平成21年10月30日判決言渡 東京簡易裁判所 平成21年(少コ)第2202号 敷金返還請求事件(通常手続移行)判決
主文
1 被告は原告に対し,金24万円及びこれに対する平成21年7月26日から 支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決は仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求の趣旨
 主文同旨(遅延損害金の起算日は訴状送達の日の翌日)
第2 事案の概要
1 請求原因の要旨
(1) 原告は,被告との間で,平成19年2月17日,下記のとおり賃貸借契約 (以下「本件契約」という。)を締結し,被告は原告に対し賃貸物件(以下「本件建物」という。)を引き渡し,原告は被告に対し敷金24万円を預け入れた。
 記賃 貸 物 件
契 約 期 間
東京都渋谷区a町b番c
Aマンションd号 平成19年2月17日から2年間 月額12万5000円(共益費5000円を含む)賃 料
(2) 本件契約は平成21年2月16日に終了し,原告は被告に対し,同日までに本件建物を明け渡した(引越は1月15日に完了)。
(3) 原告は被告に対し,前記契約期間中の賃料,並びに,被告から請求された 原状回復費用(ルームクリーニング費用等)7万1400円を支払った。2 被告の主張の要旨
(1) 原告は平成21年1月15日に引っ越した際に,引越業者がパイプスペー スの扉のペンキを剥がし,その補修が完了したのは同年3月13日である。
 (2) 退去時に,玄関扉に凹みキズや汚れがあることを確認し,原告が契約して いた損害保険を使って補修を行うことになった。しかし,その補修工事費用 について保険会社の仲介により原告被告間で示談が成立したのは,平成21年6月5日であり,補修工事が完了したのはさらにその後の8月上旬である。 (3) 被告は,玄関扉の補修工事が完了するまでの間は次の入居者に賃貸するこ とができず,賃料収入を得られない状態であり,原告の本件建物の明渡しが 2月16日に完了したとはいえない。そうすると,原告は本件建物の明渡し を遅延したものとして,賃料精算済みの翌日である2月18日から示談成立 の6月5日まで,約定に基づく賃料相当の2倍の損害金として87万200 0円(12万円×2倍×3ヶ月+12万円×2倍÷30日×19日)及び原 告に依頼された各業者への対応による出動費用として1万500円(500 0円×2日分及び消費税)を支払う義務がある。これに敷金24万円を充当 しても,なお被告は64万2500円の請求権がある(反訴提起の趣旨ではない)。
 3 本件の争点
(1) 本件建物の明渡し完了時期はいつか
(2) 被告の損害はあるか 第3 当裁判所の判断
1 認定事実 争いのない事実,証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件の事実経過は次のとおりである。
(1) 原告は,平成20年12月16日付けの解約届(乙2)を被告に送付し,約定に従い本件契約は平成21年2月16日に終了した。原告は,同月6日,被告の求めに応じて原状回復費用(ルームクリーニング費用等・甲4)とし て7万1400円,2月分の日割賃料として7万5882円(甲5)を支払 った(原告本人)。(2) 原告は,契約終了日の1ヶ月前である同年1月15日に引越を完了したが, その際,引越業者がパイプスペースの扉のペンキを剥がした。この扉の補修 は引越業者が行うことで原告,被告,引越業者が合意し,同年3月13日に 補修が完了した(被告本人)。(3) 原告は,同年1月15日に引越を完了した後に行った被告との立会確認の 際に,入居期間中の同月11日頃に本件居室の玄関扉(平成元年の新築当時 から交換,修理はされていない。)に凹み,キズ等の損傷(甲8の1~3)を 与えたことを認め,これを原告が契約していた損害保険からの給付により補 修することを被告と合意した(原告被告各本人)。その補修工事について保険 会社が手配した業者による補修方法の検討や見積等に手間取り,具体的な補 修費用について保険会社の仲介により原告被告間で示談が成立したのは,同 年6月5日であった(乙6)。同月9日,前記示談に基づき保険会社から被告 に78万2250円が支払われた(甲6)。補修工事は同年8月上旬頃完了し たが,玄関扉の補修費用としては,前記示談金より約8万円少ない約70万 円であった(被告本人)。(4) 被告は,補修工事完了後の同年8月中旬頃から,本件居室の新たな入居者 募集を始めたが,同年10月上旬頃下見に来訪した者があったものの,口頭 弁論終結時において入居者は決まっていない(被告本人)。2 争点についての判断
(1) 本件建物の明渡し完了時期
以上認定した事実によれば,原告は平成21年1月15日までに本件居室 から退去し,同年2月6日,被告の求めに応じて原状回復費用を支払い,玄 関扉の補修については原告が契約していた損害保険からの給付により補修す ることを被告と合意し,保険会社が工事見積等に着手していたのであるから,原告は,遅くとも契約終了の同年2月16日時点では,原状回復,明渡しに ついて賃借人としてなすべきことを尽くしているとみるのが相当である。他方,被告は,玄関扉の補修工事が完了するまでの間は次の入居者に賃貸 することができず,明渡しが完了したとはいえないと主張する。しかし,玄 関扉のキズの状況は,床上約40ないし50センチメートル位の高さ2箇所 に着いている凹み様のものであり(甲8の1~3),美観上はともかく,玄関 扉の開閉,施錠等の機能としては何の支障もなかったものである(原告本人)。
 そうすると,被告としては,新たな入居予定者に近々補修又は交換する予定 であることを説明して,賃貸借契約を締結することは十分可能であったと解 するのが相当である(被告は未補修箇所を残したまま新規契約をすることは 後日のトラブルを招くおそれがあると述べるが,賃借人への説明と写真等に よる入居当時の状況の保全によりトラブルを防止することは十分可能であ る)。そうすると,被告は本物件の支配を回復し,他への賃貸などの利用が可 能な状態にあったとみることができ,この点からも本件居室の明渡しは,遅 くとも同年2月16日時点で完了したと解するのが相当である。(2) 被告の損害はあるか 玄関扉の補修費用が前記示談金より約8万円少ない約70万円であったことからすると,被告はその差額を合理的理由なく取得していることになる。 また,本件の玄関扉は,平成元年の新築当時から交換,修理されないまま既 に20年余が経過していることを考えると,本来相当程度の減価償却を行う べきであり,被告は新規扉への交換費用70万円余と減価償却後の残存価値 との差額を合理的理由なく取得していることになる。さらに,本件居室の新 たな入居者募集を始めてから約2ヶ月余経過した口頭弁論終結時においても 入居者は決まっておらず,本件居室の平均空室期間が約3ないし4ヶ月間で あると被告自身が述べていることからすると,これらは賃貸借契約解除に伴 う不可避の空室期間とみるのが相当である。以上の各点を総合すると,玄関扉の補修工事完了が遅れたことにより被告が主張するような損害が発生したと認めることはできないというべきである。
 4 以上のとおりであるから,被告の抗弁は理由がなく,原告の請求は理由があるのでこれを認容することとし,主文のとおり判決する。 東京簡易裁判所民事第9室裁判官 藤岡謙三
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