主文
 本件控訴を棄却する。
理由
 本件控訴の趣意は、記録に編綴の弁護人白阪武の作成にかかる控訴趣意書に記載のとおりであるから、これを引用する。
 控訴趣意第一点について。
 論旨は、被告人が原判示第一、(イ)及び第二(イ)の場所に立入つた行為は、 軽犯罪法第一条第三二号には当らず、右各行為については鉄道営業法第三七条違反 の罪が成立するにすぎない。かりに軽犯罪法第一条第三二号にも当るとしても、右 法条と鉄道営業法第三七条とは一般法、特別法の関係にあり、特別法である鉄道営 業法第三七条のみを適用処断すべきものである。しかるに被告人の右各行為に軽犯 罪法第一条第三二号のみを適用した原判決は、法令の解釈、適用を誤つたものであ ると主張する。 しかし、軽犯罪法第一条第三二号は「入ることを禁じた場所又は他人の田畑に正 当な理由がなくて入つた者」と規定していて、同号は講学上いわゆる田畑等不法侵 入罪と呼称されているけれども、他人の田畑に入つた者のみを処罰するものでない ことは、同号立法の趣旨並びに規定の文言上明白であつて、同号にいう「入ること を禁じた場所」とは、ひろく他の法令により立入を禁止されている場所あるいは他 の法令の規定により立入禁止処分権を有する者が立入を禁止する趣旨を表示した場 所をいうものと解すべきであり、右のように解釈しても、これをもつて同号本来の 目的を逸脱するものということはできない。原判決挙示の各証拠並びに当審の検証 調書、当審における証人A、同B、同C、同D、同Eの各尋問調書によると、被告 人は、乗降客に旅館の宿泊を勧誘する目的をもつて、国鉄F駅中央コンコース横の 出札室前附近(原判示第一、(イ))及び同中央コンコース前の駅前広場(同第 二、(イ))に立ち入つたものであるが、右国鉄F駅舎及び駅前広場は、いずれも 日本国有鉄道の所有であつて(但し駅前広場北端の両側に一部京都市の市有地があ るが、本件とは関係のない場所である)、国鉄F駅長がこれを管理しているもので あり、右駅舎内の中央、東口及び西口各コンコース内、及び駅前広場の三個所合計 六個所には、F駅長、七条警察署長、京都鉄道公安室長名義をもつて「乗車券の販 売、車内の座席売り、物品販売、配付、演説、勧誘、客引き及び寄付を謂うなどの 目的で駅構内に無断で立入ることはできません違反すると処罰されます」旨の看板 を掲示して、右のような目的での駅構内無断立入を禁止する趣旨を表示しており、 国鉄ないしは国鉄F駅長において、客引きの目的でF駅構内に立ち入ること を許諾したことはないこと、右の駅構内というのは、場内信号機と場内信号機の 間(停車場区域標が設けであるときは、その区域標の間)の用地境界内をい い、駅前広場を含む趣旨であり、客引きのための駅前広場への立入が禁止されてい ることは、京都市においては一般に周知されていたことが認められる。右認定のと おりであつて、国鉄F駅長は、日本国有鉄道組織規程第七九条、第八二条、第一二 八条などによる管理権に基づき、客引きなどの目的をもつて、同駅舎内及び駅前広 場に立入ることを禁止し、その旨を表示しているのであり、したがつて、右の目的 をもつて右場所に立ち入ろうとする者に対しては、右場所は軽犯罪法第一条第三二 号所定の「入ることを禁じた場所」にほかならないから、被告人の前記立入行為が 軽犯罪法第一条第三二号に当らないとの所論は採るを得ない。ところで、他方、鉄 道営業法第三七条は「停車場其ノ他、鉄道地内ニ妄ニ立入リタル者八一〇円以下ノ 科料ニ処ス」と規定して、停車場その他の鉄道地内への不法な立入行為を禁止処罰 しており、駅前広場は右法条にいう停車場に含まれるものと解するものが相当であ るから、被告人の本件各立入行為が右法条にも該当することは所論のとおりであ る。しかるところ、所論は、軽犯罪法第一条第三二号と鉄道営業法第三七条とは、 一般法と特別法の関係にあるというけれども、軽犯罪法第一条第三二号は、刑法第 一三〇条の補充規定であつて、住居侵入罪には該当しない違法性のより軽微な特定 の場所に対する不法な侵入行為を禁止し、その場所に対する人の支配の平穏を維持 しようとするものであると解せられるのに対し、鉄道営業法第三七条は、鉄道営業 の安全と、円滑な運営とを保護する規定であると解せられ、両者はその保護法益を 異にするのであるから、両者は、所論のように一般法、特別法の関係にあるとはい えず、いわゆる観念的競合の場合に当るものと解するのが相当である。したがつ て、原判決が、本件各立人行為に対し軽犯罪法第一条第三二号を適用したことに所 論の違法は存しないけれども、鉄道営業法第三七条の適用を遺脱したことは法令の 適用を誤つたものといわなければならない。しかし、結局刑法第五四条第一項前段、第一〇条により、重い軽犯罪法第一条第三二号違反の罪によつて処断すべきこととなるのであるから、右の違法は判決に影響を及ぼさないことが明らかである。論旨は理由がない。
 同第二点について。
 論旨は、原判示第一、(ロ)の行為に鉄道営業法第三五条を適用したのは、法令の適用を誤つたものであると主張する。しかし、原判決挙示の各証拠ことに被告人の鉄道公安員に対する昭和三九年一〇月九日付供述調書によると、被告人は客引きの目的で客を物色中、原判示場所附近を通行中であつた夫婦連れのGに出会い、同人に対し「お泊まりですか」と言つたが、同人らはこれを相手にせず通りすぎてしまつたものであることが明らかであつて、被告人の右行為が旅館の宿泊の勧誘に当ることは明白であり、右の行為が所論のように勧誘行為の未遂であるとは到底解せられない。原判決が右行為に鉄道営業法第三五条を適用処断したことはもとより正当であり、原判決に所論の違法はない。論旨は理由がない。
 同第三点について。
 論旨は量刑不当を主張する。しかし、記録を精査すると、被告人は、鉄道営業法違反の前科二三犯を有するほか、鉄道公安官のしばしばにわたる注意をも聞かず継続的、常習的に客引きを反覆していたものであつて悪質なる「客引」であり、また悪質な客引き行為が旅行者など社会全般に及ぼす影響、国鉄の旅客保護の業務に与える支障など諸般の事情を考慮すると、所論の諸点を参酌しても、原審が被告人に対し、原判示第一、及び第二の各事実につき、各拘留二五日及び科料九百円、を言い渡したことはやむを得ない措置というべく、右の量刑が不当に重いとはいえない。論旨は理由がない。
 よつて、刑事訴訟法第三九六条、第一八一条第一項但書により主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 山崎薫 裁判官 竹沢喜代治 裁判官 佐々木史朗)
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