主文
原判決を破棄し,第1審判決を取り消す。
 本件を水戸地方裁判所に差し戻す。 理由
上告代理人濱秀和ほかの各上告受理申立て理由について
 1 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりてある。 (1) 上告人は,茨城県土浦市内において病院の開設を計画し,被上告人に対し ,平成11年10月4日付けて,病床数を308床とする病院の開設に係る医療法 (平成11年法律第87号による改正前のもの。以下同し。)7条1項の許可の申 請(以下「本件申請」という。)をした。 (2) 被上告人は,上告人に対し,同年12月9日付けて,医療法30条の7の 規定に基つき,本件申請に係る病院の開設に関し,病床数を308床から60床に 削減するよう勧告した(以下,この勧告を「本件勧告」という。)。本件勧告は, 本件申請に係る病床数によって病院か開設された場合,茨城県保健医療計画か設定 している土浦保健医療圏の区域における病床数か,同計画か定める同区域における 必要病床数を超えることになるという理由によるものてあった。しかしなから,上 告人は,本件勧告に従わなかった。 (3) 被上告人は,上告人に対し,同12年1月28日付けて,本件申請につい て許可する旨の処分をした。
 2 本件は,上告人か,本件勧告は違法てあり,本件勧告に従わない場合は病床 数を308床として保険医療機関の指定を受けることかてきなくなると主張して, 被上告人に対し,本件勧告の取消しを請求する事案てある。
 3 原審は,次のとおり判断し,本件訴えを却下すへきものとした。 医療法30条の7に基つく勧告は,医療計画の達成を推進するため,病院の開設等についてされる行政指導にすきない。健康保険法(平成11年法律第87号によ る改正前のもの。以下同し。)43条ノ3第4項は,上記の勧告を受けたにもかか わらすこれに従わない場合,保険医療機関指定の申請に係る病床の全部又は一部を 除いて指定を行うことかてきる旨規定しているか,行政庁には,同項に基つき病床 数を制限して指定をするか否かの裁量かあり,上記の勧告に従わなかった場合,法 律上当然に病床数を制限して指定を行うという仕組みにはなっていない。したかっ て,本件勧告は,行政事件訴訟法3条2項の「行政庁の処分その他公権力の行使に 当たる行為」には当たらない。
 4 しかしなから,原審の上記判断は是認することかてきない。その理由は,次 のとおりてある。 (1) 医療法は,病院を開設しようとするときは,開設地の都道府県知事の許可 を受けなけれはならない旨定めているところ(7条1項),都道府県知事は,一定 の要件に適合する限り,病院開設の許可を与えなけれはならないか(同条4項), 医療計画の達成の推進のために特に必要かある場合には,都道府県医療審議会の意 見を聴いて,病院開設申請者等に対し,病院の開設,病床数の増加等に関し勧告す ることかてきる(30条の7)。そして,医療法上は,上記勧告に従わない場合に も,そのことを理由に病院開設の不許可等の不利益処分かされることはない。 他方,健康保険法43条ノ3第1項は,保険医療機関の指定は,病院等の開設者 の申請かあるものについて都道府県知事か行う旨を規定し,同条4項2号は,申請 に係る病床の種別に応し,医療法7条の2第1項に規定する地域における保険医療 機関の病床の数か,その指定により同法30条の3第1項に規定する医療計画にお いて定める必要病床数を勘案して厚生大臣の定めるところにより算定した数を超え ることになると認める場合(その数を既に超えている場合を含む。)てあって,当 該病院の開設者等か同法30条の7の規定による都道府県知事の勧告を受けてこれに従わないときには,申請に係る病床の全部又は一部を除いて指定を行うことかて きる旨を規定している。平成10年法律第109号による改正前の健康保険法43 条ノ3には,上記の規定はなく,同条2項か,都道府県知事は「保険医療機関等ト シテ著シク不適当ト認ムルモノナルトキ」には保険医療機関等の指定を拒むことか てきる旨を規定しており,医療法30条の7の規定に基つき都道府県知事か勧告を 行ったにもかかわらす,これに従わすに病院開設かされ,保険医療機関の指定申請 かされた場合には,前記の「保険医療機関等トシテ著シク不適当ト認ムルモノナル トキ」に該当するものとして,保険医療機関の指定を拒否することかてきるという 取扱いかされていた。これを踏まえて,健康保険法43条ノ3第4項2号は,医療 法30条の7の規定に基つく病院の開設に関する勧告を受けた者かそれに従わない ときには,必すしも申請とおりには保険医療機関の指定か得られないことを明らか にする趣旨て設けられたものと解される。 (2) 上記の医療法及ひ健康保険法の規定の内容やその運用の実情に照らすと, 医療法30条の7の規定に基つく勧告て開設申請に係る病院の病床数の削減を内容 とするものは,医療法上は当該勧告を受けた者か任意にこれに従うことを期待して される行政指導として定められてはいるけれとも,当該勧告を受けた者に対し,こ れに従わない場合には,相当程度の確実さをもって,病院を開設しても削減を勧告 された病床を除いてしか保険医療機関の指定を受けることかてきなくなるという結 果をもたらすものというへきてある。そして,いわゆる国民皆保険制度か採用され ている我か国においては,健康保険,国民健康保険等を利用しないて病院を受診す る者はほとんとなく,保険医療機関の指定を受けすに診療行為を行う病院かほとん と存在しないことは公知の事実てあるから,削減を勧告された病床を除いてしか保 険医療機関の指定を受けることかてきない場合には,実際上当該病床を設けること かてきない不利益を受けることになる。このような医療法30条の7の規定に基つく上記勧告の保険医療機関の指定に及ほす効果及ひ病院経営における保険医療機関の指定の持つ意義を併せ考えると,この勧告は,行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に当たると解するのか相当てある。後に保険医療機関の指定拒否処分の効力を抗告訴訟によって争うことかてきるとしても,そのことは上記の結論を左右するものてはない。
 したかって,本件勧告は,行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に当たるというへきてある。
5 以上と異なる見解の下に,本件訴えを却下すへきものとした原審の判断には,判決に影響を及ほすことか明らかな法令の違反かある。論旨は理由かあり,原判決は破棄を免れない。そして,第1審判決を取り消し,本件を第1審に差し戻すへきてある。
 よって,裁判官全員一致の意見て,主文のとおり判決する。なお,裁判官藤田宙靖の補足意見かある。
 裁判官藤田宙靖の補足意見は,次のとおりてある。
 私は,法廷意見と同様,本件勧告は行政事件訴訟法3条にいう「行政庁の処分」に当たると解すへきものと考えるか,このような考え方と,この問題につきこれまて当審の先例か示して来た一般的な考え方,すなわち,「行政庁の処分とは・・・行政庁の法令に基つく行為のすへてを意味するものてはなく,公権力の主体たる国または公共団体か行う行為のうち,その行為によって,直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することか法律上認められているもの」てあって「正当な権限を有する機関により取り消されるまては,一応適法性の推定を受け有効として取り扱われるもの」てなけれはならす,「その無効か正当な権限のある機関により確認されるまては事実上有効なものとして取り扱われている場合」てなけれはならないとする考え方(参照,最高裁昭和37年(オ)第296号同39年10月29
日第一小法廷判決・民集18巻8号1809頁他。以下この考え方を,「従来の公式」と称する。)との関係について,若干の補足をしておくこととしたい。1 医療法30条の7の規定による開設中止勧告は,病院の開設許可等や医療法に基つく手続の関係ては,行政指導としての性質を有するに止まり,名宛人の法律上の地位ないし権利義務に具体的な影響を及ほすものてはないこと,また,中止勧告かなされたとしても,名宛人の保険医療機関指定申請か当然に拒否されるという法律上の構造とはなっておらす,中止勧告か発せられれは,指定申請か拒否される可能性か高いとしても,それは事実上の問題に過きないのてあって,勧告か直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定するものとは言えないことは,原審判決の指摘するとおりてある。従って,「従来の公式」を,機械的に当てはめるとすれは,本件勧告に「行政庁の処分」としての性質を認めることはてきないという結論か導かれることになるのてあって,この意味において,原審判決か判示するところにも,理由か無いわけてはない。
 ところて,「従来の公式」においては,行政事件訴訟法3条にいう「行政庁の処分」とは,実質的に講学上の「行政行為」の概念とほほ等しいものとされているものてあるところ,このような行為のみか取消訴訟の対象となるとされるのは,取消訴訟とはすなわち,行政行為の公定力の排除を目的とする訴訟てある,との考え方かなされているからに他ならない。そしてその前提としては,行政活動に際しての行政主体と国民との関わりは,基本的に,法律て一般的に定められたところを行政庁か行政行為によって具体化し,こうして定められた国民の具体的な権利義務の実現か強制執行その他の手段によって図られる,という形て進行するとの,比較的単純な行政活動のモテルか想定されているものということかてきる。しかしいうまてもなく,今日,行政主体と国民との相互関係は,このような単純なものに止まっているわけてはなく,一方て,行政指導その他,行政行為としての性質を持たない数多くの行為か,普遍的かつ恒常的に重要な機能を果たしていると共に,重要てある のは,これらの行為か相互に組み合わせられることによって,一つのメカニスム( 仕組み)か作り上けられ,このメカニスムの中において,各行為か,その一つ一つ を見たのては把握し切れない,新たな意味と機能を持つようになっている,という ことてある。本件における医療法30条の7の規定に基つく勧告についても,まさ にそういったことか指摘され得るのてあって,法廷意見か4(2)において述へるの は,まさにこの趣旨てある。ところか,先に見た当審判例における「従来の公式」 は,必すしもこういった事実を前提としているものとは言い難いのてあって,従っ て,本件においてこれを採用するのは,適当てないものというへきてある。
 2 なお,医療法30条の7による勧告を,行政事件訴訟法3条にいう「処分」 てあるとして性格付けたとき,それては,この勧告は,いわゆる公定力を有するこ とになり,取消訴訟以外の方法によって,その適法性を争うことはてきないのか, また,取消訴訟の出訴期間の適用を受け,これを徒過した場合には,もはや出訴の 道を塞かれることになるのか(例えは,本件において,勧告自体を直接に争うこと なく,後に,保険医療機関の指定拒否処分の効力を抗告訴訟て争うこととした場合 ,この後の訴訟においては,もはや,勧告の違法性を主張することはてきないのか) か問題となる。法廷意見も明示するとおり,この勧告それ自体の性質か行政指導て あることは,否定するへくもないから,それは,相手方に対する法的拘束力を持た す,従って又,理論的に厳密な意味ての(最も狭い意味ての)公定力を有するもの てはない。しかし,行政事件訴訟法の定めるところに従い取消訴訟の対象とする以 上は,この行為を取消訴訟外において争うことはやはりてきないものというへきて あって,こうした取消訴訟の排他的管轄に伴う遮断効は(これを公定力の名て呼ふ か否かはともかく)否定てきないものというへきてある。もっとも,従来の判例学 説上,一般に行政指導は「処分」てはないとされて来たから,これを専ら取消訴訟て争うへきものとすることは,国民に不測の不利益をもたらしかねない,という側 面かあることを否定てきない。しかし,この勧告につき処分性か認められることに なれは,今後は,通常の場合,当事者において,ますはその取消訴訟を通して問題 の解決か図られることになるものと予想される外,必要に応し,行政事件訴訟法4 6条に定める行政庁の教示義務,出訴期間等徒過についての「正当な理由」条項( 同法14条1項及ひ2項における各たたし書を参照)等の活用かなされることによ り,対処することか可能てあると考えられる。 (裁判長裁判官 濱田邦夫 裁判官 上田豊三 裁判官 藤田宙靖 裁判官 堀籠 幸男)
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