主文
 本件控訴を棄却する。
 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実
 控訴人らは、「原判決を取り消す。本件を大阪地方裁判所に差し戻す。」との判決を求め、被控訴人は、主文同旨の判決を求めた。
 当事者双方の主張は、次に加えるほか原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。
 (控訴人らの主張)
一、 甘露台の法的地位について。
(一) 被控訴人Aの教憲は規則とともにその自律規範であつて、右教憲のうち被控訴人Aの法人の組織運営に関して定める諸条項は右規則と一体不可分の関係において法人を規制する法的規範たる効力を有する。
(二) 甘露台は被控訴人Aという信仰団体の中心とされ、かつ、信仰の対象とされているので、この意味における甘露台の地位は宗教上のものであるが、右の宗教上の立場をはなれて、前記法的規範たる教憲の諸条項と規則とを一体的にみれば、甘露台は、被控訴人Aにおいて、その必須機関である代表役員その他の責任役員および議決機関である評議会の構成員に関する人事権を掌握し、かつ、右法人の運営についての主導権を把握する最高唯一の地位にあることが明らかであり、甘露台がなければ宗教法人Aの組織運営は不可能であるから、この意味で甘露台は右法人における最高の機関として法的地位を有するものである
(三) また、教憲第五条は、「甘露台と天より定められた人は、甘露台様御一人に限り、永久不変の此の道の真柱である。」と定めているが、右規定は甘露台が神として信仰の対象となることからその地位につき宗教的色彩を強度に塗色したものにすぎず、その宗教的色彩を捨象して右規定を法律的に解するときは、被控訴人Aにおける甘露台の選任形式として、現甘露台が後任甘露台を指名し、先任甘露台の死亡により被指名者が甘露台となることを定めたものというべきである。先代甘露台Bは大正七年八月一七日控訴人Cを後任甘露台と指名し、昭和三三年一一月二九日Bが死亡したことにより控訴人Cが二代目甘露台となつたものである。
 そして、Bが控訴人Cを後任甘露台と指名したかどうかは裁判所の判断に服すべき事項であつて宗教的価値判断に属する事項ではない。
二、 控訴人Dは教派Aの最古の信者であり、被控訴人Aの構成員であるとともに、幹部役員であるから、宗教法人Aの最高責任者甘露台の地位の有無に関し本訴請求をなすことを一般的に排斥されるべき理由はなく、当事者適格を有する。
 (被控訴人の主張)
 宗教団体内の紛争のうち裁判所が判断できる法的紛争は、宗教法人法によつて規制される事項に関するものに限り、宗教団体における信仰、規律、慣習等いわゆる宗教上の事項については裁判権は及ばないものであつて、このことは同法第八五条の規定にてらしても明らかである。
 被控訴人Aの教憲は宗教上の事項のみを定めた宗団内部の自律規範であるから、法的規範ではなく、宗教法人法に基づく規則のみが法的規範である。被控訴人Aの右規則中には甘露台の選任方法、員数、職務権限、辞任、解任等に関しなんら具体的な定めがない。
 甘露台は被控訴人Aにおいて信仰の中心であるにすぎず、その地位は法令上の根拠に基づくものではなく、また甘露台としての具体的選任行為があつたものでもない。控訴人主張の教憲第五条は全く信教上のことを定めたもので法的規範としての効力を有しない。したがつて、甘露台の地位の存否につき争いがあるとしても、その選任行為の事実の有無、その選任行為の有効、無効は法律の解釈、適用によつて解決すべき法的争訟にあたらないから、本訴は不適法である。
 当事者双方の証拠関係は、控訴人が甲第五ないし第八号証、同第九号証の一、二、同第一〇号証、同第一一号証の一ないし三を提出し、乙第四号証の成立を認め、被控訴人が乙第四号証を提出し、右甲号各証の成立を認めたほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。
理由
 被控訴人は、本訴はいわゆる法律上の争訟でないから不適法であり却下されるべきものであると主張するの
で考察する。
(一) 控訴人らの主張は、要するに、甘露台なるものは宗教法人Aにおける法律上の最高機関である主宰者の地位の呼称であつて、控訴人Cは、右A教派の創始 者であつた右甘露台Bから後任甘露台として指名され右Bの死亡により甘露台の地 位を取得したものであるが、被控訴人が控訴人Cの右甘露台たる地位を争うからそ の地位の確認を求めるというのである。
 裁判所法第三条にいわゆる「法律上の争訟」とは、当事者間の具体的権利義務ま たは法律関係の存否に関する紛争であつて、法規の適用により終局的に解決できる ものをいうのであるから、本件紛争が右法律上の争訟に該当するか否かを判断す る。 被控訴人Aが宗教法人法に基づき設立された宗教法人であることは当事者間に争 がなく、成立に争のない甲第五号証、乙第一号証、同第二号証の五によれば、被控 訴人Aが同法所定の「規則」のほか、教派の規程として「A教憲」を定めているこ とが明らかである。 右規則は、被控訴人Aの役員その他の機関として、被控訴人Aに五人の責任役員 を置き、そのうち一人を代表役員とする(規則第五条)。代表役員は教憲によつて 幹部の職にある者の互選によつて定める。 代表役員以外の責任役員は、教憲によつて幹部、准幹部の職にある者の互選によ つて推せんした者を代表役員が任命する(同第七条)。代表役員および責任役員の 任期は、本人が教憲によつてこの教派の役員を罷免せられ、またはこれを辞任した 時に終るものとする(同第八条)。代表役員は被控訴人Aを代表し、その事務を総 理し(同第九条)。責任役員は総務会を組織し、被控訴人Aの事務をその定数の過 半数で決する(同第一〇条)。被控訴人Aの議決機関である評議会は教憲によつて 幹部および准幹部の職にある者をもつて組織する(同第二三条、第二四条)と定め るほか、役員ないし機関として甘露台たる地位を定めていない。 他方、前記教憲は、A教派は甘露台を中心とする信仰団体である(教憲第三 条)。甘露台と天より定められた人は甘露台一人に限り、永久不変のこの道の真柱 である(同第五条)。教主、管主は甘露台の言葉によつて定められたものである (同第八条)。この道の祭典儀式、教義の裁定および事務の運営は、甘露台、教 主、管主を戴き、幹部役員がこれを行う(同第七条)。この道の役員の種別は、幹 部、准幹部、准幹部扱および准幹部補とし(同第二二条)、幹部は甘露台が任命 し、准幹部以下の役員は、幹部全員によつて組織された本部の人事部において推挙 した者のうちから、甘露台、教主、管主の承認を受けて任命される(同第一四 条)。また、この道の教憲の変更、解散その他特に重要な事項については甘露台の 裁決、裁定を得なければならない(同第二六条、第五一条)と定めている。 <要旨第一>被控訴人は宗教法人法第八五条を根拠に、本件紛争が法律上の争訟で あることを否定するが、宗教法人法第八五条は、信教の自由を保障する 観点から、調停、和解等の裁量的余地のある方法で、宗教団体における信仰、規 律、慣習等宗教上の事項ないしは宗教上の役職員の任免その他に干渉することを禁 止するものにすぎず、宗教団体内部の紛争が法的紛争である限りこれにつき法的判 断を加えることは、裁判所が当然その権限としてなすべきことであつて、右法条は これを妨げる趣旨のものではない。また宗教法人が宗教法人法所定の規則のほか に、その宗教団体の規律を維持しその存立を確保するため自律規範を定立できるこ とはいうまでもなく、右自律規範の内容が教義の宣布、儀式の執行、信者の育成教 化等宗教上の事項に限定せらるべきものでもない。 したがつて、また宗教法人内部の紛争中裁判権に服すべきものが前記規則の解釈 適用をめぐるものに限定されるべき理由もないから、本件訴の適否は、右規則その 他被控訴人Aの定めた宗制上において甘露台が占める地位の性質如何を検討するこ とによつて、それが前記法律上の争訟にあたるか否かを判断して決すべき問題とい うほかはない。 <要旨第二>(二) ところで、前掲規則、教憲の各条項によると、被控訴人Aに おける代表役員の選出母体である幹部、代表役員以外の責任役員の推せ ん母体である幹部、准幹部および議決機関である評議会の構成員である幹部、准幹 部は、いずれも甘露台の任命ないし承認によるものとされているから、この意味で 甘露台は被控訴人Aの法人の組織、運営面に重要な関係をもつ地位にあることは否 定できない。しかしながら、宗教法人は宗教団体である以上、法人の組織運営面に おいて、宗教上から一定の支配統制を受けることは、その宗教団体たる性質上当然 のことであり、前掲乙第一号証(教憲)および乙第二号証の五(規則)によつて明 らかなとおり、被控訴人Aは甘露台を中心とする信仰団体であつて、教祖の後継者 甘露台が天啓録を解明して体得した「A」の教義をひろめ、儀式行事を行い、信者を教化育成し、伝道所を包括し、その他右教派の目的を達成するための業務を行うことを目的とする宗教法人であるから、甘露台が前記のように法人の組織、運営に重要な関係をもつ地位にあるのは、甘露台が教派Aの信仰の中心的存在であることに由来するものというべきものであつて、前記規則上甘露台を右法人の機関と定めた規定のない本件において、前記事実から直ちに甘露台が被控訴人Aの法律上の機関であるとは到底認め難いところである。
(三) かえつて、控訴人の主張するところによれば、被控訴人Aは、A教の創始者Bが天理教祖の後継天啓者たることを感得して自ら甘露台と名のり、さらに、次女である控訴人Cが天理教祖の再生者たることを天の啓示によつて知り、同人を擁し爾来天理教祖の正統教理を伝承しできたものであるというのであつて、右のような控訴人のみずから主張するところに、前掲教憲の規定を照らし合わせると、甘露台なるものは被控訴人Aの立教の精神を体現する宗教上の地位であることが明らかである。控訴人の援用する前記教憲第五条もその文言自体からみて甘露台の右宗教上の地位を表現する以外のなにものでもなく、右教憲の規定をもつて、かりに、控訴人主張のように、甘露台の選任方式として、先任甘露台が後任甘露台を指名し、先任甘露台の死亡により被指名者がその地位を取得することを定めたものと解しうるとしても、そのことから前記のとおり本来天により定められたとする甘露台の地位自体が法的性格を帯びるものとは解せられない。
 したがつて、被控訴人Aにおける甘露台なるものの地位は、ひつきよう宗教上の地位にほかならず、宗教法人たる被控訴人Aの法律上の機関とは認め難いから、何びとが甘露台となるかは、もつぱら宗教上の問題であつて、宗教団体たる被控訴人がみずからその内部でその信仰上解決すべき教義上の問題であり、本件紛争はなんら具体的な権利もしくは法律関係に関するものでないことはもちろん、法規の適用によつて終局的に解決すべき法律上の争訟に該当しないといわねばならない。
 本訴は既にこの点で不適法であるから却下を免れず、右と同旨に出た原判決は正当であつて本件控訴は理由がない。よつて、民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文を適用し主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 熊野啓五郎 裁判官 斎藤平伍 裁判官 朝田孝)
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