平成25年12月16日判決 名古屋高等裁判所金沢支部
平成25年(行ケ)第2号 選挙無効請求事件(第1事件)
平成25年(行ケ)第3号 選挙無効請求事件(第2事件)
平成25年(行ケ)第4号 選挙無効請求事件(第3事件)

主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 第1事件
 平成25年7月21日に行われた参議院(選挙区選出)議員選挙の福井県選挙区における選挙を無効とする。
2 第2事件
 平成25年7月21日に行われた参議院(選挙区選出)議員選挙の石川県選挙区における選挙を無効とする。
3 第3事件
 平成25年7月21日に行われた参議院(選挙区選出)議員選挙の富山県選挙区における選挙を無効とする。

第2 事案の概要
 本件は,平成25年7月21日施行の参議院議員通常選挙(以下「本件選挙」という。)について,福井県,石川県及び富山県の各選挙区の選挙人である原告らが,公職選挙法14条1項,別表第三の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定(以下,数次の改正の前後を通じ,平成6年法律第2号による改正前の別表第二を含め,「定数配分規定」という。)は憲法が定める人口比例選挙の原則に違反し無効であるから,これに基づき施行された本件選挙の上記各選挙区における選挙も無効であると主張して,公職選挙法204条に基づき,上記各選挙区における選挙を無効とすることを求めている事案である。

1 前提事実
(1) 当事者
ア 第1事件原告は,本件選挙の福井県選挙区の選挙人である。
イ 第2事件原告は,本件選挙の石川県選挙区の選挙人である。
ウ 第3事件原告は,本件選挙の富山県選挙区の選挙人である。
(以上につき,争いのない事実)
(2) 本件選挙
ア 本件選挙は,平成24年法律第94号による改正後の定数配分規定(以下「本件定数配分規定」という。)に基づき施行された。
イ 本件選挙において,選挙当日の選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の較差は,選出される議員1人当たりの選挙人数が最少の鳥取県選挙区を1とした場合,最大の北海道選挙区は4.77であり,福井県選挙区は1.35,石川県選挙区は1.95及び富山県選挙区は1.86であった(全て概数である。)。
(以上につき,争いのない事実,乙1)
(3) 参議院議員選挙制度の改正経緯,最高裁判決の推移等
ア 制度発足から平成10年選挙及びこれに関する最高裁判決まで
(ア)a 参議院議員選挙法(昭和22年法律第11号)は,憲法の二院制採用の趣旨を受け,参議院議員の選挙について,参議院議員250人を全国選出議員100人と地方選出議員150人とに区分し,全国選出議員については,全都道府県の区域を通じて選出されるものとする一方,地方選出議員については,その選挙区及び各選挙区における議員定数を別表で定め,都道府県を単位とする選挙区において選出されるものとした。そして,各選挙区ごとの議員定数については,憲法46条の定める半数改選の実現方法として,定数を偶数としてその最小限を2人とする方法を採用し,昭和21年当時の人口に基づき,各選挙区の人口に比例する形で,2人ないし8人の偶数の議員定数を配分した。
b 昭和25年に制定された公職選挙法の定数配分規定は,上記のような選挙制度の仕組みに基づく参議院議員選挙法の定数配分規定をそのまま引き継ぎ,その後,沖縄返還に伴って沖縄県選挙区の議員定数2人が付加されたほかは,後記平成6年改正まで上記定数配分規定に変更はなかった。
c なお,昭和57年法律第81号による公職選挙法の改正により,参議院議員選挙について拘束名簿式比例代表制が導入され,各政党等の得票に比例して選出される比例代表選出議員100人と都道府県を単位とする選挙区ごとに選出される選挙区選出議員152人とに区分されることになったが,比例代表選出議員は全都道府県を通じて選出されるものであって,各選挙人の投票価値に差異がない点においては,従来の全国選出議員と同様であり,選挙区選出議員は従来の地方選出議員の名称が変更されたものにすぎない。
(イ)a 選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差は,参議院議員選挙法制定当時は1対2.62であったが,その後,次第に拡大し,昭和52年7月に施行された参議院議員通常選挙(以下「昭和52年選挙」という。)における最大較差は1対5.26に拡大した。最高裁昭和58年4月27日大法廷判決・民集37巻3号345頁(以下「昭和58年大法廷判決」という。)は,人口変動により
投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過することができないと認められる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じ,かつ,それが相当期間継続して,このような不平等状態を是正するなんらの措置を講じないことが複雑かつ高度に政策的な考慮と判断の上に立って行使されるべき国会の立法裁量権の限界を超えると判断される場合に,初めて定数配分規定が憲法に違反するに至ると解するのが相当であるという判断基準を示した上で,昭和52年選挙については,上記のような較差があり,逆転現象(有権者数の少ない選挙区に,より多い議員定数が配分されること)が一部の選挙区においてみられたとしても,それだけでは上記のような許容限度を超えて違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていたとするには足らない旨判示した。
b しかし,平成4年7月に施行された参議院議員通常選挙(以下「平成4年選挙」という。)における最大較差が1対6.59に拡大するに及んで,最高裁平成8年9月11日大法廷判決・民集50巻8号2283頁は,平成4年選挙当時,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていたものと評価せざるを得ないが,選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の較差が到底看過することができないと認められる程度に達した時から平成4年選挙時までの間に国会が定数配分規定を是正する措置を講じなかったことをもって,その立法裁量権の限界を超えるものと断定することはできない旨判示した。
(ウ)a 他方,平成6年法律第47号による公職選挙法の改正(以下「平成6年改正」という。)は,平成4年選挙当時に1対6.59にまで拡大していた最大較差を是正する目的で行われ,上記(ア)のような選挙制度の仕組みに変更を加えることなく,直近の平成2年10月実施の国勢調査結果に基づき,できる限り増減の対象となる選挙区を少なくし,かつ,逆転現象を解消することとして,参議院議員の総定数(252人)及び選挙区選出議員の定数(152人)を増減しないまま,7選挙区で定数を8増8減したものであり,平成6年改正の結果,上記国勢調査結果による人口に基づく選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差は,1対6.48から1対4.81に縮小し,逆転現象は消滅した。
b その後,平成6年改正後の定数配分規定の下において平成7年7月に施行された参議院議員通常選挙及び平成10年7月に施行された参議院議員通常選挙当時の最大較差は,1対4.97及び1対4.98であったところ,上記のような国会における較差の縮小に向けた措置を踏まえ,最高裁平成10年9月2日大法廷判決・民集52巻6号1373頁(以下「平成10年大法廷判決」という。)及び最高裁平成12年9月6日大法廷判決・民集54巻7号1997頁は,選挙区間における投票価値の不平等は,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたとはいえず,上記各選挙当時における上記定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえない旨判示した。
(以上につき,顕著な事実)
イ 平成16年選挙及び平成18年大法廷判決まで
(ア) 平成12年法律第118号による公職選挙法の改正(以下「平成12年改正」という。)により,比例代表選出議員の選挙制度が非拘束名簿式比例代表制に改められるとともに,参議院議員の総定数が10人削減されて242人とされた。
 定数削減に当たっては,選挙区選出議員の定数を6人削減して146人とし,比例代表選出議員の定数を4人削減して96人とした上,選挙区選出議員の定数削減については,直近の平成7年10月実施の国勢調査結果に基づき,平成6年改正の後に生じた逆転現象を解消するとともに,選挙区間における議員1人当たりの選挙人数又は人口の較差の拡大を防止するため,定数4人の選挙区の中で人口の少ない3選挙区の定数を2人ずつ削減した。平成12年改正の結果,逆転現象は消滅したが,上記国勢調査結果による人口に基づく選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差は1対4.79であって,平成12年改正前と変わらなかった。
(イ) 平成12年改正後の定数配分規定の下で平成13年7月に施行された参議院議員通常選挙(以下「平成13年選挙」という。)当時,最大較差は1対5.06であったところ,最高裁平成16年1月14日大法廷判決・民集58巻1号56頁(以下「平成16年大法廷判決」という。)は,結論において,平成13年選挙当時,上記定数配分規定は憲法に違反するに至っていたとすることはできない旨判示したが(9名の裁判官による多数意見のうち5名による補足意見1は,投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過することができないと認められる程度に達していたとはいえないというものであり,4名による補足意見2は,現行の定数配分は合憲とはいえないのではないかとの疑いが強いが,平成12年改正の改正作業にそれなりの合理性が認められ,同改正の結果をもって違憲と判断することはできないというものである。),補足意見2は,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しの必要性に言及し,漫然と同様の状況が維持されるならば違憲判断がされる余地がある旨を指摘した。
(ウ)a 平成16年大法廷判決を受け,参議院議長が主宰する各会派代表者懇談会は,同年2月,その下に参議院議員選挙の定数較差問題に関する協議会を設けて協議を行ったが,同年7月に施行される参議院議員通常選挙(以下「平成16年選挙」という。)までの間に較差を是正することは困難であるとして,同年6月,平成16年選挙後に協議を再開する旨の申合せをした。
b その結果,上記定数配分規定が改正されないまま,平成16年選挙が施行されたが,その当時,最大較差は1対5.13であった。
c 平成16年選挙後の同年12月,参議院議長の諮問機関である参議院改革協議会の下に選挙制度に係る専門委員会が設けられ,同専門委員会において各種の較差是正案が検討されたが,当面の較差是正策としては,較差5倍を超えている選挙区及び近い将来5倍を超えるおそれのある選挙区について較差の是正を図る4増4減案が有力な意見であるとされ,この案に基づく公職選挙法の一部を改正する法律(平成18年法律第52号)が平成18年6月1日に成立した(以下「平成18年改正」という。)。この改正の結果,平成17年10月実施の国勢調査結果による人口に基づく選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差は,1対4.84に縮小した。
d なお,同専門委員会が平成17年10月に参議院改革協議会に提出した報告書に示された意見によれば,現行の選挙制度の仕組みを維持する限り,各選挙区の定数を振り替える措置により較差の是正を図ったとしても,最大較差を1対4以内に抑えることには相当の困難があるとされている。また,同報告書においては,後記平成19年選挙に向けての較差是正の後も,参議院の在り方にふさわしい選挙制度の議論を進めていく過程で,較差の継続的な検証等を行う場を設け,調査を進めていく必要があるとされていた。
(エ) 最高裁平成18年10月4日大法廷判決・民集60巻8号2696頁(以下「平成18年大法廷判決」という。)は,平成16年選挙当時の定数配分規定の合憲性について,平成16年大法廷判決から平成16年選挙までの期間は約6か月にすぎなかったこと,平成18年改正により議員1人当たりの人口の最大較差が縮小したことなどを考慮し,結論において,平成16年選挙までの間に上記定数配分規定を改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えたものと断ずることはできず,平成16年選挙当時,上記定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとすることはできない旨判示したが,投票価値の平等の重要性を考慮すると,投票価値の不平等の是正については国会における不断の努力が望まれる旨を指摘し,さらに,なお書きで,制度の枠組みの見直しの必要性を指摘した。
(以上につき,顕著な事実)
ウ 平成19年選挙及び平成21年大法廷判決まで
(ア) 平成18年改正後の定数配分規定の下で平成19年7月に施行された参議院議員通常選挙(以下「平成19年選挙」という。)当時の最大較差は,1対4.86であったところ,最高裁平成21年9月30日大法廷判決・民集63巻7号1520頁(以下「平成21年大法廷判決」という。)は,平成19年選挙当時の定数配分規定の合憲性について,平成18年改正により最大較差が平成16年選挙当時に比べ縮小したこと,現行の選挙制度の仕組みを大きく変更するには相応の時間を要することは否定できず,平成19年選挙までにそのような見直しを行うことは極めて困難であったことなどを考慮し,結論において,平成19年選挙までの間に上記定数配分規定を更に改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えたものということはできず,平成19年選挙当時,上記定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとすることはできない旨判示したが,上記のような較差は投票価値の平等という観点からはなお大きな不平等が存する状態であって,選挙区間における投票価値の較差の縮小を図ることが求められる状況にあり,最大較差の大幅な縮小を図るためには,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しが必要となる旨を指摘した。
(イ) 参議院においては,平成19年選挙後の同年11月30日,参議院議長の諮問機関として参議院改革協議会が設けられるとともに,平成20年6月,同協議会の下に専門委員会が設けられた。
(以上につき,顕著な事実)
エ 平成22年選挙,平成24年大法廷判決及び平成24年改正まで
(ア) 上記ウ(イ)の専門委員会は,その設置後の平成20年12月から平成22年5月までの約1年半の間に6回にわたり協議を行ったが,平成22年5月14日付けで,参議院改革協議会に対し,後記平成22年選挙に係る定数是正は見送り,平成25年に施行される本件選挙に向け選挙制度の見直しを行うこととし,平成22年選挙後にその見直しの検討を直ちに開始すべき旨を同協議会において決定する必要があることを指摘するとともに,平成23年中に公職選挙法改正案を提出する旨の工程表を含む内容の報告書を提出し,同協議会は,上記報告書の内容を了承して,これを参議院議長に報告した。
(イ) 平成18年改正後の定数配分規定の下での2回目の選挙として平成22年7月に施行された参議院議員通常選挙(以下「平成22年選挙」という。)当時,最大較差は1対5.00に拡大していたところ,最高裁平成24年10月17日大法廷判決・民集66巻10号3311頁(以下「平成24年大法廷判決」という。)は,平成22年選挙当時の定数配分規定の合憲性について,上記の最大較差が示す選挙区間における投票価値の不均衡は,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたというほかはないが,平成21年大法廷判決が現行の選挙制度の仕組み自体の見直しの必要性を指摘したのは上記選挙の約9か月前であること,上記の見直しには,参議院の在り方も踏まえた高度に政治的な判断が求められるなど課題も多いため,その検討に相応の時間を要すること,後記(ウ)のとおり,平成21年大法廷判決の趣旨を踏まえ,選挙制度の仕組み自体の見直しを含む制度改革に向けての検討が行われていたことなどを考慮し,上記定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできない旨判示したが,上記仕組みを維持しながら投票価値の平等の実現を図るという要求に応えていくことは,もはや著しく困難な状況に至っているというべきであり,都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなど,上記仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置を講じ,できるだけ速やかに上記の不平等状態を解消する必要がある旨を指摘した。
(ウ) 平成22年選挙後,参議院に正副議長及び各会派の代表により構成される選挙制度の改革に関する検討会が発足し,この検討会の会議において,本件選挙に向けて選挙制度の見直しを行うため,参議院議長から改革の検討の基礎となる案が提示され,平成23年8月以降,各政党からも様々な改正案が発表されるなどし,上記検討会及びその下に設置された選挙制度協議会において,平成24年7月まで協議が重ねられたが,政党間の意見の対立が大きく,全会派の合意に基づく成案を得るには至らなかった。そこで,本件選挙に向けて少なくとも較差の是正を図るため,平成24年8月,選挙区選出議員について4選挙区で定数を4増4減することを内容とし,附則において,平成28年に施行される参議院議員通常選挙(以下「平成28年選挙」という。)に向けて,参議院の在り方,選挙区間における議員一人当たりの人口の較差の是正等を考慮しつつ選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い,結論を得るものとする旨を定めた公職選挙法の一部を改正する法律案(以下「平成24年改正案」という。)が国会に提出され,平成24年大法廷判決後の同年11月16日に成立し,同月26日に公布・施行された(以下「平成24年改正」といい,上記附則を「平成24年改正附則」という。)。
 平成24年改正の結果,平成22年10月実施の国勢調査結果による人口に基づく選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差は,1対4.75に縮小した。
(以上につき,顕著な事実,甲2,21~23,乙2,3)
オ その後現在まで
(ア) 上記エ(ウ)の選挙制度の改革に関する検討会及び選挙制度協議会は,平成24年11月以降も協議を継続し,平成25年6月19日に開催された上記検討会(第7回)において,選挙制度協議会の座長が,私案として,今後の大まかな工程表を提示したが,その内容は,本件選挙後,平成26年にかけて上記協議会における協議や各会派における検討を経た上で,平成27年中に見直し法案を提出し,平成28年選挙から新しい選挙制度を適用するというものであった。
(甲21,乙4,5,10,11の1・2)
(イ) 本件選挙後の平成25年9月12日,参議院の各会派代表者による懇談会が開催されたが,その席上,選挙制度の改革に関する検討会を発足させることが合意され,同日に上記懇談会に引き続き開催された上記検討会(第1回)は,選挙制度の改革について実務的な協議を行うため,その下に各会派により構成される選挙制度協議会を設置することとし,同月19日に開催された上記検討会(第2回)において,参議院議長が,今後の大まかな工程表の案を提示し(その内容は上記(ア)の工程表私案と同じである。),これを基本に協議を進める方針を示した。
 そして,同月27日,選挙制度協議会(第1回)が開催され,今後週1回の頻度で会合を開き,有識者からの意見聴取などを行っていくことなどが確認された。
(乙12の1~4,13~16,18の1・2)
(4) 人口比例原則に従った定数配分
 参議院議員選挙法による制度発足時の方法に従い,10増10減(東京,神奈川,大阪,北海道及び兵庫を各2増し,新潟,宮城,長野,福島及び岐阜を各2減する。)の定数是正をすることにより,最大較差を,平成22年国勢調査人口に基づけば1対4.31,本件選挙当日の有権者数に基づけば1対4.27まで減小することができる。
(甲24,乙1)

2 争点
(1) 本件定数配分規定は憲法に違反し,無効であるか。
ア 本件定数配分規定は憲法に違反する状態にあったか。
イ 合理的期間内に是正がされなかったといえるか。
(2) 事情判決をすべきか。

3 争点(1)(本件定数配分規定は憲法に違反し,無効であるか。)に関する当事者の主張
(1) 原告らの主張
ア 違憲状態の有無
(ア) 人口比例選挙の保障
 本件定数配分規定は,憲法前文第1段落第1文等の規定によって要求される「人口比例選挙の保障」に反する配分となっており,憲法に違反し,無効である。すなわち,憲法前文第1段落第1文後段は「主権が国民に存する」と規定し,同第1文冒頭は「日本国民は,正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し,」と規定する。これらは,憲法上の要請としての国民主権の法理,すなわち主権者の多数意見による国家権力支配の法理を表現し,国民が国会における代表者を自らの特別な代理人として用いて国政に参加することを意味しているものと解すべきである。
 さらに,憲法56条2項は「両議院の議事は,この憲法に特別の定のある場合を除いては,出席議員の過半数でこれを決し,」と規定しているところ,上記のとおり,国会議員は国民の特別な代理人にすぎないから,国家権力の正当性の根拠は,多数の国会議員ではなく,当該多数の国会議員を選出した選挙人の総数に存すると解すべきである。国会議員の多数意見と国民の多数意見が等価であるためには,国会議員が国民の人口比例選挙により選出されることが必須である。「正当(な)選挙」こそ,「国会議員の多数決」を「主権者(国民)の多数決」の等価物にするための「変換ソフト」である。
(イ) 許容される較差の程度
a 最高裁平成17年9月14日大法廷判決・民集59巻7号2087頁(以下「在外邦人選挙権平成17年大法廷判決」という。)は,「国民の選挙権又はその行使を制限することは原則として許されず,国民の選挙権又はその行使を制限するためには,そのような制限をすることがやむを得ないと認められる事由がなければならないというべきである。そして,そのような制限をすることなしには選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難であると認められる場合でない限り,上記のやむを得ない事由があるとはいえず,」と判示し,「厳格な判断基準」を採用している。
 さらに,最高裁昭和51年4月14日大法廷判決・民集30巻3号223頁(以下「衆院選昭和51年大法廷判決」という。)は,「選挙権に関しては,国民はすべて政治的価値において平等であるべきであるとする徹底した平等化を志向するものであり,右15条1項等の各規定の文言上は単に選挙人資格における差別の禁止が定められているにすぎないけれども,単にそれだけにとどまらず,選挙権の内容,すなわち各選挙人の投票の価値の平等もまた,憲法の要求するところであると解するのが,相当である。」と判示している。衆院選昭和51年大法廷判決の上記「強い文言」に照らし,最高裁は,人口比例選挙に基づく投票価値の平等からの乖離に合理性があるか否かを判断するに当っても,在外邦人選挙権平成17年大法廷判決と同一の「厳格な判断基準」を採用すべきである。
 平成24年大法廷判決も,参議院議員通常選挙における投票価値の平等に関する2つの憲法上の基準,すなわち,参議院議員の選挙であること自体から直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難いこと,及び都道府県を選挙区の単位としなければならないという憲法上の要請はないことを示した。
b 選挙区の定めについての国会の立法裁量権について議論する場合,①議員の定数を何人にするか,全都道府県を通じて選出される比例代表制のようなものを設けるか,比例代表選出議員を何人にするか等の選挙制度の仕組みの決定の論点と,②上記①で決定された選挙制度の仕組みの中で,議員1人当りの人口較差は,憲法上どの程度許容されるかの論点は,峻別されるべきである。
 上記①の論点については,国会は,広範な立法裁量権を有するが,上記②の論点については,国会には,投票価値の平等を損なうような裁量権の行使は原則として認められない。投票価値の平等に最も忠実な定数配分は,人口に比例して定数を配分する人口比例原則である。定数配分に非人口的要素を考慮することが許されるのは,投票価値の平等を損なうことを正当化するに足りる合理性を有する場合に限られる。
(ウ) 立証責任
a 原告らは,本件選挙当時,投票価値の最大較差が1対4.77に及ぶこと(前提事実(2)イ),及び臼井悠人「町丁の境界を考慮した参議院議員選挙仮想選挙区割」(甲40)により,選挙区間の人口較差を均一化しようと誠実に努力すれば,この較差を1.00008倍にまで圧縮できることを立証した。
b 選挙区間の定数配分において,人口比例選挙からの乖離がある場合,被告らが,その乖離に合理性のあることの立証責任を負う。
c そして,平成21年大法廷判決は,平成19年選挙(最大較差1対4.86)について,結論において,平成19年選挙当時の定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとすることはできない旨判示したものの,上記のような較差は投票価値の平等という観点からはなお大きな不平等が存する状態であって,選挙区間における投票価値の較差の縮小を図ることが求められる状況にあり,最大較差の大幅な縮小を図るためには,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しが必要となる旨を指摘しているから(前提事実(3)ウ(ア)),本件定数配分規定は,遅くとも平成21年大法廷判決が言い渡された時点において,憲法に違反する状態にあった。
イ 合理的期間の経過の有無
(ア) 最高裁判決の採用する合理的期間の法理は,そもそも憲法98条1項に違反する。
(イ) また,仮に上記の法理を前提としても,次のとおり,本件選挙までに合理的期間を徒過したというべきであるから,本件定数配分規定は違憲無効なものである。
a 平成24年大法廷判決は,合理的期間の起算日を平成21年大法廷判決の言渡日としている。
 なお,平成24年大法廷判決が平成24年改正附則に言及している点は,本件選挙前における国会の検討が現行の選挙制度の仕組み自体の見直しに向けて行われていたものであると評価するための一事情として摘示したにすぎない。
b 合理的期間は,国会が,定数配分規定を憲法が定める投票価値の平等に合致させるよう,できるだけ早く審議し立法するため,合理的に必要な期間である。
 専門委員会は,平成22年5月,参議院改革協議会に対し,その作成に係る「今後の大まかな工程表」と題する書面が添付された報告書を提出したが,この工程表には,平成23年中に選挙制度の見直しのための公職選挙法の改正案を国会に提出することが明記されていたから(前提事実(3)エ(ア)),選挙制度の見直しの公職選挙法の改正案を国会に提出するため合理的に必要な期間は,平成23年末までというべきである。しかも,平成21年大法廷判決後本件選挙までの間には,参議院改革協議会及びその下の専門委員会並びに選挙制度の改革に関する検討会及びその下の選挙制度協議会(同(3)エ(ア),(ウ),オ(ア))が実質的な審議をしていない空白の期間が合計21か月余りも存在しており,このような空白期間が上記の合理的期間に含まれるとみることは困難である。
c 平成21年大法廷判決の言渡日から本件選挙の施行まで,3年10か月弱が経過しているから,合理的期間を徒過したことは明らかである。
(ウ) 仮に,現行の方式の選挙制度を前提としても,国会は,10増10減(東京,神奈川,大阪,北海道及び兵庫を各2増し,新潟,宮城,長野,福島及び岐阜を各2減する。)の定数是正をすることにより,最大較差を1対4.31ないし4.27に縮小することができたにもかかわらず(前提事実(4)),最大較差が1対4.75とこれよりも劣る平成24年改正をしたにとどまるから(前提事実(3)エ(ウ)),平成24年改正をした時点で,合理的期間を徒過したというべきである。
(2) 被告らの主張
ア 違憲状態の有無
 原告らの主張アは争う。
イ 合理的期間の経過の有無
 同イは争う。
ウ 被告らの主張
(ア) 平成24年大法廷判決は,投票価値の著しい不平等状態が生じ,かつ,それが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する措置を講じないことが,国会の裁量権の限界を超えると判断される場合には,当該定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解するのが相当であると判示し,昭和58年大法廷判決以降の累次の最高裁大法廷判決が趣旨とする基本的な判断枠組みを変更する必要はないとした。
(イ) 平成24年大法廷判決後,平成24年改正が行われ,その結果,本件選挙当時の最大較差は,平成22年選挙当時の1対5.00に比べ縮小して1対4.77となり,昭和58年大法廷判決以降の最高裁大法廷判決が違憲状態にないと判断してきた最大較差のいずれをも下回り,昭和40年7月施行の参議院議員通常選挙当時の最大較差1対4.58以来の水準にまで縮小した(乙9)。
(ウ) ところで,平成18年大法廷判決及び平成21年大法廷判決は,それまでの累次の最高裁大法廷判決と同様,現行の選挙制度は相応の合理性を有するものであり,国会の裁量権の範囲を超えているとはいえず,不断に生ずる人口の変動をどのような形で選挙制度の仕組みに反映させるかなどの問題は,複雑かつ高度に政策的な考慮と判断を要し,その決定は基本的に国会の裁量に委ねられている旨判示していた。
 さらに,平成24年大法廷判決は,現行の選挙制度の仕組みを維持しながら,投票価値の平等の実現を図るという要求に応えていくことは,もはや著しく困難な状況に至っているとした上,最大較差が1対5.00であった平成22年選挙当時の定数配分規定について,投票価値の不均衡は違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたと判示するとともに(それまでの累次の最高裁大法廷判決において上記程度の最大較差をもって上記の著しい不平等状態に至っていると判示したものはなかった。),上記仕組み自体を見直すことが必要である旨を初めて明らかにしたものであり,それまでの累次の最高裁大法廷判決と大きく異なる判断を示した。
(エ) しかし,平成24年大法廷判決が求める上記仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置を講ずるためには,参議院の在り方をも踏まえた高度に政治的な判断が求められるなど,事柄の性質上課題も多いためその検討に相応の時間を要し,国民的な議論を重ねるとともに,専門的・多角的な検討が不可欠である。上記仕組みは,制度創設以来60年余り不変であって,国民の間に深く浸透し,近年まで合理的なものとして定着してきたのであり,これを見直すためには,民意の反映,特に地方の声をいかにして国会に正当に反映させるかといった点も,国会が正当に考慮し得る政策的目的であり(乙8の1~7),平成24年大法廷判決も,憲法は,どのような選挙制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させることになるかの決定を国会の裁量に委ねているのであるから,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではなく,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである旨判示している。また,参議院における投票価値の平等を徹底する方策としては,上記仕組み自体を見直す以外にも,選挙区選出議員の定数を増加させることも考えられ,最終的には国民の選択に委ねられるべき問題であり,平成24年大法廷判決も,上記仕組み自体の見直し以外の選挙制度の見直しを想定している。
(オ) 本件選挙は,平成24年大法廷判決から9か月余りで施行されたものであるから,上記のような立法的措置を講じるための期間としては,あまりに短いといわざるを得ない。
 また,平成24年大法廷判決が上記仕組み自体の見直しの必要性を初めて明らかにするまでは,現行の選挙制度を維持した上で,これまで違憲状態にないとされてきた最大較差を下回る較差とする方向で較差の是正を検討することは,投票価値の平等を可及的に実現するための過渡的な対応としては,国会に許された裁量権の範囲内というべきである。平成24年大法廷判決も,平成24年改正附則を考慮して,平成22年選挙までの間に定数配分規定を改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えるものではないとしたのであるから,本件選挙が平成24年改正後の定数配分規定(本件定数配分規定)の下で施行されることを当然想定していたということができ,上記仕組み自体の見直しの過程で,本件選挙が昭和40年7月施行の参議院議員通常選挙当時以来の小さい最大較差において施行されることが,国会の裁量権の限界を超えると判断することを予定していないというべきである。
(カ) 加えて,現在,選挙制度の改革に関する検討会及び選挙制度協議会において協議が重ねられており,本件選挙後,平成26年にかけて上記協議会における協議や各会派における検討を経た上で,平成27年中に見直し法案を提出し,平成28年選挙から新しい選挙制度を適用する旨明記した工程表が示されており,今後,国会において,選挙制度の抜本的改革のための議論が加速していくことが十分に見込まれる。
(キ) 以上の事情を総合考慮すれば,本件選挙当時,本件定数配分規定が違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態にあったとはいえないし,仮にそのような著しい不平等状態にあったとしても,本件選挙までの間にその是正措置を講じなかったことが国会の裁量権の限界を超えるとはいえない。

4 争点(2)(事情判決をすべきか。)に関する当事者の主張
(1) 原告らの主張
ア 事情判決の法理は,憲法98条1項に違反する。
イ 仮に,上記アの主張が認められないとしても,本件選挙を無効としても,参議院は,96名の比例代表議員と平成22年選挙で選出された73名の選挙区選出議員の合計169名により構成され,立法府としての機能を発揮できるから,公共の利益を著しく害することはない。むしろ,違憲な選挙により選出された参議院議員が立法等に関与することの方が著しく公共の利益を害するから,事情判決をすべきではない。
(2) 被告らの主張
 原告らの主張はいずれも争う。

第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件定数配分規定は憲法に違反し,無効であるか。)について
(1) 定数配分規定の合憲性判定基準
ア 憲法は,選挙権の内容の平等,換言すれば,議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等,すなわち投票価値の平等を要求していると解される。
 しかしながら,憲法は,どのような選挙制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させることになるかの決定を国会の裁量に委ねているのであるから,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではなく,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである。したがって,国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を有するものである限り,それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになっても,憲法に違反するとはいえない。
 憲法が二院制を採用し衆議院と参議院の権限及び議員の任期等に差異を設けている趣旨は,それぞれの議院に特色のある機能を発揮させることによって,国会を公正かつ効果的に国民を代表する機関たらしめようとするところにあると解される。
 参議院議員の選挙制度の仕組みは,このような観点から,参議院議員について,全国選出議員と地方選出議員に分け,前者については全国の区域を通じて選挙するものとし,後者については都道府県を選挙区の単位としたものである。昭和22年の参議院議員選挙法及び昭和25年の公職選挙法の制定当時において,このような選挙制度の仕組みを定めたことが,国会の有する裁量権の合理的な行使の範囲を超えるものであったということはできない。
 しかしながら,社会的,経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口変動の結果,投票価値の著しい不平等状態が生じ,かつ,それが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する措置を講じないことが国会の裁量権の限界を超えると判断される場合には,定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解するのが相当である(以上,昭和58年大法廷判決,平成21年大法廷判決,平成24年大法廷判決)。
イ 問題は,合憲性判断基準の厳格性の程度にある。平成21年大法廷判決が,「(平成16年大法廷判決及び平成18年大法廷判決)においては,上記の判断枠組み自体は基本的に維持しつつも,・・・,実質的にはより厳格な評価がされてきているところである。」「国民の意思を適正に反映する選挙制度が民主政治の基盤であり,投票価値の平等が憲法上の要請であることにかんがみると,国会において,速やかに,投票価値の平等の重要性を十分に踏まえて,適切な検討が行われることが望まれる。」と判示し,補足意見(金築裁判官)で,「投票価値の平等は,すべての有権者が国政選挙に対して平等な権利を持ち,その意味において国民の意見が国政に公正に反映されることを保障する憲法上の要請であるから,国会が選挙制度を決定するに際して考慮すべき単なる一要素にすぎないものではなく,衆議院のみならず参議院においても,選挙制度に対する最も基本的な要求として位置付けられるべきものである。」と述べ,平成24年大法廷判決が,「上記の判断枠組み自体は基本的に維持しつつも,投票価値の平等の観点から実質的にはより厳格な評価がされるようになってきたところである。」「憲法の趣旨,参議院の役割等に照らすと,参議院は衆議院とともに国権の最高機関として適切に民意を国政に反映する責務を負っていることは明らかであり,参議院議員の選挙であること自体から,直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難い。」と判示しているとおり,上記アの文言の有する合憲性判断基準としての意味内容は厳格なものに変わってきている。
(2) 違憲状態の有無
 本件選挙当時の最大較差は1対4.77であり,平成24年改正の結果,平成22年選挙当時のそれ(1対5.00)に比べ縮小しているものの(前提事実(2)イ,(3)エ(イ)),本件選挙当時の上記最大較差が示す選挙区間における投票価値の不均衡は,投票価値の平等の重要性に照らして看過し得ない程度に達しており,違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態に至っていたというべきであり、その是正のためには,10増10減(前提事実(4))にとどまらず,「都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなど,上記仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置を講じ」る必要があるものと認められる(平成24年大法廷判決)。
(3) 合理的期間の経過の有無
ア 違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態に至っている定数配分規定について,憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったといえるか否かを判断するに当たっては,単に期間の長短のみならず,是正のために採るべき措置の内容,そのために検討を要する事項,実際に必要となる手続や作業等の諸般の事情を総合考慮して,国会における是正の実現に向けた取組が司法の判断の趣旨を踏まえた立法裁量権の行使として相当なものであったといえるか否かという観点から評価すべきものである(衆議院議員総選挙に関する最高裁平成25年11月20日大法廷判決参照)。
イ(ア) 平成24年大法廷判決は,平成22年選挙(最大較差1対5.00)当時の定数配分規定について,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたとし,結論において,上記定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできない旨判示したが,選挙制度の仕組み自体の見直しについて,都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなどと具体的な立法的措置の内容にまで踏み込んだ指摘をした(前提事実(3)エ(イ))。平成21年大法廷判決も,平成19年選挙(最大較差1対4.86)当時の定数配分規定について,現行の選挙制度の仕組みを大きく変更するには相応の時間を要することは否定できないことなどを考慮して,平成19年選挙までの間に上記定数配分規定を更に改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えたものということはできず,平成19年選挙当時,上記定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとすることはできない旨判示していたものであり,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しが必要となる旨を指摘していたものである(同ウ(ア))。
 他方,平成10年大法廷判決以降平成18年大法廷判決までの大法廷判決は,その対象となった選挙当時の定数配分規定について,憲法に違反するに至っていたとすることはできない旨判示してきたところであり(同(3)ア(ウ)b,イ),多数意見の中で,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しが必要となる旨を指摘するには至っていなかった(平成18年大法廷判決も「制度の枠組みの見直し」に言及しているが,付言的なものにとどまっている。)。
(イ) これらの事情に照らせば,国会は,平成21年大法廷判決が言い渡された平成21年9月30日の時点で,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しが必要であることを認識したというべきである。
ウ(ア) 国会は,平成21年大法廷判決後本件選挙までに,現行の選挙制度を前提とし,平成22年10月実施の国勢調査結果による人口に基づく選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差が1対4.75に縮小する内容の平成24年改正をしたにとどまり(前提事実(3)エ(ウ)),平成21年大法廷判決及び平成24年大法廷判決の趣旨(同(3)ウ(ア),エ(イ))に沿った現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置を講じなかった。
 しかし,国会では,平成21年大法廷判決後の平成22年5月,参議院改革協議会の下の専門委員会が,本件選挙に向け選挙制度の見直しを行うこととして,平成22年選挙後にその見直しの検討を直ちに開始すべき旨を同協議会において決定する必要があることを指摘するなどし(同(3)エ(ア)),平成22年選挙後,新たに発足した選挙制度の改革に関する検討会及びその下の選挙制度協議会が,上記見直しのための検討,協議を重ねたが,政党間の意見の対立が大きく,全会派の合意に基づく成案を得るには至らなかったため,平成24年8月,本件選挙に向けた較差是正のため現行の選挙制度の下で定数を4増4減し,かつ,約4年後の平成28年選挙に向けて,参議院の在り方,選挙区間における議員一人当たりの人口の較差の是正等を考慮しつつ選挙制度の抜本的な見直しを内容とする立法的措置を講じることとする旨を明記した平成24年改正附則を含む平成24年改正案が提出され,同年11月に成立した(同(3)エ(ウ))。そして,平成24年改正後に継続している同検討会及び同協議会における協議も,平成24年改正附則に従い,平成28年選挙までに上記見直しを内容とする立法的措置を講じることを目指しているものである(同(3)オ(ア),(イ))。
(イ) 国会が,現行の選挙制度の仕組み自体の改正を内容とする立法的措置を講ずるためには,二院制の下での参議院の在り方を踏まえた上,一部の選挙区を合区するか,選挙区をブロック制にするか,各都道府県の議員定数を最低2人とする方法を廃止するかなど選出基盤や選出方法を含めた様々な選択肢の得失を検討し,合意を形成していく必要があり,その検討及び合意形成のために多くの時間を要することは,認めざるを得ない。
 平成21年大法廷判決から本件選挙までに3年9か月以上経過しているが,上記のように,求められた改正内容が現行の選挙制度を前提とした10増10減程度のものにとどまらず,現行の選挙制度自体の仕組みの見直しであったことからすると,本件選挙までに憲法上要求される較差是正のための合理的期間が経過したものとは認められない。
 これに反する原告らの主張は,採用することができない。

2 結論
 以上の次第で,原告らの請求はいずれも理由がないので,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。

名古屋高等裁判所金沢支部第1部
裁判長裁判官 市川 正巳
裁判官 寺本 明広
裁判官 小川 紀代子
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