主文
 本件上告を棄却する。
理由
 弁護人松井一彦、同中根宏の上告趣意序論について。
 所論は、憲法一四条違反をいうが、同種の違反が告発されず、或は起訴されなかつた場合に、被告人のみが起訴処罰されたから、といつて、それが犯情の差異によるものである以上、憲法一四条に違反しないことは、当裁判所の判例(昭和二三年(れ)第四三五号同年一〇月六日大法廷判決、刑集二巻一一号一二七五頁、昭和二六年(れ)第五四四号同年九月一四日第二小法廷判決、刑集五巻一〇号一九三三頁)の趣旨とするところであるから、所論は採ることができない。
 所論中憲法二〇条違反をいう点は、憲法一四条違反を前提とするものであり、その採るべからざること前示のとおりであるから、論旨は前提を欠くこととなり採用できない。
 同第一点および第二点について。
 原審はその挙示する証拠により、共同墓地に埋葬し得る余地があること、共同墓地は部落所有のものであり同部落居住者は分家等により他部落から転入してきた者でも宗派の如何を問わず等しく同墓地に埋葬できること、被告人は、分家により他部落から転入してきた者ではあるけれども、多年その部落に居住しており、当時共同墓地にはなお埋葬の余地があり、他の部落から分家してきた者でも、また、宗派の如何を問わず同墓地に埋葬することができ、拒絶されるようなことのないことを承知していたが、右共同墓地が窮屈であり、かつ被告人方だけが改宗して日蓮正宗の創価学会に入会していたこととて、亡夫を右共同墓地に雑居せしめるのを好まなかつたので、同墓地に埋葬しようとしなかつたものであることを認定したうえ、被告人に違法の認識がなかつたものとはいえず、また、適法行為に出ることを期待できなかつたものといえない旨判示しているのであつて、右判断は首肯し得るところであり、論旨はこれと異る事実を前提として判例違反または法令違反を主張するものであるから、上告適法の理由に当らない。
 同第三点について。
 所論は、憲法が特に明文の条項を設けてはいないけれども、人の自然権である抵抗権を当然の前提として保障しているものであるとの主張を前提として、本件被告人の所為についてみると、(1)被告人は、本件の墓地に埋葬することを拒否され、共同墓地も余積なく付近に火葬場もなかつたこと等の事情から、適法行為をなす余地は全く存しなかつた、(2)また、みだりに山野や市街地の庭先などに埋葬したのではなく、人家から相当の距離をへだてた自己所有の山林内に懇ろに葬つたものであり、被告人の所為は公共の福祉に反するものではない、(3)被告人の守ろうとしたのは自己の宗教感情を満足させるに足る埋葬をなす自由権(信教の自由)であるのに対し、本件所為により侵害される法益は、僅かに墓地行政事務処理上の支障にすぎず、法益は前者がはるかに大きい、等の諸点が認められるから、被告人の所為は、憲法に保障された抵抗権の発現であり、違法性が阻却され、本件犯罪は成立しないものというべきであるのに、事ここにいでなかつた原判決は、憲法の保障する自然権に反し、かつ、憲法二〇条一項に違反すると主張する。
 しかし、所論が本件所為をもつて抵抗権の発現であると主張する理由について考えるに、(1)の点は被告人に期待可能性なしとの主張と共通するものであつて、(2)(3)の点も独自の見解ないしは原審の認定しない事実を前提とするものである。従つて、結局論旨は原審の認定しない事実を前提として憲法違反をいうか、または原審の事実認定、単なる法令解釈を論難するかに帰着し、適法な上告理由に当らない。
 同第四点について。
 所論は事実誤認の主張であつて、刑訴四〇五条の理由に当らない。
 また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。 よつて同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。 昭和三九年三月二七日
最高裁判所第二小法廷
 裁判長裁判官 奥 野 健 一
裁判官 山 田 作 之 助
裁判官 城 戸 芳 彦
裁判官 石 田 和 外
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