平成24年(ワ)第2689号 職務発明対価請求事件
判決

東京都江戸川区〈以下略〉
原告 A
同訴訟代理人弁護士 笠原 基広
同 中村 京子
東京都品川区〈以下略〉

被告 コングロエンジニアリング株式会社
同訴訟代理人弁護士 岩井 泉
同 關健 一
同 中澤 構
同 鶴由 貴
同 潮田 治彦
同 浅尾 耕平

主文
  1. 被告は、原告に対し、982万0072円及びこれに対する平成22年12月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  2. 原告のその余の請求を棄却する。
  3. 訴訟費用はこれを3分し、その1を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
  4. この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
 被告は、原告に対し、3000万円及びこれに対する平成14年7月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
1 本件は、被告の従業員であった原告が、被告に在籍中、被告の業務範囲に属し、かつ原告の職務に属する「安定材付きベタ基礎工法」に関する発明(以下「本件発明1」という。)及び「ベタ基礎の配筋方法」に関する発明(以下「本件発明2」という。)をし、平成14年7月頃、これらの特許を受ける権利を被告に承継させたとして、被告に対し、平成16年法律第79号による改正前の特許法(以下、単に「法」という。)35条3項に基づく相当の対価として、本件発明1につき、2億9031万8441円のうちの2700万円、本件発明2につき、798万7213円のうちの300万円及びこれらに対する平成14年7月31日(本件発明1に係る特許出願日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 争いのない事実等(証拠等〈略〉を掲げていない事実は当事者間に争いがない。)
(1) 当事者等
ア 被告は、土木及び建設工事の設計施工、建築資材の製造及び販売、土木・建設工事の技術開発、開発業務の受託及び技術の売買等を業とする株式会社である。
 被告は、昭和46年に「コングロ工業株式会社」の商号で設立され、その代表者は、Bであったが、平成3年にエス・バイ・エル株式会社(以下「エス・バイ・エル」という。)の子会社となり、その商号を「エス・バイ・エル コングロ株式会社」に変更するとともに、代表者がCに変更され、さらに平成13年に、その商号を現商号に変更した。
イ 原告は、平成5年2月から平成10年4月30日まで、被告の親会社であるエス・バイ・エルの従業員として被告に出向し、その間、工事次長、工事部長を務めた。原告は、同年5月1日、被告に転籍し、その後、被告においてMS事業部長、東京支店部長、生産本部長や取締役兼執行役員を務め、平成21年1月末日に被告を退職した。原告は、その後エス・バイ・エルに転籍し、平成22年9月、同社を定年退職した。
ウ Dは、昭和46年にエス・バイ・エルの前身である小堀住建株式会社(以下「小堀住建」という。)に入社し、工事主任等を歴任した。Dは、平成5年4月1日、常務取締役として被告に出向し、平成7年7月1日に被告に転籍した後、平成10年4月1日からは専務取締役を、平成12年6月20日から定年退職した平成17年6月19日までは代表取締役社長をそれぞれ務めた。
(2) 原告の職務発明
 原告は、本件発明1及び本件発明2の二つの発明(以下、これらを併せて「本件各発明」という。)をし、平成14年7月頃、これらの発明についての特許を受ける権利を被告に譲渡した。なお、本件各発明は、いずれも被告の業務範囲に属し、かつ原告の職務に属する発明であった。
 また、平成14年当時、被告は、職務発明に関する規程を定めておらず、従業員との間で職務発明の承継や対価についての取決めもしていなかったため、上記各譲渡は、いずれも口頭で合意されたものであった。
(3) 本件各発明
ア 本件発明1
(ア) 被告は、以下のとおり、本件発明1に係る特許出願をし、特許登録を得た(請求項の数7。以下「本件特許1」という。また、本件特許1に係る明細書及び図面を「本件特許1明細書等」といい、その内容は別紙1特許公報の写し〈略〉記載のとおりである。)。
特許番号 第3706091号
発明の名称 安定材付きベタ基礎工法
出願日 平成14年7月30日
登録日 平成17年8月5日
発明者 D及び原告
(イ) 本件特許1の特許請求の範囲請求項1の記載は、別紙1特許公報の写しの該当項記載のとおりであり、これを構成要件に分説すると、次のとおりである(以下、それぞれの記号に従い「構成要件Ⅰa」などという。)。
Ⅰa 小規模住宅建設予定地が軟弱地盤であるときに該軟弱地盤である基礎構築部分に平面が格子状の地盤安定材を打ち、地盤の不同沈下を抑止する安定材付きベタ基礎工法であって、
Ⅰb 前記基礎構築部分に地盤の強弱により幅及び深さを調整した安定材造成用の溝を、溝底面より上方に向けて次第に横断面が大きくなるように掘削するとともに、ソイルセメントを含む改良土質と置換し、
Ⅰc 該土質置換部分をランマー等で転圧して土質強度と靱性をもたせた改良土質による安定材を造った後、
Ⅰd ベタ基礎部分にコンクリートを打設して安定材とベタ基礎を一体化し、
Ⅰe その際に基礎の立ち上がり部の下部をベタ基礎の下面より下方に突出させ、
Ⅰf この突出した基礎の立ち上がり部の下部の側面と安定材の上部の側面が係合するようにする
Ⅰg ことを特徴とする安定材付きベタ基礎工法。
イ 本件発明2
(ア) 被告は、以下のとおり、本件発明2に係る特許出願をし、特許登録を得た(請求項の数1。以下、「本件特許2」といい、これと本件特許1とを併せて「本件各特許」という。また、本件特許2に係る明細書及び図面を「本件特許2明細書等」といい、その内容は別紙2特許公報の写し〈略〉記載のとおりである。)。
特許番号 第3639567号
発明の名称 ベタ基礎の配筋方法
出願日 平成14年8月21日
登録日 平成17年1月21日
発明者 D及び原告
(イ) 本件特許2の特許請求の範囲請求項1の記載は、別紙2特許公報の写しの該当項記載のとおりであり、これを構成要件に分説すると、次のとおりである(以下、それぞれの記号に従い「構成要件Ⅱa」などという。
 なお、以下、特許明細書等の図面の符号に対応する数字等の記載は、省略する。)。
Ⅱa 所定間隔で配置された複数の縦筋と、該縦筋の上に所定間隔で配置されて溶接された複数の横筋からなり、縦筋の一端が少なくとも横筋の間隔以上の長さ突出し、基端が突出することなく止着されているとともに、横筋の一端と基端が突出することなく止着されている略方形の第1のメッシュ鉄筋と、
Ⅱb 第1のメッシュ鉄筋の縦筋の間隔と等しい間隔で配置された複数の縦筋と、該縦筋の上に第1のメッシュ鉄筋の横筋の間隔と等しい間隔で配置されて溶接された複数の横筋からなり、縦筋の一端が少なくとも横筋の間隔以上の長さ突出し、基端が突出することなく止着されているとともに、横筋の一端が少なくとも縦筋の間隔以上の長さ突出し、基端が突出することなく止着されている略方形の第2のメッシュ鉄筋と、
Ⅱc 第1のメッシュ鉄筋の縦筋の間隔と等しい間隔で配置された複数の縦筋と、該縦筋の上に第1のメッシュ鉄筋の横筋の間隔と等しい間隔で配置されて溶接された複数の横筋からなり、縦筋の一端と基端が突出することなく止着されているとともに、横筋の一端と基端が突出することなく止着されている略方形の第3のメッシュ鉄筋と、
Ⅱd 第1のメッシュ鉄筋の縦筋の間隔と等しい間隔で配置された複数の縦筋と、該縦筋の上に第1のメッシュ鉄筋の横筋の間隔と等しい間隔で配置されて溶接された複数の横筋からなり、縦筋の一端と基端が突出することなく止着されているとともに、横筋の一端が少なくとも縦筋の間隔以上の長さ突出し、基端が突出することなく止着されている略方形の第4のメッシュ鉄筋と、をそれぞれ所定枚数用意し、
Ⅱe ベタ基礎施工地盤の一方の角地に第1のメッシュ鉄筋の縦筋の基端と横筋の一端を角合わせして配置した後、第1のメッシュ鉄筋の縦筋の一端側に次の第1のメッシュ鉄筋の縦筋の基端側を、対応する縦筋同士が接し、両鉄筋間において隣接する横筋同士の間隔が横筋の間隔と等しい間隔となって一部重なり合うように配置し、以下同様にして第1のメッシュ鉄筋を縦方向に順次配置する一方、
Ⅱf 第1のメッシュ鉄筋の横筋の他端側に第2のメッシュ鉄筋の横筋の一端側を、対応する横筋同士が接し、両鉄筋間において隣接する縦筋同士の間隔が縦筋の間隔と等しい間隔となって一部重なり合うように配置し、以下同様にして第2のメッシュ鉄筋を横方向に順次配置し、
Ⅱg 縦方向の最終列となったときに第1のメッシュ鉄筋の縦筋の一端側に第3のメッシュ鉄筋の縦筋の基端側を、対応する縦筋同士が接し、両鉄筋間において隣接する横筋同士の間隔が横筋の間隔と等しい間隔となって一部重なり合うように配置し、かつ
Ⅱh 第3のメッシュ鉄筋の横筋の他端側に第4のメッシュ鉄筋の横筋の一端側を、対応する横筋同士が接し、両鉄筋間において隣接する縦筋同士の間隔が縦筋の間隔と等しい間隔となって一部重なり合うように配置し、
Ⅱi このようにしてメッシュ鉄筋を地盤全体に隙間なく配置することを特徴とするベタ基礎の配筋方法。
(4) Bの有する先行特許権
ア 先行特許権の内容
 被告設立当時から被告の代表取締役であったBは、以下の二つの特許権を有していた(以下、後記(ア)の特許を「B特許1」、同(イ)の特許を「B特許2」といい、これらを併せて「B各特許」という。)。
(ア) 特許番号 第2797045号
発明の名称 安定材付きベタ基礎工法
出願日 平成4年5月21日
登録日 平成10年7月3日
発明者 B
(イ) 特許番号 第2797066号
発明の名称 安定材付きベタ基礎工法
出願日 平成7年2月28日
登録日 平成10年7月3日
発明者 B
イ B各特許に関する覚書
 被告、エス・バイ・エル及びBは、平成10年7月31日、「MS基礎工法に関する覚書」を作成し、Bが、被告及びエス・バイ・エルに対して、B各特許の無償の通常実施権を許諾した。ここでは、被告及びエス・バイ・エルは、B各特許を第三者に再実施させる権限がないとされていた。
 上記三者は、平成11年12月18日、覚書の内容を変更して、「MS基礎工法に関する覚書(更改)」を作成し、Bが、被告及びエス・バイ・エルに対し、B各特許の再実施権付き通常実施権を無償で許諾するとともに、被告又はエス・バイ・エルが、B各特許を第三者に再実施させた場合は、原則として1棟につき1万円をBに支払う旨の合意がされた。
ウ B各特許に関する実施許諾契約
 Bとエス・バイ・エルは、平成10年8月12日、エス・バイ・エルがBからB各特許の通常実施権の許諾を無償で受ける旨の通常実施権許諾証書を作成した。
 また、被告とエス・バイ・エルは、平成10年9月1日、エス・バイ・エルが有するB各特許の通常実施権をさらに被告に実施許諾し、被告がB各特許に係る工法を実施してエス・バイ・エルに販売した場合は、その販売棟数1棟当たり4万円をエス・バイ・エルに支払うという内容の実施許諾契約書を作成した。
(5) 被告のMS基礎及びMS工法
ア 被告は、平成5年以降現在まで(当事者らの主張に従って、以下のとおり第1期から第4期に区分する。)、当初は「MS基礎」との名称で、後には「MS工法」との名称で、地盤基礎工法を施工している。
イ 第1期(平成5年から)
 被告は、平成5年より、ベタ基礎工法にさらに安定材を設けた基礎補強工法を提案し、「MS基礎」の名称でその販売を開始した。
 当時被告が施工していたMS基礎は、地盤に格子状の溝(断面形状は矩形型)を設け、同溝内においてソイルセメント等で土壌を置換して安定材を形成し、同安定材を設けた地盤上にベタ基礎を設ける工法であり、そのベタ基礎の施工時には、縦筋と横筋とがそれぞれ一方方向に延伸した1種類のメッシュ鉄筋を使用していた。
 なお、この当時、被告は、親会社であるエス・バイ・エルが請け負った建物建築に関して、同社から注文を受けて安定材を含むベタ基礎工事の全工程を実施し、これを同社に販売するという形態で営業をしていた(以下、このような営業形態を「内販」という。)。
ウ 第2期(平成10年から)
(ア) 平成10年、被告は、Bから、第1期のMS基礎を改良した工法につき特許(B各特許)を取得した旨の申入れを受けた。このB各特許に係る安定材付きベタ基礎工法は、地盤に溝を掘った上で、あらかじめ鉄筋を組み込んで配筋した安定材造成用の型枠組立体を溝内に落とし込む工法(B特許1)と、安定材の上面に小溝を設け、そこにリブ用配筋を設けて、基礎配筋と安定材とを一体化する工法(B特許2)であった。
 前記(4)のとおり、被告、エス・バイ・エル及びBは、協議の結果、平成10年7月31日付けの覚書により、被告及びエス・バイ・エルがBから、無償でB各特許の通常実施権の許諾を受けることとした。また、この覚書とは別に、エス・バイ・エルは、同年8月12日、Bとの間で、エス・バイ・エルがBからB各特許の通常実施権を無償で許諾を受ける旨の契約を締結し、被告は、同年9月1日、エス・バイ・エルとの間で、エス・バイ・エルからB各特許の再実施許諾を受ける旨の契約を締結した。
 被告は、上記同年7月31日付けの覚書に基づいてB各特許の通常実施権を有していたが、エス・バイ・エルとの再実施許諾に係る契約に基づいて、被告が、親会社であるエス・バイ・エルから基礎工事を下請けして施工した場合に、同社に対して1棟当たり4万円の実施料を支払うこととなった。
(イ) その後、被告は、親会社のエス・バイ・エル以外にもMS基礎の販路を拡げることを希望するようになり、平成11年12月18日、Bとの間で覚書を交わして、被告及びエス・バイ・エルがB各特許を第三者に再実施許諾することができることとした。
 被告は、平成13年頃から、従前の内販の形態に加えて、被告が分譲住宅ビルダーからMS基礎のうち安定材部分のみを受注して施工し、ベタ基礎部分は分譲住宅ビルダーが施工するという形態での営業を行うようになった。ここでは、被告は、分譲住宅ビルダーに対し、ベタ基礎部分を施工する際の材料としてメッシュ鉄筋を販売していた。また、被告は、地盤改良業者に対して、B各特許に関する実施許諾・技術ノウハウを提供して、同業者にMS基礎に係る安定材を施工させることがあり、その際、被告は、同業者との間でB各特許に関する実施許諾契約を締結して、業者からその実施料を収受していた(以下、エス・バイ・エル以外の業者に対する被告の上記のような営業形態を「外販」という。)。
 なお、平成11年12月18日付けのBとの覚書に基づき、被告が第三者にB各特許の再実施を許諾した場合は、被告がBに対して、その実施料を支払っていた。
(ウ) 被告は、B各特許の実施許諾を受けたが、従前施工していた工法がB各特許に係る工法であると誤解していたため、その後も第1期のMS基礎をそのまま施工しており、実際にはB各特許に係る発明を実施していなかったにもかかわらず、自社のMS基礎がB各特許を利用したものであるとして営業を行っていた。しかし、平成12年末頃、岡山市内で施工していたMS基礎について、B各特許と実際のMS基礎との間に齟齬があるとの指摘を受けたことから、被告は、社外弁理士に意見を求め、その結果、実際に施工している工法がB各特許と異なることを認識した。
エ 第3期(平成17年頃から)
 被告は、上記ウ(ウ)の経緯から、B各特許に代わる新たな特許権の取得の検討を開始し、その結果、平成14年7月30日に本件特許1を、同年8月21日に本件特許2をそれぞれ出願し、本件特許2は平成17年1月21日に、本件特許1は同年8月5日に、それぞれ登録された。
 被告は、遅くとも平成18年7月26日には、自己が施工するMS基礎において、安定材の断面形状を逆台形型とし、ベタ基礎の立ち上がり部分の下部に下方への突出を設けて、本件発明1を実施していた(なお、被告による本件発明1の実施の開始時期については、後記のとおり当事者間に争いがある。)。
 また、被告は、前記イ及びウのとおり、内販においては、自己が施工するMS基礎工事でメッシュ鉄筋を使用し、外販においては、ベタ基礎を施工する他の業者に対してメッシュ鉄筋を販売していたが、平成20年9月26日以降は、MS基礎におけるメッシュ鉄筋の使用を原則として中止し、鋼材単体(いわゆる生材)を組み立てて配筋をすることとした(なお、被告がメッシュ鉄筋の販売を全面的に中止したかについては、後記のとおり当事者間に争いがある。)。
オ 第4期(平成23年頃から)
 被告は、平成20年10月に、MS基礎について、建築技術性能証明書を取得するためのプロジェクトを立ち上げ、そこで、地盤を格子状に掘削し、この掘削土にセメント系改良材を添加して混合した改良土を埋め戻して格子状の改良体を築造した改良地盤の長期負荷時の支持能力(許容応力度)を所定の方法により客観的に測定できることの証明を取得することを目指した。
 その結果、被告は、平成23年4月25日、財団法人日本建築総合試験所から建築技術性能証明書を取得した。
 被告が取得した証明書は、格子壁状の安定材を設けた地盤において、長期荷重時の鉛直荷重に対する支持能力をスウェーデン式サウンディング試験の結果に基づく支持力算定式で適切に評価できることを証明するものであり、この証明により、安定材構築前と構築後の地盤の支持能力を測定し、これらを比較することで、安定材を構築したことによって地盤の支持能力が向上することを客観的に証明できることになった。
 被告は、建築技術性能証明書を取得した新たな工法を「MS工法」と名付け、被告社内では、平成23年6月28日にその仕様図面を作成して従来の仕様を変更し、親会社であるエス・バイ・エルに対して、同年7月2日にこの仕様変更について書面で通知した。
 なお、このMS工法については、性能証明の対象は安定材の部分のみであり、ベタ基礎の形状やベタ基礎と安定材との関連性などは対象とされていなかった。
(6) 原告による職務発明対価の請求
 原告は、被告に対し、平成22年12月6日付けの内容証明郵便により職務発明対価を請求し、同郵便は、同月7日に被告に到達した。
3 争点
(1) 本件発明1について
ア 内販における独占の利益
イ 外販における独占の利益
ウ 使用者の貢献度及び共同発明者間の寄与割合
エ 相当対価の額
(2) 本件発明2について
ア 内販における独占の利益
イ 外販における独占の利益
ウ 使用者の貢献度及び共同発明者間の寄与割合
エ 相当対価の額
(3) 遅延損害金の起算日

第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)ア(本件発明1について-内販における独占の利益)について
〔原告の主張〕
(1) 第3期(内販)における売上高
ア 本件発明1の実施期間
 被告は、平成17年10月18日から平成23年6月30日までの間、MS基礎の工事において、本件特許1の請求項1の発明を自ら実施した上、これをエス・バイ・エルに販売していた。
 この点に関し被告は、本件発明1の実施の開始日が平成18年7月26日であると主張するが、平成17年10月18日作成の図面には、既に基礎の立ち上がり部の下部の側面と略逆台形型の改良壁(安定材)の上部の側面が係合する工法が図示されていることから、この時点で、本件発明1が実施されていたことが認められる。
 なお、被告は、「係合」の意義を限定的に解釈して、「面接触」は「係合」に含まれないと主張するが、「係合」とは、特許用語としては「係わり合うこと」を意味するものであるから、立ち上がり部の下部の側面と安定材の上部の側面の一部が面で接触していたとしても、両者は係わり合っている以上、「係合」に該当する。
 また、被告は、本件発明1の実施を平成23年6月28日に終了したと主張するが、エス・バイ・エルでは、MS基礎の仕様変更の実施時期を「平成23年7月1日(新規)地盤調査(スウェーデン式サウンディング試験)実施分」からと告知していることに照らせば、終了日は、同年6月30日とするべきである。
イ 第3期の内販売上高
 平成17年10月18日から平成23年6月30日までの間の被告の内販売上高は、被告の販売実績に基づくと、以下のとおり、73億0103万8840円を下回らない。
 平成17年下期から平成22年下期までの売上高+(平成23年上期の売上高×68/200)=73億0103万8840円
(2) 第4期(内販)における売上高
ア 第4期の売上高が算入されること
 被告が内販において本件発明1を実施していた期間は、上記(1)アのとおり、平成17年10月18日から平成23年6月30日までである。
 しかし、職務発明の相当の対価の支払を求める債権は、特許を受ける権利等が従業者等から使用者等に承継された時に客観的に算定可能なものとして発生しているのであり、その額を算定する際に、法35条4項に所定の事後的な事情である使用者等が受けるべき利益の額等を判断するために特許発明の実施による売上げが考慮されるにすぎないから、使用者等が合理的な理由なく、例えば職務発明対価請求に対する対策として、恣意的に特許発明の実施による売上げを減少させるならば、これを相当の対価の算定の際に考慮すべきでない。仮にこれを考慮することが許されるならば、使用者等が職務発明対価の支払を免れるために訴訟係属中のみ一時的に特許発明の実施を取りやめるような動機付けともなりかねず、職務発明制度の趣旨を没却するような不合理な状況を招来させることになり妥当でない。
 本件発明1に基づくMS基礎がMS工法よりも品質的に優れているにもかかわらず、被告は、平成23年7月以降、何ら合理的な理由なくMS工法のみを施工することとした。このような仕様変更は、むしろ技術やコストの面から改悪ともいえ、評価証明取得による変更の必然性もなかったものであるから、被告が平成23年7月1日以降、内販のMS基礎の仕様変更を行ったのは、職務発明対価請求を内容とする原告からの平成22年12月6日付け内容証明郵便によって本件特許1の争訟が顕在化し、被告がこれに対抗するためであったとしか考えられない。
 よって、上記のような合理性のない被告の行為に起因するMS基礎の売上減少を相当対価の算出において考慮すべきではないから、平成23年7月に被告がMS基礎の設計図面を変更した後の第4期についても、本件発明1の実施を前提として、原告の相当対価を算定すべきである。
イ 第4期の内販売上高
 平成23年7月から本件特許1の権利の終期である平成34年7月30日までの132か月間に、被告が内販において本件発明1を実施することにより得ることができる売上高は、以下のとおり、143億6106万7996円を下らない。
 平均半期売上高6億5277万5818円/6×132か月=143億6106万7996円
(3) 超過売上高
ア MS基礎が地盤改良工法であること
 本件発明1に係るMS基礎は、軟弱層が厚く、支持層がない場合でも対応可能な安定材付きベタ基礎工法として、当時の業界に知られており、国土交通大臣指定の住宅瑕疵担保責任法人及び住宅性能評価機関である株式会社日本住宅検査機構からも「地盤改良工法」「特許工法」と紹介されるなど、地盤改良性の点において、ベタ基礎よりも技術的に優れていた。被告自身も、営業戦略上、本件特許1に基づくMS基礎が地盤改良工法としても有効であることを宣伝し、顧客にも地盤を強化する特許工法であると説明し、分譲住宅ビルダー等は、20kN/㎡未満の許容支持力を有する地盤においても、被告のMS基礎を選択して施工することで、地盤を改良したものとしてベタ基礎を施工していた。
 したがって、ベタ基礎、基礎ぐい及び布基礎は、本件発明1と比べて明らかにその作用効果が劣っており、軟弱地盤については、これらに代わって本件発明1に係るMS基礎が選択されていた。
イ 代替技術
 本件発明1の逆台形型の安定材は、平成7年2月28日出願にかかる特開平8-232273号公開特許公報(以下「乙1文献」という。)、平成4年5月11日出願にかかる特開平5-311679号公開特許公報(以下「乙2文献」という。)及び昭和46年11月22日出願にかかる特開昭48-58611号公開特許公報(以下「乙3文献」という。)に示されるような打設杭、円錐形安定材、壁体といった他の工法と比較して、型枠が不要で一工程で簡便に施工できるため低コストである上に、壁面が斜行しているために強度的にも有利である点で、従来技術より優れている。
 さらに、安定材と係合部との組み合わせは構造的にも有利であり、この点は他の従来技術には開示されていない。
 また、被告がMS基礎の代替技術であると主張する複数の工法のうち、コロンブス工法(No.3)、スーパージオ工法(No.4)、MS工法(No.14)、ジオクロス(No.30)以外の工法は、全て杭や柱等を深層まで打ち込む、あるいはセメント等を流し込んで形成する補強工法であり、このような杭工法及び深層改良工法等は、打ち込みや掘削に大型重機を用いるため、戸建て住宅の基礎工事のような小規模工事には向かない。したがって、これらの工法は、戸建て住宅の地盤補強として比べた場合にMS基礎の代替手段とはいえず、また仮に代替手段であるとしてもMS基礎の方が施工簡易性において優れている。さらに、深層改良でない工法(浅層工法)の中では、セメント改良系がコスト面において最も安価で優れているところ、(略)に記載された浅層工法中、MS工法は唯一のセメント改良系工法であり、特に戸建て住宅の地盤補強工法として技術的優位性を有する工法である。
ウ 市場占有率
 被告は、日本国内における戸建分譲着工数に占めるMS基礎の内販分の施工棟数の割合が少ないことをもってMS基礎に需要がなかったと主張するが、MS基礎は、軟弱地盤に施工することが念頭に置かれた商品であるから、ベタ基礎を施工する必要のない堅固な地盤に建てる戸建分譲住宅の数まで市場の母数に算入するのは誤りである。
 仮に、内販に限って市場シェアを論ずるのであれば、エス・バイ・エルが軟弱地盤に建てた戸建分譲着工数に占めるMS基礎施工数の割合を論ずるべきであるところ、原告の経験上、エス・バイ・エルの戸建住宅に占める軟弱地盤の割合は5ないし6割程度であるから、これに対するMS基礎の施工割合を求めると、平成20年度で84.8%、平成21年度で67.2%となり、軟弱地盤においてはほぼMS基礎が採用されていたといってよい。
エ ライセンスポリシー
 被告は、本件各特許の特許表示をして営業を行っており、被告のホームページにおいても、第4期以降ですら、「安定材付きベタ基礎工法」として本件特許1についての記載をしている。また、被告は、実施を許諾した分譲住宅ビルダー等に提出する見積書において、他社建物への使用を禁止する旨記載し、地盤改良業者との間で本件特許1の特許表示を伴う実施許諾契約を締結するなどの対応をとっていた。これらの事実から明らかなとおり、被告は本件特許1について限定的ライセンスポリシーを採用していた。
オ その他の事情
 本件発明1の工法に先立つB各特許に係る工法が、事実上、施工することが技術的に困難ないし不可能な工法であったのに対して、本件発明1は、実際に施工可能かつ簡易な方法によりベタ基礎と安定材との一体化を図り、さらに地震の横揺れに対して安定した構造を発明したものであり、B各特許よりも技術的に優位性のある特許発明である。
 また、建築技術性能証明を取得したMS工法は、本件特許1に係るMS基礎の代替として開発されたものではなく、単にMS基礎の地盤の許容応力度を客観的に証明するための性能証明書を取得する目的での構造設計を企図したものにすぎない。被告は、現在も、地盤改良分野の同業他社に対し、同業他社が困った時にはMS工法の見積もり依頼をしてほしいなどと述べ、MS工法の技術的優位性を訴えているところ、MS工法は本件発明1を実施した工法なのであるから、本件発明1の技術的価値は相当高いものであることが明らかである。
カ 小括
 以上の諸事情を総合すれば、本件特許1の価値は非常に高く、自己実施分の超過売上高の割合は75%であり、少なくとも40%を下ることはあり得ない。
(4) 仮想実施料率
 被告は、本件特許1が開発される以前、BからB各特許の実施許諾を受け、その実施料として1棟当たり4万円を支払っていたところ、MS基礎の内販1棟あたりの売上高が平均約160万円であることを勘案すると、その実施料率は2.5%であったといえる。本件特許1は、そのB各特許をより技術的に向上させたものであり、かつ被告は本件特許1によってB各特許の実施許諾契約を終了させることができたのであるから、本件特許1の仮想実施料率は、少なくともBに対する上記実施料率を下回ることはあり得ない。
 したがって、内販分における本件特許1の仮想実施料率は2.5%を下回ることはない。
 なお、MS基礎には本件各特許が用いられているところ、原告は、後記のとおり、本件特許2の仮想実施料率を0.3%と主張するから、本件各特許を合わせた仮想実施料率は、2.8%となる。この数値は、「実施料率(第5版)」記載の建設技術分野における実施料率(最頻値3%、中央値3%、平均値3.5%)と比べても、合理的な数値である。
(5) 内販における独占の利益の額
 上記(1)ないし(4)によれば、内販における被告の本件特許1に基づく独占の利益の額は、以下のとおり、第3期につき1億3689万4478円(小数点以下四捨五入。以下、特に断らない限り同様。)、第4期につき2億6927万0025円となり、その合計額は4億0616万4503円となる。
(第3期)売上高73億0103万8840円×超過売上高の割合75%×仮想実施料率2.5%=1億3689万4478円
(第4期)売上高143億6106万7996円×超過売上高の割合75%×仮想実施料率2.5%=2億6927万0025円

〔被告の主張〕
(1) 第3期(内販)における売上高
ア 本件発明1の実施期間
 被告がMS基礎の施工において本件発明1を実施していたのは、平成18年7月26日から平成23年6月28日までである。
 原告は、平成17年10月18日作成の図面から、被告が平成18年7月26日以前から本件発明1を実施していたと主張するが、本件特許1の請求項1の「係合」とは、「両者が引っかかるように合わさって止まっている状態」を意味するところ、上記図面のようにベタ基礎の立ち上がり部の下部の突出部分と安定材とが面接触しているようなものは「係合」に当たらないから、これは本件発明1の実施ではない。
 また、被告は、平成23年6月28日に新たなMS工法の図面を作成し、MS基礎から仕様変更を開始したのであるから、被告による本件発明1の実施の終了日が同月30日であるとの原告の主張は誤りである。
イ 売上高
 平成18年7月26日から平成23年6月28日までの間の被告の内販における販売棟数は、その販売実績に基づくと、3877棟である。また、1棟当たりの売上高の平均値は163万8300円であったから、上記実施期間の被告の内販売上高は、以下のとおり、63億5168万9100円である。
163万8300円×3877棟=63億5168万9100円
(2) 第4期における売上高
 本件発明1を実施したMS基礎の施工は、平成23年6月28日のMS工法への設計変更に伴って終了したから、被告は、同日以降、本件発明1を実施していない。
 原告は、同日以降被告がMS基礎を施工していないことを認めながら、被告が原告への職務発明対価の支払を免れるために本件発明1の実施を中止したと主張するが、被告は平成20年10月に建築技術性能証明を取得するためのプロジェクトを立ち上げたのであるから、原告主張のような事実はない。
 本件特許1の技術は、安定材の配置によって土木工学的に地盤の許容応力度が向上していることを客観的に証明できないものであり、許容応力度が20kN/㎡に満たない地盤(ベタ基礎を利用できない地盤)において、許容応力度を向上させてベタ基礎を利用できるようにする特許であると唱えることができなかった。そこで、被告は、安定材設置後の地盤の許容応力度を所定の方法により客観的に観測できることについての証明書を取得して、この証明書に基づく新たなMS工法を販売することとし、本件発明1の実施を終了したのである。
 この建築技術性能証明の取得は、当初、第3期のMS基礎についての地盤の許容応力度を客観的に証明することを目的としていたものであったが、性能証明取得の経緯において、性能証明取得にベタ基礎部分と安定材の係合関係は意味をなさないこと及び安定材の断面形状の逆台形型も構造計算における計算式が複雑化し評価証明取得をむしろ阻害することが判明したため、被告は、断面形状が矩形型の安定材を用いることを前提に、ベタ基礎部分と安定材との係合関係も排除した上で性能証明を取得した。
 この性能証明取得に伴って、被告は、安定材構築による地盤の支持能力の向上を唱えることが可能となり、これを前提にセールスをすることが可能となった。それゆえに、名称も「MS工法」と変更された。他方で、性能証明取得後は、本件特許1を実施する営業上の意味がなくなり、また、本件特許1の要素である断面形状が逆台形型の安定材の構築及びベタ基礎と安定材との係合部分の作成は手間とコストがかかるため、これらを中止した。
 このように、被告が第3期のMS基礎の施工を中止したのは恣意的なものなどではなく、飽くまでも営業戦略上の合理的な決定であるから、この工法変更が合理的理由に基づくものではなかったと評価することはできない。
 よって、第4期における被告の内販売上高が、被告の独占の利益に算入されることはない。
(3) 超過売上高がないこと
ア 本件発明1の技術的特徴
 本件発明1の特許出願に係る審査・登録の経緯に鑑みれば、本件発明1の特徴は、「基礎の立ち上がり部の下部をベタ基礎の下面より下方に突出させ、この突出した基礎の立ち上がり部の下部の側面と安定材の上部の側面が係合するように」した点のみであるが、その工法は、従前から被告が実施してきた「ベタ基礎+安定材」という工法の範疇を出るものではなく、安定材とベタ基礎の立ち上がり部の下部の側面を係合させて安定化させるという点も、「部材同士を係合させて相互の安定を図る」という通常の技術を応用しているにすぎない。したがって、本件発明1は、技術的に極めて優位性が高いというものではない。
 また、本件発明1に係るMS基礎は、建築基準法上は飽くまで基礎形式の一種である「ベタ基礎」にすぎず、地盤改良方法として認定されるものではなかった。したがって、MS基礎は、通常のベタ基礎と同様に、地盤の長期許容応力度が20kN/㎡以上の地盤にしか施工することができず、その場合は、ベタ基礎、基礎ぐい又は布基礎のいずれかを選択できるのであるから、ベタ基礎、基礎ぐい及び布基礎のいずれも本件発明1の代替技術に当たる。また、MS基礎は、ベタ基礎にオプションとして付加される工法にすぎず、しかも、ベタ基礎の方が安価である。
イ 代替技術
 ベタ基礎を設ける前に軟弱地盤に安定材等の補強材を設けることは、乙1ないし3文献に示されているように、周知の技術であり、本件発明1の本質的部分は、ベタ基礎と安定材とを係合させるという部分にある。しかし、地盤の許容応力度の改善に寄与しているのは安定材であって、本件発明1の本質的部分に基づく効果ではないから、本件発明1のベタ基礎と安定材を係合させるという構造をとらずに、乙1ないし3文献の従来技術を利用してベタ基礎を設ければ、本件発明1の技術的範囲に属することなく、地盤の許容応力度を改善させることができるのである。
 なお、乙1ないし3文献に見られるような安定材に関する従来技術においても、その施工に型枠は必要とされておらず、乙2文献及び乙3文献には、断面が斜行している安定材が示されていることから、これらの従来技術と比べて本件特許1の安定材が低コストで、強度的に優れるという原告の主張は理由がない。
 また、原告は、軟弱地盤については、ベタ基礎、基礎ぐい、布基礎等に代わって本件発明1に係るMS基礎が選択されていたと主張するが、軟弱地盤補強の手段は、MS基礎に限らず、他にも様々な手法が存在するのであり、顧客は、付加的な技術として多種多様な手法が存在する中から手法を選択することができるのであるから、MS基礎のみが選択されるわけではない。
ウ ライセンス許諾の状況
 被告は、B各特許について第三者に実施許諾をし、実施料を収受してきたことがあるが、実際の施工内容とB各特許との齟齬の問題がクローズアップされた後の平成16年からは、B各特許についてはもちろん、その後の本件特許1についても、一切実施許諾をしておらず、実施料を請求していたこともない。
 被告は、本件特許1についてライセンス許諾を求められたことはなく、ライセンスを付与したこともない。この事実は、本件発明1が第三者に対して排他的効果を有するものではなかったことを示している。
エ 市場占有率
 平成18年度上期及び平成21年下期のいずれにおいても、全国の戸建分譲の総着工戸数の中での被告の内販の受注数が占める割合は0.07%にすぎない。
オ 本件発明1の実施終了後の販売状況
 被告の内販の受注数は、本件発明1の実施を終了した平成23年7月以降も、それまでの各月の受注数と異なることなく推移している。このことは、本件発明1が被告のMS基礎の販売に寄与していなかったことを示している。
カ エス・バイ・エルに対する内販
 被告は、親会社であるエス・バイ・エルが戸建建物建築を請け負った際に、子会社としてその基礎工事部分を受注していたにすぎない。すなわち、被告が行ったMS基礎は、専らエス・バイ・エルがその営業力によって建物建築と基礎工事を一体的に受注したことによるものであって、本件特許1による排他的効力の効果ではない。
キ その他
 一連のMS基礎は、平成5年頃(第1期)から被告が行なってきたものであり、その基本技術は被告自身が開発し実践してきたものである。本件特許1は、被告のMS基礎の基本技術の応用にすぎず、それ自体には特段の技術的優位性など存在しないのであって、被告がこれまで培ってきたMS基礎に関する蓄積技術及びノウハウ等こそが、重要なものである。
ク 小括
 以上の諸事情に鑑みれば、被告が、本件発明1を排他的に実施することによって、通常実施権分の売上げを超える超過売上げを得たなどということはできず、超過売上高を認める余地はないから、被告の独占の利益はゼロである。
(4) 仮想実施料率
 本件特許1は、もともと被告が平成5年頃より行っていたMS基礎の基本技術の応用技術にすぎず、それ単独において優越した技術的意義を備えるものではない。そして、本件特許1の技術的意義は、MS基礎に係る工法全体の中でみれば、ベタ基礎の立ち上がり部の下部と安定材の係合という、極めて限定的な箇所に関する技術にすぎない。また、本件発明1の実施によって被告の市場占有率が増加したこともなく、これまでライセンスを付与したこともない。
 これらの事情からみれば、建築技術分野における平均実施料率が3%程度であることを考慮したとしても、本件特許1の仮想実施料率は、せいぜい1%である。
 この点、原告は、被告が1棟当たり4万円の実施料を支払って、エス・バイ・エルからB各特許の実施権許諾を受けていたことを指摘して、本件特許1の仮想実施料も少なくとも2.5%は下回らないと主張するが、上記実施料は、B各特許に関するものであるところ、本件特許1はB各特許とは全く観点が異なるものであるから、B各特許と本件特許1とを同列に論ずるべきものではない。また、上記実施許諾は被告とその親会社であるエス・バイ・エルとの契約であるところ、親会社たるエス・バイ・エルが自社のブランド・営業力を利用して顧客を吸引し、これを子会社たる被告に発注するというビジネスモデルであったことから、むしろエス・バイ・エルの営業ソースの利用料といった側面があり、4万円が純粋な特許使用料ではなかった。実際には、被告自身はBから直接B各特許の実施権の許諾を受けていたのであり、自由にB各特許を実施できる状況であったことから考えても、被告とエス・バイ・エルとの間で合意された4万円の額が純粋な特許使用料ではないことは明らかである。

2 争点(1)イ(本件発明1について-外販における独占の利益)について
〔原告の主張〕
(1) 外販においても被告の独占の利益があること
ア 被告は、外販においては、被告が分譲住宅ビルダーから注文を受けて、MS基礎のうち安定材(改良材)の部分を自ら施工した上で、同ビルダーがMS基礎のうちベタ基礎を施工することについて、同ビルダーから実施料を収受していた。
 ここでは、被告は、分譲住宅ビルダー向けのMS基礎運用マニュアルなどで、より詳細な基礎決定までの工程等を記載し、分譲住宅ビルダーに対し、MS基礎の図面及び材料を支給し、技術指導を行い、基礎工事完了報告書を提出させるなどして、基礎工事完了まで被告が常に監督するシステムとなっていた。また、分譲住宅ビルダーは被告からMS基礎工法の説明資料や運用マニュアルのような営業資料を示された上でMS基礎を発注しているのであり、MS基礎が特許工法であることは十分認識していた。被告としても、見積書の作成時に標準基礎断面図の提出を求めているのであるから、分譲住宅ビルダーが「基礎の立ち上がり部分が下方に突出した形状のベタ基礎」を施工することは十分認識していたのであり、本件発明1の実施につき互いに意思疎通があったといえる。さらに、被告は、MS基礎について、10年間、3000万円までの保証をするものとしているところ、常識的に考えて、被告が、直接関与なくしてこのような品質保証のみをすることなどあり得ないから、これは、被告が外販用MS基礎の施工に深く関与していることを示している。
 このように、被告は、外販において、主観的にも客観的にも、ベタ基礎を施工する分譲住宅ビルダーと共同して本件発明1の全工程を実施していたといえるから、被告の外販分について、被告の分譲住宅ビルダーに対する安定材の売上げを被告の自己実施による被告の利益とし、被告が分譲住宅ビルダーから受領した実施料を他社実施による被告の利益として、被告の独占の利益を計算すべきである。
イ この点に関して被告は、分譲住宅ビルダーから実施料を収受していないと主張するが、被告は、外販において、平成11年12月以降、B各特許に関する再実施権付き通常実施権に基づき、順次分譲住宅ビルダー等に対しB各特許の実施許諾契約を締結しており、その後、本件特許1の取得と、Bと被告との上記通常実施権契約の終了に伴い、被告と分譲住宅ビルダー等との間のライセンス契約は、「確認書」と題する文書により、以前の契約書に記載されていたB各特許の特許番号を本件各特許の特許番号に差し替える形で存続していた。このようにして被告は、本件特許1に関しても、分譲住宅ビルダー等に対して実施許諾を与えていたのである。
 また、被告は、平成16年頃から実施料の請求を中止したと主張するところ、確かに、平成13年から15年頃に作成された古い見積書では「工法設計料・パテント使用料及び手数料」と記載されていた項目が、平成16年から19年頃に作成された新しい見積書では「工法設計料及び手数料」と記載されていることが認められるが、項目記載の変更の前後において、その金額が何ら変化していないことからすれば、単に「パテント使用料」との文言を削除しただけで、実際は、「工法設計料及び手数料」の中にパテント使用料を含めて請求していたにすぎない。
 したがって、被告が、平成16年以降においても、分譲住宅ビルダーに対し、明示的に本件特許1の実施料と表示していなくとも、「工法設計料」等の名目に含めて事実上実施料を徴収していたことは明らかである。
ウ なお、仮に被告と分譲住宅ビルダーとの意思疎通が認められないとしても、被告の造成した安定材は、本件発明1の使用に用いるものであり、日本国内において広く一般に流通しているものではない上、安定材は本件発明1の課題の解決に不可欠なものであり、しかも、被告が本件発明1に使用されることを知りながら業として生産される物である。すなわち、安定材は特許法101条5号の「その方法の使用に用いる物であってその発明による課題の解決に不可欠なもの」に当たり、無権利者がこれを製造等すれば間接侵害を構成するのだから、本件特許1によって保護されているといえる。
 したがって、間接侵害規定の適用のある安定材造成の売上げは、特許権を取得した使用者が当該発明の実施を独占することによって得られる利益が発生したものというべきであるから、外販において、被告が分譲住宅ビルダーから安定材を受注することで得た売上げは、被告の独占の利益に算入されるべきである。
(2) 第3期(外販)について
ア 分譲住宅ビルダーからの実施料収入
 被告は、平成17年10月18日から平成23年6月30日の間に、7454棟を外販したところ、被告は、この外販につき、住宅分譲ビルダーから本件特許1の実施料を収受していた。なお、この外販の棟数の中には、被告が地盤改良業者に安定材の施工を許諾して同業者に安定材を施工させ、分譲住宅ビルダーがベタ基礎を施工するという取引形態のものが含まれていた可能性があるが、被告自身、第3期において、被告以外の者に安定材を施工させる取引形態はなかったと主張していることから、この被告の主張を前提として被告の独占の利益を計算する。
 被告は、外販においてB各特許の実施許諾をするに当たり、MS工法パテント使用料として、保険料を含めて6万円を収受していたところ、本件各特許は、B各特許よりも技術的に優れていたから、その実施料は、B各特許の実施料を下回ることはない。そうすると、保険料が高くても1棟当たり1万円程度であることを考慮すると、本件各特許は、1棟当たり5万円であったというべきである。
 そして、MS基礎に対する本件特許1と本件特許2の寄与割合がそれぞれ90%程度と10%程度であることからすれば、本件特許1についての実施料は、1棟当たり4万5000円となる。
 よって、外販において被告が本件特許1の実施を分譲住宅ビルダーに許諾したことによる被告の独占の利益は、以下のとおり、3億3543万円である。
7454棟×4万5000円=3億3543万円
イ 自社施工分
 被告の第3期の外販による売上高は、被告の販売実績に基づくと、以下のとおり、45億5628万1907円である。
平成17年下期から平成22年下期までの売上高+(平成23年上期の売上高×340/763)=45億5628万1907円
 この外販売上高のうち、上記アの実施料に相当する部分を控除して被告の自社施工分の売上高を計算し、これに前記1〔原告の主張〕(3)及び(4)の超過売上高の割合75%及び仮想実施料率2.5%を乗じると、外販において被告が安定材を自社施工したことによる独占の利益の額は、以下のとおり、7914万0973円となる。
売上高(45億5628万1907円-3億3543万円)×超過売上高の割合75%×仮想実施料率2.5%=7914万0973円
ウ 第3期(外販)の独占の利益の額
 上記ア及びイの合計は、以下のとおり、4億1457万0973円である。
実施料収入3億3543万円+自社施工分7914万0973円=4億1457万0973円
(3) 第4期(外販)について
ア 第4期の外販の利益が算入されること
(ア) 被告は、平成23年7月にMS基礎の設計図面を変更し、その後、本件発明1を用いたMS基礎を施工していないと主張するが、かかる設計変更には合理的な理由がないから、その設計変更後である第4期についても、本件発明1の実施を前提として対価を算定すべきであることは、前記1〔原告の主張〕(2)アのとおりである。
(イ) 仮に、MS基礎からMS工法への設計変更に合理的理由があり、本件特許1の実施の中止が対価額の算定において考慮されざるを得ないとしても、外販において、被告は、第4期においても実際に本件発明1を相当数共同実施していたから、その分は被告の独占の利益に算入されるべきである。
 すなわち、設計変更後のMS工法は、安定材造成用の溝の掘削につき、溝底面と壁が垂直になるように設計されているが、軟弱地盤では溝の上部の両側の土が崩れ落ちて、結果的に本件特許1と同じ逆台形型の溝を掘削している。施工上、矩形型の掘削をすることは困難である上、逆台形型の溝のほうが性能が高いのであるから、あえて矩形型の溝を掘削する理由もない。
 さらに、ベタ基礎の立ち上がり部の下部の突出と安定材の係合についても、分譲住宅ビルダーが施工するベタ基礎は、住宅金融公庫(住宅金融支援機構)が木造住宅工事の標準仕様として定めるように、そのほとんどが基礎の立ち上がり部の下部をベタ基礎の下面より下方に突出させる構造となっており、ここに被告の施工した安定材の上部の側面を係合させることができる。
 このように、被告は、第4期においては、図面上は本件発明1の実施を回避しているように見せながら、実際には、本件発明1に係るMS基礎を第三者と共同して実施している場合が存するのである。そして、立ち上がり部が下部に突出した一般的なベタ基礎が施工される割合及び安定材が逆台形型になってしまう割合を考えれば、少なくとも外販の棟数の半数において、本件発明1が実施されているというべきである。
 よって、少なくとも外販の半数については、分譲住宅ビルダーとの共同実施による被告の独占の利益が認められる。
イ 分譲住宅ビルダーからの実施料収入
 被告が、平成23年7月から本件特許1の権利の終期である平成34年7月30日までの132か月間に外販できる棟数は、以下のとおり、1万4234棟を下らない。
平均半期施工棟数647棟/6×132か月=1万4234棟
 そして、被告が住宅分譲ビルダーから受領する実施料は、前記(2)アのとおり、本件特許1につき1棟当たり4万5000円を下らないから、被告の独占の利益は、以下のとおり、6億4053万円となる。
1万4234棟×4万5000円=6億4053万円
ウ 自社施工分
 被告が、平成23年7月から本件特許1の権利の終期である平成34年7月30日までの132か月間に得ることができる外販売上高は、以下のとおり、87億2664万9998円を下らない。
平均半期売上高3億9666万5909円/6×132か月=87億2664万9998円
 この外販売上高のうち、上記イの実施料に相当する部分を控除して、被告の自社施工分の売上高を計算し、これに前記1〔原告の主張〕(3)及び(4)の超過売上高の割合75%及び仮想実施料率2.5%を乗じると、外販において、被告が安定材を自社施工することによる独占の利益の額は、以下のとおり、1億5161万4750円となる。
売上高(87億2664万9998円-6億4053万円)×超過売上高の割合75%×仮想実施料率2.5%=1億5161万4750円
エ 第4期(外販)の独占の利益の額
 上記イ及びウの合計は、以下のとおり、7億9214万4750円である。
実施料収入6億4053万円+自社施工分1億5161万4750円=7億9214万4750円
 なお、上記ア(イ)のとおり、仮に第4期について、MS基礎からMS工法への設計変更が合理的なものであったとしても、被告が外販で販売した棟数の半数では現実に本件発明1が実施されていたから、上記7億9214万4750円の半額である3億9607万2375円は、第4期の外販における被告の独占の利益となる。
(4) 外販における独占の利益の額
 前記(2)及び(3)のとおり、外販における被告の本件特許1に基づく独占の利益の額は、第3期が4億1457万0973円、第4期が7億9214万4750円であるから、その合計は、12億0671万5723円となる。
 なお、上記(3)エのとおり、仮に第4期について、MS基礎からMS工法への設計変更が合理的なものであると認められる場合でも、外販における被告の独占の利益の額は、第3期の4億1457万0973円及び第4期の3億9607万2375円を合算した8億1064万3348円となる。

〔被告の主張〕
(1) 第3期(外販)について
ア 本件発明1に係る工法は、安定材の断面形状を逆台形型にするとともに、ベタ基礎の立ち上がり部の下部をベタ基礎の下面より突出させて、ここに安定材の上部を係合させるものである。外販においては、被告は、安定材を形成する工程までしか行っておらず、ベタ基礎を施工していないから、被告が本件発明1を実施していたことはあり得ない。
 特許発明は、当該特許発明の構成要件要素全てを充足して初めて実施行為と評価されるものであるから、外販においては、被告又は第三者によって本件発明1が実施されたことはないし、被告と第三者が共同して本件発明1を実施していた事実もない。
 よって、第3期の外販売上げについて、被告の独占の利益は存在しない。
イ この点に関して原告は、被告が主観的にも客観的にも、ベタ基礎を施工する分譲住宅ビルダーと共同して本件発明1の全工程を実施していたと主張する。
 しかし、外販においては、分譲住宅ビルダーは、被告に対して安定材の施工のみを発注し、ベタ基礎部分は自己で設計したものを施工していたのであって、被告は、そのベタ基礎施工には何ら関与していないから、分譲住宅ビルダーがどのようなベタ基礎を設計し施工しているかは分からず、したがって、最終形態として本件特許1の請求項1が規定するように、断面形状が逆台形型の安定材とベタ基礎とが係合しているのかも不明である。
 そして、被告は、分譲住宅ビルダーに対して、ベタ基礎の立ち上がり部の下部を下方に突出させてその側面と安定材の上部の側面が係合するような構造の施工を行うように指示したことはないし、そのような指示をできる立場にもなかった。また、現実的に考えても、本件特許1の請求項1のような係合構造をわざわざ施工するのはコスト高であり、分譲住宅ビルダーがそのような施工を行ったとも考えられない。
 したがって、外販において、被告には、主観的に他者と共同して本件発明1を実施する意思などなく、客観的にも共同して本件発明1を実施していたことはない。
ウ また、原告は、被告が分譲住宅ビルダーに対して、MS基礎の実施を許諾し、実施料を収受していたとも主張する。
 この点、被告は、第2期である平成13年頃から、地盤改良業者が安定材を施工する際、地盤改良業者との間で、B各特許に関する実施許諾をし、技術ノウハウを提供する旨の契約をし、その実施料を業者から収受していたが、平成15年10月にB各特許とMS基礎の齟齬がクローズアップされて問題となったため、被告は、平成16年頃から、業者に対してB各特許の実施料を請求することを中止した。そして、被告は、平成17年以降、安定材の施工を地盤改良業者に許諾することを止めて、自ら安定材施工をしており、本件各特許が登録された以降、被告が地盤改良業者に対して実施料を請求したことはない。
 しかも、第2期においても、第3期においても、被告は、分譲住宅ビルダーから安定材の施工を受注し、自ら安定材を施工した場合は、分譲住宅ビルダーから実施料を受領していなかった。
 なお、上記の地盤改良業者との間のB各特許の実施許諾契約に関して、その後、契約の対象特許を本件各特許に変更する旨の確認書を作成したことは事実であるが、これは、実際には平成16年以降、実施許諾契約に基づく実施料の徴収が行われておらず、同契約は死文化していたにもかかわらず、平成21年6月に至って、被告社内で法務監査が行われた際、当初の実施許諾契約の存在が明らかになり、その対象特許をB各特許から本件各特許に修正するよう指摘があったことから、当時の担当者が、従前の契約の実態を確認することなく、確認書を締結してしまったものである。
(2) 第4期(外販)について
ア 外販において、被告は、安定材を形成する工程までしか行っておらず、ベタ基礎を施工していないから、被告が外販で本件発明1を実施していないことは、前記(1)アのとおりである。
 また、第4期においては、MS基礎からMS工法への設計変更に伴って、内販においてすら本件発明1を実施しなくなったこと及びこの設計変更が合理的な理由によるものであったことは、前記1〔被告の主張〕(2)のとおりである。
イ 原告は、第4期の外販において、被告が実際に本件発明1を相当数共同実施していたと主張する。
 しかし、そもそも、第4期において被告が採用していたMS工法においては、安定材の断面形状は矩形型となっているのであるから、本件発明1が実施されていなかったことは明らかである。
 なお、原告は、軟弱地盤を垂直に掘削しようとした場合に結果的に必ず溝の断面形状が逆台形型になってしまうと主張するが、被告においては、MS工法について、断面形状が逆台形型になるように安定材を施工することを指示しておらず、そのような施工設計図を第三者に交付したこともない。
 また、第4期の設計図面において、ベタ基礎の建物周辺部の根入れ深さが他の部分より深くなっているものがあるが、これは住宅金融公庫から融資を受ける際の標準仕様であり、本件発明1に関連する図面ではない。実際、そのような図面では安定材が記載されていないか、仮に記載されていたとしても、その断面形状は矩形型であり、また、ベタ基礎の下部の突起との係合も示されていない。
 原告は、一般的なベタ基礎は基礎部分の立ち上がり部分の下部が下方に突出している旨主張しているところ、確かに、住宅金融金庫から融資を受ける際のベタ基礎の標準仕様は、そこに示されるようなものであるが、必ずしも一般的なベタ基礎の全てにおいて立ち上がり部分の下部が突出しているわけではない。現に被告が内販において実施しているように、下面が平滑なベタ基礎を施工することもある。
ウ よって、第4期の外販売上げについて、被告の独占の利益は存在しない。

3 争点(1)ウ(本件発明1について-使用者の貢献度及び共同発明者間の寄与割合)について
〔原告の主張〕
(1) 使用者の貢献度
 被告は、平成11年12月頃まで、MS基礎についてB各特許の特許番号を記載して営業を行っていたが、実際に施工していた工法がB各特許の特許請求の範囲に入らない恐れが出てきたため、新たな技術を開発して、特許を取得した上で、MS基礎を特許工法であるとして付加価値を創出する必要が生じた。そのため、この頃より原告が中心となって新たなMS基礎の開発に着手して、本件発明1を完成させたものである。なお、当時被告には地盤改良の専門家が在籍しておらず、地盤改良についての技術開発業務をすることができるのは、原告だけであった。したがって、原告の発明に対する貢献度は非常に高い。しかも、新たな工法の開発及び特許取得は専ら原告が極秘下で行ったのであり、原告以外にこれを知る者は非常に限られていた。そのため、本件各特許出願の過程における代理人との折衝も全て原告が行ったのであり、被告の他の従業員がこれに助力したことはない。
 また、原告は、B各特許が特許登録されていても施工できなかったという過去の経験から、中間処理においても本件発明1が実際に施工可能な特許となるように補正案を自ら発案し、審判請求書や明細書等の手続補正を行うよう社外弁理士に指示していた。中間手続の意見書等は、社外弁理士が、このような原告との打ち合わせを基に起案をしたものである。
 さらに、被告はMS基礎の施工が業務の中心であり、本件特許1が被告の売上増に寄与した度合いは非常に高い上に、原告は、特許取得後のMS基礎の売上げに関しても、MS事業部部長として営業戦略の一翼も担い、MS基礎の売上げの増大に大きく貢献した。原告は平成5年に被告に在籍して以来、平成21年に退職するまで、開発、施工、営業等一貫してMS基礎事業に携わってきたのであり、一般的な企業と発明従業者という関係にとどまらず、MS基礎の売上げにも重要な役割を果たしている。
 これらを勘案すれば、使用者である被告の貢献度が80%を超えることはない。
(2) 共同発明者間の寄与割合
ア 安定材の形状について
 本件特許1の開発は、B各特許が施工困難であり、特許表示ができないことが問題となったために始まったものであったが、現場では、B各特許では断面形状が矩形型であるはずの安定材が実際には略逆台形型で施工されてしまっていたことも問題として認識されていた。すなわち、MS基礎を施工する軟弱地盤の住宅用造成地では、盛土の影響や住宅建替えの場合は古い基礎の掘り起し等で、地表面が柔らかく崩れやすくなっているが、深層溝低部は土が押圧され締まっているので崩落しにくくなっているため、掘削すると下部は崩れず、上部の左右が崩れて広がる結果、普通に掘削すると断面上部が幅広い略逆台形型となっていた。Dは、当時社長であったため、現場の問題認識を原告ほど把握していなかったが、原告が、これをD氏に提案したのである。
イ 基礎の立ち上がり部の下部の突出と安定材の係合について
 原告は、B各特許と実際の施工内容の相違につき、ベタ基礎と安定材を係合するリブを改良材の中心に小溝を形成して施工すること及び安定材を断面形状が矩形型になるように施工することがいずれも実際上困難か、可能だとしても手間がかかり採算が合わないということを問題として認識していた。また、改良材を逆台形型にするのみでは、これまでの経験から権利化が難しいのではとも考えていた。そのため、安定材の形状の改良に加え、B各特許のリブ施工が難しい点に着目し、この点について施工簡易な技術を開発化しようと考え、試行錯誤の結果、最終的に本件特許1明細書等の図12の形が創作された。同図12のベタ基礎と安定材の係合は、このような経過を経て原告が一人で発案したものである。
 出願当初、Dは安定材の断面形状に注目するばかりで、原告のこのアイデアをあまり重視しなかった。そのため原告は当時の社長でもあるDに遠慮し、説明の最後に図12を差し入れる形となった。本件特許1の登録査定において、この原告の発案したベタ基礎と安定材との係合が特に貢献したことは、その審査経過より明らかである。
ウ 原告及びDの立場等
 本件各発明の発明者としては、原告及びDが記載されているが、本件各発明の当時、Dは、技術に詳しいわけではなく、被告会社の代表取締役社長だったのであり、審査費用等の事務手続以外は本件特許1の審査について具体的な関与はしていなかった。にもかかわらず、代表者がDであったため、当時は全ての特許出願についてDを発明者として記載していたのである。
 原告は、本件発明1に関し、当時の代表取締役であったDに進捗状況について報告はしていたものの、Dは発明に関する技術的、具体的な指示をしていたわけではなかった。原告に指示をするとしても、それは経営者として、権利化への手続的段取りの指示を与えるのみであった。したがって、本件発明1に関するDの貢献度は極めて低いものである。
 他方、当時MS事業部長であった原告は、被告から本件特許1の出願に関わる一切の手続を任されており、本件特許1取得のために社外弁理士と本件発明1に関する具体的内容を協議した唯一の従業員である。原告は、社外弁理士に対し、明細書の作成に必要な情報を伝え、それをもとに社外弁理士が明細書案を起案した。また、明細書に記載の図面は、原告が起案した図面を社外弁理士が清書したものである。
 また、原告は、専門の建築学科を卒業して以来、建築の技術畑を歩んできたのであり、2級建築士、一級地盤検査技師認定技術者、住宅地盤主任技士(調査部門、設計施工部門)の各種資格を有している。他方、Dは、技術畑を歩んできており、2級建築士の資格を有するものの、その他の地盤に関する資格は持っていない。このように、地盤に関する技術及び知識は原告のほうがDよりも持ち合わせていた。
 加えて、原告は、Dが被告から離れた後も、被告の新社長の許可を得て、基礎に関する2件の特許申請を単独発明者として出願している。さらには、原告は、被告を退職後、その技術力を評価されて地盤調査・改良の専門業者に在籍している。ここでも原告は、これまでに地盤改良関連技術に関する12件の特許出願をし、そのうち3件につき早期審査により特許査定を得ている。これらの事実から、原告が、地盤改良技術に関して、D以上の技術及び知識を持ち合わせていることは明らかである。
エ 小括
 以上のことからすれば、共同発明者間における原告の寄与割合は90%を下回ることはない。

〔被告の主張〕
(1) 使用者の貢献度
 本件各特許の出願は、平成14年当時、それまでのB各特許を脱却して新たな特許出願を余儀なくされた被告が、会社の営業方針として実行したものであり、当時の代表者であったDが主導したものであった。
 被告は平成5年からMS基礎の販売を開始していたところ、本件発明1は、従前被告が実施してきたMS基礎をベースとしたものであり、飽くまでそれまでの被告のMS基礎技術を前提とするものであるから、発明者の貢献度は極めて小さい。
 特に、B各特許(断面形状が矩形型の安定材)を実際の施工状況(断面形状が逆台形型の安定材)に変更する点は、地面を断面形状が矩形型に掘削することが現実には困難であり断面形状が逆台形型になってしまうという現場の実情を鑑みたものにすぎず、寄与度を考えるにつき特段重視すべき点ではない。
 また、原告は、本件各特許の出願において、社外弁理士との窓口にはなっていたが、本件特許1の出願に係る明細書案は、原告が起案したものでもないし、中間手続における補正案や意見書案等も原告が起案したものではない。
 本件特許1に関する出願明細書は社外弁理士が作成したものであり、ここに原告からの具体的な指示等があったことを裏付ける証拠は何ら提出されていない。
 よって、原告の主張立証をもってしても、本件特許1に関する発明者の貢献度が非常に高いとはいえないことは明らかであり、被告の貢献度が90%を下回ることはない。
(2) 共同発明者間の寄与割合
ア 安定材の形状につき
 本件発明1については、Dは、それまでの石材加工場経験における、石材の割れ目にくさびを打ち込み、打撃方向の力を左右方向に分散させて石を割るという技術を前提に、安定材の断面形状を逆台形型にすることで上方から安定材にかかる鉛直方向の力を左右に分散させるという着想に至り、この着想を前提に、本件特許1を出願したのである。また、本件特許1に対する特許庁からの拒絶理由や拒絶査定に対しても、Dが社外弁理士と協議をし、補正の指示等を行った。
 このようにDが本件特許1出願後の中間手続においても技術的対応をしていることからも、本件特許1の安定材に関する着想がDによるものであることは明らかである。
イ 基礎の立ち上がり部の下部の突出と安定材の係合につき
 原告は、本件特許1の要部である基礎の立ち上がり部の下部と安定材との係合について、試行錯誤の結果この形態に至ったと述べるものの、その試行錯誤の内容、本件特許1明細書等の図12の形状の開発に至る着想の経緯及び理論付け等については、何ら技術的な理由等は述べていないし、これを裏付ける客観的資料は何ら存在しない。そうすると、当該係合の形態についても、社外弁理士からの示唆等があったと考えるのが自然であって、この係合形態について、原告が主導的に関与したと評価することはできない。
 これに対してDは、基礎の立ち上がり部の下部と安定材との係合についても、社外弁理士に対して本件特許1明細書等の段落【0021】の記載について技術的な説明を行い、上記補正を指示して権利化させた。
 原告が本件特許1の中間処理について社外弁理士との窓口になっていたことは事実であるが、本件発明1については、乙1ないし3文献を引用例として拒絶査定がされた後、「基礎の立ち上がり部の下部をベタ基礎の下面より下方に突出させ、この突出した基礎の立ち上がり部の下部の側面と安定材の上部の側面が係合する」と限定する補正を加えて、登録に至ったものであるから、登録された本件特許1の本質的部分である同補正に関与した者が、本件特許1に関する寄与度が最も大きいといわざるを得ない。
 原告が提出する平成17年4月19日付け「審判事件に係る補正書・理由補充書の送付」と題する書面は、この補正等に関するレターヘッドであるが、同書面がD宛てになっていることからは、同補正等には、原告ではなくDが深く関与していたものと推認される。
ウ 原告とDの立場等につき
 Dは、昭和46年に小堀住建に入社した後、建設部に在籍して現場を担当してきた技術者であり、被告がMS基礎の販売を開始した平成5年に、エス・バイ・エルから被告に取締役として派遣され、被告のMS基礎を培ってきた担当者であった。本件発明1に関しても、当時の代表者であったDが会社の営業方針として実行し、これを主導したものである。
 上記のように、本件各特許の出願手続及び中間手続において、技術面での対応は全てDが行っており、原告は社外弁理士との事務連絡等の事務処理面を担当していたにすぎなかった。にもかかわらず、原告を権利化に参加させ、共同発明者として記載したのは、Dが、本件特許1の出願に際して、長年一緒に働いてきた原告に報いるためであった。
 このように、原告は単なる事務連絡を主に担当していたにすぎないから、その貢献度は、本件各特許のいずれにおいても、ほとんど存在しない。
エ 小括
 したがって、共同発明者間の貢献度は、Dの貢献度が90%を下回ることはなく、他方、原告の貢献度は10%にも満たない。

4 争点(1)エ(本件発明1について-相当対価の額)について
〔原告の主張〕
(1) 前記1及び2〔原告の主張〕によれば、本件発明1に係る被告の独占の利益の額は、第3期と第4期を通じて内販分と外販分を合計し、16億1288万0226円となる。
 これに、前記3〔原告の主張〕の使用者の貢献度及び共同発明者間の寄与割合を考慮すると、本件発明1について原告が受けるべき相当対価の額は、以下のとおり、2億9031万8441円を下らない。
被告の独占の利益16億1288万0226円×(1-被告貢献度80%)×共同発明者間での原告の寄与割合90%=2億9031万8441円
(2) なお、前記2〔原告の主張〕(4)のとおり、仮に第4期について、被告が本件MS基礎からMS工法への設計変更をしたことが合理的と認められ、現実に本件MS基礎が実施されている場合にのみ被告の独占の利益が認められるとした場合には、被告の独占の利益は、内販分の第3期(1億3689万4478円)と外販分の第3期(4億1457万0973円)及び第4期の半額(3億9607万2375円)を合計して、9億4753万7826円となるから、この場合の原告が受けるべき相当対価の額は、以下のとおり、1億7055万6809円となる。
被告の独占の利益9億4753万7826円×(1-被告貢献度80%)×共同発明者間での原告の寄与割合90%=1億7055万6809円
(3) いずれにせよ、原告は、上記原告が受けるべき相当対価の額の一部である2700万円の支払を求める。

〔被告の主張〕
 否認ないし争う。

5 争点(2)ア(本件発明2について-内販における独占の利益)について
〔原告の主張〕
(1) 本件発明2の実施
ア 被告は、平成17年4月から平成20年9月までの間、内販で自ら施工したベタ基礎工事において、本件特許2の請求項1の発明を実施していた。
 このことは、被告のMS基礎のカタログに、「特許 MS基礎(ベタ基礎の配筋方法)」と記載されており、被告自身が、MS基礎で本件特許2を用いていることを標榜していたことからも明らかである。
イ これに対して被告は、本件発明2の実施のためには4種類のメッシュ鉄筋が必要であるが、被告は1ないし3種類のメッシュ鉄筋しか用いていなかったから本件発明2を実施していないと主張する。
 確かに、平成5年以降、被告は、縦筋と横筋とがそれぞれ一方方向に延伸した1種類のメッシュ鉄筋のみを現場に用意していたが、現場では、延伸部分を切断して、本件発明2に使用される4種類の鉄筋を作って、それを配置していたのである。
 そもそも、被告の提供するメッシュ鉄筋は、メッシュ鉄筋を切断して、本件発明2のように最低でも4種類のメッシュ鉄筋を使用しなければ、鉄筋が外周に回るように配筋できず、組立てが不可能である。このことは、被告がメッシュ鉄筋を用い始めた平成5年当初から変わっていない。
 そして、本件特許2明細書等の段落【0013】には、「・・・応用のきく第2のメッシュ鉄筋15のみを用意することとし、他の種類のものを使用するときは第2のメッシュ鉄筋15の縦筋又は/及び横筋の突出した部分を必要に応じてカットし、第2のメッシュ鉄筋15から第1、3、4のメッシュ鉄筋11、21、25を現場で作って用いるように」することが記載されているから、上記のような各メッシュ鉄筋の準備方法も本件発明2の実施形態の一つとされているのである。
ウ また、被告は、本件特許2について、請求項1記載の第1ないし第4のメッシュ鉄筋(以下、それぞれ「第1メッシュ鉄筋」などという。)を準備した上、第1メッシュ鉄筋から第4メッシュ鉄筋までを順次配置するという経時的要素を必要とすると主張する。
 しかし、本件特許2の請求項1の記載からは、構成要件ⅡeないしⅡhにおいて、各構成要件の中での経時的要素は存在するが、これらの構成要件の間では「一方」、「かつ」といった接続詞が用いられているにすぎず、他方、本件特許2明細書等の段落【0021】には、「・・・メッシュ鉄筋の配置はいろいろな順で行うことが可能であり、配置順は任意である。」との記載があるから、各構成要件間におけるメッシュ鉄筋の配置に経時的要素が不要であると解釈できる。
 仮に本件特許2が経時的要素を含んでいるとしても、被告は、まず第1メッシュ鉄筋を配列するという順序でメッシュ鉄筋を用いていたから、本件特許2を実施していたことになる。
 この点、第2期のMS基礎施工要領書には、第2メッシュ鉄筋から敷き始めるかのような図示があるが、その一方で、同じページには「(カットメッシュより敷き重ね始めるとタテ・ヨコ鉄筋の上下がうまく噛合います。)」とも記載されており、カットメッシュとは第2メッシュ鉄筋以外のものであるから、事実上はこの当時から、本件発明2のとおり、第1メッシュ鉄筋から敷き重ね始めることが推奨されていたのである。また、「MS基礎技術資料(2008年版)」においても、第1メッシュ鉄筋の横に第2メッシュ鉄筋を配置する図が記載されている。さらに、「メッシュ配筋割付図」のうち、矢印と記号の記載によって敷き始めのメッシュ鉄筋の種類が判明する図面では、敷き始めに第1のメッシュ鉄筋(3A)が指定されていることが分かる。社外弁理士も、本件特許2の補正について「今回の補正で新請求項1は実施の形態に近い形にまで限定されました」と述べている。
エ 以上のことからも、被告が、従来、原告作成に係る「被告方法2説明書」と題する書面に示したとおりの手順、すなわち、本件特許2の請求項1に記載の手順でメッシュ鉄筋を配筋していたことが明らかである。
 なお、Dも証人尋問において、上記「被告方法2説明書」と題する書面に記載された組み方が一番理に合った組み方であることを認めている。本件発明2とは異なる方法を用いると、作業効率が悪く、実際の施工として被告のメッシュ鉄筋を用いた場合に本件発明2以外の方法で施工することはおよそ考えられないから、被告が本件発明2に開示された配筋方法のとおりに配筋していたことは明らかである。
(2) 売上高
 被告が本件発明2を実施していた平成17年4月から平成20年9月までの間の被告の内販の売上高は、被告の販売実績によれば、49億2818万1000円である。
(3) 超過売上高の割合
 本件特許1と同様、本件特許2も限定的ライセンスポリシーに基づいて他者に実施許諾されている。また、本件発明2によって、継ぎ手部として確実な縦筋と横筋の配置を可能とすることができること、打設コンクリートの厚さを最小限に止めることができること、コンクリート打設時にジャンカ等の充填不良が起きにくく、品質も向上すること、平面的な見栄えも良くなること(本件特許2明細書等・段落【0023】)などの本件発明2の技術的優位性に鑑みれば、その超過売上高の割合は75%を下らない。
(4) 仮想実施料率
 MS基礎には本件各特許が用いられているところ、本件特許1はB各特許を標榜して営業していた頃から安定材付きベタ基礎工法がMS基礎の技術の核心として位置付けられてきたことからすれば、本件特許1は、本件特許2に比べて寄与度が高く、本件特許1の寄与度が9割と考えられる。ここで、前記1〔原告の主張〕(4)のとおり、本件特許1の仮想実施料率を2.5%としたとき、上記寄与度を本件特許2の仮想実施料率に反映させると、0.27%となり、小数点以下第二位を四捨五入して0.3%となる。これによれば、本件特許1と本件特許2を合わせた仮想実施料率は2.8%程度となるところ、これは、「実施料率(第5版)」における建設技術分野での実施料率の最頻値、中央値が3%であることに照らしても、合理的な値であるといえる。
 よって、本件特許2の仮想実施料率は0.3%が相当である。
(5) 内販における独占の利益の額
 上記(2)ないし(4)によれば、内販における被告の本件特許2に基づく独占の利益の額は、以下のとおり、1108万8407円となる。
売上高49億2818万1000円×超過売上高の割合75%×仮想実施料率0.3%=1108万8407円

〔被告の主張〕
(1) 被告が本件発明2を実施していないこと
ア 本件特許2は、第1ないし第4の4種類のメッシュ鉄筋を準備し、まず、第1メッシュ鉄筋を配列し、第1メッシュ鉄筋の横に第2メッシュ鉄筋を配列し、第1メッシュ鉄筋の終端に第3メッシュ鉄筋を配列し、最後に第4メッシュ鉄筋を配列するという配列方法の特許である。
 この点、原告は、本件特許2明細書等の段落【0021】の「メッシュ鉄筋の配置はいろいろな順で行うことが可能であり、配置順は任意である」との記載から、メッシュ鉄筋の配置順は任意と主張するが、本件特許2の出願時における請求項1の発明は、複数種類のメッシュ鉄筋を準備した上で、鉄筋の横筋・縦筋のいずれかが突出したメッシュ鉄筋を順次、突出部分を重ねながら縦横方向に隙間なく並べるという発明であったものの、拒絶理由通知を受けた際に減縮補正されて、4種類のメッシュ鉄筋の使用及びこれらの配置順序の特定という限定の結果、現在の請求項1に至ったものである。したがって、段落【0021】の上記記載は、より範囲の広かった出願時の請求項1をサポートするためのものであり、現在の本件発明2の技術的範囲を確定するものではない。
イ 一方、被告は自らのベタ基礎施工に際してメッシュ鉄筋を利用し、また、分譲住宅ビルダーへのベタ基礎施工の材料としてメッシュ鉄筋を販売していたが、そのメッシュ鉄筋は、当初は、原則として1種類(本件特許2の第2メッシュ鉄筋に相当するもの)のみであった。
 その後、現場では、ベタ基礎の形状に合わせて、縦幅や横幅を変えた複数のメッシュ鉄筋を準備する必要が生じたために、さらに異なるメッシュ鉄筋の提供も検討されるようになり、平成18年頃から、内販用のメッシュ鉄筋、外販において材料提供するメッシュ鉄筋のいずれにおいても、複数のメッシュ鉄筋を準備するようになったが、ここでは、縦方向及び横方向の一方向側にそれぞれ縦筋と横筋が延伸したもの(本件特許2の第2メッシュ鉄筋に相当)、縦筋のみ延伸したもの(本件特許2の第1メッシュ鉄筋に相当)、横筋のみ延伸したもの(本件特許2の第4メッシュ鉄筋に相当)の3種類を基本とし、縦幅や横幅のバリエーションを変えたものが使用されていた。
 このように、被告が用いていたメッシュ鉄筋は、1種類を原則とし、最大でも3種類までであり、被告が本件発明2のように4種類のメッシュ鉄筋を利用したことはない。また、原則として1種類のメッシュ鉄筋のみを前提としていたことから、メッシュ鉄筋の配列順序についても特定の指示をしたことはなかった。
ウ 原告は、被告のカタログ等において、本件特許2の発明の名称が記載されていたことを指摘して、被告が本件特許2を実施していたと主張する。
 しかし、そのような被告におけるカタログ記載は、本件特許2の出願当初の請求項1の内容(メッシュ鉄筋の縦筋又は横筋のいずれか一方が他方より突出しており、突出部が重なり部に配置されて一部重なり合うように配置するというもの)や、本件特許2明細書等の段落【0022】の「メッシュ配筋として示した4種類の構成も、その縦筋及び横筋の個数や目の間隔、突出長さなどは、必ずしも限定されるものではなく・・・適宜変更することが可能である。」等の記載を前提に、本件特許2の内容を誤解していたことに起因するのであって、実際には被告が本件発明2を実施していたことはなかった。
 また、原告は、最低でも4種類のメッシュ鉄筋を使用しなければ、配筋ができないと主張するが、生材と呼ばれるメッシュ化されていない鉄筋を組み合わせれば配筋は可能であるし、現場で必要に応じてメッシュ鉄筋の一部を切断加工することも可能であるから、ベタ基礎配筋に4種類のメッシュ鉄筋が必須となることはない。
 さらに、原告は、被告が4種類のメッシュ鉄筋を現場に用意していなかったことを前提としつつ、現場ではこれを切断して、本件発明2に使用される4種類の鉄筋を作っていたとも主張するが、被告は、平成17年以降においても、「MS基礎技術資料(2008年版)」等の中で2種類のメッシュ鉄筋による施工を指示していたのであり、現場で4種類の鉄筋を作って、本件発明2のように配置施工するような指示は行っていない。さらに、当時の指示書においても、配置を始める最初のメッシュ鉄筋は第2メッシュ鉄筋であったから、この時点で、既に当該工法は、本件発明2の構成要件を充足していない。
エ なお、被告は、原料単価の高騰に伴って、平成20年9月26日以降は、メッシュ鉄筋の利用を中止して、鋼材単体を組み立てて配筋をすることとした。
(2) 超過売上高の割合
 本件発明2の特徴は、4種類の異なるメッシュ鉄筋を準備し、これを所定の順番で順次配置するものであるが、ベタ基礎の施工においてメッシュ鉄筋を使用すること及びその際に複数の種類のメッシュ鉄筋を用いることなどは周知技術である。4種類の異なるメッシュ鉄筋を準備しこれらを順次配置して組立てを行うという本件発明2の施工は、実際の作業においては煩雑であり、かつ、コスト高になってしまうというものであった。そして、メッシュ鉄筋のアイテム数を増加させることなく、縦横方向にそれぞれ鉄筋が延伸する第2メッシュ鉄筋に相当するもののみを用いても、これらの組合せで期待する効果を十分に得ることができたものである。現に、被告自身も第2メッシュ鉄筋に相当するもののみを基本的に用いており、さらに、平成20年9月にはコスト面から、メッシュ鉄筋の使用自体を終了している。
 このように、本件発明2は、技術的な優位性の高い、突出した特許技術ではなく、他の事業者のベタ基礎工事市場への参入を阻止できるような効果を有するものではない。
 さらに、上記のとおり、被告自身においても4種類のメッシュ鉄筋を準備したことはなく、かつ、最終的にはコスト面から、メッシュ鉄筋を利用すること自体を中止してしまったという事実は、本件特許2が第三者に対して排他的効果を有するものではなかったことを示している。
 これらの事情を考慮すれば、被告が本件特許2に関する排他権を有していることによって、通常実施権を超えるような超過売上げを得たという関係がないことは明らかであるから、仮に被告が本件発明2を実施していたことがあるとしても、それによる超過売上高は存在しない。
(3) 仮想実施料率
 本件発明2は権利化されたものの、その構成要件は4種類ものメッシュ鉄筋を準備し、これを所定の順序で配置していくという方法の特許であった。
 そして、上記のとおり、被告自身も本件発明2を実施しておらず、また、本件特許2によって被告の市場占有率が増加したなどという事情もない。
 よって、本件特許2の仮想実施料率は、最大限見積もっても1%を超えることはない。

6 争点(2)イ(本件発明2について-外販における独占の利益)について
〔原告の主張〕
(1) 平成17年4月から平成20年9月まで
 外販においては、被告は、分譲住宅ビルダーから注文を受けて、MS基礎のうち安定材部分のみを施工しており、ベタ基礎部分を施工することはなかったから、被告自身が本件発明2を実施したことはないが、被告は、住宅分譲ビルダーにMS基礎のベタ基礎を施工させており、この施工に関する契約において、本件各特許を実施許諾し、その実施料を収受していたのである。
 そして、被告は、その際、分譲住宅ビルダー等に対して、メッシュ鉄筋を材料として供給していたところ、被告が分譲住宅ビルダー等に対して供給していたメッシュ鉄筋は1種類のみであったものの、現場ではその延伸部分を切断した4種類のメッシュ鉄筋が使用され、本件発明2が実施されていた。
 前記2〔原告の主張〕(2)アのとおり、被告が住宅分譲ビルダーから収受する本件各特許の実施料は1棟当たり5万円であり、MS基礎に対する本件各特許の寄与割合がそれぞれ90%程度と10%程度であることからすれば、本件特許2の実施料は、1棟当たり5000円となる。
 また、平成17年4月から平成20年9月までのMS基礎の販売棟数は、被告の販売実績によれば、3857棟である。
 したがって、この期間における被告の独占の利益は、以下のとおり、1928万5000円となる。
3857棟×5000円=1928万5000円
(2) 平成20年9月から平成34年8月まで
 被告が、平成20年9月26日に本件特許2の実施に用いるためのメッシュ鉄筋の利用を中止したことは認めるが、その後も、エス・バイ・エルのグループ企業であるエス・バイ・エル・カバヤ株式会社(以下「エス・バイ・エル・カバヤ」という。)が施工する外販分については、メッシュ鉄筋を用いて本件発明2を実施させている。
 エス・バイ・エル・カバヤは、少なくとも年間200棟を販売しているから、平成20年9月から本件特許2の権利の終期である平成34年8月までの14年間の被告の独占の利益は、以下のとおり、1400万円を下らない。
200棟×14年×5000円=1400万円
(3) 外販における独占の利益の額
 前記(1)及び(2)によれば、外販における被告の本件特許2に基づく独占の利益の額は、3328万5000円となる。

〔被告の主張〕
 外販においては、被告は、安定材の施工のみを担当しており、ベタ基礎部分の配筋を含むベタ基礎工事は、分譲住宅ビルダーが自己の設計に基づいて行っていたから、被告が分譲住宅ビルダーに本件特許2に係る配筋方法を実施させていたことはない。
 また、平成20年9月26日以降、被告は、メッシュ鉄筋自体の利用を中止しており、エス・バイ・エル・カバヤ施工分について、本件発明2を実施させているという事実もない。
 よって、いずれにせよ、外販において被告が本件特許2に基づく独占の利益を得ているという事実はない。

7 争点(2)ウ(本件発明2について-使用者貢献度及び共同発明者間の寄与割合)について
〔原告の主張〕
 前記3〔原告の主張〕(1)及び(2)記載の事情と同様の事情が、本件発明2についても存するため、本件発明2についての使用者貢献度は80%を超えることはなく、また、共同発明者間における原告の寄与割合は90%を下らない。
 なお、本件発明2に係る配筋方法は、本件特許2の出願以前である平成5年当時、既に被告が内販で行っていた配筋方法であった。原告は、既存の市販溶接メッシュ鉄筋にあった問題点を洗い出し、試行錯誤を経て、メッシュ鉄筋を異径鉄筋で製作すること、メッシュ鉄筋を建築基準法上の定着継手とし、これにより接続方向を横と下方向に連続接続を可能にした上、接続方向に定着寸法分の鉄筋を突き出して、この部分に次の製品を乗せて接続し、縦横とも順次重ねて組み立てられるようにすることにより簡素化すること、縦横方向を直線(水平)で繋ぐことにして重なりを半分にすることによって、既存のメッシュ鉄筋の問題点を改善して、本件発明2の配筋方法を開発した。
 また、本件発明2は、原告が一人で社外弁理士を訪問した際に、ベタ基礎の配筋方法についての権利化の話が持ち上がり、これについても原告が対応することとなった結果、特許出願されたものである。

〔被告の主張〕
 本件特許1と同様に本件特許2についても、使用者の貢献度が90%を下回ることはない。また、共同発明者間の寄与割合についても、共同発明者であるDの寄与割合こそ90%を下回らない。
 原告は、平成5年頃から試行錯誤をして本件発明2を着想するに至り、本件特許2の出願前に既に実施していたと主張するが、仮にそれが事実であれば、権利化された本件特許2は特許性を有していないといわざるを得ない。むしろ、本件特許2が本件特許1とほぼ同時期(平成14年)に出願されていることに鑑みれば、本件特許2も、本件特許1と同様に、B各特許と決別して独自の特許を取得したいという被告の経営的観点から開発が指示検討されたものと考えるべきである。そうすると、原告が、出願についてはほとんど社外弁理士に委ねていたと述べていることから見ても、本件特許2は、専ら社外弁理士をはじめとした被告側の主導によって権利化されたものである。
 なお、本件特許2については、Dは、B各特許に代わる新たなMS基礎に関する特許技術を模索する中で、単に安定材に関する技術のみではなく、ベタ基礎の配筋についても新技術を構築し、安定材とベタ基礎の配筋を組み合わせることを検討し、その結果、複数のメッシュ鉄筋を準備し、これを組み合わせる技術として本件特許2の開発に至ったのである。また、本件特許2について拒絶理由が通知され、これに対する対応が必要となった際も、Dが、同拒絶理由通知で指摘されている引用例と本件発明2との相違について、社外弁理士に説明メモを送付している。
 このように、本件特許2が補正により特許化された際の技術的応答がDによって行われていたことが明らかであることからも、本件発明2に関する着想がDによるものであることが認められる。

8 争点(2)エ(本件発明2について-相当対価の額)について
〔原告の主張〕
 前記5及び6〔原告の主張〕によれば、本件発明2に係る被告の独占の利益の額は、第3期と第4期を通じて内販分と外販分を合計して、4437万3407円となる。
 これに、前記7〔原告の主張〕の使用者の貢献度及び共同発明者間の寄与割合を考慮すると、本件発明2について原告が受けるべき相当対価の額は、以下のとおり、798万7213円となる。
(内販に係る独占の利益1108万8407円+外販に係る独占の利益3328万5000円)×(1-被告貢献度80%)×共同発明者間での原告の寄与割合90%=798万7213円
 よって、原告は、上記原告が受けるべき相当対価の額の一部である300万円の支払を求める。

〔被告の主張}
 否認ないし争う。

9 争点(3)(遅延損害金の起算日)について
〔原告の主張〕
 平成14年7月頃には、被告には職務発明に関する勤務規則等の規程はなかったから、本件各発明の特許を受ける権利の承継に係る対価支払の履行期が規程によって定まることはない。
 この点、職務発明対価請求権は法定債権であるところ、特許法35条3項がこのような債権を法定したのは、使用者等と従業者等のそれぞれの利益を保護するとともに、両者間の利害を調整し、従業者等に帰属する対価を発明へのインセンティブとして、産業発達を図るためと考えられるが、従業者等の発明者は、在職中は、雇用関係等に及ぶ影響を慮って対価請求の権利主張が困難な立場にあるから、発明者の請求を待たなければ対価支払債務の履行期が到来しないとするのは、上記特許法35条3項の理念に反する。また、職務発明の譲渡契約は双務契約類似のものであるから、他の双務契約との均衡からも、遅くとも使用者等が特許を受ける権利について第三者対抗要件を取得した特許出願時には、対価支払の履行期が到来していると考えるべきである。
 よって、職務発明の相当対価請求権は、その法的性質及び政策的観点より、特許を受ける権利の承継時点において発生し、かつ、遅くとも特許出願時には遅滞に陥るものと考えるべきである。
 したがって、原告は、職務発明の対価について、本件特許1の出願日の翌日である平成14年7月31日からの遅延損害金の支払を求める。
 仮に原告の被告に対する職務発明の対価請求権が期限の定めのない債権であるとしても、原告は被告に対して、平成22年12月6日発送の内容証明郵便により職務発明対価の請求をし、同郵便は遅くとも同年12月10日に被告に到達したから、遅くとも同内容証明郵便の到達日の翌日である平成22年12月11日から遅延損害金が発生する。

〔被告の主張}
 本件各特許発明時に、被告においては、職務発明に関する特許を受ける権利の承継やその対価支払に関する規程は存在していなかったから、相当対価の支払に関する期限の定めもなかった。したがって、仮に、原告に職務発明対価支払請求権が認められるとしても、民法の原則に戻り、被告が履行遅滞となるのは、原告が被告に対して職務発明対価請求をした時である(民法412条3項)。
 原告が被告に対し、平成22年12月6日付け「お知らせ」と称する書面を送付し、職務発明に対する補償として6億6196万円を支払うように求めたことは認める。なお、同書面が被告に配達されたのは、平成22年12月7日である。

第4 当裁判所の判断
1 争点(1)ア(本件発明1について-内販における独占の利益)について
(1) 使用者等は、職務発明について特許を受ける権利等を承継しない場合でも、当該特許権について無償の通常実施権を取得すること(法35条1項)からすれば、同条4項に規定する「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」とは、使用者等が当該発明を実施することによって得られる利益の全体をいうものではなく、使用者等が被用者から特許を受ける権利を承継し、当該特許発明を排他的かつ独占的に実施し得る地位を得、その結果、実施許諾を得ていない競業他社に対する禁止権を行使し得ることによって得られる利益の額、いわゆる「独占の利益」の額をいうものと解される。
 そして、職務発明に係る特許発明の実施を許諾した場合の実施料収入は、当該特許発明の排他権の結果得られた利益と評価し得るから、そのような実施料収入は、原則として、上記「独占の利益」に該当するというべきである。
 また、特許権者が他社に実施許諾をせずに、職務発明の対象となる特許発明を自ら実施している場合における「独占の利益」は、他社に対して職務発明の実施を禁止できることにより、他社に実施許諾していた場合に予想される売上高と比較して、これを上回る売上高(超過売上高)を得たことに基づく利益(超過利益)をいうものと解される。
 ここで超過売上高とは、仮に第三者に実施許諾された事態を想定した場合に使用者が得たであろう仮想の売上高と現実に使用者が得た売上高とを比較して算出された差額に相当するものというべきであるが、具体的には、職務発明対象特許の価値、使用者等が採用しているライセンスポリシー、ライセンス契約の有無、市場占有率、市場における代替技術の存在等の諸般の事情を考慮して定められる独占的地位に起因する一定の割合(超過売上げの割合)を乗じて算出すべきである。
 そして、超過利益は、上記方法により算出された超過売上高に、仮想実施料率を乗じて算出するのが相当である。
 以上を前提として、以下、「独占の利益」の有無及びその額を検討する。
(2) 第3期(内販)における売上高
ア 本件発明1の実施の開始時期
 原告は、被告の内販における本件発明1の実施期間が平成17年10月18日から平成23年6月30日までであると主張するのに対し、被告は、平成18年7月26日から平成23年6月28日までであると主張する。
 そこで、まず、本件発明1の実施の開始時期について検討するに、証拠及び弁論の全趣旨によれば、被告が施工したMS基礎図面に関し、平成15年1月6日時点において既に安定材の断面形状が逆台形型になっているものが存在し、遅くとも平成16年8月31日以降は、全ての図面において安定材が逆台形型に設計されていたこと、被告作成に係る「MS基礎図面形状の推移」と題する書面によれば、平成18年5月頃までは、安定材の断面形状が逆台形型になっているものでベタ基礎の立ち上がり部の下部が突出しているものは存在しないとされているが、安定材の断面形状が矩形型であるものについては既に平成14年の時点でベタ基礎の立ち上がり部の下部が突出しているものが存在していたこと、被告作成に係る平成17年10月18日付けMS基礎伏図の「A.断面」の図では、安定材の断面形状が逆台形型になっているものについて、ベタ基礎の立ち上がり部の下部が下方に突出しており、しかも、その突出部分の内側の側面が安定材の外側の側面と斜めに面接触していること、以上の事実が認められる。
 この点に関して被告は、本件特許1の請求項1の「係合」(構成要件Ⅰf)とは、「両者が引っかかるように合わさって止まっている状態」を意味するから、上記の図のようにベタ基礎の立ち上がり部の下部の突出部分と安定材が面接触しているようなものは「係合」に当たらないと主張する。
 しかし、「係合」とは、一般的に、二つのものが「係わり合うこと」を意味する用語と解されるところ、本件特許1の請求項1及びその明細書等の記載に照らしても、「係合」の意味を、被告がいうように「両者がひっかかるように合わさって止まっている状態」と限定的に解釈すべき根拠は見いだせない。また、ベタ基礎の立ち上がり部の下部の突出部分と安定材との係合の技術的意義は、「地震の横揺れに対して基礎の立ち上がり部の下部の側面が安定材の上部の側面によって支持されることとなるため、強度が高くなり、ベタ基礎全体としても安定したものになる」こと(本件特許1明細書等・段落【0021】)にあるところ、立ち上がり部の下部の突出部分と安定材が面接触しているような場合であっても同様の作用効果が得られると考えられることからすれば、そのような場合を「係合」に当たらないと解することはできない。
 そうすると、「係合」には、立ち上がり部の下部の突出部分と安定材が面接触しているような場合を含むというべきであるから、上記MS基礎伏図に示された構成は、「基礎の立ち上がり部の下部をベタ基礎の下面より下方に突出させ」(構成要件Ⅰe)、「この突出した基礎の立ち上がり部の下部の側面と安定材の上部の側面が係合するようにする」(構成要件Ⅰf)との本件特許1の請求項1の構成要件を充足するものと認めることができる。
 以上によれば、被告は、遅くとも平成17年10月18日には、MS基礎の施工において、本件発明1を実施していたことが認められる。
イ 本件発明1の実施の終了時期
 被告は、平成23年6月28日に新たなMS工法の図面を作成し、MS基礎から仕様の変更を開始したから、同日をもって本件発明1の実施を終了したと主張する。
 この点、証拠によれば、被告が作成した同日付けの「性能証明MS工法断面図及びMS基礎工法(杭併用)断面図」という図面が存在し、その図面に示された構成は、安定材の断面形状が矩形型であり、かつ基礎の立ち上がり部の下部がベタ基礎の下面より下方に突出した構造になっていないことが認められるから、安定材の断面形状が矩形型である点及び安定材とベタ基礎下部との係合がない点で、本件発明1の実施に該当しないといえるものの、上記日付は飽くまで図面の作成日にすぎないから、同日以降被告が現実にそのような仕様に施工を変更したことを示すものとまではいえない。他方、証拠によれば、被告は、内販において安定材付きベタ基礎を販売していたエス・バイ・エルに対して、平成23年7月1日以降の地盤調査実施分から従前のMS基礎に代えて新たな工法(MS工法)を施工する旨を通知していたことが認められる。そうすると、被告は、少なくとも同年6月30日まで本件発明1に係るMS基礎を施工していたと認めるのが相当である。
 以上によれば、被告が内販において本件発明1を実施していた期間は、平成17年10月18日から平成23年6月30日までと認めることができる。
ウ 売上高
 証拠によれば、被告が内販において本件発明1を実施していた期間(平成17年10月18日から平成23年6月30日まで)の被告の内販売上高は、以下の各期間の合計である72億4501万5433円と認められる。
①平成17年10月18日から平成18年3月31日まで(日割り)
 5億9978万円×165日/180日=5億4375万6593円
②平成18年4月1日から平成23年3月31日まで
 65億8075万4000円
③平成23年4月1日から同年6月30日まで(棟数割り)
 3億5442万6000円×68棟/200棟=1億2050万4840円
(3) 第4期(内販)における売上高
ア 原告は、被告が第4期の内販において本件発明1を実施していないことを認めながら、被告が同時期に本件発明1に係るMS基礎の施工を中止したのは、原告からの職務発明対価請求によって争訟が顕在化した後であり、被告がこれに対抗するためであったから合理的理由がなく、このように合理性のない被告の行為に起因するMS基礎の売上減少を相当対価の算定に考慮すべきではないとして、平成23年7月に被告がMS基礎の設計図面を変更した後の第4期についても、本件発明1が実施されたものと仮定して、職務発明の相当対価を算定すべきであると主張する。
 しかし、前記第2、2(5)オ及び(6)のとおり、被告がMS基礎について建築技術性能証明を取得するためのプロジェクトを立ち上げたのは、原告が被告に対して職務発明対価を請求した平成22年12月7日より2年以上前の平成20年10月であるから、建築技術性能証明の取得自体が、原告に対する職務発明対価の減額等を目的にされたものとは認められない。
 また、証拠及び弁論の全趣旨によれば、上記建築技術性能証明の取得のためには、ベタ基礎の立ち上がり部の下部と安定材の係合及び安定材の断面形状が逆台形型であることはいずれも意味をなさなかったこと、性能証明取得の過程では、当時エス・バイ・エルに在籍していた原告がプロジェクト長としてそのプロジェクトに参加していたこと、原告がプロジェクト長を務めていた平成21年2月28日の時点で既に安定材の断面形状を逆台形型ではなく矩形型として載荷試験をすることが決められており、しかも、この形状変更を提案したのは、被告ではなく、当該評価証明を行う団体である一般財団法人日本建築総合試験所のE氏であったこと、被告が建築技術性能証明を取得した工法においては、安定材構築による地盤の支持能力の向上が認められたこと、以上の事実が認められる。そうすると、上記安定材の断面形状の変更は、被告が恣意的に行ったものではなく、むしろ建築技術性能証明書を取得するための合理的な選択であったということができる。
 そして、第3期におけるMS基礎が、土木工学的に地盤の許容応力度が向上していることを客観的に証明できなかったのに対して、被告が建築技術性能証明を取得したMS工法においては、安定材構築による地盤の支持能力の向上を唱えることができたことからすれば、被告がその営業戦略上、建築技術性能証明を取得したMS工法を宣伝し、そこで、従来のMS基礎に係る工法を用いなかったとしても、そのことが特段不合理であるということはできない。
イ 上記のとおり、平成23年7月1日以降、被告が設計変更に基づいて、内販における本件発明1の実施を終了したことが不合理といえない以上、同日以降の被告の内販の売上高を被告の独占の利益に算入することは相当でない。
 したがって、原告の上記主張は採用することができない。
(4) 超過売上高の割合
ア 本件発明1の技術的意義
 本件特許1明細書等によれば、本件発明1は、安定材付きベタ基礎工法に係る発明であり、本件特許1の請求項1の構成を採ることにより、安定材とベタ基礎部分とで囲まれた土を剛体にしてベタ基礎の剛性を高めることができるだけでなく、上方から負荷がかかった場合でもその負荷を安定材の側面で受け止めて地盤への建物影響荷重を分散、軽減させてバランスと安定効果の向上を図ることができ、不同沈下に対してより強いものとなること(段落【0024】)、地震の横揺れに対して基礎の立ち上がり部の下部の側面が安定材の上部の側面によって支持されることとなるため、強度が高くなり、ベタ基礎全体としても安定したものとなること(段落【0021】)、安定材は残土の発生がなく、無廃土工法といえる上、安定材が小型掘削機にて簡単に現場構築でき、大型重機を必要としない等、施工、コスト面で他の工法と比較して優れており、また、通常の基礎工事機械で施工でき、搬入、騒音等の諸問題が解決できること(段落【0023】)及び軟弱層を地中壁としての安定材で囲むため、大地震時の液状化現象に対して有効な工法といえること(同上)が認められる。
 そして、証拠によれば、株式会社日本住宅保証検査機構(以下「訴外検査機構」という。)が、コロンブス基礎工法、SMD工法、RES-P工法などと並んで、MS基礎を地盤改良工法の一つとして取り扱っていたことや、被告が作成した基礎補強・地耐力判定シートにおいては、地耐力が20kN/㎡未満の場合でもMS基礎が採用される可能性が排除されていなかったことが認められ、それに加えて、上記のとおり、MS基礎がベタ基礎に加えて安定材を設けるものであって、ベタ基礎単体に比較して地盤を補強する一定の効果があることをその技術的意義としていることなどを考慮すれば、MS基礎は、客観的にその地耐力向上の効果が証明できないものの、ベタ基礎に付加することで一定の地盤補強効果を得ることを目的として採用される工法であったことが認められる。
 もっとも、乙1文献記載の先行技術には、土を掘削すると同時に土とソイルセメントを混合して土質を置換すること及び安定材とベタ基礎とで囲まれた土を剛体にすることによって、不同沈下を防止することが開示されており(乙1文献の段落【0011】及び【0017】)、また、乙2文献記載の先行技術には、安定材の断面形状を上方に向けて次第に大きくすることによって、圧入のために及ぼされる押圧力が傾きのある面を通じてその周辺地盤を押し広げるように作用し、その結果、柱状体を圧入する場合よりも、軟弱地盤が効果的に締め固められることが開示されている(乙2文献の段落【0025】)。そして、証拠によれば、本件特許1は、その出願後、乙1ないし3文献を引用例として拒絶査定がされ、これに対して、被告が、特許請求の範囲請求項1に、基礎の立ち上がり部の下部をベタ基礎の下面より下方に突出させて(構成要件Ie)、この突出した基礎の立ち上がり部の下部の側面と安定材の上部の側面が係合するようにする(構成要件Ⅰf)との構成を付加する補正を行った結果、特許査定がされたものであることが認められるから、乙1ないし乙3文献にも記載された技術内容については、本件発明1に固有のものではないということができる。
イ 代替技術
 上記アのとおり、MS基礎が、単なるベタ基礎にさらに一定の地盤補強効果を付与することを目的に付加的に用いられるものであったことからすれば、単なるベタ基礎やこれに代わる布基礎、基礎ぐいが、MS基礎の代替技術であったということはできない。
 しかし、証拠及び弁論の全趣旨によれば、軟弱地盤の補強の手段としては、MS基礎のほかにも、コロンブス工法、SMD工法、RES-P工法、スーパージオ工法、ジオクロスなど種々の補強工法が存在し、少なくともそれらの補強工法のうちコロンブス工法、スーパージオ工法及びジオクロスは、その施工に大型重機が不要であり、小規模現場でも使用できたことが認められ、これらはいずれもMS基礎の代替技術となり得る技術であったということができる。
 この点に関して原告は、上記小規模現場で使用可能であった代替技術の中でも、セメント改良系であるMS基礎がコストの点で最も優れていると主張するが、コストだけでなく、その地盤補強効果その他の技術的特徴を含めた技術全体の優劣については何ら具体的に主張立証されていないから、本件特許1に基づくMS基礎がこれらの代替技術に比べてコストの点で優れているとしても、それ以上に、MS基礎が他の代替技術と比較して格別に顕著な技術的優位性を持っていたとまでは認められない。
ウ ライセンスポリシー
 本件全証拠を精査しても、被告が、本件特許1を特定の企業にのみ実施許諾をする方針(限定的ライセンスポリシー)を採用していたと認めるに足りる証拠はなく、かえって、前記第2、2(5)イ及びウ記載のとおり、被告は、MS基礎について、内販では安定材付きベタ基礎全体を自社で施工してエス・バイ・エルに販売する一方で、外販においては、その安定材を自社で施工した上で、分譲住宅ビルダーにベタ基礎部分を施工させていたことからすれば、被告は、MS基礎の販売に当たっては、MS基礎の全体の実施を第三者に許諾していたことはないものの、工事全体を自社で実施することにこだわらずに、外販において、分譲住宅ビルダーにMS基礎のうちベタ基礎部分を施工させていたのであり、しかも、証拠によれば、外販の販売実績(販売棟数)は、内販の販売実績(販売棟数)を大きく上回っていたことが認められることからしても、被告は、MS基礎を第三者に実施させることについて必ずしも限定的な方針を採っていなかったものと認められる。
エ 市場占有率及びエス・バイ・エルとの関係
 証拠によれば、平成17年下期から平成23年上期までの間における、被告によるMS基礎の販売棟数(内販及び外販)の全国着工戸数に占める割合は、約0.14ないし約0.32%とごくわずかなものであったが、被告がエス・バイ・エルから受注した地盤補強工事の中では、MS基礎が約54ないし87%と高い割合を占めていたことが認められるところ、前記のとおり、MS基礎が、地盤補強効果を得るためにベタ基礎に付加して用いられるものであることからすれば、全国着工戸数に占めるMS基礎の割合が僅少であることをもって、地盤補強工法の市場における本件特許1の排他的効力がなかったということはできない。他方、第2、2(1)アのとおり、被告がエス・バイ・エルの子会社であることを考慮すれば、被告がエス・バイ・エルに対してMS基礎を販売できたのは、まず親会社であるエス・バイ・エルが戸建建物建築を受注したからであって、エス・バイ・エルに対するMS基礎の販売数が多いことや、その割合が高いことをもって、直ちに市場における本件特許1の排他的効力が強かったと認めることはできない。
オ その他の事情
 このほか、原告及び被告は、本件発明1に係るMS基礎とB各特許又はMS工法との優劣についても主張するが、B各特許はそもそも実施すらされていなかった技術であり、また、MS工法は、被告がMS基礎に代えて採用した技術であるから、それらが本件発明1の実施時期においてその代替技術となり得たわけではない。また、被告が、MS基礎を止めた後も販売実績が落ちていないと主張する点についても、MS基礎が設計変更後のMS工法との比較で劣っていないことを示唆するものであって、MS基礎の代替技術との優劣を特段示唆するものとはいえない。
カ 小括
 以上のような本件発明1の技術的意義、代替技術の有無とその技術内容、被告のライセンスポリシー及び市場占有率その他の事情を総合考慮すれば、被告が、本件発明1を自社実施して得ることができた売上げのうち、本件特許1に係る通常実施権の行使を超えて、その禁止権の行使によって被告が得ることができた超過売上高の割合は、30%と認めるのが相当である。
(5) 仮想実施料率
ア 原告は、本件特許1に先立つB各特許について、被告が内販1棟当たり4万円の実施料を支払っており、これが内販1棟当たりの平均売上高約160万円に対して、2.5%に当たることを根拠として、本件特許1についても、その仮想実施料率が2.5%を下らないと主張する。
 確かに、前記第2、2(4)イ及びウのとおり、被告とエス・バイ・エルは、平成10年9月1日にB各特許に係る実施許諾契約を締結し、エス・バイ・エルが被告にB各特許の再実施を許諾することの対価として、被告がエス・バイ・エルに対して1棟当たり4万円を支払うことが合意されたと認められるが、一方で、被告は、その直前の同年7月31日に、Bから無償の通常実施権を許諾されていたのであるから、本来であれば、被告が4万円の対価を払ってエス・バイ・エルからB各特許の再実施許諾を受ける必要はなかったはずであるにもかかわらず、エス・バイ・エルと被告との間で上記のような再実施許諾とこれに基づくエス・バイ・エルに対する対価の合意がされたのは、親会社であるエス・バイ・エルと子会社である被告との間に何らかの経営上又は営業上の事情が介在したためであると推認される。
 そうすると、被告とエス・バイ・エルとの間の上記実施許諾契約で合意された1棟当たり4万円との金額については、これがB各特許に関する純粋な実施料の趣旨であったと認めるのは相当ではない。
イ 他方、前記第2、2(4)イ及び同(5)ウ(イ)のとおり、Bと被告及びエス・バイ・エルとの間では、平成11年12月18日、被告及びエス・バイ・エルが、Bから受けた通常実施権を第三者に再実施させた場合、原則として1棟につき1万円をBに支払うことが合意されているところ、これは、当時、B各特許の実施品と考えられていたMS基礎の販路拡大を希望した被告が、BにB各特許の再実施についての承諾を求めたことにより、被告とBとの間で合意されたものであり、この許諾に基づいて被告が実際に第三者に再実施をしていたことが認められる。
 もっとも、弁論の全趣旨によれば、Bは被告の前の代表者であって、純然たる第三者ではなく、しかも、特にB特許2は当時被告社内で開発されていた技術をBが抜け駆け的に出願したものであったとの事情もうかがわれることなどに鑑みれば、上記1万円の額(内販1棟当たりの平均売上高を160万円とすると、その0.625%に相当)が直ちにB各特許についての適正な実施料額であったということもできない。
ウ これらの事情に加えて、証拠によれば、建設技術分野における実施料率(イニシャルなし。平成4年度ないし平成10年度の総件数累計)の最頻値及び中央値が3%であり、平均値が3.5%とされていることや、上記(4)アの本件発明1が有する技術的意義などを総合して考慮すれば、本件特許1に係る仮想実施料率は2%と認めるのが相当である。
(6) 内販における独占の利益の額
 前記(2)及び(3)によれば、独占の利益の額を算定するための基礎となる被告の内販売上高は、72億4501万5433円である。
 そして、これに前記(4)及び(5)の超過売上高の割合及び仮想実施料率を乗じると、以下のとおり、4347万0093円となる。
売上高72億4501万5433円×超過売上高の割合0.3×仮想実施料率0.02=4347万0093円

2 争点(1)イ(本件発明1について-外販における独占の利益)について
(1) 外販売上高が被告の独占の利益に算入されるか否かについて
ア 第3期の外販において、被告が分譲住宅ビルダーから注文を受けて、MS基礎のうち安定材の部分のみを施工し、その上に、分譲住宅ビルダーがベタ基礎部分を施工していたことは当事者間に争いがないところ、原告は、このような安定材付きベタ基礎の施工の態様について、被告が分譲住宅ビルダーと共同してMS基礎を施工していたといえるから、被告の分譲住宅ビルダーに対する安定材の売上げを自社実施による被告の利益とし、被告が分譲住宅ビルダーから受領した実施料を他社実施による被告の利益として、被告の独占の利益を計算すべきであると主張する。
イ 前記1(1)説示のとおり、法35条4項に規定する「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」とは、使用者等が被用者から特許を受ける権利を承継し、当該特許発明を排他的かつ独占的に実施し得る地位を得、その結果、実施許諾を得ていない競業他社に対する禁止権を行使し得ることによって得られる利益(独占の利益)の額をいうから、使用者が、自己の経済的な利益を最大化するために、自ら当該特許発明の全体を実施することなく、その一部のみを実施して、これを第三者に販売して利益を得、さらに、その余の部分の実施を第三者に許諾することによって第三者からその対価となる利益を得ることを選択したような場合についても、使用者が自己の実施分の販売により得た利益及び第三者に実施を許諾したことによって第三者から得た利益は、いずれも当該特許発明を排他的かつ独占的に実施し得る地位に基づいて使用者が受けた利益ということができるから、それらは使用者の独占の利益に含まれると解するのが相当である。
ウ 証拠及び弁論の全趣旨によれば、被告が分譲住宅ビルダーから注文を受けて、MS基礎のうち安定材の部分を施工し、これを分譲住宅ビルダーに販売していたこと、平成17年8月にMS基礎に係る工法が訴外検査機構から地盤改良工法として承認され、これにより外販におけるMS基礎の受注が増加したこと、訴外検査機構は、MS基礎に係る工法を特許工法として紹介しており、訴外検査機構の地盤保証用の基礎仕様計画書においても、地盤改良工事が必要と判定された場合の改良工事の選択肢としてMS基礎を挙げていたこと、被告も、MS基礎に関する複数のカタログにおいて、MS基礎が本件特許1に係る特許技術であることを宣伝し、MS基礎の販売活動を行っていたこと、これらのカタログには、MS基礎の構造に関する図が掲載されており、そこでは、安定材の断面形状を逆台形型とし、ベタ基礎の立ち上がり部分の下部をベタ基礎の下面より下方に突出させて、この突出部分と安定材とを係合させるという本件発明1の実施に当たる形態が具体的に明示されていたこと、被告がMS基礎を受注した際に作成していた見積書には、「MS工法の他社建物への使用を禁じます」と記載されていたこと、被告は、MS基礎の販売において、分譲住宅ビルダーから「地盤改良壁材工共」の名目で安定材の施工工事の代金の支払を受けるほかに「MS基礎工法設計料」との名目で9万円前後の支払を受けていたこと、平成17年下期から平成23年上期までの間の外販におけるMS基礎の平均販売価格が1棟当たり60万9000円であったこと、被告は、分譲住宅ビルダーから受注したMS基礎について、同基礎を用いた建物の所有者に対して、地盤の不同沈下に起因する損害についての保証を与えていたこと、以上の事実が認められる。
 このようなMS基礎の施工及び販売に関する被告と分譲住宅ビルダーとの関係に照らすと、分譲住宅ビルダーは、その住宅建設地において地盤補強を必要とする場合に、MS基礎が本件特許1に関する特許工法であること及びその工法の内容を把握した上で、その地盤補強の効果を期待し、MS基礎の有する地盤補強に関する特許技術を自社が販売する住宅用の基礎として利用する趣旨で、被告に対してMS基礎を発注しており、MS基礎の安定材部分を被告に施工させてその引渡しを受けた上で、自らベタ基礎部分を施工して、そのMS基礎を完成させていたと推認することができる。
 また、本件発明1に係るMS基礎においては、安定材は、その外側がベタ基礎立ち上がり部の下部に設けられた突出部分の内側と係合するように設けられるために、ベタ基礎の外周に沿った形で施工されることになるが、被告がベタ基礎の形状を把握した上でその基礎の外周に沿う形で安定材を施工すれば、仮にその後被告が分譲住宅ビルダーとベタ基礎の施工について具体的な協議をしたり、分譲住宅ビルダーに対してベタ基礎の設計図面を交付したりすることがなかったとしても、分譲住宅ビルダーが施工するベタ基礎は、その立ち上がり部の下部が安定材と係合する位置に施工されることになる。そして、上記のとおり、分譲住宅ビルダーは、MS基礎に関するカタログ等によりMS基礎におけるベタ基礎の立ち上がり部の下部が突出していることを把握できたこと、地盤補強の目的でMS基礎を発注し、被告に対して1棟当たり平均約60万9000円の代金を支払っていたこと、MS基礎であることを理由として被告による保証を得ることができたことのほか、証拠及び弁論の全趣旨によれば、立ち上がり部の下部が突出しているベタ基礎の形状が住宅金融公庫から融資を受ける際の標準仕様とされており、特殊な形状ではなかったと認められることも考慮すると、分譲住宅ビルダーが、MS基礎に係るベタ基礎の施工において、あえてベタ基礎立ち上がり部の下部の突出部分を設けなかったり、既に施工されている安定材と係合しないように突出部分を設けたりしていたとは考え難いところである。
 したがって、分譲住宅ビルダーが完成させるMS基礎においては、実際に本件発明1に係る構成が用いられていたものと推認される。
 そうすると、分譲住宅ビルダーが被告から安定材の引渡しを受け、その上にベタ基礎を施工して、本件発明1の構成を有する安定材付きベタ基礎を完成させる行為は、本件発明1の実施行為に当たると認めるのが相当であるから、被告がこれを承知した上で、分譲住宅ビルダーからMS基礎の発注を受け、その代金を受領していたことは、被告が分譲住宅ビルダーに対して、ベタ基礎部分を施工して本件発明1を実施することについての許諾を与えていたものと評価することができる。
エ よって、被告が外販において、分譲住宅ビルダーからMS基礎の受注を受け、その安定材部分を施工して分譲住宅ビルダーに販売することによって得た売上げについては、被告の自社実施に係る独占の利益の算定において考慮されるべきであり、また、被告がMS基礎のうちベタ基礎部分を分譲住宅ビルダーに施工させることを許諾したことの対価として受領した額については、第三者に対する実施許諾に係る実施料に相当する収入として被告の独占の利益に算入されるべきである。
オ なお、仮に分譲住宅ビルダーが、何らかの事情で、ベタ基礎の立ち上がり部の下部に突出部分を設けなかったり、その突出部分と安定材との係合を設けなかったりして、完成した安定材付きベタ基礎に本件発明1の構成の全てが含まれていないことがあったとしても、前記「独占の利益」の意義に鑑みれば被告が分譲住宅ビルダーに対して実施許諾を与えることによってその対価を得ていたのであれば、分譲住宅ビルダーが現実にこれを実施していたか否かにかかわらず、その対価の額は、被告が本件特許1に係る独占的地位に基づいて得た利益であると解することができる。
(2) 分譲住宅ビルダーからの実施料収入について
ア 実施料の収受
 上記(1)のとおり、被告がMS基礎のうちベタ基礎部分を分譲住宅ビルダーに施工させることで得た対価については、第三者に対する実施許諾に係る実施料収入として被告の独占の利益に算入されるべきであるが、被告は、MS基礎に関して、分譲住宅ビルダーから本件特許1に係る実施料を受領したことはないと主張する。
 しかし、証拠及び弁論の全趣旨によれば、被告は、平成13年頃から平成16年頃にかけて、複数の地盤改良業者との間でMS基礎の施工・販売に関する契約を締結し、そこで当時被告が通常実施権を有していたB各特許についての実施許諾をしていたこと、同契約に基づいて、被告は同業者らから「MS工法パテント使用料」及び「MS基礎施工図作成料」の名目でそれぞれ6万円及び1万5000円を受領し、あるいは、「工法設計料・パテント使用料及び手数料」の名目で10万円を受領していたこと、その後、被告は同業者らとの間で、上記契約の許諾対象となる特許をB各特許から本件各特許に変更する旨の合意をしたこと、本件各特許の特許登録以降、被告は、上記業者らからMS基礎補強工事を受注した際、「工法設計料及び手数料」の名目で10万円を受領していたことが、それぞれ認められる。これらの事実からすれば、被告は、B各特許だけでなく、本件特許1についても、上記業者らに対して実施を許諾していたことは明らかであり、また、その実施許諾の対価として、「パテント使用料」の名目は用いなくとも、「工法設計料」等の名目に含ませる形で、実質的に本件特許1の実施料に相当する金員を受領していたものと認めるのが相当である。そして、上記(1)ウのとおり、被告が、分譲住宅ビルダーに対してMS基礎のベタ基礎を施工させる際にも、分譲住宅ビルダーから「MS基礎工法設計料」との名目で9万円前後の金員を受領していたことに照らせば、これも、上記「工法設計料」と同様に、実質的には、分譲住宅ビルダーにMS基礎の施工を許諾することの対価を含むものであったと解することができる。
 なお、被告は、上記の実施許諾契約の対象特許の変更について、平成16年以降同実施許諾契約に基づく実施料の徴収が行われておらず、同契約は死文化していたにもかかわらず、平成21年6月に至って、被告社内で法務監査が行われた際に、当初の実施許諾契約の存在が明らかになり、その対象特許をB各特許から本件各特許に修正するよう指摘があったことから、当時の担当者が、従前の契約の実態を確認することなく、業者らとの間で確認書を交わして変更の手続をしたものにすぎないと主張する。
 しかし、仮に被告が主張するように平成16年以降実施許諾契約が死文化していたのが実態であったというのであれば、それから5年を経過した平成21年に至って、単に社内の法務監査で指摘を受けたからという理由だけで、被告の担当者がその実態に気づかないまま確認書を交わす等の変更手続を進め、また、契約の相手方も、それを何ら指摘することなくこれに応じたというのは、不自然というほかない。しかも、証拠によれば、被告が実施許諾契約が死文化したと主張する平成16年以降である平成17年2月4日においても、B各特許及び当時出願中であった本件各特許を対象とした実施許諾契約が締結されていたことが認められ、さらには、本件各特許が特許登録された後である平成17年12月13日には、本件各特許を対象とした実施許諾契約が締結されていたことも認められるのであるから、平成16年以降、業者との間の実施許諾契約が死文化していたとの被告の上記主張は採用することができない。仮に、被告が主張するように、平成21年6月の社内監査で従前の実施許諾契約の対象特許をB各特許から本件各特許に修正するよう指摘され、そのとおり修正が行われたことが事実であるとするならば、平成21年6月当時においても、被告が本件各特許を実施許諾しているとの認識を有していたことがうかがわれる。
イ 1棟当たりの実施料相当額
 上記アのとおり、被告が分譲住宅ビルダーから収受していた「MS基礎工法設計料」の中には、実質的に、被告が分譲住宅ビルダーに対して本件特許1を実施許諾したことの対価が含まれていたと解されるが、被告が安定材付きベタ基礎であるMS基礎を設計していたこと自体は事実であるから、上記「MS基礎工法設計料」の中には本来的に設計料に当たる部分が含まれているものと考えられるのであって、「MS基礎工法設計料」の全額が実質的に実施料に相当するものであったということはできない。
 この点に関して原告は、平成13年及び平成14年に作成された見積書の記載に基づいて、B各特許の実施許諾に関する「MS工法パテント使用料」の額が保険料を含めて6万円であり、うち1万円程度が保険料に相当するとして、B各特許より技術的に優れる本件各特許の実施料は1棟当たり5万円であると主張する。
 しかし、本件全証拠を精査しても、被告がB各特許の実施料及び保険料として収受していた6万円のうち、保険料相当額が1万円にすぎず、その余が実施料相当額であったことを認めるに足りる証拠はない。また、前記第2、2(5)ウ及びエのとおり、被告は、第2期の地盤改良業者に対する外販では、安定材及びベタ基礎を含む工程全体を業者に施工させていたのに対して、第3期の分譲住宅ビルダーに対する外販では、被告が安定材部分を施工した上で、ベタ基礎部分のみを第三者に施工させていたにすぎないことからすれば、前者の形態での実施料額と後者の形態での実施料額とが同一であるということはできない。また、前者はBが有するB各特許に係る再実施の許諾であるのに対して、後者は被告が有する本件各特許に係る実施許諾であるから、その点でも、これらを同様に扱うことができない。
 他方、前記1(5)のとおり、本件発明1に係る仮想実施料率は2%とするのが相当である。そして、証拠によれば、平成17年下期から平成23年上期までの間の、被告が安定材及びベタ基礎を施工して販売した場合(内販)の平均販売価格が1棟当たり163万8000円であり、被告が安定材のみを施工してベタ基礎を第三者に施工させた場合(外販)の平均販売価格が1棟当たり60万9000円であったと認められるところ、その差額である102万9000円に上記仮想実施料率2%を乗ずると2万0580円となる。そうすると、MS基礎のうちベタ基礎部分を第三者に施工させることで本件発明1を実施許諾した場合に被告が受けるべき実施料相当額は、1棟当たり2万円とするのが相当である。
ウ 第3期の実施料相当額
 前記1(2)のとおり、被告が本件発明1を実施していた期間は、平成17年10月18日から平成23年6月30日までであると認められるところ、この期間に被告が外販において販売したMS基礎は、証拠によれば、以下の各期間の合計である7422棟と認められる。
①平成17年10月18日から平成18年3月31日まで(日割り)
 342棟×165日/182日=310棟
②平成18年4月1日から平成23年3月31日まで
 6772棟
③平成23年4月1日から同年6月30日まで
 340棟
 この棟数に1棟当たりの実施料相当額2万円を乗ずると、被告が得た実施料相当額の収入は、1億4844万円となる。
エ 第4期の実施料相当額
(ア) 原告は、平成23年7月の被告によるMS基礎からMS工法への設計変更には合理的な理由がないから、その設計変更後である第4期についても、本件発明1の実施を前提として対価を算定すべきであると主張するが、かかる主張に理由がないことは、前記1(3)のとおりである。
(イ) 原告は、仮に上記主張が認められない場合でも、被告が第4期に外販において施工したMS工法の半数は、実際に本件発明1を実施するものであったから、それについて被告の独占の利益が認められると主張する。
 しかし、設計変更後のMS工法の図面においては、安定材造成用の溝の溝底面と壁が垂直になるように設計されていることは当事者間に争いがないところ、そのような設計にもかかわらず、実際の施工において、被告が「安定材造成用の溝を、溝底面より上方に向けて次第に横断面が大きくなるように掘削」(構成要件Ⅰb)していたことを認めるに足りる証拠はない。
 この点に関して原告は、軟弱地盤では溝の上部の両側の土が崩れ落ちて、結果的に安定材の溝が逆台形型になっていたと主張するところ、証拠によれば、第4期におけるMS基礎の施工状況に関する写真には、確かに、掘削した溝の上部の両側の土が若干崩れることによって、溝の最上部の幅がそれより下部の溝の幅よりもやや広くなっている場合があることが認められるが、そうであるからといって、そのような溝の形状が、本件特許1の構成要件Ⅰbにいう「溝底面より上方に向けて次第に横断面が大きくな」っているものということはできない。また、上記構成の技術的意義は、上方からの負荷を安定材の側面でも受け止めて地盤への建物影響荷重を分散、軽減させることを可能にすることにある(本件特許1明細書等の段落【0024】)ことからすれば、掘削された溝の上部に崩れがあるという程度では、本件発明1の有すべき作用効果が実現されていたということもできない。
 したがって、第4期の外販におけるMS工法について、本件発明1が実施されていたとの原告の上記主張は採用することができない。
(ウ) なお、被告が安定材を施工し、分譲住宅ビルダーがベタ基礎を施工するMS工法については、上記のとおり実際に本件発明1が実施されておらず、また、図面においてすら本件発明1の実施が前提とされていなかったのであるから、分譲住宅ビルダーがMS工法の施工に関して被告に支払う代金の中に、本件発明1に係るMS基礎についての実施許諾の対価が含まれていたと解する余地はない。
(エ) 以上によれば、第4期の被告の外販売上高の中に、本件発明1に基づいて被告が受けるべき実施料相当額が含まれていたとは認められない。
(3) 自社施工分について
ア 第3期の外販売上げ
 前記(1)及び(2)のとおり、被告は、外販において、MS基礎の安定材部分を施工して分譲住宅ビルダーに販売し、同時に、分譲住宅ビルダーが施工するベタ基礎部分について実施料相当の対価を得ていたことから、被告の外販売上げのうち、上記実施料相当額を控除した残額は、被告による自社実施に係る独占の利益の算定において考慮されるべきことになる。
 本件発明1の実施期間である平成17年10月18日から平成23年6月30日までの間の被告の外販における売上高は、証拠によれば、以下の各期間の合計である45億3406万2347円と認められる。
①平成17年10月18日から平成18年3月31日まで(日割り)
 2億3788万円×165日/182日=2億1566万0440円
②平成18年4月1日から平成23年3月31日まで
 41億2544万5000円
③平成23年4月1日から同年6月30日まで(棟数割り)
 4億3301万8000円×340棟/763棟=1億9295万6907円
 ここから、前記(2)ウの実施料相当額の収入である1億4844万円を控除すると、43億8562万2347円となるところ、これに、前記1(4)及び(5)の超過売上高の割合30%及び仮想実施料率2%を乗じて被告の独占の利益を計算すると、以下のとおり、2631万3734円となる。
 売上高43億8526万2347円×超過売上高の割合0.3×仮想実施料率0.02=2631万3734円
イ 第4期の外販売上げ
 原告は、第4期における外販の売上げについても被告の独占の利益の算定において考慮されるべきと主張するが、その主張に理由がないことは、前記(2)エ記載のとおりである。
(4) 外販における独占の利益の額
 前記(2)及び(3)によれば、被告の外販における売上げについて、被告が本件発明1に基づいて受けるべき独占の利益の額は、実施料相当額に係る1億4844万円及び自社施工分に係る2631万3734円を合計した1億7475万3734円となる。

3 争点(1)ウ(本件発明1について-使用者の貢献度及び共同発明者間の寄与割合)について
(1) 本件発明1に係る発明、出願の経緯及びその後の事情
 前記第2、2の争いのない事実等並びに証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。
ア 被告は、平成5年から、ベタ基礎工法にさらに安定材を設けた基礎補強工法を提案し、MS基礎の名称でこれを販売していた。当時被告が施工していたMS基礎は、地盤に断面形状矩形型の溝を格子状に設け、その溝内においてソイルセメント等で土壌を置換して安定材を形成し、その安定材を設けた地盤上にベタ基礎を設けるという工法であった。
 被告において平成3年まで代表取締役を務め、その後取締役を務めていたBは、平成10年にB各特許を取得した。このうちB特許2の特許請求の範囲請求項1は、「基礎構築部分の近くに地盤の強弱により幅及び深さを調整した安定材造成用の溝を掘削すると同時に、ソイルセメントまたはビニロン系その他の補強繊維を混入したソイルセメントと土とを混合した土質と置換し、土質置換部分をランマー等で転圧して土質強度と靱性をもたせた改良土質による安定材を造り、該安定材の上面に所定幅のリブ成形用の小溝を形成し、該小溝内にリブ用配筋を設けてベタ基礎配筋と定着したのち、前記小溝内とベタ基礎部分とにコンクリートを打設して安定材上面内の小溝によって成形されたリブとベタ基礎とを一体化することを特徴とする安定材付きベタ基礎工法」というものであり、この特許発明の作用効果は、「基礎部等に土質を改良した安定材を造り、安定材上面にリブ成形用の小溝を形成し、この小溝内に設けたリブ用配筋をベタ基礎配筋に定着したため、溝内に形成された鉄筋コンクリートはベタ基礎部分と一体性のある強固な安定材となる。すなわち、安定材とベタ基礎部分とで囲まれた土は剛体となる」こととされていた(段落【0017】)。
イ 被告は、平成10年にBからB各特許についての通常実施権の許諾を受け、その後、被告が施工するMS基礎をB各特許に係る特許工法であるとして営業活動を行い、内販においてはエス・バイ・エルにMS基礎を販売し、外販においては、他社からの注文を受けて、MS基礎の施工についての許諾を与えたり、自ら安定材部分を施工して他社にベタ基礎部分を施工させたりして、その売上げを伸ばしていった。
 しかし、被告は、B各特許の通常実施権を得た後も、上記の従来の工法を継続していたため、実際のMS基礎の施工では、B特許2の請求項1のうち、安定材の上面に小溝を形成し、そこに成形されるリブとベタ基礎とを一体化するという構成は実施されておらず、平成12年頃、被告は、自社のMS基礎の設計がB各特許と齟齬しており、実際には被告が特許工法を実施していないことを認識した。
 そこで、被告は、MS基礎が特許工法であることを宣伝するために新たな特許を取得する必要に迫られ、原告と当時代表取締役であったDがその開発に取り組んだ。そこでは、原告は、従前被告が宣伝していたB各特許から新特許への切り替えによって取引先に違和感を持たれることがないよう、新特許の内容をできるだけB各特許に類似した内容とすることを心掛けた。
ウ 被告は、平成14年7月30日、本件特許1を出願したが、その出願時の特許請求の範囲では、請求項1に「安定材造成用の溝を、溝底面より上方に向けて次第に横断面が大きくなるように掘削」し、その形状を逆台形型にすることが記載されており、請求項8に「基礎の立ち上がり部の下部をベタ基礎の下面より下方に突出させ、この突出した基礎の立ち上がり部の下部の側面と安定材の上部の側面が係合するように安定材を造る」ことが記載されていた。
 上記の安定材造成用の溝の形状を逆台形型にすることについては、従前被告が安定材造成用の溝を掘削していた際、軟弱地盤のためにその溝の上部が崩れてしまっていたことから、原告が、これに着想を得て、溝を逆台形型にして特許化することを提案して、本件発明1の構成とされたものであった。
 また、ベタ基礎の下部と安定材の上部との係合についても、原告が、B特許2では安定材の上面にリブを設けてベタ基礎と一体化することとされていたが、実際にはリブを形成することが困難であったことから、より簡易な方法で安定材とベタ基礎を一体化する方法を種々検討した結果、安定材を外側に寄せて、基礎の立ち上がり部の下部に設けた突出部分と係合させることを着想し、これを本件特許1の構成に取り入れたものであった。
エ 本件特許1の出願に対しては、特許庁から平成16年11月24日付けで拒絶理由通知が出され、ここでは、上記ウの請求項1の逆台形型の安定材については二つの引用例(乙2文献及び乙3文献)に基づいて容易に想到できるものであること、上記ウの請求項8の構成については、その技術的意義が不明であることが拒絶理由とされていた。
 これに対して被告は、当初の請求項1について、安定材を格子状とすることなどの限定を加える補正をするとともに、安定材の逆台形型の断面形状に関して、先行技術との相違点や技術的意義などに関する意見を提出したが、平成17年2月28日付けで拒絶査定がされた。被告は、同拒絶査定に対して、同年3月31日に審判を請求し、そこで、請求項1に「基礎の立ち上がり部の下部をベタ基礎の下面より下方に突出させ、この突出した基礎の立ち上がり部の下部の側面と安定材の上部の側面が係合するように」することなどの限定を加える補正をした上、そのような構成が先行技術に開示されていないことや、「地震の横揺れに対して基礎の立ち上がり部の下部の側面が安定材の上部の側によって支持されることとなるため、強度が高くなり、ベタ基礎全体としても安定したものとなる」との同構成の効果(本件特許1明細書等の段落【0021】)などを訴求した。
 その結果、同特許出願は、平成17年8月5日に特許登録された。
 上記の拒絶理由通知及び拒絶査定に対する対応の中で、Dは、社外弁理士であったF(以下「F弁理士」という。)との間で、安定材の断面形状を逆台形型にすることで、上方からの転圧応力が斜め面を通して周囲の土質に対して押し固め効果を有するとともに、建物荷重に対してくさびの原理で側面に大きな摩擦力を発生させて不同沈下を防止でき、また、ベタ基礎と安定材上部の接地面の面積を増大させて、横からの応力に対する安定度が強化されることなどの効果や利点等について検討した。
 一方、F弁理士は、拒絶理由通知を受けたこと及び拒絶査定を受けたことを原告宛てに通知し、また、審判における補正の内容及び審判請求の理由の補充の内容などについてD宛てに通知した。
オ 本件特許1の登録後、被告は、MS基礎が本件特許1に係る特許工法であることを宣伝し、その営業活動を行った。当時MS事業部長であった原告は、MS基礎の販売活動において営業戦略を担うなどして、その販売にも貢献した。
(2) 技術的思想の創作に関する当事者の主張について
ア 安定材造成用の溝の形状を逆台形型にすることについては、上記(1)ウのとおり、原告が、安定材造成用の溝の上部が軟弱地盤のために崩れてしまっていたことに着想を得て、これを特許化することを提案したものと認められる。
 これに対して被告は、この逆台形型の断面形状は、Dが、石材の割れ目にくさびを打ち込み、打撃方向の力を左右方向に分散させて石を割るという石材加工の技術を前提に、安定材の断面形状を逆台形型にすることで上方から安定材にかかる力を左右に分散させるという着想に至ったと主張し、Dの陳述書にもこれに沿う記載がある。
 しかし、Dは、その証人尋問においては、安定材の断面形状を逆台形型にした理由について、実際の施工が逆台形になってしまうために、これをそのまま特許化しようと考えたと証言していることに照らして、被告の上記主張は採用できない。
 なお、証人Dは、石材の現場にいた経験からくさびをもって石を割るという工法と合致した効果が出るのではないかと考えて発想したとの証言もしており、上記(1)エのとおり、補正手続の中で、DがF弁理士に対してくさびの原理について言及していたことも認められるが、証人Dが、初めに着想したのは、飽くまで安定材の断面形状を施工の現状どおりの逆台形型にすることであり、そのような形状にすることの効果について考えた時に、くさびの原理を思いついたと証言していることからすると、くさびの原理自体は、形状を逆台形型にすることが着想された後に付された、後付けの理屈であったといえ、そのような理屈は、その後の補正や特許登録の過程で一定の寄与をしたことがあり得るとしても、それ自体を本件発明1の技術的思想の創作と評価することはできない。
 また、証人Dは、実際の施工状況から逆台形型にすることの着想をしたのがD自身であるとも証言するが、その証言内容はD自身の陳述書の記載と齟齬するものといわざるを得ないものであって、採用することはできない。
イ ベタ基礎の立ち上がり部の下部の突出と安定材の係合については、上記(1)ウのとおり、原告が、B特許2のリブによる安定材とベタ基礎の一体化方法に代わる簡易な方法を検討したことを通じて着想したものであると認められるが、これに対して、被告は、原告がこの形態を着想したとの客観的資料がない以上、この形態は社外弁理士からの示唆によるものと考えられ、補正手続において社外弁理士とやりとりをしていたDがそれに深く関与していたなどと主張する。
 しかし、上記(1)ウのとおり、この形態自体は、本件特許1の出願時において当初の請求項8として記載されており、補正手続より前に既に着想されていたものであるから、被告の上記主張は理由がない。
 そして、Dは、その陳述書においては、この形態の着想について何ら触れておらず、その証人尋問においても、この形態を誰が着想したのかは記憶にないと証言していることからすれば、D自身がこの形態を着想したものとは認められない。一方、原告は、その陳述書で、その着想の経緯について、B特許2のリブが実際には施工できなかったことから、低コストで施工簡易なリブを検討していたところ、従来のMS基礎のベタ基礎の根入れ寸法が小さく、軟弱地盤の傾斜地では基礎下が露出してしまうおそれがあり、ベタ基礎立ち上がり部を下へ掘り下げる必要性を感じていたために、リブをベタ基礎立ち上がり部の下方に配置することを思いついたなどと、具体的に陳述していることからすると、同形態については、原告が着想したものと認めるのが相当である。
ウ このほか、被告は、原告は単に事務連絡を主に担当していたにすぎないとも主張するが、原告の技能・資格及び前記認定の被告における経歴や地位等に照らして、被告の上記主張は採用することができない。
(3) 使用者の貢献度
ア 前記(1)のとおり、本件特許1の審査の過程では、ベタ基礎の安定材の断面形状を逆台形型にする点は先行技術から容易想到であることが指摘され、その後、同出願が拒絶査定を受けた後に、ベタ基礎の立ち上がり部の下部の突出部分と安定材とを係合させる構成を追加して限定する旨の補正をし、同構成の効果を訴求した結果、本件特許1が登録されたとの経緯に鑑みると、本件発明1の構成のうち安定材の断面形状を逆台形型にする点は、本件発明1が特許技術と認められる上で、さほどの意義を有しなかったものと解される。しかも、同構成は、発明者によって新たに創作された技術的事項ではなく、飽くまで被告のそれまでの施工の現状に着想を得て、それを構成要件としたにすぎない。
 他方、ベタ基礎立ち上がり部の下部と安定材との係合については、その技術的意義を認めることができるものの、前記(2)イ記載の原告が同構成を着想した経緯に照らせば、この着想は、B各特許に開示された技術的思想と被告におけるMS基礎の施工の経験を通じてもたらされたものであり、また、前記認定のとおり、ベタ基礎立ち上がり部の下部を下方に突出させること自体は、住宅金融公庫の融資を受けるための標準的な仕様でもあったことからしても、この点が、被告における通常の業務において得られる知識経験の範疇を超えて、格別に新規あるいは高度な技術的思想であったということもできない。
 このほか、本件発明1は、そもそも被告の営業戦略上、B各特許に代わる特許の取得が必須であったことを契機としてその開発が進められたこと、本件特許1は、その出願後、拒絶理由通知及び拒絶査定を受ける中で補正を繰り返し、拒絶査定に対する不服審判を提起して、社外弁理士との協議を重ねる等の経過を経てようやく特許登録に至ったものであること、通常のベタ基礎に格子状の安定材を設けて地盤補強効果を得るとのMS基礎の基本的な技術は、平成5年から被告が培ってきたものであり、被告はこの技術を中心に営業を展開し、本件特許1の特許登録以前にも大きな販売実績を得ていたこと、本件発明1は、原告が従前のB各特許に類似した内容とすることを心掛けて開発したものであり、実際に特許登録された請求項の内容も、従前被告が施工してきたMS基礎の形態を取り入れたものであったこと、被告の内販売上げは、全て被告の親会社であるエス・バイ・エルからの発注によるものであり、そこには本件発明1が有する技術的優位性以外の被告とエス・バイ・エルとの繋がりによる経営上又は営業上の要因が相当程度寄与していたと考えられることなどの事情を総合考慮すると、本件発明1に基づいて被告が得た独占の利益については、本件発明1の技術内容以外の被告の貢献による部分が相当に大きいということができる。
 そうすると、原告が本件発明1の承継に基づいて被告から受けるべき相当の対価の算定に当たり考慮すべき被告の貢献度は、95%とするのが相当である。
イ この点に関して原告は、MS基礎の施工が被告の中心的業務であったこと及び原告がMS事業部部長としてMS基礎の売上げの増大に大きく貢献したことを主張する。
 しかし、MS基礎の施工が被告の中心的業務であったことによりその販売実績が増大したことは、被告が得た独占の利益の額において評価されていることであり、その独占の利益の額に占める被告の貢献度を検討する場合には、同事実はむしろ、MS基礎の売上げが被告の有する経営資源の集中的な投入によって獲得されたものであることを推認させるから、使用者の貢献度を高く見積もるべき事情というべきである。また、原告がMS基礎の販売に大きく貢献したことについても、原告の販売面における貢献は、発明者としての貢献に含まれるものではなく、飽くまで被告の従業員としての貢献にすぎないことからすれば、被告が獲得した独占の利益に対する発明自体の価値の貢献度が高いことを基礎付ける事情とはなり得ないというべきである。
(4) 共同発明者間の寄与割合
 前記(2)の発明の経緯に照らすと、本件発明1は、原告とDが共同して開発したものであるが、その技術的思想の特徴的部分のほとんどは原告の着想と具体化によるものと認められる。Dは、原告とともにその開発に従事し、出願及び補正の経過で一定の貢献をしたことが認められるが、これを考慮に入れても、本件発明1に関する原告とDのそれぞれの寄与割合は、原告が90%、Dが10%とするのが相当である。

4 争点(1)エ(本件発明1について-相当対価の額)について
 前記1ないし3によれば、本件発明1に関して原告が受けるべき相当対価の額は、被告の内販における独占の利益の額4347万0093円及び外販における独占の利益の額1億7475万3734円を合計した2億1822万3827円に、被告の貢献度及び共同発明者間の寄与割合を考慮すると、以下のとおり、982万0072円となる。
(4347万0093円+1億7475万3734円)×(1-被告の貢献度0.95)×共同発明者間での原告の寄与割合0.9=982万0072円

5 争点(2)ア(本件発明2について-内販における独占の利益)について
(1) 本件発明2の実施の有無
ア 本件発明2の配筋方法における経時的要素
(ア) 原告は、本件発明2の技術内容について、本件発明2の構成要件ⅡeないしⅡhにおいて、各構成要件の中での経時的要素は存在するが、これらの構成要件の間では、メッシュ鉄筋の配列方法に経時的要素は含まれないと主張する。
 この点、本件特許2の請求項1及びその明細書等によれば、本件発明2は、それぞれ異なる形状を有する第1ないし第4メッシュ鉄筋を用意し(構成要件ⅡaないしⅡd)、これらの4種類のメッシュ鉄筋を地盤全体に隙間なく配置することを特徴とするベタ基礎の配筋方法(構成要件Ⅱi)であるところ、構成要件Ⅱeは、ベタ基礎施工地盤の一角に第1メッシュ鉄筋を配置した後に、縦方向に順に第1メッシュ鉄筋を一部重なり合うように配置していくこと、構成要件Ⅱfは、第1メッシュ鉄筋の横に第2メッシュ鉄筋を一部重なり合うように配置した後に、横方向に順に第2メッシュ鉄筋を一部重なり合うように配置していくこと、構成要件Ⅱgは、第1メッシュ鉄筋の縦方向の並びが最終列に達したときに、第3メッシュ鉄筋を一部重なり合うように配置すること、構成要件Ⅱhは、第3メッシュ鉄筋の横に第4メッシュ鉄筋を一部重なり合うように配置した後に、横方向に順に第4メッシュ鉄筋を一部重なり合うように配置していくことをそれぞれ規定していることが認められる(なお、構成要件Ⅱhに関しては、その文言上は、第3メッシュ鉄筋の横に1枚目の第4メッシュ鉄筋を配置することのみが記載されており、2枚目以降の第4メッシュ鉄筋をその横に順次配置していくことは記載されていないが、本件発明2が、メッシュ鉄筋を地盤全体に隙間なく配置する配筋方法であること(構成要件Ⅱi)、及び本件特許2明細書等の段落【0018】には、第2メッシュ鉄筋の配置と同様に、1枚目の第4メッシュ鉄筋を配置した後に第4メッシュ鉄筋を順次横方向に配置することが記載されていることからすれば、本件発明2の技術内容は上記のとおりと認められる。)。
 そうすると、本件発明2の配筋方法においては、まず初めに第1メッシュ鉄筋が一つの角に用いられること(構成要件Ⅱe)、そこを起点として、縦方向については、第1メッシュ鉄筋が順次配置されていき(同上)、横方向については、第2メッシュ鉄筋が順次配置されていくこと(構成要件Ⅱf)、横方向に並ぶメッシュ鉄筋の中では、第1メッシュ鉄筋が初めに配置され、その後に順次第2メッシュ鉄筋が配置されていくこと(同上)、第3メッシュ鉄筋は全ての第1メッシュ鉄筋の配置が終わった後にその最終列に配置されること(構成要件Ⅱg)、第4メッシュ鉄筋は、第3メッシュ鉄筋が配置された後に、順次その横に配置されていくこと(構成要件Ⅱh)という経時的要素が含まれると認められる。
(イ) この点に関して原告は、本件特許2明細書等の段落【0021】に「・・・メッシュ鉄筋の配置はいろいろな順で行うことが可能であり、配置順は任意である。」との記載があることを挙げて、各構成要件間の経時的要素は不要であると主張する。
 確かに、例えば構成要件Ⅱe及びⅡfについては、その配置順序について、「一方」との接続詞が用いられていることから、最初に角に配置した第1メッシュ鉄筋を起点として、縦方向に第1メッシュ鉄筋を配置していくか(構成要件Ⅱe)、横方向に第2メッシュ鉄筋を配置していくか(構成要件Ⅱf)については、先後関係が定まっているわけではないといえる。しかし、例えば、第3メッシュ鉄筋が第1メッシュ鉄筋の最終列に配置されると規定されていること(構成要件Ⅱg)からすれば、起点から縦方向に順次第1メッシュ鉄筋を配置していくこと(構成要件Ⅱe)は、その最終列に第3メッシュ鉄筋を配置すること(構成要件Ⅱg)よりも先行するものと解さざるを得ない。
 また、本件特許2の特許願によれば、本件特許2の出願当初の請求項1は、メッシュ鉄筋の形状や種類を限定せず、その配置順序にも特に限定を付さない構成とされていたことが認められるところ、原告が指摘する段落【0021】の記載は、このことに由来するものであって、その後の補正手続によって、その請求項が、上記(ア)記載の内容に補正された以上、上記段落の記載をもって、請求項の記載によって特定される配列順序を否定することはできないというべきである。
(ウ) 他方、被告は、本件発明2においては、まず第1メッシュ鉄筋を配列し、第1メッシュ鉄筋の横に第2メッシュ鉄筋を配列し、第1メッシュ鉄筋の終端に第3メッシュ鉄筋を配列し、最後に第4メッシュ鉄筋を配列するという配列方法が規定されていると主張する。
 しかし、本件特許2の請求項1の構成要件ⅡeないしⅡhにおいては、それぞれの構成要件間は、「一方」又は「かつ」の接続詞で結ばれているか、あるいは、何ら接続詞が用いられていないかであるから、構成要件間Ⅱeから構成要件Ⅱhまでがそのとおりの順序で実施されなければならないことが規定されているとは認められないのであって、前記(ア)のとおり、各構成要件の文言内容からその経時的要素を読み取ることができる範囲に限り、配列順序の経時的要素が規定されているものと解すべきである。
 そうすると、例えば、一角を起点として、第1メッシュ鉄筋を縦方向に順次配列した後、その最終列に第3メッシュ鉄筋を配置し、その後、起点から横方向に順次第2メッシュ鉄筋を配列していくという配列順序であっても、本件発明2が規定する配列順序に反するわけではないことになるから、被告の上記主張は採用することができない。
イ 内販における配筋方法
(ア) 本件発明2は、第1メッシュ鉄筋から第4メッシュ鉄筋の4種類の形状のメッシュ鉄筋を用意して、これらを所定の位置、方法で配筋する配筋方法の発明であるが、被告が4種類のメッシュ鉄筋を施工現場に持ち込んで配筋していたことを認めるに足りる証拠はない。むしろ、平成5年頃の施工現場では、縦筋と横筋とがそれぞれ一方方向に延伸したメッシュ鉄筋、すなわち第2メッシュ鉄筋のみが使用されていたことは、前記第2、2(5)イのとおりであり、また、MS基礎に関するカタログ、施工要領書、技術資料及び工事図面等によっても、第3期において被告が現場に持ち込んでいたメッシュ鉄筋は、1ないし3種類であったことが認められる。
 なお、カタログには、MS基礎のメッシュ鉄筋の配筋方法として、第1ないし第4メッシュ鉄筋を用いることを示す図が掲載されているが、同図は、本件特許2の内容を説明した図であり、実際の施工に関するものではないから、この図をもって、被告が実際の現場で4種類のメッシュ鉄筋を使用していたと認めることはできない。
(イ) この点に関して原告は、鉄筋が外周に回るように配筋をするためには、本件発明2のように最低でも4種類のメッシュ鉄筋を使用しなければ組立てが不可能であるから、現場では、持ち込まれたメッシュ鉄筋の延伸部分を切断して、本件発明2に使用される4種類の鉄筋を作って、それを配置していたと主張する。
 しかし、4種類のメッシュ鉄筋を用いなくとも、例えば、第2メッシュ鉄筋を縦横に順次敷き並べ、その終端部には、生材(メッシュ鉄筋ではない単材の鉄筋)を並べることによっても、鉄筋を地盤全体に隙間なく配置することは可能であると考えられ、実際、平成20年当時の「MS基礎技術資料」には、鉄筋工事について、第1メッシュ鉄筋及び第2メッシュ鉄筋の2種類を用いることしか記載されておらず、平成18年4月25日付け工事図面では、3種類のメッシュ鉄筋を用いながら、敷地の端の部分には生材を用いて配筋を行うことが示されているのであるから、メッシュ鉄筋を利用した配筋において本件発明2に係る4種類のメッシュ鉄筋が不可欠であるということはできない。
 また、確かに、本件特許2明細書等の段落【0013】には、「応用のきく第2のメッシュ鉄筋のみを用意することとし、他の種類のものを使用するときは第2のメッシュ鉄筋15の縦筋又は/及び横筋の突出した部分を必要に応じてカットし、第2のメッシュ鉄筋から第1、3、4のメッシュ鉄筋を現場で作って用いるように」する例が記載されており、第1期のMS基礎に関するカタログの中に含まれる「MS基礎施工要領書」によれば、第2メッシュ鉄筋のみが使用されていた当時のMS基礎の施工において、第2メッシュ鉄筋を敷き並べつつ、終端部では第2メッシュ鉄筋の一部を切断することで、鉄筋が外周に回るようにすることが鉄筋組立方法として紹介されていることが認められる。
 しかし、同要領書によっても、終端部で第2メッシュ鉄筋がどのように切断されていたのかは明らかではなく、そこで第1、第3及び第4メッシュ鉄筋に当たる特定の形状の各メッシュ鉄筋が作られていたと認定することはできない。
 そうすると、被告のMS基礎の施工において、本件発明2において規定される4種類のメッシュ鉄筋が用いられていたとは認められない。
(ウ) また、仮に上記要領書が示唆するように、施工現場において、第2メッシュ鉄筋の一部を切断することで第1、第3及び第4の各メッシュ鉄筋が作られ、それらの4種類のメッシュ鉄筋が使用されていたとしても、同要領書の鉄筋組立方法では、最初に配置されるのは第2メッシュ鉄筋とされているのであるから、このような配列方法は、本件発明2が規定する経時的要素に合致するものとはいえない。
 この点に関して原告は、同要領書には、「(カットメッシュより敷き重ね始めるとタテ・ヨコ鉄筋の上下がうまく噛合います。)」と記載されていることから、実際には第1メッシュ鉄筋から敷き始めることが推奨されていたと主張するが、第2メッシュ鉄筋を切断して作られる可能性のある第1、第3及び第4のメッシュ鉄筋はいずれも「カットメッシュ」に当たるのであるから、必ずしもその中の第1メッシュ鉄筋から敷き始めることが推奨されていたとはいえない。
(エ) このほか、原告は、被告のMS基礎のカタログ等に「特許 MS基礎(ベタ基礎の配筋方法)」との記載があること、MS基礎技術資料及びメッシュ筋割付図に複数の形状のメッシュ鉄筋の配列順序をうかがわせるような記載があること、証人Dが原告作成に係る「被告方法2説明書」記載のメッシュ鉄筋の組み方が合理的であると認めていることなどと主張するが、それらはいずれも、被告による本件発明2の実施を疑わせることがあり得るという程度のものにすぎない。なお、F弁理士が平成16年9月28日付け「FAX連絡書」において、本件特許2の補正について「今回の補正で新請求項1は実施の形態に近い形にまで限定されました」と記載している点は、補正後の請求項1記載の内容が、本件特許2明細書等の【発明の実施の形態】(段落【0009】以下)に記載された形態に近い形になったことに言及したものと考えられ、被告の工事現場における実際の施工形態を明らかにするものとは認められない。
 他方で、本件発明2は、上記のとおり、構成要件Ⅱaないしdで規定される特定の形状を有する4種類のメッシュ鉄筋を構成要件Ⅱeないしhで規定される特定の位置に一定の配列ルールに従って配置することを内容とするものであるところ、そのように相当に限定された特許技術の内容を、多数のMS基礎の施工現場で実際に実施するのであれば、その技術内容を具体的かつ明確に指示する施工要領書や技術指示書等の資料が作られてしかるべきであるが、本件では、上記のとおり、被告が用いていたカタログ、施工要領書、技術資料及び工事図面等の中には、4種類のメッシュ鉄筋を本件特許2で規定された配列順序で使用することを明確に示しているものは見当たらない。
 そうすると、原告が、本件発明2の規定する配筋方法を平成7、8年頃に確立し、その内容を模型を使って説明して売込みをしたと供述する点もにわかに採用し難く、このほか原告が主張する上記各事情を斟酌しても、被告がMS基礎の施工現場で本件発明2に規定されるメッシュ鉄筋の配筋方法を実施していたことを認めることはできない。
(オ) 以上によれば、被告が、ベタ基礎を自社で施工する内販において、本件発明2を実施していたとは認められない。
(2) 内販における独占の利益の額
 以上のとおり、被告が内販において本件発明2を実施していたと認められない以上、被告の内販における売上高について、本件発明2に係る独占の利益を認めることはできず、したがって、この点について、原告が受けるべき相当の対価を認めることもできない。

6 争点(2)イ(本件発明2について-外販における独占の利益)について
(1) 平成17年4月から平成20年9月まで
 原告は、外販において、分譲住宅ビルダーが被告からメッシュ鉄筋の供給を受け、メッシュ鉄筋を現場で切断するなどして本件発明2を実施しており、被告がそれについて実施料を収受していたと主張する。
 しかし、本件全証拠を精査しても、被告が、上記期間内に分譲住宅ビルダーに対して本件発明2の実施を許諾したり、供給したメッシュ鉄筋を現場で切断するなどして実質的に本件発明2を実施させ、分譲住宅ビルダーから本件発明2に係る実施料又は実施料に相当する対価を収受していたことを認めるに足りる証拠はない。
 かえって、前記5(1)イのとおり、被告が自らベタ基礎を施工する内販においてすら、本件発明2の具体的な実施方法を指示するような施工要領書や技術資料等が作成されておらず、現場において、本件発明2が実施されていたとは認められないのであるから、被告が材料を提供するにとどまり、実際の配筋の施工を分譲住宅ビルダーに委ねている外販において、分譲住宅ビルダーが本件発明2の技術内容を把握してこれを実施していたとは考え難い。そして、本件発明2については、このように分譲住宅ビルダーがその特許発明の技術内容を把握しておらず、しかもベタ基礎の配筋方法は、MS基礎の営業において宣伝されていた地盤補強効果とは直接関係のない技術であることからすれば、分譲住宅ビルダーが、本件発明2に係る特許技術を利用する趣旨で、被告に対してMS基礎を発注していたとは認められない。
 よって、被告が外販において、本件発明2に係る独占的地位を利用して、分譲住宅ビルダーに対して本件発明2を実施させ、分譲住宅ビルダーから本件発明2に係る実施料又は実施料に相当する対価を収受していたとの原告の主張は理由がない。
(2) 平成20年9月から平成34年8月まで
 原告は、被告が平成20年9月26日にメッシュ鉄筋の利用を原則的に中止したことを認めながら、その後も、エス・バイ・エルのグループ企業であるエス・バイ・エル・カバヤの施工分については、被告がメッシュ鉄筋を用いて本件発明2を実施させていると主張する。
 しかし、本件全証拠を精査しても、被告がエス・バイ・エル・カバヤに対してメッシュ鉄筋を販売し、本件発明2を実施させていることを裏付けるに足りる証拠はなく、かえって、証拠によれば、平成20年9月26日以降に被告がエス・バイ・エル・カバヤに供給しているのは、メッシュ鉄筋ではなく、生材であることがうかがわれる。
 そして、そもそも被告が内販及び外販でメッシュ鉄筋を利用していた時期においてすら、被告及び分譲住宅ビルダーが本件発明2を実施していたと認めることができないことは、前記5及び上記(1)のとおりであるから、被告がメッシュ鉄筋の利用を中止した平成20年9月26日以降において、エス・バイ・エル・カバヤにのみ本件発明2を実施させていたとの原告の上記主張は理由がない。
(3) 外販における独占の利益の額
 以上のとおり、被告が外販において、ベタ基礎を施工する分譲住宅ビルダーに対して本件発明2の実施を許諾していたとは認められない以上、被告の外販における売上高について、本件発明2に係る独占の利益を認めることはできず、したがって、この点について、原告が受けるべき相当の対価を認めることもできない。
(4) 以上のとおり、その余の点について判断するまでもなく、原告の本件発明2に関する相当な対価の請求は理由がない。
7 争点(3)(遅延損害金の起算日)について
(1) 原告も認めるとおり職務発明対価請求権は、特許を受ける権利を承継したことによって発生する法定債権である。そして、法定債権については、履行期が特段定められていないのであるから、その債務者は、債権者から履行の請求を受けた時から遅滞の責めを負うのが原則であり(民法412条3項)、この理は、職務発明対価請求権についても何ら異なるところはないというべきところ、前記第2、2(6)のとおり、原告は、被告に対し、平成22年12月6日付けの内容証明郵便により本件発明1に係る職務発明の対価を初めて請求し、同郵便は、同月7日に被告に到達したことが認められる。
 よって、その翌日である平成22年12月8日を遅延損害金の起算日とするのが相当である。
(2) この点に関して原告は、特許法35条3項の理念や政策的観点を理由にして相当対価支払債務の履行期を特許出願時であると解すべきと主張するが、職務発明対価請求権を法定する同条項があえてその対価支払債務の履行期を定めていないことからすれば、同条項の理念やその政策的観点を根拠にして対価支払債務の履行期を導くことはできないというべきである。
 また、原告は、職務発明の譲渡契約が双務契約類似のものであるとして、他の双務契約との均衡を主張する。その趣旨は必ずしも明らかではないが、そもそも特許法35条3項によれば、職務発明対価請求権は、職務発明について使用者等に特許を受ける権利を承継させたときに初めて生じるのであって、特許を受ける権利の承継と職務発明対価の支払が同時履行関係に立つことはないのであるから、一方債務の履行の完了によって他方債務が履行遅滞に陥るという関係にあると解するのが相当であるとはいえない。
 よって、原告の上記主張はいずれも採用することができない。

8 結論
 以上によれば、原告の請求は、982万0072円及びこれに対する平成22年12月8日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余は理由がない。
 よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部

裁判長裁判官 東海林 保
裁判官 実本 滋
裁判官 足立 拓人

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