主文
原決定を取消す。
相手方の本件申立を却下する。
抗告費用及び申立費用は、相手方の負担とする。
理由
一、抗告人は、主文同旨の決定を求めたが、その理由とするところは、別紙抗告の理由記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。
二、よつて、本件執行停止の申立の当否について考えるのに、当裁判所は、次の理由により、右申立を失当と認めるものである。
(一) 本件記録ならびに疎明資料によれば、抗告人は相手方に対し、相手方の集会予定日の昭和四六年四月一五日から二二日前に当る同年三月二四日に口頭でもつて本件許可処分を取消したい旨連絡するとともに、次いで二一日前に当る同月二五日に口頭ならびに文書をもつて、本件取消処分をしている事実が明らかである。してみれば、相手方としては、右予定日までに相当の期間があつたのであるから、他の会場において集会を開催する準備を完了できたものと推認するのを相当とする。この点について、相手方は、疎甲第五号証(報告書)および原審における審尋において、「広島市内には他に適当な場所はなく、市の施設から締め出されると他の私的施設では一層開催が困難となることは常識である。」旨述べるが、一方、相手方は、前記集会の規模について、「二〇〇名程度の参加が予想される」旨述べており、この程度の集会であるならば、相手方において努力をすれば他の集会場を借受けて本件集会の準備をすることも可能であつたと解され、また、本件使用許可後本件処分までの二、三日間で他の会場の使用が著しく困難になるとも解されないので前記疎甲第五号証ならびに相手方の供述はたやすく採用できない。。また、原審における相手方の審尋の結果によれば、前記集会のポスターは発註後二日で印刷が完了したが、本件処分当時には全部相手方が保管していた事実が明らかであるから、これらに会場変更にともなう所要の記載を加えることもさして難事ではなかつたものと推認される。更に、本件疎明資料によれば、本件取消処分の対象となつた集会の目的は、昭和四六年四月一五、一六日の天皇来広に際し、天皇の命令に基づく戦争により被爆があつたとし、被爆問題を中心に、部落民、在日アジア人に対する差別問題等について討論することにあつたことは明らかであるところ、相手方は、原審における審尋の際、右討論は要するに天皇および天皇制に対する糾弾をすることであり、平和公園内の平和記念館内でなされることに意義があり、その場所として右記念館以外にふさわしいところはない旨供述するけれども、右の会合の趣旨からすれば、本件集会が右記念館で開催されなければその目的を達し得ないものとは解されない。
(二) 以上のところからすれば、本件取消処分は、右集会の開催自体を不可能ないしは著しく困難にするものと言うことはできない。従つて、本件執行停止の申立は、回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があることに基づくものではないと言わねばならない。
三、そうすると、その余の点について判断するまでもなく、本件執行停止の申立は理由がない。よつて、右判断と異なる原審の決定は不当として民事訴訟法第四一四条第三八六条により取り消したうえ右執行停止の申立を却下し、抗告並びに申立費用の負担について同法第四一四条、第三七八条、第九六条、第八九条を適用して主文のとおり決定する。
(裁判官 松本冬樹 弓削孟 野田殷稔)
(別紙)
 抗告の理由
第一 抗告人は、抗告人の主張を認めなかつた原決定全部についてその不当であることを主張するものであるが、特に原決定は、その(二)「右の事実並びに前記(一)で認定したような討論集会開催の趣旨や経緯等を併せ考えると、本件取消処分により右集会を予定の日時に広島平和記念館で開くことができなくなるだけでなく、右集会の目的を達成しうる他の方法(会場を変更して予定日に行うとか、一たん延期して近日中に行うこと等)を見出すことは、時間的余裕、他の会場設備等からみて著しく困難であることが窺えるところから、結局本件取消処分は、右集会の開催自体を不可能ないし著しく困難にするものと言わなければならない。従つて、本件執行停止の申立ては、回復の困難な損害を避けるため緊急の必要に基づくものと言うべきである」と説示しておるが、しかしながら、本件取消しは、相手方が集会の開催日として予定しておる昭和四六年四月一五日より二二日前に当たる昭和四六年三月二四日に口頭をもつて、二一日前に当たる三月二五日に口頭、文書をもつて通告しており、それは、許可書を交付してからわずか二日後のことであり、相手方が主張するように三月二三日にポスター、ビラ等の印刷を完了したとしても、その損害は、八万三、八〇〇円にすぎない。
 申立人は、本件許可書の交付が受けられなかつた場合、当初の予定は変更せざるを得なかつたものであるが、わずか二日間の違いがあることによつて、何故に他の方法を見い出すことの時間的余裕がなく、他の会場の設備等からみて著しく困難であることが認定できるのであろうか。
 また、原決定は、討論集会開催の趣旨や経緯等から併せ考えると云々と説示しておるが、これは、結局本件集会が平和記念館において開催せられなくては、集会の目的を達成せられないことを認定しておるものと考えるが、天皇の奉迎を決定しておる当市の施設である記念館で何故に本件集会が行なわれなければならないかの理由が説示されておらない。
 仮に、本件が本案訴訟において理由がある場合でも、執行停止は、回復困難な損害を避けるため緊急の必要がある場合でなくてはならないことを要件としておる以上、また、これが行政機関の処分の執行を停止する性格から考えても、その説示は、できうる限り具体的、詳細になさるべきである。
第二 本件執行停止の効力が存続せられ相手方の集会が昭和四六年四月一五日予定どおり開催せられるときはこれを阻止しようとする勢力との間に衝突が生じ乱闘または記念館の建物及び施設に損害を生じる危険が多分にあるが、これは公共の福祉に重大なる影響を及ぼす恐れがある。執行停止は公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれのあるときはこれをすることができないものであるから、かかるおそれが生じた以上本件執行停止の効力を存続せしむべきではないから原決定の取消を求める。
判例本文

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