平成25年8月30日判言渡 同日原本領収 裁判所書記官 平成24年(行ウ)第279号 手続却下処分取消等請求事件 口頭弁論終結日 平成25年5月29日判 アメリカ合衆国,ニューシャーシー州<以下略>
原 告 ヒーエーエスエフ,カタリスツ, エルエルシー
同特許管理人弁理士 高 見 和  東京都千代田区<以下略>
被告国 処分行政庁特許庁長官 被告指定代理人中野康典 同 加藤誠一 同 佐藤一行 同 上田智子 同 河原研治主文
 1 原告の請求をいすれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判に対する控訴のための付加期間を30日と定める。
事実及ひ理由
第1 請求
1 特許庁長官か,原告のした国際特許出(特2010-545819)に係る手続について,平成23年3月15日付けて原告に対してした,平成22 年8月4日付け提出の国内書面に係る手続の却下の処分,及ひ,同日付けて原 告に対してした,平成22年10月8日付け提出の翻訳文に係る手続の却下の処分を,いすれも取り消す。
2 特許庁長官か,平成23年10月26日付けて原告に対してした,平成23年5月20日付けてされた異議申立てについて,異議申立てを棄却するとの定を取り消す。
 第2 事案の概要
本件は,原告か,「千九百七十年六月十九日にワシントンて作成された特許 協力条約」(以下「特許協力条約」という。)に基ついて行った国際特許出 について,特許庁長官に対し,国内書面及ひ翻訳文提出書を提出したところ, 特許庁長官から,1国内書面に係る手続の却下処分,2翻訳文提出書手続の却 下処分,3各却下処分に対する異議申立ての棄却定をされたことから,各処 分の取消しを求める事案てある。1 前提となる事実(争いのない事実以外は証拠等を末尾に記載する。) (1) 当事者原告は,アメリカ合衆国ニューシャーシー州に本店を有する外国法人てあ り,特許法8条の規定による特許管理人を選任している。(2) 本件各処分かなされた経緯
ア 原告は,特許協力条約に基つき,平成21年2月5日(国際出日)に,オランタ特許庁を受理官庁とし,平成20年2月5日を優先日(特許協力 条約2条(xi))として,外国語(英語)て国際出(PCT/NL20 09/050051)をし,同出は,特許協力条約4条(1)(ii)の 指定国に日本国を含んていたことから,特許法(平成23年法律第63号 による改正前のもの。以下,単に「法」という。)184条の3第1項 の規定により,当該国際出日にされた特許出(特2010-545 819号。以下「本件国際特許出」という。)とみなされた。イ 原告は,本件国際特許出について,法184条の5第1項に規定され た国内書面(甲1。以下「本件国内書面」という。)を,法184条の4第1項の規定による国内書面の提出期間内てある平成22年8月4日に提出した。
ウ 原告は,本件国際特許出について,法184条の4第1項に規定する細書,請求の範囲,図面及ひ要約の日本語による翻訳文に係る翻訳文提 出書(甲3。以下「本件翻訳文提出書」という。)を,法184条の4 第1項たたし書きによる翻訳文提出特例期間(平成22年8月4日から同 年10月4日まて)満了の4日後てある平成22年10月8日に提出した。エ 特許庁長官は,原告に対し,平成22年12月20日付けて,本件翻訳 文提出書の提出に係る手続については,翻訳文提出特例期間経過後の提出 てあり,不適法なものてあることから却下となる旨の却下理由通知書(甲 2。以下「本件翻訳文提出書却下理由通知書」という。)を,本件国内 書面の提出に係る手続については,本件国際特許出は,翻訳文か提出さ れなかったことにより,取り下けられたものとみなされており,本件国内 書面は不要な書類となるため却下となる旨の却下理由通知書(甲4。以 下「本件国内書面却下理由通知書」という。)を,それそれ通知した。オ 原告は,特許庁長官に対し,平成23年2月4日付けて本件翻訳文提出 書に係る手続について,同月7日付けて本件国内書面に係る手続について, それそれ弁書(甲5,7)を提出した。カ 特許庁長官は,平成23年3月15日付けて,本件翻訳文提出書の提出 に係る手続について,本件翻訳文提出書却下理由通知書に記載した理由に より却下する処分(甲6。以下「本件翻訳文提出書却下処分」とい う。)をし,本件国内書面の提出に係る手続についても,本件国内書面 却下理由通知書に記載した理由により却下する処分(甲8。以下「本件 国内書面却下処分」といい,本件翻訳文提出書却下処分と併せて「本件 各却下処分」という。)をした。キ 原告は,平成23年5月20日付けて,本件各却下処分の取消しを求めて,特許庁長官に対して異議申立て(甲9。以下「本件異議申立て」という。)を行った。
ク 特許庁長官は,平成23年10月26日付けて,本件異議申立てを棄却する旨の定(甲10の1。以下「本件異議定」という。)を行い,同定書は,同月27日に原告に送達された(乙1)。
ケ 原告は,平成24年4月26日付けて,本件各却下処分及ひ本件異議定の各取消しを求めて,本件訴訟を提起した。
 2 争点及ひ争点に対する当事者の主張(争点)
原告に対して補正を命することなく行われた本件各却下処分及ひ本件異議 定か違法か否か。(原告の主張)
(1) 原告の特許管理人の所属する特許事務所においては,期限管理担当弁理士責任者(正)を置き,期限管理担当弁理士責任者(正)と期限管理担当責 任者(副)によるタフルチェック体制を取っている。本件事案に関しては,平成22年8月4日に本件国内書面を提出し,併せ てテータシートを作成し,その際,次回期限(翻訳文提出期限)を同年10 月8日と記載した。期限管理担当弁理士責任者(正)てあり,本件事案処理 担当責任者てある弁理士Aか平成22年10月1日から同月15日まて入院 するという非常事態になり,さらに,期限管理担当責任者(副)か,妻の病 気,入院そして逝去(10月5日),通夜(10月7日),告別式(10月 8日)というさらなる非常事態か発生し,今回の事態を招くことになったの てある。本件事案については,期限管理担当弁理士責任者(正)か本件事案の包袋 (ファイル)を自宅に置いたまま入院することになり,期限日について,現 物包袋(ファイル)との照合対応チェックかてきす,期限日は10月8日として期限管理を含む全ての事務処理か進行し,10月6日には特許管理人事 務所職員かA宅を訪問し,翻訳文を入手,10月8日に特許庁に本件翻訳文 提出書の提出となった。特許管理人事務所においては,本件を含め事案全体の処理に権利の回復の 主観的要件てある「全ての相当な注意」を払うところの注意義務基準を確立 した上て,日頃の業務の遂行に当たっている。本件,当該期間を遵守てきなかった理由として,法112条の2,121 条2項,173条2項に規定されている趣旨,及ひ近く批准される特許法条 約(PLT)12条の趣旨に照らして,「責めに帰することかてきない理 由」として本件翻訳文提出書の提出については権利の回復かなされてしかる へきものてある。(2) 特許庁長官は,本件国内書面について,法184条の5第2項1号の規 定により,原告に補正の機会を与えなけれはならなかった。しかしなから,特許庁長官は,法184条の5第2項,法184条の4第 3項の解釈・適用を誤り,原告に補正を命しなかったものてあるから,その 結果された本件各却下処分(及ひそれを追認した本件異議定)は違法てあ り,取消しを免れない。法184条の5第2項は,補正を命するか否かを特許庁長官の自由な裁量 に委ねたものてはなく,第三者の利益を害する等の特段の事情かない限り, 補正を命すへき義務を特許庁長官に課したものてある。(3) 法184条の5第2項は,特許庁長官に補正を命する義務を課したもの てあるから,翻訳文未提出の外国語特許出については,同項と法184条 の4第3項とか対立・矛盾する関係にあり,そのいすれか優先するかは,特 許協力条約の要請,国内書面及ひ細書等の翻訳文の意義を検討すること によって判断すへきてある。ア 法184条の4第3項は,特許協力条約22条,24条(1)(iii)等に由来するものてあるか,条約は締約国に対し,翻訳文未提出による国際特 許出の取下擬制等を強く求めているのてはない。むしろ,22条(3), 24条(2),特許協力条約に基つく規則(以下「条約規則」という。) 49.6に象徴されるように,翻訳文の提出期間を緩和して国際特許出 をなるへく維持することを要請しているのてある。したかって,条約の要 請を踏まえてみると,法184条の4第3項は,優先日から2年6月以内 に翻訳文の提出かなかった外国特許出について取下擬制することを至上 命題とするものてはなく,これと対立・矛盾する規定よりもその適用にお いて劣後することもあり得るといえるのてある。イ 国内書面と翻訳文の意義について考えると,国内書面は,国内出の束 てある国際出について日本への移行を正式に表するものてあって, 書としての役割も担うものてある。出人かとの締約国て特許権を取得し ようとしているのかについて国際出段階てはらかてなく,国内書面こ そか日本ての特許権取得の意思を表示するものとして重要てある。法18 4条の4第3項を法184条の5第2項に優先して適用すると,法か提出 時期の厳格性を減殺して尊重していたはすの国内書面の提出の機会か,従 たる翻訳文の未提出により意味もなく妨けられることになり,条約の要請 にも法の要請にも沿わない本末転倒な結果を招来する。ウ これらを検討すれは,翻訳文未提出の外国語特許出に係る国内書面提 出手続については,法184条の5第2項を優先して適用すへきてあり, その限りにおいては,法184条の4第3項は劣後すると解釈すへきてあ る。(被告の主張)
(1) 本件翻訳文提出書却下処分か適法てあること
本件国際特許出については,原告から,特許庁長官に対し,平成22年 8月4日付けて,本件国内書面か提出されたことから,その翻訳文の提出期間については,法184条の4第1項に規定する翻訳文提出特例期間か適用 されるため,本件国内書面の提出の日から2か月以内の同年10月4日まて てあったところ,本件翻訳文提出書は,翻訳文提出特例期間を経過した後の 平成22年10月8日付けて提出されたものてある。したかって,本件翻訳文提出書の提出に係る手続は,翻訳文提出特例期間 経過後になされた不適法なものてあって,その補正をすることかてきないも のてあるから,法18条の2の規定による却下処分を免れない。(2) 本件国内書面却下処分か適法てあること 本件国際特許出については,翻訳文提出書を提出すへき期間てある平成22年10月4日まてにその提出かされなかったのてあるから,法184条 の4第3項の規定により,取り下けられたものとみなされる。したかって,本件国内書面は,取り下けられたものとみなされた既に特許 庁に係属していない国際特許出について提出された不要な書類てあり,本 件国内書面の提出に係る手続は,不適法なものてあって,その補正をするこ とかてきないものてあるから,法18条の2の規定による却下処分を免れな い。(3) 本件異議定に違法性かないこと 法は裁主義を採用していないから,本件は,本件異議申立てに係る処分(本件各却下処分)の取消しと本件異議定の取消しの訴えとを提起するこ とかてきる場合に当たる。処分の取消しの訴えとその処分についての審査請求を棄却した裁の取消 しの訴えとを提起することかてきる場合には,裁の取消しの訴えにおいて は,処分の違法を理由として取消しを求めることかてきないとされており (行政事件訴訟法10条2項),裁中の実体的判断部分を違法事由として 主張することは禁止されていることから,本件異議定の取消原因となり得 る違法事由は,裁固有の瑕疵に限られるものとなる。原告は,本件各却下処分についての違法事由を主張するのみて,本件異議 定を取り消すへき事由,すなわち,本件異議定の固有の瑕疵を何ら主張 しておらす,主張自体失当てある。(4) 原告の主張について
ア 原告は,法に翻訳文提出書の提出期限不遵守の救済規定か存在しないのは事実てあるか,法の趣旨に照らせは、特許庁長官の運用において救済さ れるへきものてあるというもののようてある。しかし,法184条の4第3項は,国内書面提出期間(翻訳文提出特例 期間を含む。)内に細書等の日本語による翻訳文の提出かなかったとき は,その国際特許出は取り下けられたものとみなす旨を確に規定して いる。このように法か確にその効果として「取り下けられたものとみな す」と規定している出について,特許庁長官か,法文上の根拠なくその 裁量により,法的効果を左右てきるものてないことはいうまてもない。すなわち,既に取り下けられたものとみなされ,特許庁に係属していな い本件国際特許出について提出された本件翻訳文提出書について,特許 庁長官か,却下以外の何らかの処分を行うこと自体,違法な行政手続・行 政行為てあって,許されないことはらかてあるから,原告の主張は,失 当てある。イ 我か国においても,国際出制度の国際調和の観点から,平成23年法 律第63号による特許法等の一部改正により,特許法184条の4第4項 等の規定を改正し,翻訳文提出期間を徒過した場合の救済制度を導入しつ つ,改正附則2条か経過措置を設けているところ,同条25項において, 外国特許出の翻訳文提出期間を徒過した場合の救済に係る規定(改正後 の特許法184条の4第4項等)は,同改正の施行日てある平成24年4 月1日前に翻訳文提出期間か満了し,取り下けられたものとみなされた国 際特許出については適用しないとしているところてある。これは,上記救済制度は,翻訳文の未提出により,みなし取下けとなった特許出を回 復するものてあり,同改正か施行される前に既にみなし取下けとなってい る特許出についてまて回復を認めることは,法的安定性を害し適当ては ないとの考えに基ついている。このように,翻訳文提出期間を徒過した場合の救済に係る規定かおかれ た改正法の附則において,法的安定性を害することは適当てないとして, その救済規定を遡って適用することはてきないとされているのてあって, 救済規定かおかれていない改正前特許法の下て、特許庁長官かその運用に おいて救済を図ることを法か許容していたなととはおよそ解し得ない。ウ また,原告は,翻訳文未提出の外国語特許出については,法184条 の5第2項と法184条の4第3項とか矛盾する関係にあると主張するか, そもそも,法184条の5第2項と184条の4第3項とか矛盾する関係 なとない。すなわち,2つの条文か矛盾するなととする原告の主張は,翻訳文か提 出されなかったため,法184条の4第3項の規定により,取り下けられ たものとみなされた外国語特許出てあっても,法184条の5第1項に 規定する書面(国内書面)か提出されなかったものについては,同条2項 1号か,特許庁長官か出人に対しその提出を命するへきことを定めてい るとの解釈を前提にしていると解される。しかし,外国語特許出にあっては,国内書面提出期間(翻訳文提出特 例期間を含む。)内に,細書等の日本語による翻訳文の提出かなかった ときは,その外国語特許出は,法184条の4第3項の規定により,取 り下けられたものとみなされることから,外国語特許出の場合は,所定 の期間内に翻訳文か提出されていることか,法184条の5第2項1号の 補正命令の対象となるための前提てあって,翻訳文未提出の外国語特許出 について,同号の規定か適用されることはない(東京地方裁判所平成21年(行ウ)第590号・平成22年7月16日判・乙3,知的財産高 等裁判所平成22年(行コ)第10003号・平成22年11月30日判 ・乙4)。したかって,原告の主張は,法184条の5第2項の解釈を全く正解し ない独自の見解に基つくものてあり,失当てある。第3 当裁判所の判断
1 本件異議定の違法性について
(1) 処分の取消しの訴えとその処分についての審査請求を棄却した裁の取 消しの訴えとを提起することかてきる場合には,裁の取消しの訴えにおい ては,処分の違法を理由として取消しを求めることかてきない(行政事件訴 訟法10条2項)。(2) しかるに,原告は,本件異議定の取消請求において,原処分てある本 件各却下処分の違法のみを主張し,本件異議定の手続的違法なとの裁固 有の瑕疵を主張しないから,本件各却下処分に違法かあるか否かにかかわら す,本件異議定の取消請求は主張自体失当てある。2 本件翻訳文提出書却下処分の違法性について
(1) 法184条の4第1項は,外国語特許出の出人は,優先日から2年6か月の国内書面提出期間内に,細書,請求の範囲,図面及ひ要約の日本 語による翻訳文を,特許庁長官に提出しなけれはならないと規定し,同項た たし書において,国内書面提出期間満了の2か月前から満了の日まての間に, 法184条の5第1項に規定する国内書面を提出した外国語特許出につい ては,国内書面の提出の日から2か月の翻訳文提出特例期間以内に,当該翻 訳文を提出することかてきると規定している。そして,法184条の4第3 項は,国内書面提出期間又は翻訳文提出特例期間内に,細書の翻訳文及ひ 請求の範囲の翻訳文(細書等の翻訳文)の提出かないときは,その国際特 許出は取り下けられたものとみなすと規定している。法184条の5第2項は,同条1項の規定する国内書面(1号)のほかに も,法184条の4第1項の規定により提出すへき翻訳文のうち,要約の翻 訳文(4号)については,国内書面提出期間の徒過を補正命令の対象として いるか,細書等の翻訳文を含むその他の翻訳文については,補正命令の対 象としていない。このような法184条の5と法184条の4の規定を併せて読めは,外国 語特許出につき細書等の翻訳文か国内書面提出期間内に提出されない場 合には,その国際特許出は,法184条の4第3項により,取り下けられ たものとみなされることになり,事件か特許庁に係属しないこととなるから, 当該国際特許出について,法184条の5第2項の規定による補正命令か 問題となる余地かないことは,らかてある。(2) これを本件についてみると,前提となる事実のとおり,国内書面の提出 後2か月の翻訳文提出特例期間内に,翻訳文の提出はなかったのてあるから, 法184条の4第3項の規定により,本件国際特許出は,取り下けられた ものとみなされることになる。そのため,本件国際特許出は,事件か特許 庁に係属しないこととなり,法184条の5第2項の規定による補正命令た けてなく,手続の補正か問題となる余地はないから,特許庁長官か本件国内 書面本件翻訳文の提出を求めるなとの手続の補正を認める余地はないとい うへきてある。したかって,翻訳文提出特例期間後に提出された本件翻訳文提出書は,取 り下けられたものとみなされる本件国際特許出について提出された不適法 な手続てあって,その補正をすることかてきないものてあるから,法18条 の2第1項の規定により,その手続を却下すへきものてある。よって,原告に補正の機会を与えすに特許庁長官かした本件翻訳文提出書 却下処分は,適法てある。(3) 原告の主張について
ア 法184条の5第2項及ひ法184条の4第3項の解釈について 原告は,法184条の5第2項か特許庁長官に補正を義務付けるものて あるとの解釈を前提に,法184条の5第2項と法184条の4第3項と の間に対立・矛盾かあり,特許庁長官は,法184条の5第2項を優先して適用し,補正を命すへきてあったと主張する。
 しかし,法184条の5第2項は,「手続の補正をすへきことを命することかてきる。」と規定しており,その文言に照らして,手続の補正をす へきことを命することを特許庁長官に義務付けたものてないことはらか てある。そして,前記(1)て述へたとおり,法184条の5第2項は,国内書面 (1号)要約の翻訳文(4号)の提出期間徒過については補正命令の対 象としているのに対して,細書等の翻訳文の提出期間徒過については補 正命令の対象としておらす,法は,細書等の翻訳文か国内書面提出期間 内に提出されない場合には,法184条の4第3項により,当該国際特許 出か取り下けられたものとみなされ,補正の余地かないことを前提に, 法184条の5第2項の補正命令の対象となる範囲を定めているものと解 される。したかって,法184条の5第2項1号は,法184条の4第1項に規 定する翻訳文のうち,細書等の翻訳文か同項に規定する提出期間内に提 出されていない場合には,適用されないと解するのか相当てあって,法1 84条の5第2項と法184条の4第3項との間に対立・矛盾はないと解 され,本件において,法184条の5第2項を適用する余地はないから, 原告の前記主張は,採用することかてきない。イ 特許協力条約の要請について
(ア) 原告は,特許協力条約は,同条約22条(3),24条(2),条約規則49.6に象徴されるように,翻訳文提出期間を緩和し,国際出を維持することを要請していることから,法184条の4第3項は,同項と矛盾する規定よりも,その適用において劣後すると主張する。
 (イ) しかしなから,特許協力条約は,出人は,優先日から30か月以内に国際出の写しと所定の翻訳文を提出することとし(22条 (1)),当該期間内にこれらを提出しなかった場合には,国際出の 効果は,当該指定国における国内出の取下けの効果と同一の効果をも って消滅する(24条(1)(iii))と規定しているから,法184条 の4第3項は,何ら特許協力条約の規定に違反するものてはない。そして,特許協力条約22条(3)は,締約国の裁量として,翻訳文 等の提出期間の満了日を特許協力条約の定めよりも遅くするように国内 法令て定めることかてきるとするものてあって,国内法令においてこの ような措置を講することを締約国に義務付けていないことは,その文言 に照らして,らかてある。また,同条約24条(2)も,同条(1)の規定(国際出の効果か, 国内出の取下けと同一の効果をもって消滅すること)にかかわらす, 指定官庁か,国際出の効果を維持することかてきるとするものてあっ て,指定官庁か当該効果を維持することを義務付けるものてはないこと も,また,らかてある。したかって,特許協力条約は,同条約て定める範囲以上に,翻訳文の 提出期間を緩和して,国際出の効果を維持するものとして取り扱うか 否かは,各締約国及ひ指定官庁の判断に委ねていると解されることから, これらの特許協力条約の規定をもって,この判断の結果てある法の規定 の範囲を超えて,国際出の効果を維持するように法の規定を解釈すへ き理由はない。(ウ) 平成23年法律第63号による改正後の特許法184条の4第4項 は,「前項の規定により取り下けられたものとみなされた国際特許出の出人は,国内書面提出期間内に当該細書等翻訳文を提出すること かてきなかったことについて正当な理由かあるときは,その理由かなく なった日から2月以内て国内書面提出期間の経過後1年以内に限り, 細書等翻訳文並ひに第1項に規定する図面及ひ要約の翻訳文を特許庁長 官に提出することかてきる。」と規定し,同改正後の同条5項は,「前 項の規定により提出された翻訳文は、国内書面提出期間か満了する時に 特許庁長官に提出されたものとみなす。」と規定して,翻訳文提出につ いても救済制度か設けられている。しかし,同改正は,改正附則2条25項により,同改正の施行日てあ る平成24年4月1日前に翻訳文提出期間か満了し,取り下けられたも のとみなされた国際特許出については適用しないとされているから, 本件においては同改正の適用はない。また,同改正は,改正前の規定それに基つく運用か,特許協力条約 の規定趣旨に反していたことを示すものてはない。特許協力条約は, 同条約て定める範囲以上に,翻訳文の提出期間を緩和するか否かは,各 締約国及ひ指定官庁の判断に委ねていると解されることは前記のとおり てある。(エ) 以上のことから,特許協力条約22条(3),24条(2),条約 規則49.6(a)ないし(e)に象徴される特許協力条約の要請を考 慮して,法184条の4第3項の規定の適用を劣後させるへきてあると の原告の主張は,理由かない。ウ 国内書面と細書等の翻訳文の意義について 原告は,国内書面は書としての役割を担うものて,重要てあり,これについては補正か認められているのに対し,細書等の翻訳文は,国内書 面に対して従たるものにすきないとして,従たる書面てある細書等の翻 訳文の未提出により,国内書面の提出の機会か妨けられるのは,本末転倒てあると主張する。 しかしなから,国際特許出において書としての性質を有するのは,国際特許出に係る書てあって,国内書面てはない(法184条の3第 1項,184条の6第1項)。また,細書等の翻訳文は,特許協力条約 上,その提出を義務付けられている書面てある(同条約22条(1))の に対し,国内書面は,同条約上,その提出を義務付けられている書面ては ない(同条約22条(1)後段,27条(1)参照)。このような同条約 の規定法の規定に照らして,細書等の翻訳文か国内書面の従たる書面 てあると認めることはてきない。したかって,原告の前記主張は,理由かない。
エ 以上のとおり,特許協力条約の規定国内書面及ひ細書等の翻訳文の意義に照らしても,法184条の5第2項か特許庁長官に補正を義務付け たものてあって,細書等の翻訳文か未提出の外国語特許出については, 同項と法184条の4第3項とか対立・矛盾する関係にあるとして,法1 84条の5第2項を優先して適用すると解すへき理由はないから,原告の 主張は,採用することかてきない。3 本件国内書面却下処分の違法性について 上記のとおり,翻訳文提出特例期間内に翻訳文か提出されなかったことにより本件国際特許出は取り下けられたものとみなされるから,本件国内書面は, 取り下けられたものとみなされた国際特許出について提出された不要な書類 てあり,本件国内書面の提出に係る手続は,不適法なものてあって,その補正 をすることかてきないものてあるから,法18条の2第1項の規定により,そ の手続を却下すへきものてある。よって,特許庁長官かした本件国内書面却下処分は,適法てある。
 4 結論よって,原告の請求はいすれも理由かないから,主文のとおり判する。東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官
裁判官
裁判官
大須賀 滋
小川雅敏
西村康夫
16
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