平成25年10月18日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官 平成25年(ワ)第13223号 実用新案権損害賠償請求事件 口頭弁論終結日 平成25年9月13日判決
札幌市<以下略>
原告X
同訴訟代理人弁護士 菰 田 優 同 井深泰夫 同 菅原浩史 同 漆山佳代子 同 信賀浩志東京都千代田区<以下略>
被 告 日本電信電話株式会社 同訴訟代理人弁護士 升 永 英 俊 同 江口雄一郎主文
 1 本件訴えを却下する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
 事実及ひ理由
第1 請求
1 被告は,原告に対し,100万円及ひこれに対する平成25年6月13日か ら支払済みまて年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
第2 事案の概要
 本件は,被告の製造・販売したテレフォンカートか,原告か共有持分を有し ていた実用新案権(実用新案登録第2150603号)の考案の技術的範囲に属するとして,被告に対し,平成8年2月21日から平成11年9月5日まて の販売にかかる仮保護に基つく損害賠償金9億円の一部請求として,100万 円及ひこれに対する平成25年6月13日(訴状送達の日の翌日)から支払済 みまて民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案てある。1 前提事実(証拠等の摘示のない事実は当事者間に争いかない。) (1) 原告の実用新案権原告は,次の実用新案権(以下,「本件実用新案権」といい,その考案を 「本件考案」という。)について,平成12年3月17日に登録を受けた3 名の共有者のうちの1人(原告のほかは,A〔以下「A」という。〕及ひB 〔以下,「B」という。〕。)として表示されている者てある。〔甲1,2〕実用新案登録番号 第2150603号
出 願 日 昭和59年9月5日
出願番号 実願平6-5675
分割の表示 実願昭59-134611の分割 出願人 A
考案者 A
出願公告年月日 平成8年2月21日
審決年月日 平成12年1月26日
登録年月日 平成12年3月17日
本権の登録の抹消 平成11年9月5日(原因 存続期間満了) 考案の名称 テレホンカート実用新案登録請求の範囲の記載
「【請求項1】 電話機に差し込むことにより電話かかけられるテレホンカー トにおいて,このカート本体の一部に,電話に差し込む方向を指示するため の押形部からなる指示部を設けてなり,該指示部は,カート本体の外周縁か らカート本体の内方向にくほんていると共にカート本体の直交する2つの 中心軸線の夫々から一側にすれてカート本体に配置されており,且つ,該指 示部は目の不自由な者かカート本体を電話機に差し込む際,目の不自由な者 の指かふれる位置に配置されていることを特徴とするテレホンカート。」(2) 本件実用新案権の登録査定に至る経緯 本件実用新案権については,平成9年12月25日に拒絶査定かされ,これについての拒絶査定不服審判の請求(審判平10-2419号)を経て, 平成12年1月26日付けて拒絶査定を取り消し本件考案を実用新案登録 すへきものとする審決かなされたところ,その審決においては,「該指示部 は,カート本体の外周縁からカート本体の内方向にくほんている」との構成 か不明瞭てあるとする拒絶理由につき,平成10年3月12日付けて補正さ れた明細書及ひ図面において,上記に対応する記載として,図1に示された テレホンカートの側面からみて上下面から厚み中心部に向かう方向に押形 部を形成したもののみとされたことにより,その構成として特定することか てきるものとして不明瞭とはいえない旨の判断か前提として示されている。
 〔甲4〕(3) 原告による本件訴訟以前の訴えの提起とその帰趨
ア 東京地裁平成11年(ワ)第24280号不当利得請求事件等
原告は,Aと共に,被告に対し,被告か製造販売している切欠部を備え るカート式公衆電話機専用のテレホンカートにつき,本件考案及ひ本件実 用新案権の原出願にかかる考案(実用新案登録第2058104号,考案 の名称「テレホンカート」。)の技術的範囲に属するとして,昭和59年 9月5日以降,10年分の不当利得の返還として,570億円の一部てあ る125億円の支払を求める訴訟を東京地裁に提起し(東京地裁平成11 年(ワ)第24280号不当利得返還事件。以下「前々訴」という。),そ の訴状は平成11年11月17日,被告に送達された。〔乙2,2頁〕 原告らは,同訴訟の対象となる被告のテレホンカートは,「カート式公衆電話機に差し込むことにより電話かかけられるテレホンカートて,縦の 辺か横の辺に比して短い長方形てあって,表裏ともに一様に平坦て,その 一短辺には,その中央から一側に偏った位置に,一つあるいは二つの半月 状の切欠部か形成されており,この切欠部に手,指て触れることにより, カートの表裏及ひ差込方向の確認をすることかてきるものて,この内,使 用度数か五〇度数のものは切欠部か二個あり,使用度数か一〇五度数のも のは切欠部か一個ある」と主張した。東京地裁は,平成12年7月26日,用語の通常の意味に加え,本件実 用新案権の分割出願過程,異議申立てや拒絶査定不服審判における手続過 程等(以下「出願過程等」という場合かある。)を詳細に認定した上て, 本件考案における「カート本体の外周縁からカート本体の内方向にくほ ん」た「該指示部」の意義について,「テレホンカートを側面からみて上 下面から厚み方向(表裏方向)に凹凸状にくほんた形状を有する指示部」 に限定され,「カートを平面方向からみて中心方向にくほんた形状を形成 した切欠部」あるいは「カート本体に貫通して形成した穴部」を含まない とし〔乙1,36~37頁〕,被告のテレホンカートは,表裏ともに一様 に平坦て,その一短辺には,その中央から一側に偏った位置に,一つある いは二つの半月状に形成される「切欠部」を備えており,その「切欠部」 は,カート本体から辺の一部か切り離されたことにより,カートを平面的 にみて中心方向にくほみか形成される形状を有しているから,本件考案の 技術的範囲に属しない旨判示して〔乙1,42頁〕,原告らの請求をいす れも棄却する旨の判決をした。
 その出願過程等の考慮においては,本件実用新案権を分割出願する前の原出願(実願昭59-134611)については,その出願当初明細書から切欠部のある例(図1)等の記載を削除する訂正かされた後に出願公告(実公平5-25007。乙2,21頁)かされ,その後に本件実用新案権にかかる考案についての分割出願かされたこと,本件考案にかかる分割 出願についての拒絶査定不服審判手続(前記審判平10-2419号)に おける前記(2)記載の審決の内容のほか,平成11年10月14日になさ れた拒絶理由通知に対し,原告らか,平成11年10月28日に提出した 手続補正書につき,本件考案にかかる「押形部」は,「材料に押し型によ って圧力を加えて成形した形状部」を意味し「カート本体の外周縁からカ ート本体の内方向にくほんている指示部」に切欠形状を含むものとする補 正は実用新案登録請求の範囲を拡張するものてあるから許されないとし て,平成12年1月26日に補正か却下されたことなとか考慮されている。 〔乙1,36頁〕なお,その審理の過程て,原告らは,埼玉県工業技術センター所長か平 成12年6月12日に作成した試験成績書(乙5の1。以下「本件試験成 績書」という。)を書証として提出した。その当時の原告ら提出の証拠説 明書(乙5の2)によれは,その立証趣旨は,被告の製造・販売するテレ ホンカートのくほみ(被告のいう切欠)部分の形状及ひその測定結果の事 実とされ,本件試験成績書(乙5の1)には,「依頼品名」として「テレ ホンカート」,「依頼事項」として「長さの測定」,測定結果について, くほみ部分に相当するaの長さ(深さ)の測定値として0.58mmとの 記載かある。〔乙5の1・2〕上記東京地裁判決に対し,原告らは控訴し(東京高等裁判所平成12年 (ネ)第4209号不当利得請求控訴事件),この訴訟に原告らのためBか 補助参加したか,東京高等裁判所は,平成13年2月27日に口頭弁論を 終結し,同年4月17日,上記争点に関して一審と同旨の理由により控訴 を棄却する旨の判決をした。この判決は,平成13年10月16日,最高 裁判所による上告棄却,上告不受理決定により確定した(平成13年(オ) 第1182号,同(受)1161号)。〔乙2,3〕イ 東京地裁平成14年(ワ)第13321号不当利得返還請求事件 原告は,被告に対し,被告か製造・販売している,「目の不自由な者て も電話機へ差し込む方向か確認てきる凹み部(切欠部)を設けたテレホン カート」につき,本件実用新案権の考案の技術的範囲に属するとし,実用 新案権の仮保護の権利に基つく請求として,出願公告日てある平成8年2 月21日から存続期間満了日てある平成11年9月5日まてに発生した 不当利得金66億円余りの一部の返還として,1億2500万円の支払を 求める訴訟を東京地裁に提起した(東京地裁平成14年(ワ)第13321 号不当利得返還請求事件。以下「前訴」という。)。
 しかし,東京地裁は,平成14年8月28日,上記前訴は,前記前々訴と訴訟の対象を同一とし,請求期間のみを別異にした残部請求と解される ところ,前々訴において,本件実用新案権に基つく不当利得返還請求権に ついて,当該債権か全く現存しないと判断されたものてあるから,前々訴 と異なる期間に発生した不当利得金の支払を求めて訴えを提起すること は,実質的には前々訴て認められなかった本件実用新案権に基つく不当利 得返還請求及ひ主張を蒸し返すものに他ならないとして,訴えを却下する 判決をし,この判決は確定した。〔乙4〕(4) 原告らによる異なる分割出願の経緯 原告は,本件実用新案権に基つく出願を原出願として,上記前々訴か東京 地方裁判所に係属中の平成11年12月20日に分割出願を行い(実願平1 1-9646号),平成22年2月24日に登録査定かされ,同年4月2日 に登録かされた(実用新案登録番号 第2607899号。以下,「別件考 案」という。)。その内容は,以下のとおりてある。〔甲5,7〕 実用新案登録番号 第2607899号
出 願 日 平成11年12月20日
 出願番号 実願平11-9646
 分割の表示 実願平6-5675の分割
 原出願日 昭和59年9月5日
公 開 日 平成12年6月30日
 実用新案権者 A,原告,B
考案者 A
登録年月日 平成22年4月2日 考案の名称 テレホンカート 実用新案登録請求の範囲の記載「1.電話機に差し込むことにより電話かかけられるテレホンカートにおい て,このカート本体の一部に,電話機に差し込む方向を指示するための押形 部から成る指示部を設けて成り,前記指示部は縦軸または横軸の一方か長く 形成される形状の平面を呈し,前記カート本体の外周縁から前記カート本体 の内方向にくほんていると共に,前記カート本体の直交する2つの中心軸線 の夫々から一側にすれ且つ前記カート本体面内て前記平面の長く形成され る縦軸または横軸か中心軸線の一にほほ平行若しくは直交して前記カート 本体に配置されており,且つ,前記指示部は目の不自由な者か前記カート本 体を電話機に差し込む際,目の不自由な者の指か触れ,前記カート本体の前 記電話機に差し込む方向及ひ表裏を確認し得る位置に配置されていること を特徴とするテレホンカート。」2 争点
(1) 本件訴えの提起は,前々訴,前訴の蒸し返しとして,信義則に反し許されないか(本案前の主張)
(2) 被告による本件実用新案権の侵害の有無及ひ原告の損害額第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(本件訴えの提起は,前々訴,前訴の蒸し返しとして,信義則に反 し許されないか)について
〔被告の主張〕
(1) 本件訴えは,原告の請求か全部棄却され,原告の敗訴て確定した前々訴及ひ訴えか却下された前訴の蒸し返してあり,最高裁平成9年(オ)第849号, 同平成10年6月12日第二小法廷判決(民集52巻4号1147頁。以下 「平成10年最判」という。)に照らし,不適法却下されるへきてある。すなわち,本件訴えは,原告か,被告に対し,被告によるテレホンカート の製造・販売か,本件実用新案権を侵害するとして,平成8年2月21日か ら平成11年9月5日まての損害賠償を請求するものてあるところ,原告は, 被告によるテレホンカートの製造販売行為か本件実用新案権を侵害すると 主張して,昭和59年9月5日から10年間てある平成6年9月4日まての 実施料相当額の一部として125億円の不当利得の返還を求める訴訟(前々 訴)を提起し,全部棄却判決か確定した。また,原告は,被告に対し,被告によるテレホンカートの販売か,本件実 用新案権を侵害するとして,平成8年2月21日から平成11年9月5日ま てに発生した不当利得金の一部として1億2500万円の返還を求める訴 訟(前訴)を提起したか,数量的一部請求を全部棄却する旨の判決か確定し た後の残部請求てあり信義則に反し許されないとして訴えを却下する判決 か確定した。平成10年最判は,数量的一部請求を全部棄却する判決は,債権か全く現 存しない,言い換えれは,残部として請求し得る部分か存在しないとの判断 を示すものにほかならない旨判示したうえて,金銭債権の数量的一部請求訴 訟て敗訴した原告か残部請求の訴えを提起することは,特段の事情かない限 り,信義則に反し許されないと判示した。さらに,同最判は,その予備的請 求の二について,前訴の各請求とは訴訟物を異にするものの,主張する事実 関係はほほ同一てあって,前訴及ひ本訴の訴訟経過に照らすと,実質的には 敗訴に終わった前訴の請求及ひ主張の蒸し返しに当たることか明らかてあるとし,予備的請求の二に係る訴えの提起も信義則に反し許されないという へきてあり,訴えを不適法却下すへきてあると判示している。本件訴えは,前々訴と同様,被告のテレホンカートか本件実用新案権の技 術的範囲に属するか否かか主な争点てあり,実質的に敗訴に終わった前々訴 の蒸し返しに他ならない。したかって,平成10年最判に基つき,本件訴えは信義則に反し許されす, 却下されねはならない。(2) 原告は,前々訴の確定判決は,被告の売上高5700億円分について請求 したものてあり,本件は残りの300億円についての請求てあるから,前々 訴の既判力は本件の新たに明らかになった残部300億円には及はない旨 主張する。しかし,前々訴の確定判決は,被告のテレホンカートの製造販売行為か原 告の本件実用新案権を侵害することを理由とする金銭支払請求権の数量的 一部請求について,原告の請求を全部棄却した判決てあり,被告のテレホン カートの製造販売行為か原告の本件実用新案権を侵害することを理由とす る金銭支払請求権か全く現存しないと判断した判決てあるから,これは平成 10年最判にいう数量的一部請求を全部棄却する判決は残部として請求し 得る部分か存在しないとの判断に当たるものてあり,本件訴えを信義則に反 し不適法とするものてある。(3) また,原告は,前々訴における被告製品は深さか1mmの切欠きてあった か,本件訴えては深さか0.58mmてあり,異なる旨主張する。しかし,原告は,前々訴において,テレホンカートの切欠きの深さか0. 58mmてあることを示す試験成績書を証拠として提出しており(乙5の1, 2),前々訴において切欠きの深さか0.58mmてあるテレホンカートに ついても実質的に審理されていることか明白て,原告の主張は事実に反する。(4) 原告は,仮に本件訴訟か残部請求に当たるとした場合てあっても,本件訴えの提起か信義則に反しない特段の事情かある旨主張する。
 しかし,原告か特段の事情に当たるとする,前々訴の確定判決後に,本件 実用新案権を原出願とする分割出願てある別件考案か登録されたことや,こ れにより本件実用新案権について,カート本体の平面的な中心方向に向けて 形成されている場合かあることか明らかになったこと,これか前々訴におい て考慮されていなかったため,被告のテレホンカートかとのような形状てあるかは主要な争点とならす,実質的な判断か下されていないとすることは, 結局のところ,本件訴えは別件考案に基つくものてなく,前々訴と同し本件 実用新案権に基つくものてあって全く同一てあることからすれは失当てあ り,上記主張は単に前々訴における考案の技術的範囲の解釈ないし侵害論の 主張を縷々述へるものにすきす,いすれも前々訴の蒸し返し以外の何ものて もない。〔原告の主張〕
(1) 本訴は,一部請求後の残部請求てはない。すなわち,前々訴は,不当利得返還請求権を訴訟物とするものてあるところ,本件は,不法行為に基つく損 害賠償請求権を訴訟物とするものてあるから,訴訟物か異なり,本訴は前々 訴の既判力の影響を受けない。また,平成10年最判にいう「残部請求」とは,先行訴訟において明示さ れた債権の総額のうち先行訴訟ては請求されなかった残部をいうものてあ る。本件は,前々訴において請求の根拠として明示された範囲てある被告か 売上けた5700億円に基つくものてはなく,6000億円の売上に基つき, 差額の300億円に関する損害賠償を請求するものてあるから,先行訴訟て 請求されなかった残部てはなく,「残部請求」に当たらない。前々訴においては,被告製品は,深さ1mmの切欠きとして捉えていたか, 本件訴えにおいては,被告製品は指示部か押型を用いたフレス加工により形 成され,しかも深さか0.58mmてあって,押型によりり取られる程度のものてあって,対象物件か異なる。原告かこれを知ったのは平成25年4 月ころてあり,本件訴訟は一事不再理効に抵触しない。よって,本訴は適法てある。
(2) 仮に本件訴えか前々訴の残部請求にあたるとした場合てあっても,本件訴えにかかる残部請求か信義則に反しないとする特段の事情かあるから,本件 訴えは不適法とはならない。ア 本件については,前々訴か上記最高裁平成13年10月16日決定により確定した後の,平成22年2月24日に本件実用新案権を原出願とする 分割出願(実願平11-9646号)てある別件考案についての登録査定 かあり,平成22年4月2日に実用新案登録2607899号として登録 されたという事実か存する。〔甲5,7〕別件考案は,「カート内方向」について「カート本体を側面からみてカ ート本体の上下面から厚み中心方向へ向けて形成されている場合と,カー ト本体の平面的な中心方向へ向けて形成されている場合とかある」という 補正か認められた結果,登録に至ったものてある。〔甲5〕一方,前々訴においては,「カート本体の平面的な中心方向に向けて形 成されている場合」かあることを認めす,本件実用新案権との関係におい ても,「カート本体の上下面から厚み中心方向へ向けて形成されている場 合」に当たるかとうかたけか判断されている。しかし,前々訴確定後に新たに登録か認められたのは,本件実用新案権 を原出願とする分割出願てあるから,本件分割出願の請求の範囲は,原出 願てある本件実用新案権の請求の範囲に記載されたものてあったことは 当然てある。〔甲8,9〕したかって,本件実用新案権の請求には,「カート本体の平面的な中心 方向に向けて形成されている場合」かあることか別件考案の登録査定によ り明らかになったものてあり,これは前々訴の確定よりも後に生した新たな事情てあるから,改めてこれを前提とした審理を求めることは,信義に反するものてはない特段の事情に該当する。
イ しかも,前々訴においては,「カート本体の平面的な中心方向に向けて形成されている場合」か考慮されていないため,被告製品のくほみ(指示 部)かとのような形状てあるかは,主要な争点となっておらす,この点に ついて,実質的な判断は下されていない。そのため,くほみの形状か深さ0.58mmとは認定されていないとこ ろ,被告は,本件訴訟の平成25年7月10日の第1回口頭弁論期日て陳 述された答弁書において,初めてこれを認めたものてある(答弁書6頁, 乙5の1,2)。これは,前々訴における「一つあるいは二つの半月状に 形成される『切欠部』を備えて」いるという認定(乙1,31頁)とは明 らかに異なる主張てあり,改めて本訴において,被告製品か「切欠き」て はなく,「押形部」あるいは「押形部」と均等の形状を有していたことか 審理判断されるへきてある。2 争点(2)(被告による本件実用新案権の侵害の有無及ひ原告の損害額)につい て〔原告の主張〕
(1)ア 本件考案を構成要件に分説すると,以下のとおりとなる(以下,各構成 要件を記号順に「構成要件A」なとという。)。A 電話機に差し込むことにより電話かかけられるテレホンカートにおい て,
B このカート本体の一部に,電話に差し込む方向を指示するための押形 部からなる指示部を設けてなり,
C 該指示部は,カート本体の外周縁からカート本体の内方向にくほんて いると共に
D カート本体の直交する2つの中心軸線の夫々から一側にすれてカート本体に配置されており,
E 且つ,該指示部は目の不自由な者かカート本体を電話機に差し込む際, 目の不自由な者の指かふれる位置に配置されている
F ことを特徴とするテレホンカート。
イ 被告製品の構造は別紙被告製品説明書に記載のとおりてあるか,その構 成は次のとおりてある。(ア) 構成a 公衆電話機に差し込まれて使用されるテレホンカートてある (イ) 構成b カート本体の一部に,電話に差し込む方向を指示するための切り込みにより形成されたくほみからなる指示部を設けている
(ウ) 構成c 指示部はフレス加工(被加工物に圧力を加えて永久変形を生し させ,所望の寸法や形状の物品を製造する技術)を用いたせん断加工に よる打ち抜き加工によりカート本体と一体的に形成されたくほみ(押型 部)からなる。凹みの深さは0.6~0.7mmてある〔原告は,その 後,第2回口頭弁論期日において陳述した原告準備書面1(平成25年8 月12日付け)において,被告製品につき,訴状段階ては被告製品のくほ みの形状について,深さ「0.6~0.7mm」としたか(訴状5頁5 ~6行),JIS規格てはこの種のカートのくほみは0.8mm~1. 00mmと定められており,被告においてJIS規格に則ったテレフォ ンカートも販売されていたてあろうことは容易に推測てきる(甲10)として,これを「0.58mm~1.00mm」と修正する,とする。〕 指示部は,カート本体の外周縁からカート本体の内方向にくほんている
(エ) 構成d 指示部はカート本体の直交する2つの中心軸線の夫々から一側にすれてカート本体に配置されており,
(オ) 構成e 該指示部は目の不自由な者かカート本体を電話機に差し込む 際,目の不自由な者の指かふれる位置に配置されている
ウ 上記によれは,被告製品の構成は次のとおりてある(以下,各構成を記 号順に「被告製品の構成a」なとという。)。【a】 電話機に差し込むことにより電話かかけられるテレホンカートて あって,【b】 カート本体の一部に,電話に差し込む方向を指示するための切り 込みにより形成されるくほみてある指示部を有している【c】 指示部は,カート本体の外周縁からカート本体の内方向にくほん ている【d】 該指示部は,カート本体の直交する2つの中心軸線の夫々から一 側にすれてカート本体に配置されている【e】 指示部は目の不自由な者かカート本体を電話機に差し込む際,目 の不自由な者の指かふれる位置に配置されている【f】 テレホンカートてある
エ 本件考案の各構成要件と,上記被告製品の構成とを対比すると,次のとおりてある。
(ア) 被告製品は,電話機に差し込むことにより電話かかけられるテレホンカートてあるから,構成要件Aを充足する。
(イ) 本件考案ては「指示部」は「押型部」とのみ記載されており,その他については言及されておらす,被告製品は,本件考案の構成要件Bを充 足する。なお,そのくほみ(指示部)の形成について検討すると,被告製品の くほみの深さは,0.58mmから最大ても1.00mmてあり,長さ は,5.80mm~6.6mm(JIS規格ては6.00mm+-0. 02mmのため,最小値て5.80mm,甲10。別紙被告製品説明書 て6.6mm,乙5の1)の範囲内にある。しかるに,このような微細 なくほみは,切り取って形成することは困難てあるから,そのくほみの形成は,切断して切り取ったものてはなく,押圧して形成されたものて ある。したかって,被告製品のくほみ(指示部)は,押圧して形成された押 形部に該当する。(ウ) 本件訴えにおいては,構成要件Cについて改めて審理判断されるへき ところ,被告製品のくほみ(指示部)か構成要件Cに該当することは明 らかてある。すなわち,別件考案ては,「本考案における他の実施例」として,図 4,5を引用し「指示部2かカート本体1の外周縁から前記カート本体 1の内方向にくほんている内方向か平面的なカート本体1の中心方向 へ向かう実施例」として説明されている。そして,前記のとおり,別件考案は,本件実用新案権を原出願とする 分割出願てある以上,別件考案の範囲か本件実用新案権の請求の範囲に 含まれるものてあることは当然てある。したかって,本件考案の構成要件Cの「カート本体の内方向にくほん ている」というのか「カート本体を平面的にみて中心方向にくほんてい る指示部」を含んていることは明らかてある。被告製品のくほみ(指示部)か,カート本体を平面的に見て,中心方 向にくほんていることは,その形状から争う余地はない。したかって,被告製品か構成要件Cを充足することは明らかてある。
 (エ) 被告製品の構成dは,本件考案の構成要件Dと同してあり,構成要件Dを充足する。
(オ) 被告製品の構成eは,本件考案の構成要件Eと同してあり,構成要件Eを充足する。
(カ) 被告製品の構成fは,本件考案の構成要件Fと同してあり,構成要件Fを充足する。
オ 均等について 前記のとおり,被告製品のくほみ(指示部)は,押圧して形成された押形部に該当するものてあり,本件考案の構成要件Bを充足するか,仮に, 押圧して形成されたものてないとしても,結果として形成されたくほみ (指示部)は,押圧して形成された押形部と全く同し機能を果たすものて あり,作用効果を同一にする均等なものてあるから,被告製品か本件考案 の技術的範囲に該当することは明らかてある。(2) 原告の損害 被告か平成8年2月21日から平成11年9月5日まて被告製品(50度数,105度数)を販売したことにより得た売上高は,6000億円を 下らない(甲6)ところ,前々訴て請求したのは被告の売上高のうち57 00億円分についててあり,残りの300億円分については本訴において 請求てきる。
 相当の実施料率は,5%を下るものてはない。
以上から,原告は,被告に対し,少なくとも9億円の仮保護に基つく損 害賠償請求権を有する。よって,原告は,被告に対し,不法行為による民法709条,特許法1 02条3項に基ついて,損害賠償金9億円の一部請求として,100万円 及ひこれに対する不法行為の後の日てある訴状送達の日の翌日てある平成 25年6月13日から支払済みまて年5分の割合による遅延損害金の支払 を求める。
 〔被告の主張〕
 否認ないし争う。
第4 当裁判所の判断
1 一個の金銭債権の数量的一部請求は,当該債権か存在しその額は一定額を下 回らないことを主張して右額の限度てこれを請求するものてあり,債権の特定の一部を請求するものてはないから,請求の当否を判断するためには,おのす から債権の全部について審理判断することか必要になる。数量的一部請求を全 部棄却する旨の判決は,債権の全部について行われた審理の結果に基ついて, 当該債権か全く現存しないとの判断を示すものてあって,後に残部として請求 し得る部分か存在しないとの判断を示すものにほかならないから,金銭債権の 数量的一部請求訴訟て敗訴した判決か確定した後に,原告か残部請求の訴えを 提起することは,実質的には前訴て認められなかった請求及ひ主張を蒸し返す ものてあり,前訴の確定判決によって当該債権の全部について紛争か解決され たとの被告の合理的期待に反し,被告に二重の応訴の負担を強いるものとして, 特段の事情かない限り,信義則に反して許されないというへきてある。
 そして,この理は,訴訟物を異にするものの,債権の発生原因として主張する事実関係かほほ同一てあって,前訴等及ひ本訴の訴訟経過に照らし,実質的には敗訴に終わった前訴等の請求及ひ主張の蒸し返しに当たる訴えにも及ひ,その訴えも同様に信義則に反して許されないものというへきてある(上記平成10年最判参照)。
これを本件についてみると,前々訴は,被告か製造・販売しているテレホン カートの構成につき,「カート式公衆電話機に差し込むことにより電話かかけ られるテレホンカートて,縦の辺か横の辺に比して短い長方形てあって,表裏 ともに一様に平坦て,その一短辺には,その中央から一側に偏った位置に,一 つあるいは二つの半月状の切欠部か形成されており,この切欠部に手,指て触 れることにより,カートの表裏及ひ差込方向の確認をすることかてきるものて, この内,使用度数か五〇度数のものは切欠部か二個あり,使用度数か一〇五度 数のものは切欠部か一個ある」としていたところ,これは本件訴えにおける被 告製品の構成を含むものてある。そして,前々訴は,その被告製品か本件考案 の技術的範囲に属することを前提として,昭和59年9月5日以降,10年分 の被告製品の販売にかかる不当利得の返還を求めたものてあり,本件訴えは,被告製品か本件考案の技術的範囲に属することを前提として,平成8年2月2 1日から平成11年9月5日まての仮保護に基つく損害賠償請求てあるとする ところ,訴訟物を異にするものとしても,被告製品か本件考案の技術的範囲に 属することにより,原告の有する本件実用新案権か侵害されたことについては, 主張立証すへき事実関係はほほ同一てあって,被告製品は本件考案の技術的範 囲に属しないことを理由として原告か敗訴した前々訴の訴訟経過に加え,前訴 及ひ本件訴えの訴訟経緯にも照らすと,本件訴えは,被告製品か本件考案の技 術的範囲に属しないとして原告か全面的に敗訴した前々訴の請求及ひ主張の蒸 し返しに当たることか明らかてある。
 そうすると,本件訴えは,信義則に反し許されす,これを許容する特段の事 情かない限り,不適法として却下すへきこととなる。
2 原告の主張について
(1) この点に関して原告は,前々訴とは訴訟物か異なり,既判力の影響を受け ないから,一部請求後の残部請求には当たらない旨主張する。
 しかし,上記平成10年最判か判示するとおり,訴訟物か異なる場合てあ っても,債権の発生原因として主張する事実関係かほほ同一てあって,前訴 等及ひ本訴の訴訟経過に照らし,実質的には敗訴に終わった前訴等の請求及 ひ主張の蒸し返しに当たる訴えについては信義則に反し許されないと解され るところ,本件はこれに該当することについては上記検討のとおりてある。したかって,原告の上記主張は採用することかてきない。
(2) また,原告は,本件訴えは,前々訴において請求の根拠として明示された 範囲てある被告か売上けた5700億円に基つくものてはなく,6000億 円の売上に基つき,差額の300億円に関する損害賠償を請求するものてあ るから,先行訴訟て請求されなかった残部てはなく,残部請求に当たらないから許容される旨主張する。
 しかし,前々訴と本件訴えにおいて主張立証すへき事実関係はほほ同一て, その訴訟経過にも照らすと,本件訴えか前々訴の請求及ひ主張の蒸し返しに 当たり許されないことについては上記て検討したとおりてある。したかって,原告の上記主張は採用することかてきない。
3 上記のとおり,金銭債権の数量的一部請求訴訟て敗訴した原告か残部請求の訴 えを提起することは,特段の事情かない限り,信義則に反して許されないと解さ れるところ(平成10年最判参照),原告はこの特段の事情かある旨主張するのて,以下この点について検討する。
 金銭債権の数量的一部請求訴訟て敗訴した者による残部請求の訴えてあっても,これか信義則に反しないとする特段の事情とは,損害賠償請求訴訟において, 予想しかたい後遺症等による損害か後に生した場合や,原告か損害の一部につい てのみ立証したため棄却判決を受けた場合等,一部請求訴訟における審理の範囲 か必すしも債権全部に及はなかったような事情かある場合をいうものと解され る。そこて,以下,原告かこの特段の事情に当たるとして主張する具体的事実につ いて検討する。(1) ます,原告は,本件訴えについて,前々訴か最高裁平成13年10月16日決定により確定した後の平成22年2月24日に,本件実用新案権にかかる出 願から分割出願された別件考案か登録査定されたことにより,本件考案の指示 部の意義についても「カート本体の平面的な中心方向に向けて形成される場 合」か含まれることか明らかになったから,特段の事情かある旨主張する。別件考案は,前々訴か東京地方裁判所に係属した直後の平成11年12月2 0日に,当時,本件実用新案権にかかる考案についての出願について,出願公 告後の異議申立てを経て拒絶査定かされ,その不服審判請求の審理中てあった 本件考案について,そこから分割出願され,平成22年2月24日に登録査定 かされたものてある。しかし,本件実用新案権にかかる出願からの分割出願について,前々訴の確定後に登録査定に至ったとしても,その事実は,本件実用新案権の侵害の有無 についての前々訴の審理の範囲か一部に限られたことを何ら裏付けるものて はないから,原告主張の事由はおよそ特段の事情とはなり得ないというへきて ある。加えて,前々訴は,本件考案につき,本件実用新案権か分割出願された原出 願からの分割過程等を詳細に考慮しており,前々訴における審理の範囲か請求 権の範囲全部に及はなかったような事情かあるとは到底認められない。したかって,原告の上記主張は採用することかてきない。
(2) また,原告は,前々訴においては,「カート本体の平面的な中心方向に向けて形成されている場合」か考慮されていないため,被告製品のくほみ(指示部) かとのような形状てあるかは,主要な争点となっておらす,この点について, 実質的な判断は下されていないから特段の事情かある旨主張する。しかし,上記第2,1(3)記載のとおり,原告は被告の製造販売していたテ レフォンカートにつき切欠き部か0.58mmてある旨の証拠等を提出するな と,被告製品のくほみの形状について,十分な主張立証の機会を与えられてい たものてあり,上記のような主張は前々訴における主張の蒸し返しにほかなら ないというへきてあるから,原告主張の事由は何ら特段の事情に当たるものて はない。
 したかって,原告の上記主張は採用することかてきない。
4 結語
以上のとおり,本件訴えは信義則に反し許されないから,不適法として却 下すへきものてある。
 よって,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
裁判官
裁判官
東海林 保
今井弘晃
実本滋

(別紙)
被告製品説明書
1 名称 テレホンカート
2 別紙図面(以下「図面」という。)の簡単な説明
 図面は平面図てある。
3 図面の符号の説明
 1はカート本体
 2は指示部
 3は押形により形成されたへこみ部
 4はカート本体の外周縁
 5はカート本体の内方向を示す矢印
 6は直交する2つの中心線
4 被告製品の構造の説明
 図面に示すように,電話機に差し込むことにより電話かかけられるテレホンカートてあって, カート本体1の一部に,電話に差し込む方向を指示するための押形により形成される切り込みにより形成されるくほみてある指示部2を有しており, 指示部2は,カート本体の外周縁4からカート本体1の内方向5にくほんてい るとともに指示部2は,カート本体の直交する2つの中心軸線6の夫々から一側にすれてカート本体1に配置されており, 指示部2は目の不自由な者かカート本体1を電話機に差し込む際に目の不自 由な者の指かふれる位置に配置されている
 ことを特徴とするテレホンカートてある。
(別紙図面添付省略)
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