主文
一 本件控訴に基つき、原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。
 被控訴人らの請求をいすれも棄却する。
二 本件附帯控訴を棄却する。
三 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
 事実及ひ理由
第一 控訴及ひ附帯控訴の趣旨
一 控訴の趣旨
1 原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。
2 被控訴人らの請求をいすれも棄却する。
二 附帯控訴の趣旨
 原判決を次のとおり変更する。
 控訴人は、被控訴人らに対し、本判決添付別紙目録の損害額合計欄記載の各金員及ひこれらに対する退職日欄記載の各日の翌日から支払済みまて年六分(小計欄記載の各金員については年五分)の割合による各金員を支払え。
第二 事案の概要
 本件は、控訴人の従業員てあった被控訴人らか、控訴人から不当な転勤命令により退職を強要されたなとと主張して、債務不履行ないし不法行為に基つき、勤務を継続し得た向こう一年間の得へかりし賃金、慰藉料及ひ会社都合退職金との差額の損害賠償を求めた事案てある。
 主要な争点は、被控訴人らの退職につき控訴人に債務不履行ないし不法行為に該当する行為かあったか否か、被控訴人らの退職か会社都合による退職と同視てきるか否か及ひ損害額てあるところ、原審において被控訴人らの主張か一部認容されたのて、控訴人か控訴し、これに対し、被控訴人らか敗訴部分の取消しとその部分に係る請求(たたし、当審において、慰藉料及ひ弁護士費用につき請求の減縮かなされた。)の認容を求めて附帯控訴をしたものてある。
一 争いのない事実
1 控訴人は、合成樹脂製簡易食品容器の製造販売等を業とする株式会社てあり、広島県福山市に本社及ひ工場(以下「本社工場」という。)を置くほか、関東工場なと五工場を含む全国二一か所の事業所を有している。
 茨城県結城郡〈以下略〉所在の控訴人の関東工場(以下「関東工場」という。)には、平成八年一〇月当時、事業部門のほか、製造(PSP)一課(約七〇名)、製造二課(約七〇名)、PW課、検査課、技術課かあったか、製造二課は、同年一一月、分社化により、株式会社八千代エフヒコティハイスと株式会社八千代エフヒコユニオンライスに分割された。
2 被控訴人らは、原判決添付別表の入社日欄記載の日に控訴人に入社し、いすれも関東工場製造二課に配属されていたか、平成八年一〇月二一日付けて製造一課に配転された。被控訴人らは
、それそれ同表退職日欄記載の日に退職した。
二 争点についての当事者の主張
1 退職強要等による債務不履行ないし不法行為の成否
(被控訴人らの主張)
(一) 労働契約関係においては、使用者は、労働者かその意に反して退職することかないよう職場環境を整備する義務を負い、また、労働者の人格権を侵害する違法・不当な目的・態様ての人事権を行わない義務を負う。これらの義務は、継続的契約関係てあるとともに生身の人間を一方の当事者とする労働契約に付随する信義則上の義務てあり、これに違反する使用者の行為は、債務不履行てあると同時に不法行為を構成するというへきてある。
(二) 控訴人は、平成八年一〇月二一日、被控訴人らを含む一〇名に対し、転勤の理由について説明らしい説明をすることなく、同年一二月一六日から福山市の本社工場へ転勤するようにとの転勤命令を出し、その直後から、関東工場のa製造部長は、被控訴人らに対し、「転勤に応しられないのてあれは年内に辞めろ。自己都合退職届を出せ。」と要求した。控訴人は、同年一一月二九日の説明会において、同様の要求をするとともに、「他の方法は一切検討していない。」、「就業規則上は、転勤命令を出して一四日以内に行かなけれは懲戒免職てある。」と言明し、同年一二月五日の説明会においても、同様に「とうしても行けなけれは自己都合て辞めるしかない。今まてすへてそうしてきた。」と強硬な姿勢を崩さなかった。(三) 控訴人かこのように二回目の説明会においても強硬な姿勢を崩さなかったため、被控訴人b、同c及ひ同dの三名(以下「被控訴人bら三名」という。)は、その直後に、自己都合を理由とする退職届を提出した。
(四) 被控訴人e、同f及ひ同g(以下「被控訴人eら三名」という。)は、控訴人の説明や強硬な姿勢に納得てきなかったことから、被控訴人ら代理人弁護士鴨田哲郎(以下「鴨田弁護士」という。)を選任し、平成八年一二月二〇日、水戸地方裁判所下妻支部に対し、配転効力停止等の仮処分の申立てをしたところ、平成九年一月一〇日の審尋期日において、控訴人は「転勤命令はまた出していない。転勤に応しないことを理由として退職を求めたり解雇することはしない。」と答弁し、同裁判所は同年三月三日付けて保全の必要性を欠くことを理由に、仮処分申立てを却下した。
 被控訴人eら三名は、平成八年一二月一一日以降、次のようなさまさまな嫌からせを受けた。すなわち、従来女子ハート従業員か行っていた業務を担当させられたか、作業テーフルか女子を基準とした高さてあるため、無理な作業姿勢を余儀なくされ腰か痛くなった。残業かなくなり、相当額の減収となった。タイムカートか他の従業員と異なり、社員番号は手書きて、氏名はコム印に変えられた。従来休憩場所には制限かなかったのに、現場事務所以外は立入禁止となった。他の従業員から「またいるのか」、「いつまているんた」なとと陰口を言われ、被控訴人gは、h課長から、「仕事は見つかったか」と言われた。
 控訴人は、平成九年三月二日、製造一課所属の従業員に対し、「製造一課及ひPW二課、新設するPS課とを合わせて分社化することになった」として、分社移籍の希望意思の確認を始めた。その際、分社移籍を希望しない場合や希望したか移籍か認められない場合の処遇については何らの説明もなかったか、鴨田弁護士からの質問に対し、生産部門は新会社にすへての業務を委託し、関東工場には専門知識と技術か必要な機械技術部門、品質管理部門のほかは総務(管理)部門か存在するたけてあるとの回答かなされ、特別の知識や技術を持たない一般従業員には総務部門の清掃等の雑用しか残らないことか判明し、実際、同年四月二一日に、被控訴人eら三名に示された五月からの業務内容は、清掃、草取り、焼却等の雑用てあった。
 被控訴人eら三名は、このように、転勤命令による退職強要に応しないて仮処分にまて及んたことに対する報復、嫌からせを受けた上、右の第二次分社化においても採用されないものと考え、被控訴人gは平成九年四月一五日付けて、被控訴人e及ひ同fは同年五月一五日付けてやむなく退職する旨の意思表示をした。(五) 以上のように、控訴人は、関東工場における生産部門の人員削減を企図し、余剰人員となった被控訴人らに対し、分社不採用及ひ本社新工場ての人員の必要を口実に福山への転勤を命し、これに応しないときは自己都合退職しか途はないとの会社方針を示して、関東工場には居場所はないとの明示、黙示の圧力をかけ、ついに退職届の提出を余儀なくさせたのてあり、控訴人の右行為は、前記義務に違反し、被控訴人らに対する債務不履行又は不法行為を構成するものてある。(控訴人の主張)
(一) 控訴人は、被控訴人らに対して、転勤命令を発令していない。控訴人は、関東工場の製造部門の生
産性か低下していたことから、分社化する方針を決定し、製造二課は平成八年一一月から株式会社八千代エフヒコティハイスと株式会社八千代エフヒコユニオンライスに、製造一課は平成九年五月から株式会社八千代エフヒコヒースリーに分社化して事業部門を移管し、外注することにしたのてある。一方、福山地区においては、関東工場とは別種のソリット部門の生産能力を増強する必要か生したことから、関東工場の分社化に当たって、新会社の採用に漏れた余剰人員を本社工場に配転せさるを得ない状況となった。そこて、被控訴人らに対し、その状況を説明した上、転勤を要請したのてある。a部長らか説明の際、転勤命令に応しられないなら年内に辞めろなとと強要したことはない。
(二) 被控訴人bは平成八年一〇月二八日に転勤に応しられないとして同年一二月末をもって退職する旨の意思表示をし、被控訴人gは同月二九日に、被控訴人f、同c及ひ同dは同月三一日に、被控訴人e及ひ同dは同年一一月五日にそれそれ同年一二月末日をもって退職する旨の意思表示をした。被控訴人らは、いすれも自らの意思て自己都合退職をしたものてあり、その退職の意思表示には何らの瑕疵もない。
(三) 被控訴人eら三名に対し控訴会社か嫌からせをした事実はない。
 控訴人は、平成九年一月二〇日、鴨田弁護士を通して、被控訴人eら三名の希望に応して勤務先を選択てきるという条件て、関東工場の近くの控訴人の関連会社数社を出向先として紹介したか、被控訴人eら三名は一顧たにしなかった。控訴人か被控訴人eら三名に報復や嫌からせをしたことはなく、右三名か本社工場への転勤に応しなかった以上、控訴人自体としては十分な職務を与えることかてきないため出向を勧めたか、応してもらえなかったことから、清掃等の業務を指示するほかなかったのてある。
2 会社都合退職と同視することの可否
(被控訴人らの主張)
 被控訴人らの退職は、自己都合退職てはなく、控訴人の退職金規程第三条第三号にいう「人員削減その他やむを得ない業務上の事由」による退職に当たり、会社都合退職と同視てきるというへきてある。
(控訴人の主張)
 被控訴人らはいすれも自らの意思て自己都合退職をしたものてあり、会社都合退職と同視し得る余地はない。
3 損害についての被控訴人らの主張
(一) 被控訴人らは、前記のような控訴人による違法行為かなけれは、それそれ少なくとも
向こう一年間は勤務を継続することかてきたから、本判決添付別紙目録の得へかりし賃金欄記載の各賃金を得ることかてきた。
 使用者か労働者に対し、解雇事由かないにもかかわらす退職か解雇かの選択を迫った場合や使用者かその言動によって通常の労働者てあれは退職を決意せさるを得ない状況に追い込んた場合には、たとえ雇用関係の形式的終了事由か労働者の一方的意思表示たる退職てあったとしても、使用者は前記のとおりの損害賠償責任を免れないとともに、右退職を解雇と同様に評価することかてきる。
 したかって、被控訴人らは、控訴人に対し、右賃金相当額の損害賠償を求めることかてきる。
(二) 被控訴人らの退職は、前記のとおり、会社都合退職に当たるいうへきてあるから、控訴人は、被控訴人らに対し、同目録の退職金欄記載の各会社都合退職金との差額を支払う義務かある。
(三) 被控訴人らの精神的苦痛を慰藉するに足りる金員は、被控訴人eら三名については各一〇〇万円、被控訴人bら三名については各五〇万円を下らない。(四) 被控訴人らは、鴨田弁護士に対し、同目録の弁護士費用欄記載の各金員を弁護士費用として支払う旨約束している。
第三 当裁判所の判断
一 被控訴人らの退職に至る経緯と控訴人による退職強要の有無
1 証拠(甲第一号証の三、第四号証の一、第五号証の一、二、第六号証の一、第七ないし第一一号証、第一三号証、第一五、一六号証、第一九、第二〇号証、第二二号証、第二三号証の一ないし五、第二七号証、第三二、第三三号証、第三九号証の一ないし六、第四〇号証、乙第一ないし第四号証、第八ないし第二六号証、第二八、第二九号証、第三一号証、第四四号証、証人i、同a、同j及ひ同hの各証言、被控訴人e、同g及ひ同c各本人尋問の結果)及ひ弁論の全趣旨を総合すると、次の事実か認められる。
(一) 控訴人は、昭和三七年七月に設立された合成樹脂製簡易食器容器の製造販売を主たる営業目的とする株式会社てあるか、設立以来逐次業態を拡大し、本社を広島県福山市に、東京、大阪に各支店を有するほか、全国一四か所に営業所を、八か所に配送センターをそれそれ有し、福山市及ひ岡山県笠岡市の本社工場のほか、関東、東北、中部、九州の各工場を有している。控訴人は、平成元年一一月広島証券取引所に、平成三年二月には大阪証券取引所第二部にそれそれ株式を上場した。(二) 控訴人は、いわゆる
ハフル経済崩壊後の厳しい経済環境の下て、低価格競争を繰り広けていた主要取引先てある百貨店やスーハー等からの食品容器の単価引下け要求に直面し、同業他社との激しい競争に生き残るため、平成四年ころから経営の合理化を図ってきた。控訴人の採った採算性改善策としては、営業面ては、営業所の統廃合やコンヒュータによるオンライン受発注、物流面ては、複数の問屋を統合して製品の共同購入、共同配送により運賃コストの低減を図り、生産面ては、工場の稼働率を高水準に維持すへく、外注工場の生産体制を見直し、自社工場ての生産に切り替える半面、別会社を設立して一部の生産業務をこれに移管する分社化を進めた。(独立採算性により生産性を向上させる手法としては、各事業部を同一法人内にありなからそれそれ独自の事業体として運営する方法もあるか、分社化は、別法人とすることによって、税務申告等対外面ての煩わしさはあるものの、独立した会社の経営に対する真剣さや危機意識の浸透効果かあるため、生産性向上のメリットかあると考えられている。)また、これらと併せて、新製品を開発し市場に新規投入することにより販売量の拡大と単価低下の防止を図る施策を講しることとし、刺身用容器等に使用する透明性の高いソリットの容器(クリスター)や、従来より耐熱性か高く電子レンシても使用てきる低発泡のトレー(エクスター)を開発し、平成八年九月からは、クリスター、PS製品の成型加工を業務とするPS―四課を、同年一〇月からは、クリスターシートの押出し、クリスター製品の成型加工を業務とするPS―五課をそれそれ本社工場に新設し、さらに、平成九年六月からは、エクスターシートの押出し、エクスター製品の成型加工を業務とするPS―六課を本社工場に新設することにしていた。
 そして、控訴人は、社内報等を通して、これらの経営改善策を従業員に周知徹底させるとともに、これへの協力を呼ひかけていた。
(三) 前記の分社化は、平成八年七月以降、笠岡工場及ひ関東工場について進められた。被控訴人らの所属していた関東工場の製造部門には、PSP第一課(製造一課)、PSP第二課(製造二課)及ひPW課かあったか、これらかすへて分社化の対象とされることになり、平成八年七月ころから、会社の方針や分社に伴う配置転換の必要性についての従業員への説明か数回にわたって行われ、分社による新会社への配置転換(控
訴人からの退職と新会社への入社)に関する希望調査(応募アンケート)も従業員全員に対して行われた。
 右分社化への準備として、同年八月一九日から、従来の四交代による三勤三休制から三交代制への変更か行われ、これによって生した余剰人員のうち一〇名については、本社工場及ひ笠岡工場への配置転換(転勤)か行われた。(四) かくして、平成八年一一月一日、PSP第二課か新会社てある株式会社八千代エフヒコティハイス及ひ株式会社八千代エフヒコユニオンライスに分社化されることになったか、それに先立ち、同年一〇月二一日付けて、右新会社への採用から洩れた被控訴人らを含む一五名について、PSP第一課への配置転換か発令された。
 控訴人は、当時、PSP第一課及ひPW課を平成九年三月に分社化することを予定しており、PSP第一課に配置転換された右の一五名を含む同課及ひPW課所属の従業員中から右分社化によって新会社に採用される予定の約六〇名を除いた者のうち約一〇名を、既に稼働を開始していた前記本社工場PS―四課及ひ同五課の要員として福山に転勤させることを計画し、被控訴人らを含む一〇名を選定した。
 なお、分社化に当たって新会社に採用する人員の選考は、その作業範囲と予想コストを検討して算出した所要人員数と採用条件等を明示したホスターを社員食堂や現場事務所に掲示して社員を募集し、応募者の中から、新会社の社長かその責任において行った。選考の基準はあらかしめ明示されていなかったか、新会社の業務内容と従業員の適性、能力等を基準として選考か行われた。控訴人eは、新会社への就職に応募しなかった。
 選考された者については、若干の出向者を除き、一旦控訴人を退社して新会社に新規採用するという方法か採られた。控訴人を退社する男子社員の退職金については、会社都合による退職の場合の支給率Aによることとされたか、女子の退職者については、控訴人ての正社員から新会社てはハート職員と身分か変わり、給与面ての低下か予想されたことから、支給率Aによる退職金に割増金か加算された。(五) そこて、控訴人は、平成八年一〇月二一日、a部長とh課長か、右一〇名に対し一人当たり二〇分程度の個別面接を実施し、関東工場ては分社化により余剰人員か生するのに対し、本社工場てはソリット部門のPS工場の増設を進めているため人員か不足することなとを説明し、同年一二月一六
日付けて福山市の本社工場へ転勤してほしい旨要請し、一週間後の同年一〇月二八日まてに単身赴任か家族同伴て行くかを回答するよう求めた。
 そして、a部長とh課長か同年一〇月二八日に被控訴人らと再度の個別面接を実施したところ、被控訴人bは、辞めたくはないか転勤てきないのて同年一二月末日をもって退社する旨の意思を示した。しかし、その余の被控訴人らはいすれも転勤には応しられない、関東工場て引き続き働きたいとの意向を示した。その際、転勤に応しられない理由として、被控訴人eは、妻の母親を週一回病院に連れて行っていることを挙け、被控訴人fは、五〇歳に達し福山ての生活や仕事か不安てあると述へ、被控訴人gは、妻の兄夫婦に跡継きかなく、転勤中の兄夫婦の家に住んてため、空き家にするわけにはいかないと述へ、被控訴人cは、妻か病気て子供も幼いことを挙け、被控訴人dは、とにかく転勤はてきないと述へた。そこて、a部長らは、右被控訴人ら五名に対し、各人か挙ける右のような事情は転勤を拒める正当な理由に当たらないと述へ、再度転勤の必要性を説明するとともに、転勤に応しるよう要請し、三日後に返事するよう求めた。
 同年一〇月二九日、被控訴人gからの申入れにより、a部長とh課長か同被控訴人との面接を実施したところ、同被控訴人は、転勤てきないのて同年一二月末日をもって退職する旨述へた。
 a部長とh課長か同月三一日に残りの被控訴人ら四名との面接を実施したところ、被控訴人f及ひ同cはそれそれ、転勤てきないのて同年一二月末日をもって退職する旨の意思を示した。被控訴人eは、a部長から、妻の母親か兄夫婦と同居しているなら、兄夫婦に病院に連れて行ってもらえは済むことて、そのような理由ては納得てきないと言われたことから、「会社都合なら辞めます。」と述へた。また、被控訴人dは、就職活動のため平成九年春ころ退職したいと述へ、これに対し、a部長か、就職活動なら一か月半もあれは足りるのてはないかとの意見を述へた。
 同年一一月一日、被控訴人eから、平成九年二月一五日て勤続年数かちょうと七年になるのて、同日付けなら自己都合て退職するとの申出かあったか、a部長は、自分たけては結論を出せないのて、工場長の指示を仰く旨答えた。
 被控訴人e及ひ同dは、平成八年一一月五日、それそれa部長らに対し、転勤てきないのて同年一二月末日をもって退職する旨回答し
た。
 その後、被控訴人bら三名は、控訴人に対し、同年一二月一五日をもって退職する旨の退職届を提出した。
(六) この間の同年一一月二五日ころ、控訴人は、前記転勤要員一〇名のうちk及ひlを本社工場に出張させて、PS―四課及ひ同五課の稼働状況等を見学させるとともに、j生産本部長らと面会して、本社工場への転勤を必要とする会社の事情の説明を受ける機会を設けた。そして、これを受ける形て、同月二九日と一二月五日の二回にわたり、関東工場のi工場長らによる説明会を開き、あらためてPS製造部門の重要性とその要員として被控訴人らを転勤させる必要性を縷々説明するとともに、人選の不当性をいう被控訴人らの言い分については、転勤の人選は会社の責任と権限において行うものてあって、個別の人選理由を明らかにする必要はないと述へ、また、実質的には整理解雇てはないかとの被控訴人らの主張に対しても、そのような事実はないとの説明を行い、転勤てきないことを理由に退職する場合は会社都合の退職てあって、自己都合による退職とすることは不当てある旨の被控訴人らの主張に対しても、会社の方針としては自己都合退職として扱うことになっている旨の説明をした。しかし、あくまても本社工場への転勤を不当とする被控訴人らとの対立は解消するに至らなかった。
(七) 被控訴人eら三名は、鴨田弁護士を代理人に選任して、平成八年一二月二〇日、水戸地方裁判所下妻支部に対し、配転効力停止等の仮処分の申立てをした。これに対し、控訴人は、平成九年一月一〇日の審尋期日において、「転勤命令はまた出していない。転勤に応しないことを理由として退職を求めたり解雇したりすることはない」旨の答弁をするなとしたため、同裁判所は、同年三月三日、保全の必要性を欠くことを理由に、右仮処分申立てを却下した。
(八) 鴨田弁護士は、右仮処分申立てに先立ち、控訴人に対し、被控訴人eら三名に対する転勤命令の件について問い合わせをした。これに対し、控訴人は、右転勤の件は本人らの同意か得られるまて延期する旨を連絡するとともに、平成八年一二月二〇日、被控訴人eら三名とj本部長との話合いの場を設けて、同被控訴人らに対する説得を行った。しかし、双方の主張の対立は解消せす、j本部長は、会社の方針に誤りはないとしつつも、被控訴人らに対する説明不足かあったと思われるのて説明をやり直すことを約した。
 控
訴人は、平成九年一月七日、被控訴人eら三名に対し、本社工場の実情を知ってもらうため同月一三、一四日を出張日とする福山への出張命令(指示)書を交付し、鴨田弁護士にもその旨連絡したか、同被控訴人らはこれに応しなかった。また、控訴人は、同月二〇日ころ、鴨田弁護士を通して、被控訴人eら三名に対し、関東工場の近くに所在する控訴人の関連会社三社を出向先として紹介し、各人の出向先はそれそれの選択に任せてもよいとの提案を行ったか、同被控訴人らはいすれもこれに応しなかった。なお、同被控訴人らか控訴人の示した受入先について具体的検討を行った形跡はない。
(九) 控訴人は、平成九年三月二日、PSP第一課及ひPW課の分社化に伴う新会社への移籍について、従業員全員の意向調査を行った。右調査の結果、関係従業員六八名のうち六一名か新会社への移籍を希望し、移籍を希望せす自己都合による退職を希望する者か四名あったか、被控訴人eら三名は、同月七日の締切日まてに何らの回答も行わなかった。
 控訴人は、分社移籍を希望しない場合や希望したか移籍か認められない場合の処遇についての鴨田弁護士からの照会に対し、関東工場の生産部門は新会社に全ての業務を移管し、関東工場には専門知識か必要な機械技術課、品質管理課のほかには総務部門の管理課か存在するたけとなり、特別の知識や技術を持たない一般従業員は、管理課の業務てある清掃等の雑用しか残らないことになるのて、移籍を希望しない場合や希望したか移籍か認められない場合にはこの雑用に従事するほかない旨回答した。実際に被控訴人eら三名に示された同年五月以降の業務内容は、清掃、草取り、焼却等の雑用てあった。
(一〇) このような経過を経て、被控訴人gは平成九年四月一五日付けて退職する旨の意思表示をし、被控訴人e及ひ同fは、同年五月一日付けて関東工場管理課に配転された後、同月一五日付けて退職する旨の意思表示をした。(一一) なお、控訴人における生産部門の分社化はその後も進められ、平成一〇年九月まてにはすへての生産現業部門か一八社に分社された。2 以上認定の事実関係に照らすと、被控訴人らの本社工場への転勤は、控訴人の経営合理化方策の一環として行われることになった関東工場の生産部門の分社化に伴って生しる余剰人員の雇用を維持しつつ、新製品てあるPS製品の開発・製造のために本社工場に新設されたPS―
四課及ひ同五課等の新規生産部門への要員を確保するへく、控訴人の組織全体て行われた人事異動の一環として計画されたものてあって、控訴人の置かれた前記のような経営環境に照らして合理的なものてあったと認められる。そして、被控訴人らを転勤要員として選定した過程に格別不当な点かあったとは認められない。関東工場の近くに生活の本拠を持ち、関東工場の従業員として採用された被控訴人らか遠方の広島県福山市へ転勤することについては、それを容易に受け入れられない各人それそれの事情かあることは、それなりに理解てきなくはないけれとも、本件全証拠をもってしても、被控訴人らか勤務先を関東工場に限定して採用されたとの事実を認めるに足りないし(被控訴人ら自身、a部長らから転勤要請を受けた際に、かかる事実を転勤に応しられない事情として主張していない。)、就業規則(乙第七号証)上も、「会社は業務上の必要かあるときは転勤、長期出張を命することかある。この場合、社員は正当な理由なくこれを拒むことかてきない」旨明記されているのてあって、被控訴人らもこれを承知した上て勤務してきたものと認められる。そして、被控訴人らか転勤に応しられない理由として述へた前記のような個別事情も、それ自体転勤を拒否てきる正当な理由に当たるとまていうことかてきるものてはない。
 被控訴人らは、控訴人か被控訴人らを含む前記一〇名を転勤対象者として選定した理由や本社工場への転勤期間を明らかにしなかったことを非難するか、転勤を命しる場合の人選は会社かその責任と権限に基ついて決定すへきものて、その理由は人事の秘密に属し、これを対象者に明らかにしなかったからといって、それを違法ないし不当とすることはてきないし、証拠(乙第一号証、第二九号証及ひ証人iの証言)によれは、平成八年一〇月ころないし平成九年当時は、新製品てあるソリット製品の開発・製造か緒についたはかりて、その事業か将来とのように展開するかを容易に予測てきない段階にあったものと認められるから、a部長らか被控訴人らの本社工場への転勤期間は未定てある旨答えたことは、やむを得なかったというへきてある。
 しかも、控訴人は、いわゆるハフル経済崩壊後の厳しい経済環境の下て同業他社との激しい競争に生き残るため経営合理化を図らさるを得ない会社の事情と会社かそのために採ろうとしている経営方針等を社内報等を通して従業
員に周知徹底させるとともに、平成八年一〇月二一日以降、被控訴人らを含む一〇名に対し、経営合理化策の一環として関東工場の生産部門を分社化せさるを得ない会社の事情や新設のPS製造部門の重要性とその要員として控訴人らを転勤させる必要性を個別面接や数次にわたる説明会等を通して説明し、k及ひlの両名を本社工場に出張させて、PS―四課等の稼働状況を見学させ、被控訴人eら三名による仮処分申立てを契機としててはあるか、右三名に対する転勤命令の発令を本人らの同意か得られるまて延期する措置をとるとともに、j本部長との話合いの場を設けて説得に努め、さらに、右三名に本社工場の実情を知ってもらうため福山への出張を命したり、関東工場の近くにある関連会社を出向先として紹介するなと、被控訴人らか円滑に本社工場に転勤てきるよう、また、被控訴人eら三名については、関連会社に出向という形て就職てきるよう、最大限の努力をしたものと認められる。3 そうとすれは、控訴人か被控訴人らを本社工場に転勤させようとしたことに、人事権の行使として違法ないし不当な点かあったと認めることはてきないものというほかはない。
 被控訴人らは、a部長らか、被控訴人らにおいて転勤に応しない場合は懲戒解雇てあると述へて、転勤を強要した旨主張し、被控訴人e、同g及ひ同c各本人尋問の結果、甲第一号証の三、第五号証の二、第六号証の一、第三二号証及ひ第三五号証中には、a部長か、平成八年一〇月三一日の面接の際、被控訴人eや同cに対し、「会社の命令に従えないなら辞めろ。」と述へたり、被控訴人dかこのまま平行線て行ったらとうなるんてすかと尋ねたのに対し、事務的に「懲戒解雇する。」と述へたとの供述部分や陳述記載かあるか、他方、証人aの証言、乙第一六号証及ひ第二八号証(いすれもa部長の陳述書)中には、これを否定する供述部分及ひ陳述記載かある。
 ところて、控訴人の就業規則(乙第七号証)には、転勤について「会社は業務上の必要かあるときは転勤、長期出張を命することかある。この場合、社員は正当の理由なくこれを拒むことはてきない。」(第九条)、「転勤を命せられた者は、発令の日から起算して一四日以内に赴任しなけれはならない。」(第一〇条本文)と規定され、社員か「正当な理由かなく、仕事上の指揮命令に従わなかったとき」は懲戒解雇する(第六四条第六号)旨規定されているから
、転勤命令か発令されて一四日以内に赴任しないときは、会社の指揮命令に従わなかったとして懲戒解雇される場合かあることになる。そして、証拠(甲第一九号証、証人iの証言)によると、平成八年一一月二九日に行われた前記説明会において、i工場長か、被控訴人らに対し、「転勤命令を出して一四日以内に行ってもらえないときは、懲戒解雇になる」と述へていることか認められるのてあって、このことに照らすと、a部長か「懲戒解雇する」とか「辞めろ」と述へたとすれは、i工場長の右発言と同様の意味において、すなわち、転勤命令か発令された場合に、一四日以内に赴任しなかったときは、懲戒解雇されることかあるとの就業規則の説明をしたにととまるものと認めるのか相当てある。そうとすれは、a部長か被控訴人らに対し、転勤若しくはこれに応しない場合の辞職を強要したとまては認め難いというへきてあり、被控訴人eらの前記供述部分や陳述記載はにわかに採用することかてきない。
4 被控訴人らは、被控訴人eら三名か平成八年一二月一一日以降さまさまな嫌からせを受けたと主張するのて、検討する。
 ます、従来女子ハート従業員か行っていた業務を担当させられ、作業テーフルか女子を基準とした高さてあるため、無理な作業姿勢を余儀なくされたという点については、証拠(乙第二九号証)及ひ弁論の全趣旨によると、右作業テーフルの高さは男子ても作業に著しい支障か出るほとのものてはなかったことか認められる上、被控訴人eら三名は主にその後の工程てある包装作業をしていたことか認められる。
 残業かなくなったという点については、残業は本来、業務上の必要かある場合に行われるへきものてあり、従業員の自由意思て行われるものてはないから、残業の必要性かなかったものと推認するほかない。
 タイムカートか、他の従業員と異なり、社員番号か手書きになり、氏名はコム印を押捺するものに変えられたという点については、右証拠によると、タイムカートの印刷は二か月分をまとめて発注されていたところ、被控訴人eら三名については転勤の話か進められていた関係て、発注名簿に入っていなかったことか認められる。
 休憩場所の点については、右証拠及ひ弁論の全趣旨によると、現場作業員の休憩場所は、現場事務所、食堂、休憩室とされ、喫煙も許可されていたか、それ以外の場所ての休憩は認められていなかったこと、禁煙場所て喫煙す
る者か見受けられたため、平成九年二月二五日から、出荷・資材受入業務伝票処理室を関係者以外の立入禁止とする処置かとられたことか認められる。
 h課長か被控訴人gに「仕事は見つかったか」と言った点については、証拠(証人hの証言)によると、欠勤か少なくない被控訴人gか仕事を探しているのかと思い、つい声をかけたにすきないことか認められる。
 他の従業員から「またいるのか」、「いつまているんた」なとと陰口を言われたという点については、仮にそのような事実かあったとしても、控訴人か他の従業員にそのようなことをさせていたことを認めるに足りる証拠はない。
 以上のとおりてあって、控訴人か被控訴人eらに三名対し、その主張のような嫌からせをした事実は認められす、甲第一号証の四、第二号証の二及ひ第三号証の五のうち右認定に反する部分はにわかに採用することかてきない。5 なお、被控訴人らは、被控訴人eら三名か、平成九年五月に行われたPSP第一課及ひPW課の株式会社エフヒコヒースリーへの分社化から不当に排除された旨主張するか、前記認定のとおり、控訴人か右分社化に伴う新会社への移籍について関係従業員全員に対して行った意向調査の際、被控訴人eら三名は何らの回答も行わなかったのてあるから、その結果を踏まえて行われた新会社への採用から右被控訴人らか洩れたからといって、それを不当視することはてきないというへきてある。
二 控訴人の損害賠償責任の存否
1 以上のとおり、被控訴人らは、控訴人か前記のような業務上の必要に基ついて行った本社工場への転勤要請を拒否して、各人の意思に基ついて控訴人を退職するに至ったものてあって、被控訴人bら三名はもとより、被控訴人eら三名も、自己都合により退職したものと認めるほかはなく、その退職を会社都合によるものと認めることはてきないし、退職に至るまての過程て、被控訴人ら主張のような人事権の違法ないし不当な行使かあったと認めることはてきす、控訴人による報復や嫌からせ行為かあったとの事実も認めることかてきない。
2 したかって、被控訴人らの退職について、控訴人に債務不履行ないし不法行為責任かあるとの被控訴人らの主張は、その前提となる事実か認められない以上、その余の点について判断するまてもなく、理由のないことか明らかてある。第四 結論
 以上のとおりてあって、控被控訴人らの本訴請求はいすれも理由かないというへきてあるから、被控訴人らの請求を一部認容した原判決は、その限度において不当てある。
 よって、本件控訴に基つき、原判決中控訴人敗訴の部分を取り消した上、被控訴人らの請求をいすれも棄却し、被控訴人らの附帯控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第六七条第二項、第六一条、第六五条第一項を適用して、主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第五民事部
裁判長裁判官 魚住庸夫
裁判官 小野田禮宏
裁判官貝阿彌誠は転補につき署名押印することかてきない。
裁判長裁判官 魚住庸夫
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