平成25年10月30日判言渡 同日原本領収 裁判所書記官 平成23年(ワ)第21757号 職務発対価請求事件 口頭弁論終結日 平成25年8月30日判 神奈川県藤沢市<以下略>
原告甲
同訴訟代理人弁護士
同補佐人弁理士 神奈川県小田原市<以下略>
被 告 (旧商号・株式会社日立クローハルストレーシテクノロシース)同訴訟代理人弁護士 田 中 浩 之 同三好豊 同 飯塚卓也 同 大野志保主文
 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
 事実及ひ理由
第1 請求 被告は,原告に対し,金10億円及ひこれに対する平成23年7月22日から支払済みまて年5分の割合による金員を支払え。
 第2 事案の概要本件は,原告か,日本アイ・ヒー・エム株式会社(以下「日本IBM」とい う。)に在職中に完成させたハートティスクに関する発について,日本IB Mの会社分割(以下「本件分割」という。)により日本IBMのハートティス小川昌宏 金 子 宏
株式会社HGTシャハン
ク事業を承継した被告に対し,平成16年法律第79号による改正前の特許法 (以下「改正前特許法」という。)35条3項に基つく職務発の相当対価に 係る支払請求として14億8500万円の一部てある10億円(附帯請求とし て訴状送達の日の翌日てある平成23年7月22日から支払済みまて民法所定 の年5分の割合による遅延損害金)の支払を求めた事案てある。1 前提事実(証拠等を掲記した事実以外は当事者間に争いかない。) (1) 原告原告は,昭和58年日本IBMに入社した者てある。原告は,被告かハー トティスク事業を承継したことに伴い,平成15年1月1日被告に移籍し, 平成17年3月被告を退職した。(2) 被告 被告は,平成14年12月25日に設立された株式会社てある。被告は,本件分割により日本IBMのハートティスク事業を承継した。
 (乙1,当裁判所に顕著)(3) 原告の職務発 原告は,日本IBMに在職中てあった昭和62年5月頃,以下の米国特許権(以下「本件特許権」という。)に係る発(以下「本件発」とい う。)を完成させた。原告は,遅くとも昭和63年2月頃まてに,日本IB Mに対し,本件発に係る特許を受ける権利(外国の特許を受ける権利を含 む。)を譲渡した。なお,本件発に係る日本における出かされているか, 特許として成立していない。記 登 録 番 号 5,012,263
特 許 日 1991年4月30日
発の名称 ティスク機械のサーホ・ハターンの書込み方法 発  者 A,B,原告譲 受 人 インターナショナル・ヒシネス・マシーンス・コーホレーシ ョン(以下「米国IBM」という。)出  日 1989年2月1日 外国出優先権テータ
1988年2月3日 日本 63-14288 (甲1,4,弁論の全趣旨)2 争点
(1) 職務発の相当対価に係る支払債務の承継の有無(争点1) (2) 消滅時効の成否(争点2)(3) 相当対価の額(争点3)
3 争点に関する当事者の主張
(1) 職務発の相当対価に係る支払債務の承継の有無(争点1)(原告の主張)
ア 特許法35条は,特許を受ける権利か発時においては従業者に帰属することに鑑み,使用者か従業者から特許を受ける権利又は特許権を承継等 した場合には,従業者は相当対価の支払を受けることて,使用者と従業者 の利害調整を図った規定てある。この趣旨からすれは,改正前特許法35条3項の相当対価の支払を受け る権利は,従業者の使用者に対する権利といえるから,従業者に対して相 当対価の支払債務を負う者から事業を承継し,使用者の地位を承継した者 は,書面による規定かなくとも,相当対価の支払債務についても承継する。本件特許権は,被告か日本IBMから承継した事業に関わるものてあり, 被告(もしくは被告関連会社)とサムスンらとの包括クロスライセンス契 約の対象とされていたことからすれは(甲2),被告は,日本IBMから 使用者の地位を承継した後は,本件特許権に関する利益を享受しうる立場 にあったといえ,相当対価の支払債務を承継させても何ら不利益はない。したかって,被告は,原告に対する相当対価の支払債務を承継したもの てある。イ 被告は,平成14年10月31日付け分割計画書(乙1。以下「本件分 割計画書」という。)ては,本件分割により承継される権利義務の範囲は 別紙2記載のものに限定されるとして,別紙2には相当対価の支払債務は 含まれないと主張する。しかし,上記のとおり,事業及ひ使用者の地位の承継に伴い,相当対価 の支払債務も承継されるのてあり,本件分割計画書に記載かないからとい って相当対価の支払債務を承継していないとはいえない。また,相当対価の支払債務か特許を受ける権利の譲渡契約に基つく債務 てあることと,相当対価の支払債務を定めた改正前特許法35条3項か雇 用契約上の利害関係の調整を図る強行法規てあることとは両立するものて あり,相当対価の支払債務か特許を受ける権利の譲渡契約に基つく債務て あることを理由に,雇用契約に基つく債務てないということはてきない。
 むしろ相当対価の支払債務については,本件分割計画書別紙2の雇用契約 に基つく負債として承継したと解することもてきる。さらに,本件分割計画書には,特許に関する扱いについては特許権の譲 渡を含め何ら記載されていない。特許権の譲渡について記載されていない 以上,相当対価の支払債務についても記載されていないことは当然てある。 第11項ては,「本計画書に定めるもののほか,本件分割に関し必要な事 項は,本件分割の趣旨に従って,当社かこれを定することかてきる」と 記載されているから,本件分割計画書とは別途に特許(相当対価の支払債 務を含む。)に関する取りめかされている可能性か高い。ウ 以上のとおり,本件分割計画書の承継する権利義務(別紙2)に相当対 価の支払債務について記載かないことを理由に,被告か相当対価の支払債 務を承継していないとはいえない。(被告の主張)
ア 被告は,日本IBMから相当対価の支払債務を承継していない。新設分割により承継される権利義務の範囲は,分割計画書の定めにより 定されるのてあり(旧商法374条の10第1項),本件分割によって 承継される権利義務については,本件分割計画書によって定される。本件分割計画書中の,承継する権利義務に関する記載は,以下のとおり てある。(本件分割計画書1頁) 「5.新設会社か当社から承継する権利義務新設会社は,分割期日をもって,当社から,別紙2『承継する権利義 務』記載のとおり,当社(注:日本IBM)の藤沢事業所におけるハート ティスクトライフ開発及ひ製造に関する営業に係る資産,負債及ひこれに 付随する一切の権利義務を承継する。なお,新設会社か当社から承継する 債務については,本件分割の日をもって,当社か併存的債務引受けを行 う。」(本件分割計画書別紙2) 「別紙2 承継する権利義務
新設会社は,当社の本件営業に関する下記の資産,負債,契約上の権利 義務並ひに雇用契約上の権利義務を当社より承継するものとする。記
1.資産
(1) 土地・建物
別紙3-(1)『土地・建物リスト』記載のとおり。
 (3) 機械・備品(注:(3)は原文のままてある。)別紙3-(2)『機械・備品リスト』記載のとおり。 2.負債(下記3,4の契約に基つくものを除く)該当なし。 3.本件営業に関する契約(下記4の雇用契約を除く)別紙3-(3)『契約リスト』記載のとおり。 4.承継する雇用契約(雇用契約に関連し,分割期日まての期間に対応する賞与債務及ひ定期俸債務並ひに中途退職一時金債務についての当社及 ひ新設会社間の負担割合は,当社100%,新設会社0%とする。)別紙3-(4)『従業員リスト』記載のとおり。」 以上のとおり,本件分割により承継される権利義務の範囲は,別紙2記載のものに限定されている。そして,別紙2によれは,承継する負債は 「該当なし」として原則として被告に承継されないか(第2項),例外的 に「下記3,4の契約に基つくものを除く」として,「3.本件営業に関 する契約」に基つく負債と「4.承継する雇用契約」に基つく負債に限っ て被告か承継する。しかし,本件発に係る相当対価の支払債務は,特許を受ける権利の譲 渡契約に基つく譲渡対価の支払債務てあって,「3.本件営業に関する契 約」に基つく負債てはなく,また,「4.承継する雇用契約」に基つく負 債てもないから,承継される負債に含まれない。イ 日本IBMは,平成14年11月13日付けの回答文書(乙3)におい て,従業員代表からの質問に対し,「本件分割により,新設会社か承継す る資産及ひ負債の平成14年9月30日現在における簿価」てある「10, 745百万円及ひ368百万円」について,「簿価(10745百万円) は,ハートティスクトライフに係る,部品及ひ仕掛中の商品を含めすへて の資産か対象となっております。承継される債務は,雇用契約の承継に伴 い承継される債務((1)中途退職一時金積立金(2)未払い賞与およひ定期俸 計上の合計額)となります。」と回答している。また,日本アイ・ヒー・ エム人事サーヒス株式会社クルーフ会社サーヒス部の部長作成の陳述書(乙6)においても,「分割計画書の『別紙2 承継される権利義務』お よひ『債務の履行の見込みかあることに関する書面』において,新会社に 承継される債務は,雇用契約に関する債務(368百万円)のみてあ」る と説されており,新設会社てある被告に承継される債務は,雇用契約の 承継に伴い承継される債務((1)中途退職一時金積立金(2)未払い賞与およ ひ定期俸計上の合計額)368百万円のみてあったことからかにされて いる。このように,雇用契約の承継に伴って承継される債務か上記(1)及ひ(2) に限定されていたことは,原告を含む日本IBMの藤沢事業所の従業員に 対してもらかにされていたのてある。かかる事実からも,相当対価の支 払債務か新設会社に承継される債務に含まれていないことは白てある。ウ 原告は,特許法35条の趣旨からすれは,相当対価の支払請求権は,従 業者の使用者に対する権利てあるから,従業者に対して相当対価の支払債 務を負う者から事業を承継し,使用者の地位を承継した者は,分割計画書 に定めかなくとも,相当対価の支払債務について承継するなとと主張する。しかし,特許法35条は,特許を受ける権利を承継した使用者等に対し て相当対価を請求てきることを定めているたけてあって,単に使用者の地 位を承継したというたけて相当対価の支払債務を負ったり承継したりする という趣旨を含む規定てはない。新設分割により承継される権利義務の範 囲は分割計画書の定めにより定されるのか原則てある(旧商法374条 の10第1項)。また,原告は,相当対価の支払債務については,本件分割計画書別紙2 の雇用契約に基つく負債に該当すると主張する。しかし,上記のとおり, 「雇用契約の承継に伴い承継される債務」は,(1)中途退職一時金積立金 及ひ(2)未払い賞与およひ定期俸計上の合計額のみてあり,相当対価の支 払債務か含まれていない。さらに,原告は,本件分割計画書には,特許に関する取扱いか何ら記載 されていない以上,相当対価の支払債務についても記載されていないこと は当然てあるなとと主張する。しかし,本件分割計画書に特許に関する記 載かないのは,本件特許権を含むハートティスク関連事業に関する特許権 か,日本IBMてはなく,米国IBMに帰属していた以上当然のことてあ る。(2) 消滅時効の成否(争点2) (被告の主張)
ア 原告は,日本IBMに対し,遅くとも昭和63年1月18日まてに,本 件発に係る特許を受ける権利を譲渡した。相当対価の支払債務は,原則として,特許を受ける権利の譲渡時に発生 するから,消滅時効の起算点も当該時点となり,原告の日本IBMに対す る相当対価の支払請求権については,消滅時効期間を10年と解したとし ても,既に消滅時効は完成している。被告は,原告に対し,平成24年4月20日の弁論準備手続期日におい て,消滅時効を援用する旨の意思表示をした。イ 平成15年最高裁判は,(就業規則等に)「使用者等か従業者等に対 して支払うへき対価の支払時期に関する条項かある場合には,その支払時 期か相当の対価の支払を受ける権利の消滅時効の起算点」となるとするか, 同判示は,特許を受ける権利等を使用者に承継させた時点の発規程に対 価の支払時期に関する条項かあった場合の起算点を述へている。本件ては,特許を受ける権利の承継時点(昭和63年1月18日)にお いて,日本IBMの報奨制度(甲7)には,「ファースト・ファイル賞」 として,最初の出か行われたときに賞金20万円か授与されるとする規 定かあったか(甲6の3),実績に応して報奨する制度はなかった。「フ ァースト・ファイル賞」か特許を受ける権利の譲渡対価と解し得る場合てあっても,原告は,遅くとも「最初の出…か行われたとき」から,相当 対価の支払を請求することかてきるから,かかる請求権の行使に関して何 ら法律上の障害はなかった。そして,日本IBMの回答(甲6の3)によれは,原告に対してファー スト・ファイル賞の表彰か行われたのは昭和63年8月1日てあり,賞金 の支払時期は同月の給与日てあったと推測されている。以上によれは,特許を受ける権利の譲渡時点てある昭和63年1月18 日か相当対価の支払請求権の消滅時効の起算点となるか,仮にファース ト・ファイル賞の賞金の支払時期か対価の支払時期と解し得る場合ても, 同年8月末日か消滅時効の起算点となる。したかって,相当対価の支払請求権は,遅くとも平成10年8月末日の 経過をもって消滅時効か成立している。ウ 原告は,平成8年の日本IBMによる特許貢献賞の創設か時効中断事由 てある債務の「承認」(民法147条3号)に当たる旨を主張する。時効中断事由てある債務の「承認」とは,「時効によって利益を受ける 者か時効によって権利を失う者に対して,その権利の存在することを知っ ている旨を表示すること」てある(乙10)。本件ては,「日本IBMか, 原告に対して,本件発に基つく相当対価の支払債務の存在することを知 っている旨を表示すること」か必要になる。しかし,日本IBMによる特許貢献賞は,社内規程てある「発関連表 彰制度」の規程(甲6の3)の改訂によって創設されたものてあり,日本 IBMの全ての従業員による全ての発を潜在的な対象としたものてある。
 また,特許貢献賞は,従業員の発か一定の要件を満たした場合に限って 支払われるものてあって,特許貢献賞の創設により具体的な金銭債務の支 払か確定するわけてはない。したかって,特許貢献賞を創設したからといって,日本IBMか本件発 9に基つく相当対価の支払債務か存在することを認識していたなとという ことはあり得ない。そして,日本IBMか原告に対する相当対価の支払債 務の存在を認識していない以上,かかる認識か原告に表示されることもあ り得ない。原告は,原告と日本IBMとの間ては,相当対価の支払債務(実績報奨 部分)については高額のライセンス収入か得られた段階て支払う旨の合意 かあり,これか債務の承認に当たると主張するか,日本IBMにおいて, 平成8年の特許貢献賞の創設当時,本件発により高額のライセンス収入 か得られていたという認識はなく(甲6の3),原告と日本IBMとの間 に原告か主張するような合意をすることなとあり得ない。以上のとおり,平成8年の日本IBMによる特許貢献賞の創設は,時効 中断事由てある債務の「承認」に当たらない。エ 仮に日本IBMによる特許貢献賞の創設により消滅時効か中断するとい う立場に立つとしても,本件特許権は,平成6年米国IBMとウェスタ ン・テシタルとの包括クロスライセンス契約により,米国IBMからライ センスされた多数の対象特許に含まれていたのてあるから,仮に日本IB Mか本件特許権により何らかの利益を得ていたとすれは,平成8年には, かかる利益は発生していたから,相当対価の支払請求をすることにつき, 法律上の障害は存しなかったことになる。よって,仮に日本IBMによる特許貢献賞の創設により消滅時効か中断 するという立場に立っても,相当対価の支払請求権の消滅時効の起算点は, 遅くとも特許貢献賞か創設された平成8年1月1日となり,その10年後 の平成17年12月末日に消滅時効は完成している。オ 以上のとおり,本件発に係る相当対価の支払請求権は時効消滅した。 (原告の主張)ア 相当対価の支払請求権の消滅時効の起算点については,その支払時期か 10到来するまての間は,権利の行使につき法律上の障害かあるから,その支 払時期か到来した時点か起算点てあると解する。日本IBMにおいては,特許貢献賞(実績報奨)の規定によれは,特許 貢献賞は年間のライセンス収入の実績をみた上て授与されるものてあるか ら,その性質上,特許貢献賞に関する消滅時効の起算点は,特許貢献賞の 対象となる年間の高額のライセンス収入か得られたことか判定てきるよう な一定期間を経過したときに,支払時期か到来し,その時点を起算点と解 するのか相当てある。また,特許貢献賞の対象となる高額のライセンス収入か複数年にわたる 場合には,特許貢献賞か年間のライセンス収入をもとに判断されることか らすれは,該当する年間ことに支払時期を定め,これらを消滅時効の各起 算点とするものと解する。日本IBMの規定ては,特許貢献賞についての具体的な支払時期の規定 を設けていないため,各特許貢献賞の消滅時効の起算日を特定することは 困難てあるか,本件訴訟ては,平成15年から平成20年まてに実施され た実績報奨部分を請求していることから,これらの実績報奨部分について は,平成15年以降に支払時期か到来することはらかてある。イ 日本IBMの発報奨制度に,特許を受ける権利の譲渡後に追加された 特許貢献賞(実績報奨)の規定の創設は,消滅時効の時効中断事由てある 債務の「承認」(民法147条3号)に該当するものと解する。なせなら,民法147条3号の「承認」(債務を認める行為)には,一 部弁済の他,支払猶予の申し入れ分割払いの申し入れなとか含まれると されているところ,日本IBMの特許貢献賞の規定ては,「特許か実用化 し,年間あたりて高額のライセンス収入か得られる場合は,そのヒシネス 貢献度に応して…賞金か授与されます」とされており,これは相当の対価 支払債務(実績報奨)の支払を,高額のライセンス収入か得られるまて猶予し,高額のライセンス収入か複数年にわたった場合には,分割払する旨 の規定とみることかてきるからてある。仮に特許貢献賞(実績報奨)の規定の創設自体か時効中断事由てある 「承認」に当らない場合ても,特許貢献賞の規定を創設した後については, 原告と日本IBMとの間ては,相当対価の支払債務(実績報奨部分)につ いては高額のライセンス収入か得られた段階て支払う旨の合意かされてい たものといえ,かかる合意によって時効中断事由としての「承認」かあっ たものと考える。本件ては,原告か日本IBM在籍時に本件発にも適用かある特許貢献 賞の規定か追加され,原告において追加規定に対して異議を唱えていない こと,特許貢献賞か創設される以前から日本IBMては重要な発につい ては既に実績ヘースの報奨か実施されていたこと(甲8,9)を併せ考え ると,少なくとも特許貢献賞の規定を創設したときには,日本IBMと原 告との間て,相当対価の支払債務(実績報奨)の支払時期について特許貢 献賞の規定記載のとおり,年間あたり高額ライセンス収入か得られたとき に相当の対価(実績報奨)を支払う旨の合意かあったということかてきる ものと考える。なお,特許貢献賞の創設時に時効か中断した場合,その後の相当の対価 の支払債務の消滅時効の進行については,創設された特許貢献賞の内容に 基つき相当対価の支払時期を定まることになるから,特許貢献賞の創設時 から再ひ時効か進行するのてはなく,相当対価の支払債務の支払時期から 時効か進行するものと考える。この点について,被告は,本件特許権は, 平成6年米国IBMとウェスタン・テシタルとの包括クロスライセンス契 約により,米国IBMからライセンスされた多数の対象特許に含まれてお り,仮に日本IBMか本件特許権により何らかの利益を得ていたとすれは, 平成8年には,かかる利益は発生していたから,相当対価の支払請求をすることにつき,法律上の障害は存しなかったと主張する。しかし,日本I BMのライセンス契約の内容は機密扱いてあり,本件特許権の実用化の状 況は原告にはらかてはなかったものてある。ウ したかって,相当対価の支払債務の消滅時効は完成していないものと解 する。(3) 相当対価の額(争点3) (原告の主張)
ア 相当対価の算定に当たっては,改正前特許法35条4項により,1その 発により使用者等か受けるへき利益の額,2その発かされるについて 使用者等か貢献した程度を考慮して定めるのか相当てある。使用者等か受けるへき利益は,特許発の実施をする権利を独占するこ とによって得られる権利てあり,本件においては,被告か自ら実施せす他 社にライセンスをしているため,実施料相当額をいう。イ 本件発については,被告の競合他社てあるサムスンとウェスタン・テ シタルか実施している。そして,サムスンとウェスタン・テシタルか本件発を適用した製品の 売上総額は,平成15年から平成20年まてのHDD全体の売上総額か2 0.5兆円てあること,サムスンとウェスタン・テシタルのHDD業界に 占める割合か40.2%てあること,本件発実施の前提となる2枚以上 のティスクを搭載するHDDの割合か全体の40%てあることからすると, 20.5兆×40.2%×40%=3.3兆円となる。米国販売ては,そ の3分の1てある1.1兆円となる。ウ 被告とサムスン,ウェスタン・テシタルとの間における包括クロスライ センス契約上,実施料率をとのように計算しているかはらかてないか, 少なくとも1%程度のライセンス料は見込まれる。エ 本件発は,原告か日本IBM在籍時に発したものてあり,被告か開 13発に至るまて相当な投資をしたり,発のための設備を整えたり,人材も 揃えて開発体制を作った事実はない。被告か本件特許権を譲り受ける際に, 日本IBMか負担した開発費等に相当する一定の対価を支払った事実かあ ったとしても,原告の貢献度は30%を下ることはない。本件発に関しては,原告の他に2名の発者かいるか,主として役割 を果たしたのは原告てあり,共同発者間における原告個人の貢献度は9 0%てある。オ 本件発を用いることて大幅な製造コスト削減になり,他の代替技術を 用いれは効率か半分以下になるのて,本件発の寄与率は50%を下らな い。カ したかって,本件における相当対価は,1.1兆(売上総額)×1% (実施料率)×30%(原告の貢献度)×90%(共同発者間における 原告の貢献度)×50%(本件発の寄与率)=14億8500万円とな る。原告は,相当対価てある14億8500万円のうち,一部請求として, 10億円のみを請求する。(被告の主張) 原告の主張は否認ないし争う。
第3 当裁判所の判断
1 後掲の証拠等によれは,以下の各事実かそれそれ認められる。(1) 日本IBMの平成元年2月1日時点における発報奨制度ては,1発 業績賞,2ファースト・ファイル賞,3発出賞か規定されていた。上記 1の発業績賞ては,出をした発(考案,意匠を含む。)には,特許の 場合3点,意匠又は実用新案の場合は1点,公開した発には1点かそれそ れ与えられ,これらの合計点数か12点に達したとき,その従業員に対し, 賞金85万円と社長名の賞状か授与され,上記2のファースト・ファイル賞ては,発者にとっての最初の出(特許又は意匠)か行われたときに,上 記1とは別に,賞金37万円と表彰楯か授与され,上記3の発出賞ては, 発者にとっての2回目以降の出(特許又は意匠)か行われたときに,上 記1とは別に,特許につき10万円,意匠につき2万円か授与されるという ものてあった。(甲6の3) (2) 日本IBMは,平成8年1月1日,発報奨制度を改訂し,1ファース ト・ファイル賞,2発出賞,3発業績賞,4発登録賞,5優秀発 賞,6特許貢献賞を規定した。上記1のファースト・ファイル賞ては,発 者にとっての最初の出(特許又は意匠)か行われたときに,特許につき2 0万円と表彰楯,意匠につき12万円と表彰楯か授与され,上記2の発出 賞ては,発者にとっての2回目以降の出(特許又は意匠)か行われた ときに,特許につき10万円,意匠につき3万円か授与され,上記3の発 業績賞ては,出をした発には,特許の場合3点,意匠又は実用新案の場 合は1点,公開した発には1点か与えられ,これらの合計点数か12点 (そのうち6点以上か特許出又は意匠出による点数)に達すると,その 従業員に対し,賞金20万円と社長名の賞状か授与され,上記4の発登録 賞ては,出した特許(又は意匠)か登録されたときは,特許につき10万 円,意匠につき3万円か授与され(たたし,複数の国て登録される場合は最 初に登録された時点のみの表彰),上記5の優秀発賞ては,1年間に米国 て特許登録された発の中て,優れた価値かあると判断された場合に60万 円か授与され,上記6の特許貢献賞ては,特許か実用化し,年間当たりて高 額のライセンス収入か得られる場合には,そのヒシネス貢献度に応して30万円から最高300万円まてか授与されるというものてあった。
 (甲6の3,甲7)(3) 日本IBMは,昭和63年8月1日,原告に対し,本件発について, 15ファースト・ファイル賞(平成8年改訂前のもの)を授与し,その頃37万 円を支払った。また,日本IBMは,平成2年3月1日,原告に対し,本件 発を含む発について,発業績賞(平成8年改訂前のもの)を授与し, その頃85万円を支払った。原告は,日本IBM在籍時において,特許貢献 賞を受賞したことはなかった。(甲5の3,甲6の3,甲8)
 2 本件事案に鑑み,消滅時効の成否(争点2)について検討する。(1) 民法166条1項は,「消滅時効は,権利を行使することかてきる時か ら進行する。」と規定し,消滅時効の起算点を定めるか,ここにいう「権利 を行使することかてきる」とは,単にその権利の行使につき法律上の障害か ないというたけてはなく,さらに権利の性質上,その権利行使か現実に期待 のてきるものてあることをも必要と解するのか相当てある(最高裁昭和40 年(行ツ)第100号同45年7月15日大法廷判・民集24巻7号77 1頁参照)。これを本件についてみるに,原告は,遅くとも昭和63年2月頃まてに, 日本IBMに対し,本件発に係る特許を受ける権利を譲渡したか(前提事 実(3)),その頃の日本IBMの発報奨制度において,職務発の相当対 価につき具体的な支払時期を定めた規定は見当たらないから(前記1(1)の 平成元年2月1日時点における発報奨制度参照),本件発に係る相当対 価の支払債務は期限の定めのない債務てあったと認めるのか相当てある。そうすると,原告は,本件発に係る特許を受ける権利の譲渡時において, 日本IBMに対し,本件発に係る相当対価の支払を請求することにつき法 律上の障害かあったとは認められない。また,改正前特許法35条4項は, 「前項の対価の額は,その発により使用者等か受けるへき利益の額及ひそ の発かされるについて使用者等か貢献した程度を考慮して定めなけれはな らない。」と規定するか,ここにいう「受けるへき利益」とは,特許を受ける権利の譲渡時における客観的な利益てあり,使用者等か後に受けた利益て はないと解されるから,職務発の相当対価は,その譲渡時における客観的 な価格てある(外国の特許を受ける権利の譲渡に伴う対価請求についても同 条3項及ひ4項か類推適用される。最高裁平成16年(受)第781号同1 8年10月17日第三小法廷判・民集60巻8号2853頁参照)。同様 に,本件発に係る相当対価も,特許を受ける権利の譲渡時における客観的 な価格てあり,その算定は譲渡時に可能てあったから,本件発に係る相当 対価の支払請求は,その権利の性質上,その権利行使か現実に期待のてきた ものてある。したかって,本件発に係る相当対価の支払請求権は,その特許を受ける 権利の譲渡時から消滅時効か進行すると解するのか相当てある。もっとも,前記1(3)のとおり,1日本IBMは,昭和63年8月1日, 原告に対し,本件発について,ファースト・ファイル賞を授与し,その頃 37万円を支払ったこと,2日本IBMは,平成2年3月1日,原告に対し, 本件発を含む発について,発業績賞を授与し,その頃85万円を支払 ったことか認められ,このうち1については,被告においてこれか消滅時効 の起算点となり得ることを主張するものてあり,少なくとも上記1の支払の 時点において,時効の中断かあったと認めるのか相当てある。以上に照らすと,本件発に係る相当対価の支払請求権は,上記1の支払 の時点から10年か経過した平成10年8月頃に消滅時効か完成し,被告か 平成24年4月20日の弁論準備手続期日において消滅時効を援用する旨の 意思表示をしたことは当裁判所に顕著てあるから,消滅時効の抗弁は理由か ある(なお,上記2の支払の時点における時効中断かあるとしてみても,平 成12年3月頃に消滅時効か完成したものと認められる。)。(2) これに対し,原告は,特許貢献賞の規定によれは,特許貢献賞は年間の ライセンス収入の実績をみた上て授与されるものてあるから,その性質上,特許貢献賞に関する消滅時効の起算点は,特許貢献賞の対象となる年間の高 額のライセンス収入か得られたことか判定てきるような一定期間を経過した ときに,支払時期か到来し,その時点を起算点と解するのか相当てあるなと と主張する。しかしなから,原告の主張する特許貢献賞は,本件発に係る 特許を受ける権利か譲渡され,米国において登録された後の平成8年に制定 されたものてあり,改訂後の規定移行措置をみても(甲6の3,7),そ れか本件発についてまて適用されるのか否からかてはない。仮に,これ か本件発についても適用されるものとしても,平成8年改訂のIBMの発 報奨制度をみると,特許貢献賞を含めて具体的な支払時期は定められてい ない(前記1(2))のてあって,本件発に係る相当対価の支払債務は期限 の定めかない債務てあることに変わりはない。原告の主張は,日本IBMにおける発報奨制度における特許貢献賞につ いての算定方法から,改正前特許法35条3項に定める相当対価請求権の支 払時期を導き,これを消滅時効の起算点とするものてあると解される。しか し,発報奨制度において支払時期についての確な定めかないにもかかわ らす,同制度における特定の報奨額の算定方法から相当対価の支払時期を導 くことは,相当対価の支払を受けられる時期か制限されることにもつなかる ものてあって,そのような解釈を認めるたけの合理的理由かない限り許され ないというへきてあり,本件においては,そのような合理的理由は認められ ない。上記(1)の相当対価請求権の法的性質に照らせは,原告の主張するような 事情を法律上の障害とも,権利の性質上その権利行使か現実に期待てきない 事情ともみることはてきない。よって,原告の主張は採用てきない。
また,原告は,特許貢献賞の規定の創設は,消滅時効の時効中断事由てあ る債務の「承認」に該当する旨主張する。しかしなから,民法147条3号にいう「承認」は,時効によって利益を受けるへき者か権利者に対して権利 の存在を認識している旨を表示することをいうのてあって,IBMか従業員 一般について適用される特許貢献賞を設けたことか,原告に対する債務の 「承認」に当たるとはいい難いから,原告の主張は採用てきない。さらに,原告は,特許貢献賞の規定を創設した後については,原告と日本 IBMとの間ては,相当対価の支払債務(実績報奨部分)については高額の ライセンス収入か得られた段階て支払う旨の合意かされていた旨主張する。
 しかしなから,このような原告と日本IBMとの個別の合意を認めるに足り る証拠はないから,原告の主張は採用てきない。(3) 以上のとおり,被告の消滅時効の抗弁は理由かある。
 3 よって,原告の請求は,理由かないから棄却する。東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 大須賀 滋
裁判官 小川雅敏
裁判官 西村康夫
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