第二 主文
一 原判決のうち、裁決に関する無効確認請求についての訴えを却下した部分を取り消す。
二 被控訴人が控訴人に対してした平成11年5月13日付け裁決(障福第557号)は無効であることを確認する。
三 控訴人のその余の本件控訴を棄却する。
四 訴訟費用は、第1、2審を通じてこれを3分し、その2を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 療育手帳の交付処分に関する主位的請求
 被控訴人が控訴人に対してした療育手帳(埼玉県第○○○○○号、「平成10年12月7日交付」と記載のあるもの)の交付処分のうち、「総合判定C」とある部分を取り消す。
3 同予備的請求
 被控訴人が控訴人に対してした療育手帳(埼玉県第○○○○○号「平成10年12月7日交付」と記載のあるもの)の交付処分のうち、「総合判定C」とある部分は無効であることを確認する。
4 裁決に関する請求
 被控訴人が控訴人に対してした平成11年5月13日付け裁決(障福第557号)は無効であることを確認する。
5 訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
第二 当事者の主張
一 控訴人の請求の原因
1 控訴人は、その父母(法定代理人)であるa及びb夫婦の長男として、昭和56年○月○日に出生した者で、知的障害を有する。被控訴人は、埼玉県に住む知的障害者に対して、被控訴人が定めた別紙1の療育手帳制度要綱及び別紙2の療育手帳(みどりの手帳)制度事務取扱要領に基づき、療育手帳の交付に関する事務を行う者である。
2 a及びbは、平成10年11月5日、療育手帳交付事務を担当する埼玉県α市役所障害福祉課を経由して、被控訴人に対し、控訴人に対する療育手帳の交付申請を行ったところ、被控訴人は、児童相談所の判定結果に基づき、別紙1の療育手帳制度要綱及び別紙2の療育手帳(みどりの手帳)制度事務取扱要領に従って控訴人の知的障害の程度を軽度、すなわち総合判定Cとする療育手帳の交付を決定(以下同交付決定のうち、知的障害の程度を総合判定Cとした部分を「本件認定」という。)し、平成11年2月1日、同療育手帳(以下「本件療育手帳」という。)を控訴人に交付した。
3 bは、平成11年3月1
8日、被控訴人に対し、本件療養手帳の本件認定に不服があるとして、「審査請求」(以下「本件審査請求という。)をしたところ、被控訴人は、同年5月13日、bに対し、療育手帳の交付は、各種行政サービスを受けやすくするための制度であり、本件認定は、行政事件訴訟法3条2項にいう行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為ではないから、本件審査請求は不適法であるとして、これを却下する旨の「裁決」をし(以下「本件裁決」という。)、本件裁決書は、そのころ、bに到達した。
4 療育手帳における知的障害の程度に関する本件認定は、特別児童扶養手当、障害者年金等の受給に実質的に関係し、控訴人の権利又は法的に保護されるべき利益に重大な影響を及ぼすものであるから、これをC(軽度)とした本件認定は、行政事件訴訟法3条2項にいう行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為であるというべきである。そして、知的障害者の障害の程度の判定は、社会生活への適応が極めて困難であるという事情を十分に考慮してなされるべきところ、本件認定は、一般的な知能テストによる知能指数のみに準拠してされており、療育手帳制度事務取扱要領に反するもので、違法であることは明らかである。
5 療育手帳の交付手続は、厚生労働大臣(当時の厚生大臣)を上級行政庁とする被控訴人の機関委任事務であり、被控訴人は、その事務を更に福祉事務所長に委任しているから、本件認定に不服がある場合には、被控訴人に対して審査請求ができ、被控訴人の裁決に不服がある場合には厚生大臣に再審査請求ができる。bは、控訴人を代理して本件審査請求を行ったものであるところ、被控訴人は、本件認定が行政事件訴訟法3条2項にいう行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為ではないとして、本件審査請求を審理しないで却下したものであり、本件裁決は、瑕疵があるから、無効であるというべきである。
二 被控訴人の本案前の主張
1 本件認定の処分性
 療育手帳制度は、法令によって定められたもの又は法令に根拠を置くものではなく、被控訴人の定めた「療育手帳制度要綱」に基づき知的障害者に対する一貫した指導、相談を行うことを目的とした非権力的な役務提供行為であって、療育手帳における知的障害の程度の判定は,対象者が知的障害者であることの証明を事実上容易にすることはあるものの、療育手帳の交付自体によって対象者に援助措置を受けられる権利ないし資格が生じるものではなく、したがって、知的障害の程度の判定を含む療育手帳の交付は、対象者の権利義務又は法律上の地位に影響を及ぼすものとはいえない。
 したがって、本件認定は、行政事件訴訟法上の処分には該当せず、本件認定の取消しを求める控訴人の訴えは、不適法というべきである。
2 本件認定取消の訴えの出訴期間の経過
 控訴人が本件認定を知った日は、控訴人の親権者であるbが療育手帳を受領した平成11年2月1日であるところ、本件認定取消に係る本件訴えは、同日から3か月以上経過した平成12年4月25日に提起された。本件認定について、審査請求はできないから、行政事件訴訟法14条4項の適用はなく、そうすると、控訴人の本件認定取消しの訴えは、同条1項の出訴期間を経過した後にされた不適法な訴えである。
3 控訴人を名宛人とする本件裁決の不存在
 本件認定に対し本件審査請求をしたのは、控訴人の母親であるbであり、本件裁決も、bに対してされたものであって、控訴人に対するものではないから、控訴人を名宛人とする被控訴人の裁決は存在せず、本件裁決の無効確認を求める控訴人の訴えは、存在しない裁決の無効確認を求めるものであって、不適法である。4 本件裁決の無効確認請求の訴えの利益
 本件認定については、もともと審査請求ができないのであるから、本件裁決の無効が確認されたとしても控訴人は改めて本件認定について審査請求をする余地はない。そうすると、本件裁決の無効確認によって、控訴人の権利ないし法的利益が回復されることはないから、結局、本件裁決の無効確認を求める控訴人の訴えは、訴えの利益を欠き、不適法である。
三 請求原因事実に対する被控訴人の認否
1 請求原因1ないし3の事実は、認める。
2 同4の主張は、争う。
 本件認定は、知能指数のみに準拠してされているものではなく、日常生活能力及び社会生活への適応能力をも知的障害の程度の判定基準として行われたものであって、正当なものである。
3 同5の主張は、争う。
第三 証拠
 証拠関係は、原審及び当審における書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 本件認定の行政処分性
1 請求原因1ないし3の事実は当事者間に争いがなく、本件療育手帳は、被控訴人が定めた別紙1の療育手帳制度要綱及び別紙2の療育手帳(みどりの手帳)制度事務取扱要領に基づ
いて、被控訴人が交付の決定をしたものであり、本件認定は、同交付決定の一部をなすものである。
 行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」とは、公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているものをいうと解されるところ、療育手帳については、同手帳制度自体を定める法令がなく、上記のとおり、療育手帳を交付するための手続は、埼玉県知事が定めた要綱に定められているに過ぎないが、行政庁の行為が要綱に根拠を置いているとの理由だけでは行政処分性は否定されるものではなく、本件療育手帳の交付対象者とされている知的障害者について定める法律の趣旨、他の類似制度との関係、本件認定を含む本件療育手帳の交付決定の性質とその法的効果を検討して判断されるべきである。
2 障害者基本法2条は、障害者を身体障害、知的障害又は精神障害があるため、長期にわたり日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける者をいうと定義付け、このような障害者の福祉を増進する責務を国及び地方公共団体に負わせており(同法4条)、障害の内容、障害者の年齢に応じて、身体障害者福祉法、知的障害者福祉法、児童福祉法、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律が適用され、障害の程度に応じた各種の福祉施策が講じられている。
 また、障害者の経済的負担の軽減策として、種々の公租公課についての優遇措置が法的に講ぜられており、例えば、所得税法79条は、居住者が障害者である場合又は居住者に障害者である控除対象配偶者若しくは扶養親族がある場合には総所得金額等から27万円を、居住者が特別障害者である場合又は居住者に特別障害者である控除対象配偶者若しくは扶養親族がある場合には総所得金額等から40万円をそれぞれ控除する旨を定めているところ、所得税法施行令10条1項は、障害者の範囲として、1精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者又は児童相談所、知的障害者更生相談所、精神保健福祉センター若しくは精神保健指定医の判定により知的障害者とされた者、2精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第45条2項の規定により精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている者、3身体障害者福祉法15条4項の規定により交付を受けた身体障害者手帳に身体上の障害がある者と
して記載されている者等を掲げ、同条2項は、特別障害者の範囲として、1精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者又は児童相談所、知的障害者更生相談所、精神保健福祉センター若しくは精神保健指定医の判定により重度の知的障害者とされた者、2精神障害者保健福祉手帳に精神保健及び精神障害者福祉に関する法律施行令6条3項(精神障害の状態)に規定する障害等級が1級である者として記載されている者、3身体障害者手帳に身体上の障害の程度が1級又は2級である者として記載されている者等を掲げている。同様の障害者控除の制度は、相続税(相続税法19条の4、相続税法施行令4条の4)、都道府県民税及び市町村民税(地方税法34条1項6号、314条の2第1項6号、地方税法施行令7条、同7条の15の8、同48条の7第2項)においても採用されている。
 一方、障害者の所得保障政策としては、諸手当の支給措置が法的に講ぜられており、例えば、特別児童扶養手当等の支給に関する法律3条1項は、同法2条1項に規定する障害児の父若しくは母又はその養育者に対し、特別児童手当が支給するとされているところ、同手当の支給要件に該当する者が手当の支給を受けようとするときは、その受給資格及び手当の額について都道府県知事の認定を受けることが必要とされ(同法5条1項)、この認定請求は、支給対象障害児が同法2条1項に規定する障害の状態にあることに関する医師又は歯科医師の診断書その他の書類等を添えて行わなければならないとされている(特別児童扶養手当等の支給に関する法律施行規則1条2号)が、一方で、昭和50年9月5日付け厚生省児童家庭局長通知「特別児童扶養手当等の支給に関する法律別表第1における障害の認定要領等の改正について」は、1障害児が身体障害者手帳の交付を受けているときは、当該手帳に記載されている障害名及び等級表による級別によって障害の程度が法別表第1の各号のいずれかに該当することが明らかと判定できる場合は、診断書に代えてこれによって認定できる、2障害児が療育手帳の交付を受けているときは、障害の程度が重度aと記載されているものは法別表第1の1級に該当するものと認定できるとしている(乙第5号証)。
3 ところで、身体障害者福祉法15条は、身体に障害のある者が都道府県知事に対して申請する身体障害者手帳の交付手続を、精神保健及び精神障
害者福祉に関する法律45条は、知的障害者を除く精神障害者が都道府県知事に対して申請する精神障害者保健福祉手帳の交付手続を定めており、これによって、障害者は、障害の程度に応じた各種の福祉措置を受けることができる。
 一方で、知的障害者福祉法は、このような手帳制度を法定していないため、厚生事務次官は、昭和48年9月27日、「療育手帳制度について」(厚生省発児第156号)と題する通知(甲第12号証、以下「厚生事務次官通知」という。)を都道府県知事等に発出し、知的障害児(者)に対して一貫した指導・相談を行うとともに、これらの者に対する各種の援助措置を受けやすくすることを目的とする「療育手帳制度要綱」を定め、その中において、交付対象者、実施主体、手帳の名称及び記載事項、手帳の交付手続、交付後の障害の程度の確認、記載事項の変更の届出、国の補助について明らかにし、さらに、厚生省児童家庭局長は、同日、「療育手帳制度の実施について」(児発第725号)と題する通知(甲第13号証)を都道府県知事等に出し、療育手帳の活用方法、名称及び記載事項、障害の程度の判定方法、交付手続、交付後の手続、交付台帳の作成等制度内容の詳細を明らかにしている。これに基づいて、全国の地方自治体において療育手帳制度が創設され、埼玉県においても、別紙1の療育手帳制度要綱、別紙2の療育手帳(みどりの手帳)制度事務取扱要領が作成されたものである。
4 療育手帳の交付自体は、知的障害者福祉法に基づく各種の福祉措置、所得税法等各種税法に基づく公租公課についての優遇措置、特別児童扶養手当等の支給に関する法律に基づく特別児童扶養手当の支給措置を受けるための直接の要件とはされておらず、療育手帳の交付を受けない者であっても知的障害者と判定されることによって上記各種の援助措置を受けることができる余地がある。しかしながら、療育手帳の交付を受けた者が、同援助措置を受けられないということは通常ないのであり、一旦療育手帳の交付を受ければ、個々の援助措置ごとに知的障害者である旨の認定を受ける必要がなく、知的障害者福祉法に基づく知的障害者としての地位、障害の程度が公証されるとともに、障害の程度に応じた統一的な援助措置を受けることができるという地位を付与されるもので、その意味で、療育手帳の交付は、諸々の福祉措置を知的障害者に付与するために必要な一連の手
続のいわば要というべきものである。このような知的障害者としての地位の付与は、殊にそれによって各種税法上の優遇措置が障害の程度に応じて統一的に与えられることに鑑みると、補助金の交付等の例とは異なり、行政庁が優越的地位に基づき公権力の行使として行う行為であり、新たに国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定する法的効果を有すると解して差し支えないというべきである。
 確かに、知的障害者を対象とする療育手帳制度は、被控訴人が設けた要綱に定められているに過ぎないが、そもそも、障害者基本法4条は、すべての障害者の福祉を増進する責務を国及び地方公共団体に負わせ、知的障害者福祉法2条も、国及び地方公共団体に、知的障害者に対する援助と必要な保護の実施に努める責務を負わせているにもかかわらず、知的障害者福祉法は、知的障害者の定義規定すら置いていないのであり、知的障害者に対して、その障害の程度に応じた合理的な援助措置を講じるためには、知的障害者の認定手続制度の存在は不可欠であるというべきであること、身体障害者及び精神障害者については、いずれも法律に手帳制度が規定されているが、知的障害者の場合には、これを不要とする合理的な理由もないことに鑑みても、知的障害者福祉法は、知的障害者の認定手続の創設を行政機関に委ねたものと解すべきであり、要綱に基づく療育手帳制度は、知的障害者福祉法が予定している知的障害者の認定制度であるというべきである。
 そうすると、障害の程度に係る認定を含め、被控訴人による療育手帳の交付決定は、直接新たに国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められた行政処分であると解するのが相当である。
二 本件認定に係る取消訴訟の適法性
 控訴人の親権者であるbは、平成11年2月1日、本件療育手帳を受領したこと、bは、同年3月18日、被控訴人に対し、本件療養手帳の本件認定に不服があるとして、本件審査請求をしたこと、被控訴人は、同年5月13日、bに対し、同審査請求は不適法であるとして、これを却下する旨の本件裁決をし、同裁決書は、そのころ、bに到達したことは、当事者間に争いがなく、証拠(甲第6、第7号証)及び弁論の全趣旨によれば、bは、同年6月9日、厚生大臣に対し、被控訴人の本件裁決について再審査を求める申立てをしたが、厚生省は、その約1か月後、bに対し、都道府県が行う療育手
帳の交付事務は、機関委任事務ではなく、厚生大臣に対して審査請求を求めることはできない旨の回答書を添えて、bの上記再審査請求書を同人に返送したことが認められるところ、本件認定に係る取消の訴えは、平成12年4月25日に提起されたものであるから、行政事件訴訟法14条の出訴期間を経過した後にされた不適法な訴えであることは明らかである。
三 本件認定の無効確認
1 前記争いのない事実に証拠(甲第1号証、第9号証の2、3、第10号証)を総合すると、以下の事実を認めることができる。
(一) 控訴人は、その父母(法定代理人)であるa及びb夫婦の長男として、昭和56年○月○日に出生した。控訴人は、1歳半ころから歩き始めると多動の傾向が顕著に見られ、言葉を明瞭に話し始めたのも4、5歳ころと遅れていた。控訴人は、聖マリアンナ医科大学で自閉症と診断され、小学校から学校には通学しないで自宅で過ごしてきた。
(二) a及びbは、平成10年11月5日、療育手帳交付事務を担当する埼玉県α市役所障害福祉課を経由して、被控訴人に対し、控訴人に対する療育手帳の交付申請を行った。
(三) β児童相談所は、平成10年11月18日、控訴人に対し田中ビネー知能検査を実施したところ、知能指数は67と判定され、また、控訴人の日常生活は、ほぼ自立しており、自閉的傾向があるものの、食事、着脱衣、排便及び洗面等の日常生活に介助を必要とせず、会話に応じられ、初めての場所でも調べて一人で外出できることから、同児童相談所は、控訴人が軽度域の精神発達遅滞の状態にあると判断し、また、同児童相談所の嘱託精神科医は、控訴人について精神発達遅滞、自閉症、軽度域の知能障害と診断した。
 被控訴人は、上記判定結果に基づき、別紙2の療育手帳(みどりの手帳)制度事務取扱要領に従って控訴人の知的障害の程度を軽度である「総合判定C」とする療育手帳の交付を決定し、bは、平成11年2月1日、本件療育手帳を受領した。2 本件認定は、前記1のとおり、行政処分であると解することができるが、行政処分が無効であるというためには、当該行政処分に重大かつ明白な瑕疵がなければならないところ、上記1のとおりの本件認定の経緯に鑑みれば、本件認定は、別紙2の療育手帳(みどりの手帳)制度事務取扱要領第2(障害の程度の判定)に基準に則った児童相談所長の判定に基づいてされたものであり、本件認
定に重大かつ明白な瑕疵があるとはいえず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
四 本件裁決の無効確認
 bは、平成11年3月18日、被控訴人に対し、本件認定に不服があるとして、本件審査請求をしたこと、被控訴人は、同年5月13日、bに対し、本件認定は、行政事件訴訟法3条2項にいう行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為ではなく、本件審査請求は不適法であるとして、これを却下する旨の本件裁決をしたことは前記のとおりである。甲第12号証によれば、厚生事務次官通知に係る療育手帳制度要綱第3は、療育手帳の実施主体を都道府県知事又は指定都市の市長とし、別紙1の埼玉県の療育手帳制度要領も同様の規定を設けているから、本件の療育手帳の交付は、埼玉県知事の固有の事務と解され、また、同要領第5の2は、医学的な見地に基づく障害の程度の判定を児童相談所又は知的障害者更生相談所に委ねてはいるものの、療育手帳の交付自体は知事が決定する旨を定めているから、本件療育手帳の交付処分のうち、本件認定部分に不服のある控訴人としては、行政不服審査法6条所定の異議申立てを被控訴人に対して行うべきであり、これに対して、被控訴人は、審査請求に対する裁決ではなく、異議申立てに対する決定を行うべきであったというべきであるが、いずれにしても、本件認定に対する不服申立てが被控訴人を相手方として申し立てられたものであり、申立ての名称はともかくとして本件審査請求を被控訴人に対する異議申立てと解して何ら差し支えないというべきであり、これに対する本件裁決も異議申立てに対する決定としてされたものと解するのが相当である。しかしながら、bが行った本件認定に対する不服申立てについて、被控訴人は、本件認定が行政処分ではないとして、当該不服申立てに対する実体的審理を何ら行わず、却下する旨の本件裁決をしたものであり、本件裁決は、法解釈を誤った無効の裁決というほかない。
 これに対し、被控訴人は、本件認定に対し本件審査請求をしたのは、控訴人の母であるbであり、本件裁決も、bに対してされたものであって、控訴人に対するものではないから、控訴人を名宛人とする被控訴人の裁決は存在せず、本件裁決の無効確認を求める控訴人の訴えは、存在しない裁決の無効確認を求めるものであって、不適法である旨を主張するが、本件審査請求は、控訴人に対する本件認定を不服として申し立てら
れたものであるから、親権者であるbが控訴人を代理して申し立てたものと解するのが相当であり(本件審査請求が控訴人の父であるaの意思にも沿うものであることは弁論の全趣旨によって明らかである。)、本件裁決も控訴人を名宛人とするものであるというべきであるから、被控訴人の上記主張は、採用することができない。
 また、被控訴人は、本件認定については、もともと審査請求ができないのであるから、本件裁決の無効が確認されたとしても、控訴人は改めて本件認定について審査請求をする余地はなく、本件裁決の無効確認によって、控訴人の権利ないし法的利益が回復されることはないから、結局、本件裁決の無効確認を求める控訴人の訴えは、訴えの利益を欠き、不適法である旨を主張するが、上記のとおり、本件審査請求は、申立ての名称はともかくとして被控訴人に対する異議申立てと解すべきであり、本件裁決が上記のとおり無効とされる以上、被控訴人としては改めて同異議申立てに対する決定をしなければならないのであるから、訴えの利益がないとはいえず、被控訴人の上記主張も採用することができない。
五 以上の次第で、原判決のうち、療育手帳の交付処分に関する主位的請求(本件認定に係る取消訴訟)の訴えを却下した部分は相当であるが、療育手帳の交付処分に関する予備的請求及び裁決に関する無効確認請求の各訴えを却下した部分は、相当ではなく取り消されるべきであるものの、事件につき更に弁論をする必要があるとは認められないから、民事訴訟法307条ただし書を適用して当審において判断するに、療育手帳の交付処分に関する予備的請求は理由がないからこれを棄却すべきであるが、原判決より控訴人に不利益な結論となる判決をすることは許されないので、当裁判所は、原判決の結論を維持し、裁決に関する無効確認請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法67条2項、61条、64条本文を適用して、主文のとおり判決する。東京高等裁判所第8民事部
裁判長裁判官 村上敬一
裁判官 澤田英雄
裁判官 永谷典雄
判例本文

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