平成25年5月30日判言渡
平成25年(行コ)第31号 所得税納税告知処分等取消請求控訴事件主文
 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は,控訴人の負担とする。
 事実及ひ理由
第1 控訴の趣旨
1 原判を取り消す。
2 豊島税務署長か平成21年11月25日付けて控訴人に対してした同年1月分の源泉徴収に係る所得税の納税告知及ひ不納付加算税の賦課定をいすれ も取り消す。
第2 事案の概要
1 本件は,土木建築工事の請負を業とする株式会社てあり,所得税法(平成2 2年法律第6号による改正前のもの。以下同し。)6条の源泉徴収義務者てあ る控訴人(原告)か,豊島税務署長(処分行政庁)から平成21年11月25 日付けて国税通則法36条1項2号の規定に基つく同年1月分の源泉徴収に 係る所得税の納税告知(本件納税告知)及ひ不納付加算税の賦課定(本件賦 課定。本件納税告知と併せて本件納税告知等)を受けたため,本件納税告知 の原因とされた平成21年1月10日から同月12日まての間に実施した控 訴人の従業員らの旅行(本件旅行。本件旅行に参加した控訴人の従業員を本件 各従業員)に係る経済的利益の供与は所得税法28条1項の「給与等」の支払 に該当するものてはなく,控訴人は上記経済的利益について源泉徴収義務を負 うものてはないのてあって,本件納税告知等は違法てあると主張し,処分行政 庁の所属する被控訴人(被告)に対して,本件納税告知等の各取消しを求める 事案てある。2 本件の争点は,本件納税告知等か違法かとうか,具体的には,本件各従業員に対する本件旅行に係る経済的利益の供与は所得税法28条1項の「給与等」の支払に該当するか否かてある。
3 被控訴人は,本件各従業員に対する本件旅行に係る経済的利益の供与は所得税法28条1項の「給与等」の支払に該当し,控訴人は,同法183条1項の 規定により,上記経済的利益について源泉徴収義務を負ったものてあるところ, この経済的利益は同法186条1項の「賞与」に該当するから,控訴人かこれ について本件各従業員から徴収し納付すへき源泉所得税額は合計34万74 72円てあると主張した。これに対し,控訴人は,本件各従業員は,本件旅行について,参加するか否 かの選択,旅程の選択,自由行動の幅といういすれの観点からも自由を与えら れていなかったのてあって,反射的に利益を受けることはあっても,この利益 を自由に処分することはてきなかったことなとによると,流入性,価値の保有 性及ひ金銭的評価の可能性の要件を満たしておらす,本件各従業員分旅行費用 相当の本件旅行に係る経済的利益は所得税の課税対象とされる経済的利益に は当たらす,本件各従業員分旅行費用の負担は所得税法28条1項の「給与等」 の支払に該当するものてはないと主張した。4 原審は,以下のとおり判断して,本件各従業員分旅行費用の負担は所得税法 28条1項の「給与等」の支払に該当するとし,控訴人の請求を棄却した。
 (1) 上記の「給与等」とは,俸給,給料,賃金,歳費及ひ賞与並ひにこれらの性質を有する給与(同法28条1項),すなわち,雇用契約又はこれに類す る原因に基つき使用者等の指揮命令に服して提供した非独立的な労務の対 価として受ける給付をいうものてあると解されるところ,上記「給与等」の 給付の形式は金銭の支払には限られす,金銭以外の物又は権利その他経済的 な利益の移転又は供与てあっても,それか上記のような労務の対価としてさ れたものてあれは,上記「給与等」の支払に当たるものというへきてある。(2) 本件各従業員は,本件旅行に参加することにより,その使用者てある控訴人から,本件旅行に係る経済的な利益の供与を受けた(本来有償てなけれは 受けることかてきない航空機,A等の交通機関,飲食店,宿泊施設等におけ る役務の提供を,使用者てある控訴人の費用負担の下に無償て受けた)もの てあり,本件旅行は,専ら本件各従業員ほかのレクリエーションのための観 光を目的とする慰安旅行てあったものてあると認めるのか相当てある。(3) そうすると,本件各従業員は,その使用者てある控訴人から,雇用契約に 基つき控訴人の指揮命令に服して提供した非独立的な労務の対価として,本 件旅行に係る経済的な利益の供与を受けたものてあり,控訴人は,本件各従 業員に対し,本件旅行に係る経済的な利益を供与し,所得税法28条1項の 「給与等」の支払をしたものてあるということかてきる。(4) 控訴人の主張について
ア 本件旅行か,現場作業員の指揮命令系統を強化し,操業の安全と能率の増進を図るという控訴人の業務上の必要に基ついて,本件各従業員に参加 を強制して行われたものてあると認めることはてきす,本件各従業員か, 控訴人から,労務の対価としててはなく,控訴人の業務上の必要に基つい て,本件旅行に係る経済的な利益の供与を受けたものてあるということは てきない。イ 本件旅行への参加か強制されたものてあり,流入性,価値の保有性及ひ 金銭評価の可能性の要件を欠くとの主張は,その前提を欠く。また,本来有償てなけれは受けることかてきない役務の提供を無償て受 けたことにより,本件各従業員の担税力は増加したものてあるということ かてきるのてあって,控訴人か本件各従業員に供与した本件旅行に係る経 済的な利益は所得税の課税対象となるものというへきてある。ウ 既に金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益を収受し, 所得の実現かあったとみることかてきる状態か生したときは,その時期の 属する年分の収入金額として所得を計算すへきものてあることは当然てある。
 本件各従業員は,本件旅行に参加することにより,その使用者てある控訴人から本件旅行に係る経済的な利益の供与を受けたものてあるから,本 件旅行に係る経済的な利益は,本件旅行か実施された平成21年1月10 日から同月12日まての間に,本件各従業員に収受され,所得の実現かあ ったとみることかてきる状態か生したということかてき,本件旅行に係る 経済的な利益は本件旅行か実施された時に実現したものとするのか相当 てあり,その帰属時期を確定することかてきないということはない。エ 使用者か役員又は使用人に提供した用役については,当該用役につき通 常支払われるへき対価の額により評価するのか相当てあると解されると ころ,控訴人か本件各従業員に供与した本件旅行に係る経済的な利益につ き通常支払われるへき対価の額は本件各従業員分旅行費用の額てある2 4万1300円てあると認めることかてきるのてあって,本件各従業員か 供与を受けた経済的な利益の額は本件各従業員分旅行費用の額となると するのか相当てある。5 これに対して,控訴人か控訴した。
6 関係法令の定め等,前提事実及ひ当事者の主張は,後記7に当審における控訴人の主張を付加するほかは,原判の「事実及ひ理由」欄の「第2 事案の概要」の1,2及ひ4記載のとおりてあるから,これを引用する。
 7 当審における控訴人の主張(1) 本件旅行の目的 原審は,本件旅行を慰安旅行と認定し,従業員か旅行を楽しんており,業務てはないと認定したか,不当てある。 本件旅行は,控訴人代表者か従業員,特に現場て危険な作業に当たる従業員に対して,指揮命令系統を強固にし,工事の安全を図るために行われたも のてあり,控訴人代表者の,旅行に参加せよとの業務命令によりされたものてある。
そのことは,1 本件旅行は,控訴人代表者か企画し,従業員の意見・希望は聞かすに行き先・旅程を定していること(乙2),2 従業員として は不参加という選択肢かあるとは考えておらす,控訴人代表者の命するまま にハスホートを準備し,日程を確保する状況てあったこと,3 指揮命令系 統強化か目的てあったため,普通の旅行てあれは許されるてあろう,集合時 間に僅か5分遅れたたけのことて控訴人代表者か従業員を叱責するという こともあったこと,からもらかてある。(2) 社長命令と労働時間(本件旅行の業務性) 最高裁平成12年3月9日第一小法廷判・裁判集民事197号75頁は,労働基準法32条の労働時間とは,労働者か使用者の指揮命令下に置かれて いる時間をいい,労働時間に該当するか否かは,労働者の行為か使用者の指 揮命令下に置かれたものと評価することかてきるか否かにより客観的に定 まるものてあるとしている。本件旅行に参加不参加の自由はなく,行き先な とについて従業員か意見を述へる機会はなく,控訴人代表者の一方的指示て, 旅行に連れて行かれ,旅行中てあっても代表者か集合時間について厳しく注 意していたことからすれは,控訴人代表者か旅行中も従業員を指揮監督する 状況にあったものてあり,本件旅行は,業務に不可欠な指揮命令系統を強固 にするためのものてあった。(3) 原審は,控訴人代表者か異議調査て指揮命令系統を強固にするためとい う目的を述へていないとするか,異議調査は,控訴人代表者か質問に回答す る立場てあり,主張をする場てはなかったし,調査を受ける側として緊張し, 事前に主張を整理することも困難てあることからすれは,危険な作業を行う 現場作業従業員の一体感か必要てあることに一切触れていないとしたのは 不当てある。(4) 本件旅行の利得性
原判は,本来従業員か費用を支払って参加すへき慰安旅行てあるのに, 会社か支払っているため従業員か支払義務を免れたと認定するか,不当てあ る。本件旅行に参加することか業務命令てあり,本件旅行に参加することは 従業員の職務てあったから,職務遂行に必要な旅費交通費を会社か負担した というにすきす,本来的に従業員か負担すへき費用てはないから,従業員か 支払を免れたということはてきない。担税力とは,課税対象となる個人法人か実際に税負担を受け持つことか てきる能力をいい,税を負担するにはその経済的利益を自由に処分すること か必要てあるか,本件ては,従業員か希望した旅行とはいえす,その代金を 従業員か経済的利益として自由に処分てきたという状況てはない。経済的利 益については,給与を受ける側から考えて,流入性,価値の保有性及ひ金銭 的評価の可能性という3要件か必要てあるか,原審はこの点についての検討 をしておらす,審理不尽てある。(5) 所得税基本通達36-30について 本件旅行は,控訴人に定年まて勤め上けた従業員を丁重に送り出すことにより,従業員の忠誠心を引き出すという目的かある。従業員かそろって旅行 に行く社員旅行という行事そのものか今となっては不人気となっている。そ れても従業員を参加させるとすると,社員旅行はある程度贅沢にしないと社 員に評価してもらえないという最近の実情かある。また,土産物屋に寄らな い分の費用を他に充てたという観点からすると,金額から見ても社会通念上 一般的に行われているものと評価すへきてある。上記通達の規定方法ては,いかなる金額か少額てあり課税されないのかを 納税者か知ることかてきす,旅行実施当時は社会通念上一般的てあると考え ていたものか,後になって否定され,課税されることになるか,法て課税要 件・課税率を定めることは,課税側の権限を確にし,納税者の行動の自由 を保障する意味て重要なものてあり,基準の確性か要求される。上記通達の運用は,事後的に課税要件を示されて課税されるのと等価てある。事前予 測か困難な社会通念上一般的に行われているという要件は,納税者に有利に 解釈されるへきてあり,これを厳しく解釈するのは違憲の疑いかある。本件旅行の代金は,本件旅行代金から飲料代を引いたものかツアー料金と して考えられるへきものてある。また,本件旅行か行われたのは1月の連休 てあり,本件旅行の旅行先てあるマカオは年間を通して観光かてきることか らすれは,日本国内の休日に当たるか否かて旅行代金か変化すると考えられ, 控訴人の業務に差し障りのない日程(連休)て旅行を計画するとなると,料 金か高くならさるを得ない。さらに,一般のハッケーシ旅行ては,いわゆる 「お土産屋さん」を行程に入れ,旅行会社かそのマーシンを受け取ることて 旅行代金を安価にすることかあるか,これを行程に入れない場合には旅行代 金を下けることはてきないのてあり,いわゆるハッケーシ旅行と,控訴人代 表者か指示したとおりに組み立てた旅行代金とを比較することは不可能て ある。本件旅行代金について,いわゆるお土産屋さんによる場合のマーシン を控除し,3連休てはなく平日を含むツアー代金と比較をし,飲料代金を控 除した金額をもって比較すれは,旅行代金は平均的なものてある。そうする と,所得税基本通達36-30を適用した場合,課税されない旅行代金額に 該当すると考えられる。原審は,旅行代金か高額てあるとして所得税基本通 達36-30の基準を超えており,課税されるものとしているか,誤りてあ る。第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,本件各従業員分旅行費用の負担は所得税法28条1項の「給与等」の支払に該当するものと判断する。その理由は,下記2に当審における控 訴人の主張に対する判断を付加するほかは,原判の「事実及ひ理由」欄の「第
 3 当裁判所の判断」に記載のとおりてあるから,これを引用する。2 当審における控訴人の主張について
(1) 控訴人は,「本件旅行は,控訴人の従業員,特に現場て危険な作業に当 たる従業員に対して,指揮命令系統を強固にし,工事の安全を図ることを目 的として,控訴人代表者の業務命令によりされたものてあり,参加不参加の 自由はなく,控訴人代表者は,旅行中ても従業員を指揮監督していたものて あるから,業務のためのものてある。控訴人代表者か異議調査て指揮命令系 統を強固にするためという目的を述へていないのは,そのような主張をする 場てなかったことなとからてあって,異議調査において上記の目的に一切触 れていないとするのは不当てある。」旨主張する。しかし,控訴人代表者自身,本件旅行の目的か,定年制を前提に,熟練技 能者等の長年の労に対して盛大に報い,きちんと勤め上けると全社を挙けて 盛大に送り出してもらえると社員に感しさせるために本件旅行を企画した としている(甲11)のてあり,そのことによって会社に対する忠誠心かか ん養され,ひいては指揮命令系統か強まることかあり得るとしても,付随的 派生的効果にすきす,従業員等の慰安親睦を目的とする一般の慰安旅行と 異なるところはないと考えられる。このことは,旅行先を控訴人代表者か 定したり,旅行中に,参加した従業員の遅刻を控訴人代表者か叱責するとい うことかあったとしても変わるものてはない。控訴人は,本件旅行には従業員に参加不参加の自由かなかったと主張し, これに沿うと考えられる証拠(甲20,21)を提出するか,本件旅行には 女性従業員2名か参加しなかったところ,この点について,控訴人代表者は, 「総務職を担当するものてあり,他の従業員とは性質か異なるのて具体的に 誘うことはなかった」旨述へたり(甲11),「参加しなかった理由は特に 聞いていない」旨述へている(乙1)のてあって,こうした控訴人代表者の 述へている内容を併せて検討すると,上記の控訴人の主張を採用することは てきない。また,異議調査において控訴人代表者か述へた内容についても,本件旅行の趣旨目的について説しなかったというのてはなく,慰安と親睦のための 旅行てあり,行き先は一般的な観光場所てある旨積極的に回答しているのて あるから(乙1),主張をする場てなかったとの控訴人の主張は理由かない。
 そもそも,異議申立書に記載された異議の理由は,本件旅行か従業員の慰安 旅行てあることを前提に,控訴人負担額か社会通念上常識的な金額てあり, これを給与として課税することは課税の公平を欠くというものてあったこ と(甲2)をも踏まえると,異議申立てから19日後にされた異議調査にお ける控訴人代表者の応答内容は,むしろ率直に事情を説したものと理解て きるものてあり,その内容からも,本件旅行の目的か控訴人従業員なとの慰 安と親睦にあると認めるへきものてあることは,原判の説示するとおりて ある。(2) 控訴人は,「本件旅行に参加することは従業員の職務てあり,職務遂行 に必要な旅費交通費を会社か負担したというにすきないから,従業員か支払 を免れたということはてきす,その代金を従業員か経済的利益として自由に 処分てきたという状況てはない。経済的利益については,給与を受ける側か ら考えて,流入性,価値の保有性及ひ金銭的評価の可能性という3要件か必 要てあるか,原審はこの点についての検討をしておらす,審理不尽てある。」 旨主張する。しかし,本件旅行の目的は,上記のとおり,控訴人従業員なとの慰安と親 睦にあったものてあり,控訴人の業務上の必要に基ついて本件各従業員に参 加を強制して行われたものと認めることはてきす,控訴人の業務上の必要に 基ついて経済的な利益の供与を受けたものということかてきないことは原 判説示のとおりてあり,控訴人の主張は前提を欠く。(3) 控訴人は,所得税基本通達36-30に関し,「本件旅行は,控訴人に 定年まて勤め上けた従業員を丁重に送り出すことにより,従業員の忠誠心を 引き出すという目的かあるか,従業員かそろって旅行に行く社員旅行という行事そのものか今となっては不人気となっているため,社員旅行はある程度 贅沢にしないと社員に評価してもらえないという最近の実情かあること, 飲料代を引いたものかツアー料金と考えるへきてあること,控訴人の業務に 差し障りのない日程(連休)て旅行を計画するとなると,料金か高くならさ るを得ないこと,土産物屋に寄らないためにマーシン分か安くならないこと なとの観点からすると,社会通念上一般的に行われているものと評価すへき てある。」旨主張する。しかし,従業員の参加意欲を喚起するためにある程度贅沢にしなけれはな らないとの主張は,本件旅行か業務命令てあるとする控訴人の前記主張に必 すしも沿わないものてある。また,本件各従業員か享受した経済的利益の観 点からは,旅行代金から飲料代土産物屋のマーシン分を控除する理由はな く,本件旅行に参加することにより享受する経済的な利益の額か少額てある ものと認められないことは,原判説示のとおりてある。また,控訴人は,「上記通達の運用は,事後的に課税要件を示されて課税 されるのと等価てあり,事前予測か困難な社会通念上一般的に行われている という要件は,納税者に有利に解釈されるへきてあって,これを厳しく解釈 するのは違憲の疑いかある。」旨主張する。しかし,社会通念上一般的に行われているものと認められるか否かは,旅 行に参加した従業員等か受ける経済的利益の額,すなわち使用者の負担額を 中心として,当該旅行の目的内容,従業員の参加状況なとの諸事情を考慮 することにより判断することか可能てあり,事前予測か困難ということはて きないし,本件においてこれか控訴人の主張するように厳しく解釈されたも のということもてきない。控訴人の上記主張は理由かない。3 以上によれは,控訴人の請求を棄却した原判は正当てあり,本件控訴は理 由かないから,これを棄却することとして,主文のとおり判する。東京高等裁判所第2民事部
裁判長裁判官 佐久間 邦 夫
裁判官 林 正 宏
裁判官 齋藤憲次
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