平成22(行ヒ)第367号 生活保護変更定取消請求事件 平成24年4月2日 第二小法廷判主文 原判中別紙被上告人目録1記載の被上告人らの請求に 関する部分を破棄する。
 前項の部分につき,本件を福岡高等裁判所に差し戻す。 本件訴訟のうち別紙被上告人目録2記載の被上告人らの 請求に関する部分は,同目録記載の各日に同目録記載の 被上告人らの死亡により終了した。理由 上告代理人須藤典ほかの上告受理申立て理由について
1 本件は,北九州市内に居住して生活保護法に基つく生活扶助の支給を受けて いた被上告人らか,同法の委任に基ついて厚生労働大臣か定めた「生活保護法によ る保護の基準」(昭和38年厚生省告示第158号。以下「保護基準」という。) の数次の改定により,原則として70歳以上の者を対象とする生活扶助の加算(以 下「老齢加算」という。)か段階的に減額されて廃止されたことに基ついて所轄の 福祉事務所長らからそれそれ生活扶助の支給額を減額する旨の保護変更定を受け たため,保護基準の上記改定は憲法25条1項,生活保護法56条等に反する違 憲,違法なものてあるとして,上告人を相手に,上記各保護変更定の取消しを求 めた事案てある。2 保護基準のうち,生活扶助に関する基準(以下「生活扶助基準」という。) の定めは,次のとおりてある。(1) 生活扶助基準(別表第1)は,基準生活費(第1章)と加算(第2章)と に大別されている。居宅て生活する者の基準生活費は,市町村別に1級地-1から 3級地-2まて六つに区分して定められる級地(別表第9)及ひ年齢別に定められ る第1類と,級地等及ひ世帯人員別に定められる第2類とに分けられ,原則として 世帯ことに,当該世帯を構成する個人ことに算出される第1類の額(以下「第1類 費」という。)を合算したものと第2類の額(以下「第2類費」という。)とを合 計して算出される。第1類費は,食費,被服費等の個人単位の経費に,第2類費 は,光熱費,家具什器費等の世帯単位の経費にそれそれ対応するものとされてい る。なお,北九州市は,1級地-2と定められている。(2) 平成16年厚生労働省告示第130号により改定される前の保護基準によ れは,加算には,妊産婦加算,老齢加算,母子加算,障害者加算等かあり,老齢加 算に関しては,被保護者(現に生活保護法による保護を受けている者をいう。以下 同し。)のうち70歳以上の者並ひに68歳及ひ69歳の病弱者について一定額か 基準生活費に加算されて支給されていた。上記保護基準における生活扶助費の月額は,1級地-2の居宅て生活する70歳 以上の者の第1類費か1人当たり3万1180円,第2類費か単身世帯て4万15 60円,2人世帯て4万6000円てあったため,原則として,基準生活費の月額 は単身世帯て7万2740円,2人世帯て10万8360円てあった。これに対 し,上記保護基準において,1級地の居宅て生活する者の老齢加算の月額は1万7 930円てあった。3 原審か確定した事実関係等の概要は,次のとおりてある。
(1) 老齢加算は,昭和35年4月,70歳以上の者を対象に前年度に開始された老齢福祉年金を収入として認定することに対応して,これと同額を生活扶助に加 算するものとして創設された。その際,老齢加算は,高齢者の特別な需要,例えは 観劇,雑誌,通信費等の教養費,下衣,毛布,老眼鏡等の被服・身回り品費,炭, 湯たんほ,入浴料等の保健衛生費及ひ茶,菓子,果物等のし好品費に充てられるも のとして積算されていた。(2) その後も,老齢加算の額は,老齢福祉年金か増額されるのに伴ってこれと 同額か増額されていったか,昭和50年から老齢福祉年金か大幅に引き上けられる に及んて,厚生省(当時)の審議会てある中央社会福祉審議会の生活保護専門分科 会は,同年9月,老齢加算の額は一般生活費の付加的部分として高齢者の特別な需 要に見合うものとされるへきてある旨の意見等を内容とする「生活保護制度におけ る加算の取扱いについての意見」を提示した。この意見を受けて,昭和51年1 月,老齢加算の額は,1級地における65歳以上の者に係る第1類費基準額の男女 平均額の50%とすることとされた。同分科会は,昭和55年12月,その当時利 用可能な資料を用いて推計すると,現行の老齢加算の額は金額的にも高齢者の特別 な需要にほほ見合うものと認められる旨の意見等を内容とする「生活保護専門分科 会審議状況の中間的取りまとめ」を発表した。また,中央社会福祉審議会は,昭和58年12月,加算対象世帯と一般世帯との 消費構造を比較検討した結果,高齢者の特別な需要として,加齢に伴う精神的又は 身体的な機能の低下に対応する食費,光熱費,保健衛生費,社会的費用,介護関連 費等の加算対象経費か認められ,その額は,おおむね現行の老齢加算の額て満たさ れている旨の意見等を内容とする「生活扶助基準及ひ加算のあり方について(意見 具申)」を発表した。この意見具申を踏まえ,昭和59年4月以降,老齢加算の額は,第1類費に対応する品目に係る消費者物価指数の伸ひ率に準拠して改定されて きた。(3) 財務省の審議会てある財政制度等審議会の財政制度分科会は,平成15年 6月,財務大臣宛てに「平成16年度予算編成の基本的考え方について」と題する 建議を提出し,その中て,老齢加算について,年金制度改革の議論と一体的に考え ると,70歳未満受給者との公平性,高齢者の消費か加齢に伴って減少する傾向等 からみて,その廃止に向けた検討か必要てある旨の提言をした。同月,「経済財政 運営と構造改革に関する基本方針2003」か閣議定され,その中て,物価,賃 金動向,社会経済情勢の変化,年金制度改革等との関係を踏まえ,老齢加算等の見 直しか必要てあるとされた。(4) 厚生労働省の審議会てある社会保障審議会(厚生労働省設置法7条1項に 定める厚生労働大臣の諮問機関)は,平成15年7月の第6回福祉部会において, 生活保護制度の在り方に関する専門委員会(以下「専門委員会」という。)を同部 会内に設置した。専門委員会の委員は,社会保障制度経済学の研究者,社会福祉 法人の代表者,地方公共団体の首長等によって構成されていた。専門委員会においては,総務庁統計局か平成11年に実施した全国消費実態調査 によって得られた調査票を用いて,収入階層別及ひ年齢階層別に単身世帯の生活扶 助相当消費支出額(消費支出額の全体から,生活扶助以外の扶助に該当するもの, 被保護世帯は免除されているもの及ひ家事使用人給料仕送り金等の最低生活費に なしまないものを控除した残額をいう。以下同し。)等を厚生労働省か集計した結 果か説資料として提示された。それによると,いすれも無職単身世帯の生活扶助 相当消費支出額を月額て比較した場合,1 平均ては,60ないし69歳か11万8209円,70歳以上か10万7664円,2 第I-5分位(調査対象者を年 間収入額順に5等分した場合に最も収入額の低いクルーフ)ては,60ないし69 歳か7万6761円,70歳以上か6万5843円,3 第I-10分位(調査対 象者を年間収入額順に10等分した場合に最も収入額の低いクルーフ)ては,60 ないし69歳か7万9817円,70歳以上か6万2277円となるなと,いすれ の収入階層ても70歳以上の者の需要は60ないし69歳の者のそれより少ないこ とか示されていた。これらの資料を踏まえて,委員からは,年齢か高くなるに従っ て消費額か少なくなる事実からかになり,老齢加算の前提か崩れたなととする意 見か述へられる一方て,高齢者について老齢加算に見合う特別な需要の存在は検証 することかてきなかったか,高齢者世帯の社会的費用については一定の需要かあり 得るなとといった意見も述へられた。(5) 上記(4)の議論等を経て,専門委員会は,平成15年12月16日,「生活 保護制度の在り方についての中間取りまとめ」(以下「中間取りまとめ」とい う。)を公表した。中間取りまとめのうち,老齢加算に関する部分の概要は,次の とおりてあった。ア 単身無職の一般低所得高齢者世帯の消費支出額について70歳以上の者と6 0ないし69歳の者との間て比較すると前者の消費支出額の方か少なく,70歳以 上の高齢者について現行の老齢加算に相当するたけの特別な需要かあるとは認めら れないため,老齢加算そのものについては廃止の方向て見直すへきてある。イ たたし,高齢者世帯の社会生活に必要な費用に配慮して,保護基準の体系の 中て高齢者世帯の最低生活水準か維持されるよう引き続き検討する必要かある。ウ 被保護者世帯の生活水準か急に低下することのないよう,激変緩和の措置を講すへきてある。
 中間取りまとめについては,同日,社会保障審議会の第7回福祉部会において報告され,様々な意見か述へられたか,老齢加算に係る保護基準の改定の在り方等に ついての具体的な見解の集約はされなかった。(6) 財務省は,平成15年12月20日,老齢加算を翌年度から3年間かけて 段階的に減額して廃止することなとを盛り込んた平成16年度予算の財務省原案を 内示し,同月24日,上記内容を含む平成16年度予算案か閣議定された。厚生労働大臣は,平成16年度以降,保護基準につき,平成16年厚生労働省告 示第130号及ひ平成17年厚生労働省告示第193号によって老齢加算をそれそ れ減額し,平成18年厚生労働省告示第315号によって老齢加算を廃止する旨の 改定をした(以下,これらの保護基準の改定を「本件改定」と総称する。)。本件改定に基つき,所轄の福祉事務所長らは,被上告人らのうち世帯主てあった 者を名宛人として,それそれ老齢加算の減額又は廃止に伴う生活扶助の支給額の減 額を内容とする保護変更定をした(以下,これらの定を「本件各定」と総称 する。)。なお,記録によれは,厚生労働省においては,中間取りまとめか公表された後 も,5年ことに行われる全国消費実態調査の結果等に基つき,生活扶助基準の水準 につき定期的な検証か引き続き行われていることかうかかわれる。4 原審は,上記事実関係等の下において,要旨次のとおり判断し,本件改定は 生活保護法56条に反し違法てあるとして,本件各定を取り消すへきものとし た。(1) 生活保護法56条は,被保護者は正当な理由かなけれは既に定された保護を不利益に変更されることかないと定めているところ,その趣旨に鑑みれは,保 護基準の改定に基ついて既に定された保護を不利益に変更される被保護者との関 係においては,単に保護基準か改定されたというたけては同条にいう正当な理由か あるものと解することはてきす,その保護基準の改定そのものに正当な理由かない 限り,これに基つく保護の不利益変更は同条に反し違法となるものと解される。(2) 本件改定についての厚生労働大臣の判断は,専門委員会による中間取りま とめ中の前記3(5)の記述を前提としているところ,専門委員会における審議の経 過に照らすと,上記記述のうちイ及ひウの部分は,老齢加算の廃止という方向性と 並んて重要な事項というへきてある。それにもかかわらす,同大臣は,遅くとも中 間取りまとめか発表されてから4日後まてには,老齢加算を3年間かけて段階的に 減額して廃止するという本件改定の内容を実質的に定したものてあり,その過程 において,高齢者世帯の最低生活水準か維持されるよう検討するという上記イの内 容については何ら検討しておらす,激変緩和措置を講するという上記ウの内容につ いても,既に老齢加算を前提とする保護を受けている被保護者か老齢加算の廃止に よって被る不利益等を具体的に検討した上て3年という期間及ひ1年ことの削減幅 か定された形跡はない。そうすると,本件改定は,考慮すへき事項を十分考慮し ておらす,又は考慮した事項に対する評価からかに合理性を欠き,その結果,社 会通念に照らして著しく妥当性を欠いたものということかてきる。したかって,本 件改定は,裁量権の範囲の逸脱又はその濫用として,生活保護法56条にいう正当 な理由のない保護基準の不利益変更に当たるというへきてあるから,これに基つく 本件各定も同条に反し違法となる。5 しかしなから,原審の上記判断は是認することかてきない。その理由は,次のとおりてある。
(1) 生活保護法56条は,保護の実施機関か被保護者に対する保護を一旦定した場合には,当該被保護者について,同法の定める変更の事由か生し,保護の実 施機関か同法の定める変更の手続を正規に執るまては,その定された内容の保護 の実施を受ける法的地位を保障する趣旨の規定てあると解される。また,同条の規 定は,同法において,既に保護の定を受けた個々の被保護者の権利及ひ義務につ いて定める第8章の中に置かれている。上記のような同条の規定の趣旨同法の構 成上の位置付けに照らすと,同条にいう正当な理由かある場合とは,既に定され た保護の内容に係る不利益な変更か,同法及ひこれに基つく保護基準か定めている 変更,停止又は廃止の要件に適合する場合を指すものと解するのか相当てある。し たかって,保護基準自体か減額改定されることに基ついて保護の内容か減額定さ れる本件のような場合については,同条か規律するところてはないというへきてあ る。(2) 生活保護法8条2項によれは,保護基準は,要保護者(生活保護法による 保護を必要とする者をいう。)の年齢別,性別,世帯構成別,所在地域別その他保 護の種類に応して必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なも のてあるのみならす,これを超えないものてなけれはならない。そうすると,仮 に,老齢加算の一部又は全部についてその支給の根拠となっていた高齢者の特別な 需要か認められないというのてあれは,老齢加算の減額又は廃止をすへきことは, 同項の規定に基つく要請てあるということかてきる。もっとも,同項にいう最低限 度の生活は,抽象的かつ相対的な概念てあって,その時々における経済的・社会的 条件,一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断定されるへきものてあり,これを保護基準において具体化するに当たっては,国の財政事情を含めた多 方面にわたる複雑多様な,しかも高度の専門技術的な考察とそれに基ついた政策的 判断を必要とするものてある(最高裁昭和51年(行ツ)第30号同57年7月7 日大法廷判・民集36巻7号1235頁参照)。したかって,保護基準中の老齢 加算に係る部分を改定するに際し,最低限度の生活を維持する上て老齢てあること に起因する特別な需要か存在するといえるか否かを判断するに当たっては,厚生労 働大臣に上記のような専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権か認められるもの というへきてある。(3) また,老齢加算の全部についてその支給の根拠となる上記の特別な需要か 認められない場合てあっても,老齢加算は,一定の年齢に達すれは自動的に受給資 格か生し,老齢のため他に生計の資か得られない高齢者への生活扶助の一部として 相当期間にわたり支給される性格のものてあることに鑑みると,その加算の廃止 は,これを含めた生活扶助か支給されることを前提として現に生活設計を立ててい た被保護者に関しては,保護基準によって具体化されていたその期待的利益の喪失 を来すものてあることも否定し得ないところてある。そうすると,上記のような場 合においても,厚生労働大臣は,老齢加算の支給を受けていない者との公平国の 財政事情といった見地に基つく加算の廃止の必要性を踏まえつつ,被保護者のこの ような期待的利益についても可及的に配慮する必要かあるところ,その廃止の具体 的な方法等について,激変緩和措置を講することなとを含め,上記のような専門技 術的かつ政策的な見地からの裁量権を有しているものというへきてある。(4) したかって,本件改定は,1 本件改定の時点において70歳以上の高齢 者にはもは老齢加算に見合う特別な需要か認められないとした厚生労働大臣の判断に上記(2)の見地からの裁量権の範囲の逸脱又はその濫用かある場合,あるいは,
 2 老齢加算の廃止に際して採るへき激変緩和措置は3年間の段階的な廃止か相当 てあるとしつつ生活扶助基準の水準の定期的な検証を行うものとした同大臣の判断 に上記(3)の見地からの裁量権の範囲の逸脱又はその濫用かある場合に,生活保護 法8条2項に違反して違法となり,本件改定に基つく本件各定も違法となるもの というへきてある。そして,老齢加算の減額又は廃止の要否の前提となる最低限度の生活の需要に係 る評価か前記(2)のような専門技術的な考察に基ついた政策的判断てあること, 老齢加算の支給根拠及ひその額等についてはそれまても各種の統計専門家の作成 した資料等に基ついて高齢者の特別な需要に係る推計加算対象世帯と一般世帯と の消費構造の比較検討等かされてきた経緯等に鑑みると,同大臣の上記1の裁量判 断の適否に係る裁判所の審理においては,主として老齢加算の廃止に至る判断の過 程及ひ手続に過誤,欠落かあるか否か等の観点から,統計等の客観的な数値等との 合理的関連性専門的知見との整合性の有無等について審査されるへきものと解さ れる。また,本件改定か老齢加算を一定期間内に廃止するという内容のものてある ことに鑑みると,同大臣の上記2の裁量判断の適否に係る裁判所の審理において は,本件改定に基つく生活扶助額の減額か被保護者の上記のような期待的利益の喪 失を通してその生活に看過し難い影響を及ほすか否か等の観点から,本件改定の被 保護者の生活への影響の程度それか上記の激変緩和措置等によって緩和される程 度等について上記の統計等の客観的な数値等との合理的関連性等を含めて審査され るへきものと解される。(5) これに対し,原審は,厚生労働大臣か専門委員会の中間取りまとめの意見を踏まえた検討をしていないというか,そもそも専門委員会の意見は,厚生労働大 臣の判断を法的に拘束するものてはなく,また,社会保障審議会(福祉部会)の正 式の見解として集約されたものてもなく,その意見は保護基準の改定に当たっての 考慮要素として位置付けられるへきものてある。また,平成15年12月に公表さ れた専門委員会の中間取りまとめは,前記3(5)のとおり,老齢加算に見合う高齢 者の特別な需要は認められないとして老齢加算の廃止を是認しつつ(同ア),その 社会生活に必要な費用への配慮の在り方について引き続き検討すへきこと(同イ) 及ひ激変緩和措置を講すへきこと(同ウ)を述へたものてあって,前記事実関係等 によれは,平成16年度以降に本件改定か3年間にわたる段階的な減額を経て加算 を廃止する形て行われたのは上記ウの意見に沿ったものてあり,本件改定後も生活 扶助基準の水準につき厚生労働省による定期的な検証か引き続き行われているのも 上記イの意見を踏まえたものてあって,上記アの意見に沿って老齢加算の廃止を行 った本件改定は,中間取りまとめの意見を踏まえた検討を経ていないものというこ とはてきす,全体としてその意見の趣旨と一致しないものてあったとも解し難い。6 これと異なる見解に立って,本件改定を行った厚生労働大臣の判断の適否に関し,上記5(4)の各観点について何ら審理を尽くすことなく,本件改定か裁量権の範囲の逸脱又はその濫用によるものとして違法てあるとし,これに基つく本件各定も違法てあるとした原審の判断には,判に影響を及ほすことからかな法令の違反かある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由かあり,原判中別紙被上告人目録1記載の被上告人らの請求に関する部分は破棄を免れない。そこて,上記の 点について更に審理を尽くさせるため,原判中同部分を原審に差し戻すのか相当 てある。
7 なお,記録によれは,別紙被上告人目録2記載の被上告人らは,同目録記載 の各日に死亡していることからかてあるところ,本件訴訟は,上記被上告人らに ついては,その死亡と同時に終了したものと解すへきてある(最高裁昭和39年 (行ツ)第14号同42年5月24日大法廷判・民集21巻5号1043頁参 照)。そこて,本件訴訟のうち上記被上告人らの請求に関する部分は,同目録記載 の各日に終了したことを確にするため,その旨を宣言することとする。よって,裁判官全員一致の意見て,主文のとおり判する。なお,裁判官須藤正 彦の意見かある。裁判官須藤正彦の意見は,次のとおりてある。
私は,多数意見の結論に賛成するものてあるか,一部その理由を異にするため, この点について意見を述へるとともに,事案にかんかみ,なお若干の点を付加して おきたい。1 多数意見て述へられているとおり,保護基準の改定は,生活保護法8条2項 によって専ら規律されるものてある。しかしなから,個々の生活保護の実施は, 「要保護者の年齢別,性別,健康状態等その個人又は世帯の実際の必要の相違を考 慮して,有効且つ適切に行」わなけれはならない(同法9条)のに対し,保護基準 は一律に給付水準を定めるものてあるから,多面的かつ複雑な要因を抱えている個 々の高齢困窮者の具体的生活状況における需要いかんによっては,本件改定を機械 的に適用した個々の保護減額定か同条の定める必要即応の原則に反するという場 合もないわけてはないと思われ,その場合は,同条に基つき厚生労働大臣に対し特 別基準の設定を申請しなけれはならないことになり得る。もとより,これを行うか 否かについても,保護の実施機関たる所轄福祉事務所長に裁量権かあるか,その判断において裁量権の範囲の逸脱又はその濫用かあるために,これを申請することな くされた保護減額定か違法となるということか全くあり得ないわけてはないとい うへきてある。2 老齢加算の廃止を内容とする本件改定は,多数意見て述へられているとお り,70歳以上の被保護者についての老齢加算に見合う特別な需要の存否につき, 厚生労働大臣の判断に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用か認められないのてあれ は,法8条2項に照らして適法とされるところ,これを実行するに当たってのいわ ゆる激変緩和措置については,以下のように法的に意味付けられると思われる。原審の確定した事実によると,老齢加算の制度は,昭和35年頃から40年以上 にわたり,他に生計の資か得られない被保護者か70歳に達すれは自動的に受給資 格か生しるとの保護基準の下て,生活扶助の一部として受給てきるものとして存続 してきた。そのことから,長年の間,厚生労働大臣は,70歳以上の者には老齢て あることに起因する特別の需要かあると判断してきたということかてきよう。そう すると,本件改定による老齢加算の廃止は,厚生労働大臣か,平成15年頃に社会 事情の変化なとをも踏まえて判断を変更し,従来適法としてきた処分を法に適さな くなったと評価してこれを行うものということかてきると思われる。しかしなから,一般に国民は行政処分を適法なものと信頼しているものてあると ころ,この国民の信頼は社会生活の基盤を成すものてあるから,一般にその信頼は 保護されるへきてあろう。とりわけ,本件の老齢加算のような授益的行政処分(給 付処分)てあって,しかも40年以上もの長きにわたり保護基準て定められ,その 適法性か疑われることなく存続してきたものについては,被保護者か引き続き生活 扶助の一部として受給てきるものと関係者も含めて強く信頼し,その上て諸般の生活関係を成り立たしめているものといえるから,特にその信頼を保護する必要かあ り,したかって,その廃止の時期方法なとについては,一定の制約かあるという へきてある。加えて,一般に高齢者は,加齢とともに生活スタイルの急激な変更に 対して円滑な適応か容易てなくなる傾向か生するといわれているところてある。こ れらの点に鑑みると,この老齢加算の制度を一挙に廃止することは,そのような変 更を高齢者に強いることになり,そのことは,憲法25条の健康て文化的な最低限 度の生活の保障の観点からして,高齢者の生活に看過し難い影響を及ほすことにな り得るとともに,高齢者の人間性を損なうことにもなりかねす,憲法13条の個人 の尊厳の理念に反するおそれもある。そうすると,法律による行政という見地に立 ち,また,国の財政事情からの限界かあり,かつ,政策的見地からの大幅な裁量か 認められるとしても,本件改定に際し,厚生労働大臣には可能な範囲ての激変緩和 措置を採る責務かあるというへきてある。そして,これに対応して,老齢加算を含 めた生活扶助か支給されることを前提に現に生活設計を立てていた被保護者は,施 行のための立法行政処分等て具体化されるまては抽象的なものとの制約を余儀な くされはするものの,激変緩和措置を採るへきことを,単なる恩恵としててはな く,いわは生存権の保障の内容として求めることかてきるというへきてある。した かって,本件改定に際し,仮に厚生労働大臣か何らの激変緩和措置も講しなかった とすれは,これに基つく保護減額定は違法となっていたものと考えられる。もっ とも,本件改定に際し,厚生労働大臣は現に一定の激変緩和措置を講しており,そ の内容も現下の厳しい財政事情等に照らしてらかに不合理とはいえす,本件改定 及ひ上記定か違法てあるとはいえないと解される。3 我々は,高齢者を,多年にわたり社会の進展に寄与してきた者として,かつ,豊富な知識と経験を有する者として敬愛しなけれはならない(老人福祉法2 条,国民の祝日に関する法律2条参照)。しかるに,少なからす個人差はあるもの の,加齢に伴って生する心身の変化は避け難く,また,高齢者のうち生活に窮する なといわゆる社会的弱者てある者の発言力は小さくなる面かあると指摘されている ところてもある。他方て,我か国は,未曾有の少子高齢化の時代を迎える一方て, 財政規律は十分とはいい難く,財源面ては厳しい制約下にある。そうすると,本質 的な解は,社会保障の前提基盤としての経済の一層の活性化,雇用の場の確保に 拠らさるを得ないということを否定てきない面かあると思われるか,保護基準の改 定に当たっても,また,加算の廃止等に際して激変緩和措置を採るに当たっても, 生活に窮する高齢者の置かれたかかる立場からして,その尊厳か全うされるととも に,健康的て文化的な最低限度の生活の確保か損なわれることかないよう特に慎重 な配慮か望まれるところてある。(裁判長裁判官 千葉勝美 裁判官 古田佑紀 裁判官 竹内行夫 裁判官 須藤正彦)
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