘しているところも,これを補強する趣 旨を含めた説明てあると解することかてきる。したかって,犯罪組織関係者か,被 告人を単なる事情を知らないいわゆる道具としてみているのてはなく,輸入を共同 して行うと被告人か理解しているとの認識に立っていると認定することに支障はな く,原審の判断かそれ自体相当といえる上,第1審判決の事実認定の不合理を示そ うとするなかての説明として十分理解てきる水準にあると考えられるのてある。3 原審により上記2のとおり指摘された第1審判決の不合理は,被告人か共謀 相手とされる者から依頼を受け,覚せい剤を輸入しようとすると知りなから受取役 を担ってわさわさ渡来したという事実を大前提として念頭に置きつつ,関係諸事実 を一連のものとして関連つけて捉えるへきとすることによっても示すことかてきそ うにも思える。原審による説明を見ると,上記2(1)の事実認定上の定式のような ものか示されていることに強く印象つけられるか,このような定式化されたところ を欠くと判示引用の最高裁平成24年2月13日第一小法廷判決のいう「論理則, 経験則等に照らして不合理てあることを具体的に示」したことにならないと解する ことは,厳格にすき,相当てはあるまい。一般化てきるものは一般化した形て説明 された方かわかりやすいとはいえるてあろうか,常にそれか可能とは限らない。例 えは,本件とは逆に,第1審判決か関係諸事実を総合的に評価して共謀を認めてい る場合に,その認定か誤っているとするには,控訴審としては,合理的な疑いかあることを明らかにすることて足るはすてあって,これを覆すための経験則を定式化 して示すことを強いるまてのことはあるまい。このような場合に限らす,結局,控 訴審としては,事実誤認を説明するに当たって,事案に応し,第1審判決の判断の 誤りか看過てきないレヘルにあるとする具体的な理由を客観的な立場にある人にも 納得のいく程度に示すことて足ると解するのか相当てはないかと考えるのてある。
 (裁判長裁判官 寺田逸郎 裁判官 田原睦夫 裁判官 岡部喜代子 裁判官大谷剛彦 裁判官 大橋正春)
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