平成22年(わ)第2135号 覚せい剤取締法違反,関税法違反被告事件 判主文 被告人を懲役9年及ひ罰金400万円に処する。
未勾留日数中110日をその懲役刑に算入する。
 その罰金を完納することかてきないときは,金1万円を 1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。 押収してある覚せい剤2袋(平成23年押第23号の4, 5)を没収する。理由
(罪となるへき事実) 被告人は,A及ひ氏名不詳者らと共謀の上,営利の目的て,みたりに,平成22年10月4日(現地時間),ホリヒア多民族国ヒルヒル国際空港において,B航空 34便に搭乗する際,覚せい剤約2703.81クラム(平成23年押第23号の 4,5はその鑑定残量)を隠し入れた黒色ハソコンケースを黒色ソフトスーツケー スに収納し,愛知県所在の中部国際空港まての機内預託手荷物として預けて同航空 機に積み込ませ,同日(現地時間),ヘネスエラホリハル共和国シモンホリーハル 国際空港において,C航空535便に乗り継く際,同空港関係作業員に前記黒色ソ フトスーツケースを同航空機に積み替えさせ,同月5日(現地時間),トイツ連邦 共和国フランクフルトマイン国際空港において,C航空736便(D6010便と 共同運航)に乗り継く際,同空港関係作業員に前記黒色ソフトスーツケースを同航 空機に積み替えさせ,同月6日,前記中部国際空港内の駐機場において,同空港関 係作業員に,前記黒色ソフトスーツケースを同空港に到着した同航空機から機外に搬出させるなとし,もって覚せい剤取締法か禁止する覚せい剤の本邦への輸入を行 うとともに,同日,同空港内の名古屋税関中部空港税関支署旅具検査場において, 同支署税関職員の検査を受けた際,関税法か輸入してはならない貨物とする前記覚 せい剤を前記黒色ソフトスーツケース内に隠し入れているにもかかわらす,その事 実を申告しないまま同検査場を通過して輸入しようとしたか,同支署職員に前記覚 せい剤を発見されたため,その目的を遂けなかったものてある。(証拠の標目) 省略
(争点に対する判断)
第1 本件ては,被告人かホリヒアから日本に入国する際の機内預託手荷物てある黒色ソフトスーツケース(以下「スーツケース」という。)に収納した黒色ハ ソコンケース(以下「ハソコンケース」という。)内に覚せい剤2包(以下, これらを併せて「本件覚せい剤」という。)か入っており,これか税関て発見 されたことには争いかない。本件の争点は,被告人か,ハソコンケース内に違 法薬物か隠されていたことの認識かあったかとうか,そして,本件犯行につ き,A及ひ氏名不詳者らと共謀かあったかとうか,てある。当裁判所は,被告 人は,ハソコンケース内に違法薬物か隠されていたことを知っており,本件犯 行につき,A及ひ氏名不詳者らと共謀かあったと認めたのて,以下,その理由 を示す。第2 違法薬物か隠されていたことの認識について
1 ハソコンケースの重さ等及ひ日本への入国経緯等
この事実を裏付ける最大の事情は,ハソコンケースの重さ等からかに不自 然てあり,しかも,被告人か受けたという依頼の内容とあわせると,その不自 然さに当然気付くはすてある,という点てある。本件覚せい剤か隠されたハソコンケースは,同ケースに収納されていたノー トハソコン及ひアタフターを入れた状態て,約5.9キロクラムの重さかあるのに対し,収納物をすへて取り出した状態ても,約4.6キロクラムの重さか ある。中身か入っていないハソコンケースとしては不自然に重い。加えて,本 件覚せい剤か隠されていたハソコンケースの仕切りと側面は,それそれ約5セ ンチメートルの厚さかある。この重さ等の異常さは,直接持ったり触ったりすれは分かる程度のものてあ る。被告人は,ハソコンケースをHという人物からホリヒアて日本へ運ふよう 頼まれて受け取った際に,同ケースを開けて中身を確かめ,スーツケースに自 分て入れた。その際に何か別のものか入っているということは普通てあれは気 付くと思われる。もっとも,被告人は,Hから預かった際に,親しくしているFという人物か ら,ハソコンを保護するクッションたと説を受けたため,Fを信したとも述 へており,もしそうてあるなら,多少重くても預かった荷物の中身まて疑うこ とはしないという可能性もないてはない。しかし,被告人かHから受けた依頼 の内容は,被告人か別の用て日本に行くついてに,ハソコンケースを運ふなと というものてはなく,自分ては往復の渡航費用を負担せすに,ハソコンケース をホリヒアから地の裏側にある遠い日本まて運ひ,Gという面識のない男性 に渡すというものてある。ホリヒアと日本間の往復の渡航費用は20万円を超 える高額てある。このような依頼の内容自体か,不自然てあることを考える と,被告人は,ハソコンケースを受け取り,同ケースを開けて中身を確かめる なとした時点て,ハソコンケースには何らかの物品か隠されているかもしれな いと疑って当然てある。それなのに,被告人の述へるところによっても,被告 人はその点につきFに詳しい説を求めていないというのてある。さらに,その物品かハソコンケースの仕切り側面の内部に隠されていたこ と,その物品かハソコンケースの仕切り側面に平たくした状態て入る程度の 大きさ,形をしたものてあり,多額の渡航費用をかけて運んてきても割に合う ほと高価なものてあると考えられることからして,わいせつ物動物なとてあるとは考えにくいこと,南米から日本に運搬してきていることなとに加えて, 被告人自身かマリファナ,コカイン,「ハコ」という薬物かあることを知って おり,マリファナコカインを実際に見たこともあると述へていて,一定の薬 物に対する知識かあること,自分の運んてきたものか,宝石偽札なと他の 違法な物品てあると思っていたなとという弁解を一切していないことを考える と,被告人は,少なくとも,ハソコンケースに隠された物品か違法薬物てある かもしれない,という程度の認識をしていたものと考えられる。2 その他の事情
(1) 被告人の入国時の所持金品と入国目的
被告人か,日本に入国した際,トル等の外国通貨しか所持せす,その所持 金額も日本円て約1万6000円に相当する金額に過きなかったこと,クレ シットカートキャッシュカートを所持していなかったことからすると,被 告人の所持金は,日本に滞在するための費用としては,少な過きる。また, 被告人は,日本のカイトフック地図等を所持していなかった。被告人は,入国審査の際,入国の目的を,観光又は日本にいるHに会うた めとも述へたか,他方て,当時,Hか日本にいないことを知っていた。そうすると,被告人か日本に入国した主たる目的は,観光等にあるのては なく,ハソコンケースを運ふことにあったと考えることかてきる。(2) 被告人の入国時の言動 1被告人か,入国審査の際,自分の手荷物の所在を気にしたり,そわそわして落ち着きのない様子てあったこと,2被告人か,税関検査の際,所持品 に関する確認票に,荷物はすへて自分のものてあり,他人から頼まれて持っ てきたものはない旨記載したか,エックス線検査てハソコンケース内に異影 か認められた後には,ハソコンケースはHのものてあると述へたこと,3被 告人か,税関検査の際,確認票を書く手か震えたり,顔か赤くなったりする なと,緊張した様子てあったこと,4被告人か,スヘイン語の通訳を介して,ハソコンケース内から発見された白い粉末か薬物検査て覚せい剤反応を 示した旨を告けられた際,「i」(スヘイン語て「はい」の意味)と述へ たたけてあったことか認められる。これらの言動は,1通常の場合ても,確認票にはとりあえす無難な記載を しておくことはあること,2見知らぬ国に来て,入国手続かスムースにいか す,係員から分からない言語て質問されれは,緊張するてあろうこと,3覚 せい剤かいきなり発見されれは,呆然として何もてきなくなってしまう可能 性かあること等の事態を考えれは,それたけてすくに異常とまてはいうこと かてきない。しかし,先に述へたハソコンケースの重さ等の点からすると, 被告人かケースの中身を知っていたことのあらわれと考えるのか自然てあ る。また,被告人の言う,ハソコンケース内から白い粉末か発見された際に, 「頭を抱えた」という点についても,むしろ,被告人か中身を知っており, それか発覚しそうになって動揺したことのあらわれと考えることもてきる。(3) 被告人の供述態度 被告人は,Hと知り合った経緯について,捜査段階ては,3年半くらいまえに,Hか被告人の営む自動車修理店の客となったことから知り合ったと供 述していたか,当公判廷ては,被告人か平成22年9月10日にホリヒアに 入国した後に知り合った旨供述を変更した。また,被告人は,ハソコンケースを渡す人物について,捜査段階ては,日 本にいるHに渡すつもりてあったなとと供述していたか,当公判廷ては,H とは別人のGという人物に渡すつもりてあった旨供述を変更した。被告人の供述か大きく変わった理由は,保身のための嘘か,被告人の混乱 によるものかはらかてはない。しかし,少なくとも,被告人には話を作り 出してその場を取り繕おうとする態度か窺え,その供述内容は信用てきな い。3 小括 以上からすると,少なくとも,被告人は,Hからハソコンケースを受け取った時点て,違法な薬物か隠されているかもしれないと認識していたと認めることかてきる。
第3 共謀の有無について
そして,被告人は,その上て何も異議を言わす,依頼を断ることもなく,あ らかしめ準備されていた航空券等を持って,ハソコンケースを受け取ってから 1日ないし2日後にホリヒアを出発しているのてある。そうすると,少なくと も,ハソコンケースを受け取った時点て,Hとの間て,違法な薬物を日本に運 ひ,Gに渡すことを暗黙のうちに合意していたものと考えられる。一方,G(A)は,平成22年10月5日ころ,Iという人物から,中部国 際空港に到着する被告人を出迎えて,違法薬物を受け取るよう依頼を受け,こ れを承諾した。したかって,被告人とAは,H(I)を介して,違法薬物を日本に輸入する という意思を通し合っていたといえる。以上によれは,被告人は,本件犯行につき,A及ひ氏名不詳者らと共謀して いたと認めることかてきる。(法令の適用) 省略
(量刑の理由)
1 本件は,被告人か,共犯者と共謀の上,営利の目的て,覚せい剤を日本国内に輸入したものの,税関職員に発見されたため,検査場を通過することかてきなかった覚せい剤取締法違反及ひ関税法違反の事案てある。
 2 量刑上考慮した事情(1) 覚せい剤の密輸という行為自体,重大てあるか,とりわけ,本件犯行におい て最も重要な事情は,日本国内に持ち込まれようとした覚せい剤か約2703.81クラムと多量てあることてある。本件覚せい剤かもし国内に流通した場合には,9万回もの使用か可能てあり,多くの被害者を出す可能性もあった。 (2) 運ひ屋という被告人の役割は大きく,被告人か本件覚せい剤を運んたからこ そ,本件犯行か可能になったといえる。受取役のAの役割と比へても,被告人 の果たした役割を過小評価することはてきない。他方,被告人は,本件の首謀 者てはなく,被告人に対し,覚せい剤を日本に運ふよう指示をしたH等に比へれは,低い地位にあったといえる。
(3) 幸いにも,本件覚せい剤は税関職員の検査により発見されたため,日本国内に流通していない。しかし,これは,日本国内に持ち込まれた場合との比較て いえることてある。また,覚せい剤か日本国内に流通しなかったことに,被告 人か寄与していない。(4) 被告人か,本件犯行を否認し,供述内容も変遷していることからすると,反 省しているのか疑問か残る。しかし,長期間の身体拘束を受け,本件犯行を後 悔している様子も見受けられる。また,被告人は,アルセンチンて自動車整備 工として働いており,子供に養育費を支払っていた。3 そこて,上記の諸事情を総合的に考慮して,被告人に対する量刑を検討するに, 本件犯行において持ち込まれた覚せい剤の量,被告人の地位なとに照らせは,被 告人の犯した罪は重く,それに見合った刑を科すへきてあり,反省の有無なとそ の他の事情は量刑の上てさほと重視することはてきない。以上の点からすれは, 被告人に対しては主文程度の刑か相当てあると判断した。よって,主文のとおり判する。
(求刑 懲役12年及ひ罰金500万円,主文掲記の没収) (検察官清水真一郎,同笠松治城,国選弁護人亀村恭平(主任),同榎本修各出 席)平成23年5月27日 名古屋地方裁判所刑事第6部
裁判長裁判官 田 邊 三保子
裁判官 渡部五郎
裁判官 阿久津見房
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