平成24年3月29日判 名古屋高等裁判所 平成23年(ネ)第968号 貸金返還等請求控訴事件 (原審・名古屋地方裁判所平成22年(ワ)第8229号)主文
 1 本件控訴をいすれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
 事実及ひ理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 控訴人ら
(1) 原判を次のとおり変更する。
(2) 被控訴人Aは,控訴人Bに対し,147万4724円及ひこれに対する平成22年7月8日から支払済みまて年5分の割合による金員を支払え。(3) 被控訴人Cは,控訴人Bに対し,147万4724円及ひこれに対する平成22年7月8日から支払済みまて年5分の割合による金員を支払え。(4) 被控訴人Aは,控訴人Dに対し,200万円及ひこれに対する平成22年7月8日から支払済みまて年5分の割合による金員を支払え。
(5) 被控訴人Cは,控訴人Dに対し,200万円及ひこれに対する平成22年7月8日から支払済みまて年5分の割合による金員を支払え。
 (6) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。(7) 仮執行宣言
2 被控訴人ら 主文同旨
第2 事案の概要
1 本件は,1控訴人Bか,亡Eの葬儀費用等を支出したと主張して,亡Eの子てある被控訴人らに対し,不当利得返還請求権に基つき,それそれ91万54 50円及ひこれに対する催告期間経過後の平成22年7月8日から支払済みまて民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,2控訴人Bか,亡Eか 締結していた賃貸借契約の解約をし,原状回復費用として10万1588円を 支出したと主張して,被控訴人らに対し,事務管理に基つく費用償還請求権に 基つき,それそれ5万0794円及ひこれに対する催告期間経過後の平成22 年7月8日から支払済みまて民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払 を,3控訴人Bか,亡Eの債務を立替払いしたと主張して,被控訴人らに対し, それそれ8458円及ひこれに対する催告期間経過後の平成22年7月8日か ら支払済みまて民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,4控訴人 Bか,亡Eに対し,2回にわたって合計100万円を貸し付けたと主張して, 金銭消費貸借契約に基つき,被控訴人らに対し,それそれ50万円及ひこれに 対する催告期間経過後の平成22年7月8日から支払済みまて民法所定の年5 分の割合による遅延損害金の支払を,5控訴人Dか,亡Eに対し,400万円 を貸し付けたと主張して,金銭消費貸借契約に基つき,被控訴人らに対し,そ れそれ200万円及ひこれに対する催告期間経過後の平成22年7月8日から 支払済みまて民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案て ある。原審は,控訴人Bの請求のうち,上記2の事務管理に基つく費用償還請求権 及ひ上記3の立替金の返還請求権を認容し,その余を棄却し,控訴人Dの請求 を棄却したところ,控訴人らか控訴人ら敗訴部分を不服として,本件控訴に及 んた。したかって,当審における審理の対象は,上記1の不当利得返還請求権に基 つく請求,上記4,5の貸金返還請求権に基つく請求てあり,上記2の事務管 理に基つく費用償還請求及ひ上記3の立替金請求は当審の審理の対象とはなら ない。以下,略語は,特に断らない限り,原判の例による。
2 争いのない事実並ひに証拠及ひ弁論の全趣旨により容易に認められる事実(1) 亡E(昭和18年6月8日生)は,平成21年12月10日に死亡したか, その相続人は,長男てある被控訴人A(昭和43年11月16日生)及ひ二 男てある被控訴人C(昭和46年10月7日生)てあって,各自の法定相続 分は,それそれ2分の1てある(甲1の3)。控訴人B,控訴人D及ひ亡Eは兄弟てある(甲1の1,2)。
(2) 控訴人Bは,喪主として亡Eの葬儀等を主宰し,平成21年12月16日に通夜を,同月17日に葬儀,火葬及ひ初七日の法要を行った(甲11)。
 3 控訴人らの主張(1) 控訴人Bの被控訴人らに対する葬儀費用等の不当利得返還請求ア 控訴人Bは,葬儀費用等として,原判別紙費用目録1ないし8のとおり合計183万0900円を支出した。
イ(ア) 葬儀は,死者・被相続人の生活の清算,人生のヒリオトという意味合いを有するものてあるから,葬儀費用は,被相続人の相続財産・遺産に より負担されるへきてある。この点,民法の規定からしても,葬儀費用 は相続財産・遺産から支出されることか予定されている(民法306条, 309条)。したかって,亡Eの遺産を相続した被控訴人らか亡Eの葬儀 費用を負担すへきてある。なお,被控訴人らは,亡Eの遺族年金を受給 している。(イ) また,葬儀費用の負担者は相続人てあるとの見解に従っても,被控訴 人らか亡Eの葬儀費用を負担すへきものてある。(ウ) 葬儀費用の負担者は葬儀の主宰者てあるとする見解もあるか,この見 解によっても,死者か生前に自己の葬儀に関する債務を負担していた等 の特別の事情かある場合には,相続人か葬儀費用を負担すへきてあると されている。すなわち,生前に被相続人自らか自己の財産から葬儀に関 する費用を支出することを希望しており,その意思からかにされてい たとの事情かあった場合には,葬儀を主宰した者か,相続財産・遺産から同費用か捻出されるものてあると期待することは自然てあるからてあ る。本件において,亡Eは,控訴人Bに対して,自分か死亡した際には, 葬儀費用等は自らの年金から支出することかてきるため,控訴人らに迷 惑かかかることはないと常々述へていた。このため,控訴人Bは,亡E か死亡した際には,同人の相続財産から葬儀費用等か支払われるものと 認識していた。実際,亡Eは,平成21年10月ころに,同人の勤務先 てあるa株式会社の協同組合に加入しており,控訴人Bは,同人より年 金支払通知書と受給証書の提示を受けている(甲8の1,2)。かかる事 情からすれは,亡Eは,控訴人らに自らの葬儀費用及ひその他死亡に伴 う処理にかかる費用を負担させるのてはなく,自らの財産・遺産から同 費用を捻出して欲しいという強い意思を有していたものと考えられる。したかって,本件ては,まさに死者か生前に自己の葬儀に関する債務 を負担していた等の事情かあり,単純に葬儀の主宰者か同費用を負担す へきてない「特別な場合」に該当し,亡Eの葬祭費用は,相続債務とな り,同人の財産・遺産から葬儀費用か支出されるへきこととなる。ウ 祭祀の主宰者か亡Eの遺体・遺骨の処理に要した費用を負担するという 見解もあり得るか,慣習によれは,亡Eの祭祀の主宰者は亡Eの相続人て あるから,亡Eの相続人てある被控訴人らか祭祀の主宰者として上記費用 を負担すへきものてある。そして,上記費用とは,控訴人Bか亡Eの遺体の処理に要した費用てあ る別紙「遺体の処理の流れ及ひ要する費用」記載の合計59万2250円 てあるから,同費用は,祭祀主宰者てある被控訴人らか負担すへきてある。エ 控訴人Bは,被控訴人らに対し,平成22年6月11日付け書面(遅く とも同年6月末日まてに到達)て,上記葬儀費用等183万0900円を 同書面到達後7日以内に支払うよう催告した。(2) 控訴人Bの被控訴人らに対する亡Eに関する貸付金の返還請求ア 控訴人Bは,亡Eに対し,平成21年2月10日に50万円,同年3月 11日に50万円の計100万円を,いすれも期限の定めなく,貸し渡した。
イ 控訴人Bは,被控訴人らに対し,平成22年6月11日付け書面(遅くとも同年6月末日まてに到達)て,上記貸金を同書面到達後7日以内に支払うよう催告した。
(3) 控訴人Dの被控訴人らに対する亡Eに関する貸付金の返還請求ア 控訴人Dは,亡Eに対し,平成19年4月8日に400万円を,期限の 定めなく,貸し渡した。イ 控訴人Dは,被控訴人らに対し,平成22年6月11日付け書面(遅く とも同年6月末日まてに到達)て,上記貸金を同書面到達後7日以内に支 払うよう催告した。4 被控訴人Aの主張
(1) 控訴人らの主張(1)アは知らない。
同イ,ウは争う。被控訴人Aは,亡Eの預貯金の残高の範囲及ひ市町村か らの補助金を考慮して家族葬又は火葬のみをするとめていた。控訴人Bは, 被控訴人らの葬儀をする権利を侵害した上,世間相場より高額な請求をして いるものて不当てある。遺体を処理するのに必要な費用は,7万9750円 て,これから控訴人Bか公的補助費用として受領した5万円を控除すると, 2万9750円となる。(2) 控訴人らの主張(2)アは否認する。
(3) 控訴人らの主張(3)アは否認する。
 5 被控訴人Cの主張(1) 控訴人らの主張(1)アは知らない。 同イ,ウは争う。控訴人Bは,被控訴人らの了承なく,葬儀内容をめ,遂行したものて,被控訴人らかその費用を負担すへき根拠はない。葬儀を行 う必要最小限の費用は,死体検案書料5250円とb町の斎場フランの10 万7000円の計11万2250円にととまる。(2) 控訴人らの主張(2)アは否認する。
(3) 控訴人らの主張(3)アは否認する。
 第3 当裁判所の判断1 当裁判所も,控訴人Bの被控訴人らに対する葬儀費用等の不当利得返還請求, 控訴人Bの被控訴人らに対する亡Eに関する貸付金の返還請求及ひ控訴人Dの 被控訴人らに対する亡Eに関する貸付金の返還請求は,いすれも,理由かない ものと判断するか,その理由は,以下のとおりてある。2 控訴人Bの被控訴人らに対する葬儀費用等の不当利得返還請求について(1) 証拠(甲1の3,甲3の1~10,甲11,12,乙4)及ひ弁論の全趣旨によれは,次の事実か認められる。
ア 亡EとF(平成20年8月21日死亡)は,昭和42年3月23日に婚姻した夫婦てあり,その間に被控訴人らをもうけたか,昭和62年以前に, 亡Eは,F及ひ被控訴人らと別居し,以後,F及ひ被控訴人らと会うこと もなかった。イ 控訴人Bは,亡Eと普段から交流かあり,平成21年12月14日には, b町介護センターの職員から亡Eの様子かおかしいとの連絡を受けた。控訴人Bは,同日,亡Eのアハートに赴き,Eか死亡していることを確 認した。警察官及ひ医師による亡Eの死因の調査か行われた後,警察官か,控訴 人Bに,すくに葬儀場を手配して遺体を運ひ出してほしい旨告けた。そのため,控訴人Bは,株式会社c(c斎場)に連絡をし,遺体を運ひ 出す手配をし,医師に死亡診断書の作成をしてもらった。控訴人Bは,その後,c斎場との間て亡Eの葬儀につき契約をし(甲3の10),亡Eの通夜は,同月16日に,葬儀は同月17日に行われることになった。
ウ 控訴人Bは,Fに電話て連絡を取ろうとしたか,電話かつなからなかったため,控訴人DにFの住所地まて行ってもらうこととした。控訴人Dは, 同月15日,Fの自宅に行ったところ,近隣の人からFか死亡したことを 聞き,Fの自宅の玄関に控訴人Dの連絡先を記載した紙を貼って帰った。被控訴人Cは,同日午後9時30分ころ,上記張り紙を見て,控訴人D に電話をし,同控訴人から,亡Eか亡くなったこと,葬儀会場,集合時刻 の連絡を受けた。被控訴人Cは,同日午後9時50分ころ,被控訴人Aに電話をし,亡E か亡くなったことを伝え,葬儀に出席するか尋ねたところ,被控訴人Aは, 葬儀に出席する意思はない旨述へたのて,同日午後10時ころ,控訴人D に電話をし,被控訴人Aは葬儀会場に行かない旨を連絡した。エ 被控訴人Cか,同月16日午後3時30分ころ,葬儀会場に赴くと,控 訴人らから,亡Eの喪主をするよう要請されたか,被控訴人Cはこれを断 った。そこて,控訴人Bか亡Eの通夜,葬儀の喪主を務めた。
オ 控訴人Bは,亡Eの葬儀等につき,平成21年12月14日にdクリニ ックに対し,死体検案書作成費用として5250円(甲3の1)を,同月 17日に名古屋市に対し,火葬費用及ひ休憩室利用料として5万4500 円(甲3の2,3)を,同月19日にe寺に対し,お布施として25万円 (甲3の4)を,同月17日に株式会社cに対し,御供花代として2万1 00円(甲3の5)及ひお供物代として4万2000円(甲3の6~8) を,同月25日に株式会社cに対し,葬儀費用として72万3720円(た たし,ほかに,事前に控訴人Bか会費として支払っている48万円か葬儀費用に充当されている。甲3の9,10)をそれそれ支払っている。(2) ところて,葬儀費用とは,死者の追悼儀式に要する費用及ひ埋葬等の行為 に要する費用(死体の検案に要する費用,死亡届に要する費用,死体の運搬 に要する費用及ひ火葬に要する費用等)と解されるか,亡くなった者か予め 自らの葬儀に関する契約を締結するなとしておらす,かつ,亡くなった者の 相続人関係者の間て葬儀費用の負担についての合意かない場合においては, 追悼儀式に要する費用については同儀式を主宰した者,すなわち,自己の責 任と計算において,同儀式を準備し,手配等して挙行した者か負担し,埋葬 等の行為に要する費用については亡くなった者の祭祀承継者か負担するもの と解するのか相当てある。なせならは,亡くなった者か予め自らの葬儀に関する契約を締結するなと しておらす,かつ,亡くなった者の相続人関係者の間て葬儀費用の負担に ついての合意かない場合においては,追悼儀式を行うか否か,同儀式を行う にしても,同儀式の規模をとの程度にし,とれたけの費用をかけるかについ ては,もっはら同儀式の主宰者かその責任において定し,実施するものて あるから,同儀式を主宰する者か同費用を負担するのか相当てあり,他方, 遺骸又は遺骨の所有権は,民法897条に従って慣習上,死者の祭祀を主宰 すへき者に帰属するものと解される(最高裁平成元年7月18日第三小法廷 判・家裁月報41巻10号128頁参照)のて,その管理,処分に要する 費用も祭祀を主宰すへき者か負担すへきものと解するのか相当てあるからて ある。これを本件についてみるに,上記(1)の認定事実からすると,亡Eは予め自 らの葬儀に関する契約を締結するなとしておらす,かつ,亡Eの相続人てあ る被控訴人ら関係者てある控訴人らの間て,葬儀費用の負担についての合 意かない状況において,控訴人Bか,亡Eの追悼儀式を手配し,その規模を め,喪主も務めたのてあるから,控訴人Bか亡Eの追悼儀式の主宰者てあ ったと認められ,控訴人Bか亡Eの追悼儀式の費用を負担すへきものというへきてある。
 他方,亡Eの遺骸,遺骨の埋葬等の行為に要する費用については,亡Eの祭祀を主宰すへき者か負担すへきものてあるか,亡Eの祭祀を主宰すへき者 については,亡Eにおいてこれを指定していた事実は認められないから,民 法897条1項本文により,慣習に従って定められるへきものてあるか,亡 Eには被控訴人らという二人の子かあるものの,上記(1)て認定したとおり, 20年以上も親子の交渉か途絶えていた状況てある一方(なお,亡Eの長男 てある被控訴人Aは,亡Eの葬儀にも出席しなかった。),兄弟てある控訴人 らとの間に比較的密な交流かあった事情か認められることも考慮すると,亡 Eの祭祀を主宰すへき者を亡Eの子てある被控訴人ら又はそのいすれかとす ることか慣習上白てあると断することはてきす,結局,本件における証拠 をもってしては,亡Eの祭祀を主宰すへき者を誰にすへきかに関する慣習は らかてないというほかない。そうすると,家庭裁判所て,同条2項に従っ て,亡Eの祭祀承継者か定められない限り,亡Eの遺骸等の埋葬等の行為に 要する費用を負担すへき者か定まらないといわさるを得ない。したかって,控訴人Bか被控訴人らに対し,葬儀費用を請求する法的根拠 はないというへきてあり,これに反する控訴人らの主張はいすれも採用てき ない。(3) この点に関し,控訴人Bは,葬儀費用は相続財産・遺産から支出されるこ とか予定されている(民法306条,309条)から,亡Eの遺産を相続し た被控訴人らか亡Eの葬儀費用を負担すへきてあると主張する。しかし,民法306条,309条は,葬儀の費用か先取特権になる旨を規 定したものにすきす,誰か葬儀の費用を負担すへきかを定める規定てはない から,控訴人Bの同主張は採用てきない。また,控訴人Bは,亡Eの相続人てある被控訴人らか,葬儀費用を負担す へきてあると主張する。しかし,葬儀費用は,相続開始後に生した債務てあるから,相続人てある からといって,たたちに葬儀費用を負担すへきものとは解されす,控訴人B の同主張は採用てきない。なお,控訴人Bは,亡Eは,控訴人Bに対して,自分か死亡した際には, 葬儀費用等は自らの年金から支出することかてきるため,控訴人らに迷惑か かかることはないと常々述へていたと主張する。しかし,控訴人Bか亡Eより年金支払通知書と受給証書の提示を受けてい た(甲8の1,2)としても,同事実を推認しうるものとは言い難く,他に, 同事実を認めるに足りる的確な証拠はない。したかって,控訴人Bの同主張 は採用てきない。3 控訴人B及ひ控訴人Dの被控訴人らに対する亡Eに関する貸付金の返還請求 について控訴人らの主張(2)アの事実及ひ(3)アの事実は,これを認めるに足りる証拠 はない。この点に関する当裁判所の説示は,原判7頁11行目の「確かに」から同 17行目末尾に記載のとおりてあるから,これを引用する。4 以上のとおりてあるから,控訴人Bの葬儀費用等の不当利得返還請求,控訴 人B及ひ控訴人Dの貸付金返還請求は,いすれも理由かなく,これを棄却すへ きてある。第4 結論 よって,原判は相当てあって,本件控訴はいすれも理由かないから,これを棄却することとし,主文のとおり判する。
名古屋高等裁判所民事第3部
裁判長裁判官 長 門 栄 吉
裁判官 内 田 計 一
裁判官中丸 隆
※ 原判別紙「費用目録」 ・・・参考添付 別紙「遺体の処理の流れ及ひ要する費用」・・・添付省略
判例本文 判例別紙1

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