主文
1 亡Aの広島県知事に対する平成17年1月13日付け被爆者健康手帳交付申請却下処分の取消しを求める訴えは,亡Aが平成▲年▲月▲日死亡したことにより終了した。
2 控訴人Bが当審において追加的に変更した被控訴人国及び同広島県に対する,亡Aが平成16年11月16日時点において原子爆弾被爆者に 対する援護に関する法律1条1号に定める被爆者の地位にあったことの 確認を求める訴えを却下する。3 控訴人Bのその余の本件控訴及び控訴人Cの本件控訴をいずれも棄却 する。4 控訴費用は控訴人らの負担とする。
 事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 広島県知事が亡Aに対してした平成17年1月13日付け被爆者健康手帳交付申請却下処分を取り消す。
3 控訴人Bと被控訴人国及び同広島県との間で,亡Aが平成16年11月16日時点において原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律1条1号に定める被爆者 の地位にあったことを確認する。4 被控訴人国及び同広島県は,控訴人Bに対し,各自35万円及びこれに対す る平成17年1月13日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。5 被控訴人国及び同広島市は,控訴人Cに対し,各自35万円及びこれに対す る平成17年3月23日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
 第2 事案の概要次のとおり改めるほかは原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」 に記載のとおりであるからこれを引用し,当審において変更した箇所(ただし,細かな表現についての訂正等を除く。)をゴシック体太字で表示する。 亡Aは,広島県知事が亡Aからの被爆者健康手帳交付申請を却下する処分(以下 「本件処分(1)」という。)をしたのは違法であるとして,同処分の取消しを求め るとともに,厚生労働大臣や厚生労働省の担当職員(以下「厚生労働大臣等」とい う。)が日本国外(以下「国外」という。)からの手帳交付申請を可能とする措置 を講じなかったこと,このような取扱いに従い広島県知事が当該処分を行ったこと は国家賠償法1条1項の違法行為に当たるとして(共同不法行為),被控訴人国及 び同広島県に対し,損害賠償金及びこれに対する違法行為の日である平成17年1 月13日から支払済みまで民法所定年5%の割合による遅延損害金の各自支払を求 めた。原審は,亡Aの請求のうち,本件処分(1)の取消しを求める訴えを却下し,その余の請求を棄却した。 亡Aは,平成▲年▲月▲日死亡し,控訴人Bが亡Aの本件訴訟を承継するとともに,被控訴人国及び同広島県との間において,亡Aが平成16年11月16日時点 において原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(以下「被爆者援護法」という。) に定める被爆者健康手帳の交付をもって取得する同法1条1号に定める被爆者の地 位にあったことを確認する請求を追加した。原審において,亡Dの訴訟を承継した控訴人Cは,厚生労働大臣等が国外からの 健康管理手当認定申請を可能とする措置を執らなかったこと,このような取扱いに 従い広島市長が控訴人Cの被相続人亡Dからの健康管理手当認定申請を却下する処 分(以下「本件処分(2)」という。)をしたことは国家賠償法1条1項の違法行為 に当たるとして(共同不法行為),被控訴人国及び同広島市に対し,損害賠償金及 びこれに対する違法行為の日である平成17年3月23日から支払済みまで民法所 定年5%の割合による遅延損害金の各自支払を求めた。原審は,控訴人Cの請求を 棄却した。1 関連法規の規定
(1) 被爆者及び被爆者健康手帳の交付
被爆者援護法1条は,原子爆弾が投下された際当時の広島市若しくは長崎 市の区域内又は政令で定めるこれらに隣接する区域内に在った者等であって,被爆 者健康手帳の交付を受けたものを「被爆者」とする旨定める(以下,これに当たる 者を「被爆者」という。)。被爆者援護法2条1項は,「被爆者健康手帳の交付を受けようとする者は,その 居住地(居住地を有しないときは,その現在地とする。)の都道府県知事に申請し なければならない。」と定め,同条2項は,「都道府県知事は,前項の規定による 申請に基づいて審査し,申請者が前条各号のいずれかに該当すると認めるときは, その者に被爆者健康手帳を交付するものとする。」旨定める。(2) 広島市及び長崎市 被爆者援護法の各規定中「都道府県知事」又は「都道府県」とあるのは,広島市又は長崎市について,「市長」又は「市」と読み替えるものとされている(同 法49条)。(3) 立法委任 被爆者援護法52条は,「この法律に特別の規定があるものを除くほか,この法律の実施のための手続その他その執行について必要な細則は,厚生労働省令 で定める。」旨定める。(4) 健康管理手当
ア 被爆者援護法27条1項は,「都道府県知事は,被爆者であって,造血機能障害,肝臓機能障害その他の厚生労働省令で定める障害を伴う疾病(原子爆弾 の放射能の影響によるものでないことが明らかであるものを除く。)にかかってい るものに対し,健康管理手当を支給する。」と定め,同条2項は,「前項に規定す る者は,健康管理手当の支給を受けようとするときは,同項に規定する要件に該当 することについて,都道府県知事の認定を受けなければならない。」旨定める。イ 原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律施行規則(以下「施行規則」 という。)52条1項は,「被爆者援護法27条2項の認定の申請は,健康管理手当認定申請書に,所定の障害を伴う疾病についての同法19条1項の規定による指 定を受けた病院又は診療所の医師の診断書を添えて,これを居住地の都道府県知事 に提出することによって行わなければならない。」旨定め,同条2項は,「都道府 県知事は,前項の場合において,同項に規定する診断書を添えることができないこ とについてやむを得ない理由があると認めるときは,同法19条1項の規定による 指定を受けていない病院又は診療所の医師の診断書をもってこれに代えさせること ができる。」旨定める。なお,平成17年の改正により,同条3項が追加され,日本国内に居住地等を有 しない被爆者が健康管理手当の認定申請を行う場合の手続が整備された。2 争いのない事実等 (1) 亡Aについて
ア 被爆確認証の交付 亡Aは,長崎市長から,平成16年3月9日ころ,郵送により,被爆確認証の交付を受けた。同証には,亡Aの居住地,連絡先,氏名,生年月日が記載さ れ,「被爆時の年齢満22歳」,「被爆の状況 直接被爆 被爆場所 広島市α 3. 5km」とあり,「上記のとおり,被爆の状況を確認します。」と記載されていた。
 また,その裏面には「この確認証は,あなたが将来,日本に渡航した際に,原子爆 弾被爆者に対する援護に関する法律(平成6年法律第117号)第2条に基づく被 爆者健康手帳の円滑な交付に役立てるためのものですので,大切に保管してくださ い。」と記載されていた。イ 被爆者健康手帳の交付申請と却下決定 亡Aは,本件処分(1)当時,大韓民国に居住していた。亡Aは,平成16年11月16日,控訴人ら代理人在間秀和,同足立修一を代理人として,広島県 知事に対し,被爆者健康手帳交付申請書に被爆確認証を添付して提出し,被爆者健 康手帳の交付を申請した(以下「本件第1次申請」という。)。広島県知事は,平成17年1月13日付けで,亡Aの被爆者健康手帳交付申請の却下処分(本件処分(1))を行い,その旨を記載した通知書を亡Aに送付してこれ を通知した。この通知書には「あなたは,現在,大韓民国京畿道平澤市β×-7に 居住しておられ,原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律第2条第1項の規定に 該当しません。」と記載されていた。ウ 亡Aは,長崎市を訪れ,平成17年9月27日,長崎市長に対し,被爆 者健康手帳の交付申請を行い(以下「本件第2次申請」という。),同日,同手帳 の交付を受けた。エ 亡Aは,平成▲年▲月▲日,死亡し,同人の相続人全員は,控訴人Bが 亡Aの本件訴訟上の地位を取得する旨合意した。(弁論の全趣旨)(2) 亡Dについて
ア 被爆者健康手帳の交付
亡Dは,昭和20年8月6日,広島で被爆した。亡Dは,平成3年と平 成4年に渡日し広島を訪れ,その際,被爆者健康手帳の交付を受けた。イ 健康管理手当認定申請と却下通知 亡Dは,本件処分(2)当時,大韓民国に居住していた。亡Dは,平成17年3月11日,控訴人ら代理人足立修一を通じて,広島市長に対し,健康管理手 当認定申請を行い,申請書類は同日広島市長に受理された。広島市長は,同月23日付けで,亡Dの健康管理手当認定申請の却下処分(本件 処分(2))を行い,その旨を記載した通知書を亡Dに送付してこれを通知した。こ の通知書には「健康管理手当認定申請書は居住地の都道府県知事(広島市,長崎市 にあっては当該市の長)に提出することになっている(原子爆弾被爆者に対する援 護に関する法律施行規則(平成7年厚生省令第33号)第52条第1項)が,申請 者の居住地は広島市でないため,認定できません。」と記載されていた。ウ 亡Dは,平成▲年▲月▲日,死亡し,同人の相続人全員は,控訴人Cが 亡Dの本件訴訟上の地位を取得する旨合意した。(弁論の全趣旨)3 本案前の争点
(1) 亡Aの死亡による本件処分(1)の取消訴訟の終了 (被控訴人広島県)ア 施行規則8条において,「被爆者が死亡したときは,戸籍法の規定によ る死亡の届出義務者は,死亡した者の居住地の都道府県知事に,被爆者健康手帳を 返還しなければならない。」と規定されているとおり,被爆者健康手帳が交付され た「被爆者」が死亡すれば,当該被爆者健康手帳は返還しなければならない。した がって,「被爆者」の地位が,相続の対象とならないことは明らかである。イ このように,被爆者健康手帳の交付を求め得る利益は,被爆者援護法が 定める手当等の社会保障を受け得る前提となる地位の取得にほかならず,施行規則 8条の規定上,相続の対象となるものではないことが明確にされている。このよう な社会保障を受ける前提となる地位が,その根拠法規によってそれを有する者に一 身専属的に帰属するものとされているのであるから,その者が死亡した場合,相続 人がそのような地位を相続により承継するものではない。ウ したがって,被爆者健康手帳の交付という行政処分によって取得される 「被爆者」の地位は,相続の対象となるものではなく,亡Aの相続人は,本件処分 (1)の取消しを求める法律上の地位を実体法上承継するものではない。したがって, 本件処分(1)の取消しの訴えは,亡Aの死亡によって終了したというべきである。(控訴人B) 争う。
(2) 本件処分(1)の取消訴訟について訴えの利益の有無 (被控訴人らの主張)亡Aは,平成17年9月27日,渡日の際に長崎市長に対し被爆者健康手 帳の交付を申請し,同日,同市長から被爆者健康手帳の交付を受けた。そして,被 爆者健康手帳の交付については,被爆者援護法24条4項,25条4項,26条4 項,27条5項,28条5項のような,申請日によって影響を受けるような法的効 果は発生しない。したがって,本件処分(1)の取消しを求める訴えの利益は失われたというべきである。
 (控訴人Bの主張)
ア 医療について 医療面での効果については,被爆者健康手帳の交付を受けると日本国内の被爆者一般疾病医療機関で医療を受けることができ,「緊急その他やむを得ない 理由により」被爆者一般疾病医療機関以外の者から医療を受けたときは,一般疾病 医療費の支給が受けられることになっている(被爆者援護法18条1項)。例えば, 3号被爆者といわれる救護・看護の被爆者について,被爆者健康手帳の交付申請が たなざらし状態になって,申請から交付まで数年かかっているケースもあるが,こ のような被爆者健康手帳の交付申請時期から交付されるまでの間に相当期間たって いる場合には,その間に自己負担していた一般疾病医療費の支給がなされている。
 したがって,本件処分(1)の取消しにより,亡Aも,平成16年11月から平成1 7年9月までに医療費として負担した460万ウォン(約46万円)について,被 爆者援護法18条1項の一般疾病医療費の支給が受けられることになる。イ 手当について 亡Aは,平成16年11月16日の本件第1次申請時に被爆者健康手帳の交付を受け,同時に健康管理手当の認定申請を行うことができたものであって, 被爆者健康手帳の交付が遅れたことによって,平成16年11月から平成17年9 月までの健康管理手当合計37万2900円を得ることができなかった。このこと は,訴えの利益の判断において考慮すべきであり,少なくとも損害賠償の請求にお いて考慮すべきである。(3) 当審において追加された地位確認の訴えの利益
(被控訴人らの主張)
ア 被爆者援護法1条所定の「被爆者」の地位は被爆者健康手帳の交付を受けることによって初めて取得されることになるものであって,それ以前の「手帳の 交付を受けることのできる地位」にあることからは何の法的効果も生じない。したがって,「被爆者の地位」の確認を求めることは法的な意味がなく,同訴えは確認 の利益を欠く。イ 「被爆者」の地位は,相続の対象となるものではないから,本人である 亡Aが死亡した以上,同人が本件第1次申請を行った平成16年11月16日時点 において被爆者援護法1条1号に定める被爆者の地位にあったことを確認すること に法的意味のないことは明らかである。ウ 亡Aは,本件第2次申請に基づき平成17年9月27日に被爆者健康手 帳の交付を受けており,死亡の時点で既に被爆者健康手帳の交付を受けていたので あるから,葬儀を執り行った遺族が葬祭料の支給を受けることができることは明ら かである。この点でも,亡Aが被爆者援護法1条1号に定める被爆者の地位にあっ たことを確認することに法的意味はない。(控訴人Bの主張)
ア 亡Aは,被爆確認証の交付を受けており,平成17年9月26日に渡日 し,その翌日に手帳交付申請をして(本件第2次申請),被爆者健康手帳の交付を 受けている。当時,亡Aは,発語が不能な状態であって,本人に対し被爆状況の確 認は一切なされなかったにもかかわらず,被爆者健康手帳の交付を受けたことから すると,被爆確認証の交付を受けた者は,被爆者健康手帳が交付されるべき被爆者 援護法1条所定の「被爆者」としての実体的要件を備えているとみることができる。
 そして,国外居住者であるとの理由で亡Aがした被爆者健康手帳の交付申請を却下 することは違法であるから,亡Aは,本件第1次申請をした平成16年11月16 日に,被爆者援護法上,被爆者健康手帳の交付を受けた者と同一の法的地位を取得 することになる。イ 過去の法律関係の確認を求めることが現在の法律関係の抜本的な解決に 必要であることについては,以下のとおりである。通常,被爆確認証の交付を受けた者が,日本に来て,被爆者健康手帳の交付申請 をした場合には,被爆状況の審査手続を初めから行うのではなく,被爆確認証を点検し,本人確認を行うのみである。すなわち,被爆状況の実質的な審査は終了して いるという前提で処理され,被爆者健康手帳交付申請書の記載についての形式面の チェックがなされるのみである。そのため,被爆者健康手帳交付申請書を提出した 日の翌日には交付されている実情がある。また,被爆者健康手帳が交付されるとき, その手帳の交付日は,実際に交付された日ではなく,被爆者健康手帳の交付申請を 行った申請日となる。そして,高齢化した近時の被爆者においては,健康管理手当 の認定を受ける疾病を有していることが多く,被爆者健康手帳の交付申請と同時に 健康管理手当の認定申請を行い,又は,被爆者健康手帳の交付を受けた直後に同手 当の認定申請を行い,この認定がされるとその翌月から同手当が支給されることに なる。4 本案の争点
(1) 本件処分(1)の適法性
(2) 本件処分(1)に関する国家賠償法上の違法,厚生労働大臣等及び広島県知事の故意・過失の有無並びに亡Aの損害
(3) 本件処分(2)に関する国家賠償法上の違法,厚生労働大臣等及び広島市長の故意・過失の有無並びに亡Dの損害
5 争点(1)(本件処分(1)の適法性)に関する当事者の主張
(1) 被控訴人広島県の主張 被爆者健康手帳の交付申請については,被爆者援護法2条1項において明文で「その居住地(居住地を有しないときは,その現在地とする。)の都道府県知 事」に申請しなければならないこととしており,同法は,申請者が日本国内に居住 又は現在することを前提とし,国外からの申請を認めていないことは明らかである。
 広島県知事は,亡Aが,大韓民国在住のまま,代理人を通じ,被爆者健康手帳の交 付申請(本件第1次申請)を広島県知事に対し行ったものであったことから,同法 2条1項の規定に基づき,亡Aに対し被爆者健康手帳の交付をすることはできない として申請を却下したものであり,このような本件処分(1)は,同法の規定に従った適法なものである。 (2) 控訴人Bの主張
ア 被爆確認証は,在外被爆者渡日支援等事業の実施要綱(平成14年5月 31日健発第0531003号,平成15年7月25日健発第0725003号) に基づき,在外被爆者のうち,被爆者健康手帳又は健康診断受診者証を所持しない 者であって,被爆者健康手帳又は健康診断受診者証の交付要件に該当すると認めら れる者のうち,健康上の理由等により渡日できない者に対し,将来,渡日した際の 被爆者健康手帳又は健康診断受診者証の円滑な交付に役立てることを目的として交 付されるものである。この被爆確認証制度は,被爆者援護法6条に規定された「国 の責任」を真摯にとらえ,国外からの被爆者健康手帳の交付要件が存在することの 確認の申請を許容し,電話での事情聴取や担当者の国外派遣等を併せて行い,本人 は国外にとどまったまま,被爆の事実を確認する制度である。すなわち,被爆確認 証は,被爆の事実を確認し,確認された者を被爆者であると認定するものであって, 被爆確認証を交付された者は被爆者としての実体的要件を充足している。よって, 在外被爆者渡日支援等事業の実施要綱により被爆確認証の交付を受け,被爆者であ ることが確認された者に対し,国外にとどまっているままでの被爆者健康手帳の交 付申請を認めないことに何らの合理性もない。(削除)
イ ところが,厚生労働大臣等は,在外被爆者に対し,渡日しない限り被爆 者健康手帳の交付申請をなしえないとする運用を継続して行い,広島県知事も上記 運用に従って本件処分(1)を行い,そのため,本来的に「被爆者」として実体的に 援護の対象である亡Aが,日本に居住し,又は,日本に渡航可能な在外被爆者と比 較して,日本に渡航できないという理由のみによって,被爆者援護法1条の「被爆 者」となるために必要な被爆者健康手帳の交付が受けられないという不合理な差別 を受ける結果となった。これは,憲法14条1項が禁じる不合理な差別的取扱いで あるから,上記のような,被爆者援護法2条1項について国外からの被爆者健康手帳交付申請をなしえないとする解釈を前提とした本件処分(1)は違憲無効であり, かつ,被爆者援護法の趣旨に反する違法な処分というべきであり,取消しを免れな い。(3) 被控訴人広島県の反論 被爆者健康手帳の交付申請先について,被爆者援護法2条1項は前記のとおり一義的に明確な文言で規定しており,控訴人らのいうような解釈を許容する余 地はない。実質的にみても,被爆者援護法2条1項が被爆者健康手帳の交付申請先 を「居住地(現在地)の都道府県知事」と規定し,国外からの申請を認めていない のは,申請者の本人確認や被爆者援護法1条各号該当性の審査に当たって,申請者 が日本国内に居住又は現在することによって必要な手続や審査を適正,円滑に行う ことができるという実質的な理由に基づくものであり,このような被爆者援護法の 定めに合理性があることは明白である。6 争点(2)(本件処分(1)に関する国家賠償法上の違法,厚生労働大臣等及び広 島県知事の故意・過失の有無並びに亡Aの損害)に関する当事者の主張(1) 控訴人Bの主張 ア 違法行為の成否
(ア) 厚生労働大臣等の違法行為 在外被爆者による被爆者健康手帳の交付申請を却下することは,前述のとおり,違憲・違法である。
 Eが被爆者たる地位の確認及び外国からの健康管理手当の給付を求めた案件について言い渡された大阪高裁平成14年12月5日判決は,被告国及び同大阪府が上 告を断念し,確定した。これを機に,平成15年3月1日,「原爆特別措置法は日 本国内に居住関係を有する被爆者に対し適用されるもので,日本国の領域を超えて 居住地を移した被爆者には適用されない。」としていた昭和49年7月22日衛発 第402号厚生省公衆衛生局長通達(以下「402号通達」という。)に基づく解 釈運用が改められ,被爆者援護法施行令及び同法施行規則が改正され(政令14号,厚生労働省令16号),被爆者健康手帳はこれを所持する被爆者が国外に居住して いても有効であり,また手当受給権は出国して国外に居住することになっても消滅 しないことを前提とする諸条項が規定された。厚生労働大臣等は,これを受けて,被爆者健康手帳の交付申請についても「日本 における居住又は現住」を要件とすることを改め,国外からの交付申請を受け付け るように政令・省令において明確に整備すべきであった。ところが,厚生労働大臣 等は,被爆者健康手帳の交付については,あくまで「日本における居住又は現在」 を要件とするとの姿勢を改めず,広島県知事に対し,上記見解に基づく措置を指示 した。(イ) 広島県知事の違法行為 広島県知事は,被爆者健康手帳の交付申請について「日本における居住」を要件とすることを改め,国外からの交付申請に対しては被爆者援護法2条を 適用しないこととして,亡Aに対して被爆者健康手帳を交付すべきであった。とこ ろが,広島県知事は,厚生労働大臣等の前記指示を受けて,亡Aの被爆者健康手帳 の交付申請に対して,これを却下する本件処分(1)を行った。(ウ) 法律上保護された利益の侵害 亡Aは,健康上の問題から,長年にわたって被爆者健康手帳の取得のために日本を訪れることができず,国外からの交付申請も認められていなかったた め,手帳の交付を受けることができず,そのために病魔に苦しんできた。平成15 年3月1日,被爆者健康手帳はこれを所持する被爆者が国外に居住していても有効 であり,また手当受給権は出国して国外に居住することになっても消滅しないこと となった後も,国外からの被爆者健康手帳の交付申請については従前の扱いが継続 され,何らの改善も図られず,本件処分(1)が行われた。亡Aはやむなく本件訴訟 の提起に踏み切ったが,それでも日本政府の対応は改められず,従前の見解を改め ようとしなかった。そこで,亡Aは無理を承知で這うようにして渡日し,ようやく 手帳の取得に至ったのである。このような事実経過において,亡Aは,多大な精神的苦痛を被ったのであり,法律上保護された利益が侵害されたことは明らかという べきである。(エ) このように,厚生労働大臣等が,平成15年3月1日以降,国外か らの被爆者健康手帳の交付申請を受理するよう政令・省令において明確に整備すべ きであったのにこれを怠り,また,広島県知事が違法な本件処分(1)を行い,亡A に精神的損害を与えたことは,国家賠償法上の違法行為に当たる。イ 故意・過失の有無 当該行政の事務が,被爆者援護法の趣旨に反して不当に権利侵害の結果を招来した場合,当該行政事務を行った機関には,これについて故意又は過失があ るというべきである。そうでなければ,戦後日本国憲法の下で国家賠償法が制定さ れた意味は没却されてしまう。したがって,本件でも,厚生労働大臣等及び広島県 知事の違法行為によって亡Aに精神的損害が生じたのであるから,これについて厚 生労働大臣等及び広島県知事には少なくとも過失があるというべきである。ウ 損害は填補されていないこと
(ア) 亡Aは最高裁平成▲年(受)第▲号(以下「前件訴訟」という。)の当事者の一人であり,平成19年11月1日言渡しの判決により国に対する100 万円の慰謝料及び20万円の弁護士費用を認容されている。しかし,亡Aが本件で 請求している精神的損害は,上記最高裁判決の原因である精神的損害とは異なるも のである。すなわち,前件訴訟において認容された精神的損害の内容は「402号 通達の失権取扱いの定めが廃止されるまで長期間にわたり,原子爆弾被爆者の医療 等に関する法律(以下「原爆医療法」という。)及び原子爆弾被爆者に対する特別 措置に関する法律(以下「原爆特別措置法」といい,原爆医療法と併せて「旧原爆 二法」という。)並びに被爆者援護法(以下旧原爆二法と併せて「原爆三法」とい う。)に基づく援護措置の対象外に置かれ,被爆による特異な健康被害に苦しみつ つ,健康面や経済面に不安を抱えながら生活を続けることを余儀なくされ,様々な 精神的苦痛を被った」ことである。これに対し,亡Aが本件訴訟において求めている精神的損害の内容は,平成14年12月5日大阪高裁において402号通達が違 法である旨の判断が示され,これが確定したため,亡Aは,被控訴人国が従前の対 応を改め,在外被爆者に被爆者援護法を適用することを期待して被爆者健康手帳の 交付申請をし,亡Dは健康管理手当認定申請をしたにもかかわらず,被控訴人らが 従前の対応を変えず,亡A及び亡Dの申請を認めなかったことによる精神的損害で ある。したがって,亡A及び亡Dが本件訴訟において請求している精神的損害は前 件訴訟の認容判決によって填補されるものではない。(2) 被控訴人国及び同広島県の主張 ア 違法行為の成否
(ア) 適法であること
1 厚生労働大臣等の行為について
被爆者健康手帳の交付申請先については,被爆者援護法2条1項は, 「その居住地(居住地を有しないときは,その現在地とする。)の都道府県知事」 として,一義的に明確な文言をもって規定している。この文言からすれば,亡Aが 主張するような国外からの被爆者健康手帳の交付申請ができるとの解釈を許容する 余地はない。また,旧原爆二法が一本化されて被爆者援護法が制定されたという立 法経緯等に照らすと,同法においては,旧原爆二法と同様に,国外からの被爆者健 康手帳交付申請は認められないとする立法者意思が存在するといえる。更に,被爆者援護法2条1項が,被爆者健康手帳の交付申請先を「居住地(現在 地)の都道府県知事」と規定し,国外からの申請を認めていないのは,申請者の本 人確認や同法1条各号該当性の審査に当たって,申請者が日本国内に居住又は現在 することによって必要な手続や審査を適正,円滑に行うことができるという実質的 な理由に基づくものであり,このような同法の定めに合理性があることは明白であ るから,同法2条1項は憲法14条1項に反するものではない。被爆確認証の交付を受けた被爆者についても,例えば,死亡した者になりすます などの不正行為の防止のため,パスポートの提示による申請者本人の同一性の確認の必要性がある。
したがって,厚生労働大臣等が被爆者援護法2条1項の規定に従って行政実務を 行うことが適法であることは明らかであり,厚生労働大臣等が同条項に基づいた指 示等を行ったことに関して義務違反があるということはできない。2 広島県知事の行為について 広島県知事が本件処分(1)を行ったのは,被爆者援護法2条1項が明確に「被爆者健康手帳の交付を受けようとする者は,その居住地(居住地を有し ないときは,その現在地とする。)の都道府県知事に申請しなければならない。」 として,国内に居住地も現在地も有しない者からの被爆者健康手帳の交付申請を認 めていないことに基づくものである。また,被爆者健康手帳交付事務は,第1号法定受託事務であり,全国統一的な処 理が必要とされているところ,本件処分(1)当時(平成17年1月13日),国外 からの被爆者健康手帳交付申請が直接問題となった訴訟事案は存在しなかった。したがって,広島県知事が,このような被爆者援護法の定めに基づいて本件処分 (1)を行ったことは適法であり,職務上の義務違反はない。(イ) 法律上保護された利益の侵害がないこと 法律上保護された利益の侵害がなければ,国家賠償法上の違法行為は成立しないと解されるところ,本件においては法律上保護された利益の侵害はない というべきである。亡Aは,本件処分(1)によって精神的損害を被ったとして慰謝 料を請求しているが,本件処分(1)による回復し得ないような法的利益の侵害はな く,国家賠償法上保護された利益は存在しないというべきである。イ 故意・過失の有無
(ア) 厚生労働大臣等に故意・過失がないこと
被爆者援護法2条1項が,被爆者健康手帳の交付申請先について,一 義的に明確な文言をもって「その居住地(居住地を有しないときは,その現在地と する。)の都道府県知事」と規定していることや,本件処分(1)当時,国外からの被爆者健康手帳の交付申請が直接問題となった訴訟事案は存在しなかったこと,前 記被爆者援護法の立法経緯等の諸事情に照らせば,被爆者健康手帳の交付につき, 日本国に居住又は現在しない被爆者からの申請を認めないとの実務には相当の根拠 があったというべきであり,厚生労働大臣等につき,国家賠償法上の故意又は過失 が認められないことは明らかである。(イ) 広島県知事に故意・過失がないこと 上記で述べたことからすれば,広島県知事が,第1号法定受託事務として全国統一的な処理が必要とされていた被爆者健康手帳交付事務において,被爆 者援護法2条1項に基づいて本件処分(1)を行ったことについて,国家賠償法上の 故意又は過失が認められないことは明らかである。ウ 損害について 亡Aは,前件訴訟最高裁判決により,402号通達の失権取扱いの定めが廃止されるまで長期間にわたり原爆三法に基づく援護措置の対象外に置かれ,被 爆による特異な健康被害に苦しみつつ,健康面や経済面に不安を抱えながら生活を 続けることを余儀なくされた様々な精神的苦痛について,120万円(慰謝料10 0万円,弁護士費用20万円)の損害賠償を認められており,本件処分(1)について, これとは別の損害賠償として慰謝すべき精神的損害は認められない。7 争点(3)(本件処分(2)に関する国家賠償法上の違法,厚生労働大臣等及び広 島市長の故意・過失の有無並びに亡Dの損害)に関する当事者の主張(1) 控訴人Cの主張
ア 違法行為の成否
(ア) 厚生労働大臣等の違法行為
厚生労働大臣等が国外からの健康管理手当の認定申請を認めないとの 解釈を取っていたのは,被爆者援護法が,健康管理手当の認定申請手続の定めを下 位の法令(同法施行令,同法施行規則)に委任しているところ,これを定めた同法 施行規則は,申請書を被爆者の居住地の都道府県知事に提出しなければならない(施行規則52条)としており,これを限定列挙とみて,被爆者が国外に居住している ときには,その居住地の都道府県知事は存在しないから,国外からの申請権は認め られないことを根拠としている。しかし,亡Dは,被爆者健康手帳の交付を受けた被爆者であり,かつ,健康管理 手当の支給対象となる疾病に罹患し,健康状態を管理する必要のあることは,大韓 民国の医師が診断した結果を記載した診断書によっても明白であった。このことに よって,健康管理手当支給請求権は実体的に発生するのであり,健康管理手当認定 申請書の提出行為は,その請求権の実現のための手続行為にすぎない。被爆者援護法27条は,健康管理手当の支給義務を負う者を単に「都道府県知事」 とのみ規定し,「居住地の」との限定をしていない。そして,健康管理手当の支給 義務を負う者が同支給認定申請を受ける者とみるのが当然であるにもかかわらず, 前述のように,施行規則52条は,被爆者が日本国内に居住していない限り,健康 管理手当の支給を受けられないかのように規定している。法律上は「居住地の」と いう限定がないことにかんがみれば,施行規則52条のような規定をおくことは, 法律の委任の趣旨に反するものであって違法である。本来であれば,厚生労働大臣等は,402号通達の改定に伴う政令,省令の改正 を行う際に,施行規則52条において,「居住地の都道府県知事」に申請書を提出 するとしている部分は,被爆者健康手帳の発給を管理する被爆者台帳に当該申請者 を記載している都道府県知事に提出するように改める必要があった。ところが,厚 生労働大臣等は,そうした措置を全く執ることなく,広島市長に対し,国外に居住 している「被爆者」からの健康管理手当認定申請を却下する扱いを継続するよう指 示した。(イ) 広島市長の違法行為 広島市長は,健康管理手当の認定申請について,申請書を居住地の都道府県知事(広島市内の場合は広島市長)に提出することを要件とすることを改め, 国外からの認定申請に対してもこれを受け付けることとして,亡Dに対して健康管理手当を支給すべきであった。ところが,広島市長は,厚生労働大臣等の上記指示 を受けて,亡Dの健康管理手当の認定申請に対して,これを却下する本件処分(2) を行った。(ウ) 法律上保護された利益の侵害 健康管理手当に関しては,長崎地裁平成16年9月28日判決,同地裁平成17年3月8日判決により,日本政府の対応の違法性が裁判所において明確 にされていた。しかし,被控訴人国は,その後も従前の取扱いを変更しなかった。
 そのため,亡Dはやむなく本件訴訟を提起したが,訴訟継続中の平成▲年▲月▲日 に死亡した。このような事実経過において,亡Dは,多大な精神的苦痛を被ったの であり,法律上保護された利益が侵害されたことは明らかというべきである。(エ) このように,厚生労働大臣等が,平成15年3月1日以降,国外か らの健康管理手当の認定申請を受理するよう政令・省令において明確に整備すべき であったのにこれを怠り,また,広島市長が違法な本件処分(2)を行い,亡Dに精 神的損害を与えたことは,国家賠償法上違法である。イ 故意・過失の有無
控訴人Bの主張と同じ。
ウ 損害は填補されていないこと 控訴人Bの主張と同じ。
(2) 被控訴人国及び同広島市の主張 ア 違法行為の成否
(ア) 適法であること
1 厚生労働大臣等の行為について
被控訴人らは,被爆者援護法が,健康管理手当の支給を行う「都道 府県知事」として「被爆者の居住地又は現在地の都道府県知事」を予定し,かつ, 国外を居住地又は現在地とする被爆者からの健康管理手当の認定申請を予定してい ないと解釈してきた。しかし,これと異なる同法27条の解釈により,施行規則52条が同法27条に反すると解釈されるとしても,以下に述べるとおり,同条につ いての当時の被控訴人らの上記解釈は相当の根拠を有しているというべきである。
 まず,被爆者援護法は,平成6年,旧原爆二法を一本化して制定されたものであ るところ,旧原爆二法は,被爆者健康手帳や健康管理手当について,国外からの申 請を一切認めていなかったから,旧原爆二法を一本化して制定された被爆者援護法 も,国外からの申請を予定しておらず,被爆者健康手帳や各手当の申請先はその居 住地又は現在地の都道府県知事でなければならないと解釈することは,相当の根拠 があるというべきである。また,被爆者援護法立法当時の国会の審議において,特 段「国外からの申請を認める」旨の審議がされずに,旧原爆二法と同様の規定を有 する被爆者援護法が可決成立している。このような審議経過からみても,被爆者援 護法において,旧原爆二法と同様に国外からの申請は認められないとする立法者意思が存在すると解することについて相当の根拠があるというべきである。 更に,本件処分(2)当時(平成17年3月23日),健康管理手当の認定申請却 下処分の適法性が争われた長崎地裁における健康管理手当認定申請却下処分取消請 求事件(長崎地裁平成16年9月28日判決。なお,福岡高裁平成17年9月26 日判決により控訴棄却,確定)は被告長崎市長が控訴し,係争中であったし,広島 地裁における同種事件(なお,同地裁平成17年5月10日判決により請求認容)も係争中であった。 被爆者援護法に定める援護を受けるための前提となる被爆者健康手帳の交付申請については,同法2条1項において,「交付を受けようとする者は,その居住地(居 住地を有しないときは,その現在地とする。)の都道府県知事に申請しなければな らない。」とされている。この規定によれば,申請者は日本国内に居住又は現在す ることが前提とされ,国外からの申請を想定していない。そして,被爆者援護法は, このような「被爆者」に関し,「被爆者の健康の保持及び増進並びに福祉の向上を 図るため,(中略)被爆者に対する援護を総合的に実施するものとする。」(同法6 条)とし,そのために,都道府県知事が,健康管理のための健康診断等(同法第三章第二節),各種手当等の支給(同第四節),福祉事業(同第五節)を行うものと している。このように,居住地又は現在地の都道府県知事から被爆者健康手帳の交 付を受けた被爆者に対し,都道府県知事によって同法所定の各種援護措置が実施さ れるのであり,その申請を受けるものも「都道府県知事」とされているのであるか ら,当該都道府県知事が各種援護措置を実施する範囲は,当該都道府県に居住又は 現在する住民であると解するのが自然である。換言すれば,健康管理手当の認定申 請を受けるものである被爆者援護法27条の「都道府県知事」は,その居住地(居 住地を有しないときは,その現在地とする。)の都道府県知事と解するのが自然で あり,そのように解することには相当の根拠があるといえる。以上,被爆者援護法の立法経緯や法構造等に照らすと,施行規則52条の規定に は相当の根拠があり,それらの規定に従って行政実務を取り扱うことにも相当な根 拠があったというべきである。したがって,厚生労働大臣等が施行規則52条を改 めることなく同条に基づいた指示等を行ったことに関して義務違反があるというこ とはできない。2 広島市長の行為について 広島市長の行った本件処分(2)は,国家賠償法上の違法はないというべきである。すなわち,国家賠償法上の「違法」とは,公権力の行使に当たる公 務員が,個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違反して当該行為をする ことをいうところ,広島市長による本件処分(2)の取扱いは,施行規則52条に従 うものであったし,同規定が被爆者援護法27条の合理的な解釈として是認できな いなどとする確定した裁判例は,本件処分(2)が行われた時点ではなかった。また,健康管理手当認定事務は,第1号法定受託事務であり,全国統一的な処理 が必要とされているところ,本件処分(2)当時(平成17年3月23日),前記長 崎地裁における健康管理手当認定申請却下処分取消請求事件や,広島地裁における 同種事件は,いまだ係争中であった。このような状況下で,広島市長は,本件処分(2)を行ったのであるから,広島市長は,本件処分(2)に当たり,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫 然と当該行為をしたとはいえず,職務上の義務違反はない。したがって,国家賠償 法上の違法は認められない。(イ) 法律上保護された利益の侵害がないこと 法律上保護された利益の侵害がなければ,不法行為は成立しないと解されるところ,本件においては法律上保護された利益の侵害もないというべきであ る。控訴人Cは,本件処分(2)によって亡Dが精神的損害を被ったとして慰謝料を 請求しているが,本件処分(2)による回復し得ないような法的利益の侵害はなく, 国家賠償法上保護された利益は存在しないというべきである。イ 故意・過失の有無
(ア) 厚生労働大臣等に故意・過失がないこと
仮に施行規則52条が違法であるとの判断を前提としても,厚生労働 大臣等が同条を改めることなく同条に基づいた指示等を行ったことに関して,国家 賠償法上の故意又は過失は認められない。すなわち,ある事項に関する法律解釈に つき異なる見解が対立し,実務上の取扱いも分かれていて,そのいずれについても 相当の根拠が認められる場合に,公務員がその一方の見解を正当と解しこれに立脚 して公務を執行したときは,後にその執行が違法と評価されたからといって,直ち に同公務員に故意又は過失があったものとすることは相当でない。健康管理手当の認定申請先については,被爆者援護法27条には単に「都道府県 知事」とあるが,本件処分(2)当時(平成17年3月23日),実務上「居住地又 は現在地の都道府県知事」と解され,施行規則52条もそのように規定されていた。
 このような解釈を否定する裁判例が現れたのは,前記長崎地裁平成16年9月28 日判決が初めてであった。本件処分(2)の後には広島地裁平成17年5月10日判 決もあったが,このような判断を示した判決が確定したのは平成17年10月12 日(上記長崎地裁判決の控訴審判決である福岡高裁平成17年9月26日判決(公 刊物未登載)が確定した日)であった(なお,これら先行した訴訟においては,いずれも取消訴訟において健康管理手当認定申請却下処分の違法性が争われたのみで あり,国家賠償法上の請求は訴訟の対象になっていない。)。このように,施行規則52条の規定の効力を否定する確定した裁判例もなかった ことや,被爆者援護法の立法経緯等にかんがみれば,同規定には相当の根拠があっ たというべきである。したがって,厚生労働大臣等に国家賠償法上の故意又は過失 が認められないことは明らかである。(イ) 広島市長に故意・過失がないこと 本件処分(2)が違法であると判断されることを前提としても,広島市長が,施行規則52条に立脚して本件処分(2)を行ったことには相当の根拠が認め られるというべきである。したがって,広島市長に,国家賠償法上の故意又は過失 は認められない。ウ 損害について 本案の争点(2)において述べたところと同じ。第3 当裁判所の判断
1 本案前の争点について
(1) 亡Aの死亡による本件処分(1)の取消訴訟の終了 被爆者援護法に基づく各種援護を受けるためには,被爆者健康手帳の交付を受けることによって同法1条にいう「被爆者」の地位を取得することが必要であ り,被爆者健康手帳交付申請自体には何らの法律効果も伴わない。そして,亡Aは 平成17年9月27日に被爆者健康手帳の交付を受けている。そうすると,亡Aに は本件処分(1)の取消しを求める法律上の利益(原告適格を基礎付ける法律上の利 益)は存在せず,したがってまた,これを実体法上承継するということも考え難い ことになる。以上によれば,本件処分(1)の取消訴訟は亡Aの死亡によって終了す るというべきである。控訴人Bは,亡Aは被爆者援護法1条にいう「被爆者」とし ての実体的要件を備えているのであるから,被爆者健康手帳の交付を申請すればそ の時点で「被爆者」として取り扱われ,各種手当の支給を受けることができたはずであると主張する。そして,被爆者健康手帳の交付を受けるためには,被爆者援護 法上,渡日することが不可欠であるとの被控訴人らの主張が採用し難いこと及び被 爆確認証の交付を受けている者が渡日して被爆者健康手帳の交付申請をした場合, 同法1条該当性の審査の実情が形式的なものであることは後述するとおりである。
 しかし,被爆確認証は被爆者援護法に根拠を持つものではなく,その交付を被爆者 健康手帳の交付と同一視することはできない。よって,控訴人Bの主張は採用でき ない。(2) 当審において追加された地位確認の訴えの利益
ア 亡Aが本件第1次申請をした平成16年11月16日時点において被爆者援護法に定める被爆者健康手帳の交付をもって取得する同法1条1号に定める被 爆者の地位にあったことの確認を求める訴えは,過去の法律関係の確認を求めるも のであって,特段の事情がない限り,訴えの利益を欠く。イ 控訴人Bは,被爆確認証の交付を受けていた亡Aについては,「被爆者」 の地位が確認されれば,本件第1次申請時に遡って健康管理手当の支給を受けるこ とができるから,地位確認の訴えが現在の法律関係の抜本的な解決に必要であると 主張する。しかしながら,被爆者援護法1条所定の「被爆者」の地位は被爆者健康 手帳の交付を受けることによって初めて取得されることになるものであって,それ 以前の「手帳の交付を受けることのできる地位」にあることからは何らの法的効果 も生じず,上記健康管理手当の支給を受けることができる権利も,同法1条所定の 「被爆者」の地位を得て初めて請求しうるもので,「手帳の交付を受けることので きる地位」に法的な意味は存しない。控訴人Bは,被爆者健康手帳の交付日はその申請時に遡ると主張し,その根拠 として,昭和37年4月16日衛発第278号厚生省公衆衛生局長通達において「従 来一般被爆者健康手帳の交付を受けていない者が新たに申請した場合は,申請した 年月日を交付年月日として交付すること。」と定められていることを挙げる。しか し,上記取扱いは当時の原爆医療法に基づくものではなく,また,亡Aが本件第2次申請をした平成17年9月27日時点において実施されていたわけでもない。し たがって,控訴人Bの上記主張は採用することができない。ウ 更に,前述したとおり,「被爆者」の地位は,相続の対象となるもので はないから,本人である亡Aが死亡した以上,被爆者援護法1条1号に定める被爆 者の地位にあったことを確認することに法的意味があるとは解されない。エ なお,控訴人Bは,現在の法律関係の抜本的な解決に必要な理由として, 遺族が葬祭料の支給を受けることができることを挙げるが,亡Aは,本件第2次申 請に基づき平成17年9月27日に被爆者健康手帳の交付を受けており,同人は平 成19年4月2日の死亡時点で既に被爆者健康手帳の交付を受けていたのであるか ら,葬儀を執り行った遺族は葬祭料の支給を受けることができる。したがって,控 訴人Bの上記主張は採用できない。2 本案の争点(1)(本件処分(1)の適法性) (1) 被爆者援護関係法昭和32年に制定された原爆医療法の目的は「被爆者が今なお置かれてい る健康上の特別の状態にかんがみ,国が被爆者に対し健康診断及び医療を行うこと により,その健康の保持及び向上をはかること」であり,被爆者健康手帳の交付手 続については「その居住地(居住地を有しないときは,その現在地とする。以下同 じ。)の都道府県知事(その居住地が広島市又は長崎市であるときは,当該市の長 とする。以下同じ。)に申請しなければならない。」と定める。また,昭和43年 に制定された原爆特別措置法の目的は「被爆者であって,原子爆弾の傷害作用の影 響を受け,今なお特別の状態にあるものに対し,医療特別手当の支給等の措置を講 ずることにより,その福祉を図ること」である。そして,この旧原爆二法を統合し て平成6年に成立した被爆者援護法の前文は,その立法趣旨について「健康被害に 苦しむ被爆者の健康の保持及び増進並びに福祉を図る」「原子爆弾の投下の結果と して生じた放射能に起因する健康被害が他の戦争被害とは異なる特殊の被害である ことにかんがみ,高齢化の進行している被爆者に対する保健,医療及び福祉にわたる総合的な援護対策を講(ずる。)」としている。
 これら被爆者援護関係法(原爆三法)には,適用対象者を日本国籍を持つ者に限定する国籍条項はない。
(2) 原爆医療法は「特殊の戦争被害について戦争遂行主体であった国が自らの責任によりその救済をはかるという一面をも有するものであり,その点では実質 的に国家補償的配慮が制度の根底にあ」り,したがって「不法入国者であっても, 被爆者である以上は,原爆医療法の適用外とすべきではない。このことは,(申請 人)が被爆当時は日本国籍を有し,戦後平和条約の発効によって自己の意思にかか わりなく日本国籍を喪失したものであるという事情をも勘案すれば,国家的道義の うえからも首肯される」ことになる(昭和53年3月30日最高裁第1小法廷判 決)。(3) 被爆者援護法成立時の国会審議 被爆者援護法に関する国会審議(平成6年12月1日衆議院厚生委員会)の場において,秋葉忠利委員が,在外被爆者が被爆者健康手帳の交付申請を在外公 館で行うことはできないかとの趣旨の質問をしたのに対し,当時の厚生省保健医療 局長は,在外公館で被爆者健康手帳の申請を受け付けることは法の適用上困難であ る旨の答弁をしている。(4) 在外被爆者の被爆者健康手帳の取得
ア 国は平成14年6月1日から「在外被爆者渡日支援等事業」を開始したが,同事業における被爆者健康手帳取得支援のうち,被爆確認証交付事業の内容は 次のとおりである(甲14)。「被爆者健康手帳又は健康診断受診者証の交付要件に該当すると認められる者の うち,健康上の理由等により渡日できない者に対し,被爆確認証を交付し,将来, 渡日した際の手帳又は健康診断受診者証の円滑な交付に役立てる。」「被爆確認証の交付を受けようとする者は,手帳又は健康診断受診者証の交付申 請手続に準じて申請することとし,県市は,手帳又は健康診断受診者証の審査に準じて審査し,交付する。」
イ 被爆確認証を取得した在外被爆者が渡日して被爆者健康手帳の交付申請を行った場合の広島県,広島市,長崎県及び長崎市の手続は次のとおりである(調 査嘱託結果)。そして,それによれば,パスポートによって出頭者が在外被爆者本 人であるかどうかを確認する作業が中心であり,実質的審査が行われることはほと んどないといわざるを得ない。広島県
「事前審査の書類の内容との確認が中心になる。」 「申請者以外に被爆状況を証明する者がいれば,必要に応じてその者からも申請者の被爆状況について聴取する。」 「本人確認のためのパスポート等の書類の提出以外は,実務上は,事前審査の段階で求めることにしている。」 広島市
「被爆確認証及びパスポートを提出させるとともに,通訳を介すなどして申請 者本人から面接により聴取する。」「渡日前に聴取した被爆時の状況の再確認を行う。なお,これらに矛盾点や相 違点がある場合には,必要に応じて,証人等関係者に対しその点を指摘し,説明を 求めることがある。」長崎県 「パスポート等による本人確認を行った後,申請書に記載されている内容の再確認を行っている。」 「新たに提出させる書類はない。」
長崎市 「申請書及び被爆確認証交付時の聴取記録と同様の申述が得られ,来庁者が申請人であることを確認できれば認定する。」
(5) 以上の諸事情を前提として,被爆者援護法2条が,在外被爆者が被爆者健康手帳を取得して各種援護を受けることのできる「被爆者」となるためには渡日 しなければならない旨を規定していると解すべきかどうかについて検討する。ア 確かに,同条は「被爆者健康手帳の交付を受けようとする者は,その居 住地(居住地を有しないときは,その現在地とする。)の都道府県知事に申請しな ければならない。」と定めており,この定めからすると,申請者は少なくとも日本 国内に現在することを前提としているように読むことができる。しかし,申請する に当たり日本国内に居住又は現在しなければならない旨を明示しているわけではな い。したがって,被爆者健康手帳交付申請のために日本国内に居住又は現在するこ とを要求することが同法の立法趣旨などからして不合理と考えられる場合には,同 条は申請者が日本国内に居住等している通常の場合について定めたもので,在外被 爆者が渡日することなく被爆者健康手帳交付申請をすることを否定する趣旨の定め ではないと解することも可能である。また,被爆者援護法制定時の衆議院厚生委員会の審議内容からすると,立法者は 在外被爆者が渡日しないままで被爆者健康手帳交付申請をすることを予定していな かったとも解することができる。しかし,法律における立法者意思は法文に示され た客観的記載内容から合理的に推認されるべきものであり,上記の事実は法律解釈 のための一つの資料となるにすぎないというべきである。イ そこで,在外被爆者に対し,各種援護を受けるためにはどのような事情 があっても一度は渡日し,現在地の都道府県知事に対して被爆者健康手帳の交付を 申請しなければならないとする合理的理由があるかどうかについて検討する。この 点については,平成14年6月1日から実施されている「在外被爆者渡日支援等事 業」における被爆確認証の交付と同証を有する在外被爆者が渡日した際の被爆者健 康手帳交付の実情からすると,渡日を絶対的要件とする必要性は高くはないといわ ざるを得ない。なぜなら,先に認定したとおり,被爆確認証の交付申請とそのため の審査手続は被爆者健康手帳のそれに準じて行われることになっていて,現実にそ のように実施されているところ,その結果,被爆確認証を交付された者については,渡日した際に行われることは,パスポートによって出頭者が在外被爆者本人である かどうかを確認することが中心であり,実質的審査がされることはほとんどないか らである。平成14年以降には行うことのできた審査が,被爆者援護法制定時の平 成6年当時に行うことができなかったとは認められない。確かに,在外被爆者については,その本人確認を書類で行うよりも渡日を求めて 直接聴取する方がより正確に行うことができるとはいえるであろう。しかし,在外 被爆者本人でない者が被爆者健康手帳を不正取得するという事態は一般的なことと はいい難く,仮に,それを防止する必要があるとした場合でも,書類審査では防止 できず,渡日を要求することによって初めて防止できるというような事例はごくわ ずかであろうと考えられる。また,在外被爆者からの被爆者健康手帳交付申請につき,書面審査では国内居住 者に比較して許否の判定が困難となることはあり得るであろう。しかし,そのよう な場合には例外的に渡日を求め,あるいは認定できない旨の判断をすれば足りるの であり,一律に渡日を要求する根拠とはなり難いと考える。被爆者援護法は,原爆医療法を基礎とする法であるから,「特殊の戦争被害につ いて戦争遂行主体であった国が自らの責任によりその救済をはかるという一面をも 有するものであり,その点では実質的に国家補償的配慮が制度の根底にある」(前 記最高裁判決)というべきであり,被爆後約50年を経過した平成6年に成立し, 翌平成7年7月1日から施行された被爆者援護法は,その前文で「健康被害に苦し む被爆者の健康の保持・・(中略)・・を図る」「高齢化の進行している被爆者に対 する・・(中略)・・総合的な援護対策を講(ずる)」としているところからすると, 上記のような稀な事例があることを理由として,既に高齢となっていて援護の必要 性が切実となっているであろう被爆者の健康上の不利益,経済的な不利益にもかか わらず,各種援護を受けるためには必ず渡日して被爆者健康手帳交付申請をするこ とを同法が要求していると解することは相当でない。実質的にみても,平成14年6月1日から実施された在外被爆者渡日支援等事業における被爆確認証交付の目的は,被爆者健康手帳の交付要件に該当すると認めら れる者のうち,健康上の理由等により渡日できない者に対し,被爆確認証を交付し, 将来,渡日した際の被爆者健康手帳の円滑な交付に役立てるというものであるが, 多くの在外被爆者の年齢からすると渡日できない健康状態が改善される蓋然性は高 くはないと考えられ,援護が最も必要な時期に,実質的審査は終了して交付要件に 該当すると認められているにもかかわらず,渡日していないとの一事で被爆者健康 手帳を交付しないことを合理的に説明することは困難である。ウ 以上のとおり,被爆者援護法2条は国外居住者からの被爆者健康手帳交 付申請を許されないとしているとは解することができないにもかかわらず,本件処 分(1)は亡Aが国外に居住していることのみを理由として行われたものであり,違 法である。3 本案の争点(2)(本件処分(1)に関する国家賠償法上の違法,厚生労働大臣等 及び広島県知事の故意・過失の有無)被爆者健康手帳申請手続に関する被爆者援護法2条1項の文言,同法成立時 の衆議院厚生委員会における政府委員の答弁内容は国外からの被爆者健康手帳交付 申請を否定するものであったこと及び本件処分(1)がされるまでに国外からの被爆 者健康手帳交付申請の可否につき,行政当局の基本方針を疑問とする司法判断が示 されたことはなかったことからすると,国及び広島県の担当者が,被爆者援護法は 国外からの被爆者健康手帳交付申請を容認していないと理解して統一的取扱いを行 い,そのような行政事務の一環として広島県知事において本件処分(1)を行ったこ とをもって,その職務上通常尽くすべき注意義務を尽くしていなかったとまでいう ことはできず,国家賠償法上の違法を肯定することはできない。よって,本件処分(1)を原因とする国家賠償請求は理由がない。
4 本案の争点(3)(本件処分(2)に関する国家賠償法上の違法,厚生労働大臣等 及び広島市長の故意・過失の有無並びに亡Dの損害)(1) 厚生労働大臣等について
被爆者援護法27条が規定する健康管理手当の受給資格者は同法1条にい う被爆者健康手帳の交付を受けた「被爆者」であるところ,同法2条1項は,被爆 者健康手帳の交付を受けるためには少なくとも日本に現在しなければならないよう な文言となっている。健康管理手当はこのような被爆者に対する援護措置であるこ とからすると,同法27条2項にいう都道府県知事とは居住又は現在する地の都道 府県知事と読むことにも条文の文理解釈としては相応の理由があるというべきであ る。また,内閣から提出された被爆者援護法制定の際には,平成6年12月1日の 衆議院厚生委員会及び同月6日の参議院厚生委員会において,委員からの質問に対 して政府委員(厚生省保健医療局長)は,援護対象者は日本国内に居住する者に限 定される旨を答弁し,援護対象者について政府側からこれ以外の説明が行われるこ とはないまま成立している。そして,本件処分(2)時点において,国外からの健康 管理手当認定申請はできないとの解釈を否定した裁判例は平成16年9月28日に 言い渡された長崎地裁判決のみであり,これについては控訴審に係属中であった。以上の事実関係からすると,本件処分(2)時点において,厚生労働大臣等が国外 から健康管理手当の認定申請を認めることはできないとの取扱いを維持していたこ とが,職務上通常尽くすべき注意義務を怠ったものであり,国家賠償法上違法であ ると評価することはできない。(2) 広島市長について 広島市長は法定受託事務として健康管理手当の支給手続を担当するものであるから,その事務処理手続の準拠法令である被爆者援護法施行規則52条が明ら かにその上位法令に違反しているといった特段の事情がない限りは,施行規則の定 めが結果として法律違反と判断されたとしても,広島市長が施行規則に基づいて行 った処分が国家賠償法上違法とされることはないというべきである。そして,(1) において述べた事情を考慮すると,広島市長が本件処分(2)を行ったことにつき上 記特段の事情があると認めることはできない。よって,広島市長が本件処分(2)を 行ったことが国家賠償法上違法であるとの控訴人Cの主張は採用できない。(3) なお,証拠(甲20,乙12,乙15)によれば,本件処分(2)は,平成 17年10月20日に取り消され,平成18年2月ころ,亡Dの相続人は,亡Dが 認定申請をした翌月である平成17年4月から同人が死亡した▲年▲月までの健康 管理手当を受領している。また,亡Dに対しては,前件訴訟最高裁判決により,4 02号通達の失権取扱いの定めが廃止されるまで長期間にわたり原爆三法に基づく 援護措置の対象外に置かれ,被爆による特異な健康被害に苦しみつつ,健康面や経 済面に不安を抱えながら生活を続けることを余儀なくされるなどの様々な精神的苦 痛について,120万円(慰謝料100万円,弁護士費用20万円)の損害賠償が認 められている。そして,一般的に違法な行政処分によって財産的損害を受けた場合 において,当該行政処分が取り消されて財産的損害が回復した場合には,原則とし て損害の填補は終了したと考えられる。上記のとおり,本件処分(2)によって亡D が被った財産的損害は回復されており,前件訴訟最高裁判決によって相当額の精神 的損害を認容されていることを考慮すると,厚生労働大臣等が国外からの健康管理 手当の認定申請を認めることができないとの取扱いを維持していたことが仮に国家 賠償法上の違法事由に該当するとしても,亡Dの精神的損害は回復されていると評 するのが相当である。第4 結論 以上によれば,亡Aが被控訴人広島県に対し本件処分(1)の取消しを求める訴えは亡Aの死亡により終了しており,控訴人Bが当審において追加的に変更した 地位確認の訴えは訴えの利益がなく不適法であるから却下し,控訴人Bのその余の 請求及び控訴人Cの請求はいずれも理由がないから棄却すべきであって,控訴人ら の控訴は理由がない。よって,控訴費用の負担につき民訴法67条,65条,61 条を適用して,主文のとおり判決する。広島高等裁判所第2部
裁判長裁判官 加 藤 誠
裁判官 廣 永 伸 行
裁判官 井 上 一 成
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