平成22年3月3日判決言渡 東京簡易裁判所 平成21年(少コ)第3748号 報酬請求事件(通常手続移行) 口頭弁論終結日 平成22年2月17日判決
主文
1 被告は,原告に対し,14万1500円を支払え。
 2 訴訟費用は被告の負担とする。事実及び理由
第1請 求 主文と同旨 第2 事案の概要
1 請求の原因
(1) 原告は,リポーター,ナレーター等を業とする者であり,被告は,ナレーター等の派遣等を業とする会社である。
 (2)(基本契約)
ア 原告は,被告から仕事の斡旋を受けるため,平成21年2月18日に被 告の面接を受け,そのころ,被告の登録会員となった。イ 被告の代表者は,前記の面接の際に,原告に対し,仕事の報酬として受 注額の7割を支払う旨説明した。(3) 被告は,平成21年の3月下旬又は4月初旬ころ,訴外株式会社A(以下 「訴外会社」という。)から「B」のプロモーションビデオへの音声入力業 務(以下「本件業務」という。)を請け負った。(4)(個別契約)
ア 原告は,被告の指示により,本件業務のナレーションを担当し,次のとおりその仕事(以下「本件仕事」という。)に従事した。
(ア) 平成21年4月10日 プロモーションビデオへの音声入力2本録 り(イ) 平成21年4月28日 前記アの直し録り
(ウ) 平成21年7月22日 プロモーションビデオへの音声入力1本録り
イ 被告は,原告に対し,平成21年8月4日,本件仕事の報酬について,訴外会社から被告に支払われる本件業務の代金額の7割を支払うことを約した。
(5) 被告は,訴外会社から,次のとおり,本件業務の代金として総額24万5000円を受領した。
ア 平成21年4月10日の分 14万0000円(1本当たり7万円) イ 平成21年4月28日の分 3万5000円ウ 平成21年7月22日の分 7万0000円
(6) 被告は,原告に対し,本件仕事の報酬として,3万円を支払った。(7) よって,原告は,被告に対し,前記(5)の総額の7割に相当する17万1 500円から受領済みの3万円を控除した14万1500円の支払を求める。
2 被告の主張
(1)(弁済) 本件仕事の報酬について,本件業務代金額の7割とする旨の合意はない。原告は,採用時の面接において,被告に対し,報酬については,「いくらで もよいです。」と回答している。したがって,被告での業務実績がないなど の事情からして,本件仕事の報酬は,前記1(4)アの(ア)及び(イ)については 合計で精々1万5000円が,同(ウ)については精々1万5000円が相当 であり,被告は,原告に対し,前記報酬額合計3万円を既に弁済した。(2)(原告の債務不履行,相殺)
ア 原告は,訴外会社の担当者であるCに対し,個人的に連絡を取って本件 業務の代金額を問い合わせた。この行為は被告の登録規定書及び登録同意 書各記載の遵守事項に違反するものであり,債務不履行行為である。イ 被告は,原告の前記債務不履行行為により信用低下を招き,訴外会社と の取引関係を解消することとなった。その結果,被告は,少なくとも訴外 会社に対する年間売上額18万円相当の損害を被り,原告に対し,同額の 損害賠償請求債権を有している。ウ 仮に,本件仕事の報酬について原告に残債権がある場合には,被告は, 原告に対し,平成22年2月10日の本件口頭弁論期日において,前記イ の損害賠償請求債権をもって,原告の当該残債権とその対当額において相 殺するとの意思表示をした。3 争点
(1) 原告と被告との間に,本件仕事の報酬を本件業務代金額の7割とする旨の合意があったか。
(2) 原告が訴外会社の担当者から本件業務の代金額を聴取した行為は,本件契約上の債務不履行に当たるか。
 第3 当裁判所の判断
1 争点以外の点について 請求の原因のうち,(2)イ及び(4)イ以外の事実については,当事者間に争い がないか,争いがある部分も証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めること ができる。なお,原告は,採用面接を受けた際に,被告の代表者に対し,自己の職業 についてリポーター及びナレーターのほかに俳優業及び司会業を行っている こと並びにその種の仕事の経験が20年以上あることを伝えていたことが認 められる。また,原告は,被告の採用面接を受けるまでの間に,他のプロダ クションに10年近く所属していた経験及びその後に4~5年ほどCMのナレーション等を請け負う会社でプレイングマネージャーをしていた経験を有することが認められる(いずれも原告本人)。
 2 争点1について請求の原因のうち,(2)イ及び(4)イの事実についても,証拠(甲2,原告本 人)及び弁論の全趣旨によって認められ,これを覆すに足りる証拠はない。 なお,この点について付言すると,(1) 事実が被告の主張(前記第2の2(1))のとおりであったとすれば,被告 は,対価を定めないまま,原告を派遣して役務を提供させ,発注先から受け 取った代金の中から,自己の裁量で相当と判断する金員を原告に支払えばよ いこととなり,原告と被告との間の契約(前記の基本契約及び個別契約の双 方をいう。以下,総称して「本件契約」という。)は,著しく衡平を欠く内 容であったことになる。(2) 採用時の面接において,原告が被告に対し,報酬は「いくらでもよいです。」 と回答したとする被告の主張については,原告は,タレントの派遣業界でみ られるような報酬の最低補償額に関する希望を聞かれたものと理解し,その ような条件は不要であるという趣旨で前記のように回答したものと認められ る(原告本人)。(3) 本件業務に関する被告の具体的な関与については,主として訴外会社との 契約締結等の業務及びそれに伴う要員(原告1人)の派遣であり,収録のた めのスタジオの借料やその余の要員(ミキサー1人)の役務費は訴外会社の 負担であったと認められること(乙6,原告本人)に照らすと,本件業務代 金のうち被告の取得割合が3割であったことに不合理性はない。(4) 原告は,前記1のような経歴を有する者であって,その経験上,タレント の派遣業界において本件仕事と類似の仕事を行う場合には,派遣されるナレ ーターが7割を取得し,事務所が3割を取得する例が一般的であり,条件が 悪い事務所でも「5:5」程度までであることが認められる(原告本人)。3 争点2について 被告は,訴外会社の担当者から本件業務の代金額を聴取した原告の行為が本 件契約上の債務不履行に当たると主張する。 そこで,この点を検討するに,証拠及び弁論の全趣旨によると,(1) 本件契約については,1契約書は作成されなかったこと,2被告は,原告 に対し,原告が本件仕事に従事する1週間前に「Dプロダクションの登録規 定書」と題する書面(甲6,乙2)を電子メールで送信し,原告が受領して いること,3前記規定書には「(仕事先の方と)個人的に連絡を取り合うこ とも禁止です」という記載があったことが認められる。なお,原告が前記規定書の内容に同意する旨の意思表示をしたと認めるに 足りる証拠はない。(2) 前示のとおり,本件仕事に対する原告の報酬額については,本件業務代金 額の7割相当額であったと認められるところ,被告は,原告に対し,その算 出基準である本件業務代金額を終始明らかにせず,また,原告が訴外会社か らの代金受領の有無を問い合わせても明確に回答しなかったことが認められ る。このような状況の下で,平成21年4月中に行った本件仕事の報酬を同 年7月になっても得られなかった原告が訴外会社の担当者Cに対し,電話で 2回,メールで1回,収録現場で1回の計4回にわたり,前記のような問い 合わせを行ったことが認められるが,このことによって,被告又は訴外会社 の業務に混乱が生じたなどの具体的な事実は認められない。(3) 以上の事実を総合すると,原告が訴外会社の担当者に対し,前記のような 問い合わせを行ったことが本件契約上の債務不履行に当たると評価すること はできない。4 結論 以上,認定のとおり,被告のその余の主張について判断するまでもなく,原告の請求は理由があるので,主文のとおり判決する。
東京簡易裁判所民事第9室 裁判官金井繁二
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