平成21年11月30日判決言渡 東京簡易裁判所 平成21年(少エ)第61,同第63号 損害賠償請求事件少額異議判決
主文
1 原告と被告の間の東京簡易裁判所平成21年(少コ)第2379号損害賠償請求事件につき,同裁判所が平成21年9月28日に言い渡した少額訴訟判決を認可する。
2 異議申立後て後の訴訟費用は,これを5分し,その2を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。
 事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告の求めた裁判
(1) 原告と被告の間の東京簡易裁判所平成21年(少コ)第2379号損害賠 償請求事件につき,同裁判所が平成21年9月28日に言い渡した少額訴訟判 決を次のとおり変更する。(2) 被告は,原告に対し,金60万円及びこれに対する平成21年8月18日 から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。(3) 訴訟費用は,異議申立ての前後を通じて被告の負担とする。
 2 被告の求めた裁判(1) 原告と被告の間の東京簡易裁判所平成21年(少コ)第2379号損害賠 償請求事件につき,同裁判所が平成21年9月28日に言い渡した少額訴訟判 決を取り消す。(2) 原告の請求を棄却する。
(3) 訴訟費用は,異議申立ての前後を通じて原告の負担とする。第2 事案の概要
1 請求の原因の要旨
(1) 訴外Aは,被告との間で次のような宅配便運送契約(以下「本件契約」と いう。)を締結した。受付日 平成21年5月11日
お届け予定日 平成21年5月12日
依頼者 A
届け先 原告
品名 ワレモノ(伝票記載)蒔絵高坏(以下「本件荷物」という。) 運賃 1160円(2) 被告は,平成21年5月11日にAから本件荷物を受け取り,原告に運ん だ。(3) 本件荷物は,壊れた状態で原告に届けられた。
 (以上の(1)ないし(3)については争いのない事実)(4) よって,原告は,被告に対し,本件契約の債務不履行により,損害賠償として,金60万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成21年8 月18日から支払済みまで年5パーセントの割合による遅延損害金の支払を求 める, 選択的に,原告は,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償として,上記と同 様の損害賠償の支払を求める。
2 争点及びこれに関する当事者の主張
(1) 不法行為責任について,商法578条適用の是非 (被告)商法578条の規定が不法行為に適用されないのであれば,荷送人は運送人 に対して高価品であるとの明告を行わなくても,運送人の過失が認められる場 合,不法行為で責任を追及すれば,運送人保護のために設けられた規定(商法578条を含む)を回避することが可能となってしまう。これでは,運送人保 護のために設けられた規定の存在意義が没却されてしまうこととなるから,不 法行為にも商法578条は適用されるべきである(東京地判平成2年3月28 日)。また,特段の事情として,被告から進んで高価品の有無や梱包状態を確 認し,損害の発生を防ごうと努力しているにもかかわらず,Aから高価品であ ることの明告が無く,高価品ではないことを明告されていた事実が存すること も加味するべきである。(原告) 債務不履行に基づく請求と不法行為に基づく請求とは,別途の請求であり,両者は請求権の競合と解され,債務不履行に関する商法578条の規定は,不 法行為には及ばないと解されている。しかも,商法578条の規定は,「貨幣,有価証券其他ノ高価品」について 定めているところ,ここにいう「高価品」は「商法578条所定の高価品とは, 容積または重量の割に著しく高価な物品」をいうと解されている(最高裁3小 昭和45年4月21日判決判例時報593号87頁)上,著しい高価品である か否かはその社会通念,商慣習によるとされるところ,現在社会における物流 業界が運送業界において占める割合,役割と使命を考えると,本件荷物のよう な60万円程度の客観的価額の物は,著しく高価な物品とはいえず,同条の適 用を受けないというべきである。(2) 約款規定による免責の存否 (被告)
被告の宅配便サービスは宅配便約款(以下「約款」という。)が適用される。
 これは,附合契約であり,本件荷物においても,約款25条によってその補償 限度額は30万円までとされ,この場合は,約款6条6号の「引受拒絶」の荷 物にあたり,同23条2項により,同6条6号に該当することを被告が知らず に引き受けた場合は,損害賠償の責を負わない規定となっている。以上の約款の規定は,原告より不法行為に基づく請求をされた場合においても 運用される。なぜならば,被告の宅配便を含む,宅配便の特質として,低廉な 運賃に比し不特定多数と契約して迅速な輸送サービスを提供するという点から 考えると,その対応を予め定められた約款に基づいて運用されることは合理的 であり,約款の規定が不法行為にも及ぶとすることが当事者の合理的意思に合 致するからである。このように解さなければ,約款の規定が没却されることに なる。また,被告の故意又は重過失によって損害が発生した場合は,約款25 条6項において一切の損害を賠償するとしており,荷送人に不当な不利益をも たらすことにはならない。さらに,約款25条3項に代表されるように,損害 賠償について荷受人である原告に生じた事情をも考慮している。本件において は,原告は遺産相続によりAから本件荷物を含む17個の荷物を宅配便によっ て届けられていること,本件荷物の損傷事故が発生した後も,補償額が宅配便 と同じ30万円の宅配便を使用して荷物を受け取っており,補償限度額が予め 約款にて規定されている宅配便を利用してAから荷物を受け取ることを容認 し,継続的に利用している等の事情が存在するから,信義則上,原告にも約款 の規定が適用されると解するのが相当である。(原告) 引受拒絶約款は,被告に引受拒絶ができる権限を付与したに過ぎない。被告の送り状には,荷物の価額を記載することは求められていない(約款3条)。 「品名」の記載は求められているが,「ワレモノ・なまもの」の例示にあるよ うに,その程度を記載することを求めているに過ぎない。被告がAから運送業 務を引き受けた際,内容物の価額を聞かれたことはない。本件運送契約の約款 には,送り状に「ワレモノ,なまもの」以上の品名の明示を求めた規定はなく, 被告が上記の引受拒絶約款の存在を主張することはできない。しかも,約款上 は,被告の「故意又は重過失」の場合には,この規定にかかわらず「毀損によ って生じた全損害を負う」旨規定されている(約款25条6項)のであり,本件荷物の損傷は,通常の事態でない,被告の担当者の重過失によるものである から,被告の主張は理由がない。しかも,被告は,商法578条による免責を主張するのか,宅配便約款によ る免責を主張するのか明らかでない。約款に引受拒絶約款及び免責限度額の規 定がある以上,上記約款が商法578条の特例を規定したもので,商法578 条の規定は排除され,約款による免責のみが問題とされるべきである。被告は, 高価物の規定を自己の引受拒絶約款にすることにより,自己の取扱商品の範囲 を拡大し,商域を拡大しているのであるから,その利益を受けながら商法57 8条の規定の適用を求めるのは信義則に反するものである。(被告) 原告は,被告がAに内容物の価格について聞いていないことを前提に,約款6条の適用を否定しているが,被告は,荷送人であるAには内容物の価額につ いて尋ねており,30万円以上のものではないということで荷受けしたのであ る。しかし,本件荷物が30万円以上の物であったというのであれば,被告は 上記事実から30万円以上のものであるとは知り得なかったので,約款23条 2項により損害賠償の責を負わない。(3) 被告の重過失及び予見可能性の存否 (原告)
本件荷物は,梱包を厳重にし,破損が起きない慎重な注意を払い,「ワレモ ノ」と表示して被告に預けたものであること,平成21年5月12日原告に届 けられたとき,被告の担当者が荷物を車から台車に移して運ぶ際,ガタンと大 きな音を発しており,被告に重大な過失があったものであること等,原告とし ては真の破損原因は分からないが,「運送中又は荷下ろし中」に通常の運送担 当者としてはあり得ない不注意によって本件事故が生じたものと考えらる。
 (被告)原告の主張する配達時の状況は,事実に間違いがあり,これに基づいた重過失があるとの主張は失当である。本件荷物は,その破損が発生した過程は不明 であるが,通常の運送過程で破損したのであり,重過失の存在は認められない。また,本件荷物が「ワレモノ」との表示がしてあったにもかかわらず被告が その取扱いを怠り,重大な過失によって壊したと主張するが,この「ワレモノ」 との記載は,被告の運送において,破損を発生させないことを約したものでは ない。「ワレモノ」との記載があれば,まず,荷受けの段階で,客に対して梱 包状況や内容物の品名を尋ねることにより梱包が運送に耐えられないようであ れば,追加で梱包を行い,荷受けするための記載である。さらに,本件については,被告従業員BがAに梱包状況及び内容物の価格に ついて尋ねており,Aからは梱包状況は大丈夫であり,内容物もそんなに高額 な商品はないとの申出があって荷受けしている。(4) 本件荷物の価額 (被告)
被告提出の乙10号証はその査定方法を明記した上で,本件荷物の評価額を 3万円前後としているが,原告は本件荷物の査定金額を明示しているが,その 査定方法については未だ明らかにしていない。(原告)
被告は,本件荷物の価額について,3万円前後であるとして,乙3号証をそ の証拠としている。しかし,乙3号証については,原告は,その成立を争うも のであり,同号証は,その形式的証明力さえも備えていない。なぜなら,同号 証にはその作成者とされる「C株式会社」の押印もなく,その会社の本店所在 地も明らかにされていない。実質的にも,同社は登記簿上平成19年12月1 8日に資本金100万円で設立されたとあるが,鑑定評価の専門家の存否,そ の実績も何ら明らかでなく,被告の自己証明の域を出るものではない。本件荷 物は,一旦原告から被告に戻され,被告の京都支店からさらに原告に再配送さ れたが,その間,東京,京都という本件荷物の価額を鑑定する精通者がいる場所を避け,わざわざ埼玉の会社に評価を求めているのは,極めて奇異なことで あり,乙3号証の証明力は極めて低い。本件荷物は,遺産分割によるものであるが,その対象となった相続について は,課税標準が相続人の控除額以下のため申告されていないし,送付された品 物ごとに時価の査定がされたものではない。また,被告は,原告の損害額についての立証について反論しているが,物の 価額を鑑定する場合,「原価法」と「比較法」がある。土地建物のような収益 物件については,「収益還元法」も使用される。原告の立証は,この「原価法」 によるものと,精通者による「比較法」による立証であり,物の評価の基本的 技法に則っているものである。(被告) 原告は,本件荷物が被告の京都支店に戻されたと述べているが,そのような事実はなく,原告から引き上げた本件荷物は,そのまま東京の営業所に保管さ れ,それをC株式会社に依頼して,査定してもらったのである。同社は,荷物 の価格について,被告では査定できないときによく依頼している会社で,同社 に依頼することは奇異なことではない。(5) 原告側の過失による過失相殺 (原告)
原判決が認定した原告の6割の過失相殺は,不当である。すなわち,本件事 故は,運送品の品目表示又は高価品としての注意義務を課せられたことによる 事故ではないこと,Aとしても,本件荷物の客観的な価額を正確に知っていた わけではないから,原判決のいうことは不可能を強いるものである。
 (被告)原判決の本件荷物が60万円であるとの認定には不服であるものの,仮に6 0万円だとすれば,宅配便の責任限度額である30万円をはるかに超える金額 の荷物をAに金額の明告や梱包方法の具体的指示などの注意を促すこともなく本件荷物を送らせたのであるから,損害額を4割に当たるとしたことは実に当を得ている。 第2 判断
1 争点(1)について 債務不履行に基づく請求と不法行為に基づく請求とは請求権競合と解され,債務不履行に関する商法578条の規定は,原則として不法行為には及ばないと解 するのが相当である。しかし,本件当事者間には運送取引が継続的に行われてい た事実(証人D),本件荷物と同時に他に15個の荷物を依頼している事実(甲 10の1ないし15),本件荷物の所有権は平成21年3月16日の遺産分割調 停中間合意で原告に移転しており,配送依頼時には原告の支配権が及んでいる事 実(甲8の1),原告は古物商を長年営んでおり数多くの宅配便も利用してきた 事実(原告本人)等から,原告は第三者といっても本件契約の当事者と実質的に 同視できる者,すなわち,運送人との間に生じる法律関係を契約法理によって律 することを承認しているものと見られる者であると評価できる。このような場合 においては,契約法理の趣旨を類推してこれを律すべきであり,商法の規定や約 款の趣旨に準拠してその責任の範囲を合理的に定めることが相当である。2 争点(2)について 然るに,商法578条と約款との関係についてその適用の範囲を明らかにしておかなければならないが,被告が引受拒絶約款及び免責限度額の規定がある約款 に基づく免責を主張する趣旨から,同約款は商法578条の特例として位置づけ られるものである。結局,本件においては,約款25条,同23条2項及び同2 1条の各適用のある事案であるか否かについて問われることとなり,具体的には 次項3において検討することとなる。3 争点(3)について 上記に述べてきたとおり,本件については,約款の適用がある事案であり,被告に故意又は重過失のある場合には免責されず,約款25条6項により毀損によって生じた全損害について責任を負わなければならないことは,原告主張のとお りであり,以下その存否について判断する。原告は,自宅の玄関を掃除しているときに,外でガタンと大きな音がして,何 が起こったのか玄関の扉を開けてみると被告の運搬人がたくさんの段ボールを車 から降ろして台車に乗せて持ってくる音であった,さらに原告は「そんなに乱暴 にあつかって中になにがはいっていると思うのよ」と声を荒らげたと供述する(原 告本人,甲9)。しかし,現実に本件荷物の運送に携わった証人Eの証言によれ ば,台車で2回に分けてa町b丁目の営業所から運んだが大きな音がしたという ことは一切ないこと,「そんな乱暴にあつかって云々」ということを原告から言 われたこともないこと,そもそもa町の営業所には運送トラックが存在しないこ と等の事実が認められる。また,本件荷物である蒔絵高坏の破損状況が尋常な壊 れ方ではないこと(甲1の1)から,本件荷物が上記以外の運送過程において, 考えられない力が加えられた,即ち,被告担当者が通常の運送担当者としては考 えがたい不注意をしたのではないかという点については,荷送人が本件荷物を発 送するときにまったく破損等がなかったことを確認している等の立証がない限 り,当然には推定されないものとみるのが相当である。これらのことから,被告 に重過失があったものとは認められない。しかし,被告は,まったく約款上の責任を負わないものではなく,約款23条 2項及び同21条の責任の有無について問われる。まず,約款23条2項については,被告が「その旨を知らずに運送を引き受け た場合」に当たるのかについて見ていかなければならない。その旨とは,約款6 条6号のイの2に規定されている「荷物の一梱包の価格が30万円を超えるもの」 ということであるが,この点に関し,被告は,荷送人であるAに内容物の価額に ついて尋ねており,30万円以上のものでないということで荷受けしたものであ るから,上記約款に規定する「その旨を知らずに運送を引き受けた場合」に該当 し免責されるものであると被告は主張し,証人Dもその旨証言する。Aから直接本件荷物を荷受けした担当者であるBの陳述書によっても,30万円を超える高 額商品については荷受けできない旨常々伝えていたこと,本件荷物の荷受時に再 度確認したところ「そんな高額な商品ではない,中身の梱包もしっかりしている ので大丈夫」とAが言っていたこと(乙9),更に,このことについて,後日, 中京支店長であるDから再度,Aに確認されていること(乙12,証人D)等の 事実が認められ,被告は,同条による賠償責任は免れるものとみるのが相当であ る。
 次に約款21条の責任について検討する。
一般的に運送人は,運送契約関係を通じ,自己の管理下にある他人の物につい て契約当事者に対し,その保管・管理につき善管注意義務を負うものであり,自 己の管理下にある運送品に毀損が生じた場合,免責事由が認められない限り,運 送人には保管・管理上の過失があるものと考えられる。約款21条においては, 運送人が「注意を怠らなかったことを証明しない限り」損害賠償責任を負うもの と規定されており,これに関しては,被告の「注意を怠らなかったこと」を認め るに足りる証拠はない。よって,被告は同条に基づく損害賠償責任は免れない。4 争点(4)について 本件荷物の価額については,訴額にみあった簡易迅速さが求められている少額訴訟手続の枠内で,査定の当否が争われているという事情もあって,民事訴訟法 248条に基づき,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果を踏まえて60万円と 原判決が裁定したものであり,この裁定を覆すに足りる証拠等はない。5 過失相殺 前記争点(1)についての判示したとおり,原告は,本件契約時には本件荷物に対する所有権を有しており,本件契約当事者と実質的に同視できる立場にあった 者である。それにもかかわらず,原告は,Aに対し,「着払いで送っておいて」 (原告本人)と言っただけで,Aが「そんな高価な商品でないことを申出」と言 っているように(乙9,乙12),そんな高額な商品ではないと原告自身も知っていたのではないかとの疑念も打ち消しがたい。本件は,高価品としての注意義 務を明確に課せられた事案ではないが,現実に原告は本件荷物のいわゆる高価品 とはいえないまでも30万円を大きく超える価額を有するという意味での高価性 を主張し争っていることから,仮に,原告が当初から本件荷物について真実高価 性を認識していたのであれば,高価品並の取扱いをAに指示するのが通常であろ うと思われるところ,結果として,本件荷物が30万円を大きく上回る価額を有 する品物としての常識的取扱いを欠いていたものと言わざるを得ない。約款21 条に基づく損害賠償請求が可能であるとしても,約款で定める責任限度額30万 円を大きく超える損害額の賠償を求める原告の過失は,被告のそれよりも大きく, その割合は原判決の認定のとおり6割とみるのが相当である。6 結論 以上,原・被告双方から異議が出され,本件紛争の全般にわたり新たな主張及び証拠の提出のもとで審理し直した結果,被告の不法行為責任に基づく損害賠償 責任を認定した原判決に対し,その認定理由については債務不履行責任に基づく 損害賠償責任であるとして判断し直したが,結論においては異なるところはなく, 主文のとおり判決する。
 東京簡易裁判所民事第9室
裁判官 野中利次
判例本文

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