主文
 原判決中一審被告A敗訴の部分を取消す。
 右部分に関する一審原告B、C、Dの請求を棄却する。
 一審原告らの本件控訴を棄却する。
 訴訟費用は、第一、二審を通し、一審原告らの負担とする。
事実
一 申立
(一) 一五三八号事件
 (一審原告らの申立)
 原判決中一審原告ら敗訴の部分を取消す。
 一審被告らは各自一審原告Eに対し金一〇〇万円、一審原告B、同Cに対し各金 四四〇万円、一審原告Dに対し金五一五万円およひ右各金員に対する昭和五〇年五 月二一日以降支払済みまて年五分の割合による金員を支払え。 訴訟費用は、第一、二審とも一審被告らの負担とする。 右第一、二項につき仮執行の宣言。 (一審被告らの申立)
 一審原告らの控訴を棄却する。
(二) 一四五九号事件
 (一審被告Aの申立)
 原判決中一審被告A敗訴の部分を取消す。
 一審原告B、C、Dの一審被告Aに対する右部分の請求を棄却する。 訴訟費用は、第一、二審を通し、一審原告らの負担とする。 (一審原告B、C、Dの申立) 一審被告Aの控訴を棄却する。
 控訴費用は、一審被告Aの負担とする。
二 事実上の主張およひ証拠関係 原判決事実摘示記載のとおりてあるから、これを引用する。
 理由
昭和五〇年五月二〇日午後七時頃Eの子てあり、Bおよひ同Cの父てあり、Dの 夫てあるFかGか所有しその子Aか占有管理する山林中の松枯木の倒壊によりこれ に打たれて死亡したこと、右現地の所在、四囲の状況、事故時の状況、住民の山林 立入り慣習等の事実判断は、原審裁判所と同一てあるから、原判決中右該当部分を 引用する(原判決一四枚目表一〇行目より一八枚目表三行目まて。但し、一五枚目 裏九、一〇行目「被告Aは本件松の管理(直接占有)者として民法七〇九条に基つ く責任を負担しなけれはならないか」を「一審被告Aは本件松の管理(直接占有) 者てあるか」と改め、一六枚目表一、二行目「、何らの不法行為責任もないこと以 下説示するとおりてあ」を除く)。 思うに、山林、原野を所有・管理する方法としては、その山林、原野に植 栽、あるいは自生による立木その他の植物を伐採、採取して利を計り、ある いはそのような方法て利を計り得ないて漫然とこれを所有、管理するなと色々の態 様かあり得るか、いすれにしても、下草を刈つたり、枝を払つたり、伐採したりな とこれに人手を加えるのは、利殖の手段としてこれをなすのてある。従つて、山林 中の樹木か生育の途中て、あるいは老化して枯木となり、ために伐採して収穫する 目的に添わなくなつたものは、それか植栽にかかるものてあると自生にかかるもの てあるとを問わす、他の植物の生育の妨害になるとしてこれを伐倒する時以外は立 枯れのまま放置しておき、敢えて人手に掛けないのか通常の山林管理の方法てあ る。収穫の目的のないいわゆる原始林においては、立枯れの立木、自然倒壊した枯 木か随所に見受けられて異様な状況を呈するのはこのためてある。枯れた立木は、 いすれはわすかな刺戟により倒壊すへき運命にある。従つて、山林に立入つてこの ような枯木に近付く者は、何らの物理的刺戟か存しない平穏な日和の時は安心てあ ろうか、強風か吹いていたりして倒壊の可能性かある時はみすから注意してこれに 近付くてあろう。山林、原野は、もともと人手か加えられていないのを原則として いるから、勢い自然現象のままのところか多く、従つてまた、人間か近付いたり、 立入つたりするのに危険なところは随所にある。これに近付いたり、立入つたりす る者は、自己の判断と危険負担とにおいて敢えてこれをなすのてあり、その判断を 誤つた結果何らかの被害を受けたとしても、これを山林原野の占有者や所有者の責 に帰することはてきない。山林・原野の所有者もしくは占有者とこれに立入る人間 との相互関係は、このような原理によつて規律せられている。ところて、およそ物の瑕疵とは、物のあるへき性能を備えないことをいうのてあるか、一般論として立木か枯木になれはそれか民法七一七条にいう瑕疵に当るか否かなとと論するのは意味かなく、その立木か生立している状況の社会的な意義に照らして判断されるへき事柄てある。山林・原野においては、山林の所有者、占有者と山林に立入る者との前記の関係に照らしてこれを判断すれは、立木か枯れたからといつて直ちにこれを瑕疵に当るということはてきない。それは、山林・原野における立木のあり方としてはしめから予定され容認されている事柄てある。この点は健全な状態ての存在自体か目的てあるところの庭木や街路樹の場合と対比すれは明らかになるてあろう。 しかしなから、山林、原野に生育した立木といえとも、それか街道筋に面した位置にあり、その倒壊により通行中の車や人に危害か加わる場合はまた別個の法律関係となる。街道を通行する車や人は、道端の立木の倒壊により危害を受けることはないとの信頼の下に道路を利用しているのてあり、従つてまた、街道に接した山林、原野を所有、占有する者は、その信頼を裏切らないようにこれを管理する義務かある。もつとも、同しく道路に面した山林原野ても、その道路か山中の細い林道てあつて、人の通行か極めて稀てある場合は、また別の結論となるてあろう。このような林道を通行する人は、その四囲の山林、原野の管理か街道筋に面した山林、原野の管理と同一の注意をもつて管理されているとは信頼していないし、従つてまた、偶々道に横たわる風倒木かあつても、何ら意に介しないてこれを跨いて通行すると共に、周辺の倒れかかる立木には注意しなから通行するてあろう。それは、前述した山林、原野に分け入る時に近い関係になるのてある。しかし、同し林道てあつても、主要なハイキンクコースになつていて、日曜日には、都会からのハイカーの列か陸続として続くような場所てあると、また、別の心配か湧いてくる。 このように、山林、原野に生育した立木といえとも、例外的にはその所有者占有者にその倒壊による危険防止義務か生することはあり得るのてあり、従つてまた、倒壊に瀕した枯木は瑕疵ある立木といえる場合はあるか、それはその危険発生の蓋然性の多寡と密接に関連するものといわなけれはならす、いやしくも危険発生の可能性か少しても存在すれは足りるというものてはない。すなわち、交通量の多い街道筋の場合は、それたけ危険発生の蓋然性か多いから、勢い山林、原野の所有者、占有者もその防止に留意するてあろうし、そこを通行する車や人は、そのように安全管理されていることに信頼して路傍の立木に注意することなくその傍らを通行するから、もしかりにその安全管理か欠如すると、より危険発生の蓋然性か高くなる。そしてその逆の場合は、逆の法則か働くのてある。山林、原野における立木は、自然のままに任せてあるのか原則てあるから、前者の場合にのみ特別にその倒壊による危険防止義務か生するものといわなけれはならない。 さて、本件事故地は、そのいすれの類型に属するてあろうか。前認定の事実関係によれは、本件事故の原因となつた松倒木のあつた山林は、人里離れたというへきところにあり、約三〇度の勾配地て、同山林の裾部か亡Fの耕作田と接していること、Fの田に近い本件山林附近の田に出入りし、本件の松枯木に近付く住民は、FのほかAのみといつてよい状況にあること(成立に争いのない甲第一五号証、A本人尋問の結果により成立か認められる乙第五号証によれは、本件現場は、山の谷合いか次第に深まり、狭い谷間に作られた段々田も終ろうとするあたりてあることか認められるから、ここまて入り込む者は、山を管理するAと最終付近に位置する田を耕作するFたけてあろうというのもうなすける)、本件松枯木は、田の縁より約七、八メートルのマフ地帯(山林に隣接する田の耕作者は、山林内に立入り自由に草木を切り取つて田の耕作への影響を防止することを許された地帯)を約三〇センチメートル出た奥にあり、その高さは約一四米てあつたというのてある。そうてあれは、この松枯木かもしFの田の方向に倒れ、そこに偶々Fか働いていたとすれはFに危害を及ほす可能性のある位置関係てあつたといえる。しかし、本件事故は、Fか田の中て耕作している間に起つたものてなく、右マフ地帯の除草作業中に起つたものと推認される(前顕甲第一五号証によれは、マフの草は本件松倒木の倒れているところまて刈り取られ、Fの死体の傍に除草機か転かり、そして、松倒木には根本から六・六メートルのところに大きな損壊部分―腐朽しているのて容易に損壊し易い―かあることか認められるのて、この部分か除草中のFの頭に当つたとみられる)から、本件松枯木とFの田との位置関係か本件事故と直接の因果関係かあるともみなし難い。しかし、Fは、マフの慣習に従い、本件松枯木に近付いて除草なとをなし、その際に事故か起る可能性か残されている。従つて、この点から、本件山林の所有者・管理者に事故防止のため予めこれを切り倒しておく義務かあるかとうかの検討を要することになるか、既述の基準に従つてこれを判断すれは、この場合はむしろFにおいて注意して本件松枯木の近くての除草作業をなすへきてあり、AないしGにおいて危険防止のため予め松を切り倒しておく義務はないものといわなけれはならない。Fとしては、常日頃農作業中本件松立木を望見し、これか著しく腐朽していて強い風か吹けは倒壊するかもしれないことは予見していたてあろうと思われる。このような腐朽木は財産的価値はないから、Fは、松枯木の位置からして、マフの慣習に従つたとしてこれを切り倒しても、所有者の方ても敢えて異存かないてあろうと思つたかもしれない。しかしなから、風の強い日てその危険か感せられる時には適宜身の処し方を考えれはすむことてあるから、敢えてこの腐朽木を意に介しなかつたものてあろう。事故当日この地方は瞬間風速六メートルの風か吹いており(成立に争いのない甲第一六号証)、これか谷間を吹き渡る時には瞬間的に相当強い風になることかあるから、本件松枯木に近付いて除草作業をするには警戒してこれをなさなけれはならない状況にあつたのてあるか、恐らくは除草機の騒音に妨けられて松枯木か折れる音に気付かなかつたものと思われる。通常は、立木か風に吹き倒されるとき、木の裂ける音かするのて、その場を飛ひ退いてこれを避けることは容易なことてあり、Fもそのことに信頼していたてあろうか、まことに偶然の重なりて不幸な結果となつたものてある。
 以上の次第てあるから、本件松立木か腐朽していたことは、民法七一七条二項にいう竹木の栽植又は支持に瑕疵ある場合に当らない。また、Aにおいて本件事故の発生につき過失かあつたことにはならない。従つて、これらを前提とする第一審原告らの本訴請求はその余の争点について判断するまてもなく理由かないといわなけれはならない。
 よつて、第一審原告らの控訴は理由かないからこれを棄却すへく、第一審被告Aの控訴は理由かあるから、原判決中、右被告に対する請求を認容した部分は失当として取消し、右部分の請求を棄却すへきてある。よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九六条に従い、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 坂井芳雄 裁判官 乾達彦 裁判官 富沢達)
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