平成25年12月11日判決言渡
平成25年(ネ)第10061号 損害賠償請求控訴事件
(原審・東京地方裁判所平成24年(ワ)第29488号)
口頭弁論終結日 平成25年10月30日
判決
控訴人 X
被控訴人 有限会社光商事
訴訟代理人弁護士 鈴 木 修 主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人は,控訴人に対し,10万円及びこれに対する平成21年7月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 (3) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 (4) 仮執行宣言2 被控訴人 主文同旨
第2 事案の概要
1 本件は,控訴人が,控訴人制作に係る不動産物件表示プログラムを被控訴人 が取得し,使用したことは,不正競争防止法2条1項4号の不正競争行為に該 当すると主張して,同法5条3項3号に基づき,損害賠償として280万円及 びこれに対する遅延損害金の支払を請求した事案である。原審は,上記プログ ラムは不正競争防止法2条6項にいう「営業秘密」に当たらないとして控訴人 の請求を棄却したため,控訴人が,上記の裁判を求めて控訴した(なお,控訴 人は当審において,上記第1,1(2)のとおり,その請求を減縮した。)。2 前提となる事実等,争点及び争点に関する当事者の主張は,次のとおり原判 決を補正するほかは,原判決「事実及び理由」の第2の1ないし3記載のとお りであるから,これを引用する(以下,原判決を引用する場合は,「原告」を 「控訴人」と,「被告」を「被控訴人」と,それぞれ読み替える。)。(1) 原判決2頁10行目から同頁11行目の「プログラムを制作した(甲 1。以下「本件プログラム」という。)」を「プログラムを,各不動産業者 用のトップ画面を制作して販売(使用許諾)している(なお,控訴人がこの プログラム全体を制作しているか否かについては争いがある。以下,このプ ログラム全体を「本件プログラム」という。)」と改め,同頁14行目から 同頁15行目の「本件プログラムが保管管理されているサーバー」の次に 「(以下「本件サーバー」という。)」を加える。(2) 原判決3頁5行目の「A宛てに通知した(甲4)」を「A宛てに通知し た(甲4。以下「本件通知」という。)」と,同頁7行目から同頁8行目の 「本件プログラムのウェブサイトに,本件URLを用いてアクセスした(乙 1)」を「本件URLを用いて,本件サーバーに格納された本件プログラム にアクセスした(乙1。以下「本件各アクセス」という。)」と,それぞれ 改める。(3) 原判決3頁13行目から同頁14行目の「(平成21年(ワ)第1930 7号請負代金等請求事件)」を「(平成21年(ワ)第19307号請負代金等請求事件。以下「別件訴訟」という。)」と改める。
(4) 原判決4頁22行目から同頁23行目の「本件プログラムに不正にアクセスした」を「控訴人の承諾なく,本件URLを用いて本件サーバーに格納された本件プログラムにアクセスした(本件各アクセス)」と改める。(5) 原判決7頁20行目の「したがって,」の次に「被控訴人以外の不特定多数の者との関係では,」を加える。
(6) 原判決8頁5行目の「そして,」の次に「被控訴人との関係では,」を 加える。
第3 当裁判所の判断
当裁判所は,被控訴人による本件プログラムへの本件各アクセスは不正競争 防止法2条1項4号にいう「不正取得行為」及び本件プログラムの「使用」に は該当せず,控訴人の請求は理由がないものと判断する。その理由は,以下の とおりである。1 証拠(甲1ないし5,7,8,10,11,乙1ないし3)及び弁論の全趣 旨によれば,次の事実が認められる。(1) 控訴人は,平成20年12月24日,被控訴人の事務所を訪れ,被控訴人代表者とその社員らに対し,ウェブサイト制作とこれによるネット集客に 関する説明を行った。控訴人は,平成21年1月16日,被控訴人の事務所 において,その機能を体験してもらうために,本件URLを開示して,本件 プログラムにアクセスし,本件プログラムにより表示されるトップ画面(以 下「本件トップ画面」という。)を表示させた。被控訴人の取締役であるA は,控訴人の立会のもとで,本件トップ画面に,試しに物件の場所,価格な どのデータを入力し,画像をアップロードするなどした。(2) その後,控訴人は,被控訴人に対し,本件プログラムの作成に係る請負 代金の支払を求めたが,被控訴人は,契約は成立していないとして,その支 払を拒絶した。(3) 控訴人は,平成21年5月31日頃,本件通知を被控訴人に送付した。
 本件通知には,次のような記載がある(甲4)。(4)
「これらのページは非公開であるため管理者である当方が許可した者しか アクセスすることが出来ないので,本契約が成立していないのであれば,貴 殿には当方の制作した非公開ページにアクセスする権利がなかったことにな ります。つまり,貴殿はアクセスする権利を自ら法的に否定したことになり ます。・・・本件の場合のようなIDもパスワードも設置していない非公開 のページに不正アクセスするにはそのページのURLを盗み見るなどして不 正に入手たり,あるいは不正プログラムを使用して不正進入したりするほか はなく,IDとパスワードが設置してあるページの認証を不正にくぐり抜け てアクセスする場合よりも悪質です。従って,貴殿の行為は当然に不正アク セス行為の禁止等に関する法律」に違反するものであり,1年以下の懲役又 は50万円以下の罰金に処せられることとなります(第8条第1号)。・・ ・貴殿が当方制作の非公開のホームページと不動産物件表示プログラムを無 断閲覧したことは,地元ネットの企業秘密である企画,デザイン,構成,技 術の著作権を不当に取得したことを意味します。従って,その著作権の対価 1億円を不当利得返還請求(民法第703条)として貴殿に請求する旨,東 京地方裁判所に提訴申しあげます。・・・貴殿が不正アクセスにより閲覧し たプログラムは下記に示す通り,世界初の技術を含む特許申請準備中の高度 な技術により構成されており,これら技術を中核として価格を算定した結果 1億円となりました。・・・」被控訴人は,平成21年
 6 月頃,控訴人から本件プログラムの請負代金の 支払を求める訴えを提起されたため(別件訴訟),同年7月17日及び同月 18日の2回にわたり,控訴人が提案していた本件トップ画面を確認するた めに,控訴人から提示された本件URLを用いて本件プログラムにアクセス し,本件トップ画面を閲覧し,同画面をプリントしたものを別件訴訟において,書証として提出した。被控訴人が平成21年7月17日及び同月18日 に本件各アクセスをしたのは,本件プログラムを取得し,使用するためでは なく,別件訴訟のために,本件トップ画面を確認する必要があったためであ る。(5) 被控訴人は,前記(1)のとおり,Aが平成21年1月16日に控訴人立会 のもとで本件トップ画面に試しに物件情報を入力した以外には,物件情報を 入力したことはなく,本件プログラムをその営業に使用したことは全くな い。なお,別件訴訟においては,請負契約の成立等が認められず,控訴人の 請求は棄却されている。2 控訴人は,被控訴人が平成21年7月17日及び同月18日に,控訴人の承 諾なく,本件URLを用いて本件サーバーに格納された本件プログラムにアク セスし(本件各アクセス),これにより被控訴人のコンピュータに本件プログ ラムを複製させたものであるから,本件プログラムを不正の手段により取得 し,そして,本件プログラムを被控訴人のコンピュータのCPUに演算処理さ せた後にその表示すべき情報を見たのであるから,本件プログラムを使用した ものであると主張する。(1) 被控訴人の本件各アクセス行為が,不競法の不正取得行為に当たるか 被控訴人が本件各アクセスにより本件URLを用いて本件サーバーに格納 された本件プログラムにアクセスすると,被控訴人のコンピュータによる演 算処理の過程で,本件プログラムのうち,本件トップ画面を表示するのに必 要なプログラムが被控訴人のコンピュータのメモリ及びハードディスクに一時的に複製されることが認められる(甲1,11,弁論の全趣旨)。
 被控訴人による本件各アクセスの際に,被控訴人のコンピュータに複製さ れたプログラム(本件プログラムの一部)のソースコードは,A4用紙にし て7枚(全部で232行)からなるものである(甲1。なお,甲11はその 16進数表記の機械語変換プログラムである。)。
また,本件プログラムによって表示される本件トップ画面は,「光商事物 件の検索はこちら」とのタイトル,「検索条件の一覧」のサブタイトルの下 に「賃料で検索」「最寄駅で検索」「23区名で検索」「全ての物件を表 示」等の検索のための欄,「条件を入力して検索」のサブタイトルの下に, 「賃料,最寄駅,エリア,…」等の検索のための欄と,メンバーページなど の欄と,「フォンタナ ゲストハウスとドーミトリー ゲストハウスとドー ミトリー活用で魅力的東京滞在を」との欄などが表示されている,比較的シ ンプルな検索画面である(甲2)。しかしながら,控訴人の主張によれば,本件プログラムは,不動産物件情 報をインターネット上に公開し,不動産物件情報を広告できるようにするた めのプログラムであると同時に,検索サイトにおいて,検索情報を入力する と,本件プログラムが組み込まれたウェブページが検索結果の上位に表示さ れるようにするものであるから,少なくとも多数の不動産物件情報を管理す るためのデータベースプログラム及び上記のとおり検索結果の表示を操作す るためのプログラムが組み込まれている必要があり,さらに,控訴人が被控 訴人に対し送付した本件通知によれば,上記のもの以外にも様々な機能を備 えたプログラムである(甲4)というのであるから,被控訴人が本件各アク セスをしたことにより,本件トップ画面が表示された際に,被控訴人のコン ピュータ内に本件トップ画面を表示等するために必要なプログラムが一時的 に複製されたとしても,それは本件サーバーに格納されている本件プログラ ムのほんの一部にすぎない。そもそも,被控訴人は,本件URLを使用して 本件サーバー内に格納されている本件プログラムにアクセスしない限り,本 件プログラムを有効に使用することはできないのである。また,被控訴人による本件各アクセス時に,本件トップ画面を被控訴人の コンピュータに表示するためのプログラムが,前記のとおり,被控訴人のコ ンピュータのメモリ及びハードディスクに一時的に複製されたとしても,もともとメモリによる複製については,演算処理に必要な範囲での短時間の一 時的保存にすぎず,また,ハードディスクについては,ウェブページを閲覧 したときに一時的に記憶される領域内に一定の期間は自動的に保存されるに しても,これもその後のコンピュータの使用により,一時的記憶領域の容量 がオーバーすると順次自動的に消去されるものであって,コンピュータ内に 常時使用されるプログラムとして保存されるものではないことは明らかであ る。さらに,被控訴人は,Aが,平成21年1月16日に,控訴人立会のもと で,試しに物件情報を入力した以外には,本件プログラムに物件情報を入力 するなどして,これを顧客への営業活動に使用したことが全くないことは前 記1認定のとおりである。またさらに,被控訴人が本件各アクセスをし,そのコンピュータ上に本件 トップ画面を表示させたのは,控訴人から別件訴訟で本件プログラムの請負 代金の支払を求める訴訟を提起され,その訴訟における防御活動の必要性の ためであり,本件プログラムを取得し,使用するためではないことも前記1 認定のとおりである。そして,本件プログラムの一部のプログラムの複製物 が被控訴人のコンピュータ上に一時的に保存されたのは,上記のとおりコン ピュータの演算処理の仕組みによるものであり,被控訴人が意図的に行った ものではない。以上によれば,被控訴人による本件各アクセスにより,本件プログラムの 一部のプログラムにすぎない本件トップ画面を表示するためのプログラム が,被控訴人のコンピュータ内のハードディスク等の一時的な保存領域に保 存されたとしても,この一部のプログラムの複製物の一時的保存の事実のみ をもって,被控訴人が本件プログラムを不正の手段により取得したものとい うことはできない。(2) なお,控訴人が平成21年1月16日に被控訴人に対し本件URLを教示したことにより,被控訴人はいつでも本件プログラムにアクセスすること ができる客観的状況にあったということはできる。しかし,本件URLは,控訴人が被控訴人に対し,本件プログラム制作販 売目的の営業活動の中で教示したものであり,その後,被控訴人は,本件プ ログラムについて契約を締結せず,本件各アクセスにより本件トップ画面を そのコンピュータ上に表示させた以外には,本件サーバー内の本件プログラ ムにアクセスしたことはない。まして,被控訴人は,Aが,平成21年1月 16日に,控訴人立会のもとで,試しに物件情報を入力した以外には,本件 プログラムに物件情報を入力するなどして,これを顧客への営業活動に使用 したことも全くないことは前記1認定のとおりである。これに対し,控訴人は,被控訴人が,本件URLを使用することにより, 本件プログラムにいつでもアクセスすることができる客観的な状態を変更し ようと思えば,本件通知をするほかに,本件サーバー側において,本件UR Lを変更するなどして,被控訴人が本件プログラムにアクセスできないよう にすることは容易にできたことである。まして,控訴人が被控訴人に対し営 業活動として本件URLを教示し,その後,被控訴人が本件プログラムの請 負契約等の成立を否認して,その代金の支払をしないため,別件訴訟に至っ たとの経緯を考慮すれば,控訴人としては,通常ならば,本件URLについ てその変更の措置を執るはずである。控訴人がこのような措置を執ることな く,被控訴人が本件プログラムにアクセスすることができる状態が継続して いたとしても,それはむしろ控訴人が招いた事態であり,被控訴人がこのよ うな状況の中でたまたま本件各アクセスをしたとしても,被控訴人がこれに より本件プログラムを不正に取得したものということは到底できない。(3) 以上のとおり,被控訴人の本件各アクセス行為をもって,被控訴人が本 件プログラムを不正に取得したものとも,また,これを不正に使用したもの ともいうことはできず,控訴人の不競法2条1項4号及び5条3項3号に基 づく請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。3 結論
よって,控訴人の請求を棄却した原判決は,その結論において相当であり, 本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
 知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 設樂一
裁判官 西 理 香
裁判官 田中正哉
判例本文

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