平成25年11月28日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成25年(行ケ)第10135号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成25年11月7日

判決
原告 X
訴訟代理人弁護士 権藤 健一
同 黒田 紘史
同 山本 展大
同 山口 心平
同 岸野 祐樹
同 和合 佐登恵
同 島田 敬史
同 辻坂 清志
同 柳田 清史
訴訟代理人弁理士 河野 広明

被告 ニコニコのり株式会社
訴訟代理人弁護士 藤 田 邦 彦
同 藤田 典彦

主文
  1. 原告の請求を棄却する。
  2. 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 特許庁が取消2012-300687号事件について平成25年4月2日にした審決を取り消す。

第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等
(1)本件商標(甲11,12)
商標登録番号:第4763800号
商標の構成:
極 きわみ

極 きわみ kiwami

指定商品:第29類「卵,食用魚介類(生きているものを除く。),冷凍野菜,かつお節,寒天,削り節,食用魚粉,とろろ昆布,干しのり,干しひじき,干しわかめ,焼きのり,加工野菜及び加工果実,油揚げ,凍り豆腐,こんにゃく,豆乳,豆腐,納豆,加工卵,カレー・シチュー又はスープのもと,お茶漬けのり,ふりかけ,なめ物」
 第30類「コーヒー豆,穀物の加工品,アーモンドペースト,ぎょうざ,サンドイッチ,しゅうまい,すし,おでん,お好み焼き,焼きそば,たこ焼き,肉まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,べんとう,ホットドッグ,ミートパイ,ラビオリ,イーストパウダー,こうじ,酵母,ベーキングパウダー,即席菓子のもと,酒かす」
商標登録出願日:平成14年8月23日
登録査定日:平成16年2月10日
設定登録日:平成16年4月16日
商標権者:被告
(2)原告は,平成24年8月28日,特許庁に対し,本件商標が,その指定商品中,第29類「油揚げ,凍り豆腐,こんにゃく,豆乳,豆腐,納豆」に対して,継続して3年以上日本国内において商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが使用した事実がないことをもって,不使用による取消審判を請求し,同年9月20日,その旨の予告登録がされた。
(3)特許庁は,これを取消2012-300687号事件として審理し,平成25年4月2日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月11日,原告に送達された。
(4)原告は,平成25年5月9日,本件審決の取消しを求めて,本件訴訟を提起した。

2 本件審決の理由の要旨
 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)のとおりであり,要するに,本件商標の商標権者である被告は,本件審判請求の登録前3年以内に日本国内において,油揚げの包装に本件商標を付したものを販売することにより,請求に係る指定商品について使用していたから,本件商標の登録を取り消すことはできない,というものである。

3 取消事由
 本件商標の使用の有無に係る判断の誤り

第3 当事者の主張
〔原告の主張〕
1 主位的主張
(1)被告提出の書証について
 本件審決は,平成24年8月6日及び7日,株式会社カミサリーエイト(以下「カミサリーエイト」という。)に対する取引(以下「本件取引」という。)において本件商標が使用された事実が,被告の提出した写真(甲8。以下「甲8写真」という。),製品ラベル(甲9。以下「甲9ラベル」という。)及び伝票類(甲10(枝番を含む。特に断らない限り,以下同じ。)。以下「甲10伝票」といい,甲8ないし甲10を総称して,「本件取引関連証拠」という。)に基づいて認定できるとした。しかし,本件審決の証拠評価は誤りである。
ア 被告における「極」シリーズとの不整合性について
 本件商標は,被告の「極」ブランドに属する商品シリーズ(以下「本件シリーズ」という。)に係る商標であるところ,被告は,ウェブページにおいて,本件シリーズは品質が高く,贈答用商品として用いることができる旨の宣伝をしており,他よりも価格が高く設定されているから,本件商標は,高品質を保証する機能を発揮しているということができる。
 しかしながら,被告が本件商標を使用していると主張する商品(極油揚げYDS。以下「本件商品」という。)は,業務用の大量・安価な商品と推測され,品質も高くない。
 したがって,本件商品に本件商標を用いることは,同商標が本来有しているはずの高品質の保証機能を害するものであり,商標の異常な使用態様というべきであって,本件取引関連証拠の証明力は疑わしいものというほかない。
イ インターネット検索の結果について
 仮に,被告が本件商標を本件商品に使用していたならば,インターネット上において本件商品の商品名程度は情報公開されていてしかるべきであるが,インターネット検索において,本件商品に関する情報は何も表示されない。被告が情報を公開しなくても,取引者・需要者の一部が本件商品に係る情報をアップロードすれば,インターネット上に当該情報が存在することになる。近年の検索能力に鑑みれば,インターネット検索において,本件商標を付した本件商品に関する情報が一切表示されないことは異常である。
ウ 甲8写真について
(ア)甲8写真は,段ボール箱と容易に作成可能な甲9ラベルを用いれば撮影可能である。しかも,各写真の撮影時期等に関する客観的な裏付けはない。
(イ)甲8写真からは,甲9ラベルと同一のラベルと,商品名,原材料名,賞味期限,販売者等が記載されたいわゆる一括表示ラベルが付された1個の段ボール箱内に油揚げらしき物体が詰め込まれている事実を認め得るにすぎず,一括表示に記載された製造日と段ボール箱が開封された日時との前後関係や本件伝票との関連性も不明である。甲8写真に表示された撮影日(平成24年(2012年)8月1日)も操作可能であるし,通常の取引過程において,段ボール箱1個分の商品の写真を撮影して残しておくこと自体,合理的な理由を見出すことはできない。
 また,一括表示を付すことは,一般消費者向け製品についてのみ義務付けられているにすぎず,業務用製品に係る業者間取引では,企画書や説明書等で足りるため,商品に一括表示を付すことは,通常行われるものではない。
(ウ)甲8写真には,「開封内部写真」なる,本件商品の包装を解いた状態を撮影した写真がある。しかし,被告の取引過程において,個別の段ボール箱について,その外観と内容物とを逐一撮影する作業が存在するとは考え難い。
 また,「商品荷姿写真」と「開封内部写真」とは,撮影場所や撮影角度が異なっており,通常の取引過程における撮影であるとは解されない。
(エ)原告と被告との間には,本件のほか,取消2012―300495事件(以下「別件事件1」という。)及び取消2012―300505事件(以下「別件事件2」といい,各事件を総称して,「別件事件」という。)が係属していたところ,被告は,別件事件においては,使用の事実を立証するために,カタログ等を書証として提出しているが,本件では,取引過程の段ボール箱が撮影された甲8写真を提出するなど,別件事件とは比較にならないほど粗雑な立証に終始しており,不自然であるというほかない。
(オ)被告は,平成24年8月10日,別件事件の答弁書を提出しているが,本件取引関連証拠を提出していない。本件審決は,原告から再度,不使用取消審判が請求されるとの予測に基づいて,被告が甲8写真を撮影したとするが,仮に被告がそのような予測を抱いていたのであれば,原告の再度の請求を待つことなく,別件事件において,本件商品に対する使用の事実を立証し,原告による更なる不使用取消審判請求を抑止すべく,反論を行うことが自然かつ合理的である。
 しかも,商標法50条3項の適用の有無が争点となり得る,本件審判請求の3か月(平成24年5月28日)前から登録日(同年9月20日)までの間の本件商標の使用の事実をあえて主張立証すること自体,不自然である。
(カ)以上によれば,甲8写真は,存在していること自体が不自然な写真であり,むしろ,本件における証拠作成を目的として,被写体を人為的に作成して撮影されたものであると推認するのが合理的である。
エ 甲9ラベルについて
 甲9ラベルは,大企業である被告において,パソコンに習熟した従業員であれば,1時間程度で作成可能である。
オ 甲10伝票について
(ア)甲10伝票は,パソコン処理等によって,容易に作成・改ざんが可能であるし,カミサリーエイトの受領印も,同社の協力さえあれば作出可能である。
(イ)伝票は,効率化及び転記ミス防止のため,仕入れ伝票①・仕入れ伝票②・仕入れ伝票③・物品受領書・納品書(控)の合計5枚セットで複写式とされていることが多いところ,甲10伝票は,「請求書 兼 納品書(控)」(以下「甲10請求書」という。)及び「受領書」(以下「甲10受領書」という。)の書式が異なっており,個別の伝票を作成する必要がある。被告のような大企業がこれほど非効率的で転記ミスを誘発するような事務処理を採用しているとは考え難い。
 通常,納品には運送業者を用い,送り状によって事務処理がされるところ,甲10受領書には受領印が押されており,送り状による処理がされておらず,納品ごとに納品先へ受領書を送り,受領印を押して送り返してもらうという非効率かつ不経済な事務処理作業を採用しているとも考え難い。
 また,甲10受領書の受領印の日付は平成24年(2012年)8月7日であるのに対し,受領書の作成日は同月6日であり,齟齬が生じている。カミサリーエイトが受領書を作成したのであれば,その作成日を同月7日と記載するのが自然かつ合理的であるが,甲10請求書の作成日(同月6日)に合わせて作成されている以上,甲10請求書及び甲10受領書が被告によって同時に作成されたものと推測される。しかも,甲10受領書の「本社行」との不動文字の記載について,「行」を二重線等で削除して「殿」又は「御中」に変更しないで返送されていることも,同様に不自然である。
(ウ)被告は,別件事件において,請求書兼納品書(控え)を書証として提出しているが,当該書証には,「原本経理部保管」と記載されているのみならず,保管のためにいわゆるパンチ穴が開けられているが,甲10伝票にはそのような痕跡は見当たらず,原本自体が存在しない可能性が高い。被告の会社規模であれば,伝票の保管方法は統一されていることが通常であるというべきであって,各伝票において差異が生じていることは,不自然であるというほかない。
 被告は,本件商品について,業務用取引として1社にしか販売していないと主張するが,このような形態の取引において商標を付す必要はない。また,コンテナ単位で540ケースを特定の1社に対して販売しているのに,1ケース分の販売に係る甲10伝票しか書証として提出されていないのは不自然である。
 被告から取引に関する上記情報を取得した株式会社ミエセイワフーズの A は,卸業界に精通する者であるが, A は,本件商品の名称を1度も聞いたことがなく,被告との交渉過程において,被告の担当者から,本件商標の称呼である「きわみ」に関する発言はなかったのみならず,むしろフリーズドライの油揚げとの名称で十分通じる旨の説明を受けたと述べている。
(エ)したがって,甲10伝票も,本件のために人為的に作成されたものというべきである。
(2)小括
 以上のとおり,本件取引関連証拠は,本件のために人為的に作出されたものというほかなく,仮に,甲8写真及び甲9ラベルにより,本件商標が付された油揚げ入り段ボール箱の存在が認められるとしても,甲10伝票や本件取引との関連性を示す書証は提出されておらず,甲8写真の商品と本件取引の対象物とが異なる商品かもしれないという相当程度の蓋然性が存在する以上,当該段ボール箱に入れられた油揚げが本件取引の対象であったとまで認めることはできない。
 したがって,被告において,本件商品が販売されていた事実自体,認めることができず,本件取引に伴い,本件商標が使用されていた事実も認めることができないから,本件審決の判断は誤りであるというべきである。

2 予備的主張
 仮に,本件取引関連証拠が本件のために作出された証拠ではなかったとしても,いずれにせよ,本件商標は不使用取消しを免れない。
(1)本件取引における本件商標の使用に係る商標法50条2項該当性について
 商標法50条2項が適用されるためには,登録商標の使用に係る取引が反復・継続される通常の商品取引の形態でなければならないところ,本件取引が仮に存在していたとしても,特別・例外的に行われたものにすぎず,反復・継続されているものではないから,商標法50条2項における登録商標の「使用」に該当するものではない。
 原告は,本件商標の使用に係る本件取引が,3年間にわずか1回のみである以上,反復・継続される通常の商品取引の形態とはいえず,登録商標の使用とは認められないと主張したが,本件審決は,当該主張について全く判断しておらず,審理を尽くしていない。
(2)本件商標の使用の有無について
ア 甲9ラベルに付された標章は,その中央に白抜きで表された「極」の文字及び「きわみ」の文字を有する紺色の菱形図形部分と,菱形図形部分を斜めに横切る2種類の三角形部分(左上の白色の直角三角形部分(以下「白色三角形部」という。)及び右下の赤色の三角形部分(以下「赤色三角形部」という。)からなる背景との結合商標である。赤色三角形部は,より濃い赤色によって縁取りがされていることから,十分に看者の注意を引くものである。
 したがって,甲9ラベルにおいては,単に「極」と「きわみ」の文字部分のみではなく,上記各図形部分とからなる結合商標が,自他識別力を発揮し得る標章として,取引者・需要者に認識されるものというべきである。
イ 本件審決は,甲9ラベルには登録商標を表す「.」が付記されていることも,本件商標と社会通念上同一と認められる商標であることの根拠とするが,当該表示自体が全体として独立して自他商品の識別機能を発揮する外縁を定めるものではないし,どの登録商標に対する表示であるかも定かではない。
ウ 以上によれば,甲9ラベルに記載された結合商標と本件商標とは,単に「書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標」ではなく,商標法50条1項の「社会通念上同一と認められる商標」であるということはできない。
(3)商標法50条3項該当性について
ア 原告は,本件商標について,別件事件1において指定商品中の第29類及び第30類の全てを対象として不使用取消審判請求をしたところ,被告は,焼きのり・味付けのり・穀物の加工品について使用の事実に係る証拠を提出したが,第29類中「油揚げ,凍り豆腐,こんにゃく,豆乳,豆腐,納豆」については使用の事実に係る証拠を提出しなかった。原告は,被告が有する商標について,別件事件2のほか,3件の不使用取消審判を請求しているのであるから,原告が被告の有する商標の取消しに向けて真摯に取り組んでいることを併せ考えれば,別件事件1において証拠が提出されなかった本件審判請求の対象部分に対して不使用取消審判が請求される蓋然性は高かったというべきである。だからこそ,本件審決は,再度の不使用取消審判の請求に備え,甲8写真が撮影されたものと認定したのである。
イ 被告は,平成24年6月18日,「極」という標章を付して納豆を販売している株式会社エイコー食品(以下「エイコー食品」という。)に対して,商標権侵害である旨の警告書(以下「本件警告書」という。)を送付している。本件警告書には,被告が,同日以前にエイコー食品に対して口頭で警告した旨の記載があるところ,別件事件1が提起されたのは同月15日であり,別件事件2及びそのほか2件の不使用取消審判が請求されたのは同月18日である。被告がエイコー食品に対して口頭にて警告して以降,被告とエイコー食品が「極」の商標に関して交渉継続中において,「極」に関する商標4つ全てに不使用取消審判が請求された以上,被告が,これらの請求とエイコー食品との関連性を疑い,本件審判請求がされることを想定していたことは明らかである。
ウ 以上によれば,被告は本件審判請求がされる蓋然性を認識していたものというべきである。
 本件審決は,被告が,取消しを免れた登録商標について,原告が次の段階として,当然のように,本件審判請求に係る指定商品について,不使用取消審判を請求することを予知することは困難であったというべきであると認定しながら,被告が,再度原告より不使用取消審判が請求されるのではないかとの予測に基づいて,甲8写真を撮影しておくことは何ら合理性に欠けるとはいえないと矛盾した判断をしたものであって,明らかに誤りである。
(4)小括
 以上のとおり,仮に,本件取引関連証拠が本件のために作出された証拠ではなかったとしても,いずれにせよ,本件商標は不使用取消しを免れない。

〔被告の主張〕
1 原告の主位的主張について
(1)本件取引関連証拠について
 被告は,コンプライアンスを順守する社会的責任を負担しており,内容虚偽の証拠を提出することは有り得ない。
 被告は,平成23年8月6日,カミサリーエイトに対し,本件取引として,本件商標を付した本件商品1ケース(5kg。約5000食分)を販売し,同社は,同月7日,これを受領し,代金を入金している。被告は,本件取引の約半年前である同年2月1日には,デザイン会社にラベルのデザインを依頼する等,販売計画を進めていたものである。被告は,本件取引のほか,同社に対し,本件商品を3回販売しているから,合計4回,反復・継続的に本件商標が使用されているということができる。
ア 本件シリーズとの整合性について
 被告は,本件商品を1kg当たり3000円弱で販売しているところ,一般的なフリーズドライ製法による業務用油揚げは1kg当たりおおむね2500円程度で流通しているから,本件商品は決して安価ではない。
 また,本件商品は,大豆を100%用いており,植物性蛋白や植物性蛋白と大豆との混合物を主原料とする安価な商品と比較すると高い品質を有しているから,本件シリーズの商品として本件商標を付すことに適した高品質の商品であるということができる。そもそも,商標権者である被告が,本件商標の指定商品の1つである油揚げに本件商標を付す行為は,どのような品質の商品であったとしても,商標の本来的な使用態様であるというべきであって,被告が自由に行い得るところである。
イ インターネット検索の結果について
 本件商品は,食品加工業者向けに特別注文に応じて販売されるものであり,一般消費者向けに大量に販売される形態の商品ではない。被告のウェブページには,一般消費者向けに常に販売している商品を掲載しているにすぎず,被告が販売する数多くの業務用商品のほとんどは,インターネット検索にヒットしない。
 本件シリーズにおいても,家庭用限定商品である「青のりの極」は,被告のウェブページには掲載されていない。
 このように,商品や販売ルートによって,自社のウェブページに自社製品の一部を掲載しないことは,食品業界では極めて自然な行為であって,本件商品がインターネット検索でヒットしないことは,何ら不自然ではない。
ウ 甲8写真について
(ア)本件商品は,被告の主力商品である一般消費者向けの海苔製品ではなく,個別的な特別注文による業務用製品であるから,高価なパンフレット等は作成されていない。本件と別件事件とにおける立証内容が異なることは,むしろ当然である。
(イ)被告において,業務用商品は特注品が多いため,本件商品以外にも,業務用商品については,写真を保存することがある。特注品の場合,荷造包装等の正確性を期すため,段ボール箱の包装を解いて写真撮影している。このような写真保存行為は一般の企業活動では通常行われるものであって,不自然ではない。
 また,商標登録には,不使用取消審判により取り消される抽象的リスクが常に存在するため,使用の事実に係る証拠を保存しておくことは,企業の知財担当者が行う一般的な行為であるところ,本件取引のような業者間取引による特別注文品であれば,なおさらである。
 なお,甲8写真は,いずれも被告の会議室で同一機会に撮影されたものである。甲10伝票により裏付けられた本件取引の日時(平成24年8月6日及び7日)と甲8写真の撮影日(同月1日)は近接しており,段ボール箱とラベルが撮影された本件商品が実際に販売されたことは明らかである。
(ウ)被告の競業企業から不使用取消審判が請求された場合であれば,その業務範囲から指定商品を想定して更なる不使用取消審判の請求がされることを予期する可能性があるかもしれないが,本件や別件事件の審判請求人である原告は,被告が全く知らない個人であり,前記の抽象的リスクを超えて,更なる不使用取消審判の請求を予期できるものではない。
(エ)別件事件のように,不使用取消しが求められた指定商品に被告の主力商品である「焼のり」が含まれていれば,その使用事実を立証することは極めて容易であって,本件取引関連証拠を提出する必要はない。使用の事実を立証するために,どのような証拠を選択するかは被告の自由であって,より明白な主力商品のパンフレット等を提出することは何ら不自然なことではない。
(オ)以上によれば,甲8写真は,本件における証拠作成を目的として,被写体を人為的に作成して撮影されたものではないことは明らかである。
エ 甲9ラベルについて
 被告は,デザイン会社である木戸紙業株式会社に対し,ラベルデザインの作成を依頼し,平成24年2月1日に同社が納品したラベルに基づいて,甲9ラベルを作成した。当初,フリーズドライではなく,冷凍油揚げを販売する計画であったため,表示及び重量等に変更を加えたが,基本的なデザインは同じである。
 このように,被告は,本件取引の半年以上前から外部デザイン会社にラベルの作成依頼をしていたのであって,本件において不使用取消しを免れるために甲9ラベルを作成したものではない。
オ 甲10伝票について
(ア)取引先であるカミサリーエイトは,審決取消訴訟の段階に至った現在において,改めて本件商品の受領の事実を認めているのみならず,代金も入金しており,本件取引後も継続して本件商品が販売されているのであるから,甲10伝票の受領印はカミサリーエイトが真実,押印したものである。
 パソコンを使用すれば,刻印や特殊な印刷手段を用いたラベル以外はほぼ全て作成可能であり,受領印も,協力者が存在すれば容易に作出可能である。容易に作成可能であるからといって,直ちに後日,人為的に作成された証拠であるということはできない。
(イ)被告は,本件取引のような特別注文による小口取引については,複写式の伝票ではなく,個別の伝票を用いている。特別注文において別個の伝票を用いることは,不自然なことではない。
 また,不動文字(「行」)を二重線で消して「殿」又は「御中」に変更することは,いわば形式的な儀礼であるため,これを失念することも珍しいことではなく,そのことをもって直ちに信用性が欠けるとはいい難い。パンチ穴が開いていないことも同様である。
(ウ)A なる人物が認識する商慣習やその記憶に反するからといって,本件取引が不自然であるということはできない。被告の従業員である B が A からの電話に応対したことは事実であるが,業者間取引において,全く知らない会社や個人から紹介者を介さずに飛び込みで電話を受けた場合,その者を信用して取引をすることはあり得ない。 B は「在庫はない」等と発言しており,不審者若しくは同業者からの電話と考え,正確な情報の提供や確定的な対応を避けたものと推測される。不審者と思しき人物に対する対応であることを踏まえると,営業における口頭の発言内容に厳密な正確性を求めることは相当ではない。
 また,本件取引は,FD油揚げ540ケースに係る別の大口の業者間取引の余剰分について,従前からの計画に基づき,本件商標を付して販売したものであって,本件取引関連証拠が1ケースのみの販売に係る証拠であることが不自然であるいうことはできない。
 なお,業者用取引で一括表示がされたからといって,直ちに信用性が疑われるものではない。
(エ)したがって,甲10伝票も,本件のために人為的に作成されたものではないことは明らかである。
(2)小括
 以上のとおり,本件取引関連証拠は,信用性が乏しいものではなく,本件商品に本件商標が付され,本件取引が実際に行われたことは明らかであるから,本件審決の判断に誤りはない。

2 原告の予備的主張について
(1)本件取引における本件商標の使用に係る商標法50条2項該当性について
 本件取引は,業務用商品に係る業者間の個別的取引であったため,結果として,使用の事実を立証するために本件取引関連証拠を用いたにすぎない。特定の1社との業者間取引は一般的にあり得るものであり,本件商品は1ケースとはいえ5kgもの油揚げが梱包されているから,1食当たり1グラムで換算すると,5000食分にもなる多量の油揚げが販売されたものということができる。カミサリーエイトが転売した可能性もあり,市場流通性も高いのであるから,本件取引のみであっても十分に商標としての使用たり得ることは明白である。不使用取消審判の使用立証期間は3年間に限定されているから,商標使用の事実が認められるか否かは具体的な状況を踏まえて判断すべきであって,単に使用回数によって判断すべきではない。前記のとおり,従前の計画に基づいて本件取引が行われ,その後,反復・継続的に取引が行われていることからすれば,十分に商標としての使用の事実を認め得るものである。
(2)本件商標の使用の有無について
 甲9ラベルにおいて,赤色三角形部及び白色三角形部はあくまで背景的図柄であり,看者に特別顕著な印象を与えるものではないが,他方,ラベルの中央に記載された「極」「きわみ」の文字は,看者の注意を強く引く部分であり,登録商標を示すマーク(R)がすぐ右下に配置されていることもあいまって,商標として強く認識されるものである。
 甲9ラベルに表示される「極」「きわみ」は,本件商標と同一の文字であって,書体のみに変更が加えられているにすぎず,本件商標と社会通念上同一の商標であることは明らかである。
(3)商標法50条3項該当性について
 被告は,従前,原告と全く接触がなく,原告の素性等を把握していない。別件事件1で使用の事実立証がされなかった指定商品には,油揚げのほかにも,卵,食用魚介類,冷凍野菜,かつお節,寒天等があり,これらの商品については改めて不使用取消審判が請求されていないから,被告が使用の事実に係る証拠を提出しなかった商品について,原告から改めて不使用取消審判が請求される蓋然性があったとは到底いうことはできない。
 本件や別件事件を含む一連の不使用取消審判の請求は原告からされたものであり,エイコー食品は無関係である。しかも,本件商標を含む「極」に係る商標は食品業界において人気が高く,様々な会社が被告に使用許諾を求めていることもあり,上記各請求とエイコー食品との関連性を認識し得るものではないから,同社と被告とが「極」に関する商標について交渉していた事実をもって,被告が本件審判請求のされることを想定していたということはできない。また,被告は,原告及びエイコー食品から,不使用取消審判を請求する旨の予告を受けていない。エイコー食品と被告との交渉は穏便に行われており,エイコー食品から不使用取消審判を請求することを伺わせるような言動もされなかった。
 したがって,被告が本件審判請求のされる蓋然性を認識していたものということはできない。仮に,被告に上記認識が認められるとしても,商標法50条3項の「正当な理由」が認められることは明らかである。
(4)小括
 以上のとおり,本件商標について,不使用取消しを認めなかった本件審決の判断に誤りはない。

第4 当裁判所の判断
1 本件取引について
(1)認定事実
 証拠及び弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。
ア 甲8写真(甲8)には,甲9ラベル(甲9)と商品名や原材料名等が記載されている一括表示が貼付された段ボール箱に梱包された平成24年5月31日製造のフリーズドライの油揚げが撮影されており,その撮影日は同年8月1日とされている。本件商品に貼付された甲9ラベルには,「極」「きわみ」「油揚げ」「5Kg」「FD(フリーズドライ)」との記載がある。本件商品に貼付された一括表示には,商品名として「極油揚げYD-S」との記載があるほか,名称として「乾燥食品」,原材料名として「大豆(中国産),パーム油,酸化防止剤(ビタミンE),凝固剤」,内容量として「5kg」との記載がある。
イ 甲10伝票(甲10)には,商品名として 「FD極油揚げYD-S 5Kg」と記載されており,甲10伝票の作成日は,平成24年8月6日とされているところ,甲10受領書に押印されたカミサリーエイトの受領印も同月7日付けとされており,甲8写真の撮影日と近接しているのみならず,カミサリーエイトは,甲8写真で撮影された本件商品を受領した事実を認める旨の陳述書(乙2)を提出している。
ウ 甲9ラベルについては,本件商品の製品ラベルに係るデザイン案(乙1)があり,被告は,乙1のデザイン案は,被告が木戸紙業株式会社にラベルのデザインを発注し,同社が同年2月1日に作成したものであると主張している。
(2)本件取引の存在について
 前記(1)の各認定事実によれば,甲8写真に撮影された本件商品が,甲9ラベルが貼付された状態で,本件取引の対象として,同年8月6日,被告からカミサリーエイトに対して譲渡されたものと認められる。
(3)原告の主張について
ア 原告は,業務用の大量・安価な商品と推測され,品質も高くない本件商品に本件商標を用いることは,同商標が本来有しているはずの高品質の保証機能を害するものであり,商標の異常な使用態様というべきである,インターネット検索において,本件商標を付した本件商品に関する情報が一切表示されないことは異常であるなどと主張する。
 しかしながら,本件商標をその指定商品中のいずれの商品に用いるかについては,商標権者である被告の選択に委ねられているものであって,本件商標が従前,高品質の商品に使用されていたからといって,本件商品に本件商標を使用することが異常であるとまでいうことはできない。
 また,本件商品は,簡素な段ボール箱に梱包された大量(5kg)のFD油揚げであり,本件取引は,日常,反復・継続的に行われる,一般消費者向けの取引ではなく,被告が主張するように,業者間における取引であると推測することができるから,このような取引に係る本件商品に関する情報がインターネット検索において表示されないからといって,異常であるとまでいうことはできない。
イ 原告は,甲8写真に撮影された段ボール箱と本件取引や本件取引関連証拠との関連性は不明である,通常の取引過程において,段ボール箱1個分の商品について,わざわざ写真を撮影して残しておくこと自体,合理的な理由を見出すことはできない,業務用製品に係る業者間取引では,商品に一括表示を付すことは,通常行われるものではない,甲8写真は,撮影場所や撮影角度が異なっており,通常の取引過程における撮影であるとは解されないなどと主張する。
 しかしながら,前記のとおり,甲8写真に撮影された本件商品の商品名,内容量,撮影日と本件伝票の作成日との近接性などからすると,甲8写真に撮影された本件商品と本件取引との関連性は十分認められる。
 また,取引の際,梱包等の正確性を担保し,納品を巡る紛争の発生などの不測の事態に備えて対象商品を写真撮影すること自体は,格別不自然なことではない。商品に関する情報を網羅的に記載した一括表示を業者間取引に用いたからといって,直ちに当該取引が存在しなかったとの疑念を生じさせるものでもない。
 さらに,甲8写真において,各写真の撮影場所が異なることを伺わせるような格別の事情は認められないのみならず,各写真の撮影角度が異なっていることをもって,通常の取引過程における撮影であるとはいえないということもできない。
ウ 原告は,本件において,被告は甲8写真を提出するなど,別件事件とは比較にならないほど粗雑な立証に終始しており,不自然である,被告が原告から再度,不使用取消審判が請求されるとの予測を抱いていたのであれば,別件事件において,本件商品に対する使用の事実を立証し,反論することが自然かつ合理的であるなどと主張する。
 しかしながら,被告の主力商品は「のり」であると認められる(甲1)ところ,被告は,別件事件において,油揚げと同一の類(第29類)に属する「焼きのり」等について使用の事実を立証したのであるから,主力商品以外の同一の類に属する油揚げに係る本件関連証拠を提出しなかったことをもって,直ちに不自然であるとまでいうことはできない。
エ 原告は,業務用取引において1社にしか販売していないなら商標を付す必要はないし,コンテナ単位で540ケースを特定の1社に対して販売しているのであれば,1ケース分の販売に係る甲10伝票しか書証として提出されていないのは不自然である, A は,本件商品の名称を1度も聞いたことがないのみならず,被告との交渉過程において,担当者から本件商標の称呼である「きわみ」に関する発言はなく,むしろフリーズドライの油揚げとの名称で十分通じる旨の説明を受けたと述べているなどと主張する。
 しかしながら,業務用取引において商標を付すか否かは,商標権者の自由であって,商標を付したことが不自然であるとまでいうことはできない。
 また, A の陳述書(甲6の1)及び B との会話録音(甲6の2・3)によると,確かに, B は,FD油揚げ5kg540ケースをコンテナ単位で特定の1社に対して販売している旨の発言をしているが,上記陳述書によると, A は,FD油揚げを天津山海関食品有限公司から仕入れようとして株式会社五幅に連絡したところ,被告につながったため,被告に対してサンプルとしての購入を希望したものである。A は,紹介者を介さずに,被告に対して連絡したものであるから, B が突然電話をしてきた素性の知らない A に対して被告の取引内容を正確に説明しなかった可能性は否定できない。しかも, B は, A のサンプル用1ケースの購入希望に対し,次回の製造時期は不明であるが,対応する旨の返答をしているから,本件取引が余剰分の取引である旨の被告の主張と B の説明とは矛盾するものでもない。さらに,B との会話録音(甲6の2・3)によると, A は B に対し,「FDの油揚げ」を仕入れたいとの要望を伝えていたにすぎず,本件商品の商品名を伝えて仕入れを希望していたわけではない。フリーズドライの油揚げとの名称で十分通じる旨の説明も,フリーズドライの油揚げといえばわかるのかという趣旨の A の質問に対し,B がこれを肯定する旨の回答をしたにすぎず, B から積極的にその旨の説明をしたわけではない。
 したがって, A の陳述書等の内容からしても,本件取引が不自然であるとまでいうことはできない。
オ 原告は,甲10伝票は複写式になっておらず,被告のような大企業が非効率的で転記ミスを誘発するような事務処理を採用しているとは考え難い,甲10受領書の受領印の日付と受領書の作成日には齟齬が生じている,甲10受領書の「本社行」との不動文字の「行」の記載が訂正されていない,保管のためにいわゆるパンチ穴が開けられていないことは不自然であるなどと主張する。
 しかしながら,いかなる様式の伝票を採用するか,パンチ穴を開けるか否かなどは,被告が決する事項であるし,甲10伝票が一般に用いられている伝票類と比較して不自然であると伺われるような形跡は存在しない。また,納品先が受領印を押印して返送する様式の受領書である以上,納品した被告が記載した甲10受領書の作成日と受領したカミサリーエイトが押印した受領印の日付が1日ずれていたからといって,格別不自然であるわけではない。さらに,不動文字の一部を訂正していないことをもって,直ちに甲10受領書が後日作成されたものであるということもできない。
カ 以上のとおり,原告の上記主張はいずれも採用することができない。

2 本件商標の使用の有無について
(1)社会通念上同一の商標に該当するかについて
ア 本件商品には,甲9ラベルが貼付されている。甲9ラベルには,「極」「きわみ」の文字部分のほか,白色三角形部,赤色三角形部や「油揚げ」「5kg」「FD」「(フリーズドライ)」「ニコニコのり」「abura-age “kiwami”」の文字部分等の構成からなる商標が記載されている。
 このうち,「油揚げ」「5kg」「FD」「(フリーズドライ)」の文字部分は当該商標が付された商品の内容を,「ニコニコのり」の文字部分は販売者である被告を,それぞれ表すことは明らかである。
 他方,「極」「きわみ」の文字部分は,甲9ラベルの中央やや左側に,紺色の菱形に白抜きという目立つ態様で記載されており,商品名を意味する「油揚げ」の記載の左側に配置されていること,その左側には,「abura-age “kiwami”」の文字部分が配置されていることからすると,「極」「きわみ」の文字部分が当該商品に係る商標として用いられていることは,取引者・需要者が容易に認識することができるというべきである。
イ 甲9ラベルには,白色三角部及び赤色三角部が存在するが,「極」「きわみ」の文字部分が白抜きで記載された紺色の菱形部分は,白色三角部及び赤色三角部に重ねて配置されており,各色のコントラストにより,「極」「きわみ」の文字部分が強調されて認識される構成となっている。また,「きわみ」の文字部分の直下に登録商標を表す「R」が付記されており,当該文字部分が登録商標である旨の表示がされているということができる。
 したがって,甲9ラベルには,前記各構成部分からなる結合商標が記載されているとはいえ,各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとまで認めることはできず,むしろ,構成部分の一部である「極」「きわみ」の文字部分が取引者・需要者に対し商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認めることができる。
ウ 本件商標の構成は,前記第2の1記載のとおりであるところ,筆記体で大きく表した「極」の文字の右斜め上に,「極」の読みと解される「きわみ」の文字を小さく縦書きに表したものであるから,甲9ラベルの前記「極」「きわみ」の文字部分は,本件商標の書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標であり,本件商標と社会通念上同一と認められる商標に該当すると認められる。
エ 原告は,この点について,甲9ラベルにおいては「極」と「きわみ」の文字部分のみではなく,各図形部分とからなる結合商標が自他識別力を発揮し得る標章として取引者・需要者に認識されるものというべきであるから,本件商標と社会通念上同一と認められる商標であるとはいえないなどと主張するが,前記のとおり,甲9ラベルに記載された結合商標について,「極」「きわみ」の文字部分を分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとまでは認められない。
 したがって,原告の上記主張は採用することができない。
オ 以上によれば,本件取引において,本件商品の段ボール箱に甲9ラベルが貼付されたことは,商標法2条3項1号所定の「商品の包装に標章を付する行為」及び「商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡…する行為」(同項2号)に該当するということができるから,本件商標が使用された事実を認めることができる。

3 予備的主張について
(1)本件取引における本件商標の使用に係る商標法50条2項該当性について
 原告は,商標法50条2項が適用されるためには,登録商標の使用に係る取引が反復・継続される通常の商品取引の形態でなければならないところ,本件取引は特別・例外的に行われたものにすぎず,反復・継続されているものではないから,商標法50条2項における登録商標の「使用」に該当するものではないと主張する。
 しかしながら,登録商標の指定商品の中には,日常,反復・継続して大量に取引されるものではない商品も含まれるから,同項の規定する3年間の期間内に1回しか使用されなかったことをもって,直ちに通常の商品取引の形態とはいえないと解することはできない。
 また,本件商品は,段ボール箱に甲9ラベル等が貼付された程度の簡易包装により,大量(5Kg)に販売されるFD油揚げであるから,本件取引が一般消費者向けに日常,反復・継続して行われていなかったとしても,不自然とまでいうことはできない。
 したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(2)商標法50条3項該当性について
ア 原告は,本件商標について,別件事件1において指定商品中の第29類及び第30類の全てを対象として不使用取消審判請求をしたのに対し,被告は,焼きのり・味付けのり・穀物の加工品について使用の事実に係る証拠を提出したが,第29類中「油揚げ,凍り豆腐,こんにゃく,豆乳,豆腐,納豆」については使用の事実に係る証拠を提出しなかったところ,被告が有する商標について,原告が別件事件のほか,3件の不使用取消審判を請求し,被告の有する商標の取消しに向けて真摯に取り組んでいることを併せ考えれば,別件事件1において証拠が提出されなかった本件審判請求の対象部分に対して不使用取消審判が請求される蓋然性は高かったというべきである,被告がエイコー食品と「極」の商標について交渉継続中において,「極」に関する商標4つ全てに不使用取消審判が請求された以上,被告がこれらの請求とエイコー食品との関連性を疑い,本件審判請求がされることを想定していたことは明らかである,本件審決は,被告が,再度原告より不使用取消審判が請求されるのではないかとの予測に基づいて,甲8写真を撮影しておくことは何ら合理性に欠けるとはいえないなどと矛盾した判断をしたなどと主張する。
イ しかしながら,商標法50条3項は,「その登録商標の使用がその審判の請求がされることを知った後であることを請求人が証明したとき」と規定し,審判請求人に対して審判請求がされるであろうことを被請求人が知っていたことの証明を求めているから,このような文言に照らすと,「その審判の請求がされることを知った」とは,例えば,当該審判請求を行うことを交渉相手から書面等で通知されるなどの具体的な事実により,当該相手方が審判請求する意思を有していることを知ったか,あるいは,交渉の経緯その他諸々の状況から客観的にみて相手方が審判請求をする蓋然性が高く,かつ,被請求人がこれを認識していると認められる場合などをいうと解すべきであり,被請求人が単に審判請求を受ける一般的,抽象的な可能性を認識していたのみでは足りないというべきである。
ウ これを本件についてみるに,別件事件1について,第29類のうち,被告が使用に係る事実を立証しなかった商品は,本件審判請求の対象である「油揚げ,凍り豆腐,こんにゃく,豆乳,豆腐,納豆」のほか,「卵,食用魚介類(生きているものを除く。),冷凍野菜,かつお節,寒天,削り節,食用魚粉,とろろ昆布,干しひじき,干しわかめ,加工野菜及び加工果実,加工卵,カレー・シチュー又はスープのもと,なめ物」も存在しており,第30類については,一切使用に係る事実が立証されていなかったのであるから,本件審判請求の対象である「油揚げ,凍り豆腐,こんにゃく,豆乳,豆腐,納豆」や,本件取引の対象である「油揚げ」について,更なる不使用取消審判が請求される蓋然性が高いと被告が認識していたものとは解し難い。
 また,原告がエイコー食品といかなる関係を有する者であるかは不明である以上,被告がエイコー食品との間で交渉継続中であることをもって,直ちに「油揚げ,凍り豆腐,こんにゃく,豆乳,豆腐,納豆」について,更なる不使用取消審判請求がされる蓋然性が高いことを予測することは困難である。しかも,本件警告書(甲7の2)によれば,被告は,エイコー食品に対し,「納豆」の製造販売に関して商標権侵害の警告をしたのであるから,納豆はともかくとして,油揚げ等について更なる不使用取消審判が請求される蓋然性が高いと被告が認識していたものとは解し難い。
 さらに,被告は,本件警告書送付前である平成24年2月1日,デザイン案(乙1)を受領するなど,本件商標を油揚げについて使用することを計画していたものではあるが,本件取引が別件事件の請求後にされていることからすれば,被告が本件商標に対する更なる不使用取消審判請求がされる可能性を認識し,本件取引の際,使用の事実を立証するために甲8写真を撮影しておいたとしても格別不自然ではない。被告が上記認識を有していたとしても,それは一般的,抽象的な可能性を認識していたにすぎず,客観的にみて原告が審判請求をする蓋然性が高いことを認識していたとまで,認めることはできないから,本件審決が矛盾する判断をしたものでもない。
エ よって,原告の上記主張は採用することができない。

4 結論
 以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,本件審決には,これを取り消すべき違法はない。よって,原告の請求は棄却されるべきものである。

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 富田 善範
裁判官 田中 芳樹
裁判官 荒井 章光

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