主文
1 被告は,原告らに対し,それそれ3247万7752円及ひこれに対する平成18年11月22日から支払済みまて年5分の割合による金員を支払え。
2 原告らのその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを10分し,その7を被告の負担とし,その余を原告らの負担とする。
4 この判決の第1項は,本判決か被告に送達された後14日を経過したときは,仮に執行することかてきる。たたし,被告か,原告らに対 し,各3000万円の担保を供するときは,それそれその仮執行を免 れることかてきる。事実及ひ理由
第1 請求の趣旨 被告は,原告らに対し,それそれ4600万0697円及ひこれに対する平成18年11月22日から支払済みまて年5分の割合による金員を支払え。
 第2 事案の概要本件は,亡Aの父及ひ母てある原告らか,被告に対し,陸上自衛隊員てあっ た亡Aか徒手格闘訓練中に意識を失って死亡したことについて,指導教官等に 安全配慮義務を怠った過失かある等と主張し,国家賠償法1条1項(予備的に 債務不履行)に基つく損害賠償を求めた事案てある(附帯請求は,亡Aの死亡 日を起算日とする遅延損害金の支払請求)。1 前提となる事実(争いかないか,後掲証拠等により容易に認められる事実) (1) 当事者等ア 亡Aは,原告B及ひ原告C夫婦の長男として昭和61年8月28日に出 生した者てあり,高校卒業後の平成17年3月24日,陸上自衛隊に入隊 した(争いかない)。Aは,2等陸士として第1混成群(那覇駐屯地)に教育入隊(新隊員前期過程)し,さらに,同年7月1日,北部方面輸送隊 (真駒内駐屯地)に教育入隊(新隊員後期過程)したか,同年11月2日, 第11後方支援連隊輸送隊(以下「輸送隊」という。)に操縦手として配 置され,平成18年1月1日,1等陸士に昇任した(乙1)。イ Aか所属していた平成18年11月当時の輸送隊には,輸送隊長として D2等陸佐,火器化学陸曹としてE3等陸曹,操縦手としてF陸士長らか 所属していた(甲6の1)。(2) 徒手格闘の概要等
ア 陸上幕僚監部か昭和58年9月に作成した陸自教範「格闘」には,徒手格闘について,概ね,以下のような記載かある(乙4)。
(ア) 徒手格闘は,当身技,投け技,関節技及ひ絞め技を総合的に駆使し,旺盛な闘志をもって,敵を殺傷し,又は捕獲する戦闘手段てある。
 (イ) 当身技は,格闘訓練の主体をなす技て,相手の急所を突き,打ち, 又は蹴る方法てあり,技の種類として,直突き,横打ち,蹴り,連撃,受け及ひ反撃かある。 投け技は,相手と自分の間合いか著しく接近した場合や,組み打ちによって相手を投け倒し,当身技,関節技及ひ絞め技をより効果的に行う ためのものてあり,技の種類として足技(大外刈り,外(内)掛け), 腰技(大腰,首投け),手技(背負い投け)かある。関節技は,関節の弱点を利用して,相手の動きを制しなから,相手を 倒し押さえる方法てあり,絞め技は,投け技及ひ関節技と連係し,相手 の頸動脈及ひ気管を絞めることによって相手を制する方法てある。(ウ) 受け身は,投けられたり,倒された場合,体か受ける衝撃を緩和さ せるための護身の方法てあり,後受け身,横受け身及ひ前回り受け身か ある。受け身の訓練の実施順序は,(a)低い姿勢から,次第に高い姿勢て実施する,(b)当初はその場て実施し,次第に移動して行う,(c)緩やかな度から,次第に度を増すものとする。
(エ) 徒手格闘の訓練の方法としては,空間訓練(堅確な姿勢及ひ動作を習得させるため,主として当身技を単独動作て行う基本的な訓練),約 束訓練(技やさはきの内容及ひ順序を指定して行わせることにより,技 の基本的要領及ひ攻防の理論を習得させるため,対人動作て行う訓練), 仮標訓練(当身,刺突等の実感を体得させ,自身を養成する訓練),試 合教習(防具を装着して対人動作により,実際に当身技,投け技及ひ関 節技を総合的に駆使し,攻防の要領を習得させる訓練),試合(互いの 全能力を発揮して勝敗を争うことにより,格闘に習熟させる訓練)かあ る。(オ) 徒手格闘の訓練は,通常,当身技を習得した後,投け技,関節技, 試合教習,試合及ひ絞め技の順序て実施し,投け技は,構え・さはき及 ひ受け身を習得してから,主として約束訓練により,概ね足技,腰技, 手技の順序て実施する。イ 陸上自衛隊においては,全隊員か徒手格闘訓練の対象となっており,各 隊員の練度を図る指標として,徒手格闘検定か実施されていた。徒手格闘 検定は,3級,2級,1級及ひ特級の4段階に区分されており,3級は, 新隊員としての教育期間中に取得するとされ,部隊配置後は,主に各部隊 か,それそれ所属の隊員に対し,通常2年以内に2級を受検てきる練度に まて到達させるように教育し,2級取得後,各隊員は,職種や自らの技能 等に応して,より上級の1級及ひ特級の検定を各隊員ことに受検し,技能 に応した級を付与されていた。(以上につき弁論の全趣旨)徒手格闘検定2級を取得するため要求される技能は,当身技を単独て決 められた順序に従い実施することかてきるという程度て足り,検定を受け たほほ全ての陸上自衛隊員か2級を取得していた(証人E)。(3) Aの徒手格闘訓練への参加等について
ア Dは,「隊武道練成訓練に関する第11後方支援連隊輸送隊一般命令」(11後支援連輸般命第100号18.11.13)により,徒手格闘練 成要員に対し,練成訓練を実施して,技量及ひ精神力の錬磨向上を図ると ともに,連隊武道競技会の必勝を期すことを目的に,平成18年11月1 3日から同競技会の開催日(同月29日)の前日まて,Eを指導教官,F 及ひAを養成要員として,徒手格闘の訓練を実施するよう命した(以下「本 件命令」という。)。本件命令においては,訓練内容の細部を指導教官か 計画することとされ,安全に関する直接指導,安全点検の実施,養成要員 の健康状態の把握及ひ実施場所の事前点検等の安全管理も,指導教官か行 うこととされていた。(以上につき甲3,弁論の全趣旨)イ 平成18年11月当時,Eは,徒手格闘検定1級(平成17年4月8日 付け),銃剣道2段,少林寺拳法2段,空手初段,剣道初段を取得してお り,従前,輸送隊の徒手格闘検定における検定官の補佐や競技会のための 練成訓練において指導教官の補佐(助教)をしたことかあったか,指導教 官を務めたことはなかった(甲6の1・2,乙19)。Fは,徒手格闘検定2級(平成17年3月10日付け)を取得していた か,従前,投け技と受け身の訓練をしたことはなかった(甲6の1・2, 乙20)。Aは,徒手格闘検定2級(平成18年3月17日付け)を取得していた か,従前,練成訓練及ひ競技会へ参加したことはなかった(甲6の1・2)。ウ E,F及ひAは,本件命令の前てある平成18年11月6日から徒手格 闘訓練を開始した(甲6の1)。Aは,平成18年11月21日の訓練(以下「本件訓練」という。)中 に意識を失い,自衛隊札幌病院に搬送された後,医療法人医仁会中村記念 病院(以下「中村記念病院」という。)に搬送され,同月22日,死亡した(争いかない)。
(4) Aに対する司法解剖の結果
平成18年11月23日,北海道大学医学部法医学教室解剖室において, Aに対する司法解剖か行われ,同年12月26日,担当医による鑑定書(以 下「本件鑑定書」という。)か作成された(甲16)。本件鑑定書には,死因は,外傷性硬膜下血腫及ひクモ膜下出血(外因死) と考えられる,損傷として,(ア)左頬部及ひ鼻尖部の表皮剥脱,(イ)下口唇 の挫創及ひ下顎切歯の脱落,(ウ)前胸部及ひ両側胸部の皮下出血,(エ)左第 4肋骨及ひ第6肋骨の骨折,(オ)右胸部後面及ひ第8肋骨周囲の肋間筋出血, (カ)両側腸骨部の皮下出血,(キ)肝鎌状間膜の裂開並ひに肝臓下面の裂創及 ひ腹腔内出血,(ク)両肩部前面の皮下出血,(ケ)左肘窩の皮下出血,(コ)背 胸上部の皮内出血,(サ)両膝部の皮下出血,(シ)硬膜下血腫及ひクモ膜下出 血,右側頭葉鉤部及ひ右側小脳扁桃の脳ヘルニア並ひに脳幹部2次性出血か 認められる旨の記載かある(甲16)。(5) 訴えの提起 原告らは,平成22年8月3日,本件訴えを提起した(記録上明らかな事実)。
2 争点及ひ当事者の主張
本件の争点は,(1)E,D及ひFの行為の国家賠償法1条1項上の違法性及 ひ故意・過失の有無(予備的に被告の債務不履行の有無),(2)原告らの損害 の有無及ひ額,(3)同項に基つく損害賠償請求に係る消滅時効の成否てある。
 (1) E,D及ひFの行為の国家賠償法1条1項上の違法性及ひ故意・過失の有無(予備的に被告の債務不履行の有無) (原告らの主張)
ア 安全に配慮すへき注意義務違反について
(ア) 徒手格闘は,投け技等の攻撃を相手に施して,強力な敵を素手て制圧することを目的とする格闘技てあり,生命身体の損傷につなかる危険 性か極めて高いものてあるから,徒手格闘訓練に関わる者は,常に安全 面に配慮し,事故の発生を未然に防止すへき注意義務を負う。(イ) Aは,中学校及ひ高校ては吹奏楽部に所属し,運動の経験か乏しく, 運動能力も低かった。Aは,徒手格闘検定2級を取得してはいるか,練 成訓練としては,平成18年11月6日に初歩的な防具の装着要領を習 うところから始まり,同月9日及ひ10日の零細時間を利用した短時間 の簡単な訓練や,同月21日まてに計3回にわたる当身技や投け技等の 訓練を受けたたけてあった。また,受け身のみの訓練は,同月17日に 1日行われたのみてあり,同日指導に当たったDは,A及ひFの受け身 の習熟度か低いことを認識し,指導教官てあったEに対し,受け身の練 習をしっかり実施するよう指導していた。ところか,この後,受け身の みの練習か行われることはなかった。さらに,投け技については,「大 腰」に類似した腰技のみか練成され,それ以外の訓練は実施されていな かった。陸上自衛隊第11師団事故調査委員会か作成した調査報告書(甲6の 1。以下「本件委員会報告書」という。),第11後方支援連隊か作成 した調査報告書(甲6の2。以下「本件連隊報告書」という。)及ひE か原告らに宛てた手紙(甲7)によれは,平成18年11月21日,投 け技から胴突きという約束訓練を一人3本決めるまて行うとの要領て, AかFに対し,投け技からの胴突きを行うという訓練かなされた。1回 目は,胴突きに元気かないとして,決定打としてカウントされす,Eか らやり直しを命しられ,2回目は,成功して,「1回」とカウントされ, 3回目は,Aの崩しか甘かったため,FかAを反対に投け返し,その際, EかFに対し,「次からも(Aに)気合いか入ってなかったらその調子 て(投け返しを)やるように。」と指示し,4回目は,Aの崩しか甘く,打撃も不十分てあったため,カウントされす,5回目は,技か決まり, 「2回」とカウントされたか,6回目は,技か決まらす,カウントされ なかった。7回目は,Aに隙かてき,投ける力も弱かったため,Fか反 対に投け返し,その際,Aは,疲労と倒れた衝撃て痛そうな様子てあっ て,すくに起き上からす,少し間を置いて起き上かったか,痛そうな表 情をしていたところ,このような状況の中,8回目の投け技からの胴突 きか行われ,Aの投け技か決まらす,FかAを投け返したところ,Aは, 背中から落下して後頭部を強打し,意識を失ったとされる。なお,本件連隊報告書によると,Dか,原告Bに連絡を取ったのは, 平成18年11月21日午後4時25分とされているか,実際に連絡か あったのは,同日午後2時30分頃てある。また,本件連隊報告書によ ると,本件訓練は,陸上自衛隊真駒内駐屯地西体育館2階(畳敷き)て 行われていたとされるか,同月22日午前,中村記念病院において,原 告BかDに対し,「体育館の床て受け身の訓練をしていたのてすか。」 と訪ねると,Dは,「はい。床の方か,頭に衝撃か少ないと聞いていま した。」と答えているから,本件訓練は,畳敷き以外の場所て行われた 可能性か高い。(ウ) Eは,指導教官として,徒手格闘の練成経験か浅く,受け身に未た 習熟していないAに対し,受け身の技能を修得させるとともに,練成相 手に対し,受け身か困難となるような無理な攻撃技をしないように注意 するなと事故を未然に防止すへき立場にあるにもかかわらす,Fに対し, Aの投けか不十分な場合に投け返しを行うことを許可し,約束訓練の範 囲を超える実践的な訓練を行った。直立状態て技をかけられるよりも, 投け返して技をかけられる方か受け身か取りにくく,危険性か増大する ことは常識てあるから,Eは,Fによる投け返しを許可すへきてはなか った。また,Aか7回目の約束訓練て投け返された際に,痛みによる苦痛の表情を示し(この時点において,Aは本件鑑定書に記載のある種々 の傷害を負っていた。),しはらく起き上かれないほとの疲労かみられ たのてあるから,Eは,これを看過することなく,直ちに訓練を中止す るとか,Aの身体状況を確認するとか,Fに対して投け返しを禁止する とかの具体的指導をすへきてあるのに,これを怠った。(エ) Dは,輸送隊長の地位にあり,Aらに対して徒手格闘訓練を命した 者てあるから,訓練を安全に遂行させる注意義務かあり,Aらに対して 受け身の重要性を伝え,事故防止のための綿密な練成計画等を作成すへ きてあるのに,これを怠った。さらに,Dは,平成18年11月17日 にAとFの指導に当たった際,Aらの受け身の技術か不十分てあること を認識しており,そうてあれは,Eの指導方法を監督し,訓練を管理し, Eをして受け身の訓練を強化させた訓練計画を立てさせ,又は,訓練に 立ち会うなとして,危険な訓練か行われることを防止すへきてあったの に,これを怠った。(オ) Fは,Aか徒手格闘について初心者てあること,受け身の技術か未 習熟てあったこと及ひ投け技は「大腰」に類似した腰技のみしか訓練し ていなかったことを知っており,また,Aを不意に投け返した場合に, Aか受け身を行うことかてきない可能性かあることを知り得る状況にあ ったのてあるから,事故を未然に防止すへき注意義務の一環として,投 け返しを行うへきてはなかったにもかかわらす,Aを投け返した。また, Aか7回目の約束訓練て投け返された際,痛みによる苦痛の表情を示し, しはらく起き上かれないほとの疲労かみられたのてあるから,直ちに訓 練を中止するとか,Aか負傷していないかを確認すへきてあったのに, これを怠った。(カ) 以上によれは,E,D及ひFは,Aの生命身体に対する安全に配慮 し,事故の発生を未然に防止すへき注意義務に違反したといえる。イ 徒手格闘訓練の目的を逸脱した有形力の行使について 本件鑑定書によれは,Aには,直接の死因とされる硬膜下血腫及ひクモ膜下出血以外にも,以下のとおり,種々の損傷か認められるか,これらの 損傷は,E及ひFから徒手格闘訓練の目的を逸脱した有形力の行使を故意 に加えられたことによって生したものてある。なお,平成18年11月2 4日,陸上自衛隊真駒内駐屯地東体育館において,Aの葬送式か行われ, その際,自衛隊員か,Aか本件訓練時に着用していたという胴着を持って きて,棺に入れ,Aの遺体とともに火葬されたか,同胴着は,襟元から胴 の辺りにかけてAの血て真っ赤に染まっていた。(ア) 左頬部及ひ鼻尖部の表皮剥脱並ひに下口唇の挫創及ひ下顎切歯の脱 落は,通常の徒手格闘訓練により生したとは考えられす,このような損 傷か存在することから,Aの顔面に有形力の行使か加えられたといえる。
 仮に,治療のための気管内挿管中に下顎側の歯か折損したとしても,気 管内挿管ての歯の折損は上顎側て起きることか多く,下顎側て起きるこ とか少ない以上,気管内挿管の前に既にAの歯か折れやすい状態になっ ていたことか合理的に推測される。(イ) 左第4肋骨には,鎖骨中線上と前腋窩線上の2か所に骨折か認めら れ,第6肋骨には,ほほ鎖骨中線上に骨折か認められるか,これらは, 投けられたり,背中から落下した程度ては到底生しないものてあり,通 常の訓練の中て起こるはすのないものてある。特に,第4肋骨の前腋窩 線上の骨折は,前面からの打撃や背中を強打したことては生し得ないも のてあり,このような損傷か存在することから,倒れて横になっている Aの脇腹を蹴るなとの外力か加えられたことか想定される。(ウ) 右胸部後面及ひ第8肋骨周囲の肋間筋出血は,単に投けられて背中 を打った程度ては生しるものてはなく,このような損傷か存在すること から,これらとは別に,Aの背中に相当強度な有形力の行使か加えられたか,仮に投けられて背中を打った際に生したとしても,Aか固い床に叩きつけられるような強い衝撃を受けたと推察される。
(エ) 肝鎌状間膜の裂開並ひに肝臓下面の裂創及ひ腹腔内出血は,投けら れたり,背中から落下した程度ては生しることはなく,また,心臓マッ サーシによって生したものともいえないから,このような損傷か存在することから,Aに対し,腹胸部を下から強く蹴り上けたり,殴打したり, あるいは,肝臓の外側の肋骨そのものに強い圧迫を加えたり,倒れてい るところに蹴り込むといった外部からの強い有形力の行使かあったと考 えられる。(オ) 皮下出血は,20歳の若い男性てあるAの場合には相当強い外力を 受けなけれは生しないから,Aの全身に生した様々な皮下出血は,有形 力の行使によるものてある。ウ 被告の債務不履行について
(ア) 被告は,自衛隊の訓練に際し,訓練者に対し,訓練者の身体に傷害を負わせ,死亡させることのないよう,安全面に配慮した組織を構築し, 習熟度に応した訓練内容を計画し,実際の訓練に当たっては,疲労度に 応した対応をとり,適正な態様て訓練を行うへき安全配慮義務を負って いる。(イ) Eは,指導教官てあって,安全管理も任されていた者てあり,Dは, 本件命令により,Aらに徒手格闘訓練を命した者てあるから,いすれも 被告か負う安全配慮義務の履行補助者てある。Fは,Aよりも徒手格闘訓練の練度か高く,また,Aの約束訓練の相 手方てあり,Aの状況を詳細に把握し,攻撃方法に配慮し得る立場にあ ったのてあるから,被告か負う安全配慮義務の履行補助者といえる。(ウ) E,D及ひFは,前記ア及ひイのとおり,安全配慮義務に違反した。
 (被告の主張)ア 国家賠償法1条1項の「違法」とは,国民の権利ないし法益の侵害かあ ることを前提として,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員か個 別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して損害を加えたとき に認められるものてあり,同条の故意・過失は,職務義務に違反して他人 に損害を加えることの認識又は認識可能性てあるところ,以下のとおり, E,D及ひFの行為に同法上の違法性及ひ故意・過失はいすれも認められ ない。(ア) 指導教官てあるEは,徒手格闘の初心者てあるF及ひAか競技会に 出場した際に,試合て怪我をしないよう,試合中に予想される技や対戦 相手への対処方法を中心として,試合に近い形ての訓練を実施していた。 これは,Eか基本的な技を繰り返し実施する訓練を否定していたからて はなく,自らの格闘技経験から,与えられた訓練期間の中て,本件命令 の目的を達成するために効率的に練成するには,E自身か選手として試 合に出場した際の経験を生かした訓練をすることか,養成要員の試合に おける危険を回避するためには最も合理的な方法てあるとの考えに基つ いたものてあった。本件訓練以前に,受け身のみを単独て実施する訓練 の回数か少なかったのは(なお,受け身のみの訓練か行われたのは平成 18年11月17日のみてあるか,同月10日及ひ16日にも受け身の 訓練は実施されている。),Eか競技会の試合中に起こり得るような事 態を中心とする訓練方法を選択して実施していたこと,同し時期に他の 部隊も体育館を使用して訓練を実施しており,受け身の訓練をするため に必要な畳の敷かれた場所を確保てきる機会か少なかったことによるも のてある。このように,Eは,与えられた立場,時間的・物理的な条件 の下て,FとAか競技会て怪我をせす,危険を回避てきるようにするた め,自らの経験を教訓とし,最善の方法を考えて訓練を実施したものて あり,安全配慮義務に違反していない。Eは,訓練において予定されていなかったにもかかわらす,FかAを 投け返すことを許可したか,これは,投け返されたAか,驚いた表情と 同時に,緊迫感と闘争心か引き出された真剣な表情に変わったため,こ のままの状態を維持する方か訓練の効果かあると思ったからてある。E は,Aの動きか力強く気合いの入ったものとなったことから,その後も そのまま訓練を継続させていたのてある。したかって,Eか投け返しを 許可したことについても,安全配慮義務に違反していない。Eは,Aか2回目の投け返しを受けた後,立ち上かる際に痛そうな様 子を見せたか,腰か痛いのかと感した。徒手格闘の訓練内容の特性から, 足,腰,背中なとを畳に打ち付けることは通常生しる事態てあって,A か具体的に頭や肋骨の辺りを押さえるという様子をみせることもなかっ たため,Eは,直ちに訓練を中止しなけれはならない状況てあるとは認 識しなかった。また,Eは,適時の休憩を取っており,当時,休憩の終 了から約15分しか経過していなかったため,疲労についてもまた大丈 夫たろうと考え,訓練を続行したものてある。したかって,Eは,Aの 健康状態の把握を怠り,たた漫然と訓練を続行させたものてはないから, Aの健康状態の把握について,安全配慮義務に違反していない。(イ) Dか,指導教官としてEを選任したのは,Eか輸送隊に所属する隊 員の中て唯一の徒手格闘検定1級の保持者てあり,かつ,徒手格闘以外 の格闘技(少林寺拳法,空手,剣道)の経験も豊富てあったからてあり, Dは,適任の人員を配置することについて,安全配慮義務に違反してい ない。また,Dは,本件命令において,安全組織の確立と明確な任務付 与や健康状態の把握なと,安全管理に関して重視すへき事項を明記し, 訓練中に予想される危険・事故の未然防止を図っていた。そして,Dは, Eの代わりに訓練を実施した際,Aの受け身の練度か低いと認識したた め,現場て直接演練させた他,訓練後に,Eに対し,Aに受け身の練習をしっかり実施させることなと,具体的に安全管理や訓練内容について 指導している。したかって,Dは,徒手格闘訓練の本件命令の発簡者として,安全配 慮義務に違反していない。(ウ) Fは,指導教官の指導の下,養成要員としてAと同等の立場て訓練 を受けていた者てあり,徒手格闘の経験か浅く,その練度は初心者とそ れほと変わらない程度てあった。したかって,本件訓練中に,仮に何ら かの危険か生しることを予見した場合てあっても,危険を回避するため に訓練を中止すへきか否かを判断するのは,一義的に指導教官てあるE てあるから,Fは安全配慮義務を負わない。仮に,Fか安全配慮義務を負うとしても,これに違反していない。F か最初にAを投け返した理由は明確てはないか,2回目以降は,Fは, Eから投け返しの許可かあったこと,最初に投け返した後は,Aか前よ り気持ちか入り,力を込めて投けようとしてきたこと,F自身,過去に スキーや駆け足訓練て経験したように,Aにもつらい訓練を乗り越えて 頑張ってもらいたいという気持ちかあったことから,その後も投け返し を実施したものてある。Fの格闘練度は,初心者と変わらなかったため, 投け返した場合にAか十分な受け身を行えないとまては認識しておら す,Aの疲労度や身体の傷害についても,問題かあると認識していなか った。このような状況において,養成要員てあるFにとって,本件訓練 は通常の訓練の範囲を超えるものてはなかったというへきてあるから, Fか投け返しを実施したことについて,安全配慮義務に違反していると いうことはてきない。イ E及ひFらか,Aに対し,徒手格闘訓練の目的を逸脱した有形力の行使 を故意に加えたという事実,及ひ,Aか本件訓練中に着用していた胴着の 襟元から胴の辺りにかけて血て真っ赤に染まっていたという事実は否認する。
(ア) 下顎切歯の欠損は,気管内挿管の際に生したと合理的に推認てきる。また,鼻尖部の表皮剥脱については,経鼻挿管に伴うチューフによるものと合理的に推認てきる。
(イ) 肋骨の骨折については,自衛隊札幌病院及ひ中村記念病院て撮影されたレントケン写真からは判然とせす,本件訓練中に発生したとの事実 は不知てある。また,徒手格闘の投け技をかけられると,通常,体の左 側から畳に落下するから,投け技によって体の左側の肋骨に損傷か生し たとしても矛盾はない。また,Aは,倒して胴突きの訓練中に防具を着 けていたところ,徒手格闘の防具の胴は幅か狭く,胴の辺縁及ひ胴内部 の縫い目部分か身体に当たることかあるのて,防具と肋骨かふつかり, 肋骨に損傷か生した可能性も否定てきない。さらに,心肺蘇生なとの医 療行為により肋骨か骨折した可能性も十分考えられる。以上のように, 肋骨の骨折の成傷経緯は複数想定されるのてあって,その存在から徒手 格闘訓練の目的を逸脱する有形力の行使かあったとはいえない。(ウ) 肋間筋の出血の成傷経緯は不明てあるか,本件鑑定書において,皮 下出血はなく,表面上の外力を窺わせる所見は認められないとされてお り,外力による成傷は否定される。(エ) 肝鎌状間膜の裂開並ひに肝臓下面の裂創及ひ腹腔内出血についは, 本件鑑定書において,心臓マッサーシ(医療行為)によって発生したと しても矛盾かないとされており,この信用性に疑問を生しさせる余地は ない。(オ) 皮下出血は,通常の徒手格闘訓練においても生し得るし,医療行為 やAに発症したDIC(播種性血管内凝固症候群)の影響による可能性 もあるのてあって,その存在から徒手格闘訓練の目的を逸脱する有形力 の行使かあったとはいえない。ウ 前記アのとおり,E,D及ひFは,安全配慮義務に違反していないし, Fは,そもそも被告か負っている安全配慮義務の履行補助者てもないから, 被告か債務不履行に基つく損害賠償責任を負うことはない。(2) 原告らの損害の有無及ひ額 (原告らの主張)
ア Aの損害
(ア) 逸失利益 4993万8631円 Aは,高校卒業後,陸上自衛隊に入隊し,死亡当時,20歳の独身男性てあった。その逸失利益は,以下のとおり算出される。
 555万4600円(平成18年賃金センサス男性学歴計全年齢平均 賃金)×0.5(生活費控除率50ハーセント)×17.9810(67歳に対応するライフニッツ係数)=4993万8631円 (イ) 死亡慰謝料 3000万円Aは,何ら落ち度かないにもかかわらす,理不尽にもその生命を奪わ れたのてあって,Aの精神的苦痛に対する慰謝料は,上記金額を下るこ とはない。(ウ) 相続 原告B及ひ原告Cは,Aの上記損害賠償請求権合計7993万8631円の2分の1てある3996万9315円をそれそれ相続により取得した。
イ 原告B及ひ原告Cの固有の慰謝料 各500万円
原告らは,最愛の息子てあるAを20歳の若さて無惨かつ理不尽に奪わ れたのてあり,原告らか負った精神的苦痛は筆舌に尽くし難いものかある。
 また,Aの死亡後における被告の不誠実な対応や証拠隠しといわれても仕 方のないような対応か,原告らに追い打ちをかけ,精神的苦痛を増大させ た。さらに,E,D及ひFは,本件訓練中にAか意識を失った際,Aか脳外科手術を必要とする状態てあったことを認識てきたにもかかわらす,同 手術のてきない自衛隊札幌病院に搬送し,適切な治療を受ける機会を失わ せたのてあるから,Aの遺族たる原告らの精神的苦痛を強めたといわさる を得ない。したかって,原告らか被告に負わされた精神的苦痛は著しく大きいもの かあり,原告ら各自の固有の慰謝料は,上記金額を下ることはない。ウ 損害の填補 各315万0500円 原告らは,被告から遺族補償一時金として各315万0500円の支払を受けたのて,損害額からこれを控除する。 エ 弁護士費用 836万3763円 (被告の主張)原告らに遺族補償一時金か支払われていることは認め,その余は争う。なお,Eらか意識を失ったAを最初に自衛隊札幌病院に搬送したことは, 同病院か,本件訓練場所てある真駒内駐屯地の近傍(約2.8キロメートル) にあって,脳神経外科を有し,また,自衛隊訓練事故の治療症例か豊富てあ り,搬送後直ちに同科医師の診察を受けられる状態にあったことからしても, 合理的な選択てあったというへきてある。その後,Aは同病院から中村記念 病院への転院かなされたか,それは,自衛隊札幌病院において脳外科手術か てきないからてはなく,レントケン撮影,CT検査等の結果,同病院の脳外 科の手術能力ては対応てきないと同病院の脳神経外科医か判断したからてあ る。(3) 国家賠償法1条1項に基つく損害賠償請求に係る消滅時効の成否 (被告の主張)国家賠償法1条1項に基つく損害賠償請求権は,被害者又はその法定代理 人か損害及ひ加害者を知った時から3年間行使しないときは,時効によって 消滅する(国家賠償法4条,民法724条前段)。原告らは,平成18年11月22日の時点て,Aの死亡に立ち会い,Dか ら徒手格闘の訓練中にAか死亡するに至った状況について説明を受けている から,この時点において,損害及ひ加害者を知ったことか明らかてある。ま た,Dは,同月26日に沖縄て行われたAの親族による葬儀に参列したか, 同月27日,原告ら及ひAの家族等に対し,本件訓練の状況を説明している。 さらに,その際,Dは,原告らの親族から依頼を受け,本件訓練の状況を手 紙に記述して送付することを約束したことから,同年12月14日,本件訓 練の状況の細部をD,E及ひFかそれそれ記載した各手紙(甲7,8,13) を原告らの親族に送付し,原告らに渡してもらうよう依頼している。その内 容は,平成20年に原告らに開示された本件委員会報告書,本件連隊報告書 及ひ公務災害発生報告書と事実関係において差異のないものてあるから,遅 くとも,平成18年12月頃には,原告らか「損害及ひ加害者を知った」と いうへきてある。したかって,本件訴訟か提起された平成22年8月3日の時点ては,それ から既に3年か経過しているから,原告らの被告に対する国家賠償法1条1 項に基つく損害賠償請求権は,消滅時効の完成により消滅している。被告は,平成22年10月15日の本件口頭弁論期日において,消滅時効 を援用する旨の意思表示をした。(原告らの主張)
原告らは,自衛隊に対し,Aか負傷するに至った具体的経過等について, 繰り返し,説明や情報公開(平成19年1月4日)を求めたか,自衛隊か具 体的な説明をすることもなく,開示された資料はほとんとか黒塗りとなって いたため,加害行為に関する事実関係を把握することかてきなかった。その 後,原告らは,平成20年5月に沖縄県出身の国会議員に資料の全面開示を 懇請し,その結果,同年8月,黒塗りかない公務災害発生報告書(甲1), 本件委員会報告書及ひ本件連隊報告書等を受け取ることかてきた。原告らは,これにより初めて,加害行為を基礎つける事実関係を知るに至ったのてあるから,消滅時効の起算点は最大に遡っても平成20年8月初めてある。
 第3 当裁判所の判断1 事実関係 前記前提となる事実,後掲証拠及ひ弁論の全趣旨によれは,徒手格闘の訓練状況等について,以下の事実か認められる。 (1) 本件命令前の訓練についてア 平成18年11月6日,E及ひAか参加して,約10分間,防具装着要 領(サホーターの付け方,クローフのはめ方)の指導及ひ当身技の空間訓 練か行われた。イ 平成18年11月9日,E,F及ひAか参加して,約10分間,当身技 の空間訓練か行われた。ウ 平成18年11月10日,E,F及ひAか参加して,約10分間,当身 技の空間訓練並ひに投け技及ひ受け身の訓練か行われた。(以上につき甲6の1・2,7,13,乙19,証人E) (2) 本件命令後の訓練についてア 平成18年11月16日,E及ひAか参加して,約2ないし3時間,当 身技,投け技及ひ受け身の訓練か行われた。Eは,Aの投け技に対する受 け身の取り方を見て,顎は引けているもの,適切に腕て畳を叩いて体への 衝撃を緩和することかてきていないと感した。イ 平成18年11月17日,Eか業務のため訓練に参加てきなかったこと から,D,F及ひAか参加して,約2ないし3時間,受け身,準備運動を 兼ねた相撲及ひ当身技の訓練か行われた。Dは,Aの前回り受け身を見て, その習熟度か不十分てあると感し,訓練後,Eに対し,A及ひFともに受 け身かあまり上手くないから,受け身の訓練を行うよう指示した。ウ 平成18年11月20日,E,F及ひAか参加して,約2ないし3時間,当身技のみの訓練か行われた。同日は,畳敷きの場所か確保てきなかったことから,投け技及ひ受け身の訓練は行われなかった。 (以上につき甲6の1・2,7,13,乙18,19,証人E,同D)(3) 平成18年11月21日の訓練(本件訓練)について
ア 平成18年11月21日午後1時30分頃から,陸上自衛隊真駒内駐屯 地西体育館の2階(畳敷き)において,E,F及ひAか参加して,訓練か 開始された。ます,ストレッチ体操と準備運動をした後,防具等を装着し ない状態ての基本突きの空間訓練及ひクローフたけを装着した状態ての基 本突きと蹴りの約束訓練を行った。その後,午後2時10分頃から約20 分間の休憩を取り,休憩時間中に,面以外の防具(クローフ,胴,すね当て等)を装着した。
イ 休憩後,平成18年11月21日午後2時30分頃から,移動しなからの基本突き及ひ蹴りの約束訓練を行い,その後,投け技て相手を倒してか ら胴突きをするという約束訓練を,一人当たり3本決めるまて行うという 要領て実施することになった。この訓練方法は,初めて行われるものてあ った。ます,FかEに対して技をかける方法て行われ,次に,AかFに対 して技をかけることとなり,Eはその動作を傍らて確認していた。ウ Aは,平成18年11月21日午後2時45分頃から午後2時50分頃 にかけ,Fに対し,合計8回にわたり,投け技からの胴突きを試みた。ます,1回目の試技は,胴突きに元気かないとして1本と判断されなか ったか,2回目の試技は,技か決まり,1本と判断された。続いて,3回目の試技は,Aの投け技か上手くいかす,これに対し,F かAを投け返した。この時,Aは驚いた表情を見せたか,Eは,訓練とし て良い効果か期待てきるなとと考え,Fに対し,次からも気合いか入って いなかったらその調子てやるようになとと言って,投け返しを行うことを 許可した。続いて,4回目の試技は,胴突きか不十分てあるなととして1本と判断 されなかったか,5回目の試技は,技か決まり1本と判断されたものの, 6回目の試技は,最後の1本にふさわしい技か決まらなかったとして,1 本と判断されなかった。さらに続けて,7回目の試技においては,Aか再ひFに投け返された。
 その際,Aは,受け身か上手く取れす,腰の辺りから落ちた後,少し間を おいて起き上かり,痛そうな表情を見せていた。最後に,8回目の試技においては,Aか再ひFに,「首投け」又は「大 外刈り」に類似した技て投け返された。その際,Aは,畳の上に背中から 落下して後頭部を打ち,意識を失うに至った(以下「本件事故」という。)。(以上につき甲6の1・2,7ないし9,13,乙5,18ないし20,証人E,同F,同D) (4) 本件事故後の対応
ア 本件事故後,Eは,近傍にいた救護員に救護を依頼した。本件事故か発 生した体育館の1階て銃剣道の訓練中てあったDは,本件事故の現場に駆 けつけてAの様子をみると,医務室に連絡して救急車の手配をした(甲6 の1・2,乙18,19)。平成18年11月21日午後3時頃,救急車か本件事故現場に到着し, Aを搬送した救急車は,同日午後3時16分頃に自衛隊札幌病院応急処置 室に到着した。診断の結果,同病院の脳神経外科医は,後頭部に脳挫傷か あり,危険な状態てあって,同病院の手術能力ては対応し難いと判断し, 中村記念病院に転院することとなった(甲6の1・2,24)。イ 平成18年11月21日午後4時45分頃,Aは,中村記念病院に到着 し,治療か施されたか,同月22日午後2時44分頃,同病院において, 外傷性硬膜下血腫及ひクモ膜下出血により死亡した(甲15ないし17, 25)。ウ 平成18年12月頃,E,D及ひFは,本件命令前後の徒手格闘訓練の 状況,本件事故の状況等を記載した手紙(以下,これらを「本件手紙」と いう。)を作成し,原告らに渡した(甲7,8,13)。エ 平成20年8月頃,原告らは,本件委員会報告書,本件連隊報告書及ひ 公務災害報告書等を入手した(甲1,6の1・2)。2 争点(1)(E,D及ひFの行為の国家賠償法1条1項上の違法性及ひ故意 ・過失の有無(予備的に被告の債務不履行の有無))について(1) 前提となる事実(2)のとおり,徒手格闘は,当身技,投け技,関節技及 ひ絞め技を総合的に駆使し,旺盛な闘志をもって敵たる相手を殺傷する又は 捕獲するための戦闘手段てあり,その訓練には本来的に生命身体に対する一 定の危険か内在しているから,訓練の指導に当たる者は,訓練に内在する危 険から訓練者を保護するため,常に安全面に配慮し,事故の発生を未然に防 止すへき一般的な注意義務を負うというへきてある。このことは,徒手格闘 の訓練か自衛隊の訓練として行われる場合てあっても,異なるものてはない。(2) そこて検討するに,前記1て認定したとおり,Aは,本件訓練以前に, 受け身の訓練を3回しか行っておらす((1),(2)),しかも,そのうち1 回は,本件命令前の10分程度の訓練の中て行われたものにすきなかった ((1)ウ)。また,Dは,受け身の訓練の際,Aの前回り受け身の習熟度か 不十分てあると感し,Eに対し,受け身の訓練を行うよう指示しており((2) イ),E自身も,その前日の訓練の際,Aの投け技に対する受け身の取り方 を見て,体への衝撃を緩和することかてきていないなとと感していた((2) ア)というのてあるから,本件訓練当時におけるAの受け身の習熟度は低く, 投け技に適切に対応てきる技能を有していなかったといわさるを得ないのて あり,また,Eはこのことを認識していたということかてきる。さらに,陸自教範において投け技は受け身を習得してから訓練するとされ ているとおり(前記前提となる事実(2)ア(オ)),受け身の習熟度か低けれは,投けられたときに体への衝撃を十分に緩和することかてきす,その結果, 頭部等を強く打ち付けてしまう危険性かあることは明らかてある。そして, 一般的に,単に相手に投けられて受け身を取る場合よりも,自分か技を掛け た後に投け返された際に受け身を取る場合の方か,受け身か取りにくい姿勢 て落下したり,受け身を取ることに意識を集中させることかてきないことな とから,体への衝撃を十分に緩和させることか困難てあるということかてき る(甲34,36,弁論の全趣旨)。以上によれは,Aか投け技からの胴突きを行うという本件訓練において, Fに投け返しを認めた場合には,受け身の習熟度の低いAか,Fの投け返し に対して適切に受け身を取ることかてきす,頭部を打ち付ける危険性は十分 にあったというへきてあり,Eもかかる危険性を予見し得たということかて きる。したかって,Aか投け技からの胴突きを行う際にFに投け返しを認めたE には,指導教官として負う前記(1)の注意義務に違反する過失かあったもの というへきてあり,その過失により本件事故を発生させ,Aを死亡するに至 らしめたものということかてきる。被告は,受け身の訓練か不十分てあったのは,畳敷きの場所を確保てきな かったからてあるとか,Eか投け返しを許可したのは,訓練として効果かあ ると思ったからてあるなとと主張して,Eの注意義務違反を否定するか,被 告か主張するような事情は,上記のような危険性の高い訓練を行うことを正 当化する事情となり得ないことは明らかてあるから,被告の主張は採用する ことかてきない。よって,その余の点について検討するまてもなく,被告は,原告らに対し, 国家賠償法1条1項に基つき,本件事故によって生した後記3の損害を賠償 すへき責任かある。(3) 原告らは,E及ひFらか,Aに対し,徒手格闘訓練の目的を逸脱した有形力の行使を故意に加えたなとと主張するところ,この点は,慰謝料の増額 事由となり得ることから,以下,検討する。ア 原告らは,Aの葬送式の際,Aか本件訓練時に着用していた胴着か襟元から胴の辺りにかけてAの血て真っ赤に染まっていたと主張するか,本件 鑑定書(甲16)に記載されたAの損傷からは,胴着を血て真っ赤に染め るほとの外傷かあったとは認められない上,葬送式の様子か撮影された映 像(乙6)から確認てきるAの胴着の一部には,特段血か着いている様子 を見て取れない。そうすると,Aの胴着か襟元から胴の辺りにかけて血て 真っ赤に染まっていたという事実を認めることはてきない。イ 原告らは,Aに下顎切歯の脱落及ひ鼻尖部の表皮剥脱等か認められる点 を指摘するか,自衛隊札幌病院の救急患者記録表(甲24の11丁目)に は,気管内挿管の際に,Aの噛む力か強く挿管か困難てあり,前歯(下1 本)か欠損した旨の記載かあるから,下顎切歯の脱落は治療行為によって 生したものと認められるし,仮に原告らの主張するように,一般的に,気 管内挿管における歯の欠損か下顎側て起きることか少ないとしても,その ことから直ちに本件訓練時の受傷によってAの歯か折れやすい状態になっ ていたなとと推認するのは甚た困難てある。また,Aの死体を検案した中 村記念病院の医師は,鼻先の皮下出血及ひ右鼻腔内の出血について,鼻か らチューフを挿入したときの出血と思われると説明しており(甲15), そのことに照らすと,原告らか指摘する鼻尖部の表皮剥脱は,治療行為に よって生した可能性か十分にある。また,徒手格闘の訓練においては,当 身技や投け技か行われるのてあるから,通常の訓練を行う中て皮下出血や 表皮剥脱か生したとしても何ら不自然てはない。したかって,原告らか指 摘する点をもって,Aに対し,徒手格闘訓練の目的を逸脱した有形力の行 使か故意に加えられたなとと認めることはてきない。ウ 原告らは,Aの左第4肋骨及ひ第6肋骨に骨折か認められる点を指摘するか,投け技をかけられた場合に体の左側から畳に落下することもあるか ら(甲34),通常の訓練においても,左第4肋骨の前腋窩線上の骨折か 生しることは十分にあり得るし,原告らか証拠として提出する医師作成の 意見書(甲45)においても,肋骨骨折については,自衛隊札幌病院及ひ 中村記念病院おける胸部レントケン写真から肋骨骨折か認められす,救急 蘇生措置てある心臓マッサーシによって発生した可能性か高いと判断され ていることを踏まえると,この点をもって,Aに対し,徒手格闘訓練の目 的を逸脱した有形力の行使か故意に加えられたなとと認めることはてきな い。エ 原告らは,Aに右胸部後面及ひ第8肋骨周囲の肋間筋出血か認められる 点を指摘して,有形力の行使を受けた,あるいは,固い床に叩きつけられ るような強い衝撃を受けたなとと主張するか,本件鑑定書(甲16)によ れは,肋間筋出血について,皮下出血はなく表面上の外力を窺われる所見 は認められないとされているのてあるから,外力による成傷とは直ちには 認め難い。なお,原告らは,Aの肋間筋の出血に加え,Dか,原告Bから の「体育館の床て受け身の訓練をしていたのてすか。」という問いに対し, 「はい。床の方か,頭に衝撃か少ないと聞いていました。」 と答えたこと をも根拠として,本件訓練か床の上て行われていたなとと主張するか,E か,平成18年11月20日の訓練において,畳敷きの場所か確保てきな いとして,受け身の訓練を実施していなかったことからすると(前記1(2) ウ),本件訓練において敢えて床の上て受け身や投け技の訓練をしていた とは考え難いし,「床の方か,頭に衝撃か少ない。」という発言内容も理 解し難いものといわさるを得ない。さらに,原告Bか,Dの発言を聞き間 違えたり,誤解した可能性を払拭しきれないのてあって,本件全証拠を総 合しても,本件訓練か床の上て行われていたと認めることはてきない。オ 原告らは,Aに肝鎌状間膜の裂開並ひに肝臓下面の裂創及ひ腹腔内出血か認められる点を指摘するか,本件鑑定書(甲16)において,心臓マッ サーシによって発生したとしても矛盾かないものと考えられるとされてい ることからすると,この点をもって,Aに対し,徒手格闘訓練の目的を逸 脱した有形力の行使か故意に加えられたなとと認めることはてきない。カ 原告らは,Aの全身に様々な皮下出血か認められる点を指摘するか,前 記イのとおり,通常の訓練を行う中て,皮下出血等か生したとしても何ら 不自然てはないのてあるから,この点をもって,Aに対し,徒手格闘訓練 の目的を逸脱した有形力の行使か故意に加えられたなとと認めることはて きない。キ 以上によれは,E及ひFらか,Aに対し,徒手格闘訓練の目的を逸脱し た有形力の行使を故意に加えたことを認めることはてきない。3 争点(2)(原告らの損害の有無及ひ額)について (1) Aの損害ア Aの逸失利益 前記前提となる事実(1)及ひ(3),甲2及ひ弁論の全趣旨によれは,A(死亡時20歳,男性,独身)は,本件事故て死亡しなけれは,67歳ま ての期間中,平均して少なくとも,賃金センサス平成23年第1巻第1表, 産業計,男性,高校卒,全年齢の平均年収額てある458万8900円の 収入を得られたものと推認することかてきるから,この基礎収入に,生活 費控除率50ハーセントを乗し,さらに,ライフニッツ方式により中間利 息を控除した4125万6505円をもって,本件事故との相当因果関係 のあるAの逸失利益と認めるのか相当てある。(計算式) 458万8900円(基礎収入)×0.5(1-0.5(生活費控除率))×17.9810(47年間に対応するライフニッツ係数) イ Aの慰謝料Aの年齢,本件事故の態様その他諸般の事情に照らすと,Aの死亡慰謝料は2000万円とするのか相当てある。
 ウ 相続
原告らは,Aの父及ひ母として,Aの逸失利益及ひ慰謝料合計額612 5万6505円の2分の1てある3062万8252円の損害賠償請求権 をそれそれ相続した。(2) 原告ら固有の慰謝料 Aの年齢,本件事故の態様その他諸般の事情に照らすと,原告ら固有の慰謝料はそれそれ200万円とするのか相当てある。
 なお,原告らは,慰謝料の増額事由として,Eらか,意識を失ったAを脳外科手術かてきない自衛隊札幌病院に搬送したことにより,適切な治療を受 ける機会か失われたなとと主張するか,前記1(4)アのとおり,自衛隊札幌 病院の脳神経外科医は,Aに対する診断の結果,同病院の手術能力ては対応 し難いと判断して,中村記念病院に転院させることとしたのてあって,自衛 隊札幌病院かおよそ脳外科手術を行うことかてきないなとという事実は認め られない上,同病院は本件事故の現場の近傍(約2.8キロメートル)に所 在していることか認められる(乙13,弁論の全趣旨)ことを踏まえれは, Aの救護に関わった自衛隊員らか,Aを同病院に搬送したことに特段不合理 な点はなく,この点を慰謝料の増額事由をして評価することはてきない。ま た,原告らは,本件連隊報告書によると,Dか原告Bに連絡を取ったの平成 18年11月21日午後4時25分とされているか,実際には同日午後2時 30分頃てあるから,本件連隊報告書は虚偽の内容を含んているなとと主張 し,原告Bの陳述書(甲101)には,同日午後2時30分頃,Dから電話 て,Aか訓練中に事件に遭ったこと,頭を打って病院に搬送されたこと及ひ 意識不明て重篤な状態てあることを告けられた旨の記載かある。しかしなか ら,札幌自衛隊病院の外来診療録(甲24の3丁目)によれは,Aか同病院 に搬送されたのは,同日午後3時18分頃てあると認められるのてあるから,Dか,同日午後2時30分頃に,原告Bに対し,病院に搬送されて,意識不 明て重篤な状態てあるなとと告けたとは考え難く,本件連隊報告書に虚偽の 内容かあるとは認められない。(3) 損害の填補 原告らか,被告から遺族補償一時金として,それそれ315万0500円の支払を受けたことに争いかないから,損害額(Aの逸失利益)からこれを控除する。
(4) 前記(1)ないし(3)の合計
前記(1)ないし(3)の認定を前提として,原告らか相続した損害賠償請求 権の額(各3062万8252円)に原告らの固有の慰謝料(各200万円) を加え,既に損害の填補として支払われた金額(各315万0500円)を 控除すると,原告らの損害賠償請求権の合計額は,それそれ2947万77 52円となる。なお,被告に原告らに対する債務不履行に基つく損害賠償責任かあるとし ても,原告らの同請求権の額か上記認定を上回ることはないと解される。(5) 弁護士費用 本件訴訟の難易,経緯,認容額等を斟酌すると,本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は,原告らそれそれにつき300万円とするのか相当てある。
4 争点(3)(国家賠償法1条1項に基つく損害賠償請求に係る消滅時効の成否)について 被告は,原告らは,平成18年11月22日及ひ同月27日の時点て,Dから本件事故の状況について説明を受けているから,損害及ひ加害者を知ったな とと主張するか,国家賠償法1条1項に基つく請求において適用される民法7 24条前段にいう「損害及ひ加害者を知りたる時」とは,単に損害を知るに止 まらす,加害行為か不法行為てあることも併せ知ることを要すると解されるところ,証拠(甲6の2)からは,Dかとのような説明をしたかか判然とせす, Dの説明の時点て,原告らか,加害行為か不法行為てあることを知ったという ことはてきない。また,被告は,原告らか,同年12月頃に,本件手紙によっ て,本件訓練の状況等の細部を知ったなとと主張する。確かに,証拠(甲1, 6の1・2,7,8,13)によれは,本件手紙は,平成20年8月頃に原告 らか入手した本件委員会報告書,本件連隊報告書及ひ公務災害発生報告書等と 概ね同様の内容てあるものの,本件委員会報告書等ては,Aの受け身の習熟度 か低いものてあったことか指摘されているのに対し,本件手紙には,前記2て 認定判断したEの注意義務違反の前提となるAの受け身の習熟度の低さを窺わ せる記載かないことか認められるから,原告らか本件手紙によって,加害行為 か不法行為てあることを知ったということはてきない。そうすると,原告らか,損害及ひ加害者を知ったのは,早くとも本件委員会 報告書等を入手した平成20年8月頃てあるというへきてあり,本件訴えを提 起した平成22年8月3日の時点ては,消滅時効か完成していたということは てきない。5 結論 以上によれは,原告らの請求は,被告に対し,国家賠償法1条1項の損害賠償請求権に基つき,それそれ3247万7752円及ひこれに対するAか本件 事故(不法行為)により死亡した日てある平成18年11月22日から支払済 みまて民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度て理由か あるからこれを認容し,その余は,債務不履行に基つく損害賠償請求を含めて, いすれも理由かないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。札幌地方裁判所民事第5部
裁判長裁判官 石 橋 俊 一
裁判官松本 真
裁判官舘 洋一郎
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