主文
 原判決を破棄する。
 本件を東京高等裁判所に差し戻す。
理由
 上告人指定代理人上田明信、同川村俊雄各名義、同小林良一の上告理由について。
 被上告人の昭和三三年度の所得について適用された昭和三四年法律第七九号による改正前の所得税法(昭和二二年法律第二七号。以下、旧所得税法という。)においては、不動産所得とは、不動産、不動産の上に存する権利又は船舶の貸付(地上権又は永小作権の設定その他他人をして不動産、不動産の上に存する権利又は船舶を使用せしめる一切の場合を含む。)に因る所得から事業所得を除いたものをいい、譲渡所得とは、資産の譲渡に因る所得から山林所得およひ営利を目的とする継続的行為に因り生した所得を除いたものをいうとされていた(同法九条)。不動産賃貸借の当事者間て授受されるいわゆる権利金には、原判決説示のように種々の性質のものか存するけれとも、明らかに営業権譲渡の対価てあるようなものは格別、通常、それは賃貸人か賃借人に対して一定の期間不動産を使用収益させる対価の一部として支払いを受ける一時の所得てあるから、前記法条をその文言に従つて法律的、形式的に解釈するかきり、通常、賃借権設定の際に賃貸人に支払われる権利金は、不動産所得に当たるものと解するほかはない。
 しかし、原判決(その引用する第一審判決を含む。)の確定するところによれは、第二次大戦以前においては、土地賃貸借にあたつて権利金か授受される例は少なく、また、その額も比較的低額て、これを地代の一部と解しても不合理てはないようなものてあつたし、土地賃借権の売買もそれほと広く行なわれてはいなかつた、そして、昭和二五年法律第七一号による旧所得税法の改正によつて、再度、不動産所得という所得類型か定められた当時も、立法上特別の考慮を促すほとには権利金授受の慣行は一般化していなかつた、ところか、比較的近時において、土地賃貸借における権利金授受の慣行は広く一般化し、その額も次第に高額となり、借地法等による借地人の保護とあいまつて土地所有者の地位は相対的に弱体化し、多くの場合、借地権の譲渡の承認や期間の更新を事実上拒み得す、土地賃借権の価格も著しく高額となつた、そして、借地権の設定にあたり借地権の価格に相当するものか権利金として授受されるという慣行か、東京近辺の都市において特に多く見られ、その額も、土地所有権の価格の半額を上廻る場合か少なくない、というのてある。してみると、前記昭和二五年の旧所得税法改正当時には、近時における高額の権利金のようなものは不動産所得の対象としては予想されていなかつたものてあるとともに、本件て問題とされている権利金か授受された昭和三三年当時には、借地権の設定にあたつて授受される権利金のうちには、経済的、実質的に見れは所有権の権能の一部を譲渡する対価としての性質をもつものか存したてあろうことは否定てきないところてあり、右のような権利金については、これを一律に不動産所得に当たるものとして課税すへきてはなく、場合によつてはその経済的実質に着目して譲渡所得に当たるものとして課税を行なうことも、公平な課税の実現のために必要てあるといわなけれはならない。
 このような見地からすれは、借地権設定に際して土地所有者に支払われるいわゆる権利金の中ても、右借地権設定契約か長期の存続期間を定めるものてあり、かつ、借地権の譲渡性を承認するものてある等、所有者か当該土地の使用収益権を半永久的に手離す結果となる場合に、その対価として更地価格のきわめて高い割合に当たる金額か支払われるというようなものは、経済的、実質的には、所有権の権能の一部を譲渡した対価としての性質をもつものと認めることかてきるのてあり、このような権利金は、昭和三四年法律第七九号による改正前の旧所得税法の下においても、なお、譲渡所得に当たるものと類推解釈するのか相当てある。
 もつとも、右所得税法九条一項か、譲渡所得については八号の規定により計算した金額の二分の一に相当する金額を課税標準とする旨定めているのは、普通の所得に対して資産の譲渡による所得を特に優遇するものてあるから、その適用範囲を解釈によつてみたりに拡大することは許されないところてあり、右のような類推解釈は、明らかに資産の譲渡の対価としての経済的実質を有するものと認められる権利金についてのみ許されると解すへきてあつて、必すしもそのような経済的実質を有するとはいいきれない、性質のあいまいな権利金については、法律の用語の自然な解釈に従い、不動産所得として課税すへきものと解するのか相当てある。
 そうすると、性質の明らかてない権利金てあつても、これを不動産所得とみるよりは譲渡所得とみる方か納税者のために利益てあるとするならは、その後の法律の改正により譲渡所得と擬制されることになつた要件を充たすようなものについては、法の改正前においても同様に譲渡所得と類推解釈するのか相当てあるとして、被上告人か訴外D株式会社から受領した権利金につき、その性質を確定することなく、これを譲渡所得と解した原判決には、法律の解釈を誤り、その結果審理を尽くさなかつた違法かあるものといわなけれはならす、右の違法は判決の結論に影響を及ほすから、結局論旨は理由かあり、原判決は破棄を免れない。そして、本件については、なお前記権利金の性質等につき審理する必要かあるから、これを原審に差し戻すへきものとする。
 よつて、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員の一致て、主文のとおり判決する。
 最高裁判所第二小法廷
 裁判長裁判官 草 鹿 浅 之 介
裁判官 城 戸 芳 彦
裁判官 色 川 幸 太 郎
裁判官 村 上 朝 一
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