主文
 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
 事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 控訴人
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人の請求を棄却する。
(3) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
 主文と同旨
第2 事案の概要
1 本件は,被控訴人が,商品取引員であるA株式会社(以下「A」という。) に委託して行った商品先物取引に関しAから受け取った和解金457万045 5円(以下「本件和解金」という。)を所得に計上せずに平成15年分の所得 税の確定申告を行ったところ,処分行政庁から平成18年2月10日付けで本 件和解金を雑所得として計上することなどを内容とする更正処分(以下「本件 更正処分」という。)及びこれに伴う過少申告加算税賦課決定処分(以下「本 件賦課決定処分」という。)を受けたことから,本件更正処分のうち納付すべ き税額84万4100円(本件和解金に係る雑所得を除いて算出した税額)を 超える部分及び本件賦課決定処分の取消しを求めた事案である。原判決は,被控訴人の請求を認容したところ,控訴人が控訴した。
2 前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張(控訴人が主張する税額の計 算根拠も含む。)は,以下のとおり,原判決を付加訂正するほか,原判決「第2 事案の概要」欄の1ないし4に記載のとおりであるから,これを引用する。
 なお,本件で引用する所得税法及び所得税法施行令の主な条項は,原判決別紙1記載のとおりである。
 3 原判決の付加訂正
(1) 原判決5頁16行目末尾を改行して,次のとおり付加する。「 このように,被控訴人は,次第に複雑かつ投機性の高い取引を自ら進ん で行っており,複雑性や投機性が高い取引になるに従い被控訴人の損失が 大きくなっていることからすれば,投機的取引の危険性を身をもって学ん でいたことは明らかであり,意欲的に危険性の高い取引を長期間行ってい た者が,先物取引について自分で研究したり,先物業者からの情報を利用することもなく,取引に及ぶとは到底考え難い。」 (2) 原判決7頁1行目末尾に次のとおり付加する。「そして,被控訴人は,本件内規の第1分類に該当するものである。」 (3) 原判決19頁9行目末尾を改行して,次のとおり付加する。「 なお,本件においては,215万5000円の売買差益が生じているの であるから,本件和解金の実質は売買差損の補てんではなく,上記売買差 益に対する必要経費としての性質を持つ委託手数料等の補てんであるとい うべきところ,各年ごとに所得金額や税額の計算を行うという所得税法の 期間計算主義を前提とすれば,本件和解金は,過年度における雑所得の減 算要因である必要経費に相当し,これは既に過年度において考慮されてい るところであるから,さらに後年度において再度非課税の利益を与えるこ とは,被控訴人に対し二重に利益を与えることになってしまう。したがっ て,この点においても,本件和解金は,施行令30条柱書きの括弧書きに より非課税とならないものと解すべきである。」第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,被控訴人の請求を認容すべきものと判断する。その理由は,以下のとおり,原判決を付加訂正するほか,原判決「第3 争点に対する判断」 欄の1及び2に記載のとおりであるから,これを引用する。2 原判決の付加訂正
(1) 原判決25頁13行目の「B等の金融機関から」を「金融機関や消費者金融等から」と改める。
(2) 原判決25頁14行目の「Bから」を「消費者金融のBから年利12%で」と改める。
(3) 原判決25頁15行目の「Cは,」から16行目末尾までを次のとおり改める。
 「Cは,被控訴人が先物取引の預託金をこのように他からの借入れにより調達していたことを知っていたばかりか,上記のとおり,被控訴人が450 万円を預託した際には,Bから自宅の土地建物を抵当に年利12%で借入 れをして資金調達することにつき,被控訴人に対し積極的に勧めてい た。」(4) 原判決26頁3行目の「金融機関から借り入れて」を「B,金融機関, 生命保険会社から借り入れるなどして」と改める。(5) 原判決26頁7行目の「金融機関」を「B」と改める。
(6) 原判決27頁9行目の「それには」から10行目の「考えた。」までを次のとおり改める。
 「訴訟で解決するには時間がかかると言われ,自宅の土地建物を担保にしたBからの借入れを早期に返済する必要に迫られていたことから,長期間訴訟を追行することは難しいと考えた。」
(7) 原判決28頁16行目末尾に次のとおり付加する。
「なお,控訴人は,被控訴人が次第に複雑かつ投機性の高い取引を自ら進 んで行っており,複雑性や投機性が高い取引になるに従い被控訴人の損 失が大きくなっていたことからすれば,被控訴人は投機的取引の危険性 を身をもって学んでいたことは明らかであり,意欲的に危険性の高い取 引を長期間行っていた者が,先物取引について自分で研究したり,先物業者からの情報を利用することもなく,取引に及ぶとは到底考え難いな どとして,知識や経験の点で先物取引の適合性がないとはいえない旨主 張する。しかしながら,被控訴人が複雑かつ投機性の高い取引を行って, その程度が高くなるに従い被控訴人の損失が大きくなっていたことが認 められるとはいえ,これらの取引を被控訴人が自ら進んで行っていたこ とを認めるに足りる証拠はなく,むしろ,前記(付加訂正後の原判決) によれば,Aの営業担当者の誘導によってそのような取引をするに至っ たものと認められ,控訴人の主張は理由がない。」(8) 原判決29頁17頁末尾を改行して,次のとおり付加する。「 なお,控訴人は,被控訴人が「年収500万円以上,有価証券・預貯金 合計が500万円以上と推定される者」,「商品取引に関する知識・理解 度が深い」にあたる旨主張する。しかしながら,確かに被控訴人の名目年 収が一時約800万円以上に及んだことがあったことは認められるものの (乙38),それは,借入金の返済その他の必要経費を控除する前のアパ ートの賃料収入額を単純に加算した結果であって,その時の給与収入は5 00万円に至っていなかったものであり,上記以外に被控訴人が年収50 0万円に至っていた事情は認められない。また,被控訴人の証券関係の資 産が500万円を優に超えていたことがあったとしても,それは証券金融 会社からの借入金の担保となっていたものと認められ(乙13(枝番を含 む。),原審における被控訴人本人),実質的な価値はなかったといえる ところである。そして,被控訴人の商品取引に関する知識・理解度が深い とはいえないことは,これまで述べたとおりである。したがって,控訴人の上記主張は採用できない。」
(9) 原判決30頁24行目の「知りながら,」と「原告に」との間に「しかも,被控訴人の自宅土地建物を担保に消費者金融から多額の金員を借り入れ るなどということまで勧めるなどして,」を挿入する。(10) 原判決31頁4行目冒頭から7行目の「相当である。」までを次のとお り改める。「 なお,控訴人は,被控訴人が問題とする損失は平成13年9月20日の取引によって生じたものであるから,同取引とは関連のない取引等を含む 本件先物取引全体を違法と評価すべきではないなどと主張する。しかし, 本件においては,本件先物取引の途中からあるいは一定の取引に限定して 違法な点があったというようなものではなく,前記(付加訂正後の原判 決)認定のとおり,Aの営業担当者が被控訴人を勧誘して先物取引を開始 させたところからして,既に適合性原則違反,説明義務違反,新規委託者 保護義務違反等の違法があったものであり,その後も,実質的一任売買や 特定売買に関する違法等が加わっているところであって,被控訴人は,当 初から違法に勧誘されるなどして行った一連の本件先物取引において,違 法に多額の委託手数料を支払わされるなどして,結果的に1281万57 95円の損失を被ったものと評価するのが相当である。」(11) 原判決32頁15行目の「範囲内であるのであるから,」から16行目 末尾までを次のとおり改める。
 「範囲内であることが明らかである上,Aを被告として訴訟を起こせば,はるかに多額の損害賠償金の支払請求が認容される蓋然性が高かったにもか かわらず,Aの従業員であるCに勧められたBからの不動産担保借入れを 早期に返済する必要性に迫られていたので,やむなく450万円程度の金 額で和解をするに及んだものと認められることからすると,本件和解金が 不法行為に基づく損害賠償金としての性質を有するものであることは否定 し難い。」(12) 原判決36頁1行目冒頭から18行目末尾までを次のとおり改める。 「(3)ア 控訴人は,本件和解金は以下に述べる理由で施行令30条柱書き の括弧書きにより非課税所得とはならないと主張する。すなわち,施行令30条柱書きの括弧書きは,損害賠償金等の額のうちに損害を受 けた者の各種所得の金額の計算上必要経費に算入される金額を補てん するための金額が含まれている場合には,当該金額を控除した金額に 相当する部分を非課税所得とする旨規定しているが,同括弧書きの趣 旨は,損害賠償金等の額のうちに損害を受けた者の各種所得の金額の 計算上必要経費に算入される金額を補てんするための金額が含まれて いる場合には,当該金額を非課税所得となる金額から控除しなければ, 当該金額につき非課税所得と必要経費の控除という二重の控除を認め ることとなってしまうため,これを防ぐことにあるものと解されると ころ(この趣旨自体は,特段争いがない。),本件においては被控訴 人に売買差益が生じていることからして,本件和解金の実質は売買差 損の補てんではなく,必要経費としての性質を持つ委託手数料等の補 てんであるとした上で,所得税法の期間計算主義を前提とすれば,本 件和解金は,過年度における雑所得の減算要因として考慮されている 必要経費となる金額を補てんするものであるから,これに再度非課税 の利益を与えることは二重に利益を与えることになるとして,本件和 解金が施行令30条柱書きの括弧書きの「所得の金額の計算上必要経 費に算入される金額を補てんするための金額」に該当し,非課税所得 にはならないというものである。しかしながら,本件においては,確かに,被控訴人には,通算して 215万5000円の売買差益が出た計算になっていることは認めら れるが,他方で,前記(付加訂正後の原判決)前提事実及び認定によ れば,Aから委託手数料として合計1425万7900円を違法に支 払わされるなどし,本件先物取引による売買差益と委託手数料,取引 税及び消費税を差引き計算すると,1281万5795円の損失を被 っていることが認められるところである。そして,この差引き計算した金額は,上記のとおり,一連の本件先物取引における全体として違 法なAの営業担当者の行為によって生じた損害であると評価されるも のであって,被控訴人が支払わされた多額の委託手数料等は,委託者 の利益を度外視し,Aの利益のために,その取得のみを目的とする違 法な行為による損害そのものであって,差引計算上認められる売買差 益を得るための必要経費などではない。このように,違法に委託手数 料の支払をさせるなどしたこと自体が被控訴人に損害を発生させる不 法行為であり,本件和解金は,そのような不法行為によって被控訴人 が被った損失に対する原状回復のための損害賠償金の一部であるにす ぎないのであるから,本件和解金の中には施行令30条柱書きの括弧 書きにいう「所得の金額の計算上必要経費に算入される金額を補てん するための金額」が含まれていると考える余地はなく,このことは, 所得税法が期間計算主義を取っていることによって左右される事柄で もない。仮に,本件のような和解金に同括弧書きの適用があり得る場 合としては,その中に被控訴人が得られるはずであった利益の補償な ど純資産の増加を伴う趣旨のものが一部でも含まれているような場合 であると思われるが,本件和解金の中にはそのような趣旨のものが含 まれていないことは明らかである。以上のとおりであるから,本件和解金が同括弧書きにより非課税所 得に当たらないということはできず,控訴人の上記主張は採用するこ とができない。」第4 結論 よって,原判決は相当であって,控訴人の本件控訴は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
名古屋高等裁判所民事第3部
裁判長裁判官 高 田 健 一
裁判官 尾 立 美 子
裁判官 上 杉 英 司
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