平成23年4月22日判言渡 同日原本交付 裁判所書記官 平成21年(ワ)第4238号損害賠償請求事件 口頭弁論終結日 平成23年2月18日判
主文
 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
 事実及ひ理由
第1 請求
1 被告は,原告に対し,300万円及ひこれに対する平成21年9月4日から支払済みまて年5分の割合による金員を支払え。
 2 訴訟費用は被告の負担とする。第2 事案の概要
1 本件は,名古屋法務局長か,司法書士てある原告に対し,原告か代理人として行った抵当権設定登記の債務者兼抵当権設定者の本人確認の際,本人に なりすました者と面談し,運転免許証の原本を確認しなかったのに,原本を 確認したかのような記載をした本人確認情報の提供を行ったこと等を理由と して,平成21年2月12日付けてした3か月の業務停止処分(以下「本件 懲戒処分」という。)について,原告か,本件懲戒処分は違法てあり,これ によって原告は売上の減少,信用の低下等による損害を被ったなとと主張し て,被告に対し,国家賠償法1条1項に基つく300万円の損害賠償及ひこ れに対する訴状送達の日の翌日てある平成21年9月4日から支払済みまて 民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている事案てある。2 前提事実等(当事者間に争いかないか,括弧内に掲記の各証拠及ひ弁論の 全趣旨により容易に認められる事実)(1) 原告は,昭和48年から司法書士業務を行っている司法書士てあって,愛知県司法書士会に登録し(登録番号愛知第○号),平成18年当時, 名古屋市内に主たる事務所を有する司法書士法人Aの社員て,名古屋市 ○区の同司法書士法人の従たる事務所て業務を行っていた。(2) 司法書士に対する懲戒処分は,当該司法書士か業務を行う事 務所の所在地を管轄する法務省の地方支分部局てある法務局 又は地方法務局の長(以下「法務局長等」という。)に委ね られており,司法書士か司法書士法又は司法書士法に基つく 命令に違反したときは,法務局長等(原告については,名古 屋法務局長)は,当該司法書士に対し,戒告,2年以内の業 務の停止,業務の禁止の処分をすることかてきる(司法書士 法47条)。(3) 原告は,平成18年10月初めころ,B株式会社から,下記登記の申請 の依頼等を受けた(甲10の1)。記 C所有の別紙物件目録記載1の土地(以下「本件土地」という。)について,債務者兼抵当権設定者をC,抵当権者をBとする抵当権
設定登記
(4) 原告は,前記(3)の登記の申請について,登記済証の代わりに,不動産登記法(平成16年法律第123号。以下同し。)23条4項1号 所定の,「登記の申請の代理を業とすることかてきる代理人」(以下 「資格者代理人」という。)による,申請人か登記義務者てあること を確認するために必要な情報を提供するため,平成18年10月4日, B名古屋支店の応接室において,登記義務者てあるCと称する者と面 談して本人確認及ひ登記申請意思確認を行った(甲10の1。以下, この面談を「本件面談」という。)。ところか,このとき原告か面談したCと称する者は,Cの妻てあるD(後に離婚してE。)と共謀してCになりすましたFてあり,Fは, 原告に対し,G健康保険組合発行の健康保険被保険者証(以下「本件健 康保険証」という。)及ひ運転免許証のコヒーを提示したか,この運転 免許証のコヒーはFか偽造したコヒー(以下「本件偽造免許証」とい う。)てあった(甲10の2)。(5) CになりすましたFは,平成18年10月4日,本件面談と前後して, 借入金額を650万円とし,その担保として本件土地及ひ本件土地上にあ る別紙物件目録記載2の建物(以下「本件建物」という。)に抵当権を設 定する,CとBとの間の「金銭消費貸借ならひに抵当権設定契約証書」(以 下「本件契約書」という。)を作成した(甲10の2,14の2)。(6) 原告は,名古屋法務局半田支局(以下「半田支局」という。)登記官に 対し,平成18年10月6日,Bから依頼された前記(3)の登記の登記申 請書(甲8の1)を提出するとともに,Cかこの登記の登記義務者てある ことを確認するために必要な情報(甲8の2の1~3。以下「本件本人確 認 情 報 」と い う 。)を 提 供 し て 登 記 申 請 し( 以 下「 本 件 登 記 申 請 」と い う 。), 半田支局登記官は,本件登記申請に基つき,別紙登記目録記載の登記(以 下「本件登記」という。)をした。(7) Bは,平成18年10月6日,本件登記の手続完了後,本件契約書に基 つく融資(以下「本件融資」という。)を実行した(甲8の1,14の2)。(8) F及ひEは,平成19年10月ころ,本件登記ないし本件融資について, 有印私文書偽造,同行使,詐欺等の被疑事実により,逮捕,勾留され,愛 知県常滑警察署(以下「常滑警察署」という。)司法警察員等の取調へを 受け,名古屋地方裁判所半田支部に起訴された(甲10の2・3,14の 2)。(9) 名古屋地方裁判所半田支部は,平成20年1月10日,F及ひEに対し, 両名か共謀の上,FかCになりすまし,行使の目的をもって不動産担保ローンの申込書,本件契約書等を偽造し,B名古屋支店従業員に対しこれら を提出行使して,Bから現金を騙し取ったなととして,それそれ懲役刑に 処する等の判を言い渡し,同判は,Eにつき同月15日に,Fにつき 同月25日に確定した(甲14の2)。(10) 名古屋法務局長は,平成21年2月12日,原告を,司法書士法47 条に基つき,平成21年2月13日から3か月の業務停止に処した(本件 懲戒処分)(甲1)。(11) 原告は,名古屋地方裁判所に,平成21年5月18日付け 訴状(甲2)を提出して,本件懲戒処分の取消しを求める訴 え(同裁判所平成21年(行ウ)第○号)を提起したか,同 裁 判 所 は ,訴 え の 利 益 か な い と し て ,原 告 の 訴 え を 却 下 し た 。3 主たる争点及ひこれに関する当事者の主張等 (1) 原告の行為の懲戒事由該当性(原告の主張)
ア 原告は,平成18年10月4日の本件面談の際,Fから提示された本件偽造免許証について,免許証の原本を確認しなかったか,原告か原本 を確認しなかった理由は,原告かFに「免許証を見せてくたさい」と言 ったところ,B名古屋支店のH課長補佐から「今コヒーをしているの て,○(原告)さんにもそのコヒーをお渡しします」と言われたことな ともあり,本件偽造免許証について,免許証の原本か存在すると信して しまったためてある。イ そもそも不動産登記規則(平成17年2月18日号外法務省令第18 号。以下同し。)72条には,各種証書の原本を確認せよとは書かれ ていないから,必すしも提示された書類について,原本を確認する必要 はなく,原告は,同条2項1号の定めを満たす方法て,本人確認を行っ たということかてきる。ウ また,原告は,本件面談の際,本件偽造免許証について,免許証の原 本を確認してはいないか,本件偽造免許証とCの印鑑登録証書との照 合をし,本件偽造免許証の顔写真とFの顔とを見比へ,Cの社員証の提 示を受けて本人確認を行い,本件健康保健証の原本の提示を受け,Cの 妻てあるEとの面談及ひ事情聴取を行ったほか,本件健康保険証の写し, Cの印鑑登録証書,本件建物の建物評価証書,Cの住民票,Cの納 税証書等をF及ひEから受領した。エ 原告は,本件健康保険証の写し等,本件偽造免許証以外の各文書を受 領して本人確認を行っているのたから,実質的には,本件偽造免許証に ついて,免許証の原本確認ないしそれと実質的に同視すへき,司法書士 の職責に適った本人確認を行ったものてあり,原告の行った本人確認は 法の定めを満たす適法なものて,本件本人確認情報も,適法なものてあ る。オ さらに,本件健康保険証は,不動産登記規則72条2項2号の書面に 該当し,Cの印鑑登録証書及ひ住民票は,いすれも同項3号の書面に 該当する。このように,原告は,本件健康保険証(原本)のほか,Cの 印鑑登録証書及ひ住民票(いすれも原本)の提示を受けており,不動 産登記規則72条2項3号の定めを満たす方法て,本人確認を行ったと いうことかてきる。カ したかって,原告の行った本人確認は,不動産登記規則72条2項1 号及ひ3号の双方の定めを満たす適法なものてあり,本件本人確認情報 も適法なものてあるから,本件懲戒処分は,その根拠を欠くものて,違 法てある。(被告の主張等)
ア 原告の主張は,否認ないし争う。
イ 原告は,不動産登記法23条4項1号の本人確認情報を作成するに当たり,不動産登記規則72条2項1号所定の「運転免許証」の原本を確 認していないにもかかわらす,本人確認資料として「愛知県公安委員会 発行の運転免許証」と記載するなとした内容虚偽の本件本人確認情報を 作成し,登記官に提供した。ウ このような原告の本人確認は,不動産登記規則の定めを満たさない不 適法なものてあり,原告は,不動産登記法及ひ不動産登記規則に反する 誤った本人確認情報を提供したというへきてある。エ 不動産登記規則72条は,各種証書について「写し」ても許される と規定していないのてあるから,本件ても,原告か本人確認に当たって, 提示された書類の原本を確認すへきことは当然てある。オ 原告は,不動産登記規則72条2項3号に定められた方法による本人 確認,本件偽造免許証の原本確認と実質的に同視すへき行為を行った なとと主張するか,前記イのとおり,原告は,本件偽造免許証について, 免許証の原本を確認していないのてあり,原告の本人確認か不動産登記 規則72条2項1号の定めを満たさないこと,原告か誤った本人確認情 報を提供したことはらかてある。(2) 本件懲戒処分の量定 (原告の主張)
ア 原告は,前記(1)において主張したとおりの本人確認を行っていた。
 したかって,原告の行為は,懲戒事由に該当するものてはないか,仮に, 原告による本件偽造免許証の原本確認か不十分て,結果的に内容虚偽の 本件本人確認情報を提供してしまったことか懲戒事由に該当するとし ても,原告は,故意に内容虚偽の本人確認情報を提供したのてはなく, 過失によって提供してしまったにすきない。また,原告は,本件登記申 請本件本人確認情報の提供について,関係者の誰からも苦情を言われ ていない。イ 他の司法書士に対する類似の懲戒処分において,例えは,本件懲戒処 分と同様に業務停止3か月の処分かされたものかあるか,この事例ては, 被処分者か全く本人確認を行っていなかったこと,被処分者の行為か不 動産登記法160条の罪に該当するものてあったこと及ひ被処分者に 対して関係者からの苦情かあったことなとの事情かあったのてあり,こ の事例と本件とを比較するなとしても,本件懲戒処分の量定か重すきる ことはらかてある。ウ それにもかかわらす,名古屋法務局長か,「運転免許証のコヒーをし て,その原本を確認したかのような」との例文的文言をもって業務停止 3か月という本件懲戒処分をしたのは,著しく正義に反し,重きにすき るものてあり,処分の量定について裁量権を濫用するものて,違法てあ る。(被告の主張等)
ア 原告の主張は否認ないし争う。
イ 本件懲戒処分の対象となった原告の行為は,原告か内容虚偽の記述をした本件本人確認情報を作成して,これを法務局(半田支局)に提供し たというものてある。原告のこの行為は,資格者代理人による本人確認 情報提供の制度(以下「本人確認情報提供制度」という。)の存在意義 を没却しかねないものて,非違の程度は重大てあり,再発を防止する観 点からも,厳正に対処する必要かある。他方,本件懲戒処分の懲戒処分書(甲1。以下「本件懲戒処分書」と いう。)に記載のとおり,本件ては,原告か一定の本人確認作業を行っ ていること,原告かF及ひEの詐欺事件の被害者的な側面かあること及 ひ本件面談には当時のCの妻てあったEか同席しており,FをCと誤認 しかねない事情かあったことなとの原告に有利な事情もあり,名古屋法 務局長は,これらの事情を総合勘案して,本件懲戒処分の量定をした。ウ したかって,原告か主張するように,原告か本件偽造免許証について, 免許証の原本を確認したと思いこんていたり,原告か本件に関して関係 者から苦情を言われていないなとの事情かあったとしても,本件懲戒処 分か社会通念上著しく妥当性を欠き裁量権の範囲を超えたり裁量権 を濫用したりするものてあったということはてきない。(3) 本件懲戒処分の手続違反等 (原告の主張)
ア 適用条文の誤り等
本件懲戒処分書の「第2 処分の理由」には,「このような被処分者の行為は,司法書士法第2条(職責),第23条(会則の遵守義務), 愛知県司法書士会会則第82条(品位の保持)に違反するもの」との記 載かある。しかし,上記各条文は,抽象的倫理規定にすきす,法務省民二訓第1 081号「平成19年5月17日付け司法書士法(昭和25年法律第1 97号)第47条又は第48条の規定に基つく司法書士又は司法書士法 人に対する懲戒処分に関する訓令」(甲3。以下「本件訓令」という。) の「違反行為 登記申請意思確認義務違反又は本人確認義務違反 登記 申請人の申請意思確認又は本人確認を怠ったもの」に該当する具体的な 行為か処罰規定として定められておらす,原告の行為を「確認義務違反」 として懲戒処分をする根拠条文とはならない。また,司法書士法,不動産登記法,不動産登記規則,司法書士法施行 規則,愛知県司法書士会会則及ひ本件訓令の条文は,いすれも故意行為 を処罰する条文てあって,過失により内容虚偽の本人確認情報を提供す る行為を処罰する条文てはない。そして,原告は,原本確認か不十分 てあったという過失により,本件本人確認情報を提供してしまった にすきす,故意に内容虚偽の本人確認情報を提供したわけてはない。したかって,名古屋法務局長か,上記各条文を根拠として原告に対し て本件懲戒処分を行うことは,違法てある。イ 処分基準に関する違法 名古屋法務局長は,原告に対し,原告の行為か,本件訓令の,「違反行為 登記申請意思確認義務違反又は本人確認義務違反 登記申請人 の申請意思確認又は本人確認を怠ったもの」,「懲戒処分の量定 2年 以内の業務の停止又は業務の禁止」に該当するものとして,本件訓令を 適用して,本件懲戒処分を行った。原告か本件登記申請を行ったのは,平成18年10月てあるところ, 本件登記申請当時は,処分基準として,抽象的倫理規定てある司法書士 法47条か存在するのみてあり,本件訓令は,その後の平成19年5月 17日に発せられた(施行日は同年7月1日てある。)。そして,本件 訓令には,本件訓令の遡及適用を定めた規定かない。また,本件訓令は, 本件懲戒処分当時,公表されていなかった。したかって,本件懲戒処分は,本件登記申請当時に具体的な処分基準 か設定されていなかった点,本件申請当時は発せられていなかった本件 訓令を遡及的に適用した点及ひ本件訓令か本件懲戒処分当時に公表さ れていなかった点において,行政手続法12条1項に反し,違法てある。ウ 違法な調査,文書取得 司法書士法施行規則42条は,法務局長等か,「司法書士又は司法書士法人の保存する事件簿その他の関係資料若しくは執務状況を調査」て きると定めているか,関係者を調査したり,供述調書を取り寄せたりす ることかてきるとの定めはない。それにもかかわらす,名古屋法務局は,本件登記申請の関係者等(B の担当者,常滑警察署司法警察員等)に対して事情聴取を行い,F及ひ Eの常滑警察署司法警察員に対する供述調書を取得するなとしているか,これらは,司法書士法施行規則42条によっては許されない行為てあるから,違法てある。
 エ 黙秘権の不告知
名古屋法務局の原告に対する事情聴取は,司法書士法施行規則42条 の「調査」てあったとしても,事情聴取の途中て原告に対する懲戒処分 の可能性か発生した場合,原告の行為か刑事処罰規定に触れるおそれ か生した場合には,名古屋法務局は,原告に対して黙秘権の告知を行っ たうえて事情聴取を続行する必要かあった。ところか,名古屋法務局は,原告に対する事情聴取の際,黙秘権を告 知しなかった。したかって,本件懲戒処分には,名古屋法務局か,黙秘権を告知せす に原告の事情聴取を行ったという違法かある。オ 虚偽の記載
本件懲戒処分書の「第2 処分の理由」には,原告について「警察等の取り調へ及ひ当局等の事情聴取にも協力的てあること」という記載か ある。しかし,原告は,警察の取調へを受けたことは一切ない。なお,原告 は,常滑警察署司法警察員から依頼されて捜査に協力し,供述調書か 作成されたことはあった(甲10の1。原告の常滑警察署司法警察員に 対する平成19年8月28日付け供述調書。以下「本件原告供述調書」 という。)か,この際,常滑警察署司法警察員から黙秘権の告知はされ ていないため,「取り調へ」を受けたわけてはない。上記のとおり,本件懲戒処分は,名古屋法務局長の重大な事実誤認に 基ついてされたものあり,違法てある。(被告の主張等)
ア 原告の主張はいすれも否認ないし争う。
イ 適用条文の誤り等について 司法書士に対する懲戒処分は,刑事罰てはないから,適用条文について,あらかしめ刑罰法規の構成要件のように個々に確に規定されてい る必要はない。また,本件懲戒処分の根拠となった各規定は,対象とする行為を故意 行為に限定しておらす,本件懲戒処分には何らの違法もない。ウ 処分基準に関する違法について 本件訓令は,懲戒処分権者てある名古屋法務局長か定めたものてはないから,そもそも行政手続法12条1項の「処分基準」にあたらない。
 仮に,本件訓令か同項所定の「処分基準」に該当するとしても,本件訓令は,本件懲戒処分当時には発せられていた。 そもそも,行政手続法12条1項は,処分基準の設定,公表の努力義務を定めたものてあって,努力義務とした趣旨は,処分基準を事前に具 体的な基準として画一的に定めることか技術的に困難てあり,また,処 分基準を公表すると,違法行為か助長される等の弊害等か生するおそれ かあるためてある。本件登記申請当時及ひ本件懲戒処分当時に処分基準か設定,公表され ていなかったのは,このような弊害等を考慮した結果てあり,合理的な 理由かあるから,違法てはない。エ 違法な調査,文書取得について 法務局長等は,懲戒処分をするために必要な調査をする権限かあり(司法書士法49条2項,司法書士法施行規則42条),司法書士法施 行規則42条は,第三者に対する調査権の範囲を画する規定てはない。したかって,権限の範囲内において名古屋法務局か原告本件登記申 請の関係者等から事情を聴取するなとの調査を行うことは違法てはな い。また,名古屋法務局か取得したF及ひEの常滑警察署司法警察員に対 する供述調書は,F及ひEを被告人とする刑事確定記録の一部てあり, 当該記録は,刑事訴訟法53条により,何人も閲覧か可能てある。名古 屋法務局は,同法刑事確定訴訟記録法に基つきこれらの供述調書の閲 覧等をしたのてあって,この手続に違法はない。オ 黙秘権の不告知について 名古屋法務局による原告に対する事情聴取は,行政処分てある懲戒処分の是非及ひ程度の判断のために行われたものてあり,刑事責任の追及 とは関係かないから,原告に対する黙秘権の告知は不要てあり,黙秘権 の告知かなくても違法てはない。カ 虚偽の記載について 原告は,平成19年8月28日,司法書士法人Aの事務所において,常滑警察署司法警察員から任意に事情聴取されており,取調へを受けた事実かあったことはらかてある。 (4) 損害
(原告の主張) 本件懲戒処分により,原告か勤務する司法書士法人の売上か減少したり,信用か低下するなとして,原告は,少なくとも300万円の損害を被った。
 (被告の主張等)原告の主張は否認ないし争う。 第3 当裁判所の判断
1 前記前提事実並ひに括弧内に掲記の各証拠及ひ弁論の全趣旨によれは, 以下の事実を認定することかてきる。(1) 原告は,平成18年10月1日ころ,BのHから,本件登記申請と共に,下記の各登記申請の依頼を受けた(甲10の1,原告本人)。
 記1 本件建物の表題登記
2 本件建物の所有権の保存の登記
3 本件建物について,債務者兼抵当権設定者をC,抵当権者をBとする抵当権設定登記
(2) 平成18年10月4日午前11時ころ,原告は,B名古屋支店において,本件登記申請について,Cの本人確認及ひ登記申請意思確認の ため,本件面談をした(甲10の1~3,原告本人)。本件面談の際, Cと称していたのはFてあり,本件面談には,E,H及ひBの女性社 員も同席していたか,原告は,本件面談のときまて,C,F及ひEと は面識かなかった(甲10の1~3,原告本人)。(3) 原告は,本件面談の際,F及ひEから,下記の書類を示された(甲1 0の1~3,原告本人)。記
1 本件偽造免許証 1通
2 本件健康保険証 1通
 3 C名義の印鑑登録証書 2通
 4 本件建物の評価証書 1通
 5 Cの住民票 1通
 6 Cの納税証書 1通
 7 Eの運転免許証 1通
 8 Cの社員証(G株式会社の社員証)の写し 1通(4) 原告は,前記(3)の各書類のうち,F及ひEから,1及ひ2の写し(B の社員かコヒーしたもの)のほか,3ないし6(いすれも原本)を受領し た(甲10の1~3,原告本人)。(5) 本件面談の際,原告は,本件健康保険証の原本を確認したか,本件偽造 免許証について,免許証の原本を確認せす,本件偽造免許証の顔写真とFの顔とを見比へて同一性かあるものと判断した(甲10の1~3,原告本人)。
(6) 本件偽造免許証は,Fの顔写真か表示され,Cの氏名,本籍,住所等か記載された運転免許証のカラーコヒーてあり,Fか,Cの運転免許証のカ ラーコヒーの顔写真部分に,Fの運転免許証の顔写真部分のカラーコヒー を上からのり付けし,これをさらにA4サイスの用紙にコヒーして偽造し たものてあった(甲10の2,原告本人)。また,原告かFから示された前記(3)8のCの社員証の写しは,Fか, Cの社員証のカラーコヒーの顔写真部分に,Fの運転免許証の顔写真部分 のカラーコヒーを上からのり付けし,これをさらにA4サイスの用紙にコ ヒーして偽造したものてあった(甲10の2,原告本人)。(7) 原告は,CになりすましたF及ひBから委任を受けて,半田支局登記官 に対し,平成18年10月6日,本件登記の登記申請書(甲8の1)を提 出するとともに,Cか本件登記の登記義務者てあることを確認するために 必要な情報(本件本人確認情報。甲8の2の1~3)を提供し,半田支局 登記官は,これらに基つき,本件登記をした(甲8の1,甲8の2の1~ 3)。(8) 本件本人確認情報には,「7.確認資料」として,下記のとおり記載さ れ,「8.登記名義人てあることを確認した理由」として,「上記の証 書の提示を受け申請人(面談相手)に記載事項を尋ねたところ疑うへき特 段の事情か無く,免許証の写真により本人との同一性を確認し,その外 観・形状に異状かないことを視認した。また,氏名・住所・本籍・生年月 日(年齢・干支含)・電話番号の申述を求めた所正確に回答した。」と記 載され,下記各書類の写しか添付されていた(甲8の2の1~3)。記
名称 愛知県公安委員会発行の運転免許証
有効期間確認 平成21年10月26日まて 写しの添付 有
名称 G健康保険組合発行の保険証 有効期間確認 平成20年6月30日まて 写しの添付 有(9) Bは,平成18年10月6日,本件登記の手続完了後,本件融資を実行 し,Fに対し,手数料等を控除した現金597万8159円を交付した(乙 15の1~3)。(10) 原告は,平成19年8月28日,F及ひEの刑事事件の参考人とし て,常滑警察署司法警察員から事情聴取を受け,常滑警察署司法警察 員により,本件原告供述調書か作成された(甲10の1)。(11) 名古屋法務局は,原告から,下記のとおり事情聴取を行った(甲1 1の1~3,証人I)。記
1 日時:平成19年12月20日午後3時から約1時間
場所:名古屋法務局共用小会議室 聴取者:名古屋法務局民事行政部総務課総務係長 J同 総務係員 K
 2 日時:平成20年2月20日午後4時から約1時間場所:名古屋法務局民事行政部総務課打合せ室 聴取者:名古屋法務局民事行政部総務課総務係長 J 同 総務係員 K3 日時:平成20年2月21日午後2時から約15分 場所:電話による事情聴取 聴取者:名古屋法務局民事行政部総務課総務係長 J(12) 名古屋法務局長は,平成20年3月18日,本件について愛知県司法書 士会に対して調査の委嘱をし,愛知県司法書士会は,これを受けて調査を 行い,平成20年5月ころ,名古屋法務局長に報告書を提出した(乙4の 1・2,8,13,証人I)。(13) 名古屋法務局は,平成20年1月25日及ひ同年2月21日,常滑警察 署巡査部長に対する事情聴取を,同月18日,Bの担当者に対する事情聴 取を行った(乙9,10,13,証人I)。名古屋法務局は,平成20年5月ころ,名古屋地方検察庁半田支部にお いて,F及ひEの刑事事件についてのF及ひEの供述調書等の閲覧及ひテ シタルカメラによる撮影をした(乙13)。(14) 名古屋法務局長は,平成21年1月20日,原告に対し,司法書士法4 9条3項に基つき,司法書士の業務停止処分に関する聴聞手続を行った (甲12の1・2)。(15) 名古屋法務局長は,平成21年2月12日,原告を,司法書士法47 条に基つき,平成21年2月13日から3か月の業務停止に処し(本件懲 戒処分),同日,原告に対し,本件懲戒処分書(甲1)を交付して,本件 懲戒処分を告知した(甲1,乙13,証人I)。(16) 本件懲戒処分書には,以下の記載等かある(甲1)。
 「被処分者は,運転免許証の原本の提示を求めて確認しなかったにもかかわらす,あたかも原本を確認したかのような記述をした本人確認情報 を提供した」(第1 処分の事実)「本件においては,その資格者代理人による本人確認の過程において, 健康保険証及ひ偽造された運転免許証の写しか提供され,依頼者に対して, 面談し本人確認及ひ登記申請意思確認作業自体は行った事実は認められ るものの,不動産登記規則に定められた手続を忠実に実行しなかった,具 体的には,原告か,本人確認の際に,健康保険証については原本を確認したものの,運転免許証については原本を確認しなかったにもかかわらす, 運転免許証の原本を確認したかのような記述をした資格者代理人による 本人確認情報の提供を行った」(第2 処分の理由)。「このような原告の行為は,司法書士法第2条(職責),第23条(会 則の遵守義務),愛知県司法書士会会則第82条(品位の保持)に違反す るものてあり,その責任は重大てあるといわさるを得ない」(第2 処分 の理由)2 司法書士に対する懲戒処分は,国か独占的資格として認めた司法書士の 業務の適正さを保持するために行われるものてあるか,法務局長等は,そ の職務上,管轄区域内て業務を行う司法書士の懲戒事由をよく知り得る立 場にあり,かつ所属の司法書士に対する指導等の事務を行う管轄区域の司 法書士会との連携も充分に図り得る立場にあるため,懲戒権限か付与され ているものと解される。そして,懲戒処分については,懲戒事由の内容,被害の有無その大小, これに対する社会的な評価被処分者に与える影響なとの諸般の事情を考慮 することも必要てあり,司法書士を懲戒するか否か,懲戒するとしてとのよ うな処分を選択するかについては,その処分権限を有する法務局長等の合理 的な裁量に委ねられていると解され,法務局長等の裁量権の行使としての懲 戒処分か事実の基礎を欠くか,又は社会観念上著しく妥当性を欠き,裁量権 の範囲を超え又は裁量権を濫用してされたと認められる場合に限り,当該処 分は違法となるというへきてある。そして,上記のような違法な処分について,懲戒処分を担当する法務局 長等か職務上通常尽くすへき注意義務を尽くすことなく漫然と懲戒処分をし たと認められるような事情かある場合には,当該処分は,国家賠償法1条1 項にいう違法かあったとの評価を受けるものというへきてある。3 争点(1)(原告の行為の懲戒事由該当性)について
(1) 本人確認情報提供制度について(乙12)
ア 本人確認情報提供制度は,平成16年6月18日に公布された改正不動産登記法(平成17年3月7日施行)の下て導入されたもの て,登記識別情報(登記済証)か提供てきない場合に,資格者代理 人か,登記申請者か登記義務者本人てあることを確認するために必 要な情報を提供し,かつ,登記官かその内容を相当と認めたときは, 登記義務者に対する事前通知かなくても登記を行うことかてきる制 度てある(不動産登記法23条4項,不動産登記規則72条)。イ 平成16年法律第123号改正前不動産登記法(以下「旧法」と いう。)ては,不動産の所有者か登記義務者となる登記申請をする 際に,登記申請書に添付すへき書類として,登記義務者の意思の確 認をするため,登記義務者の権利に関する登記済証を添付して提出 することとされており(旧法35条1項3号),登記済証か滅失し たような場合には,代用の制度として,保証書の制度かあった(旧 法44条)。そして,保証書を利用した登記申請か行われた場合に は,登記所か,登記義務者に対して登記申請かあったことを葉書て 通知し,登記義務者かその受け取った葉書を登記所に提出して間違 いない旨の申出をした場合に登記をするという制度か設けられてい た(旧法44条の2)か,この制度は不正な登記事案にしはしは利 用されるなとの問題点か指摘されていた。そこて,平成16年の不動産登記法改正ては,保証書の制度を廃 止し,正当な理由により登記識別情報の提供かてきない場合には, 法務省令て定めるところにより,登記義務者に対し,当該登記申請 かあった旨及ひ当該登記申請の内容か真実てあると思料するときは 法務省令て定める期間内に法務省令て定めるところによりその旨の 申出をすへき旨の通知をしなけれはならす,かつこの通知は本人限定受取郵便等によらなけれはならないこととする(不動産登記法2 3条1項,不動産登記規則70条)なと,厳格な手続による登記義 務者への事前通知の制度を設ける一方,このような場合ても,資格 者代理人か,登記申請人か登記義務者てあることを確認するために 必要な情報を提供し,かつ,登記官かその内容を相当と認めるとき なとには,事前通知をしないまま登記をすることかてきるものとさ れた(不動産登記法23条4項)。ウ このように,本人確認情報提供制度は,平成16年の不動産登記 法改正後の不動産登記法下において,登記義務者本人に対する厳格 な事前通知制度に代替するものとして位置つけられるものてあり, 資格者代理人から本人確認情報の提供かされ,登記官かその内容を 相当と認めた場合には,登記義務者本人に対する事前通知という意 思確認手続か省略されたまま登記か行われるという重大な結果かも たらされるものてある。そして,この本人確認情報の提供か不適切 に行われた場合には,登記義務者にとってみれは,自分か関与しな いところて何も知らされないまま登記か行われてしまうという重大 な結果か生する危険かあるし,登記権利者にとっても,登記義務者 に対する通知という事前の意思確認手続を経ないまま登記かされて しまう結果,その登記か有効てあることを信頼して思わぬ損害を被 る危険かあることもらかてある。ところて,提供された本人確認情報については,登記官の審査か 予定されているとはいえ,登記義務者本人に直接会って意思確認を する者か,とれたけ慎重かつ適切に本人確認をするのかか,本人確 認情報提供制度か適正に運用されるかとうかを左右するものてある。
 そうてあるからこそ,不動産登記法も,本人確認情報の提供等を行 うことかてきる者を司法書士(司法書士法3条1項1号)等の,登記の申請の代理を業とすることかてきる者に限定している(不動産 登記法23条4項1号)ものと考えられる。すなわち,本人確認情 報提供制度は,資格者代理人か行う本人確認行為に対する国民の信 頼の上に成り立っているということかてきる(司法書士法1条,2 条)。エ 以上の点を考慮すれは,資格者代理人か提供する本人確認情報は, 登記義務者登記権利者に不測の損害を与えないように,正確な情 報を提供することか求められているというへきてある。そして,資格者代理人か行う本人確認は,本人確認情報提供制度 を適切に運用するための根幹をなす基本的かつ重要な作業てあるか ら,本人確認を行うに際して,資格者代理人には,登記義務者本人 に対する厳格な事前通知制度に代替し得るたけの高度の注意義務か 課せられているというへきてある。(2) 原告の行った本人確認について
ア 前記1(2)のとおり,本件登記申請に関し,原告は,Fとの本件面談のときまて,C,F及ひEと面識かなかったことか認められるの てあり,原告か本件登記申請の本人確認情報の提供をするにあたっ ては,不動産登記規則72条1項3号の「資格者代理人か申請人の 氏名を知らす,又は当該申請人と面識かないとき」に該当するもの として,「申請の権限を有する登記名義人てあることを確認するた めに当該申請人から提示を受けた次項各号に掲ける書類の内容及ひ 当該申請人か申請の権限を有する登記名義人てあると認めた理由」 をらかにした本人確認情報を提供する必要かあった。しかし,原告は,前記1(4),(5),(7)及ひ(8)のとおり,本件偽造 免許証(運転免許証は,不動産登記規則72条2項1号の本人確認 資料に該当する。)について,免許証の原本の確認を行わす,しかも,原本の確認を行っていない本件偽造免許証を確認資料として掲
け,そのコヒーを添付した本件本人確認情報を提供した。
イ 本人確認資料たる運転免許証に基つく本人確認か適正に行われる ためには,前記(1)の本人確認情報提供制度の趣旨等からしても,本人確認に際し運転免許証の原本を確認することか必要不可欠てあっ て,本件面談の際,本人確認を行う原告としては,Fに対し,本件 偽造免許証の原本の提示を求めた上,その外観,形状等を検分して 不審な点かないことを確認した上て,表示された顔写真とFの容貌 との照合等の同一性の確認をするへき義務かあったというへきてあ る。しかし,原告は,前記1(2)ないし(5)のとおり,本件面談の際, 面談相手てあるFに対し,本件偽造免許証について,免許証の原本 を提示するように求めることか容易てあったにも関わらす,その原 本の提示を求めることをしないまま,本件偽造免許証の顔写真とF の容貌とを照合して同一人物てあると判断したことか認められる。このような原告による本人確認は,原告自身の重大な過失により, 本件偽造免許証の原本確認を怠ったものてあって,本人確認として 極めて不十分かつ不適切なものてあり,資格者代理人に求められる 注意義務に著しく反するものてあることからかてある。そして,原告は,Fか偽造した本件偽造免許証を本人確認資料と して掲け,そのコヒーを添付資料として,誤った本件本人確認情報 を半田支局登記官に提供したものてある。しかも,前記1(8)のとお り,原告は,本件本人確認情報に,「8.登記名義人てあることを確 認した理由」として,「上記の証書の提示を受け申請人(面談相手) に記載事項を尋ねたところ疑うへき特段の事情か無く,免許証の写真に より本人との同一性を確認し,その外観・形状に異状かないことを視認した。」と記載しているのてあって,「その外観・形状に異状かないこ とを視認した。」とあるように,免許証の原本を確認したかのような記 載をしているのてある。ウ 以上のとおり,原告の行った本人確認は,本人確認情報提供制度 の趣旨に反するものてあって,不動産登記法及ひ不動産登記規則の 定めを満たす適法なものとは到底いうことかてきないものてあり, 原告か,重大な過失により,半田支局登記官に対し,誤った本人確 認情報を提供したことはらかてある。(3)ア 原告は,そもそも不動産登記規則72条には,各種証書の原本を 確認せよとは書かれていないから,必すしも受領した書類について,原 本を確認する必要はない旨主張する。不動産登記規則72条1項3号は,本人確認情報としてらかにすへ き事項として,資格者代理人か申請人の氏名を知らす,又は当該申請人 と面識かないときは,「申請の権限を有する登記名義人てあることを確 認するために当該申請人から提示を受けた次項各号に掲ける書類の内 容及ひ当該申請人か申請の権限を有する登記名義人てあると認めた理 由」をらかにするものてなけれはならないとしており,同条2項ては, 提示を受けるへき書類か列挙されているか,これらの書類について,写 しても許されるとの定めはない。このように,不動産登記規則72条1項3号及ひ同条2項には,申請 人から提示を受けるへき書類について写しても許されるとの定めかな い以上,不動産登記規則か同条2項に規定する書類について原本の確認 を要求していることはらかてある。このことは,前記(1)のとおり, 本人確認情報提供制度か厳格な事前通知制度に代替するものてあると ころ,写してあれは,偽造することは容易てあり,厳格な事前通知制度 に到底代替し得るものてはないことからもらかというへきてある。したかって,原告の上記主張は理由かない。
イ 原告は,本件偽造免許証について,免許証の原本確認ないしそれと実質的に同一視すへき行為を行っているし,不動産登記規則72条 2項1号及ひ3号の要件に二重に該当する本人確認行為を行っており, 司法書士の職責に適った本人確認をしているなとと主張する。確かに,原告は,前記1(3)及ひ(4)のとおり,本件偽造免許証のほか に数種類のC名義の書類の提示を受け,その一部を受領したことか認め られ,これによれは,原告は,不動産登記規則72条2項3号所定の本 人確認を行うことか可能な状況てあったことか認められる。しかし,仮に,原告か他の書類によって本人確認を行うことか可能な 状況てあったとしても,不動産登記規則72条2項各号所定の書類のう ち,顔写真かないものについては,本人との同一性か容易に確認てきな いものてあるから,慎重な本人確認か求められているというへきてあり, 前記(1)の本人確認情報提供制度の趣旨からすれは,本人確認の作業中 に,少しても本人か否かについて疑わしい事情か生した場合,手続を進 めすに慎重な対応をすることか資格者代理人に求められているという へきてある(前記(2)イのとおり,原告は,本件本人確認情報に,「疑 うへき特段の事情か無く」,「その外観・形状に異状かないことを視認 した。」なとと記載している。)。そして,原告か免許証の原本の提示 を求めることは容易てあり,Fか免許証の原本を提示てきないとすると, 当然本人か否かに疑義か生しるものてある。また,前記1(2)ないし(4) のとおり,本件面談の際,Cの妻てあるEか同席し,Fとともに書類を 提示するなとしていたか,配偶者てあれは,本人に無断て健康保険証等 を使用したり,官公庁から住民票等の書類を入手したりすることもてき るのてあるから,免許証の原本の顔写真等による同一性の確認かてきな い状況においては,かえって疑義を深めるものてありこそすれ,同一性か裏付けられるものてはない。本件ては,原告は,本件偽造免許証につ いて,免許証の原本等を確認していない状況にあったのたから,このよ うな状況て確認作業を終了し,本件本人確認情報を作成して,登記官に 提供したこと自体か,資格者代理人としての基本的な注意義務に反した 不適切なものというへきてある。したかって,原告の上記主張は理由かない。
(4) 前記(2)アのとおり,本件懲戒処分の対象となった原告の行為は,原告か本件偽造免許証について,免許証の原本の確認を行っていないに もかかわらす,本件登記申請において本件偽造免許証を資料として掲 け,そのコヒーを添付した本件本人確認情報を提供したことてある。前記(1)エのとおり,本人確認情報提供制度において,資格者代理人 の行う本人確認は,同制度の適切な運用のための根幹をなす基本的か つ重要な作業てあり,資格者代理人か本人確認を行うに際して,資格 者代理人には,登記義務者本人に対する厳格な事前通知制度に代替し 得るたけの高度の注意義務か課せられていることからすると,本件懲 戒処分の対象となった原告の行為は,本人確認情報提供制度を扱う司 法書士としての注意義務に著しく違反したものといわさるを得す,本 人確認情報提供制度の趣旨を没却しかねないものてある。したかって,本件懲戒処分の対象となった原告の行為は,本件懲戒 処分書(甲1)に記載のとおり,司法書士法2条(職責),23条(会 則の遵守義務),愛知県司法書士会会則82条(品位の保持)に違反 し,懲戒事由に該当するということかてきる。しかも,以上のとおり, 原告は,原告自身の重大な過失により,本件偽造免許証の本人確認を 怠ったものてあることなとからすると,原告の非違の程度は重大てあ り,懲戒事由に該当することはらかというへきてある。4 争点(2)(本件懲戒処分の量定)について
(1) 原告は,故意に内容虚偽の本人確認情報を提供したのてはなく,原 本確認か不十分てあったために,結果的に内容虚偽の本件本人確認情 報を提供してしまったにすきないこと,本件について誰からも苦情 を言われていないことなとから,原告の行為は,業務停止3か月とい う懲戒処分を受けるほとの重いものてはないこと,他の事例と比較し ても,3か月の業務停止という本件懲戒処分の内容は,らかに重く, 処分の均衡を失していることなとから,本件懲戒処分は社会通念上著 しく妥当性を欠き裁量権を濫用するものて,違法てある旨主張する。(2) しかし,前記3(4)のとおり,本件懲戒処分の対象となった原告の行 為は,懲戒事由に該当するものてあり,しかも,本人確認情報提供制 度を扱う司法書士としての注意義務に著しく違反しており,本人確認 情報提供制度の趣旨を没却しかねないものてあって,原告の非違の程 度は重大というへきてある。また,前記1(9)のとおり,本件本人確認 情報を提供した本件登記申請により本件登記かされたことによって, BはCになりすましたFへの本件融資を実行してしまったのてあって, 理由のない登記かされたことを超える実害か生しているのてある。他方て,前記1(2)ないし(7)のとおり,原告は,F及ひEによる一 連の犯罪行為の流れの中て,被害者てあるBからの依頼を受けて,本 件登記申請を行ったことか認められ,被害者としての一面もあるとい うことかてき,また,本件健康保険証(原本)の提示を受けてその写 しを受領するなと,一定の本人確認は行っていること(本件健康保険 証は,不動産登記規則72条2項2号に列挙された確認書類の1つに 該当し,Cの住民票及ひ印鑑登録証書は,同項3号に該当する書類 てある。),常滑警察署司法警察員による,F及ひEの刑事事件の参 考人としての供述調書の作成,名古屋法務局からの事情聴取にも協 力したことなとか認められる。しかし,上記のような原告に有利な事情かあったとしても,原告の 非違の程度は重大てあり,原告の司法書士としての業務を3か月間停 止するとした本件懲戒処分は,社会通念上著しく妥当性を欠き裁量権 の範囲を逸脱したり裁量権を濫用したりするものてあったということ はてきないのてあって,原告の前記(1)の主張は理由かない。(3) また,原告は,他の処分事例と比較して本件懲戒処分か重すきるな とと主張する。しかし,そもそも個々の懲戒処分の量定については懲戒事由の内容, 被害の有無その大小,これに対する社会的な評価被処分者に与える影 響なとの諸般の事情を考慮することか必要てあることは前記2のとおり てあり,事情の異なる他の懲戒事例と比較して処分か重かったとしても, それをもって直ちに本件懲戒処分か違法てあるということはてきないし, 他の事例の処分か軽きに失した可能性もあるのてあって,原告の上記主張 は理由かない。5 争点(3)(本件懲戒処分の手続違反等)について (1) 適用条文等の誤りについてア 原告は,本件懲戒処分の根拠となった各規定は,いすれも抽象的 倫理規定てあり,本件懲戒処分の根拠規定となり得ない旨主張する。名古屋法務局長は,前記1(16)のとおり,本件懲戒処分において, 原告の行為を,司法書士法2条(職責),23条(会則の遵守義務), 愛知県司法書士会会則82条(品位の保持)に違反するとしたうえ, 司法書士法47条に基ついて,原告を業務停止処分としたことか認 められる。ところて,証拠(甲1)及ひ弁論の全趣旨によれは,本件懲戒処 分は,処分権者てある名古屋法務局長か,原告に対して懲戒事由か あると認め,司法書士法47条により認められた懲戒権に基ついて行った行政上の処分てあり,その趣旨,目的は,前記2のとおり, 国か独占的資格として認めた司法書士の業務の適正を保持するため に行われるものてあり,刑事手続上の処分(刑事罰)とは,目的, 根拠を異にするものてある。したかって,司法書士に対する懲戒処 分の根拠となる各規定について,厳格な罪刑法定主義の要請か及ふ ものてはないというへきてあるから,懲戒処分に先たって,懲戒処 分の対象となる行為を個々に限定したうえ,刑罰法規における構成 要件のような形て法律上確に定めることか必要なわけてはない。したかって,司法書士法2条,23条,愛知県司法書士会会則8 2条等の規定か,抽象的倫理規定てあることを理由として本件懲戒 処分か違法てあるとする原告の主張は理由かない。イ 原告は,原告には内容虚偽の本人確認情報を提供する認識(故意) はなかったところ,本件懲戒処分の根拠規定はいすれも故意行為を 処罰する規定てあるため,原告に対してこれらの規定を根拠に懲戒 処分をすることは違法てあるなとと主張する。しかし,本件懲戒処分の根拠とされた規定となった司法書士法2 条,23条,愛知県司法書士会会則82条の各規定,不動産登記 法23条,不動産登記規則72条なとの各規定から,懲戒処分の対 象となる違反行為を,対象者か内容虚偽の本人確認情報を提供する 認識を有していた場合に限る趣旨を読み取ることはてきす,むしろ 対象者に内容虚偽の本人確認情報を提供する認識かなかった場合も 懲戒処分の対象行為に含まれると解されるし,前記アのとおり,本 件懲戒処分は,本件登記申請に関する行政上の処分てあり,刑事罰 てはないのたから,必すしも刑罰法規のことく,過失犯と故意犯と を各別の構成要件として示的に規定しておかなけれはならないも のてはない。したかって,原告の上記主張は理由かない。
 (2) 処分基準に関する違法について原告は,本件登記申請当時,具体的な処分基準か設定されていなかった 点,本件登記申請当時は発せられていなかった本件訓令か原告に遡及的に 適用された点及ひ本件訓令か本件懲戒処分当時に公表されていなかった 点において,本件懲戒処分は行政手続法12条1項に違反する旨主張する。証拠(甲3)及ひ弁論の全趣旨によれは,本件訓令は,上級行政機 関てある法務大臣か,下級行政機関てある法務局長等に対して,司法 書士法47条又は48条の規定に基つき司法書士又は司法書士法人に 対する懲戒処分を行う場合の基準及ひ同法51条の規定による公告を する場合における懲戒処分の公表について,その職務権限の行使を指 揮するために,平成19年5月17日付けて発せられたものてあるこ と,本件懲戒処分の対象とされた原告の行為(本件登記申請)かあっ た平成18年10月当時から本件懲戒処分時まて,名古屋法務局にお いて,司法書士の懲戒処分の具体的基準は作成されていなかったこと か認められる。ところて,訓令は,各省大臣等かその機関の所掌事務について命令 又は至達するため,所管の諸機関職員に対して発するものてあり(国 家行政組織法14条2項),行政組織内部における規律を定めるもの て,原則として法規の性質を持たす,私人に対する拘束力を有するも のてはない。したかって,本件懲戒処分について,名古屋法務局長か,原告に対 して本件訓令を「適用」したという事実はそもそも法律上観念てきな いものてあって,本件訓令の性質か上記のとおりてある以上,この点 についての原告の主張は理由かない。また,行政手続法12条1項は,「行政庁は,処分基準を定め,か
つ,これを公にしておくよう努めなけれはならない。」と規定し,同 条2項は,「行政庁は,処分基準を定めるに当たっては,不利益処分 の性質に照らしててきる限り具体的なものとしなけれはならない。」 と規定しており,処分基準の設定,公表を努力義務としているのてあ る。そうすると,本件登記申請本件懲戒処分の当時,名古屋法務局に おいて具体的な処分基準か作成されていなかったとしても,それは, 上記努力義務に反したというにすきないし,司法書士に対する懲戒処 分という性質上,法務局長等か各別に具体的な基準を定めることは必 すしも容易なことてはなく,本件懲戒処分か違法となるものてはない。したかって,原告の上記主張はいすれも理由かない。
 (3) 違法な調査,文書取得について原告は,本件懲戒処分について,名古屋法務局か関係者から事情聴取を 行ったり,F及ひEの供述調書を取得したりしたのは,司法書士法施行規 則42条によって許されていない行為てあり,違法てある旨主張する。法務局長等か司法書士に対する懲戒権限を有する以上,その判断のため に必要な調査を行うことかてきることは当然てあり(司法書士法49条2 項参照),司法書士法施行規則42条は,法務局長等は,必要かあると認 めるときは,「司法書士又は司法書士法人の保存する事件簿その他の関係 資料若しくは執務状況を調査し」,又は法務局等の職員にさせることかて きる旨定めているか,同条の趣旨は,法務局長等に対して,懲戒処分の是 非及ひその程度を判断するために当該司法書士等に対する調査を行うこ とかてきることを特に示したものと解されるのてあって,同条に規定さ れていない関係者から事情を聴取し,関係する書類を取り寄せるなとした からといって,懲戒処分の判断のために必要てある以上,当該調査これ に基ついて行われた懲戒処分か違法になるものてはない。前記1(13)のとおり,名古屋法務局は,B等から事情聴取を行ったこと か認められるか,これらの事情聴取は,原告に対する懲戒処分の是非及ひ その程度の判断のために行われた調査てあることからかてあるから,こ れらの事情聴取を行ったことに違法はない。また,前記1(13)のとおり, 名古屋法務局は,F及ひEの供述調書を閲覧し,テシタルカメラて撮影し たことか認められるか,何人も被告事件の終結後,訴訟記録を閲覧するこ とかてきる(刑事訴訟法53条)のてあり,この閲覧については,刑事訴 訟法53条,刑事確定記録訴訟法4条1項に基ついて行われたものて,撮 影については,法務省刑総訓第652号「記録事務規程」第15条の「保 管検察官は,保管記録又は最新保存記録の閲覧を許す場合には,その謄写 を許すことかてきる。」との定めに基ついて行われたものてあると認めら れるから,これらの点に違法はない。したかって,原告の上記主張は理由かない。 (4) 黙秘権の不告知について原告は,名古屋法務局は,原告に対する事情聴取の際,黙秘権を告知し なかったから,違法てある旨主張する。いわゆる黙秘権を規定した憲法38条1項は,単に「何人も,自己に不 利益な供述を強要されない。」とあるにすきないか,その法意は,何人も 自己か刑事上の責任を問われるおそれのある事項について供述を強要さ れないことを保障したものと解すへきてあって,純然たる刑事手続におい てはかりてなく,実質上,刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結 ひつく作用を一般的に有する手続には,等しく及ふものてある(最高裁判 所昭和44年(あ)第734号同47年11月22日大法廷判等参照)。本件ては,名古屋法務局か,原告に対して,前記 1(11)のとおり事 情聴取を行ったことか認められるか,証拠(甲11の1~3,乙8) 及ひ弁論の全趣旨によれは,これらの事情聴取は,司法書士法施行規則42条に基つく調査として行われたものてあることか認められ,実 質上,刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結ひつく作用を一般的 に有する手続てはない。したかって,本件における事情聴取については,そもそも憲法38条1 項のいわゆる黙秘権の保障か及ふものてはないから,名古屋法務局の事情 聴取において,聴取者か原告に黙秘権を告知しなかったとしても,本件懲 戒処分か違法となるものてはないし,国家賠償法1条1項にいう違法かあ ったということもてきす,原告の上記主張は理由かない。(5) 虚偽の記載について 原告は,警察の取調へを受けたことかないのに,本件懲戒処分書には,「警察等の取り調へ及ひ当局等の事情聴取にも協力的てあること」 という記載かあり,本件懲戒処分はこのような名古屋法務局長の重大 な事実誤認に基ついてされたものて,違法てある旨主張する。しかし,前記1(10)のとおり,原告は,平成19年8月28日,F 及ひEの刑事事件の参考人として,常滑警察署司法警察員から事情聴 取を受け,本件原告供述調書(甲10の1)か作成されている。そして,刑事訴訟法223条1項は,「検察官,検察事務官又は司 法警察職員は,犯罪の捜査をするについて必要かあるときは,被疑者 以外の者の出頭を求め,これを取り調へ,又はこれに鑑定,通訳若し くは翻訳を嘱託することかてきる。」と定めている。すなわち,刑事 訴訟法上,被疑者以外の者(参考人)から供述を得て証拠化しようと する場合も,「取り調へ」という用語か用いられているのてある。上記のとおり,原告は,F及ひEの刑事事件の参考人として「取り 調へ」を受けたことか認められるのてあるから,本件懲戒処分書(甲 1)の「警察等の取り調へ」という記載はこの趣旨をいうものとして 正当てあるし,そもそも上記記載は,原告に有利な事情として記載されているのてあって,原告の上記主張は理由かない。 (6) 結論以上のとおり,本件懲戒処分について,手続違反等の事実はいすれも認 められないのてあって,これらの点についての原告の主張はいすれも理由 かない。第4 結論 以上のとおり,本件懲戒処分か違法てあったということはてきす,名古屋法務局長その他名古屋法務局の職員の行為について,国家賠償法1条 1項にいう違法かあったということはてきない。よって,その余の点について判断するまてもなく,原告の請求は理由か ないから,これを棄却することとし,主文のとおり判する。名古屋地方裁判所民事第8部
裁判長裁判官 長谷川 恭 弘
裁判官 鈴 木 陽一郎
裁判官 中 畑 章 生
別紙
1土地 所在 地 番 地 目 地積
2建物
所在
家屋番号 36番
(主たる建物) 種 類 構造 床面積
居宅 木造瓦葺平家建 74.52m
(附属建物) 符号1
種 類 構造 床面積
物置 木造瓦葺平家建 14.90m
物件目録
常滑市(以下略) 36番
宅地 177.85m
常滑市(以下略)
別紙
登記の目的 原 因
登記目録
債 権
利 息
平成18年○月○日 金銭消費貸借同日設定
金650万円
年7ハーセント(月割計算。1か月未満の端数期間については, 年365日日割計算とする。)年21.9ハーセント(年365日日割計算) 常滑市(以下略)C 東京都(以下略)
B株式会社
損 害 債 務
金 者

当 権 者

抵当権設定
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