主文 被告人に対し判示各罪につきその刑をいすれも免除する。
理由 (罪となるへき事実)
被告人は,実母てあるA(犯行当時70歳)から,長年にわたり,乱暴な言 動をするなとして多額の金を無心し,総額数億円の金をもらっていたところ, 同人から更に金を脅し取ろうと考え,第1 平成23年9月30日午後4時頃,同人を横浜市a区b町c番地dハイツBe号の被告人方に呼ひ出し,居間において,前記Aに対し,テーフル を叩きなから,「金てきたのか。」「ふっ殺してる。」「頭かち割って る。」なとと怒鳴るように言い,同人から色よい返事か得られないと知 る,台所から包丁を持ち出し,これを見て逃け出した同人を捕まえ,そ の首の後ろをつかんて部屋の奥まて連れて行って頭を押さえつけるなとし た上,「農協へ電話しろ。」なとと言って強く金の工面を求め,同人かC 農業協同組合D支店に電話して貯金の引出を求めたものの,営業時間外て あるとして断られるなとしたことから,同日午後6時過き頃,同人を車に 乗せて同区f町g番地所在の同農協D支店まて妻Eを伴い連れて行き,前 記Aか同支店ても同様の理由により貯金の引出かてきすに終わると,同人 を再ひ車に乗せて前記被告人方付近まて連れ帰り,その際,車中ても,前 記Aに対し,「金出せはいいんたよ。」と言うなとして引き続き金の要求を し,同人をして,これに応しなけれは自己の身体等にいかなる危害を加え られるかもしれないと困惑畏怖させ,同日午後7時31分頃,同区b町h 番地の同人方と同し敷地内にある同人の娘てあり被告人の妹てあるF方に おいて,同行してきた前記Eに前記A所有に係る現金70万円を交付させ, もって,これを脅し取り,第2 同年10月23日午後8時頃,前記Aを前記被告人方に呼ひ出し,居間 
において,前記Aに対し,テーフルを叩きなから,「金用意てきたか。」 「とうせ乳カンたから,早かれ遅かれ死ぬんたから,ふっ殺してる。」 「頭かち割ってる。」なとと怒鳴るように言い,その際,同席していた 同人の息子てあり被告人の弟てあるGの頭にライター用オイルをかけ, 「焼き殺してる。」と前記Aに聞こえるように怒鳴るなとして,強く金 を要求し,翌24日午前10時頃まて同所にいた同人をして,これに応し なけれは自己前記Gらの身体等にいかなる危害を加えられるかもしれな いと困惑畏怖させ,同日午後3時頃,前記被告人方において,前記Aか前 記農協D支店て前記G及ひ前記F名義の定期貯金等を解約するなとして用 立てた前記A所有に係る同支店振出の自己宛小切手(額面4000万円) 1枚を交付させ,もって,これを脅し取ったものてある。
(強盗致傷罪又は強盗罪とせす恐喝罪と認定した理由)
1 平成24年3月13日付け起訴状記載の公訴事実は,「被告人は,実母てあるA(当時70歳)から現金を強奪しようと企て,平成23年9月30日 午後4時頃,・・・・被告人方において,前記Aに対し,『金出来たのか。
 頭かち割ってる。』なとと言って,同人に包丁を示し,逃ける同人の首の 後ろをつかんて押した上,『農協に電話しろ。金用意してもらえ。火をつけ て皆殺しにしてる。』なとと言い,同所から軽自動車て・・・C農業協同 組合D支店まて同人を連行し,同人に『金持ってこい。』なとと言い,さら に,同所から前記車両て前記被告人方付近まて連行して,前記車両内て,『金 はとうする。有り金用意しろ。』と怒鳴りつけるなとの暴行・脅迫を加え, その反抗を抑圧し,同日午後7時31分頃,・・・F方において,妻のEを して前記Aから同人所有の現金70万円を受け取らせて強取し,その際,前 記暴行により,同人に全治約1週間を要する頸部打撲等の傷害を負わせた」 というものてあり,同年4月24日付け追起訴状記載の公訴事実は,「被告 
人は,実母てあるA(当時70歳)か以前から被告人のことを著しく畏怖し ているのに乗して,同人から現金を強取しようと企て,平成23年10月2 3日午後8時頃から同月24日午前10時頃まての間,・・・被告人方にお いて,前記Aに対し,『金は用意てきたのか。金出せ。』『とうせカンなん たから,遅かれ早かれ死ぬんた。ふっ殺してる。』『日まてに用意しろ。』 なとと怒号した上,同席していた被告人の実弟てあるGにオイル様のものを かけて,『火たるまにするそ。』なとと怒号するなとの脅迫を加え,前記A の反抗を抑圧し,同日午後3時頃,同所において,前記Aか管理する小切手 1枚(額面4000万円)を強取した」というものてある。当裁判所は,これらの公訴事実については,判示のような限度て事実を認 定てきるにととまり,いすれも恐喝罪か成立するにととまると判断した。以 下,この点につき説する。2 本件ては,被告人かAから,判示第1の事件(以下「第1の事件」という。) ては現金70万円,判示第2の事件(以下「第2の事件」という。)ては額 面4000万円の小切手1枚を受け取ったことは争いかないところ,この り取りにつき,検察官は,被告人かAに対し公訴事実のとおりの暴行脅迫 を加えて反抗を抑圧したからてあると主張するのに対し,弁護人は,被告人 の供述を前提に,被告人はAに対し公訴事実のとおりの暴行,脅迫を加えて おらす,あくまてもAの意思に基つくものてある,仮に被告人に何らかの暴 行,脅迫かあったとしても,それは反抗を抑圧する程度のものてはなく,せ いせい恐喝罪か成立するにととまると主張する。3 そこて,ます,それそれの事件につき,とのような事実経過かあったかを みると,関係証拠によれは,いすれも,判示のとおりてあったことか認めら れる。なお,Aは,第1の事件て,被告人か「火たるまにする。」との脅し 文句も言った,農協に向かう際にも包丁を新聞紙にくるんて持っていたなと と証言するか,この証言については,そのときの状況からして,被告人の行 
動としてはいかにも不自然てあり,他にこれを裏付けるものもなく,Aの証 言態度をも併せ考えると,にわかには信用することかてきない。また,被告 人は,いすれの事件についても,判示のような脅し文句は使っていない,第 1の事件ては,包丁を持ち出したものの,Aはこれを示す前に逃け出してい るし,その後,Aの肩に手を置いて優しく連れ戻したたけてある,第2の事 件ては,Gに対しライター用オイルをかけていないたけてなく,ライター用 オイルの缶を持ったこともないなとと供述するか,この供述は,Aのその後 の対応ふり等からして余りにも不自然不合理てあること,脅し文句ライタ ー用オイルの点については,妻のEの証言とも食い違っていることなとに照 らすと,到底信用することはてきない。この事実関係を前提にみると,第1の事件ては,被告人は,Aに対し,「ふ っ殺してる。」「頭かち割ってる。」なとと怒鳴るように言い,包丁を 持ち出して,これをことさら示すまてには至っていないか,少なくともAに 見える状態にしており,さらに,逃けるAの首の後ろをつかんて部屋の奥ま て連れて行き,頭を押さえつけており,これらの行為かAに対する脅迫暴 行に当たることはらかてある。また,第2の事件ては,被告人は,同しく, 「ふっ殺してる。」「頭かち割ってる。」なとと怒鳴るように言ったほ か,Aのそはて,Gにライター用オイルをかけて「焼き殺してる。」とも 言っており,これらの行為かAに対する脅迫に当たることはらかてある。4 そこて,進んて,被告人の暴行脅迫かAの反抗を抑圧するに足りる程度 のものなのかについてみると,次のようなことか指摘てきる。すなわち,  「ふっ殺してる。」「頭かち割ってる。」なとという言葉は,それ自体,かなり強烈な感しを受けるか,Aは被告人の実母てあり,これまて も,被告人から同様な言葉を言われて金の無心をされていたということか らすると,このような言葉を言われたからといって,その口調等を考えて も,必すしも脅迫の程度か強いものとは思われない。 
 第1の事件て,包丁を持ち出し,Aかこれを見た点については,確かに このようなことは初めてのことてあったということからして,Aにとって 相当なインハクトかある出来事てあったことは,直ちに逃け出そうとした Aの反応を見るまてもなく,うなすけなくはない。しかし,Aに対し包丁 を突きつけたわけてもなく,刺すそなとと言ってことさら示したわけても なく,Aか包丁を見たのはほんの一瞬てあるということを考えると,脅迫 の程度としては,それほと強いものとは思われない。 その後のAに対する暴行についても,被告人から暴力を振るわれたのは 初めててあったにせよ,それ自体,殴る蹴るなとの行為に比へれは,強度 なものとはいえす,しかも,そのときの流れから出た一時的な行動に過き ない。なお,被告人は,第1の事件て,暴行とは別の機会に,Aの携帯電 話を二つに折って壊しているか,これも,外部との連絡の遮断という意味 かないてはないか,Aはその後も被告人の携帯電話を使うなとして農協等 に変わりなく電話をしており,Aの恐怖心をさほとあおっているとも思わ れない。 第2の事件て,Gにライター用オイルをかけて「焼き殺してる。」と 言った点については,確かにその場に居合わせたAからすると,それなり にインハクトかある出来事てはあるか,Gにかけられたオイルの量は少な く,オイルの性状からしてすく揮発してしまうものてあるところ,被告人 かライター等てもって火をつけるような仕草をしたわけてはなく,危害か 現実化することはおよそ考えられない状況にあった(現に,Gはその後も 酒を飲んたりたはこを吸ったりしている。)のてあり,これも,脅迫の程 度としては,それほと強いものとは思われない。 第1の事件ては,Aは,被告人から金の工面を強く求められ,時間外て あるにもかかわらす,農協に電話して,貯金の引出を何度も求めたり,A らの持ちヒルて部屋を借りて事務所を開いている不動産会社の社員らに対 
し,はり電話て,1年分の賃料の前払をしてくれないかと再三頼んたり したほか,実際に農協に出向いて,支店長らにあらためて貯金の引出を懇 したりするなと,普通に考えれはいささか非常識と思われる行動に出て おり,Aかかなり追い詰められた状況にあったかのようにうかかわれなく もない。しかしなから,これらの行動のほとんとは,被告人から具体的に 言われ,無理りさせられたものてはなく,A自身か思いつくままに動い ていたことは否定てきす(Aにはこのような無茶なことをすることについ て頓着しない性癖かうかかわれる。),むしろ,Aか被告人に対し金の工 面て一生懸命努力していることを見せようとしていたのてはないかと疑う 余地さえある。第2の事件ても,Aは,被告人の要求を受けて,有り金出すしかないと 考え,被告人方を出て,金の工面に奔走し,最終的には,Fらか反対する のもかまわす,また,農協のアトハイスも聞こうとせす,賃貸不動産の将 来の修繕費用等のために保管していたGら名義の定期貯金等を解約してま て,4000万円という莫大な金を用立てており,第1の事件同様,Aか かなり追い詰められた状況にあったことは,うかかい知ることかてきる。
 しかしなから,これも,被告人から無理りさせられたわけてはなく,A 自身か思いつくままに動いていたことを否定てきない。Aのこれらの行動をとらえ,半狂乱の状態(言い換えれは反抗抑圧状態) になっていたなととみる検察官の主張は,余りにも無理かある。 なお,第1の事件てAはEに70万円を渡した後,被告人に言われるま ま再ひ被告人方に赴き,被告人から鎖を手首に巻き付けられたりしている か,鎖の巻き付け方か緩くて容易に手首を抜くことかてきたにもかかわら す,被告人か外出就寝している間も帰ろうとせす,翌朝まて被告人方に ととまっており,検察官は,これをもって,Aか著しく畏怖していた現れ てあるかのように主張する。しかし,AはEから食事を出してもらうなと 
しなから夜を過こしており,Aに一定の余裕かあったことは否めす,検察 官の見方は一方的過きる。第2の事件ても,被告人か,午前2時頃,急病 のため救急車て病院に搬送され,朝方,病院から戻ってくるまて,長時間 留守にしていたにもかかわらす,Aか午前10時頃まて被告人方にととま っていた事実はあるか,これも,その前後の事情をみれは,Aか著しく畏 怖していた現れてあるなととはいえない。 そもそも,被告人は,これまても,「ふっ殺してる。」なとと言って Aに金の無心を繰り返していたのてあり,本件は,第1の事件ては,包丁 を持ち出すなとした点て,第2の事件ては,Gにライター用オイルをかけ るなとした点て,これまてとは違う面かないてはないか,この点を除けは, 従前のものとほとんと変わらす,いわはその延長線上のものとみることも てきる。しかも,第2の事件てはAのことか心配てついてきたGか常に同 席しており,第1の事件ても,当時Aとの関係か悪くなかったEか犬の散 歩の時間を除いて在宅又は同行している。また,被告人の暴行脅迫かあ ってから実際に現金小切手を渡すまてには,かなりの時間の経過かあり, その間,被告人か終始Aにつきまとっていたわけてはなく,連絡を受けた 警察官か臨場しても,Aは警察官に何も訴えたりしていない。そこには, 被告人をこわいと思うAの気持ちまて否定するわけてはないか,Aか,自 分の意思をなくすほと畏怖していたといえるたけの事情は見いたせない。
 以上のようにみてくると,被告人のAに対する暴行脅迫は,Aか高齢てあること,被告人と1対1になっていた場面かあったことなとを考えても, 反抗を抑圧するに足りる程度のものてあったなととは,到底考えられす,恐 喝の手段としてのものにととまるとみるのか相当てある。5 なお,第1の事件て被告人かAにした暴行は前示のとおりてあるところ, これによりAか公訴事実記載の傷害を負ったかについて検討すると,確かに, Aは,被告人から暴行を受けた後,首の後ろか痛かった,腰もひねって痛か 
ったなとと証言し,翌日の午後,医師の診察を受け,全治約1週間を要する 頸部打撲,臀部打撲との診断を得ていることか認められる。しかし,Aの証 言によっても,腰をひねったことはあるか,臀部を打撲した形跡は一切うか かわれないこと,医師の診断も,Aの訴え等を基にしたものに過きす,首 臀部に赤み腫れかあったなとの所見はまったくないこと,暴行の態様をみ ても,頸部に打撲を生しるほとの外力か加わったとまていえるのか疑う余地 かあることなとに照らすと,この点を積極に解するには疑問か残る。したか って,傷害の事実は認定しないこととした。(法令の適用) 被告人の判示各所為はいすれも刑法249条1項に該当するところ,被告人とAとは判示のとおり直系血族の関係にあるから,同法251条,244条1 項により被告人に対し判示各罪につきいすれもその刑を免除することとする。
 よって,刑事訴訟法334条により主文のとおり判する。
(求刑・懲役10年,弁護人(私選)實藤英樹(主任),須田友之) 平成24年11月30日
 横浜地方裁判所第5刑事部
裁判長裁判官 毛利晴光
裁判官 奥 山 豪
裁判官 松本美緒

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