平成24年4月20日判 名古屋高等裁判所
平成23年(ネ)第785号 地位確認等請求控訴事件〔原審・津地方裁判所平成 22年(ワ)第73号〕口頭弁論終結日 平成24年2月15日

主文
 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
 事実及ひ理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 控訴の趣旨
(1) 原判を取り消す。
(2) 控訴人か被控訴人Xに対する雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
(3) 被控訴人Xは,控訴人に対し,平成21年4月1日から毎月15日限り,23万6396円及ひこれに対する各支払日の翌日から支払済みまて年6分の割合による金員を支払え。
(4) 被控訴人らは,控訴人に対し,各自330万円及ひこれに対する平成21年3月31日から支払済みまて年5分の割合による金員を支払え。
 (5) 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人らの負担とする。(6) 仮執行宣言
2 控訴の趣旨に対する答弁 主文同旨
第2 事案の概要(以下,略称は原判の表記に従い,適宜,原判における記載 箇所を示す。)1(1) 本件は,控訴人か,被控訴人Yから派遣されて労務を提供していた先のZ株式会社(以下「Z」という。)との間に直接雇用契約関係か存在するとし て,Zに対し,雇用契約上の地位か存在することの確認及ひ未払賃金の支払 を求めるとともに,被控訴人Y及ひZか控訴人をして,労働者派遣事業の適 正な運営の確保及ひ派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(以下「派 遣法」という。)に違反する不法な就労を継続させ,最終的に控訴人の雇用 を喪失せしめ,控訴人に精神的苦痛を生しさせたとして,不法行為を理由に 両社に損害賠償を求める事案てある。(2) 原審は,控訴人とZとの間には直接雇用契約関係は成立していない等とし て,請求を全部棄却する旨の判をしたところ,控訴人かこれを不服として 控訴した。その後(平成24年1月1日),被控訴人XかZを吸収合併し訴 訟を承継した。2 当事者の主張〔請求原因その1(黙示の雇用契約上の地位確認及ひ賃金支払 請求),これに対する被控訴人Xの認否及ひこれに対する被控訴人Xの主張, 請求原因その2(不法行為)及ひこれに対する被控訴人らの認否〕は,次項の とおり,当審における控訴人の主張(原審ての主張を敷衍するものを含む。) を付加するほかは,原判「事実及ひ理由」欄の「第2 事案の概要及ひ当事 者の主張」1ないし4に記載のとおりてあるから,これを引用する。3 当審における控訴人の主張 (1) 黙示の雇用契約成立の有無ア 黙示の雇用契約成立の一般的要件 黙示の雇用契約は,労働者と労務提供先との間に,客観的に推認される黙示の意思の合致か認められる場合に認定されるところ(最高裁平成10 年9月8日第三小法廷判参照),そのためには1派遣先か派遣労働者の 採用に関与していたか,2派遣先か派遣労働者の給与額を事実上定した といえるか,3派遣先か派遣労働者の具体的な就業態様を一定の限度て 定し得る地位にあったかか検討されるへきてある。イ Zによる控訴人採用への関与
(ア) 原判は,1被控訴人Yの担当者か控訴人を含む本件参加者(原判8頁18行目)の中から採否をするための面接を行った際には,Zの 担当者は同席していなかった,2本件説会(同8頁21行目)に出席 したZの従業員は,本件参加者の情報(履歴書等も含む)を一切知らさ れていなかった,3従前,Zか被控訴人Yの採用した派遣労働者の受入 れを拒否した事実はないと認定した上て,控訴人を採用したのは被控訴 人Yてあり,Zは関与していないと判示した。(イ) しかし,控訴人かZの工場て行われた本件説会(原判8頁21行 目)に参加した際,Zの従業員A(同8頁26行目)から,就労期間の 確認かなされ,その上て控訴人の採用かまったのてあるから,Zによ る事前面接かなされたといえる。ウ Zか控訴人の給与額を事実上定していた。
(ア) 原判は,1控訴人は,被控訴人Yから賃金の支払を受けていたこと,2Zとしては,被控訴人Yかとの従業員に対してとのような形て賃金を 支払っているかを認識していなかったこと,3Zから被控訴人Yに対し て支払われる労働者派遣契約に基つく契約代金(派遣料金)と被控訴人 Yか控訴人に支払う賃金との間には必すしも相関関係かないことの各事 実か認められるとし,これらの事実から,被控訴人Yか派遣料金とは無 関係に控訴人の賃金を定していたと判示する。(イ) しかしなから,Zと被控訴人Yとの間ては,派遣労働者ことに派遣料 金をいくらにするか交渉をしており,定された派遣料金の中から派遣 労働者の賃金かまることになり,その交渉において,Zの方か被控訴 人Yよりも強い立場にあった。また,控訴人は,賃金額について,Z及ひ被控訴人Yの双方に賃金を 上けてくれるように交渉していたか,Zの従業員から,被控訴人Yに賃金を上けるように言っておくとの返答をもらっていた。このように,Z は,被控訴人Yに対し,控訴人の賃金額について指示てきる立場にあっ た。以上のとおり,Zは派遣料金の定をすることにより,あるいは被控 訴人Yへ直接指示をすることにより,実質上控訴人の賃金額を定して いた。エ Zと被控訴人Yは密接な関係にある。
(ア) 原判は,1被控訴人Yの従業員のうち,Zから出向してきている従業員は4%程度てあり,Zと被控訴人Yの間には特段の人的関係はない こと,2被控訴人YはZとの間てのみ,労働者派遣契約を締結している のてはなく,その業務の3割から4割程度は他の会社(Zと何ら資本関 係のない会社)との間の労働者派遣契約か占めていること,の各事実か ら,被控訴人YはZとの関係において,その存在か形式的なものてあっ たとか,実質的にZに従属していたとかいう事実を認めることはてきな いと判示した。(イ) しかしなから,以下のとおり,Zと被控訴人Yは密接な関係にある。
 a 被控訴人YはZの100%子会社てあり,求人広告ても,Zとのかりを強調している。
b 被控訴人Yか上記のとおりZの100%子会社てあり,かつ出向者かいることからすれは,両社か人的関係を有するとみることか十分可能てある。
c 被控訴人Yの派遣先はX関連か多い。
オ Zは控訴人の労務管理をしていた。
 (ア) 出退勤管理及ひ休暇の取得原判は,被控訴人Yか控訴人の出退勤及ひ年次有給休暇の管理をし ていたと判示する。しかし,控訴人の有給休暇の取得についてはZの許可を得なけれはならす,Aから労働時間の申告を早く行うように求めら れた。これは,Zの側ても控訴人の労務について把握していたというこ とてあり,被控訴人Yは,Zから独立して労務管理をしていたのてはな い。(イ) 定期面談 原判は,Zとの面談は安全衛生管理を目的とし労務管理を目的としたものてはないと判示する。しかし,Zによる派遣労働者に対する定期 面談においては,控訴人か賃金を上けてほしいとか,正社員になりたい 等の希望をZに伝えていたのてあり,このことからすれは,上記面談は, 人事考課をも兼ねていたと考えるのか自然てある。(ウ) 健康診断,社会保険 控訴人か被控訴人Yの行っていた健康診断を受診していたこと,控訴人の社会保険の手続は被控訴人Yか行っていたことは,形式上の使用者 か被控訴人Yてある以上,当然てあり,これをもって被控訴人Yの雇用 契約か実質を伴ったものてあるとはいえない。カ まとめ
(ア) 被控訴人Yと控訴人間の派遣労働契約の効力について
被控訴人Yと控訴人間に締結された派遣労働契約は,派遣法40条の 2ないし5等の私法的強行規定に違反した契約てあるから,社会的・経 済的弱者てあり,派遣法等に詳しくない派遣労働者てある控訴人の無知 に乗した事案てあり,控訴人を実質的に保護するため,上記契約は民法 90条に違反し無効と解ささるを得ない。(イ) 被控訴人YとZ間の労働者派遣契約の効力について 被控訴人Y及ひZは,派遣法40条の4等の規定の適用を回避するた め,専門業務偽装という形式て,共謀の上,敢えて労働者派遣契約を締 結した点において,その違法性及ひ悪質性か極めて高い事案てあり,両社の労働者派遣契約は民法90条に違反し,無効てある。
 (ウ) Zと控訴人との黙示の雇用契約の成立について被控訴人Yと控訴人間の派遣労働契約も被控訴人YとZとの労働者派 遣契約も,違法な動機を目的とする契約てあり無効てある以上,控訴人 とZとの間の法律関係は意思解釈て補う必要かある。Zは,事前面接により被控訴人Yによる控訴人の採用に関与し,賃金 かZからの派遣料金の範囲内てまり,Zか被控訴人Yに控訴人の賃金 について指示することか可能てあったこと,被控訴人Yか控訴人の具体 的な就業形態を一定の限度て定し得る地位にあったことか立証されて いないことからすれは,平成15年7月下旬ころ,控訴人とZとの間に 黙示の雇用契約か成立したというへきてある。(2) 派遣法40条の4違反に基つく雇用契約か成立する(予備的主張)。 ア 控訴人の業務内容は一般製造業の業務てある。控訴人の従事していたテストヒースの成形作業の実態は,単なる物の製 造にすきす,一般製造業てあった。派遣法40条の2第1項1号にいう 「政令」てある「労働者派遣事業の適正な運営の確保及ひ派遣労働者の就 業条件の整備等に関する法律施行令」(昭和61年4月3日政令第95号。 以下「政令」という。)4条に26の業務(以下「専門26業務」とい う。)か定められたところ,控訴人の従事した業務は,この専門26業務 中の政令4条9号の業務(以下「9号調査業務」という。)ても,同条1 7号の業務(以下「17号研究業務」という。)てもない。イ 派遣受入期間か制限されている。 派遣法40条の2によれは,一般製造業の派遣可能期間は原則1年てあり,控訴人については就労を開始してから1年後の平成16年8月1日まててあった。
ウ Zには直接雇用義務か存在し,同社はこれに違反した。
派遣法は,一般業務について,「臨時的・一時的」てはなく,派遣受入 可能期間を超えて長時間にわたって派遣労働者による労務提供を受け入れ ようとする派遣先に対しては,当該派遣労働者て派遣先ての直接雇用を希 望する者に対して直接雇用契約を申し込むへき義務を課した。もっとも,派遣法40条の4は,「第35条の2第2項の規定による通 知を受けた場合において」と規定しているところ,本件てはかかる通知は なされていない。しかし,適法な派遣において同法40条の4により直接 雇用申込義務か発生するにもかかわらす,本件のような違法な派遣におい ては上記規定か適用されす直接雇用申込義務か発生しないとすることは均 衡を失する。同法26条5項によれは,派遣先は,当該労働者派遣の役務 の提供か開始される日以後当該業務について,期間制限に抵触することと なる最初の日を通知しなけれはならないと定めており,派遣元は,この通 知を受けて初めて期間制限に抵触することとなる日かいつてあるかを知る ことかてき,同法35条の2第2項の「通知」かてきる。そうすると,派 遣先か同法26条5項による通知を行っていない場合,派遣先としては, 同法35条の2第2項の「通知」を受けていないことを理由として同法4 0条の4に基つく直接雇用申込義務を免れることは信義則上もてきないと 解釈すへきてある。このような場合には,同法40条の4の趣旨に照らし, 「通知」を受けたと否とにかかわらす,直接雇用申込義務か課されるとい うへきてある。本件ては,Zは被控訴人Yと共謀し,派遣受入期間の制限を潜脱するた めに,控訴人の業務かあたかも「専門26業務」に該当するかのように偽 装するという悪質な違反をしている。仮に,共謀か認められなくても,Z は,控訴人に従事させている業務か専門26業務に該当しないことを認識 てきたにもかかわらす,適正な形て派遣することも是正することもせす, 専門26業務ての派遣を行った。このように,派遣法に故意又は過失により直接加担した派遣先てあるZには,派遣元から派遣法35条の2第2項 の「通知」を受けるへき正当な期待は存在しない。Zは,控訴人か就労を開始した平成15年8月1日から1年経過した平 成16年8月1日時点て,派遣法40条の4の直接雇用申込義務かあるに もかかわらす,これを履行しなかった。エ 派遣法40条の4は私法的効力規定てある。
(ア) 派遣法40条の4は,派遣先は「当該派遣先に雇用されることを希望するものに対し,雇用契約の申込みをしなけれはならない」と規定する。
 この規定ては,「雇用契約の申込みをしなけれはならない」という文言 か用いられており,努力義務規定に典型的な「雇用契約の申込みをする ように努めなけれはならない」という文言は用いられていない。(イ) 同条か派遣労働者の雇用の安定の増進を図る目的て平成15年改正 により追加された規定てあることなとに照らすと,同条は,派遣先に法 律上,私法上の直接雇用申込義務を課した私法的効力規定と解すへきも のてあって,派遣先に対し,単に雇用契約の申込みをすへき努力義務を 課した規定てはない。オ まとめ Zは,上記の直接雇用申込義務を履行しないまま,控訴人を派遣労働者として就労させ続けたか,Zか労務提供を受け入れたことか雇用契約の申 込みてあり,控訴人か就労を続けたことか承諾と解釈てき,平成16年8 月1日の時点て期間の定めのない直接の雇用契約か成立した。(3) 不法行為の成立 ア 侵害行為
(ア) Zによる業務の偽装 控訴人かZて従事した業務は,派遣受入期間の制限のない専門26業務のいすれにも該当しない一般製造業務てあった。さらに,控訴人かZにおいて就労を開始した平成15年8月1日時点ては,一般製造業務に 対する労働者の派遣は許されていなかった。平成11年改正において, 派遣期間を制限する40条の2,派遣期間経過後の直接雇用義務を課す る40条の3か新設されたところ,製造業務に対する派遣か可能になっ たのは,平成16年改正以降てあり,派遣可能期間は1年てあったか, 平成19年に期間は3年に延長された。製造業務においては,常用代替 の危険か高いことから,派遣対象業務とすることに慎重な態度かとられ, 派遣対象業務となった後も,厳しい期間制限かされていた。常用代替の 防止は,数次の改正の後,派遣期間の規制のみに委ねられ,派遣法40 条の2は,常用代替防止の「最後の砦」となった。ところか,控訴人は,平成15年からZて製造業務に従事し,5年以 上勤務し常用代替として就労したのてあり,その違法性は強い。(イ) 違法な事前面接 Zと被控訴人Yは,控訴人の就労に先立ち,事前面接を実施し,Zの従業員Aは,事前面接において,控訴人に対してたけ就労期間の確認を し,一般製造業務たる成形業務に派遣の形て就労させる労働者として控 訴人を選別した。(ウ) 解雇権濫用 控訴人は,本来指揮命令を行って就労させていたZに直接雇用かなされなけれはならない地位にあった。そして,Zに直接雇用されていれは, 客観的に合理的な理由かあり社会通念上相当てあると認められる事由か なけれは労働契約法16条により解雇てきない地位にあった。本件ては, 控訴人の契約更新後,被控訴人YかZの四日市工場て就労する派遣労働 者を募集していることからすれは,控訴人を解雇(雇い止め)する必要 性か認められない。イ 侵害行為の違法性
Z及ひ被控訴人Yは,事前面接を行って控訴人を特定した上,業務内容 を偽装し,派遣不可能な製造業務に控訴人を従事させ,控訴人は,5年8 月の間,不安定な派遣労働を強いられたのてあり,結果として契約を更新 しないという形て労働契約を終了させられ,仕事を失った。上記両社の行為は,控訴人のZにおいて,安定的かつ平穏に勤務し,労 働者として適正な給与を得て生活するという人格的権利利益を侵害したも のて,不法行為を構成する。ウ 故意又は過失の存在 (ア) 故意(共謀)
a 事前面接の意味 Zと被控訴人Yは,Zにおいて派遣労働者として就労させる労働者を選別するため,事前面接を実施した。
b 控訴人に対し専門26業務について確に説していないこと
被控訴人Yか控訴人に対し派遣当初及ひ更新の際に交付した雇用契 約書には,業務内容について「第9号 調査」あるいは「第17号 研究開発」と記載されているか,控訴人は雇用契約書の内容について 詳しい説を受けていない。このことは,Z及ひ被控訴人Yか,控訴 人を専門26業務と偽装しているにもかかわらす,控訴人に偽装の事 実を知らせる機会をあえて与えないようにしていたものといえる。c 共謀について 被控訴人YはZの100%子会社てあり,被控訴人Yの派遣先はZ又はその関係会社か大部分を占め,事前面接も,Zの四日市工場内て 行われ,両社は非常に強い関連性を有している。そして,Z及ひ被控 訴人Yは,共謀の上,控訴人を派遣労働者としてZにおいて就労させ た。(イ) 過失
a 仮に,Z及ひ被控訴人Yか故意に控訴人による専門26業務就労を 偽装していたとは認められないとしても,上記両社は適法な状態て控 訴人を就労させる義務かあり,違法状態の場合には適法状態に是正す る義務かあるにもかかわらす,以下のように,その義務を少なくとも 過失により怠った。b Zの過失 Zは控訴人を就労させていたのてあるから,控訴人の従事していた成形業務か,調査(政令4条9号)にも研究開発(同条17号)にも 当たらす,実態は製造業務てあることを,少なくとも知り得る立場に あった。そして,控訴人に専門26業務に該当しない製造業務を行わ せていたのてあれは,控訴人を引き続き同様の業務に従事させるには 直接雇用を行わなけれはならなかったところ,Zはこれを完全に怠り, 違法な状態て5年8か月も就労させた挙け句に,自ら派遣を打ち切っ た。c 被控訴人Yの過失 被控訴人Yは,仮に控訴人かZにおいて専門26業務を行うと信して派遣したのてあったとしても,控訴人の従事する業務の確認を怠っ ており,派遣法31条て派遣元事業主に義務付けられている派遣労働 者の就業状況について派遣契約の定めに反しないように確認する義務 を怠った。このように,被控訴人Yは,少なくとも過失により控訴人を派遣法 に違反する状態て就労させたこと,過失により違法状態を適法に是正 する義務を怠ったことはらかてある。d 派遣法違反の認識 控訴人の派遣就労か派遣法違反てあることは,従業員間ても話題になっていたのてあり,Z及ひ被控訴人Yは,控訴人の派遣就労か派遣法違反てあることを認識していた。
 また,被控訴人Yは,繰り返し,大阪労働局から是正指導,是正命令を受けていたから,控訴人の労働についても派遣法違反てあるとの認識を持ち,違反状態を解消することは十分可能たったといえる。 エ 関連共同性か認められる。Zと被控訴人Yは,事前面接を行い,控訴人の業務内容を偽装して控訴 人を派遣労働者として就労させたのてあり,主観的共同性か認められる。 また,控訴人は被控訴人Yから派遣されて,Zて就労していたのてある から,派遣法違反ての就労という状態の作出につき,上記両社には少なくとも客観的共同性か認められる。 オ 損害の発生及ひ額
(ア) 精神的損害 控訴人か被った精神的苦痛を慰謝するには金額は300万円を下らない。
(イ) 経済的損害
控訴人かZに直接雇用されていれは,控訴人は解雇権濫用の法理の保 護を受ける立場にあった。しかし,実際には,労働者派遣契約の更新を 拒絶するという極めて単純な手続によって仕事を失うこととなった。仮に,派遣法40条の4に基つき,控訴人かZの期間労働者となった と考えた場合ても,控訴人は期間6か月の有期雇用を更新してきたもの といえ,実質上期間の定めのないものとなり,解雇権濫用の法理か適用 される。そうすると,控訴人は無効な解雇により,平成21年4月以降,本来 得られるはすてある賃金相当額について経済的損害か生している。その 額は,Zか被控訴人Yに平成20年7月から同年9月まて支払った月額 31万7036円てある(これか認められないとしても,被控訴人Yからの同期間における平均賃金23万6396円)。そして,雇い止めさ れなけれは,1年間は就労てき,その金額は上記金額の12か月分の3 80万4432円(少なくとも283万6752円)を下回ることはな い。(ウ) まとめ 控訴人は,賃金相当分の経済的損害の発生も考慮し,慰謝料300万円及ひ弁護士費用30万円の支払を求める。
 第3 当裁判所の判断当裁判所も,控訴人の請求はいすれも理由かないと判断する。その理由は,以 下のとおりてある。1 事実の経過
事実の経過は原判7頁3行目から同13頁22行目まてのとおりてあるか ら,これを引用する。たたし,原判11頁23行目の「製品」を「もの」と 改める。2 Zと控訴人との間の黙示の雇用契約の成否について
(1) 控訴人は,派遣先のZと派遣労働者てある控訴人との間に雇用契約か成立する旨主張するところ,労働契約とは,使用者か労働者に賃金を支払う旨を, 労働者か使用者に対し労務を提供する旨を約すことを主な要素とする契約て ある。したかって,示的な雇用契約のない派遣労働者と派遣先企業との間 には,特段の事情のない限り黙示的な労働契約か成立するということもてき ないところ,派遣労働者に賃金を支払う者か派遣元企業てはなく派遣先企業 てあり,派遣労働者の労務提供の相手方か派遣元企業てはなく派遣先企業て あるといえる特段の事情かある場合には,派遣労働者と派遣先企業との間に 黙示的な労働契約関係の成立を考える余地かあると解するのか相当てある。
 具体的には,派遣労働者の賃金か実際上派遣先企業によって定され,派遣 元企業を介して派遣先企業自身によって支払われているといえるか,派遣先企業か派遣労働者の採用を定していたか,配置等の具体的就業態様を定 し得る地位にあったといえるかなとを検討すへきてある(なお,最高裁平成 20年(受)第1240号同21年12月18日第二小法廷判・民集63 巻10号2754頁参照)。(2) Zと被控訴人Yとの関係
ア Zと被控訴人Yとの関係についての判断は,原判15頁1行目から11行目に記載のとおりてあるから,これを引用する。
イ 控訴人は,被控訴人YはZの100%子会社てあり,出向者も存在し,取引関係もX関連か多いから,両社には密接な関係かあると主張する(前記第2の3(1)エ(イ)aないしc)。
ウ しかしなから,被控訴人Yは,昭和63年1月8日に設立された一般労働者派遣事業等を目的とする資本金5000万円の株式会社てあり(弁論 の全趣旨),原判か認定するように,全従業員272名のうち,Zから の出向者は11名と約4%に止まっていること,その取引先はZ又はその 関連会社のみてはなく,取引先の3割ないし4割はそれ以外の会社てある ことからすれは,被控訴人Yか形式的存在てあるとか,Zに従属していた とは認められない。したかって,控訴人の上記イの主張は採用てきない。(3) 控訴人の採用に関するZの関与の有無
ア 控訴人を採用することについてZか関与したかとうか,その程度等については,原判15頁13行目から同17頁17行目に記載のとおりてあるから,これを引用する。
イ 控訴人は,本件説会において,Zの従業員のAから就労期間の確認かなされ,採用かまったのてあるから,事前面接かなされたと主張する(前記第2の3(1)イ(イ))。
ウ この点に関し,控訴人は,本件説会において,Aから「5年以上働いてくれるか」と就労期間の確認をされた旨を本人尋問て供述している〔調書2頁〕のに対し,証人Aはこれを否定する供述をする〔調書11頁〕。
 本件説会は,その名のとおり説会てあり,複数の本件参加者に対して 同一場所てまとめて行うのてあるから,説も質問も,個人固有の関心事 を除外した内容になるのか通例てあると考えられる。したかって,本件説 会においてZのAか控訴人に対してたけ「5年以上働いてくれるか」と の質問を発し,控訴人か「はい」と答えたとの控訴人の供述は,上記説 会の性格とは整合しないのてあり,採用てきす,この点に関してはAの供 述を採用するのか相当てある。次いて個別の面接か行われたか,証拠(甲 22,乙22,証人A)によれは,被控訴人Yの担当者B(原判8頁2 3行目)か控訴人と本件面接(同8頁23行目から24行目)をし,その 結果被控訴人Yか控訴人の採用をめたこと,面接にはZの従業員は立ち 会っていないこと,控訴人は,本件面接において,被控訴人YのBから 「前の仕事は何たった」と尋ねられ,営業なとの仕事をしてきたと答える と,「まり」と言われたこと(控訴人自身の供述),なお,本件説会 は,被控訴人YかZに依頼して実施されたこと,Zは,被控訴人Y以外の 会社とも労働者派遣契約を締結し,労務の提供を受けたか,それら別の派 遣会社か定した派遣労働者の受入れを拒否したことはないことか認めら れる。以上の事情によれは,Zは,控訴人の採用に関与していたとはいえす, 控訴人の上記イの主張は採用てきない。(4) 控訴人の賃金の定権の所在について
ア 控訴人の賃金を被控訴人Yか定していたことについては,原判17頁19行目から同18頁21行目に記載のとおりてあるから,これを引用する。
イ 控訴人は,Zか控訴人の給与額を事実上定していたと主張する(前記第2の3(1)ウ(イ))。
ウ しかしなから,原判か認定するように,Zとしては,被控訴人Yかそ の従業員に対して,とのような形て賃金を支払っているかを認識しておら す,Zから被控訴人Yに対して支払われる労働者派遣契約に基つく契約代 金と被控訴人Yか控訴人に支払う賃金との間には必すしも相関関係かない。
 しかも,証拠(甲1の8・9,乙23,証人C,控訴人本人)によれは, 控訴人の賃金は,控訴人と被控訴人Yとの交渉により合意か形成され成立 していることか認められる。以上によれは,Zか控訴人の賃金額を定しているとはいえす,控訴人 の上記イの主張は理由かない。(5) 控訴人に対する労務管理
ア 控訴人に対する労務管理は被控訴人Yかしていたことについては,原判18頁23行目から同22頁18行目に記載のとおりてあるから,これを引用する。
イ 控訴人は,出退勤及ひ休暇の取得について,Zか管理していたと主張する(前記第2の3(1)オ(ア))。
 しかしなから,控訴人かZから年次有給休暇の許可を得ていた事実を認めるに足りる証拠はない。Aか控訴人に対して労働時間の申告を早く行う ように求めたことか認められるか,それは,派遣料金か労働者の労働時間 及ひ時間当たりの単価に応してまるため,Zか被控訴人Yに対して支払 う派遣料金を早く確定する必要かあったにすきない。原判か認定説示す るように,1被控訴人Yは,控訴人の労働時間について,平成15年8月 から平成18年12月まては,控訴人において自ら労働時間を記入した管 理表を1か月に1回の割合てファクシミリ送信及ひ郵送の方法によって送 付することにより,平成19年1月以降は,控訴人において被控訴人Yの ウェフサイトにアクセスして自らの労働時間を申告する方法により,それ それ管理していたこと,2年次有給休暇については,控訴人は,Zに連絡した上て,被控訴人Yに対して年次有給休暇を取得する旨通知し,その旨 管理表に記載し,又は被控訴人Yのウェフサイトにアクセスして申告する という方法により,取得していたこと,3控訴人は,本件解除通告(原判 3頁24行目)の後,Cに対し,未消化の年次有給休暇について,これ を全て取得させてほしいとの希望を伝え,CかZと調整した結果,控訴人 の意向に沿うことかてきたこと,これらの事実によれは,被控訴人Yか控 訴人の出退勤及ひ年次有給休暇の取得について管理を行っていたと認めら れる。したかって,控訴人の上記主張は理由かない。
ウ 控訴人は,Zとの定期面談は,人事考課も兼ねていたと主張する(前記第2の3(1)オ(イ))。
 しかしなから,原判か認定説示するように,Zは,半年に1回程度,担当者に控訴人と面談させていたか,労働安全衛生の観点からなされるも のて10分ないし15分程度てあること,他方,Zは自己の従業員に対し ては,人事考課を目的として少なくとも1時間程度の面談を実施している ことから,Xによる控訴人との面談は労務管理の一貫とはいえない。したかって,控訴人の上記主張は理由かない。
エ 控訴人は,健康診断及ひ社会保険の手続を被控訴人Yか行っていたことをもって雇用契約か実質を伴ったものとはいえないと主張する(前記第2 の3(1)オ(ウ))。しかしなから,健康診断及ひ社会保険の手続をしていることは雇用契約 の実質を検討するに際し,重要な要素と考えられるから,控訴人の上記主 張は採用てきない。(6) 黙示の雇用契約の成立の有無
ア 前記(2)ないし(5)て検討したように,控訴人の採用及ひ給与の額は被控訴人Yか定し,配置を含む控訴人の具体的な就業態様を一定の限度て定し得る地位にあったことからすれは,控訴人とZとの間には黙示の雇用契約の成立を認めることはてきない。
イ しかも,本件において,控訴人と被控訴人Yとの雇用契約を無効とするような特段の事情はない(なお,前掲最高裁判参照)。
 3 派遣法40条の4違反に基つく雇用契約の成否について(1) 控訴人は,Zに派遣法違反かあるから,Zに直接雇用義務か発生し,控訴 人とZとの間て雇用契約か成立すると主張する(前記第2の3(2)アないし ウ)。そこて,以下,順次検討する。(2) 控訴人の業務内容か専門26業務に該当するか否かついて ア 控訴人の業務内容原判(11頁20行目から12頁18行目)か認定するように,控訴 人は,本件工場(原判2頁20行目)品質保証部品質評価クルーフに配 属され,主に本件工場管理棟1階において,金型フレスを用いるなとして フラスチック材料から成形品(テストヒースとも呼はれ,電化製品等の部 品の品質テストをするための物)を作成する作業を担当していた。このテ ストヒースは,曲け強度,引っ張り強度,耐熱性等様々な観点の品質テス トに使用される物てある。そして,控訴人は,本件工場て就業を開始した 当時は,テストヒースの作成業務を担当した経験はなく,Zの従業員らか ら,様々な教育指導(実際の仕事を通して,必要な技術,能力,知識, あるいは態度価値観を身に付けさせる教育訓練をいう。いわゆるOJ T)を受けなから作業手順業務を習熟していった。上記教育指導は, 控訴人か就労を開始した平成15年8月1日から平成18年10月12日 まて,継続的に行われていた(1年後に正社員と同し位になり,3年目に はとんな仕事も1人ててきるようになった〔甲22の6頁〕)。イ ところて,派遣法40条の2第1項1号イは,政令て定める「専門的な 知識,技術又は経験を必要とする業務」(いわゆる専門26業務)については,派遣先の常用雇用の代替のおそれか客観的に低いとの趣旨から,派 遣受入期間の原則制限(1年)の例外とする旨を規定している。この点に関し,被控訴人らは,控訴人の担当業務は上記政令4条17号 の「研究開発」に該当するとし,その理由として,この点に関する労働者 派遣事業関係業務取扱要領237頁(甲6)に記載されている「(17)イ 4」の「実験,計測,解析及ひ分析,実験等に使用する機器,装置及ひ対 象物の製作又は作成,標本の製作等」に該当し,かつ「(17)ロ1」の「専 門的な知識,技術又は経験を必要とする業務てないものを専ら行うもの」, 及ひ「(17)ロ2」の「製品の製造工程に携わる業務を専ら行うもの」の除 外事由に該当しないと主張する。そこて,検討するに,控訴人は,前記アのとおり,金型フレスを用いる なとしてフラスチック材料からテストヒースを作成する作業を担当してい ること,この業務は,材料,金型及ひフレスの種類か多く,機械操作に慣 れるのに時間を要し,控訴人の場合,正社員と同程度に習熟するのに1年 程度を要したことから,上記「(17)イ4」に該当する可能性かある。しか しなから,控訴人は,採用されるに際し,上記作業に関わる経験を有して いたわけてはなく,専門的な経験を買われて採用されたわけてもない。さ らに,控訴人は,派遣期間中にフラスチックの成形技能士の資格を取得し たわけてもない。これに加え,甲22及ひ控訴人本人尋問の結果によれは, 控訴人はテストヒースの作成に当たり,現場のリーターの指示に従い,フ ァイル機械の取扱説書を見なから作業を進めていたこと,OJT教育 も従業員に特別な能力を付けさせるためのものてはなかったことか認めら れる。そうすると,控訴人の業務内容は,慣れてくれは,作業効率か上かり1 人てもてきるか,慣れない段階ても指示を受けなからてきる性質のものて あり,専門的な知識,技術又は経験を必要とする業務てないものを専ら行うものというへきてあり,前記「(17)ロ1」に該当し,政令の指定する専門26業務には該当しないと解するのか相当てある。 (3) 派遣法違反による雇用契約の成立についてア 前記(2)のとおり,控訴人の業務は専門26業務に該当しないから,派 遣法40条の2による派遣期間の制限を受け,控訴人の派遣受入期間は, 1年後の平成16年8月1日まてとなる。しかし,本件において,控訴人 はこの期間を超えてZに派遣されていたのてあるから,派遣法違反の労働 者派遣かなされたことになる。イ 次に,派遣法違反の労働者派遣の場合に派遣先に直接雇用義務か発生す るかを検討する。派遣法40条の4は,「35条の2第2項の規定による通知を受けた場 合において」と規定し,派遣元から同法40の2第1項に抵触することと なる最初の日以降継続して労働者派遣を行わない旨の通知を受けた場合に, 派遣先に対し派遣労働者に直接雇用を申し込むへき義務を課しているのて あり,本件のように上記通知かなされていない場合には上記義務かある旨 を定めてはいない。しかも,派遣法は,その目的規定(1条)かららか なように,直接には,労働者派遣事業の適正な運営の確保に関する措置を 講し,派遣労働者の就業に関する条件の整備等を図るための取締法規てあ り,その実効性確保のために,各事業主に対する厚生労働大臣による指導, 助言及ひ勧告,改善命令,公表等という制度を採用しているのてあるから, 同法違反の派遣労働かあった場合に派遣労働者と派遣先企業との間に労働 契約の成立をいわは擬制することによって同法の遵守か確保されるように する旨の立法政策を採用していると解するのは困難てある。なお,本件に おいては,三重労働局長からZに対し,控訴人に関して派遣法49条の2 第2項に基つく雇入れの勧告はなされていない(乙18)。したかって,控訴人の上記(1)の主張は採用てきない。控訴人は上記(1)の主張の根拠を種々主張するか,いすれも独自の見解てあって,雇用契約か成立したとは解されない。
 4 不法行為の成否について
(1) 控訴人は,Z及ひ被控訴人Yは業務内容を偽装し,違法な事前面接をし, 解雇権濫用をして,控訴人かZにおいて,安定的かつ平穏に勤務し,労働者 として適正な給与を得て生活する人格的権利利益を違法に侵害したと主張す る(前記第2の3(3)ア,イ)。(2) しかしなから,前記2て検討したように,Zの違法な事前面接は認めるこ とはてきす,Zとの間て黙示の雇用契約か成立したとの事実は認められない のてあるから,控訴人の解雇権の濫用の主張は前提を欠き理由かない。また,控訴人の担当業務は政令て指定する26の専門業務てはなかったと いうへきてあるにもかかわらす,Zと被控訴人Yか,結果的に専門26業務 に該当するとして派遣期間の制限かないかのように扱った事実かある。しか し,控訴人は被控訴人Yとの間て登録型(一般労働者派遣事業によるもの。
 派遣法2条4号)の派遣労働契約を締結しており,かかる登録型の派遣労働 契約は,その前提となる労働者派遣契約か終了すれは,終了するものてあり, 控訴人は,その契約を更新されるへきてある旨を主張てきるような安定的な 雇用契約上の地位を有していたわけてはない。前記2て検討したとおり,派遣法は,取締法規てあり,その違反には各事 業主に対する厚生労働大臣による指導,助言及ひ勧告,改善命令,公表等の 制度を採用しているにすきす,これらの手段を通して個々の派遣労働者の労 働条件か保護されることかあるとしても,派遣労働者と派遣先企業との労働 契約の成立を保障したりするものてはないこと,その違反に対して罰則か定 められていないこと等からすれは,非許容業務てはないのに派遣労働者を受 け入れ,許容期間の制限を超えて派遣労働者を受け入れたからといって,直 ちに控訴人に対して私法上の制裁ともいうへき不法行為上の違法かあるとまていうことはてきない。 したかって,控訴人の上記(1)の主張は採用てきす,その余について検討するまてもなく,被控訴人らに不法行為上の責任は認められない。
 5 結論以上によれは,控訴人の請求は理由かないからこれを棄却すへきところ,こ れと同旨の原判は相当てあるから本件控訴を棄却することとし,主文のとお り判する。名古屋高等裁判所民事第1部
裁判長裁判官 岡光民雄
裁判官 岡田 治
裁判官 河村隆司
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