主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴の趣旨
(1) 原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。
 (2) 被控訴人の請求をいずれも棄却する。 (3) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
 2 控訴の趣旨に対する答弁 主文と同旨
第2 事案の概要 次に当審における控訴人の主張を付加するほか,原判決「第2 事案の概 要」欄に記載のとおりであるから,これを引用する。
 (1) 控訴人が経営する工学院専門学校の電気・電子工学科の生徒数は,平成8, 9年度に比較して,平成10年度には大幅に減少している。また,1,2年次合計 の在校生の数は,平成10年度が76名(府中校,西風新都校を合わせたもの。) であるのに,平成11年度は65名(ほか夜間部6名)であり,平成12年度は入 学生は24名,在校生は58名とさらに減少している。 (2) 次の事情を総合すれば,被控訴人が,通商産業大臣に文書を送付しただけで なく,直接又は第三者と共謀して,広島県知事,国立江田島青年の家等へ匿名文書 を送付したことが十分認定できる。
 1 広島県知事宛の文書(乙10の2)は,被控訴人と対立関係にあったA学 科長のことが詳しく記載され,6月15日現在においてもB理事長やA学科長が謝 罪していない旨の記載があること,学校長が出席簿を書き直して提出したという特 定の講師しか知らない記述があること,被控訴人が詳しい電気工事士法に関する記 述があることから,控訴人の内情に精通した者が作成したとしか考えられず,被控 訴人以外の者が作成したとは考えられない。
 2 過去に,広島県等関係機関に控訴人に関する投書がなされたことはなく, すべての匿名文書送付が被控訴人の通商産業大臣に対する平成11年4月4日の内 容証明郵便送付の前後になされている。第3 証拠 原審及び当審記録中の証拠関係目録に記載のとおりであるから,これを引用 する。第4 争点に対する判断
 1 次項に原判決を補正し,第3項に当審における控訴人の主張に対する判断を 付加するほか,原判決「第3 当裁判所の判断」欄に記載のとおりであるから,こ れを引用する。2 原判決の補正 (1) 原判決11頁5行目の「21,」の後に「27,」を加える。 (2) 原判決11頁26行目の「及びF」を削除し,12頁1行目の「就労して おり,」を「就労し,平成9年度以降はFも同校の常勤講師として就労してお り,」と改める。 (3) 原判決17頁25行目の「乙9の2」を「甲6,乙36」と改める。
 3 控訴人の主張に対する判断(1) 控訴人の主張(1)について 控訴人は,平成10年度以降,電気・電子工学科の生徒総数は大幅に減少 していると主張するところ,この点に関する証拠(乙8の4,15ないし17,1 9の1・2,23,30,31,38の1・2)及び控訴人の主張の間には2年生 の数に齟齬があるが,仮に控訴人が当審で提出した乙38の1・2に従えば,電 気・電子工学科の生徒数は,平成8年が148名,平成9年が127名,平成10 年が103名,平成11年が80名(平成10年までは府中校,西風新都校を合わ せたもの。)と減少していることになる。しかし,前記(引用の原判決)認定のと おり平成11年度の入学者数は平成10年度入学者数を上回っており,控訴人は, その入学者数や上記生徒数を前提に,当初は被控訴人が講師として就労するものと して平成11年4月以降のカリキュラムを組んでいたのに,その後,被控訴人が同 月4日内容証明郵便を通商産業大臣に送付したことや,他にも関係各所に送付され た匿名文書が存在することを知り,被控訴人がこれらの文書を送付したものと考えるに及び(乙8の5・6,9の1ないし3,10の1ないし3,11の1・2,22,26の1ないし3,原審控訴人代表者本人),同年6月18日に第1解雇の通告をし,そのすぐ後にD,Eを採用しているのである。このことに,前記(引用の原判決)認定の事実を総合すれば,やはり,控訴人において被控訴人を解雇しなければならない必要性があったこと及び控訴人が生徒数の減少を慮って被控訴人の解雇を決定したことは認められない。
 なお,控訴人は,平成12年度の入学者数が24名であったとも主張するが,前記事情によれば,控訴人が当時この入学者数減少を予想して,被控訴人を解雇したものとは認められない。
(2) 控訴人の主張(2)について
 1 広島県知事に送付された文書(乙10の2)の内容に,秘密の暴露やそ れに類するような,被控訴人にしか記載できない事項が含まれているとは認められ ない。同文書には,学科長で就職担当であるAが生徒に恫喝的な発言をしている旨 の記載があるが,被控訴人以外の者がAの上記役職を知るのが困難であったこと や,同人が真実上記のような発言をしており,そのことを被控訴人のみが知り得た ことを認めるに足りる証拠はない。また,同文書には学校長(B理事長)が出席簿 を書き直した旨の記載があるが,それはB理事長らの社会的責任を一般的に追及す る内容に止まり,上事件ついて特定の講師でなければ知り得ない具体的事実を記載 したものとはいえないし,同文書の電気工事士法に関する記載も被控訴人にしかで きないものとは認められない。
 2 証拠(甲6,乙9の1ないし3,10の1ないし3,11の1・2,2 6の1ないし3,36)によれば,控訴人主張の各匿名文書の送付に先立つ平成1 1年4月27日,府中校において不十分な実習や講義に基づき修了証が交付されて いたことや出席簿が書き直されていたこと等が中国新聞によって報道されたことが 認められる。したがって,上新聞記事を読んだ者(控訴人の関係者のみでなく第三 者も考えられる。)が上匿名文書を関係機関に送付することも想定でき,仮に過去 に関係機関に控訴人に関する投書がなされたことがなく,被控訴人が通商産業大臣 に平成11年4月4日付け内容証明郵便を送付したのと近い時期にこれらが送付さ れているとしても,被控訴人が上各匿名文書を作成し送付したことを推認させる事 情とはいえない。
 3 平成11年4月4日の内容証明郵便以外の文書が通商産業大臣に送付さ れたことが認められないのは,前記(引用の原判決)説示のとおりである。また, 被控訴人が,控訴人主張の匿名文書の作成送付について第三者と共謀したことを窺 わせる証拠はない。
 4 よって,原判決は相当であり,本件控訴は理由がないので棄却し,控訴費用 の負担につき民訴法67条1項,61条を適用して,主文のとおり判決する。 広島高等裁判所第3部裁 判 長 裁 判 官 下 司 正 明
裁 判 官 檜 皮 高 弘
 裁判官野々上友之は転補につき署名押印できない。
裁 判 長 裁 判 官 下 司 正 明
(一審判決)
平成13年3月28日判決言渡
平成12年(ワ)第258号 地位確認等請求事件 口頭弁論終結日 平成13年1月24日 主 文
 1 原告が被告に対し,労働契約上の権利を有することを確認する。
 2 被告は,原告に対し,金375万7060円及びこれに対する平成12年2月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告は,原告に対し,平成12年2月以降本判決確定の日まで毎月25日限り金35万4900円を支払え。
4 被告は,原告に対し,平成12年以降本判決確定の日まで毎年8月10日限り金73万5000円を,同12月末日限り金73万円を支払え。
5 原告の本件訴えのうち,本判決確定後に支払期が到来する金員の支払を求める部分はいずれも却下する。
6 訴訟費用は被告の負担とする。
7 この判決は,第2ないし第4項に限り,仮に執行することができる。事実
及 び 理 由
第1 請求
1 主文第1,2項と同旨
 2 被告は,原告に対し,平成12年2月以降毎月25日限り金35万4900 円を支払え。
 3 被告は,原告に対し,平成12年以降毎年8月10日限り金73万5000 円を,同12月末日限り金73万円を支払え。第2 事案の概要 本件は,被告に解雇された原告が,右解雇はその効力が発生する日が特定さ れておらず,あるいは,解雇権を濫用するものであって無効であると主張して,被 告に対し,労働契約上の権利を有することの確認と,平成12年1月までの未払賃 金(給与及び一時金)合計375万7060円並びに同年2月以降の毎月の給与及 び年2回の一時金(賞与)の支払を求めている事案である。
 1 争いのない事実等(1) 当事者 ア 被告は,いわゆる専修学校を5校設置している学校法人である。 イ 原告は,平成5年10月1日に被告との間で雇用契約を締結し,当初は 被告の設置する広島県安芸郡a町所在の広島工学院専門学校(合併前のもの。以 下,「府中校」という。)の講師として,平成8年3月からは被告の設置する広島 市b所在の広島工学院専門学校西風新都校(以下「西風新都校」という。)の講師 として就労し,いずれも電気・電子工学科を担当していた者である(乙29)。 (2) 平成11年6月18日の解雇通知 被告理事(被告内において「理事長」との呼称を使用)のB(以下「B理 事長」という。)は原告に対し,平成11年6月18日に,同年7月20日をもっ て原告を解雇する旨を口頭で通告した(以下「第1解雇」という。)。 (3) 平成11年7月2日の解雇通知 B理事長は原告に対し,以下の内容の同年7月2日付け解雇通知書を交付 して,改めて原告の解雇を通告した(このうち,同月5日をもって解雇するとの部 分を,以下「第2解雇」という。)(甲8)。 「(一) 貴殿は当学園経営の広島工学院専門学校西風新都校講師として勤務 してまいりましたが,電気・電子工学科の生徒数が大幅に減少したことに伴い,当 学園が平成11年4月広島工学院専門学校及び広島工学院専門学校西風新都校の合 併を実施したことにより,当学園は,平成11年6月18日,就業規則第50条 (解雇)4号(事業の縮小その他学園の都合によりやむを得ない事由がある場合) を適用して貴殿を平成11年7月20日をもって解雇する旨口頭で通知いたしまし た。 ここで改めて文書で通知いたします。 (二) なお,貴殿はその後前記解雇が無効である旨主張されておりますの で,当学園は二次的に,貴殿の下記行為は就業規則第30条(服務の基本原則), 第31条(服務心得)2号・3号・4号に違反するものであり,その行為は同規則 47条(懲戒解雇)7号・8号に該当するところ,諸情状を勘案して平成11年7 月5日付けをもって解雇いたします。 (1か月分の解雇予告手当は支払いますので受領して下さい。) 記 (1) 貴殿は当学園に平成7年12月1日付け資源エネルギー庁公益事業 部長通達(以下通達という)違反があったことをとらえ,それを当学園に上申して 改善方を要請する等の行為をすることなく監督機関である通商産業大臣宛文書通知 をなしただけではなく,広島県知事,国立江田島成年の家等へ直接又は共謀して匿 名の文書を送付して当学園の業務を混乱させると同時に,当学園の名誉・信用を著しく傷つける行為に及んだものである。 (2) また,貴殿は貴殿担当の授業において,本来の授業目的を逸脱し て,生徒に対し当学園の信用にかかわるアンケート調査を実施し,もって自己の校 務上の権限を越える専断的行為に及んだものである。」(4) 原告の賃金 ア 被告の原告に対する給与は,毎月21日から翌月20日までのものが同 月25日に支払われるところ,平成11年4月から同年6月までの原告の給与総額 は106万4700円であり,平均すると1か月当たり35万4900円となる。 そして,原告は,平成11年7月6日からの給与の支払を受けていない ところ,同月20日までの就労日11日分の給与は16万2660円となり,これ に同年8月分から平成12年1月分までの給与合計額を加えると,同月までの未払 給与相当額の総計は229万2060円となる。 イ 被告の原告に対する一時金(賞与)は,夏期一時金が毎年8月10日ま でに,冬期一時金が毎年12月末日までに支払われるところ,平成10年の原告の 一時金は,夏期一時金が73万5000円,冬期一時金が73万円であった。 そして,原告は,平成11年の一時金の支払を受けていないところ,同 年の未払一時金相当額の総計は146万5000円となる。2 争点 (1) 効力が発生する日が特定されていないため解雇が無効といえるか (原告の主張) 本件では,原告の解雇の日が平成11年7月5日なのか同月20日なのか 不明であり,解雇の効力が発生する日が特定されておらず,無効である。 (被告の主張) 争う。
(2) 解雇権の濫用により解雇が無効といえるか
ア 第1解雇
 (被告の主張) 平成11年6月18日の解雇通知の理由は,生徒数の大幅な減少により 府中校と西風新都校を合併させたこと,将来原告が担当している電気・電子学科の 生徒はさらに減少することが予想されたことから,被告就業規則第50条第4号 (事業の縮小その他学園の都合によりやむを得ない事由がある場合)に該当するこ とによるものである。
 原告を人選した理由は,原告が平成9年4月1日から西風新都校の学科 長であったにもかかわらず,平成10年度の同校の入学者がわずか6名になったか らである。その背後には,当然のことながら,後記イのとおり,原告に被告との信 頼関係を喪失させる行為があったものである。 なお,被告は,原告の担当であった電気・電子工学科の講師として,平 成11年6月21日付けでD(以下「D」という。)を,同年7月5日付けでE (以下「E」という。)を採用しているが,Dは1年契約の臨時講師であり,Eは 工事担任を主として担当する者として通商産業省の通達基準を充たすために採用し たものである。また,Eはデジタル・アナログ専門の講師で原告とは担当職種を全 く異にする。平成12年度はさらに電気・電子工学科の生徒は大幅に減少し,常勤 講師・非常勤講師とも大幅に減員したものである。 (原告の主張) 原告は平成11年6月18日の時点で解雇理由の開示を求めたが,被告 はこれに応じなかった。 そもそも,原告の担当である電気・電子工学科に,同年6月21日にD が,同年7月5日にEが採用されているのであるから,被告の事業縮小の有無にか かわらず,電気・電子工学科に講師が不要になったため原告が解雇されたのでない ことは明らかである。 なお,生徒の減少を理由とし,その「背後」に被告との信頼関係喪失が あるとの主張は趣旨が不明である。かえって,当初から,被告内の悪事を外部に漏 らした原告の解雇に執着したことがうかがえる。イ 第2解雇
 (被告の主張)
(ア) 通商産業大臣等への文書送付 被告は,平成11年3月26日,中国通商産業局から調査を受け, その過程で,府中校につき,実習について教員1人当たりの生徒の数はおおむね10人を超えないものとする通達に違反しているとの告発があったことを伝えられ た。そこで,被告は中国通商産業局に対し,管理が十分でなかったことを素直に認 めたところ,同局は被告に対し,同年4月26日付けで改善指導書を発し,被告は 同日付けで学内調査報告書及び始末書を同局に提出して,一応の解決となった。
 しかし,上記調査の過程で,原告が通商産業大臣に対し,同月4日 付け内容証明郵便を一方的に送付していることが明らかになったほか,それ以前に も3回にわたって同趣旨の文書が通商産業大臣に送付されていること,上記問題が 一応の解決をみた以後である同月下旬の日付けで,被告の通達違反が報道された中 国新聞の切り抜きを添付して,匿名の文書が広島県知事,国立江田島青年の家所長 及び三瓶青年の家所長に送付されていること,同年6月中旬ころ,再度広島県知事 及び岡山県知事に同様の文書が送付されていることも明らかとなった。このうち, 同年4月4日付け内容証明郵便は原告が実名で送付しているが,その他の文書につ いても内容からみて原告が直接送付したものか,第三者と共謀してなしたものとし か考えられないものであった。 このように,原告は,被告の業務を混乱させると同時に,被告の名 誉,信用を著しく傷つける行為等に及んだものである。 (イ) 生徒へのアンケート調査 同年6月28日,原告は,自己の担当する授業において,授業とは 全く関係のないアンケート調査を行い,被告はこのアンケート調査について生徒か らクレームを受けた。また,原告は,アンケート用紙や生徒の回答書を提出するよ うにとの業務命令にも応じなかった。 原告のアンケート調査は,本来の授業目的を逸脱したものであり, 被告の名誉,信用を傷つけるものであることは明らかである。 (原告の主張)(ア) 通商産業大臣等への文書送付 平成11年4月4日付け文書を原告が送付したことは認める。同年 3月29日から同年4月2日にかけて,原告は,平成8年度から3年分の出席簿 を,府中校の電気実習に関与していないにもかかわらず関与したかのように書き直 すよう,B理事長及びその息子である同校副校長C(以下「C副校長」という。) らから求められたため,原告には,監督機関へ通知する以外に改善方を選択しうる 余地はなかった。また,被告の業務の混乱と名誉,信用が傷つけられたとの主張は 不知であるが,仮に存したとしても,被告自身の故意と落ち度により惹起されたも のである。 また,知事や青年の家等への文書を原告が送付したことはない。 (イ) 生徒へのアンケート調査 生徒へのアンケート調査は,電気実習における生徒の安全確保の観 点から行ったもので,全く問題はなく,被告の利益を害するものではない。 第3 当裁判所の判断
 1 争点(2)(解雇権の濫用による解雇無効の成否)について (1) 争点(2)ア(第1解雇)について ア 被告は,第1解雇の理由として,電気・電子工学科の生徒数が大幅に減 少したことにより府中校と西風新都校とを合併させたこと,将来同科の生徒はさら に減少することが予想されたことを主張する。 イ この点,証拠(乙8の4,15ないし17,19の1・2,23,3 0,31)によれば,確かに,府中校の電気・電子工学科の入学生数は平成8年度 で41名,平成9年度で51名であったのに対し,平成10年度には31名と減少 したこと,西風新都校の電気・電子工学科の入学生数も平成8年度で24名,平成 9年度で19名であったのに対し,平成10年度で6名と減少したことが認められ る(なお,上記各証拠間においては,2年生の数や資格取得者の数等に齟齬がみら れるものの,上記入学生数のみは一貫しており,この限度で信用し得る。)。ま た,証拠(乙4,29)によれば,被告は平成11年4月1日に,府中校の機械情 報工学科,建築工学科及び電気・電子工学科と,西風新都校の自動車整備工学科, 自動車車体整備研究科,建築デザイン科,建築工学科,電気・電子工学科及び土木 測量工学科とを合併させて,学校名を府中校と同じ広島工学院専門学校とし,西風 新都校の所在地に設置したこと(以下,合併後の同校を「広島工学院専門学校」と いう。),残る府中校の自動車整備工学科を広島自動車整備専門学校として府中校 の所在地に設置したことが認められる。 ウ しかしながら,証拠(乙15,17,19の1,30,31)によれば,原告が解雇された年度である平成11年度の広島工学院専門学校における電 気・電子工学科の入学生数は40名であることが認められるのであって(なお,乙 第23号証には34名との記載があるが,上記各書証との対比や被告代表者の供述 等に照らし,誤記と認める。),平成8,9年度よりは減少しているものの,少な くとも平成10年度における府中校と西風新都校における入学生数の合計よりもや や増加しているということができる。しかも,証拠(乙23,30,31)によれ ば,上記入学生以外にも,平成11年度に新設された広島工学院専門学校電気・電 子工学科夜間部の入学生が同年度で6名いることが認められ(乙第15号証には5 名との記載があるものの,これも誤記と認める。),これに上記の入学生数40名 を加えると,前年度よりもさらに増加しているものということができる。 さらに,証拠(甲6,乙6,8の1・2,21)によれば,平成7年1 2月1日7資公部第416号資源エネルギー庁公益事業部長通達「電気工事士法第 四条第四項第二号の規定による養成施設の指定について」(以下「本件通達」とい う。)には,「実習における教員1人当たりの生徒の数は,おおむね10人を超え ないものであること。」と規定されているところ,被告は平成8年10月9日,府 中校電気・電子工学科電気工事士コースについて電気工事士法4条4項2号の規定 に基づく養成施設の指定を受け,同コースについて以後本件通達が適用されたこ と,しかしながら被告は本件通達の上記要件を充たす教員数を配置していなかった ため,平成11年4月26日,中国通商産業局からこれを指摘され,同年6月1日 までに本件通達の指定の基準に定められた資格を有する教員を配置することなどの 指導を受けたこと,これに対し被告は同日付けで,実習教員が不足していたことを 認めたうえ,今後は授業をすべて有資格者に行わせ,電気実習の教員の定員を確実 に守ることなどを約し,併せてハローワーク等において教員資格者を募集中である ことなどを報告したこと,同年4月27日付けの中国新聞にも,B理事長の「教員 を補充するなど改善を進めたい」との発言が掲載されていることが認められる。こ れらの事実からは,原告が解雇通知を受けた直前の段階では,府中校ないし広島工 学院専門学校の教員数は余剰がないばかりか,かえって緊急に増員しなければなら ない状況にあったものということができる。 加えて,被告が,原告への1回目の解雇通知からわずか3日後の同年6 月21日にDを,また2回目の解雇通知と同日の同年7月5日にEを,いずれも広 島工学院専門学校電気・電子工学科の講師として採用していることは当事者間に争 いがない。この点,被告は,Dは1年契約の臨時講師であると主張するが,被告代 表者であるB理事長は,契約期間終了後である平成12年12月6日時点でも被告 はDを依然として雇用している旨供述しているうえ,同人作成の陳述書(乙16) には,Dを採用したのは生徒数10人に教員1人という本件通達の基準を充たすた めである旨の陳述記載もある。また,被告は,Eは本件通達の基準を充たすために 採用したものであると主張するが,この主張自体,生徒数の減少により原告を解雇 しなければならなかったとの被告の主張とは相容れないばかりか,B理事長作成の 陳述書(乙16)には,Eを採用した理由が原告を解雇したことにあるとの陳述記 載もあるのであって,そうであるとすればなおさら,原告を解雇する必要性に欠け ていたものといわざるを得ない。さらに,被告は,Eの担当職種は原告の担当職種 と全く異なると主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。 エ 以上からすれば,本件においては,被告の主張する生徒数の大幅な減少 や将来の生徒数のさらなる減少が予想されたことを認めるに足りる証拠はないばか りか,かえって,被告が原告に対して解雇を通知した当時,本件通達の基準を充た すために教員を増員する必要があったこと,現にD及びEを講師として採用してい ることなどに照らせば,被告が被告就業規則第50条第4号の規定に基づいて原告 を解雇しなければならない必要性があったものとは到底いうことができない。 したがって,第1解雇は,解雇権の濫用に該当し,無効である。 (2) 争点(2)イ(第2解雇)についてア 通商産業大臣等への文書送付 (ア) 原告は,第2解雇の理由として,まず,原告が関係各所に文書を送 付し,これにより被告の業務を混乱させるなどしたことを主張する。 (イ) この点,原告が平成11年4月4日に通商産業大臣に対して内容証 明郵便を送付した事実は当事者間に争いがなく,この事実に前記(1)において認定し た事実,前記第2の1の争いのない事実等及び証拠(甲4,6,12,21,24 の1・2,25,乙6,7,8の1ないし6,16,21,28の1・2,30な いし32,原告本人,被告代表者。ただし,後記(ウ)において指摘した部分を除く。)を併せれば,以下の事実が認められる。
a 原告の採用
 原告は,平成5年10月1日,被告との間で雇用契約を締結し,以後被告の府中校で常勤講師として就労した。なお,当時,西風新都校はまだ設立されていなかった。
b 西風新都校の設立と府中校の養成施設指定
 その後,被告は,新たに西風新都校を設立することを計画した。同校設立の際には原告も同校の講師として就労することとなり,平成7年6月,被告は原告に対して西風新都校設立の常勤講師に就任することを承諾する旨の書面の提出を求め,原告は,同月1日付けの同書面を被告に提出し,被告はこの就任承諾書を広島県に提出した。平成8年3月,西風新都校が設立され,原告は同校へ赴任し,同年4月以降は同校の常勤講師として就労した。
 一方,被告は,同年3月1日,通商産業大臣に対し,府中校電気・電子工学科について電気工事士法4条4項2号の規定に基づく養成施設の指定を申請し,その中で原告やF(以下「F」という。)らも府中校の専任の教員として申請した。これに対し,通商産業大臣は,同年10月9日,被告に対し,府中校電気・電子工学科電気工事士コースについて同法の規定に基づく養成施設として指定した。しかしながら,同年4月以降は原告及びFは西風新都校の常勤講師として就労しており,平成8年度前期(同年4月ないし9月)は原告が府中校の電気実習の応援に行ったこともあったが,同年度後期(同年10月ないし平成9年3月)以降は両名とも西風新都校の授業のみを担当していた。したがって,府中校については,通商産業大臣への申請書上は教員1人当たりの生徒の数はおおむね10人を超えないとする本件通達に定める養成施設指定の基準が充たされていたものの,就労実態としては充たされていない状態であった。
c 府中校の西風新都校への移転計画
 被告は,平成10年ころ,府中校を西風新都校の所在地に平成11年で移転(後に合併)させることを計画し,平成10年4月1日付けで当時西風新都校の校長であったGを移転実行委員長とするなど計画を進行させた。
 同年4月20日,被告は,西風新都校で就労していた原告とFに対し,府中校の兼任講師に就任する旨の書面の提出を求め,原告とFは同月1日付けの同書面を被告に提出した。被告は,同年5月20日,通商産業大臣に対し,この兼任承諾書を添付して,養成施設の教員の項を平成9年4月1日に遡って変更するなどの変更届を提出した。
 被告は,府中校と西風新都校とを合併させた後の広島工学院専門学校を養成施設とすべく,平成11年2月26日,通商産業大臣に対し,電気工事士法4条4項2号の規定に基づく養成施設の指定を申請した。
d 出席簿及び出勤簿の書き直し
 同年3月26日,中国通商産業局が西風新都校に立入検査を行い,資料の提出を求めた。
 これに対し,同月29日,B理事長は,府中校のC副校長及び同校の講師3名とともに西風新都校に行き,原告とFを呼んで,平成8年度から平成10年度までの府中校の出席簿と出勤簿を,原告とFが平成8年度後期以降は同校には出勤していなかったにもかかわらず,出勤していたように書き直すことを指示し,B理事長も含めた7名で書き直しを行った。この書き直しは同月30日まで続いた。
 同月31日,C副校長から,今度は西風新都校の出席簿と出勤簿の書き直しが必要であるとの指示があり,同校の書き直しが同年4月2日までなされた。
 これらの書き直された両校の出席簿及び出勤簿は,いずれも被告が中国通商産業局に提出した。
e 通商産業大臣への内容証明郵便の送付
 原告は,同月4日,通商産業大臣に対し,同年3月下旬に西風新都校に中国通商産業局の立入検査があり,資料の提出が求められたこと,これに関し,原告はB理事長とC副校長から,平成8年度から平成10年度にかけて原告が府中校に出勤していたように学生の出席簿を書き直すよう命じられたこと,しかしながら原告は,平成8年度の前期は週に1,2日程度府中校に出勤したことがあるが,同年度後期からはまったく同校に出勤していないことなどを記載した内容証明郵便を送付した。
f 中国通商産業局の指導 中国通商産業局は,同月26日,被告に対し,府中校につき本件通 達の規定する指定の基準に違反している点があったとして,同年6月1日までに本 件通達の指定の基準に定められた資格を有する教員を配置し,同日までに本件通達 で規定している実習の教員1人当たりの生徒数を遵守するよう教員の増員等を行 い,本件通達で規定している変更届出を速やかに行うよう指導した。
 これに対し,被告は,同年4月26日,学内調査報告書及び始末書 を中国通商産業局に提出した。 (ウ) 以上に対し,B理事長作成の陳述書(乙30)及びA(以下「A」 という。)作成の陳述書(乙34)には,出席簿及び出勤簿の書き直しは講師全員 が自然発生的に行ったとの陳述記載があるが,これら出席簿等は中国通商産業局に 提出する予定のものであり,そのような書面を書き直すという行為がB理事長の指 示なしに講師全員が自然発生的に行ったものとは到底想定しがたいうえ,B理事長 の別の陳述書(乙16)や同人(被告代表者)の供述には,同人自身が書き直しを 指示したことを認める旨の陳述記載ないし供述部分があるのであって,これらの事 情からすれば,出席簿等の書き直しはB理事長が講師らに指示したものであると認 められる。 また,被告は,B理事長が出席簿等を作成し直すよう指示したこと は認めつつも,それは内容の書換えではなく,1人の講師が担当して作成していた 出席簿を,実際に授業・実習を担当した講師がそれぞれ作成したように作成し直し たものである旨主張し,A作成の陳述書(乙34)にもこれに沿った内容の陳述記 載がある。しかしながら,中国通商産業局に提出する直前に作成し直すという危険 を冒しながらも内容自体は書き換えないということはにわかに想定しがたい。のみ ならず,前記(ア)bにおいて認定したとおり,被告は府中校を養成施設として申請 する 際に原告及びFを専任講師として中国通商産業局に届けながらも(後に兼任 講師として変更申請したことは前記(イ)c認定のとおり),原告及びFは平成8年 度後期以降は西風新都校の授業のみを担当していたのであって,この事実からすれ ば,府中校及び西風新都校の過去の出席簿及び出勤簿の内容は,原告及びFが西風 新都校のみに出勤して同校の授業等を担当し,府中校に出勤していなかったという 実態に沿ったものであり,就労実態としては府中校は本件通達の基準を充たしてい なかったことが明らかであったものと推認される。とすれば,出席簿等の書き直し が中国通商産業局から資料の提出を求められた直後のことであること,実際,被告 は書き直された出勤簿等を同局に提出したことの各事実も併せ考慮すれば,この出 席簿等の書き直しは,実際には府中校には出勤せず,したがって同校の授業等を担 当していなかった原告及びFが,同校にも出勤して授業等を担当していたかのよう に内容を書き直したものであったと認めるのが相当であり,これに反する上記A作 成の陳述書中の陳述記載は信用できない。 (エ)a なお,被告は,平成11年4月4日の内容証明郵便以前にも,原 告が直接又は第三者と共謀して,通商産業大臣に対してこれと同趣旨の文書を3回 にわたって送付したと主張する。 この点,B理事長作成の陳述書(乙30,32)には,府中校が 教員1人当たりの生徒の数はおおむね10人を超えないとの本件通達に違反をして いることの匿名文書が送付されたと通商産業省から伝えられた旨の陳述記載があ る。しかしながら,原告が送付した内容証明郵便は,中国通商産業局に提出する出 席簿等を書き直すよう命じられたことを知らせる内容であり,しかも原告の署名が あるものであって,B理事長が通商産業省から伝えられたとする匿名文書の内容と はやや異なるものであるうえ,そもそも原告がかかる匿名文書を直接又は共謀して 送付したことを証明する客観的証拠もないから,被告の上記主張はこれを認めるに 足りる証拠がないものといわざるを得ない。 b また,被告は,原告が直接又は第三者と共謀して,匿名の文書が 広島県知事,国立江田島青年の家所長,三瓶青年の家所長及び岡山県知事に送付し たと主張する。 この点,証拠(乙9の1ないし3,10の1ないし3,11の 1・2,26の1ないし3)によれば,匿名の文書が中国新聞の切り抜きとともに 被告主張の各所に送付された事実が一応認められる。しかしながら,原告が送付し た内容証明郵便とこの各匿名文書とを比較した場合,前者には原告の名前が明記さ れているのに対し,後者は匿名であることや,前者の内容は出席簿の書き直しを命 じられたことであるのに対し,後者の内容は本件通達違反の事実を伝え,B理事長の謝罪を求めるものであること,前者は手書きであるのに対し,後者はパソコンな いしワープロで作成されたものであること,前者は内容証明郵便であるのに対し, 後者は普通郵便で送付されたものであることなど,多くの相違点がみられる。 なお,被告は,原告が平成12年1月20日ころ,原告自身が別 途中国通商産業局に提出した文書の写しを同人の生徒らに送付し,それには上記各 匿名文書に同封されていた中国新聞の切り抜きと同じものが同封されていた旨主張 するところ,確かに証拠(甲21,乙24の1ないし4,原告本人)によれば,原 告が中国通商産業局に提出した文書の写しを生徒らに送付した事実が認められる。 しかし,これらの送付文書に中国新聞の切り抜きが同封されていたことについて は,原告が中国通商産業局に提出した文書の写しの末尾に「新聞イリ」と記載さ れ,その記載者であるHの署名押印のあるもの(乙30の添付文書)と,同人に確 認したとの記載のあるA作成の陳述書(乙35)しか存在せず,客観的証拠に欠け るものといわざるを得ないうえ,この点に関して被告が当初提出していた書証(乙 24の1ないし4)には中国新聞の切り抜きは含まれていないことなどの事情に照 らせば,原告が生徒らに中国新聞の切り抜きをも送付したことを認めるに足りる証 拠はないというべきである。むしろ,上記各書証によれば原告が中国通商産業局に 提出した書面は手書きであり,原告の署名があること,原告が生徒らに送付した封 筒の裏面にも原告の署名があることが認められ,これらの特徴は,原告が通商産業 大臣に送付した内容証明郵便とよく符合している一方,手書きではなく署名もない 上記各匿名文書とは相違しているということができる。 そして,他に原告が直接又は共謀して広島県知事らに匿名文書を 送付したことを認めるに足りる証拠はないから,この点についての被告の主張は認 めるに足りない。 (オ) 以上のとおり,被告の主張する各文書のうち,平成11年4月4日 の通商産業大臣に対する内容証明郵便以外の文書については,原告が直接又は共謀 して送付したことを認めるに足りず,通商産業大臣に対する内容証明郵便について も,これはB理事長から出席簿等の書き直しを指示されたことを伝えるものである ところ,B理事長がかかる指示をして書き直させ,これを中国通商産業局に提出し たことは到底正当な行為とは評価し得ないのであるから,原告が上司等被告内部の 者に相談することなく直接通商産業大臣に対して上記内容証明郵便を送付したとし ても,格別不当な行為であったということはできない。 イ 生徒へのアンケート調査 被告は,原告が生徒に対して行ったアンケート調査は本来の授業目的を 逸脱したものであり,被告の名誉,信用を傷つけたと主張したうえ,「6月28日 に学生に調査(I)1コマ目」と記載のある書面(乙12)は,かかるアンケート を復元したものであると主張する。 しかしながら,上記書面に記載されている内容は,実習内容を確認する もののほか,通達違反の点や校長の謝罪の有無といった点にも及んでいるものの, これらが直ちに本来の授業目的を逸脱しているともいいがたいし,また,被告の通 達違反の事実が既に新聞報道されていたこと(乙9の2)を考慮すると,アンケー ト調査の実施自体によって被告の信用等が失墜するとは認めがたく,少なくともア ンケート調査の実施が著しく妥当性を欠くものとはいうべきではない。さらに,原 告がアンケート用紙等の提出に応じなかったとの点も,原告本人は既に裁断して廃 棄済みであったと供述しており,原告が提出可能であるのに提出しなかったことを 認めるに足る証拠がない。 そして,他に,原告が本来の授業目的を逸脱して妥当性を欠いたアンケ ート調査をしたものと認めるに足りる証拠はない。 ウ 以上からすれば,被告が第2解雇の理由として主張する原告の文書送付 や生徒へのアンケート調査等の行為も,直ちに妥当性を欠くものとはいえず,他に 被告が第2解雇の理由を主張しない以上,同解雇は解雇権の濫用として無効であ る。2 結論 以上のとおり,争点(1)について判断するまでもなく,被告が主張する解雇は いずれも無効であるので,原告が労働契約上の権利の確認を求める請求は理由があ る。 また,原告の未払賃金請求のうち,訴え提起時に支払期日が経過していた部 分である平成12年1月までの未払賃金計375万7060円及びこれに対する訴 状送達の日の翌日である平成12年2月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由があり,一方,未払賃金請求のうち,平成12年2月以降毎月25日限り35万4900円並びに同年以降毎年8月10日限り73万5000円及び同12月末日限り73万円の支払を求める部分については,本判決確定の日までの分については理由があるものの,本判決確定後の分については,原告の労務提供がいつまでなされるか不確定であるから,将来請求としての訴えの利益を欠くものというほかなく,その部分の訴えは不適法であるから却下することとする。
 よって,主文のとおり判決する。
 広島地方裁判所民事第1部
 裁判長裁判官 田 中 澄 夫
裁判官 後 藤 慶 一 郎
裁判官 ・ 瀬 孝
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