平成25年12月5日判決言渡 同日原本受領 裁判所書記官
平成25年(行ケ)第10073号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成25年11月14日

判決

原告 x
被告 特許庁長官
指定代理人 服部 秀男
同 星野 浩一
同 樋口 信宏
同 山田 和彦

主文
  1. 原告の請求を棄却する。
  2. 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 特許庁が不服2011-24812号事件について平成25年2月5日にした審決を取り消す。

第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等
(1)原告は,名称を「光電変換装置」とする発明(請求項の数7。以下「本願発明」という。)について,平成22年9月17日に特許出願(以下「本願」という。)をしたところ,同年11月16日付けで拒絶理由が通知されたことから,平成23年1月23日付け手続補正書により明細書,特許請求の範囲及び図面の補正(以下「本件補正」といい,本件補正により補正された明細書を,図面を含めて「補正後明細書」という。甲6)をしたが,同年5月23日付けで拒絶理由が通知され,その後,同年9月22日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)を受けたので,同年10月30日,拒絶査定不服の審判を請求した(甲1,3,5,6,9,12,13)。
(2)特許庁は,前記(1)の審判請求を不服2011-24812号事件として審理し,平成24年9月10日付けで審尋を行い,原告から同年11月12日付け回答書が提出された後,平成25年2月5日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月20日,原告に送達された(甲14,16,17)。
(3)原告は,平成25年3月15日,本件審決の取消しを求めて本件訴訟を提起した。

2 当初明細書等の特許請求の範囲請求項1及び段落【0019】の各記載並びに本件補正の内容
(1)当初明細書等の記載
ア 本願の願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1の記載は,以下のとおりである(以下,本願の願書に添付した明細書,特許請求の範囲及び図面を併せて「当初明細書等」という。甲1)。
【請求項1】
 本発明は,入射光を電子等の電荷に変換する光電変換領域を有する受光素子部に入射光の進行方向に対して括れ状の外壁を設けた柱形体の括れ付き光電変換装置。
イ 当初明細書等の段落【0019】の記載は,以下のとおりである。
「【0019】
 尚,太陽電池の製造プロセスは,蒸着,露光,蝕刻(エッチング)など,従来からの,半導体,液晶パネルの製造プロセスを踏襲しており,前記括れ形成部9,および括れの下方側に形成してなる抉れ部10を形成することは,CVD法や選択式露光,等方性エッチング,選択式エッチング,あるいはCMP(Chemical Mechanical Polishing:化学的機械研磨)法であるダマシン法やデュアルダマシン法を選択的に駆使して形成することが出来る。」
(2)本件補正の内容
 本件補正は,前記(1)アの特許請求の範囲請求項1について以下のアのとおり補正するほか,前記(1)イの段落【0019】について,以下のイのとおり補正することを含むものであった。なお,下線部は補正部分を示している。
ア 特許請求の範囲請求項1について
【請求項1】
 本発明は,日射量が最も多い本願装置の真上方向からの光入射を基準として前記装置を設置し,太陽光の一般的光路変化である,前記光入射基準方向に対しての光入射角がプラス90度,マイナス90度の範囲を考慮に入れて,前記装置を使用想定する場合に,1次入射光を電子等の電荷に変換する光電変換領域を有する受光素子部に,1次入射光の進行方向に対して,前記光電変換領域が,1次入射光の進行方向に沿って形を成す曲線において,前記曲線上に任意の2点を取る場合に,前記各点における接線の傾きについて,前記1次入射光側の1点の接線の傾きを正とすると,前記残りの本願装置の基板寄りの1点の接線の傾きが負となるように設けてなる括れ状の外壁を設けることを特徴とする,シリコン系材料を使用する柱形体の括れ付き光電変換装置。
イ 段落【0019】の記載について
「【0019】
 尚,太陽電池の製造プロセスは,蒸着,露光,蝕刻(エッチング)など,従来からの,半導体,液晶パネルの製造プロセスを踏襲しており,前記括れ形成部9,および括れの下方側に形成してなる抉れ部10を形成することは,CVD法や選択式露光,等方性エッチング,選択式エッチング,あるいはCMP(Chemical Mechanical Polishing:化学的機械研磨)法であるダマシン法やデュアルダマシン法を選択的に駆使して形成することが出来る。次に詳しく説明する。シリコン系は結晶の状態により結晶シリコンと薄膜シリコンに分類できる。結晶シリコンは単結晶シリコンと多結晶シリコンに分類できる。薄膜シリコンは微結晶シリコンとアモルファス(非晶質)シリコンに分類できる。シリコン系の結晶型の違いはシリコンの結晶粒界面,つまり結晶欠陥の数の違いであり,結晶欠陥の少ない順に,単結晶シリコン,多結晶シリコン,微結晶シリコン,アモルファス(非晶質)シリコンとなる。一般的に前記結晶欠陥の数が少ない,および前記結晶欠陥に伴う不純物の数が少ないほど太陽電池の変換効率は高くなる。つまり,結晶欠陥が多いほど,電気が効率良く流れなくなる。本願発明の括れをどのように生成するかを詳しく説明する。本光電変換装置の基板にp型半導体3を使用する。結晶シリコン太陽電池は一般的に高純度シリコンインゴットからシリコンウエーハという薄い板状にしたものを使用する。薄膜シリコンの場合はシリコンウエーハもしくはガラス基板などが使用される。p型半導体3はホウ素原子をp型不純物として熱拡散により混ぜて作る。薄膜シリコンの場合は一般的にプラズマCVD(化学的気相成長法)装置を使用して,シランガスを放電により分解し,結晶シリコンやガラスなどの基板に化学的にシリコンを付着させる。次いで,ホウ素原子をp型不純物として熱拡散により混ぜて作り,p型半導体3を形成する。次に括れ形成について説明する。結晶シリコンでは,前記状態のp型半導体3の表面にフォトリソグラフィを使用して,露光の深さ方向のフォーカス位置をずらすことで,レジストのパターンプロファイルが少々肩部が垂れる形状になることを利用してパターンを形成し,次にウエットまたはドライエッチングを行って,きのこ柱状の頭部側を形成できる。あるいは,前記状態のp型半導体3の表面を薄く酸化した後,シリコンナイトライド膜をCVDで堆積する。次いでフォトリソグラフィを使用してパターンを形成した後に,シリコンナイトライド膜をウエットまたはドライエッチングする。レジストを除去し,残ったシリコンナイトライド膜をマスクにして,前記酸化膜をフッ酸でエッチングする。次いで異方性エッチングをするとV字的形状に形成される。一般的にはKOH-IPA系水溶液が知られている。残った酸化膜とシリコンナイトライド膜はウエットまたはドライエッチングする。この方法でも,きのこ柱状の頭部側を形成できる。次いでフォトリソグラフィを使用して前記V字的形状の開口パターンより小さいパターンをレジストで形成した後に,等方性エッチングのドライエッチングまたはウエットエッチングをする。エッチングが回り込むことによって,アンダーカット(サイドエッチング)が得られる。次いでレジストは除去する。このようにして括れ形成部9を得ることができる。エッチング底面も同時に波形状を得ることができる。薄膜シリコンの場合は,前記薄膜シリコンのp型半導体3を形成後に前記結晶シリコンと同様に,エッチングを2段階に行って,括れ形成部9を得ることができる。あるいは,前記プラズマCVD装置を使用して,シランガスを放電により分解し,結晶シリコンやガラスなどの基板に,化学的にシリコンを付着させた後に,酸化膜またはシリコンナイトライド膜を堆積し,次いでフォトリソグラフィを使用してパターンを形成した後に,前記パターンをマスクにして前記酸化膜または前記シリコンナイトライド膜をドライエッチングすると,開口が得られる。次いで前記プラズマCVD装置を使用して,シランガスを放電により分解し,前記開口パターン形成済の酸化暎またはシリコンナイトライド膜上に化学的にシリコンを付着させる。次いで,余分な薄膜シリコンをCMPして,薄膜シリコン柱を形成する。次いで,前記薄膜シリコン柱を形成済みの上面に,酸化膜またはシリコンナイトライド膜を堆積し,次いで,フォトリソグラフィを使用して前記薄膜シリコン柱の上面サイズより少々大きいレジストパターンを形成した後に,前記レジストパターンをマスクにして前記酸化膜または前記シリコンナイトライド膜をドライエッチングする。次いで,前記プラズマCVD装置を使用して,シランガスを放電により分解し,前記パターン形成済の酸化膜またはシリコンナイトライド膜上に化学的にシリコンを付着させる。次いで,余分な薄膜シリコンをCMPすると,T字状断面形を成す薄膜シリコン柱が形成される。つまり,ダマシン法を2回行うことで,T字状断面形を成す薄膜シリコン柱が形成される。あるいは,デュアルダマシン法を利用しても良い。デュアルダマシン法を利用する場合は,前記プラズマCVD装置を使用して,シランガスを放電により分解し,結晶シリコンやガラスなどの基板に,化学的にシリコンを付着させた後に,第1の酸化膜を堆積し,次いで前記プラズマCVD装置を使用してシリコンナイトライド膜を堆積し,さらに前記プラズマCVD装置を使用して第2の酸化膜を堆積する。次いでフォトリソグラフィを使用してレジストパターンを形成した後に,前記レジストパターンをマスクにして前記第2の酸化膜と,前記シリコンナイトライド膜と,前記第1の酸化膜をドライエッチングして開口する。次いで,フォトリソグラフィを使用して前記開口より少々大きいレジスト開口パターンを形成した後に,前記レジストパターンをマスクにして前記第2の酸化膜をドライエッチングする。前記第2の酸化膜の開口サイズは,前記シリコンナイトライド膜と,前記第1の酸化膜の開口サイズより少々大きくなる。これはシリコンナイトライド膜のエッチング速度が酸化膜のエッチング速度に比べて十分小さく,シリコンナイトライド膜がエッチングストップの作用を生じるからである。次いで,前記プラズマCVD装置を使用して,シランガスを放電により分解し,前記パターン形成済の酸化膜またはシリコンナイトライド膜上に化学的にシリコンを付着させる。次いで,余分な薄膜シリコンをCMPすると,T字状断面形を成す薄膜シリコン柱が形成される。前記T字状断面形を成す薄膜シリコン柱の表面に,フォトリソグラフィを使用して,露光の深さ方向のフォーカス位置をずらすことで,レジストのパターンプロファイルが少々肩部が垂れる形状になることを利用してパターンを形成し,次に,ウエットまたはドライエッチングを行って,きのこ柱状の頭部側を形成できる。次いで,フォトリソグラフィを使用して,きのこ柱状の頭部サイズと同等の開口パターンをレジストで形成した後に,等方性エッチングのドライエッチングまたはウエットエッチングをする。エッチングが回り込むことによって,アンダーカット(サイドエッチング)が得られる。次いでレジストは除去する。このようにして括れ形成部9を得ることができる。エッチング底面も同時に波形状を得ることができる。p型半導体3に括れ形成部9および括れの下方側に形成してなる抉れ部10を得た後は,n型半導体5を作る。n型半導体5はリン元素をn型不純物として熱拡散により混ぜて作る。前記p型不純物,n型不純物濃度を微調整するときは,フォトリソグラフィを使用してパターンを形成し,前記レジストパターンをマスクにしてホウ素イオンやリンイオンを使用してイオン注入を行う。前記イオン注入後に,p+拡散層4やn+拡散層6が得られる。その後に加熱アニールにより,結晶性を整えてpn接合ができる。p+拡散層4を作るためのリンイオン注入の実施順は,加熱アニールの前であれば良い。次に,光が当たるn型半導体5に,蒸着等を利用してITO等の透明電極層7をつける。次に,蒸着等を利用して全面にアルミニウムやAg等をつける。次いで,フォトリソグラフィを使用してパターンを形成し,次いで,ドライエッチング等で取り出し電極8を形成する。裏面については残していた酸化膜2に,フォトリソグラフィを使用してパターンを形成し,裏面からの電極取り出しのパターンを形成する。次いで,スクリーン印刷や蒸着を使用して,裏面電極層1を形成する。前記裏面電極層1については,一般的にアルミニウムやAg等の使用が知られている。」

3 本件審決の理由の要旨
 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)のとおりである。要するに,本件補正によって補正後明細書の段落【0019】に追加された前記2(2)イの下線が付された部分は,当初明細書等に記載されておらず,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるとはいえず,本件補正は,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえないものであって,平成23年法律第63号による改正前の特許法(以下「法」という。)17条の2第3項に規定する要件を満たしていないから,本願は拒絶されるべきものである,というものである。

4 取消事由
(1)取消事由1(本件補正は当初明細書等に記載のない新規事項を追加するものではなく,本件審決にはこの点についての事実認定及び判断の誤りがあること)
(2)取消事由2(本件審決の理由中の「1 手続の経緯」において経緯の大部分が省略されていること)
(3)取消事由3(原査定に理由が付されていないこと)
(4)取消事由4(本件審決の理由中の「2 原査定の理由」に誤りがあること)
(5)取消事由5(本件審決の理由中の「3 本件補正の内容」において,当初明細書等に記載されていないとする具体的な箇所が記載されていないこと)
(6)取消事由6(拒絶査定不服審判において被告が審判官を変更していること)
(7)取消事由7(本件審決の理由中の「5 むすび」に誤りがあること)

第3 取消事由についての当事者の主張
(1)取消事由1(本件補正は当初明細書等に記載のない新規事項を追加するものではなく,本件審決にはこの点についての事実認定及び判断の誤りがあること)について
〔原告の主張〕
 本件補正は,新しい部品や材料を加えたり,当初明細書等に記載のない新たな効果や作用を加えるものではないから,新規事項を追加するものではない。本件審決は,半導体の長い歴史の中での当時の技術水準を看過しており,この点についての事実認定及び判断の誤りがある。
 原告が平成23年1月23日付け手続補正書(甲6)で,「p+拡散層4を作るためのリンイオン注入の実施順は,加熱アニールの前であれば良い。」と記載したことに対して,被告はどのように考察して,一連の具体的な製造プロセス(処理の選択的かつ時系列的な組合せ)として特定できたのかを説明できていない。そして,上記「イオン注入」は,生産方法を特定するパラメータとして,イオン注入エネルギー,イオン注入角度,イオンドーズ量,イオンの価数,基板の回転有無,イオン打ち込み回数等があり,これらの条件設定が定まって初めて所望のイオン濃度分布(深さ方向含む)が得られるものであるから,上記記載は,生産方法として請求する場合の実施例としては足りないが,物として請求する場合の実施例として十分に足りているものである。
〔被告の主張〕
 補正後明細書(甲6)の段落【0019】の下線が付された部分には,括れ形成部及び抉れ部を形成するという課題解決のために,①どのような性質の基板を選択するか,②選択された基板の種類に応じて,どのような処理を選択するか,③それら選択された処理をどのような順序で組み合わせるかという,一連の具体的な太陽電池の製造プロセス(処理の選択的かつ時系列的な組合せ),特に,括れ形成部及び抉れ部の形成方法が詳細に説明されている。しかしながら,このような詳細な製造プロセスは,当初明細書等のどこにも開示されていない。すなわち,当初明細書等には,太陽電池の製造プロセスに関して,段落【0019】に,「蒸着,露光,蝕刻(エッチング)など」と,半導体微細加工において一般的に行われる処理が記載され,括れ形成部及び抉れ部の形成に関しては,CVD法や選択式露光といった,半導体の製造プロセスにおいて用いられる個々の処理が列挙され,それらを選択的に駆使して形成すると抽象的に記載されるにとどまる。
 したがって,補正後明細書の段落【0019】の下線が付された部分は,当初明細書等に記載されておらず,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるとはいえないから,本件補正は,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえず,法17条の2第3項に規定する要件を満たしていないものである。なお,原告は,甲24及び25を提出するが,甲24及び25を参照しても,当初明細書等の記載から,上記下線が付された部分に相当する,具体的な括れ形成部及び抉れ部の形成方法を理解できる根拠は見いだせない。
(2)取消事由2(本件審決の理由中の「1 手続の経緯」において経緯の大部分が省略されていること)について
〔原告の主張〕
 本件審決の「理由」の「1.手続の経緯」において,経緯の大部分が省略されていて,出願から審決に至るまでの手続の全貌が解るような記載がされていない。
〔被告の主張〕
 本件審決においては,審理の前提となる拒絶理由通知(甲5,9)や拒絶査定(甲12),審理の対象となる補正(甲6)など,審決の理由を明らかにする上で有用な経緯を示しているところであるが,出願番号通知(甲2)など,事案の概要や審決の結論を示すのに必要のない手続は記載を省略している。しかるに,審決において,手続の経緯をすべて記載しなければならない法律上の規定はないから,手続の経緯を省略して記載したことが,本件審決を違法にするものではない。
(3)取消事由3(原査定に理由が付されていないこと)について
〔原告の主張〕
ア 特許法158条は,審査においてした手続は,拒絶査定不服審判においても,その効力を有するとして,続審主義を採用している。
 特許法52条は,「査定は,文書をもって行い,かつ,理由を付さなければならない。」と規定しているにもかかわらず,原査定(甲12)では,理由の項目を記載しておらず,実質理由が記載されていないから,同条違反であって,本件審決に重大な影響を与える瑕疵がある。また,原査定に理由の項目を記載せずに,備考(一般的な国語辞典によれば,備考とは参考になることを書き添えるとの意味であり,本文に書くほどではないが,本文理解のために参考になることを書き添えたものである。)の項目を記載していることも矛盾があり,瑕疵がある。さらに,原査定の「この出願については,平成23年5月23日付け拒絶理由通知書に記載した理由1-2によって,拒絶をすべきものです。」との記載では,具体的理由を示しているとはいえず,「平成23年5月23日付け拒絶理由通知書に記載した理由1-2」の文言と,平成23年5月23日付け拒絶理由通知書(甲9)は,完全一致していないから,記載内容が不明確であって,本件審決に重大な影響を与える瑕疵である。
イ 被告は,審決取消訴訟においては,審決ないし審判手続の違法性が取消事由になるべきところ,原告の主張は,審査手続における瑕疵をいうものであって,主張自体失当であると主張する。
 しかし,行政事件訴訟法10条2項は,処分の取消しの訴えとその処分についての審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えとを提起することができる場合には,裁決の取消しの訴えにおいては,処分の違法を理由として取消しを求めることができないが,他方,原処分の取消しの訴えを認めず,必ず裁決の取消しの訴えを提起すべき旨が個別の法律で定められている場合には,処分の取消しの訴えが提起できないので,同法10条2項の適用はなく,裁決の取消しの訴えの中で,原処分の違法(瑕疵)を主張できるし,裁決が取り消されれば原処分も失効する。特許に係る審決取消訴訟においては,拒絶査定が原処分になるところ,特許法は,原処分である拒絶査定の取消しの訴えを認めず,審決取消訴訟のみが提起できることから,原処分についても審決取消訴訟で争うことになる。
 したがって,被告の上記主張は主張自体失当である。
〔被告の主張〕
ア 審決取消訴訟においては,審決ないし審判手続の違法性が取消事由になるべきところ,原告の主張は,審査手続における瑕疵をいうものであって,主張自体失当である。
イ なお,以下のとおり,原査定にも違法はない。
 すなわち,特許法52条においては,拒絶査定は,理由を付して行わなければならない旨規定されているが,拒絶査定に「理由」という項目名が記載されなければならないことが規定されているものではないから,かかる項目名が記載されていなくとも,特許法52条に違反することにはならない。
 また,原査定には,本願は,平成23年5月23日付け拒絶理由通知書(甲9)に記載した理由1及び2によって拒絶すべきものであること,意見書の内容を検討したが,拒絶理由を覆す根拠が見いだせないことが記載されている。ここで,上記拒絶理由通知書には,理由1として,補正後明細書の段落【0019】について法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない旨,理由2として,請求項1について特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない旨それぞれ記載されている。そして,原査定にも,「1.理由1について」,「2-1.一つ目の理由について」,「2-2.二つ目の理由について」及び「2-3.三つ目の理由について」で理由が記載されている。
 したがって,原査定には理由が付されており,その具体的内容も明確に示されているから,原告の主張は失当である。
(4)取消事由4(本件審決の理由中の「2 原査定の理由」に誤りがあること)について
〔原告の主張〕
 特許法157条2項4号は,審決は,審決の結論及び理由を記載しなければならないと規定している。
 本件審決の「理由」の「2.原査定の理由」において,原査定の理由の一つは,本件補正は,平成23年5月23日付けで通知された拒絶理由のとおり,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから,「法17条の2第3項」に規定する要件を満たしていないというものであるとしているが,原査定には,「法17条の2第3項」の文言が全く記載されていない。したがって,原査定に記載されていない「法17条の2第3項」の文言を,あたかも原査定に記載してあるかのように記載した本件審決の「理由」の「2.原査定の理由」は無効であり,本件審決には瑕疵がある。
〔被告の主張〕
 原査定には,「この出願については,平成23年5月23日付け拒絶理由通知書に記載した理由1-2によって,拒絶をすべきものです。」と記載され,上記拒絶理由通知書の「理由1」には,「平成23年1月24日付けでした手続補正は,下記の点で願書に最初に添付した…当初明細書等…に記載した事項の範囲内においてしたものでないから,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。」と記載され,さらに,原査定には,「1.理由1について 本願明細書の段落【0019】における,括れ形成部及び抉れ部の形成方法についての詳しい説明を追加する補正は,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえません。」との記載がある。
 そうしてみると,原査定には,その理由が,法17条の2第3項違反であることが示されているから,本件審決の「2.原査定の理由」の記載には,審決の結論に影響を及ぼすような誤りはない。
(5)取消事由5(本件審決の理由中の「3 本件補正の内容」において,当初明細書等に記載されていないとする具体的な箇所が記載されていないこと)について
〔原告の主張〕
 本件審決の「理由」の「4.当審の判断」において,「本願明細書の【0019】に追加された上記下線が付された部分は,当初明細書等に記載されておらず」としているが,具体的な箇所が指摘されておらず,原告にとっては,「本願明細書の【0019】に追加された上記下線が付された部分」の文言が,「下線」内の部分的な指摘なのか,「下線」の全てなのかが判読困難であって,3頁近くにおよぶ長さで引かれている「下線」の中で,文言としては,いったいどの部分が新たな技術的事項に該当するのかについて,被告からは,明快で,具体的な技術論は開示されておらず,本件審決には,事実認定の誤り及び手続上の誤りがある。
〔被告の主張〕
 本件審決が引用した段落【0019】には,下線が付された部分と下線が付されていない部分があるところ,本件審決は,下線が付されているか否かで記載箇所を特定している。したがって,本件審決が,下線が付された部分のすべて(基板の選択を含む一連の具体的な製造プロセス全体)を,当初明細書等に記載されていないと説示したことは,記載上明らかであり,「本願明細書の【0019】に追加された上記下線が付された部分は,当初明細書等に記載されておらず」とした本件審決の認定に何ら瑕疵はない。
(6)取消事由6(拒絶査定不服審判において被告が審判官を変更していること)について
〔原告の主張〕
 原告が拒絶査定不服審判において審尋に対する回答書を提出した後に,被告は審判官1名を変更している。しかし,原告は審判官の忌避を申し立てておらず,変更の理由が不明で,不可解であり,瑕疵がある。
〔被告の主張〕
 審判官の変更を根拠に審決に瑕疵があるとするのは,原告独自の見解である。審判官を変更しても,本件審決に瑕疵があることにはならないし,本件審決の結論に誤りがあることにもならない。
(7)取消事由7(本件審決の理由中の「5 むすび」に誤りがあること)につい

〔原告の主張〕
 本件審決の「理由」の「5.むすび」において,「本件補正は,特許法第17条の2第3項による要件を満たしていないものであるから,本願は拒絶されるべきものである。よって,結論のとおり審決する。」としているが,前記ないしのとおり,審決に至るまでの手続,拒絶理由,その認定判断には誤りがあり,審決に対して重大な影響を与える違法があるから,本件審決は取り消されるべきである。
〔被告の主張〕
 原告主張の取消事由1ないし6には,いずれも理由がないから本件審決の結論に誤りはない。

第4 当裁判所の判断
1 取消事由1(本件補正は当初明細書等に記載のない新規事項を追加するものではなく,本件審決にはこの点についての事実認定及び判断の誤りがあること)について
(1)前記第2の2によれば,本件補正によって補正後明細書の段落【0019】に追加された下線部の記載は,括れ形成部及び抉れ部について,一連の具体的な製造プロセス(処理の選択的かつ時系列的な組合せ)を説明したものと認められる。
 しかし,当初明細書等には,括れ形成部及び抉れ部の形成方法について,「尚,太陽電池の製造プロセスは,蒸着,露光,蝕刻(エッチング)など,従来からの,半導体,液晶パネルの製造プロセスを踏襲しており,前記括れ形成部9,および括れの下方側に形成してなる抉れ部10を形成することは,CVD法や選択式露光,等方性エッチング,選択式エッチング,あるいはCMP(Chemical Mechanical Polishing:化学的機械研磨)法であるダマシン法やデュアルダマシン法を選択的に駆使して形成することが出来る。」(【0019】)と,CVD法,選択式露光,等方性エッチング,選択式エッチング,CMP,ダマシン法及びデュアルダマシン法という半導体製造技術における一般的な処理方法が記載されているものの,補正後明細書の段落【0019】の下線部に記載された括れ形成部及び抉れ部についての一連の具体的な製造プロセス(処理の選択的かつ時系列的な組合せ)については,何らの記載もない。また,補正後明細書の段落【0019】の下線部に記載された括れ形成部及び抉れ部についての一連の具体的な製造プロセス(処理の選択的かつ時系列的な組合せ)が,当初明細書等の段落【0019】の半導体製造技術における一般的な処理方法の記載から,本願出願当時の技術水準に照らして自明な事項であるということもできない。
 したがって,補正後明細書の段落【0019】の下線部の記載は,当初明細書等に記載されておらず,また,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるということはできない。
(2)原告は,この点について,本件補正は,新しい部品や材料を加えたり,当初明細書等に記載のない新たな効果や作用を加えるものではないから,新規事項を追加するものではなく,半導体の長い歴史の中での当時の技術水準を看過しており,本件審決にはこの点についての事実認定及び判断の誤りがある旨主張するが,前記(1)で説示したとおりであって,原告の同主張には理由がない。
 また,原告は,原告が平成23年1月23日付け手続補正書(甲6)で,「p+拡散層4を作るためのリンイオン注入の実施順は,加熱アニールの前であれば良い。」と記載したことに対して,被告はどのように考察して,一連の具体的な製造プロセス(処理の選択的かつ時系列的な組合せ)として特定できたのかを説明できていない旨,及び,上記「イオン注入」は,生産方法を特定するパラメータとして,イオン注入エネルギー,イオン注入角度,イオンドーズ量,イオンの価数,基板の回転有無,イオン打ち込み回数等があり,これらの条件設定が定まって初めて所望のイオン濃度分布(深さ方向含む)が得られるものであるから,上記記載は,生産方法として請求する場合の実施例としては足りないが,物として請求する場合の実施例として十分に足りているものである旨主張する。
 しかし,補正後明細書の段落【0019】の下線部に記載された括れ形成部及び抉れ部についての一連の具体的な製造プロセス(処理の選択的かつ時系列的な組合せ)は,原告主張に係る「p+拡散層4を作るためのリンイオン注入の実施順は,加熱アニールの前であれば良い。」との記載に限られるものでないことは,前記第2の2(2)イのとおり明らかである。仮に,「p+拡散層4を作るためのリンイオン注入の実施順は,加熱アニールの前であれば良い。」との事項が,当初明細書等の記載から自明なことであったとしても,補正後明細書の段落【0019】の下線部に記載されたその余の括れ形成部及び抉れ部についての一連の具体的な製造プロセス(処理の選択的かつ時系列的な組合せ)は,当初明細書等には記載されていないし,また,当初明細書等の段落【0019】の半導体製造技術における一般的な処理方法の記載から,本願出願当時の技術水準に照らして自明な事項であるということもできない。原告の上記主張も理由がない。
(3)したがって,取消事由1は理由がない。

2 取消事由2(本件審決の理由中の「1 手続の経緯」において経緯の大部分が省略されていること)について
 原告は,本件審決の「理由」の「1.手続の経緯」において,経緯の大部分が省略されていて,出願から審決に至るまでの手続の全貌が解るような記載がされていない旨主張する。
 しかし,審決において,手続の経緯を必ず記載しなければならないとする法令上の根拠はないから(特許法157条2項参照),経緯の大部分の記載が省略されていることをもって,本件審決に違法があるとすることはできず,原告の上記主張は主張自体失当である。
 この点を措いても,本件審決は,「理由」の「1.手続の経緯」において,本願発明の特許出願,拒絶理由通知,本件補正,原査定,拒絶査定不服審判請求,審尋及び回答書の提出等,審決の理由を明らかにする上で必要な手続の経緯を記載しており,当該記載をもって記載が足りず不相当ということはできない。
 したがって,取消事由2は理由がない。

3 取消事由3(原査定に理由が付されていないこと)について
(1)原告は,特許法158条は,審査においてした手続は,拒絶査定不服審判においても,その効力を有するところ,同法52条は,「査定は,文書をもって行い,かつ,理由を付さなければならない。」と規定しているにもかかわらず,原査定(甲12)では,理由の項目を記載しておらず,実質理由が記載されていないから,同条違反であって,本件審決に重大な影響を与える瑕疵がある,また,原査定に理由の項目を記載せずに,備考(一般的な国語辞典によれば,備考とは参考になることを書き添えるとの意味であり,本文に書くほどではないが,本文理解のために参考になることを書き添えたものである。)の項目を記載していることも矛盾があり,瑕疵がある,さらに,原査定の「この出願については,平成23年5月23日付け拒絶理由通知書に記載した理由1-2によって,拒絶をすべきものです。」との記載では,具体的理由を示しているとはいえず,「平成23年5月23日付け拒絶理由通知書に記載した理由1-2」の文言と,平成23年5月23日付け拒絶理由通知書(甲9)は,完全一致していないから,記載内容が不明確であって,本件審決に重大な影響を与える瑕疵である旨主張する。
 しかし,特許法は,特許出願に関する行政処分の是正手続については,一般の行政処分の場合とは異なり,常に専門的知識経験を有する審判官による審判の手続の経由を要求するとともに,取消しの訴えは,原処分である拒絶査定の処分に対してではなく,審判の審決に対してのみこれを認め,もっぱら審決の適法違法のみを争わせ,拒絶査定の適否は審判の審決の適否を通じてのみ間接にこれを争わせるにとどめているものである(最高裁判所昭和51年3月10日大法廷判決・民集30巻2号79頁参照)。したがって,審決取消訴訟における審理の対象は,行政処分たる審決の違法性そのものであって,原処分たる拒絶査定の違法性は審理の対象とならないというべきところ,原告の上記主張は,原処分である原査定の瑕疵を主張するものにすぎないから,それ自体失当というほかない。
 なお,原告が指摘する特許法158条は,拒絶査定不服審判の審理は,審査段階の審理に基づいた審理を継続し,審査段階で提出されていなかった新たな資料をも補充して,審査官の判断の当否を調査し,審査で行われた手続がそのまま審判でも効力を有するとして,審査と拒絶査定不服審判とが続審の関係にあることを規定したものであって,審決取消訴訟における審理の対象を画する規定ではない。
(2) 前記(1)で説示した点を措いても,原査定には以下のとおり理由が付されていることは明らかであって,原告の前記(1)の主張は理由がない。
 特許法52条は,「査定は,文書をもって行い,かつ,理由を付さなければならない。」と規定するところ,査定には理由が付されていれば足り,「理由」という項目が記載されなければならないものではない。したがって,原査定に理由の項目の記載がなく,備考の項目に理由が記載されていることをもって,原査定に特許法52条違反があるとすることはできない。
 そして,平成23年5月23日付け拒絶理由通知書(甲9)には,「理由」の項目の下に,「理由1」として,補正後明細書の段落【0019】に追加された,括れ形成部及び抉れ部の形成方法についての詳しい説明に関する事項は,明らかに当初明細書等に明示的に記載された事項ではないし,当初明細書等に記載がなくても,これに接した当業者であれば,出願時の技術常識に照らして,当該事項が記載されているのと同然であると理解する事項とは認められず,当初明細書等の記載から自明な事項でもないから,本件補正は当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでなく,法17条の2第3項に規定する要件を満たしていないことが記載されている。また,「理由2」として,請求項1に記載された「1次入射光の進行方向に沿って形を成す曲線」とは,1次入射光の進行方向に対してどのように描かれた曲線を意味するのか理解できず,また,請求項1に記載された「1次入射光の進行方向に対して,…括れ状の外壁を設ける」とは,1次入射光の進行方向に対してどのように括れが設けられる外壁を意味するのか,どの方向から入射する1次入射光に対して定義されるのか理解できないことなどから,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていないことが記載されている。
 その上で,原査定(甲12)には,冒頭部分で,本願については,上記の平成23年5月23日付け拒絶理由通知書(甲9)に記載した理由1及び2によって拒絶すべきものであること,意見書の内容を検討したが,拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせないことが記載され,さらに,原査定には,いずれも「備考」中の,「1.理由1について」において,補正後明細書の段落【0019】において括れ形成部及び抉れ部の形成方法についての詳しい説明を追加する補正は,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえないことが,「2.理由2について」の「2-1.一つ目の理由について」において,請求項1に記載された「1次入射光の進行方向に沿って形を成す曲線」が1次入射光の進行方向に対してどのように描かれた曲線を意味するのか理解できないことが,「2-2.二つ目の理由について」において,請求項1に記載された「1次入射光の進行方向に対して,…括れ状の外壁を設ける」が1次入射光の進行方向に対してどのように括れが設けられる外壁を意味するのか理解できないことが,「2-3.三つ目の理由について」において,「前記曲線上に任意の2点を取る場合に,前記各点における接線の傾きについて,前記1次入射光側の1点の接線の傾きを正とすると,前記残りの本願装置の基板寄りの1点の接線の傾きが負となるように設けてなる括れ状の外壁」がどのような形状であるのか不明確であることが,それぞれが記載されている。
 以上によれば,原査定には,本願を拒絶すべき理由が付されており,その具体的内容も示されているということができる。
(3)したがって,取消事由3には理由がない。

4 取消事由4(本件審決の理由中の「2 原査定の理由」に誤りがあること)について
 原告は,本件審決の「理由」の「2.原査定の理由」において,原査定の理由の一つは,本件補正は,平成23年5月23日付けで通知された拒絶理由のとおり,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから,「法17条の2第3項」に規定する要件を満たしていないというものであるとしているが,原査定には,「法17条の2第3項」の文言が全く記載されていないから,原査定に記載されていない「法17条の2第3項」の文言を,あたかも原査定に記載してあるかのように記載した本件審決の「理由」の「2.原査定の理由」は無効であり,本件審決には瑕疵がある旨主張する。
 しかしながら,前記3(2)でみたとおり,原査定には,冒頭部分で,本願については,平成23年5月23日付け拒絶理由通知書に記載した理由1及び2によって拒絶すべきものであることが,同拒絶理由通知書には,「理由」の項目の下に,「理由1」として,本件補正は当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから,法17条の2第3項に規定する要件を満たしていないことが,さらに,原査定にも,「備考」中,「1.理由1について」において,本件補正は,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえないことが,それぞれ記載されていることが認められる。そうすると,原査定における拒絶の理由の一つが,本件補正が法17条の2第3項に違反するというものであることは明らかである。
 以上によれば,本件審決の「理由2.原査定の理由」において,原査定の理由の一つは,本件補正は,平成23年5月23日付けで通知された拒絶理由のとおり,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから,「法17条の2第3項」に規定する要件を満たしていないというものであるとしたことについては,何らの瑕疵もないというべきであり,原告の上記主張は採用することができない。
 したがって,取消事由4には理由がない。

5 取消事由5(本件審決の理由中の「3 本件補正の内容」において,当初明細書等に記載されていないとする具体的な箇所が記載されていないこと)について
 原告は,本件審決の「理由」の「3.本件補正の内容」において,「本願明細書の【0019】に追加された上記下線が付された部分は,当初明細書等に記載されておらず」としているが,具体的な箇所が指摘されておらず,原告にとっては,「本願明細書の【0019】に追加された上記下線が付された部分」の文言が,「下線」内の部分的な指摘なのか,「下線」の全てなのかが判読困難であって,3頁近くにおよぶ長さで引かれている「下線」の中で,文言としては,いったいどの部分が新たな技術的事項に該当するのかについて,被告からは,明快で,具体的な技術論は開示されておらず,本件審決には,事実認定の誤り及び手続上の誤りがある旨主張する。
 しかし,補正後明細書の段落【0019】には,下線が付された部分と下線が付されていない部分とがあるところ,本件審決5頁の4(2)は,「上記下線が付された部分は,当初明細書等に記載されておらず,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるとはいえない。」としているのであるから,下線が付された部分全体を特定した上で,これが法17条の2第3項に規定する要件を満たしていないものである旨説示したことは明らかである。
 したがって,原告の上記主張は採用することができず,取消事由5には理由がない。

6 取消事由6(拒絶査定不服審判において被告が審判官を変更していること)について
 原告は,拒絶査定不服審判において審尋に対する回答書を提出した後に,被告は審判官1名を変更しているが,原告は審判官の忌避を申し立てておらず,変更の理由が不明で,不可解であり,瑕疵がある旨主張するが,拒絶不服審判の手続中に審判官を変更したことが違法となるものではなく,ひいては本件審決を違法にするものではないから,原告の上記主張は主張自体失当である。
 したがって,取消事由6も理由がない。

7 取消事由7(本件審決の理由中の「5 むすび」に誤りがあること)について
 前記1ないし6のとおり,原告主張に係る取消事由1ないし6はすべて理由がなく,本件審決が「理由」の「5.むすび」において,「本件補正は,特許法第17条の2第3項による要件を満たしていないものであるから,本願は,拒絶されるべきものである。よって,結論のとおり審決する。」と判断したことについても,原告主張に係る違法な点はない。
 したがって,取消事由7も理由がない。

8 結論
 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
 よって,原告の本訴請求は理由がないから,棄却されるべきである。

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 富田 善範
裁判官 大鷹 一郎
裁判官 田中 芳樹

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