主文
1 原決定を取り消す。
2 相手方の申立てを却下する。
理由
第1 抗告の趣旨及び理由 本件抗告の趣旨は主文同旨であり,抗告の理由は別紙「抗告理由書」に記載のとおりであり,その要旨は,1原決定は,「重大な損害を避けるため緊急の 必要があるとき」(行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)25条2項本 文)に当たると判断するが,相手方は,P1グループ12社中の1社にすぎず, 同グループ内において資金を流動的に動かしているのが実態であることなどか ら,相手方だけに着目して倒産の可能性を検討するのは実態からかけ離れてい る,2原決定は,「本案について理由がないとみえるとき」(行訴法25条4 項)という要件について抗告人の疎明がないとするが,風俗営業等の規制及び 業務の適正化等に関する法律(以下「風営法」という。)23条1項2号につ いての相手方の主張が失当であることは明らかであり,賞品買取所のダミー性 の認定についても,抗告人は多数の疎明資料を提出しており,困難ではないに もかかわらず,相手方の主張を前提として審理を尽くす必要があるとした原決 定は,上記要件の判断を放擲しているに等しい,3行政処分は執行不停止が原 則であるところ,本件では安易に執行停止が認められてしまっており,その原 則が骨抜きになってしまっており,担保が要求される民事保全法の場合よりも 簡単に執行停止が許容されるという結果を招来しており,行訴法の法意に反す る上,安易に執行停止を認めることは,一か八かの風営法違反行為を行った方 が割に合うことになってしまい,モラルハザードを招来する結果となると共に, 法の規制を潜脱する時間的余裕を違反者に与えてしまうおそれもある,という ものである。第2 当裁判所の判断
1 本件記録によれば,次の事実が認められる。
(1) 相手方は,遊技場の経営等を目的とする会社であって,広島県公安委員会から風俗営業の許可を受けて,広島県竹原市α×番16号所在のぱちんこ店「P2」(以下「本件店舗」という。)を経営している。
(2) 広島県公安委員会は,平成20年11月12日,相手方に対し,次の理由により,同月25日から平成21年2月12日までの80日間,本件店舗 における風俗営業の営業停止を命じる処分(以下「本件処分」という。)を 行った。本件処分の理由は,相手方は,相手方会社グループの営業本部長P 3ことP4,相手方開発事業部室長P5,本件店舗店長P6及びぱちんこの 賞品買取業務に従事するP7らと共謀の上,相手方の営業に関し,平成▲年 ▲月▲日及び同年▲月▲日,5回にわたり,山口県岩国市α×番10号所在 の景品買取所において,P7らが,本件店舗の遊技客5人から,本件店舗が 遊技客に提供した賞品であるペンダントトップ合計34個を合計3万910 0円で買い取り,風営法23条1項2号に違反したというものであった。(3) 相手方は,相手方代表者P8ことP9の実父P10ことP11が代表取 締役を務めるP1有限会社(以下「P1」という。)のグループ会社である。
 P1のグループ(以下「P1グループ」という。)には,相手方のほかに,有限会社P12,有限会社P13(以下「P13」という。),有限会社P 14(以下「P14」という。),有限会社P15(以下「P15」という。), P16有限会社(以下「P16」という。),有限会社P17(以下「P1 7」という。),P18等多数の会社が存在し,そのすべての代表者は,P 10の親族や同人の信頼する者で占められている。P1グループは,ぱちんこ店を経営するほか,ラブホテルの経営等も行っ ている。(4) P1グループ傘下の会社のうち,次の会社は,それぞれ次に挙げるぱち んこ店(合計16店舗)を経営している。P1グループでは,このほかにもぱちんこ店を経営している。
ア P14
イ 相手方
ウ P13
1広島市βの「P19」 2広島市γの「P20」 1広島県竹原市の「P2」 2山口県岩国市の「P21」 3山口県岩国市の「P22」 4山口県岩国市の「P23」 1広島県廿日市市の「P24」 2山口県光市の「P25」 3山口市の「P26」 4山口県萩市の「P27」 5山口県下関市の「P28」 6山口県下関市の「P29」岡山市δの「P15」 山口県周南市の「P30」 福岡県北九州市εの「P31」 山口県大島郡ζの「P32」エ P15
オ P16
カ P17
キ P18
(5) P1は,P1グループ各社を統括管理する立場にあり,同グループ内で はP1のことを「本社」や「本部」と呼んでいる。P1には同グループ各社 の事務所が置かれており,同グループのぱちんこ店の売上管理や経理等はP 1で集中管理されている。また,P1グループでは,同グループの各ぱちんこ店店長と「担当」と呼 ばれるP1と各ぱちんこ店の現場スタッフとのパイプ役の役職者が各ぱちん こ店の売上目標や営業方針を相談し,それがすべてP1へと報告されること になっている。(6) P1グループではP10のみが社長と呼ばれ,同グループでの重要事項はP10の指示によって実行されている。同グループのぱちんこ店は,P1 0の定めた同グループとしての営業方針に基づき,幹部従業員がその方針に 従って各ぱちんこ店の営業方針を決定して営業されている。P3ことP4は,同グループでは社長であるP10に次ぐ地位にあって「本 部長」と呼ばれ,同グループ内すべてのぱちんこ店の売上げや目標の管理, ぱちんこ店を新規出店する際の関係者との交渉等の業務を行っている。(7) 本件店舗の売上金は,経費を差し引いた全額がP1からの指示でP1グ ループ各社に送金されており,毎日P1に売上状況が報告されていた。本件 店舗の従業員の給与は,給料日直前にP1から「P33有限会社」名で給料 明細が郵送されてきていた。2(1) 行訴法25条2項は,執行停止の要件の一つとして「重大な損害を避け るため緊急の必要があるとき」と規定し,同条3項は,「重大な損害を生ず るか否かを判断するに当たっては,損害の回復の困難の程度を考慮するもの とし,損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとす る」と規定する。これらの規定によれば,本件処分のような営業停止を命じ る行政処分の場合は,当該処分によって相手方の営業が完全に破綻するとま では認められなくとも,営業を悪化させる重大な影響が生ずるおそれがあり, 通常の営業に回復するまでに重大な損害が起こり得るという場合などにおい ては,事案の実情に即して執行停止が認められ得ると解される。(2) ところで,本件において,本件店舗を営業している相手方は,形式的には 一つの独立した会社という形態をとっているものの,上記認定の事実関係に よれば,相手方は,P1を頂点とするP1グループの1社であって,その指 揮命令系統や資金の流れなどを考慮すれば,その法人格はほとんど形骸化し ており,経済的な実態としては,あたかもP1グループという一つの会社の 一部門と同視し得るものである。したがって,本件において重大な損害を生 ずるか否かを判断するに当たっては,形式的な存在である相手方のみを考慮するのは相当ではなく,その実質に着目してP1グループ全体への影響を考 慮して判断すべきである。そこで,本件について検討するに,上記認定の事実関係によれば,P1グ ループは,本件店舗以外にも多数のぱちんこ店やラブホテルを経営している ことが認められるものの,その全容は明らかでなく,本件店舗における営業 が80日間停止された場合に,P1グループの営業を悪化させる重大な影響 が生ずるおそれがあり,通常の営業に回復するまでに重大な損害が起こり得 るかどうかは明らかでない。したがって,本件においては「重大な損害を避けるため緊急の必要がある とき」の疎明はない。第3 結論 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,相手方の執行停止の申立ては却下すべきであり,本件抗告は理由がある。よって,主文のとおり 決定する。平成21年2月12日 広島高等裁判所第2部
裁判長裁判官 窪田正彦
裁判官 廣永伸行
裁判官 井上一成
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