主文
 1 原判を次のとおり変更する。
(1) 被控訴人は,控訴人に対し,231万円を支払え。
(2) 控訴人のその余の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,第一,二審を通してこれを15分し,その1を被控訴人の負担とし,その余は控訴人の負担とする。
 事実及ひ理由
第1 控訴の趣旨
1 原判を取り消す。
2 被控訴人は,控訴人に対し,3494万3877円を支払え。
 3 訴訟費用は,第一,二審とも被控訴人の負担とする。第2 事案の概要(略称は,特記しない限り,原判に従う。)
1 Aは,広島家庭裁判所福山支部において,控訴人の成年後見人に選任され たか,その在任期間中に,控訴人の預金から3794万3877円を横領した。
 本件は,控訴人か,Aに知的障害かあって財産管理能力かなかったから,家事審判官のAに対する成年後見人の選任,その後の後見監督なとに違法か あったなととして,また,人権擁護委員に委嘱されていたBか家庭裁判所調 査官にAの知的障害を告知しなかったことに違法かあったとして,国家賠償 法1条1項に基つき,被控訴人に対し,損害金3794万3877円の支払 を求めるのに対し,被控訴人か控訴人の請求を争う事案てある。原判は,控訴人の請求を棄却したのて,控訴人か控訴をした。なお,控 訴人は,当審において,A等から300万円の弁済を受けたとして,上記第 1の2のように請求を減縮した。2 前提事実は,原判の「事実及ひ理由」欄の「第2 事案の概要」の1項 (原判2頁11行目から同5頁20行目まて。たたし,同4頁1行目の「4803万円」を「4803万」と改める。)に,争点及ひ争点についての当 事者の主張は,後記3に当事者の当審における主張を付加するほかは,原判 の「事実及ひ理由」欄の「第2 事案の概要」の2項(原判5頁21行 目から同13頁23行目まて)に記載のとおりてあるから,これらを引用す る。3 当事者の当審における主張 (控訴人)
(1) Aを成年後見人に選任したことの違法
ア 家事審判官は,控訴人の受け取る保険金か数千万てあることを認識していたから,Aに対する適格性の審査を慎重にすへきてあった。そのよ うな審査をしていれは,他人の財産を管理する能力かないAを控訴人の 成年後見人に選任することはなかったはすてある。ところか,家事審判 官は,その裁量権を逸脱,濫用し,Aを控訴人の成年後見人に選任した のてあるから,この選任は違法てある。イ 担当の家庭裁判所調査官(以下「担当調査官」という。)は,Aに対 し,成年後見人の役割及ひ任務について十分な説をしなかった。これ か行われていれは,控訴人の損害の拡大を阻止てきた。(2) 後見監督の違法
ア 第1回後見監督について
担当調査官は,Aの面接調査において,Aか保険金入金後4か月足ら すのうちに470万円を払い戻していたことを確認し,これに対するA の説は,預金の払戻状況と整合しない不自然なものてあった。そうす ると,担当調査官は,Aの知的障害を疑い,少なくとも3か月程度先に Aか手持金の管理を改めているかを確認すへきてあった。しかし,担当 調査官は,上記調査を怠り,その次の後見監督事件の立件を1年後と設 定したものてあるから,その裁量権を逸脱,濫用した違法かある。イ 第2回後見監督について 担当調査官は,Aの面接調査により,多額の使途不金かあることを発見し,このまま放置しては,被後見人の財産か更に減少する危険かあ るとして,早急に手続を進める必要かあると考えたにもかかわらす,不 十分な対処方針を立案したにすきす,その後のAらの横領を防くことか てきなかったのてあるから,裁量権を逸脱,濫用した違法かある。(3) 最高裁判所の組織的な違法について 最高裁判所は,全国の成年後見制度の運用状態を把握てきたのてあるか ら,成年後見人の選任とその監督,被後見人の所有する金銭の不正使用 をチェックする仕組みなとを全国的に指導ないしは制度化すへきてあっ たか,これを怠った。そのため,本件の横領か発生したものてある。(被控訴人)
(1) 担当調査官の職務上の注意義務は,家庭裁判所内部のものに止まり,被後見人に対して負うものてはない。また,家事審判官の職務行為に国家 賠償法1条1項の違法か認められるためには,家事審判官か,違法,不当 な目的をもって裁判をしたなと,その付与された権限の趣旨に背いてこれ を行使したと認められるような特別の事情か必要てあるか,そのような事 情はない。(2) Aを成年後見人に選任したことの違法について
ア Aを成年後見人に選任したことについて,担当調査官の調査及ひ家事審判官の審判に違法な点はない。
 担当調査官は,Aか成年後見人候補者として申し立てられたから,Aを調査し,適任と判断し,その旨の意見を提出したのてある。その際, Aから様々な事項を聴取したか,その会話からAに知的障害かあること まては認識てきなかった。また,申立書の一部かA以外の者によって記 載されていたか,実務上,そのようなことは珍しいことてはない。イ Aは,成年後見人の職務を理解しており,担当調査官からもその役割 及ひ任務について説を受けていた。仮に説に問題かあったとしても, そのこととAの横領との間に相当因果関係はない。(3) 後見監督の違法について ア 第1回後見監督について
成年後見人には,本人の財産を管理する包括的な権限か付与されてお り,その財産管理の方法は後見人か裁量的にめるへき事項てある。担 当調査官は,Aに現金管理の方法を指導し,預金を被後見人(控訴人) 名義の口座に移し替えるよう指導したところ,Aか直ちに指導に従った。
 そこて,担当調査官は,次回の後見監督事件の立件時期を1年後とする 意見を提出したのてあるから,裁量権の逸脱,濫用はない。また,家事審判官は,Aの不正行為を疑うへき状況かなかったのて, 更に追及的な補充調査を命しなかったのてある。イ 第2回後見監督について 担当調査官か報告書に記載した今後の方針は,対処方法として適切てあり,裁量権の逸脱,濫用はない。
(4) 控訴人は,平成23年**月**日,C及ひAとの間において,AのCに対する400万円の損害賠償債権を,Aか控訴人に負担する損害賠償 義務のうち,400万円の代物弁済として控訴人に譲渡する旨の和解を成 立させたから,控訴人の損害の一部は回復された。第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は,控訴人の請求は,被控訴人に対し,231万円を控訴人に支払うよう求める限度て理由かあり,その余の請求は理由かないものと判断する。その理由は以下のとおりてある。
 2 本件紛争に至る経緯
前記前提事実,証拠(甲2,11,21ないし49及ひ関係箇所に掲記の各証拠)及ひ弁論の全趣旨を総合すれは,本件紛争に至る経緯として,次のとおりの事実か認められる。
(1) Aらの知的障害(甲13,16,20)
ア Aは,昭和44年**月**日,Dの子(女性)として出生したか, 幼少のころから精神の発達か遅れ,昭和52年**月,軽度精神薄弱(I Q65,精神年齢5歳2か月)と判定され,障害程度Bの療育手帳の交 付を受け,小中学校を障害児学級て学ひ,卒業後は,Dか勤務していた **工場て働くとともに,定時制の高等学校に通学し,途中通信制の高 等学校に転校した。Aは,上記**会社に約7年間勤めたか,その後, **て品物の出し入れなとのアルハイトをし,その間の,平成5年ころ, 両親(Dと養父)の元から独立し,異父弟妹と同居し,自身の収入障 害者年金のほか,弟妹らの収入,交際相手の男性(C)からの援助等に よって生計を立てていたか,平成16年**月,中等度精神遅滞(IQ 47,精神年齢8歳4か月)と判定され,障害程度Bの療育手帳か交付 された。Aは,限られた範囲内なら日常会話をすることかてきるか,込み入っ た話は難しく,簡単な読み書き(ほとんとひらかなの文章しか作成てき ない。)簡単な金銭の計算ある程度の抽象的思考はてき,職業生活 も何とか可能てあり,ATMを操作して預金を引き出したり,銀行の窓 口て預金を下ろすことはてきるものの,その知的能力は小学3年生ない し4年生程度てしかなかった。また,後記刑事裁判の精神鑑定における 検査(平成20年**月**日)ても,IQ46,中程度の精神遅滞と 鑑定されている。イ Dも,平成16年**月,中等度精神遅滞(IQ40,精神年齢7歳 2か月)と判定され,障害程度Bの療育手帳の交付を受け,社会との適 応能力はAより劣っていたか,夫と市営住宅に居住し,障害者年金生活保護を受けて生活し,Aとは頻繁に交流を持っていた。
 (2) 控訴人の受傷とその後の経過ア 控訴人は,Dの弟(Aの叔父)てあるか,平成13年**月**日, 交通事故に遭って脳挫傷等の傷害を負い,意識障害,四肢麻痺等の後遺 障害か残り,転院を重ねた後,平成16年**月**日,社会福祉法人 **身体障害者療護施設**ホームに入所し,脳血管障害による体幹機 能障害1級の認定を受けた。控訴人は,いわゆる植物状態に陥り,他の 者との意思疎通か不可能となった。イ D及ひその家族は,控訴人と親戚付き合いをしていたところ,Dと控 訴人は,入院中の控訴人を定期的に見舞い,おしめ,ハシャマなとを購 入し,その費用を交通事故の相手方か加入する保険会社(E損保)に請 求するなとしていた。なお,控訴人には,妻子はいないか,Dのほか2 人の兄弟姉妹かいた。ウ E損保は,控訴人の入院費等を負担していたところ,控訴人と和解を して保険金を支払いたいと考えたか,控訴人に意思能力かないため,平 成15年ころ,上記イの費用請求手続を担っていたD及ひAに話を持ち かけ,Aかこれに対応することとなった。しかし,Aは,込み入った話 はてきないため,Aの定時制高校時代の担任教諭の妻てあるBに相談し, Bか話合いの場に関わることもあった。Bは,町会議員になったことも あり,Aらの療育手帳の再交付申請手続も手伝っており,また,平成9 年**月**日から平成15年**月**日まてと平成16年**月* *日以降,人権擁護委員に委嘱されていた。(3) Aを控訴人の成年後見人に選任
ア Aは,E損保から,和解契約の締結及ひこれに基つき支払われる保険金の受領のため,控訴人に成年後見人を付す必要かあると促されたのて, Bの助力を得て,必要書類を集め,平成15年**月**日,広島家庭裁判所福山支部に対し,自己を後見人候補者として控訴人の成年後見開 始の申立てをした。Aは,後見開始申立書の申立人欄,本人欄及ひ成年 後見人候補者欄等には自ら記載したか,申立ての実情欄については,記 載すへき内容をまとめたり,それを表現することか困難てあったため, Bに依頼して記載してもらった(甲12)。イ 上記後見開始申立事件の担当家事審判官(F)は,G調査官に対し, 調査命令(包括調査)を発した。G調査官は,平成15年**月**日,A及ひDに対して面接調査を 行い,控訴人の心身の状況,E損保から多額の保険金か入金される予定 てあること,控訴人にはDの外,姉Hと兄かいるか,兄は知的障害者更 生施設に入所中てあること,控訴人の姉てあるDを後見人候補者とすへ きところ,Dは健康かすくれないため,Aか候補者となったこと,Aは, 定時制の高等学校を経て,**会社に7年間勤め,現在は**て商品の 出し入れの仕事をしており,控訴人とは従前から親戚付き合いかあり, 事故後は,Dと共に週1回病院に行って面会していることなとを聴取し た。G調査官は,上記面接調査の後,控訴人との面接,戸籍照会,医師へ の照会等必要な調査をするとともに,控訴人の姉のHに照会書を発送し たか,回答かなかったため,平成16年**月**日ころ,担当家事審 判官(F)に対し,控訴人につき後見を開始し,Aを成年後見人に選任 し,また,多額の保険金か入金される予定てあるから,後見監督区分は B(定期的に調査,調整又は指導を行う必要かあるもの)として,第1 回後見監督事件の立件を1年後の平成17年**月ころとするのか相当 てある旨の調査報告書(甲3)を提出した。なお,G調査官は,Aか療 育手帳の交付を受けている知的障害者てあることに気付かなかった。担当家事審判官(F)は,平成16年**月**日,上記調査報告に基つき,控訴人について成年後見を開始するとともに,その成年後見人 としてAを選任する旨の審判をし,その審判は平成16年**月**日 に確定した。また,担当家事審判官(F)は,G調査官の上記意見のと おりの後見監督処理をした。(4) Aの保険金受領とその管理の開始
ア Aは,交通事故の相手方との間て和解契約を締結し,保険金受領のため,平成16年**月,**銀行**支店にA名義の預金口座(以下「A 預金口座」という。)を開設したところ,同年**月**日,E損保か ら,A預金口座に,上記和解契約に基つき,保険金4770万円か入金 された。イ Aは,成年後見人は被後見人の財産を管理するものて,被後見人の財 産を私的に使用してはならないことを認識していたか,保険金か入金か されると,Dと共謀して,これの一部を払い戻し,私的に使用すること を繰り返した。(5) 第1回後見監督
ア 担当家事審判官(F)は,平成17年**月,第1回の後見監督事件を立件し,同月**日,I調査官に対し,調査命令(包括調査)を発した。
イ I調査官は,後見事務財産管理の状況について調査するため,同年**月**日,A預金口座の通帳領収書を提示させて,A(Dも同席) に対する面接調査を行ったところ,出納帳等かなく,一部保存している 領収書も整理されていないため,支出の内訳か判然としない上,A預金 口座に4770万円の保険金か入金され,その後高度障害保障として3 3万1500円か入金されたか,保険金入金から約4か月の間に470 万円もの金員か払い戻されていて,その残高か4333万0768円と なっていたのを発見した。そこて,I調査官は,Aに対し,上記事情を尋ねたところ,Aは,上記(4)イの私的使用の事実を隠蔽するため,毎月 必要な支出の合計額か25万円程度てあり,70万円はヘットの購入な と施設入所に際しての臨時の出費等に費消したか,急な出費に備えて, 常時手元に現金て300万円を管理しているとの虚偽の説をした。な お,控訴人の必要経費は,定期的に給付される高度障害補償金て賄うこ とかてき,保険金を使用する必要性は存しなかった。I調査官は,上記 説を信し,Aに対し,現状とおり現金を管理するのてあれは出納帳に 記載するようにし,手元に現金を置かす毎月必要な定額を払い戻し,臨 時の出費かあれは別途その額を払い戻すのてあれは,通帳に費目を記載 するよう,また,控訴人の預金全額をA名義の預金口座から被後見人て ある控訴人名義の口座に移し替えるよう指導した。Aは,上記指導に従 い,同日,株式会社**銀行**支店に「控訴人後見人A」名義の普通 預金口座(本件預金口座)を開設し,4333万0768円を同預金口 座に入金し,その通帳印鑑,キャッシュカートは,AかDに預けるな として保管した。I調査官は,同日,上記預金の預け替えか行われたことを確認したの て,Aらの横領について疑いを抱くことなく,同月**日ころ,担当家 事審判官(F)に対し,当面は,収支の確認を中心とした監督を継続し ていくことか必要てあるとし,監督区分はBのまま,次回は約1年後の 平成18年**月に立件するのを相当とする旨の意見を付けて,調査報 告書(甲4)を提出した。ウ 担当家事審判官(F)は,I調査官の上記意見と同様の処理をするこ ととして,第1回の後見監督を終了した。(6) 第1回後見監督後のAらの横領の反復
ア A及ひDは,第1回の後見監督において,控訴人の預金の私的使用か発覚しなかったことに安心し,上記面接の2日後の平成17年**月**日,本件預金口座から30万円を払い戻して,これを私的に費消し, その後,自らないしは情を知らない妹のJに依頼して,本件預金口座か ら,以下のとおり金員を払い戻し,生活費,飲食費,遊興費,さらに は交際する男性(C)のために物品を購入するなとして費消し,その額 は,平成17年**月初めから同年**月末まての7か月間たけて11 20万円にまて達した。平成17年**月,3回に分けて100万円 同年**月,3回に分けて120万円 同年**月,3回に分けて110万円 同年**月,4回に分けて180万円 同年**月,5回に分けて200万円 同年**月,3回に分けて120万円 同年**月,5回に分けて290万円イ Aは,Dと共謀し,平成17年**月,会社の同僚に頼まれて,本件 預金口座の金員から280万円を貸与することにし,さらに,交際男性 (C)の家の工事代金の支払同僚の結婚祝にテレヒを購入するなとし て,同月に5回に分けて合計570万円を払い戻し,これらを着服した。ウ Aは,Dと共謀し,平成17年**月,自宅用にテレヒを1台,母親 の自宅用にテレヒを2台購入し,また,交際男性(C)にテレヒ等を贈 与することにしてテレヒを3台とテシタルカメラ1台なとを購入し(代 金合計250万6900円),そのためなとて,本件預金口座から同年**月は4回に分けて1000万円
同年**月は3回に分けて 330万円 平成18年**月は2回に分けて 150万円を払い戻し,これらを着服した。
 また,同年**月**日,本件預金口座から100万円を払い戻し,ソファを購入するなとした。
エ Aは,同年**月**日ころ,テレヒて銀行預金のヘイオフのことを聞き,本件預金口座に300万円を残して,865万3877円を払い 戻し,両備信用組合にA名義の口座を設け,うち700万円を預け入れ, 残りの現金をDと共謀して着服した。Aは,Dと共謀して,同日,本件預金口座から10万円を引き下ろし, 同年**月**日に88万円を払い戻し,自己の指輪の購入代金等に充 てた。オ A及ひDの上記横領の詳細は,別紙一覧表記載のとおりてある。
 (7) 第2回後見監督と横領の発覚ア 担当家事審判官(F)は,平成18年**月ころ,第2回の後見監督 事件を立件し,同月**日,I調査官に対し,調査命令(包括調査)を 発した。イ I調査官は,同年**月**日(Dか同席)及ひ同月**日(Bか同 席),Aに対し,本件預金口座の通帳等領収書を提示させて,面接調 査を行い,預金残高等について確認したところ,第1回後見監督の際に 預金約4333万円と現金300万円の約4633万円か存することに なっていたか,預金1075万7069円しか見当たらす,1年間て約 3559万円か減少し,その後に入金された高度障害補償金と必要生活 費を合わせ考えると,3614万2196円の費消に理由かなく,これ に対し,Aは,その使途等について,わからないなとと述へてほとんと 答えられす,その全部か使途不金となっていることを確認した。I調査官は,Aに対し,勝手に使ったら警察に捕まると注意するともに, 控訴人の口座に戻すへき財産かあれは,早急に振り込んておくこと,支 出の使途の資料を準備するよう指示した。ウ Aは,上記調査により,不安恐怖心を抱き,同年**月**日,同僚に貸し付けていた金員のうち100万円の返金を受けて,本件預金口座へ入金し,同月**日ころ,その写しをI調査官に送付した。
エ I調査官は,同月**日ころ,担当家事審判官(F)に対し,調査報 告書(甲5)を提出し,3600万円を超える使途不金かあり,その 使途を説てきないことから,これらかAらによって私的に費消された と考えさるを得ないとして,A(必要に応してD)に対する審問をして 使途不金を確定し,第三者(弁護士)を新たに後見人に加えて財産管 理を任せ,Aの権限を身上監護にととめ,Aとの間て返済についての取 りめを行うのか相当てあり,このまま放置しておけは,被後見人の財 産か際限なく減少する危険かあるため,早急に手続を進める必要かあると報告した。
(8) 横領発覚後のAらの横領の反復
ア Aらは,I調査官から勝手に使ったら警察に捕まると言われたのて, 不安恐怖心を抱き,控訴人の預金を払い戻して着服することを止めた か,上記面接調査から約1か月半経過しても,家庭裁判所から何の指示 もないのて,再ひ,以下のとおり,控訴人の預金から金員を払い戻して これを着服することを繰り返した。その合計額は231万円となる。詳 細は,別紙一覧表記載のとおりてある。平成18年**月**日 50万円 **月**日 20万円
**日 3万円
**日 2万円
**月**日 20万円 **日 20万円 **月**日 50万円 **日 10万円**日 5万円 **日 6万円 **日 5万円
**月**日 10万円 **日 10万円 **日 10万円 **日 10万円イ 担当家事審判官は,第2回後見監督の調査報告書か提出されてから約 4か月後の平成18年**月**日,K弁護士(現在の後見人)を控訴 人の二人目の成年後見人として選任する審判をした。K弁護士は,同日,A宛に本件預金口座等の通帳印鑑の交付を求め る書面を送付したか,Aは,これに応せす,上記アのとおり,その後も, 控訴人の預金口座から金員を払い戻してこれを着服することを続けた。
 そこて,K弁護士は,金融機関に対し,控訴人の預金の支払を停止する よう依頼し,同年**月**日ころまてに上記措置かとられた結果,A らは,控訴人の預金口座から金員を払い戻してこれを着服することかて きなくなった。ウ 担当家事審判官(L)は,第2回後見監督の調査報告書か提出されて から約7か月後の平成18年**月**日,Aは本件預金口座を管理し ていたところ,平成17年**月**日から平成18年**月**日ま ての間に上記口座から4263万6922円か払い戻され,そのうち3 000万円以上の使途不金か生しているか,その使途について合理的 な説をすることかてきないから,後見の任務に適しない事由かあるこ とからかてあるとして,Aを控訴人の成年後見人から解任する旨の審 判をした(甲6)。(9) Aらに対する刑事事件と本件訴えの提起
ア 広島家庭裁判所は,平成18年**月下旬ころ,Aを業務上横領によ り告発し,Aに対する捜査か開始された。Aは,平成18年から平成1 9年にかけて,業務上横領の罪により広島地方裁判所福山支部に公訴提 起され,同裁判所は,平成21年**月**日,Aを懲役1年10月の, Dを懲役1年8月執行猶予3年の各刑に処するとの有罪判を言い渡 し,A及ひDはこれに控訴したか,広島高等裁判所は,平成21年** 月**日,原判を破棄した上,Aを懲役1年8月の,Dを懲役1年6 月執行猶予3年の各刑に処するとの有罪判を言い渡し,この判は確 定した(甲9,10)。上記刑事判によると,Aは,Dと共謀して,別紙一覧表のとおり平 成17年**月**日から平成18年**月**日まての1年6か月 の間に,74回にわたって,本件預金口座から現金合計3629万円を 引き出し,また,平成18年**月**日,本件預金口座から他の金融 機関に預け替えるため引き出した865万3877円のうち165万 3877円を着服し,もって合計3794万3877円を横領したと認 定され,Aは,別紙一覧表21ないし59記載の犯行及ひ165万38 77円を着服当時,躁状態及ひ知的障害のため心神耗弱状態にあり,D は上記各犯行当時,知的障害のため心神耗弱状態にあったと判断され た。イ 控訴人の成年後見人てあるK弁護士は,平成21年**月**日,控 訴人を代理して,被控訴人に対し,刑事判て横領と認定された額てあ る3794万3877円の損害賠償を求めて,本件訴えを提起した。3 争点に対する判断
(1) Aを控訴人の成年後見人に選任したこと及ひその後見監督についてア 控訴人は,控訴人の成年後見人てあるAか,平成17年**月**日 から平成18年**月**日まての約1年6か月の間に,74回にわたって,被後見人てある控訴人の本件預金口座等から現金合計3629万 円を引き出し,また,平成18年**月**日,本件預金口座から他の 金融機関に預け替えるため引き出した865万3877円のうち165 万3877円を着服し,もって合計3794万3877円を横領したこ とについて,担当家事審判官かAを控訴人の成年後見人に選任したこと, その後のAに対する後見監督に違法かあり,担当調査官及ひ担当家事審 判官に故意,過失もあるとして,被控訴人に対し,国家賠償を求める。イ ところて,成年後見の制度(法定後見)は,家庭裁判所か,判断能力 (事理弁識能力)の不十分な者を保護するため,審判によって,その成 年後見人を選任する制度てある。成年後見人は,被後見人の財産管理等 を行うものてあるか,そのため,被後見人の財産について,財産管理権 とその財産に関する法律行為について被後見人を代表する権限(民法8 59条1項)か与えられている。被後見人と成年後見人の関係は委任の 一形態と考えられるのて,成年後見人は,これらの権限の行使について, 被後見人に対し,善良な管理者としての注意義務を負い,この注意義務 に反して,被後見人の財産を横領する等の不正行為を行った場合は,被 後見人に対し,損害賠償義務を負うものてある。他方,家庭裁判所は, 選任した成年後見人の職務を監督することかてきるか,これは,成年後 見人の権限か広範てあるため,いったん不正行為か行われたときは,被 後見人に回復し難い損害か発生するおそれかあるのて,家庭裁判所に, 一定の範囲て,成年後見人による後見事務か適正に行われているかとう かを確認することを可能にしたものというへきてある。上記成年後見の制度(法定後見)の趣旨,目的,後見監督の性質に照 らせは,成年後見人か被後見人の財産を横領した場合に,成年後見人の 被後見人に対する損害賠償責任とは別に,家庭裁判所か被後見人に対し 国家賠償責任を負う場合,すなわち,家事審判官の成年後見人の選任後見監督か被害を受けた被後見人との関係て国家賠償法1条1項の適用 上違法となるのは,具体的事情の下において,家事審判官に与えられた 権限か逸脱されて著しく合理性を欠くと認められる場合に限られるとい うへきてある。そうすると,家事審判官の成年後見人の選任その後見 監督に何らかの不備かあったというたけては足りす,家事審判官か,そ の選任の際に,成年後見人か被後見人の財産を横領することを認識して いたか,又は成年後見人か被後見人の財産を横領することを容易に認識 し得たにもかかわらす,その者を成年後見人に選任したとか,成年後見 人か横領行為を行っていることを認識していたか,横領行為を行ってい ることを容易に認識し得たにもかかわらす,更なる被害の発生を防止し なかった場合なとに限られるというへきてある。なお,被控訴人は,裁判官の独立上訴制度による是正制度の存在に 照らし,裁判官の職務行為に国家賠償法1条1項の違法か認められるた めには,当該裁判官か違法又は不当な目的をもって裁判をしたなとその 付与された権限の趣旨にらかに背いてこれを行使したものと認められ るような「特別の事情」か必要てあると主張するか,上記法理は,裁判 官か行う争訟の裁判について適用されるものてあるところ,家事審判官 か職権て行う成年後見人の選任その後見監督は,審判の形式をもって 行われるものの,その性質は後見的な立場から行う行政作用に類するも のてあって,争訟の裁判とは性質を異にするものてあるから,上記主張 は採用することかてきない。ウ そこて,上記観点に立って,控訴人の主張を検討する。
 (ア) Aを控訴人の成年後見人に選任したことについて広島家庭裁判所福山支部の担当調査官(G調査官)担当家事審判 官(F)か,Aを控訴人の成年後見人に選任した際,Aか控訴人の財 産を横領することを認識していたと認めるに足りる証拠はなく,また,前記2の認定事実によっても,上記担当調査官担当家事審判官か, Aか控訴人の財産を横領することを容易に認識し得たということもて きない。したかって,担当家事審判官(F)かAを控訴人の成年後見人に選 任したことか違法との控訴人の主張は,採用することかてきない。なお,控訴人は,Aに知的障害かあったことか,Aの横領行為の直 接の原因てあると主張するようてあるか,Aに善悪の判断能力かあっ たことは,前記2の認定事実からもらかてあり,Aには刑事責任能 力も認められていたのてあるから,Aの横領行為は,Aの自由な意思 により行われたものてあって,その知的障害によって生したものとは いえない。したかって,Aの知的障害の点は,本件の判断に直接影響 を及ほす事情にはならないというへきてある。(イ) 第1回後見監督について 広島家庭裁判所福山支部の担当家事審判官(F)担当調査官(I調査官)か,第1回後見監督において,Aか控訴人の預金を私的に使 用していたことを認識していたと認めるに足りる証拠は存しない。たたし,前記2の認定事実によれは,Aは,平成16年**月** 日,A預金口座に控訴人の保険金4770万円か入金されると,Dと 共謀して,同預金から一部の金員を払い戻して私的に使用することを 繰り返していたところ,I調査官は,第1回の後見監督の面接調査日 てある平成17年**月**日,保険金入金から約4か月の間に47 0万円もの金員か払い戻されていることを発見している。しかし,被後見人の財産の管理方法は成年後見人の裁量的判断に委 ねられているところ,前記2の認定事実によれは,I調査官か,Aに 事情を尋ねたのに対し,Aは,毎月必要な支出の合計額か25万円程 度てあり,70万円はヘットの購入なと施設入所に際しての臨時の出費等に費消したか,急な出費に備えて,常時手元に現金て300万円 を管理しているとの一応合理的な説をしているのてある。また,I 調査官か,Aに対し,控訴人の預金全額をA名義の預金口座から控訴 人名義の口座に移し替えるよう指導したところ,Aは,同日,上記指 導に従い,株式会社**銀行**支店において「控訴人後見人A」名 義の本件預金口座を開設し,4333万0768円を同預金口座に入 金して,素直に従っているのてある。そうすると,I調査官かAの上 記説を信してAの横領について疑いを抱くことかなかったことか, 著しく合理性を欠くとまていうことはてきす,少なくとも,I調査官 担当家事審判官(F)において,Aか横領行為を行っていることを 容易に認識し得たということはてきない。そうすると,担当家事審判官(F)か,第1回の後見監督後,Aに 対し,更なる被害発生を防止するための監督処分を行わなかったこと か,違法ということはてきない。(ウ) 第2回後見監督について 前記2の認定事実によれは,担当調査官てあるI調査官は,平成18年**月**日及ひ同月**日のAらに対する面接等の調査によ り,同月**日ころ,担当家事審判官(F)に対し,3600万円を 超える使途不金かあり,その使途を説てきないことから,これら かAらによって私的に費消されたと考えさるを得ない,このまま放置 しておけは,被後見人の財産か際限なく減少する危険かあるため,早 急に手続を進める必要かあるとの調査報告をしている。したかって, 担当家事審判官(F)は,同日ころ,Aか控訴人の預金から多額の金 員を横領しており,放置すれは今後も同様の横領か繰り返される可能 性か高いことを認識したというへきてある。ところか,担当家事審判 官(Fら)は,更なる横領を防止する適切な監督処分(なお,家庭裁判所は,職権て,被後見人の財産の管理その他後見の事務について必 要な処分をすることかてき(民法863条2項),後見人に不正な行 為,著しい不行跡その他後見の任務に適しない事由かあるときは,職 権て,後見人を解任することかてきる(同法846条)。)をしなか った。そのため,Aらは,本件預金口座の通帳,印鑑,キャッシュカ ートを所持し続け,何の制約も受けすにこれらを行使てきたところ, 上記面接調査から約1か月半後てある同年**月**日に50万円, 同年**月**日に20万円,同月**日に3万円,同月**日に2 万円,同年**月**日に20万円,同月**日に20万円,同年* *月**日に50万円,同月**日に10万円,同月**日に5万円, 同月**日に6万円,同月**日に5万円,同年**月**日に10 万円,同月**日に10万円,同月**日に10万円,同月**日に 10万円と,反復して控訴人の預金から金員を払い戻してこれらを着 服(合計231万円)していたのてある。なお,担当家事審判官は,同年**月**日(横領発覚から約4か 月後),K弁護士を二人目の成年後見人に選任しているか,Aか本件 預金口座の通帳,印鑑,キャッシュカートを所持し,横領を繰り返し ていたのてあるから,これは現に行われている横領行為を直ちに防止 する有効な処分には当たらないというほかない。Aらの横領を阻止し たのは,K弁護士か金融機関に対し控訴人の預金の支払を停止するよ う依頼し,同年**月**日ころまてにその措置かとられたことによ る。そして,担当家事審判官(L)か,Aを解任したのは,上記措置 の後,横領発覚から約7か月も経過した同年**月**日のことてあ る。上記事実によれは,Aらか控訴人の預金から金員を払い戻してこれ を着服するという横領を行っていたにもかかわらす,これを認識した担当家事審判官(Fら)かこれを防止する監督処分をしなかったこと は,家事審判官に与えられた権限を逸脱して著しく合理性を欠くと認 められる場合に当たり,国家賠償法1条1項の適用上違法になるとい うへきてあり,また,担当家事審判官(Fら)に過失かあったことも らかてある。(2) 最高裁判所の組織的な違法について 控訴人は,成年後見制度における人事及ひ予算等の態勢を十分整備してないから,担当調査官あるいは担当家事審判官の職務上の注意義務違反を 招き,Aらの横領をもたらしたとして,最高裁判所担当職員に組織的な未 必的,概括的故意かあると主張するか,上記主張は,そもそもAの横領に 係る国家賠償請求の理由としては当を得す,上記主張を裏付ける事実も認 められないから,上記主張は失当てある。(3) Bに公務員としての不法行為か成立するか 控訴人は,人権擁護委員に委嘱されていたBか,Aに知的障害かあることを知りなから担当調査官にこれを告知しなかったことか,公務従事者と しての不法行為か成立すると主張するか,Bは,人権擁護委員としてては なく,私人としてAの相談に乗っていたと推認され,また,G調査官の面 接調査に立ち会ったことを認めるへき確実な証拠もないのてあるから,控 訴人か主張するような違法は認められす,上記主張は失当てある。4 まとめ 以上の次第て,被控訴人は,控訴人に対し,国家賠償法1条1項に基つき,控訴人か被った損害231万円を支払うへき義務かある。 これに対し,被控訴人は,平成23年**月**日,C及ひAとの間にお いて,AのCに対する400万円の損害賠償債権を,Aか控訴人に負担する 損害賠償義務のうち,400万円の代物弁済として控訴人に譲渡する旨の和 解を成立したから,控訴人の損害の一部は回復されたと主張するか,Aの控訴人に対する損害賠償義務は3494万3877円となるところ,上記債権 譲渡か上記損害のうち被控訴人か責任を負う231万円の部分に充当される との立証はないのて,本件の弁済と認めることはてきない。5 結論 よって,原判は一部不当てあるから,上記判断に従って原判を変更することとし,主文のとおり判する。 広島高等裁判所第4部
裁判長裁判官 宇田川 基
裁判官 近下秀
裁判官 松葉佐隆之
判例本文 判例別紙1

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