平成24年11月20日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 平成23年第146号 解除料条項使用差止請求事件 口頭弁論終結日 平成24年9月4日判決
主文
 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。
 事実及び理由
第1 請求 被告は,消費者との間で,被告の3G通信サービス契約約款の料金表第1表第1,1,1-2(7)(料金種別第3種Iに係る取扱い・ホワイトプランN)に よる契約を締結するに際し,別紙条項など,同契約が解除された際に消費者が被 告に対し解除料を支払う旨の意思表示を行ってはならない。第2 事案の概要
1 本件は,消費者契約法(以下「法」という。)13条に基づく内閣総理大臣の認定を受けた適格消費者団体である原告が,移動体通信事業等を目的とする 事業者である被告に対し,被告の3G通信サービスに関する契約約款中の,契 約期間中に料金種別を変更又は廃止する場合に顧客が解除料(以下,当初の2 年間に関する解除料及び,更新後の解除料を併せて「本件解除料」といい,区 別が必要なときには,前者を「本件当初解除料」,後者を「本件更新後解除 料」という。)を支払う旨の条項(以下,当初の2年間に関する解除料条項及 び,更新後の解除料条項を併せて「本件解除料条項」といい,区別が必要なと きには,前者を「本件当初解除料条項」,後者を「本件更新後解除料条項」と いう。)が法9条1号又は10条に反し無効であるとして,法12条3項に基 づき,本件解除料条項を含む契約約款を用いた意思表示をすることの差止めを 求めた事案である。2 基礎となる事実(争いのない事実並びに各項末尾掲記の証拠及び弁論の全趣 旨によって容易に認定することができる事実)ア 原告は,平成19年12月25日,法13条に基づいて内閣総理大臣の認定を受け,平成22年12月24日その有効期間の更新の認定を受けた適格消費者団体である。(甲1の1,甲1の2)
イ 被告は,移動体通信事業等を目的とする株式会社であり,電気通信事業について消費者と契約する場合には法2条2項の事業者である。(甲2)  被告は,不特定かつ多数の消費者との間で,携帯電話の利用契約を締結す るに際し,本件解除料条項を含む3G通信サービス契約約款を用いて2年の 定期契約(以下「本件契約」という。)を締結しており,今後も,同内容の意思表示をする可能性がある。(甲3)
 被告3G通信サービス契約における料金種別第3種I(以下「ホワイトプランN」という。)では,2年の定期契約とし,2年経過後は自動更新し, 更新月(契約期間満了の翌請求月)の翌月及び翌々月の基本使用料金を無料 とする。契約期間中に本件契約を解約する場合は,9975円(消費税込み)の本 件解除料を徴収するが,更新月(初回更新は更新月の翌月も)に解約した場 合は本件解除料の支払いを要しないとしている。(甲3) 原告は,被告に対し,平成22年11月29日,法41条1項に定める書 面をもって,消費者との間で,3G通信サービス契約を締結するに際し,本 件解除料条項を内容とする意思表示を行わないことを請求し,同書面は,同 月30日,被告に対し到達した。(甲4,5)3 主たる争点及びこれに対する当事者の主張
 原告は,本件解除料条項は,「平均的な損害」(以下「平均的損害」という。)を超える本件解除料を設定している点で法9条1号に反し,消費者の 解約の自由を不当に制限している点で法10条に反するものであり,無効であると主張する。
 これに対し,被告は,そもそも本件解除料条項には,法9条1号や法10条などのいわゆる不当条項規制の適用はない。仮に適用があるとしても,本 件解除料条項は「解除に伴う損害賠償を予定し,又は違約金を定める条項」 ではないし,本件解除料は平均的損害を超えるものではない。また,本件解 除料条項は法10条前段に該当しないし,消費者の解約の自由を不当に制限 するものでもないため同条後段にも該当しないと反論する。したがって,本件では,不当条項規制の適用の可否,法9条1号該当性 (「解除に伴う損害賠償を予定し,又は違約金を定める条項」該当性,平均 的損害を超えるか),法10条(前段及び後段)該当性が,主たる争点とな る。 消費者契約法の適用の可否(争点) (被告の主張)
ア 法9条及び10条のいわゆる不当条項規制は,契約の目的や消費者の 支払う対価そのものに関する条項(以下「中心条項」という。)を無効に する規定ではなく,契約の目的や消費者の支払う対価については,たと え消費者と事業者の間の契約であろうとも,契約自由の原則に基づき当 事者間で自由に決定できるものである。イ 被告及び競合他社が提供する料金プランは多種多様であり,解除料が不 要なプランも存在する。そして,被告は,申込確認契約書,重要事項説明 書,ウェブサイト,カタログなどにより,本件解除料条項の説明をすると ともに,ウェブサイトなどにおいて,ホワイトプランN以外のプランにつ いても料金プランを記載するなどして説明しているのであるから,被告と 3G通信サービス契約を締結する消費者は,各自が想定している携帯電話 の使い方に照らして,多種多様な料金プランのメリット・デメリットを比 較検討し,最も自分に有利と思われる料金プランを選択することができる。そうすると,本件解除料条項は,多数の取引条件がパッケージとして一 体化した料金プランの中に組み込まれた取引条件の1つに過ぎず,契約の 目的の一部を構成するものである。したがって,本件解除料条項は,中心条項に当たり,契約自由の原則に より,事業者と消費者との間で自由に決定されるべきものであるから,法 9条及び10条の規制の対象となる条項ではない。ウ なお,本件解除料条項は,「料金プラン」の一内容として組み込まれ, 消費者の選択の対象となっているのであるから,本件解除料条項が中心条 項であるからといって,「およそ全ての解除料条項」が中心条項となるわ けではないのであり,法を潜脱することとはならない。(原告の主張)
ア 対価条項(以下,前記中心条項と区別せずに,「中心条項」という。)に不当条項規制が及ばないと解するには,1中心条項と付随条項の区別がさ れていること,2消費者が合理的に判断できるだけの基盤が契約準備交 渉・締結段階で整備されていること,3市場における競争メカニズムが完 全に機能していなければならないことが前提となると解すべきであるが, 現在の我が国においては,上記前提をいずれも欠く状況にあるから,中心 条項に不当条項規制が及ばないとすることはできない。イ 仮に中心条項に不当条項規制が及ばないとしても,本件契約において対 価として規定されているのは基本料金や通信料であり,本件解除料条項は, 解約時に支払う解除料についての規定とされているのであって,役務に対 する対価としては定められてないこと,消費者はこれから契約するという ときに当該契約を解除することを通常は想定しないため消費者が本件解除 料条項を明確に意識するかどうかは疑問があること,同業他社も含めて解 除料付のプラン以外のプランの競争力はなく実質的に選択の余地がないこ と,説明が十分だったといえるかは疑わしいことからすれば,本件解除料条項は,不当条項審査の及ばない中心条項とはいえない。
ウ パッケージとして一体となっている場合には不当条項規制が及ばないと する被告の論理が認められるならば,およそ不当条項は全体の契約の 一部となっているのであるから,不当条項規制の対象とならないこと になり,不当条項を排除することによって消費者の利益を擁護するとした法の立法目的を全く没却することになるため,妥当でない。
 本件解除料条項の「解除に伴う損害賠償を予定し,又は違約金を定める条項」(法9条1号)該当性(争点) (原告の主張)
本件解除料は,2年間という契約期間を途中で終わらせる際にかかるもの であり,損害賠償の予定ないし違約金である。本件解除料条項をパッケージ の一部であるとして,損害賠償の予定ないし違約金に該当しないとすること は,上記(原告の主張)ウのように,法9条1号の適用の潜脱を認めるこ とになってしまい妥当でない。(被告の主張) 「違約金」とは,債務不履行の場合に債務者が債権者に支払うべきことを約した金銭をいい,講学上,損害賠償とは別に支払われるべき「違約罰」か, 「損害賠償額の予定」のいずれかに整理される。被告がホワイトプランNにおいて平成22年4月26日までに提供してい た従来のホワイトプラン(以下「旧ホワイトプラン」という。)には,本件 解除料条項に相当する条項はないが,被告が旧ホワイトプランと異なる取引 条件を提供することとした理由は,基本使用料,無料通信分,通話料,デー タ通信料,解除料,特別の割引約定その他の取引条件を全体として勘案し, 顧客にとっての魅力,被告にとっての採算性,競合他社との競争上の影響等 を総合的に検討した上での経営戦略的判断によるものであり,本件解除料条 項は,このような料金プラン全体の設計の中で,顧客に提示する取引条件の一つとして定められたものに過ぎないのであるから,本件解除料条項は,「損害賠償額の予定」にも,「違約罰」にも当たらない。
 本件当初解除料が平均的損害(法9条1号)を超えるか(争点) (原告の主張)ア 事業者と消費者の間には情報・交渉力に大きな格差があることに鑑みて 消費者を保護しようとする法の趣旨(1条)からすれば,平均的損害とは, 契約解除と相当因果関係のある損害のうち実損害のみをさすというべきで あるところ,本件契約を解約すれば,被告は,通信サービスを提供する義 務を免れるのであるから,実損害は発生しない。イ 特定商取引に関する法律(改正前は訪問販売法,以下,「特定商取引 法」という。)及び割賦販売法は,特定商取引法10条1項4号,25条 1項4号,割賦販売法6条1項3号及び4号などで,各種業者と消費者と の間に損害賠償の予定又は違約金についての合意がある場合であっても, 契約の目的となっている物の引き渡し又は役務の提供が履行される前に解 除があった場合には,各種業者は,消費者に対し,契約の締結及び履行の ために通常要する費用の額を超える額の金銭の支払を請求できないとして 逸失利益の請求を制限しているところ,これらの法律は法と同様に消費者 保護を目的とするものであり,消費者保護のために逸失利益の請求を制限 するという趣旨は法にも及ぶ。そうだとすれば,逸失利益を考慮することは許されるべきではないし, 仮に逸失利益の考慮が許される場合があるとしても,それは当該消費者契 約を当該消費者と締結したことによって他の消費者との間で消費者契約を 締結する機会を失ったような代替可能性がない場合に限られると解すべき である。本件契約においては,顧客が限定されておらず,人数を区切らずに新規 契約の募集が随時行われており,上記のような代替可能性がない場合とはいえないし,被告の契約数は2600万件以上にも及ぶのであり(甲1 0),一人が解約したとしても,被告は容易に他の顧客との契約によって 代替して利益を得ることが可能であるから,平均的損害に含まれる逸失利 益は存在しない。実際,旧ホワイトプランが契約解除料を徴収していなかったことからも, 契約の解除に関して被告になんら損害は生じていなかったといえる。ウ よって,本件当初解除料条項は,本来損害額が0円であるところに99 75円もの契約解除料を課している点で,その全額が平均的損害を超える 不当な違約金条項にあたり,法9条1号に該当し,その全額が無効である。エ 仮に,逸失利益が含まれることがあるとしても,平均的損害を算定する 基礎となる期間等につき恣意的な設定がなされることで消費者が害される ことを防ぐ必要があることから,当該期間について合理的な範囲に区分し て規定されることが予定されているというべきである。本件契約は,2年間という長期間の契約であり,これを一律に把握する と消費者に著しい不利益が生じること,料金が月単位で設定されているこ とからすれば,解約時期を1月毎に区分して,各区分毎に平均的損害を算 定すべきであるところ,被告主張の変動利益を損害と把握しても,23か 月目及び24か月目については本件当初解除料が平均的損害を上回るので あるから,本件当初解除料条項は無効である。(被告の主張)
ア 被告が本件当初解除料を9975円に設定した理由は,基本使用料,無料通信分,通話料,データ通信料,解除料,特別の割引約定その他の取引 条件を全体として勘案し,顧客にとっての魅力,被告にとっての採算性, 競合他社との競争上の影響等を総合的に検討した上での経営戦略的判断に よるものである。商品価格が高度の経営戦略的判断によって決定されるの と同様に,料金プランの一内容を構成する解除料の金額設定も,極めて高度な経営戦略的判断によって決定されるべきものであるが,仮に本件当初 解除料を被告の損失と捉えたとしても,1つの契約が解約されることによ り被告が被る損失の額は,9975円を優に上回る。なお,原告は,旧ホワイトプランに本件当初解除料に対応する条項が 付されていなかったことをもって損害が発生していないというが,被告 は,上記に記載した様々なファクターを含む経済条件やそれを前提とし て行う経営判断が変化したために,旧ホワイトプランに代えてホワイト プランNをメニューに載せただけであり,既に提供されていない料金プ ランである旧ホワイトプランと比較する合理性は存在しない。イ 法9条1号は,事業者が消費者契約に定める損害賠償額の予定条項や違 約金条項を無効にする効果を有する規定にすぎず,民法416条の適用を 制限する効果を有する規定ではないのであるし,特定商取引法や割賦販売 法と異なり,法には逸失利益の支払の請求を否定する条項は定められてい ないのであるから,平均的損害を算定する場合にも,逸失利益を考慮すべ きである。また,代替可能性という点においても,携帯電話サービスは, 大規模インフラをもって,不特定多数の顧客に対し特に定員を限定せずに 提供される定型サービスであるから,ある顧客との契約を,他の顧客との 契約により代替することはできず,被告が個別の顧客の解約に対応して経 費を削減することもできないのであるから,逸失利益の考慮を否定すべき ではない。ウ そして,法9条1号は,事業者が設定した解除の時期等の区分毎に平均 的損害を算定し,その区分の中で,事業者が消費者に対して請求すること が可能な損害賠償の額の総和について,平均的損害の総和を上限とするこ とをその趣旨とするものであり,本件契約においては,被告と消費者の間 で2年間を区分としているのであるから,本件当初解除料が平均的損害を 超えるか否かは,当該区分を基礎として判断されるべきである。このように把握しなければ,予見可能性・法的安定性を失わせることに なるし,契約内容の理解の容易さという点で消費者にとっても不利益にな りかねないのであり,1月毎に区分すべきであるという原告の主張は失当 である。エ 上記のような観点から本件契約の解除についての平均的損害を算定する と,被告と顧客との間の1つの契約が解約されれば,単純にその契約だけ を捉えても,被告の2011年度5月分のホワイトプランNの1契約あた りの月間平均収入(基本使用料,月額使用料,通話料及び送信料の合計か ら割引料金を控除した額。以下「ARPU」という。)から,アクセスチ ャージや継続手数料などの変動コストを控除した変動利益(乙23)に, 平成22年4月及び5月にホワイトプランNに新規加入した契約者の平均 解約期間と契約期間である2年間との差の期間(乙22)を乗じれば,優 に本件当初解除料の9975円を上回るし,上記の逸失利益に加え,当該 顧客に与えられていた種々の優遇取引条件の提供が無為に帰したこと及び いわゆる「ネットワーク効果」の割合的喪失を考慮すれば,本件当初解除 料が平均的損害を超えないことは明白である。オ よって,本件当初解除料は,平均的損害を超えるものではない。
  本件更新後解除料が平均的損害を超えるか(争点) (原告の主張)ア 本件更新後解除料も,上記(原告の主張)記載の本件当初解除料と同 様に被告には何ら損害が生じていないにもかかわらず,9975円もの解 除料が課されているものであるから,平均的損害を上回る。イ また,仮に,本件当初解除料が,3G通信サービス契約に2年間拘束す ることに反したことの違約金であるとして合理性を有するとしても,一定 期間契約で拘束する場合の違約金は,一定期間契約を継続しなかったこと によって事業者に生じる損害を填補する趣旨であるため,当初予定されていた一定期間経過後は,違約金を取得する合理性はない。 そのため,新規顧客獲得手数料平均単価(3万6900円)を損害とし たとしても,ARPUが2010年度で4210円であるから,2年間契 約を継続すれば被告の契約者1人当たりの平均的な収入額は約10万円と なるのであり,2年という最低契約期間により損害は充分に填補されてい るといえ,同期間経過後にも解除料を課すのは平均的損害を明らかに超えている。
ウ したがって,本件更新後解除料は平均的損害を超えているから,本件更新後解除料条項は無効である。
 (被告の主張)
被告・消費者間のホワイトプランNにおける3G通信サービス契約は,2 年間の契約期間が終了し更新されたときは,新たな2年間の定期契約が開始 されるものであり,当初の2年間で損害が填補されているということはない。そのため,上記(被告の主張)記載の本件当初解除料と同様に解すべき であり,本件更新後解除料も平均的損害を超えるものではない。 本件解除料条項の法10条前段該当性(争点) (原告の主張)ア 法1条の消費者保護の趣旨からしても,また,不当条項が任意規定があ るかどうかによって無効とされたりされなかったりするのは極めて不合理 であることからしても,同条前段の要件は当該条項がなかった場合に比べ て消費者にとって不利になっているかどうかを判断するための形式的要件 であると解すべきであり,本件解除料条項は当然に法10条前段の要件を 満たす。イ 仮に上記アの見解を採用しないとしても,法10条は,消費者契約の 条項を無効とする要件として,当該条項が,民法等の法律の公の秩序に 関しない規定,すなわち任意規定の適用による場合に比し,消費者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重するものであることを定めるとこ ろ,ここにいう任意規定には,明文の規定のみならず,一般的な法理等 も含まれると解する(最高裁平成22年(オ)第863号,平成22年 (受)第1066号同平成23年7月15日第二小法廷判決民集65巻
 5 号 2
 2 6
 9 頁 ( 以 下 「 平 成 2
 3 年 判 決 」 と い う 。))。 本件契約についてこれを見ると,消費者の需要に応じた各種の複雑な 通信サービスを提供する行為は,法律行為以外の事務の委託と解される ので,本件契約は,準委任契約あるいはこれに類似する非典型契約であ る。準委任契約の解約については,民法651条により解約の自由が原 則であり,同条においては解約時に当然に違約金を支払うこととはなっ ていないこと,本件契約は,被告が多数の消費者との契約を行うことを 予定するもので,解約する者がいることも当然予定されているのである から,消費者が将来に向かって被告との契約を解約することは,特に被 告に不利な時期の解除とは当然にはいえず,任意規定に比べても消費者 の義務を加重しているというべきである。なお,本件解除料自体は,消費者の支払義務を定めるものであるから, たとえ被告がいうように他に有利な取引条件があったとしても,本件解 除料条項が消費者の義務を加重していることは変わらない。 したがって,本件解除料条項は,解約時に委任者に金銭的負担をさせ るもので,民法651条に比して消費者の解約権を制限し,消費者に義 務を負わせる内容であることは明らかであるから,法10条前段の要件 を満たす。(被告の主張)
ア (準)委任契約とは,当事者双方の対人的信頼関係,信任関係を基礎とする契約であるから,大量・定型的な携帯電話の利用契約はこれに当たら ない。イ 本件解除料条項は,被告の料金プランの一内容として,各料金プランの 中に組み込まれており,本件解除料条項が含まれる料金プランを選択した 消費者は,通話料の優遇その他の有利な取引条件を同時に得ている。した がって,本件解除料条項は,民法等との比較において「消費者の権利を制 限し,又は消費者の義務を加重する条項」ではない。 本件当初解除料条項の法10条後段該当性(争点) (原告の主張)ア 法10条が法8条及び法9条を包含する一般条項であるといえるとこ ろ法8条及び法9条は必ずしも民法1条2項や90条で無効になるとは いえないものについても無効とするものであること,法は民法の特別法 であること,法10条の文言が「民法第1条2項に反して」ではなく 「民法第1条2項に規定する基本原則に反して」としていることからす れば,法10条は,民法では必ずしも無効とされないものについても無 効とする規定であるというべきである。 そして,当該条項が,民法1条2項に規定する基本原則に反して消費 者の利益を一方的に害するものであるか否かは,法の趣旨,目的に照ら し,当該条項の性質,契約が成立するに至った経緯,消費者と事業者と の間に存する情報の質及び量並びに交渉力の格差その他諸般の事情を総 合考量して判断されるべきである(平成23年判決参照)。イ まず,法の趣旨・目的は,消費者契約においては,事業者と消費者の 間に圧倒的な情報力及び交渉力の差があることにより,消費者に一方的 に不利益な契約条項が押し付けられるおそれがあることから,上記格差 により合意された不合理な内容の条項の有効性を否定することにあると ころ,当該条項が無効か否かを判断するに当たっても,上記消費者保護 の観点から検討されるべきである。 本件当初解除料条項は,解約時に9975円もの解除料がかかること 12により,消費者の解約の意欲を削ぎ,さらなる継続使用を間接的に強制 しているものであり,消費者を被告との契約から逃れにくくすることで, 2006年10月に導入されたモバイル・ナンバー・ポータビリティ (以下「MNP」という。)により消費者に保障される消費者が自由に 解約し,携帯電話会社を自由に選択できる権利・利益を阻害し,不当に 制限しているのであり,消費者に一方的に不利益な性質を有するもので ある。 また,本件当初解除料条項は,事業者と消費者との間の一方的な情報 力及び交渉力の差を背景に,ホワイトプランNを被告のウェブサイトで 大きく最初に紹介し,他のプランと異なり料金を表示する等(甲8,甲 12)して,被告が強く消費者に勧めていること,ブループラン,オレ ンジプランや競合他社の基本使用料が安くなるプランにも同様の解除料 条項が付されていること(甲3,甲16)から,生活必需品という消費 者が必ず契約しなければならないものについて,消費者に交渉の余地を 与えることなく,しかも,被告によって強力に宣伝され,被告の強力な 主導で,たくみに消費者に押しつけられたものであるといえる。このことは,被告の四条烏丸店において平成22年5月1日から同年 12月31日までの間に3G通信サービス契約を締結した個人のうち約 98.26%(867人のうち,ホワイトプランNが852契約,その 他が15契約)がホワイトプランNを契約していること(乙20)から も明らかである。 平成22年4月26日まで提供されていた旧ホワイトプランに解除料 条項をおいていなかったことは,本件当初解除料条項が不当なものであ ることを示している。ウ 以上からすれば,本件当初解除料条項は消費者契約法の趣旨・目的に照 らし,消費者が自由に携帯電話会社を選択する自由・利益を害し,事業者の都合で不当に消費者を囲い込むものであり,また,当該条項は消費者と 事業者の情報力・交渉力の格差等を利用して,消費者に押しつけられてい るものであるといえ,信義則に反し消費者の利益を一方的に害するもので あるから,法10条後段に該当するというべきである。(被告の主張)
ア 法10条においては,単に消費者に不利益な条項が全て無効の対象となるものではなく,消費者が情報・交渉力において劣位にあることを利用し, 一方的に事業者に有利な結果を来すような,「不当な条項」のみが無効の 対象となるのであり,当該条項が,民法1条2項に規定する基本原則,す なわち信義則に反して消費者の利益を一方的に害する場合にのみ無効とす るものであって,消費者が,契約の締結に当たって,当該契約によって自 らが負うこととなる金銭的な負担を明確に認識した上,複数の契約条件を 比較検討して,自らにとってより有利な物件を選択をすることができるの であれば,それは事業者,消費者双方の経済的合理性を有する行為と評価 すべきものであるから,原則として消費者の利益を一方的に害するものと いうことはできないというべきである(平成23年判決参照)。そして,本件契約についても,消費者は,本件当初解除料条項を含めて, 本件契約によって自らが負うこととなる金銭的な負担を明確に認識した上 で,様々な料金プランの契約条件を比較検討して,自己にとってより有利 な料金プランを選択して,本件契約の締結に至っているのであるから,信 義則に反して消費者の利益を一方的に害するものではない。イ 個別的な検討を加えるとしても,MNP制度とは,契約者が携帯電話 会社を変更する際に,電話番号を変更することなく変更後の携帯電話会 社の通信サービスを受けることができる制度に過ぎず,携帯電話会社が 契約期間を2年間とする契約を締結することや,期間途中で解約した場 合の解除料を設けることを何ら制限する趣旨の制度ではない。 また,被告は,解除料が設定されていないプランも提供しており,ウ ェブサイトなどにより当該プランの宣伝も行っていることに加え,電気 通信事業者として,上記(被告の主張)のように重要事項説明書など により,消費者に対し,上記の各プランや本件解除条項についても,十 分な情報提供とリスクの説明をしている。また,携帯電話サービス市場 は,激烈な競争が行われている市場であり,料金や取引条件に対する消 費者の意識・情報力は極めて高いのであり,被告が消費者にホワイトプ ランNを一方的に押しつけることなどできない。したがって,消費者が本件当初解除料条項を明確に認識した上で,多 種多様なプランの中から自らの使途に適合したプランとして選択し,本 件当初解除料条項のある携帯電話利用契約の締結に至っている以上,そ れは被告・消費者双方の経済的合理性を有する行為であって,信義則に 反して消費者の利益を一方的に害するものに当たらない。ホワイトプラ ンNが多くの消費者に選ばれているのは,同プランが魅力的であるから にすぎないのであり,何ら問題はない。 そして,本件当初解除料の金額は9975円(税込)であって,携帯 電話利用料金の額に照らして高額に過ぎるなどという事情もない。ウ 以上より,本件当初解除料条項は,信義則に反して消費者の利益を一方 的に害するものに当たらないのであり,法10条後段に該当しない。 本件更新後解除料条項の法10条後段該当性(争点) (原告の主張)ア 本件更新後解除料条項は,更新後に解約する場合にも2年ごとの解除料 が課されない期間外で解約する場合には9975円の解除料が課される内 容となっているが,上記(原告の主張)記載の本件当初解除料条項と同 様に,被告により消費者に不当に押しつけられたものであり,一方的に消 費者の解約及び携帯電話会社を自由に選択する権利利益を害するものであるから無効である。
イ 仮に本件当初解除料の趣旨が,長期間契約による割引だとしても,一定量の契約をしてもらうことを条件として一定料金とするというものである から,一定量の契約をした後には違約金を課すのは不当であるところ,上 記(原告の主張)記載のとおり,新規顧客獲得手数料平均単価を損害と したとしても,2年という最低契約期間により損害は充分に填補されてい るといえるのであるから,同期間経過後にも解除料を課すのは,明らかに 不当である。ウ したがって,本件更新後解除料条項は,2年を超える期間経過後におけ る解除料を課す点で極めて不当なものであり,消費者契約法10条により 無効である。(被告の主張)
ア 被告は,自社のサービスを一定期間(2年間)使い続けてくれることが見込まれる者に対し,その他の面でより優遇した取引条件を提供している のであり,ホワイトプランNは,2年間の契約期間が終了し更新されたと きは,新たな2年間の定期契約が開始するものであるところ,事情は更新 前後で何ら変わらないのであるから,上記(被告の主張)記載の本件当 初解除料条項と同様に,消費者の権利・利益を一方的に害するものとはい えない。イ また,被告の投下資金の回収という観点からも,携帯電話の通信サービ スを提供する事業者は,継続的な設備投資や契約者維持のための費用を支 出し続けているのであり,当初の契約期間が経過すれば,新たな投資が不 要であるなどということはないのであるから,本件更新後解除料条項は, 2年経過後も有効である。第3 当裁判所の判断
1 上記第2,2記載の事実,証拠(甲12,甲14ないし甲17,乙1,乙14ないし乙17,乙20ないし乙23)及び弁論の全趣旨からすれば以下の事 実が認められる。 被告は,ホワイトプランNの他に,ゴールドプラン,オレンジプラン,ブループランなどのプランを提供しており,これらのプランにおいては,解除 料9975円の定めがある2年契約のプランの場合は,当該プランに対応す る解除料の定めがないプランに比して,基本使用料が半額に設定されている など割引されている。 平成18年6月から,MNPが開始され,競合他社である,ドコモ株式会 社やKDDI株式会社は,9975円の解除料を付した2年契約のプランに ついてはそれらに対応する解除料の定めのないプランに比して,基本使用料 を半額に設定するなどプランの変更を行った。 被告は,平成22年4月26日まで,旧ホワイトプランを提供しており, かかるプランには,解除料条項などの定めは置いていなかったが,ホワイト プランNを旧ホワイトプランに代えて提供するに際して,本件解除料条項を 付した。 本件契約に関する申込内容確認書の『受付時の注意点』に「今回お申込の ホワイトNを解除する際,契約解除料9,975円(税込)がかかる場合が あります。(但し,更新月等一部条件を満たす場合,契約解除料は発生しま せん)」との記載があり,消費者は「『受付時の注意点』も確認した上,契約 します」というチェック欄にチェックをした上で,契約することとなってい る。また,契約締結に際して配布される重要事項説明書の記載の中央には 「「契約解除料」が必要な場合があります」との文字が同書に記載されてい る他の文字と比較して大きく記載され,同書面の下部には,「ホワイトプラ ンは2年単位での契約となります(自動更新)。更新月(契約期間満了の翌 請求月。初回更新月のみ契約期間満了の翌請求月から2カ月間)以外の解約 等には契約解除料(9,975円)がかかります」との記載がある。そして,カタログの本件プランの説明のページに,本件解除料条項の説明の図が掲載 さ れ , 同 図 に は ,「 2
 4 ヵ 月 目 」「 自 動 更 新 」「 2
 5 ヵ 月 目 (
 1 ヵ 月 目 )」,「 4
 8 ヵ 月 目 ( 2
 4 ヵ 月 目 )」「 自 動 更 新 」「 4
 9 ヵ 月 目 (
 1 ヵ 月 目 )」 と の 記 載 が あり,同図の下には「2年契約(自動更新)。更新月(契約期間満了の翌請 求月・初回のみ翌々月を含む2カ月間)以外の解約等には契約解除料(9, 975円)がかかります」と記載があること,ウェブサイトに本件解除料条 項についての説明や図が掲載されている。2 消費者契約法の適用の可否(争点)
 法9条及び10条は,消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差にかんがみ,消費者の利益を不当に害することとなる条項の全部又 は一部を無効とすることにより,消費者の保護を図る規定であるが,契約の 主要な目的や物品又は役務等の対価それ自体については,契約自由の原則が 最も強く働くものであるから,上記のような格差が存在することを踏まえて も,当事者の合意に委ねるべきであり,相手方の窮迫,軽率,無経験等に乗 じて不当な利益を得る暴利行為など民法90条に規定する公序良俗違反とな るような例外的な場合に民法によって無効とされることがあるにとどまり, 法9条及び10条は適用されないと解する。ア そして,問題となる条項が,契約の主要な目的か否か,物品又は役務等 の対価それ自体についての条項(中心条項)に該当するか否かについては, 当該条項の文言,契約全体での位置づけ及び当事者の意思などを総合的に 考慮して決すべきである。イ 争いのない事実及び証拠(甲3)によれば,本件解除料条項について 規定する3G通信サービス約款第53条に,「解除料の支払義務」との 題名が付され,「料金表第1表第1の規定に該当する場合には料金表第 1表第6(解除料)に規定する金員の支払を要します」と規定されてお り,料金表第1表第1,1-2において利用期間を「24料金月」とし,当該プランの「契約者が,その料金の変更若しくは廃止することを 通知した場合……第6に規定する解除料の支払を要します。」としてい ることが認められる。そして,争いのない事実及び弁論の全趣旨によれば,消費者は,携帯 電話を利用するための通信サービスを受けるために本件契約を締結して いることが明らかである。かかる条項の文言,契約全体での位置づけ及び当事者の意思からすれ ば,本件契約は,継続的に携帯電話を利用するための通信サービスの提 供が主要な目的であり,本件解除料条項は,消費者が本件契約の2年間 という契約期間の定めに反して解約した場合に,被告に対し一定額の金 員を支払う義務があることを規定したものといえる。 また,上記役務に対する対価は,通信サービスを受けるために必要な 費用,すなわち,基本使用料,通話料及び通信料であるというべきであ り,2年間解約しなければ発生しない本件解除料は,事前に当該プラン に組み込まれて,対価を構成するものとはいえない。ウ この点について,被告は,本件解除料条項は,消費者が合理的に選択し たもので,多数の取引条件がパッケージとして一体化した料金プランの中 に組み込まれた取引条件の1つに過ぎず,契約の目的の一部を構成するも のであると主張するが,上記のような条項の文言などからすれば,契約時 に消費者が本件解除料を契約の主要な目的や役務の対価と捉えているとは 言い難い。また,上記のような事実関係の下で,本件解除料条項を中心条項に該当 するとすれば,法9条及び10条の非適用の外延を不当に広げることにな りかねず,法の消費者保護の趣旨を没却するおそれがあり妥当でない。 したがって,本件解除料が,本件契約の主要な目的や物品又は役務等の 対価それ自体ということはできず,法9条1号及び法10条の適用は排除されない。
3 本件解除料条項の「解除に伴う損害賠償を予定し,又は違約金を定める条項」(法9条1号)該当性(争点)
 法9条1号は,「当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し,又は違約金を定める条項」を対象としているところ,かかる規定は,損害賠償 額の予定に加えて,違約罰的なものについても対象とする趣旨であり,消費 者契約の解除に伴う損害賠償の予定や違約罰を広く対象とするものである。そして,当該条項で課される金員が,損害賠償の予定ないし違約金に該当 するかは,当該条項の定め方や当事者の意思などを実質的に考察して判断す べきである。ア 本件解除料条項についてみると,上記第3,2のとおり本件解除料条 項について規定する3G通信サービス約款第53条に,「解除料の支払義 務」との題名が付され,料金表第1表第1,1-2において利用期間を 「24料金月」とし,当該プランの「契約者が,その料金の変更若しくは 廃止することを通知した場合……第6に規定する解除料の支払を要しま す。」と記載されていることが認められ,本件解除料条項は,消費者が本 件契約の契約期間内に解約した場合に,被告に対し一定額の金員を支払う 義務があることを規定したものといえ,かかる金員は契約期間の定めに反 した際にかかるものであるから,違約罰としての性質を有するといえる。そして,かかる文言などからすれば,消費者としても,本件解除料は, 2年契約という期間制限に反して契約から離脱する際にかかる損害賠償の 予定ないし違約罰としての性質のものであるという認識を有することが通 常であるといえる。このようなことからすれば,本件解除料条項は,損害賠償の予定ないし 違約罰に該当すると言わざるを得ない。イ この点について被告は,本件プランを構成する一内容にすぎず,解除料 20条項のみを取り出すことは不合理であると主張する。
 しかし,解除料条項などは通常契約の目的と関連性を有するのであるから,プランの内容として規定されたものには法9条1号の適用がないとす ると同号の適用場面が非常に限定されることになることが考えられるが, かような事態は,消費者保護のために損害賠償の予定や違約金の制限を規 定する法の趣旨に反することとなり妥当でない。また,被告は,充分な説明がなされているか否かにより区別できると主 張するが,説明により損害賠償の予定ないし違約金でなくなるとはいえな いし,結局法9条1号の潜脱を認めることになりかねず妥当でない。 よって,本件解除料条項は,法9条1号の「当該消費者契約の解除に伴う 損害賠償の額を予定し,又は違約金を定める条項」に該当する。4 本件当初解除料が平均的損害(法9条1号)を超えるか(争点) 平均的損害の額とは,同一事業者が締結する多数の同種契約事案について 類型的に考察した場合に算定される平均的損害の額をいうものであり,具体 的には,解除の事由,時期等により同一区分に分類される複数の同種の契約 の解除に伴い,当該事業者に生じる損害の額の平均値を意味するのであり,当該契約の特性などを考慮に入れて算定されるべきものと解する。
ア 法9条1号の趣旨は,事業者と消費者との合意により損害賠償の予定 や違約罰が自由に定められることになると,消費者に過大な義務を課さ れるおそれがあるため,損害賠償の予定と違約金の合計について,事業 者に生じる平均的損害の賠償の額を超えてはならないとすることにより消費者を保護しようとすることにあると解する。
 そうだとすれば,法9条1号は,民法の一般原則通りに損害賠償の予定や違約罰の全額を認めると不当な場合に,平均的損害という一定の枠 を設けて,消費者保護を図る規定にすぎず,特別の規定なく,それ以上 の制限を課すものではないと解すべきである。そして,民法上,損害賠償の予定ないし違約罰を請求する際には,逸 失利益の考慮が許されるのが原則であり,本件契約が解除された場合も 民法の原則上は逸失利益の考慮が許されること,逸失利益の請求が不当 な類型とされるものについては,特定商取引法10条1項4号や25条 1項4号,49条4項3号,同条6項3号,58条の3第1項4号,割 賦販売法6条1項3号及び同項4号など民法の一般原則を修正するため の要件が明文で定められているが,法9条1号には何らそのような定め はないことからすれば,本件当初解除料条項について逸失利益の考慮が 許されないとする理由はない。 この点に関して,原告は,上記逸失利益の請求を制限する規定の趣旨 が法にも妥当すると主張するが,民法の原則を修正する上記規定は特別 に定められたものであるといえ,法が,その制定の際に,上記規定に類 似した定めをしていないことからすれば,明文の規定なく上記規定の趣 旨が及ぶものとすることはできない。また,原告は,本件契約は,他社との契約により代替可能性があるた め逸失利益の考慮は許されないと主張する。しかし,ホテルの宿泊予約 を解約する場合に,宿泊予定日まで期間が空いているため他の客と契約 が締結できる蓋然性が高いような場合などに算定される損害が低額にな るのは,他の者と契約を締結することにより解除による損害の埋め合わ せがなされているからにすぎず,逸失利益の考慮が許されないとする理 由となるものとはいえないし,本件契約は,数の制限をせずに契約者を 募集して,各人が2年間の契約を満了することが前提となっている契約 類型であって,中途解約した者の損害を他の者と契約を締結して埋め合 わせることはできない類型の契約であるというべきであるから,原告の 主張を採用することはできない。さらに,原告は,旧ホワイトプランでは解除料条項がなかったことを 22もって損害が発生していなかった旨主張するが,旧ホワイトプランの規 定と,本件契約の解除により損害が発生するか否かは直接の関係はない から,この点に関する原告の主張を採用することができない。実際上も,本件のように継続的な取引が予定されている場合には,消 費者と事業者との間で,継続期間における収益を見込んで基本契約の内 容が決せられているのであり,事業者が企図する利益は当該継続期間の 収益であり,中途解約された際の損害は,契約が期間満了まで継続され たならば得られたであろう利益とするのが自然であるし,契約の履行を より忠実に守った者の損害の方が小さくなるという点も当事者の意図に 合致するものである。 このようなことからすれば,本件契約の平均的損害を算定するために は,逸失利益も考慮に入れるべきであると解する。イ そして,上記アの法9条1号の趣旨からすれば,同号は,原則とし て,事業者と消費者が設定する当該条項の区分の中で,事業者が消費 者に請求できる額の総額が事業者に生じる損害の総額を超えることを 防止する機能を有するものであり,平均的損害であるか否かの区分は, 消費者保護の観点から当該条項で定められた区分が著しく不当である ような事情の無い限り,当該条項で定められた区分ごとに判断するべ きであると解する。 これを本件契約についてみると,ホワイトプランNは,2年間という 一定期間の定めのある継続的契約であり,当該期間中の継続的使用を考 慮して,基本使用料,通話料,本件当初解除料のかからない解約月など が設定されている契約であること,上記アのように,代替可能性があ り埋め合わせの可能性が解除によって生じる損害の額に大きく影響する ような契約類型でないことからすれば,本件当初解除料条項で定めた2 年間という期間を一つの区分としても,消費者保護の観点から著しく不当であるということはできないから,同期間を平均的損害を算定するための区分とすべきである。
 したがって,ホワイトプランNの平均的損害を算定する際には,2年間という区分を基礎とするべきである。
ウ 上記のように,ホワイトプランNは,2年間という期間が定まっている継続的契約であり,解除の時期により損失の埋め合わせができる性質 のものではなく,2年間の使用の継続による利益が見込まれることから すれば,平均的損害は,ホワイトプランNが解約されることにより被告 に生じる逸失利益(以下「本件逸失利益」という。)に平均解約期間と 契約期間である2年間との差の期間(以下「契約残期間」という。)を 乗じた金額をいうものと解すべきである。 証拠(乙22)によれば,平成22年4月及び同年5月にホワイトプ ランNに加入した者の平均解約期間が●●か月であることが認められ, これによれば,契約残期間は,●●か月であることが認められる。 ところで,音声通話料金やデータ通信料金(以下「通信料等」とい う。)による利益については,消費者の使用量により金額が変動すると いう性質を有するものであること,解約を指向する消費者においては解 約をしなかったときに使用量を抑制する可能性があることからすれば, 通信料等の平均金額が本件契約期間の2年間を通じて存続することを前 提として,本件逸失利益を算出することは妥当ではない。被告の変動利益を逸失利益とすべきであるとの主張は,上記の点を前 提とするものとして妥当ではない。 そこで,本件逸失利益を検討するに当たり,通信料等に関する収入と 費用を除き,基本使用料やオプション料,保証料金などの固定的な費用 を基礎に算定することとする。具体的には,基本料金,Wホワイト料金,あんしん保証パックの加入 24料金の平均から,固定的なコストを控除してみると,証拠(乙23)に よれば,ホワイトプランN加入者のARPUとしては,2011年度5 月分の資料が出されているところ,本件逸失利益は,基本料金●●円, Wホワイト料金●●円,あんしん保証パック料金●●円の合計●●円か ら,被告が本件固定費用等についてサービスを中途で提供する必要がな くなったことにより免れた役務の提供の対価といえる継続手数料●●円, 請求コスト等●●円,ポイント費用●●円,売掛貸倒引当費用●●円の 合計559円のうちARPUに占める固定費用の割合(●●/●●)に 対応した●●円及びあんしん保証パック原価●●円を控除した●●円と なる。これに契約残期間●●か月を乗じた1万2964円が通信料等を除外 してもなお,本件契約の平均的損害として生ずる金額であるといえる。エ そうすると,契約残期間や本件逸失利益が1割程度変動しうることを考 慮しても,本件契約の平均的損害は,本件当初解除料9975円を上回る というべきである。 よって,本件当初解除料9975円は,本件契約が解除されることにより 被告に生じる平均的損害を超えることはないため,本件当初解除料条項は法 9条1号に反しない。5 本件更新後解除料が平均的損害を超えるか(争点)
ア 上記第3,1記載の事実及び証拠(乙14ないし17)によれば,重要事項説明書に,「ホワイトプランは2年単位での契約となります(自動更 新)更新月(契約期間満了の翌請求月。初回更新月のみ契約期間満了の翌 請求月から2カ月間)以外の解約等には契約解除料(9,975円)がか かります」との記載があること,カタログの本件プランの説明の図には 「 2
 4 ヵ 月 目 」「 自 動 更 新 」「 2
 5 ヵ 月 目 (
 1 ヵ 月 目 )」,「 4
 8 ヵ 月 目 ( 2
 4 ヵ 月 目 )」「 自 動 更 新 」「 4
 9 ヵ 月 目 (
 1 ヵ 月 目 )」 と の 記 載 が あ り , 同 図の下に「2年契約(自動更新)。更新月(契約期間満了の翌請求月・初回 のみ翌々月を含む2カ月間)以外の解約等には契約解除料(9,975 円)がかかります」と記載があることが認められるのであり,消費者は, 本件契約は2年契約であり自動更新されること及び本件更新後解除料条項 の存在を十分認識していたといえる。このようなことからすれば,本件契約は2年契約の繰り返しというべき であり,更新後の契約についての平均的損害の計算方法は,更新前の契約 についての平均的損害の計算方法と同様に解するべきである。イ この点に関して被告は,新規顧客獲得手数料平均単価を回収できている ことなどを主張するが上述のように,同額を損害算定の根拠とすべきでは なく妥当でない。 ホワイトプランNは,平成22年4月から提供されているものであるため 更新者が少なく,更新後の平均的解約期間等や本件逸失利益は推測せざるを 得ないことになるが,更新前の期間と更新後の期間においてこれらの数値が 大きく変わるといった特段の事情もなく,本件当初解除料が通信料等を除外 してもなお平均的損害を超えるものではないことからすれば,基本使用料2 か月無料分を考慮に入れたとしても,本件更新後解除料が平均的損害を超え ることはないことが推測される。 したがって,本件更新後解除料9975円は,本件契約が解除されること により被告に生じる平均的損害は超えることはないと推測されるため,本件 更新後解除料条項は法9条1号に反しない。6 10条前段該当性(争点)
 法10条前段は,「民法,商法その他の公の秩序に関しない規定」すなわち,任意規定「の適用による場合に比し,消費者の権利を制限し,又は消費 者の義務を加重する消費者契約の条項であること」を要件としているが,こ こにいう任意規定には,明文の規定のみならず,一般的な法理等も含まれると解する(平成23年判決参照)。
ア そして,上記第3,2記載のとおり,本件契約は,継続的に携帯電話を利用するための通信サービスの提供が主要な目的であるといえ,被告が消 費者に対して携帯電話を利用した通信等を利用可能とする役務を一定期間 継続して提供し,消費者がその対価として基本使用料や通信料等を支払う ものである。かような契約は,大量・定型的な携帯電話の利用契約である点で,当事 者双方の対人的信頼関係,信任関係を基礎とする準委任契約そのものとは いえないが,事業者が消費者から一定期間の継続的な携帯電話サービスと いう役務の提供の依頼を受け,かかる役務を提供することを内容とする点 で,法律行為以外の事務の委託とみることもできるため,準委任契約類似 の無名契約とみるべきである。イ そこで,準委任契約に関する民法651条を参考に考えると,同条では 一般に時期や事由に関係なく一律の解除料を当然に必要とするものとはさ れていないことから,事由のいかんを問わず,更新月など以外の場合の解 除に一律に金銭的負担を課している本件解除料条項は,上記任意規定の適 用の場合に比して消費者の権利を制限し,義務を加重するものといえる。 したがって,本件解除料条項は,法10条前段の要件を満たす。
 本件当初解除料条項の法10条後段該当性(争点) 法10条後段は,当該条項が民法1条2項に規定する基本原則,すなわち 信義則に反して消費者の利益を一方的に害する場合に無効とするものである と解する。そして,当該条項が,信義則に反して消費者の利益を一方的に害するもの であるか否かは,法の趣旨,目的(同法1条参照)に照らし,当該条項の性 質,契約が成立するに至った経緯,消費者と事業者との間に存する情報の質 及び量並びに交渉力の格差その他諸般の事情を総合考量して判断されるべきである(平成23年判決参照)。
ア 本件当初解除料条項は,解除をするために9975円という料金がかかることで,消費者に解約を思いとどまらせる効果があるものであり, 消費者の解約の自由を制限するものであるといえる。しかし,他方で,上記第3,1記載の事実及び証拠(甲 3)によれば, 本件当初解除料条項付きのホワイトプランNは,他の解除料がかからな いプランに比して,基本使用料が安く設定されているなど,消費者も優 遇された契約条件を受けられるという利益を有する関係にあることが認 められる。 そして,上記第3,1記載の事実及び証拠(乙14ないし乙17)に よれば,申込内容確認書の『受付時の注意点』に「今回お申込のホワイ ト N を解除する際,契約解除料9,975円(税込)がかかる場合があ ります。(但し,更新月等一部条件を満たす場合,契約解除料は発生し ません)」との記載があり,消費者は「『受付時の注意点』も確認した上, 契約します」というチェック欄にチェックをした上で,契約しているこ と,契約締結に際して配布される重要事項説明書の記載の中央には 「「契約解除料」が必要な場合があります」との文字が同書に記載され ている他の文字と比較して大きく記載がされ,同書面の下記には,「ホ ワイトプランは2年単位での契約となります(自動更新)。更新月(契 約期間満了の翌請求月。初回更新月のみ契約期間満了の翌請求月から2 カ月間)以外の解約等には契約解除料(9,975円)がかかります」 との記載があること,カタログの本件プランの説明のページに,本件当 初解除料条項の説明の図が掲載され,同図の下に「2年契約(自動更 新)。更新月(契約期間満了の翌請求月・初回のみ翌々月を含む2カ月 間)以外の解約等には契約解除料(9,975円)がかかります」と記 載があること,ウェブサイトに本件解除料条項についての説明や図が掲載されていることが認められる。
 このようなことからすれば,消費者は,本件契約を締結する際,本件当初解除料条項について充分に認識した上で契約を締結しているといえ, 本件当初解除料条項について消費者と事業者の間に看過できないような 知識,情報及び交渉力の差があるともいえない。 そして,上記第3,4記載のとおり,9975円という本件当初解除 料は,平均的損害を下回るものであること,ホワイトプランNは解除料 条項のない他のプランに比して基本使用料などの優遇を受けていること などを考慮すれば,不当に高額とはいえないし,更新月及び翌月には無 料で解約できる期間が設けられており,かかる期間は,2か月間と不当 に短いものではない。 したがって,消費者が,本件当初解除料条項の存在を認識した上で, 経済的合理性等を考慮して本件当初解除料条項付きプランを選択してい るといえるのであり,解除料の金額や解除料がかからない期間を考慮し ても,本件当初解除料条項は,信義則に反しているとはいえない。イ この点に関し,原告は,MNPは,消費者に携帯電話会社の選択の自 由を確保するものであり,本件当初解除料条項は,かかる自由を不当に 制限するものであると主張するが,MNPは,番号を変更することなく 他社に移行できる制度であり,事業者間の移動の自由を促進する制度で あるが,事業者が期間制限を設けるプランを用意することや中途解約の 場合の解除料などの金員が発生することを禁ずるものではないのであり, 上記のような事実関係の下においては,本件当初解除料条項が信義則に 反するとはいえない。 また,原告は,本件契約は被告に押しつけられたものであることから, 本件当初解除料条項は消費者に一方的に不当であると主張する。しかし,上記アのように消費者が契約に際して本件当初解除料条項 29について充分な説明を受けた上で納得しているといえ,広告などにより 不当に誘導されたとはいえないこと,上記第3,1記載の事実及び証拠 (甲3,乙19,乙20)によれば,被告は解除料条項の付いていない プランも提供しているのであるし,同業他社も同様に解除料条項の無い プランの提供を行っており,実際に他のプランを選択している消費者も いることが認められる。原告は解除料条項が付かないプランは競争力を 失っていると主張するが,どの事業者のどのプランを選択するかは,機 種や接続性,乗り換えの自由など,様々な要素を含めて消費者が選択す るものであるし,解除料が付かないプランも他社の従来の料金であり, 形骸的なものとまではいえず,未だ選択の自由がないとまではいえない。したがって,本件契約が被告に押しつけられたとはいえない。
 さらに,原告は,平成22年4月26日まで提供されていた旧ホワイ トプランに解除料条項をおいていなかったことから,本件当初解除料条 項は不当であるとするが,営利を目的とする企業が,経営競争の中でど のようなプランを提供するかは基本的に自由であり,消費者が説明を受 けた上で契約を締結しており,上記のように制限も不当とまではいえない本件当初解除料条項の有効性は影響を受けない。
 このような事情からすれば,本件当初解除料条項は,信義則に反して消費者の利益を一方的に害する場合であるとはいえないから,法10条後段の要件を満たさない。
8 本件更新後解除料条項の法10条後段該当性(争点)
ア 上記第3,1記載の事実及び証拠(甲3)によれば,更新後においても 更新前と同様に基本料等の点で他のプランよりも優遇を受けていることに 加えて更新後2か月間は基本使用料が免除されるなど,消費者にとっても 利益となっていることが認められる。また,上記第3,5ア記載のとおり,消費者は,本件契約は,2年契 30約であり,自動更新されること及び本件更新後解除料条項の存在を認識し ていたといえる。そして,消費者は,更新月(契約期間満了の翌請求月・初回のみ翌々月 を含む2カ月間)に更新をしないこともできるのであるから,一方的に不 利益とはいえない。イ この点について原告は,長期間契約の割引については,新規顧客獲得費 用を2年間で充分に回収できるのであるから,2年の経過により合理性が 失われると主張するが,新規顧客獲得費用のみではなく基本使用料を他の プランと比べて安くするなどの上記優遇もあること,事前に充分に説明が なされていること,2年毎に期間を区切り,当該期間毎の採算性を考慮し て基本使用料などの契約条件を決めることは不合理とはいえないことから, 未だ合理性が失われているとはいえない。 したがって,本件更新後解除条項も信義則に反して消費者の利益を一方的 に害する場合であるとはいえず,法10条後段の要件を満たさない。9 まとめ 以上によれば,本件当初解除料条項及び本件更新後解除料条項は,いずれも,法9条1号,法10条に反することはない。
 10 結論
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決 する。京都地方裁判所第1民事部
裁判長裁判官 杉 江 佳 治
裁判官小堀 悟
裁判官 畦 地 英 稔
(条項の表示) 同契約約款第53条
別紙条項
:「契約者は,料金表第1表第1の規定に該当する場合には,料金表第1表 第6(解除料)に規定する料金の支払いを要します。」料金表第1表第1,1,1-2(7)オ :「当社は,エの規定により料金種別の第3種Iに係る取扱いが満了した場合は,その満了日(料金種別の第3種Iに係る取扱いが満了する 日をいいます。)の翌日に料金種別の第3種Iに係る取扱いを更新し ます。」同カ :「料金種別の第3種Iを選択している契約者が,その料金種別の変更若しくは廃止することを当社に通知した場合又は当社がその料金種別 を変更若しくは廃止した場合は,第6(解除料)1(適用)(2)欄 に規定する事由に該当する場合を除き,第6に規定する解除料の支払 い を 要 し ま す 。」料金表第1表第6,2,2-1-7 :「区分:解除料,単位:1契約ごとに,料金額:9,500円(9,975円)」
判例本文

この判例ページのURL

LINEで送る
Pocket