一級建築士か構造計算書を偽装したいわゆる耐震強度偽装事件において,建築確認 をした建築主事の所属する自治体に対してされた損害賠償請求につき,建築基準法 は,建築物についての建築主の所有権を直接保護の対象としていない以上,建築主 事か建築基準関係規定適合性の判断を誤っても,違法とは評価てきないとして,請 求を棄却した事例。平成21年(ワ)第1545号 損害賠償請求事件 判決 主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及ひ理由
第1 請求 被告は,原告に対し,1億1384万3564円及ひこれに対する平成17年12月3日から支払済みまて年5分の割合による金員を支払え。
 第2 事案の概要本件は,原告か,その経営する別紙物件目録記載のホテル(以下「本件ホテ ル」という。)に関し,建物の建築確認申請を行った際,同申請書に添付された 構造計算書には耐震性に関わる偽装かあったのに,被告の建築主事かこれを見 過こして建築確認をした過失により,本件ホテルを改修し,改修等のために休 業せさるを得なくなったとして,国家賠償法1条1項に基つき,被告に対し, 1改修工事費用6132万円,2休業損害4202万3564円,3弁護士費 用1050万円の合計1億1384万3564円及ひこれに対する建築確認後 の日てある平成17年12月3日からの民法所定の遅延損害金の支払を求めた 事案てある。1 関係法令の定め
(1) 建築基準法
ア 建築基準法(平成11年法律第160号による改正前のもの。以下,単に「建築基準法」という。)6条1項は,建築主か,同項1号から3号まて に掲ける建築物を建築しようとする場合においては,当該工事に着手する 前に,その計画か建築基準関係規定(同法並ひにこれに基つく命令及ひ条 例の規定その他建築物の敷地,構造又は建築設備に関する法律並ひにこれ に基つく命令及ひ条例の規定て政令て定めるもの)に適合するものてある ことについて,確認の申請書を提出して建築主事の確認を受け,確認済み 証の交付を受けなけれはならす,当該確認を受けた建築物の計画の変更を して同項1号から3号まてに掲ける建築物を建築しようとする場合も同様 とする旨規定し,同項3号には,「木造以外の建築物て2以上の階数を有し, 又は延へ面積か200平方メートルを超えるもの」か挙けられている。同条6項は,同条1項の確認済証の交付を受けた後てなけれは,同項の 建築物の建築はすることかてきない旨規定する。イ 建築基準法20条は,建築物は,自重等並ひに地震その他の震動及ひ衝 撃に対して安全な構造のものとして,同条各号に定める基準に適合するも のてなけれはならない旨規定し,同条1号は建築物の安全上必要な構造方 法に関して政令て定める技術的基準に適合することを,同条2号は同号イ(6条1項2号又は3号に掲ける建築物)及ひロに掲ける建築物について, 同条1号に定めるもののほか,政令て定める基準に従った構造計算によっ て確かめられる安全性を有することを挙ける。(2) 建築基準法施行令
ア 建築基準法施行令(平成12年政令第312号による改正前のもの。以下,単に「建築基準法施行令」という。)36条1項は,同法20条1号の 政令て定める基準を第三章第一節ないし第七節の二まてに定めるところに よるとし,36条3項は,同法20条2号に掲ける建築物の構造方法として,1第三章第一節ないし第七節の二まての規定に適合し,かつ82条に 規定する許容応力度等計算又は81条1項たたし書に規定する構造計算に よって安全性か確かめられた構造方法,若しくは236条2項2号又は3 号のいすれかに該当するものとしなけれはならない旨規定する。イ 建築基準法施行令81条1項本文は,同法20条2号に規定する建築物 の構造計算は「許容応力度等計算」又は「限界耐力計算」のいすれかによ らなけれはならない旨規定する。また,82条は,「許容応力度等計算」を同条各号及ひ同82条の2から 82条の5まてに定めるところによりする構造計算をいうと規定する。82条の2~4は,国土交通大臣か定める建築物(以下「特定建築物」 という。)について適用されるか,このうち82条の3は特定建築物て高さ か31m以下のものについて(なお,同条所定の特定建築物ても地上部分 について82条の4各号に定める構造計算を行った場合は82条3の所定 の構造計算は不要とされる。),82条の4は特定建築物て高さか31mを 超えるものについて適用される。82条の3第1号は,特定建築物て高さか31m以下のものについて, 各階の剛性率かそれそれ10分の6以上てあることを確かめなけれはなら ない旨規定する。82条の4は,特定建築物の地上部分について,同条1号の規定(第3 章第8節第4款に規定する材料強度による保有水平耐力の計算)によって 計算した各階の水平力に対する耐力(保有水平耐力:Qu)か同条2号の 規定(地震力に対する各階の必要保有水平耐力を下記の式によって計算す る。)により計算した必要保有水平耐力(Qun)以上てあることを確認し なけれはならない旨規定する。なお,Qunは各階の必要保有水平耐力(単 位:キロニュートン),Dsは各階の構造特性を表すものとして,特定建築 物の構造耐力上主要な部分の構造方法に応した減衰性及ひ各階の靱性を考慮して国土交通大臣か定める数値,Fesは各階の形状特性を表すものと して,各階の剛性率及ひ偏心率に応して国土交通大臣か定める方法により 算出した数値,Qudは地震力によって各階に生する水平力(単位:キロ ニュートン)てある。[計算式] Qun=Ds・Fes・Qud
(3) その他
ア 昭和62年建設省告示第1915号
同告示は,建築基準法施行令82条の2の規定に基つき,特定建築物に ついて規定するところ,その5のイにおいて,鉄筋コンクリート造の建築 物については,高さか20m以下てあるものを特定建築物から除外してい る。イ 平成7年建設省告示第1996号 同告示は,その第3において,鉄筋コンクリート造の建築物に関する構造計算の基準について規定するところ,第3の3は,構造耐力上主要な部 分てある鉄筋コンクリート造の梁の材端(柱又は壁に接着する部分をい う。)に生する曲けモーメントか,当該部分に生し得るものとして計算した 最大の曲けモーメントと等しくなる場合において,構造耐力上主要な部分 てある鉄筋コンクリート造の柱及ひ壁の材端(梁その他の横架材又は垂れ 壁若しくは腰壁に接着する部分をいい,最上階の梁その他の横架材若しく は垂れ壁に接着する部分又は1階の床版に接着する梁その他の横架材若し くは腰壁に接着する部分を除く。)に生する曲けモーメントか当該部分に生 し得るものとして計算した最大の曲けモーメントを超えす,かつ,当該梁, 柱及ひ壁にせん断破壊か生しないことを確認することを求めている。(4) 構造計算のフロー 上記関係法令に基つき,本件ホテルのような鉄筋コンクリート造建築物の構造計算の基本的な手順を図示すると,別紙「鉄筋コンクリート造建築物の構造計算フロー」(以下「別紙フロー」という。)のようになる。
2 前提事実(争いかないか,掲記の証拠及ひ弁論の全趣旨によって容易に認められる事実) (1) 当事者等
ア 原告は,不動産賃貸等を業とする会社てあり,京都府舞鶴市て本件ホテ ルを経営している。イ 被告は,本件ホテルについて,建築基準法に基つく建築基準関係規定の 適合処分を行った京都府舞鶴土木事務所建築主事Aか属する地方公共団体 てある。(2) 建築確認申請及ひ同確認の経緯
ア 原告は,本件ホテルの建設を計画し,平成12年12月14日まてに,D株式会社(以下「D」という。)との間て,設計・監理業務委託契約を締 結した上,同日,E株式会社(以下「E」という。)に,請負代金を3億4 440万円(税込み),工期を同月15日から平成13年5月31日まてと して,本件ホテルの建築を請け負わせた(甲5,6の1・2)。Dは,平成12年8月3日まてに,受託した設計業務のうち構造設計業 務を一級建築士Bに委託した(甲18)。イ 原告は,平成12年9月14日,Dの一級建築士てあったCを代理人と して,被告の機関てある京都府舞鶴土木事務所(以下「舞鶴土木事務所」 という。)に,建築基準法6条に基つき,本件ホテルの建築につき確認申請 を行った(甲6の2)。Aは,同年10月3日,原告に対し,本件ホテル建築計画か建築基準法 6条1項の規定による建築基準関係規定に適合していることを証明する確 認済証を交付した(第H12認建舞土000402号。甲6の1。以下「本 件建築確認1」という。)。ウ 原告は,平成13年5月8日,Cを代理人として,舞鶴土木事務所に対 し,1階テナント決定による平面変更を理由に,建築基準法6条1項に基 つき,本件ホテルの建築計画変更の確認申請を行った(甲7の2)。Aは,同月18日,原告に対し,変更された本件ホテル建築計画か建築 基準法6条1項の規定による建築基準関係規定に適合していることを証明 する確認済証を交付した(第H13確更建築京都舞土00012号。甲7 の1。以下「本件建築確認2」という。)。エ 原告は,平成13年6月1日,Cを代理人として,舞鶴土木事務所に対 し,1階テナント用途変更による平面変更を理由に,建築基準法6条1項 に基つき,本件ホテルの建築計画変更の確認申請を行った(甲8の2)。Aは,同月12日,原告に対し,変更された本件ホテル建築計画か建築 基準法6条1項の規定による建築基準関係規定に適合していることを証明 する確認済証を交付した(第H13確更建築京都舞土00019号。甲8 の1。以下「本件建築確認3」という。」)。オ 原告は,平成13年6月22日,Cを代理人として,舞鶴土木事務所に 対し,土地利用計画変更による敷地面積の変更を理由に,建築基準法6条 1項に基つき,本件ホテルの建築計画変更の確認申請を行った(甲9の2)。Aは,同月26日,原告に対し,変更された本件ホテル建築計画か建築 基準法6条1項の規定による建築基準関係規定に適合していることを証明 する確認済証を交付した(第H13確更建築京都舞土00021号。甲9 の1。以下「本件建築確認4」といい,本件建築確認1ないし4を併せて 「本件各建築確認」という。)。(3) 本件ホテルの完成後の経緯
ア Aは,平成13年6月27日,原告に対し,本件ホテルの建築工事の完了に伴い,建築基準法7条5項による完了検査済証を交付した。
イ Eは,平成13年7月6日,本件ホテルの建築工事を完成し,同日,これを原告に引き渡した(甲10,11)。
 (4) 「耐震偽装事件」の発覚ア 国土交通省は,平成17年11月17日,Bか関与した構造設計には耐 震強度に虚偽かあり,建築法規上許容された耐震強度を保有しない建築物 か多数存在する旨を公表した。イ 原告は,平成17年11月末ころ,京都府土木建築部建築指導課からの 連絡て,本件ホテルかBか関与した物件てあることを知った。ウ 被告は,平成17年12月2日,本件ホテルの構造計算書か改さんされ ていることか判明したとして,原告に対し,本件ホテルの営業を休止する よう指導し,原告は,同日,本件ホテルの営業を停止した。(5) 改修の経緯
ア 被告は,「京都府耐震強度偽装問題検討委員会」を設置して本件ホテルの調査を進め,平成17年12月20日,その調査結果を公表し,同日,原 告に対し,耐震改修計画を作成の上,改修工事を実施するよう要請した(甲 13)。イ 原告は,平成18年1月24日,被告に対し,耐震改修工事計画書を提 出し,同年2月3日,被告から同改修計画か適正てあるとの承認を得た(甲 14)。ウ 原告は,平成18年2月14日,Eに,請負代金を6132万円(税込 み),工期を同月15日から同年3月31日まてとして,本件ホテルの耐震 補強工事を請け負わせた(甲15)。エ Eは,平成18年3月末まてに本件ホテルの耐震補強工事を完成し,原 告は,同年4月10日に本件ホテルの営業を再開した。(6) 本件ホテルの構造計算フロー 本件ホテルは,建築基準法20条2号に規定する建物てあり,同法施行令81条1項か適用されるところ,このうち「許容応力度等計算」による場合には,高さか30.050mてある(甲6の2,7の2,8の2,9の2) ことから特定建築物に該当し,別紙フロー記載の「ルート2-1」,「ルート 2-2」,「ルート2-3」のいすれかの手順によることを要するか,本件ホ テルて採用されている設計ルートは「ルート2-3」てある。「ルート2-3」 は,「全体崩壊メカニスム」(最上層と最下層以外ては柱に塑性ヒンシ(部材 端部か降伏して回転か促進された状態)を生しさせない壊れ方の形態)か確 実に形成されるように,柱に十分な曲け強度を保持させた上て各部材の靱性 (強さ)を確保する方法てある。(7) 構造計算書の偽装その他設計図書の不備
ア 1階の剛性率(建築基準法施行令82条の3第1号関係)
本件ホテルは,2階以上の階は耐力壁かあるか,1階は,別紙構造図の とおり,3通りの通り・通り間以外は耐力壁かなく,1階かいわ ゆるヒロティ形式(当該階において,耐力壁,そて壁,腰壁,たれ壁,方 立て壁の量か上階と比較して急激に少なくなっている形式)の建築物てあ るところ,ヒロティ階の剛性は,他の階よりも大幅に低下し,その階の剛 性率は建築基準法施行令82条の3第1号か定める0.6未満となること か多い(甲16,19,弁論の全趣旨)。それにもかかわらす,本件ホテルに関し,Bか作成した構造計算書(以 下「本件構造計算書」という。なお,本件構造計算書には,構造計算ソフ トとして,建設大臣の指定ないし認定を受けたフロクラム(以下「大臣認 定フロクラム」という。)てある「スーハーヒルトSS1(改訂版)」(ユニ オンシステム株式会社)か用いられていた。)ては,1階の剛性率(各層の かたさのはらつきを評価する指標値てあり,特定層のかたさを平均値に対 する割合て表したもの)の,X方向の判定値か0.790,Y方向の判定 値か0.898とされていた(甲18)。イ 柱の耐力に関する事項(平成7年建設省告示第1996号関係)(ア) 本件構造計算書ては,柱の耐力の比較の対象たる2階梁の耐力(曲 けモーメント)の計算か,耐力壁の一部として十分な耐力を有するとし て省略されていた。(イ) 柱のせん断破壊か生しないことの確認に当たっては,構造設計上算 出した柱にかかるせん断力(設計せん断力:QD)と,当該柱か部材と して有している短期許容せん断力(短期間の荷重に対し,当該部材かせ ん断破壊に至るまて耐えられる力:QAS)とを比較することによって 確認し,QD≦QASてあれは,地震時において当該柱にせん断破壊は 生しないとされるところ,QD値は,下記の計算式により算出される。
 なお,QMは,柱頭と柱脚に加わる最大のせん断力てあり,柱頭に加わ る降伏曲けモーメント(Mud柱頭)と柱脚に加わる降伏曲けモーメン ト(Mud柱脚)の合計値を当該柱の内径て割った数値てある。[計算式] QD=Q0(長期せん断力。最小値は0)+1.1×QM QM=(Mud柱頭+Mud柱脚)÷内径(m)本件ホテルの柱1C1のX方向てのMud柱頭は336.8t,Mu d柱脚は305.8t,内径は255.0cmてあった(甲18)から, そのQD値は,以下のとおり,約277.2tてあった。[計算式] QD=Q0+1.1×(Mud柱頭+Mud柱脚)÷内径(m)=0+1.1×(336.8+305.8)÷2.55
≒277.2t しかるところ,本件構造計算書ては,柱1C1(別紙構造図の
通りと4通りか交差する柱)は,QDかX方向において175.3tとされ,QAS値(178.6t)を下回るとされていた(甲18)。
 ウ 耐力壁に関する事項(ア) 開口比率について 外壁における開口面積の壁全体の面積に対する割合の平方根か40%以下てあれは壁全体を耐力壁として認めることかてきるところ,本件構 造計算書ては,これを偽装して,2~8階の耐震壁とみなせない一部の 外壁を耐震壁として評価していた(甲13,18)。(イ) 耐力壁のモテル化(建築基準法施行令82条の4関係) 本件ホテルは,壁とうしか繋かっておらす,壁をつなけているのか梁 のみてある部分かあり,かつ,かかる壁を一体と評価するに足りるたけの梁の強度を有していなかった(甲16)。 したかって,上記の壁は2枚壁としてモテル化されるへきところ,本件ホテルを2枚壁として計算した場合の耐震強度(Qu(保有水平耐力) /Qun(必要保有水平耐力)。これか1以上てあれは建築基準法施行令 82条の4の基準を満たす。)は,桁行方向て0.36~0.47,梁間 方向て0.53~0.68てあり,大きく不足していた(甲13)。3 争点及ひ争点に関する当事者の主張
(1) Aの本件各建築確認の国家賠償法上の違法性の有無
ア 権利侵害の有無 (原告の主張)
(ア) 建築基準法は,個々具体的な国民の利益を保護の対象とし,当該国 民には建築物の建築主か含まれ,当該利益には生命身体のみならす財産 も含まれる。建築基準法上の建築確認制度は,建物について建築に関する高度の知 識を持った有資格者に設計を独占させその質の向上を図ることを目的と する建築士法(平成11年法律第160号による改正前のもの。以下, 単に「建築士法」という。)の規定と相俟って,建築基準関係規定に違反 する建築物の出現を未然に防止する制度てあるところ,建築基準関係規定に違反する建物か出現した場合に,その損壊・倒壊等によります被害 を受けるのは建築主てあること,建築確認制度において建築主は確認審 査の申請料を負担していることなとからすれは,建築確認制度か,建築 基準関係規定に違反しない建物を建築するという建築主の利益を保護す るものてあることは明らかてある。(イ) 原告は,Aによる本件各建築確認により,建築基準関係規定に違反 する形て本件ホテルを建築してしまい,本件ホテルの改修・休業を余儀 なくされ,上記利益を侵害された。(被告の主張)
(ア) 建築基準法は,建築物か人々の生活環境等を害することのないよう公益上の見地から建築主の行為に制限を加えるものてあり,建築確認制 度は,対象となる個々の建築物の資産価値を保証したり,当該建築物の 建築主個人の個別的な利益を保障するものてはない。建築確認制度は,第1次的には建築主各自か定められた最低基準を守 って建築計画を作成することを命し,第2次的には資格を有する専門家 たる建築士を関与させることにより建築主の法令遵守を確保し,そのこ とを建築主事か確認する制度てあり,建築主の法令遵守を後見的に確保 するものにほかならない。(イ) 建築基準法,建築確認制度か,建築物の建築主の個別的な利益を保 障するものてはない以上,Aの本件各建築確認により建築主たる原告の 個別的・具体的権利ないし利益か侵害されたということはてきない。イ 義務違反(過失)の有無 (ア) 建築主事の義務一般 (原告の主張)建築基準法は,建築主事の資格要件を定め,極めて高度な知識を有す る建築主事に建築確認業務を独占させている。建築確認制度は,建築主か建築に関する専門的知識を有しないことを 前提として,建築の際に高度の専門的知識を有する一級建築士を選任す ることを求めるとともに,さらに別の高度の専門的知識を有する建築主 事にも設計図書を審査させることて危険な建築物の出現を阻止するもの てある。そうすると,建築確認制度において,建築士か作成した確認申請図書 の誤りを建築主か発見することは予定されておらす,代わって建築主事 か確認申請図書の誤りを発見する職責を負う。(被告の主張)
a 建築主事による確認行為は,建築基準関係規定に適合すると認めた場合に建築禁止か解除されるという監督行政の一場面てあることか ら,裁量の余地のない羈束行為とされ,その適否の判定は明確性か求 められる。建築主事は,建築一般に関する基本的知識を有する専門職てはある か,構造設計の専門家てはなく,構造設計を自ら行う能力は求められ ておらす,法令上も構造設計の実務経験なとは全く求められていない。上記のような建築確認の性質や建築主事に求められている資格・能 力にかんかみれは,建築主事は,構造設計者の作成した確認申請図書 を対象として,建築基準関係規定へのあてはめを行えは足り,確認申 請図書の内容の当否や構造計算の正確性を検証する義務はない。b 1本件各建築確認当時,建築基準法か,建築確認に関して,7日以 内又は21日以内という審査期間を定めるのみて,審査事項や審査方 法について何ら規定を設けていなかったこと,2平成10年に建設省 か示した建築構造審査要領においても応力計算や部材計算の過程を逐 一チェックすることとはされていなかったこと,3いわゆる耐震偽装 問題か発覚した際に国土交通省か各都道府県に指示した建築確認図書の再チェック事項においても応力計算や部材計算の過程を逐一チェッ クすることとはされていなかったことにかんかみると,本件各建築確 認当時,一般的に,建築主事に,柱,梁,耐震壁,基礎なとの構造耐 力上主要な部分に係る許容応力度の計算過程の全てについてチェック し,検算や再計算を行う義務はなかった。(イ) 本件ホテルに関するAの義務違反(過失)の有無 a ヒロティ形式の建築物てあることに関する義務違反 (原告の主張)ヒロティ形式の建築物ては通常剛性率は0.6未満てあり,Aは本 件ホテルのヒロティ階の剛性率か規定値内てあることに疑念を持っ て,構造上特別の配慮かされていないことを発見すへきてあったのに これを見逃した。(被告の主張) ヒロティ形式の建築物について,建築基準関係規定に規定はなく,これに該当するか否かは建築主事の審査対象てはなく,その点に着目 して構造上の配慮かされているか否かについて建築主事か判断する義 務はない。b 柱の耐力に関する義務違反 (原告の主張)
本件構造計算書ては,柱の耐力の比較の対象たる2階梁の耐力か省 略されており,Aはこれを照査すへきてあったのに見逃した。また,本件構造計算書ては,柱1C1のQD値か偽装されていたと ころ,Aは,構造計算の断面表に基つく計算を行いこれを発見すへき てあったのにこれを怠った。(被告の主張) 本件ホテルに関しては,いわゆる大臣認定フロクラムか使用されており,これにワーニンクメッセーシやエラーメッセーシか表示されて いるかを確認すれは足り,梁の耐力を照査したり自ら計算を行う義務 はない。c 耐力壁の耐力に関する義務違反 (原告の主張)
本件ホテルは,耐力壁に複数の開口かあったことから,Aは,開口 間の壁か容易に破壊するかとうかを照査すへきてあったのに,これを 行わす,耐力壁と認められない壁を耐力壁として判断した。また,Aは,本件ホテルの2枚壁としてモテル化すへき壁か1枚壁 としてモテル化されていることを発見すへきてあったのに,これを見 逃した。(被告の主張) 耐力壁に複数の開口か存する場合の扱いや,モテル化において1枚壁とするか2枚壁とするかという事項は建築基準関係規定に規定かな く,構造設計者の工学的判断に委ねられるものてあり,建築主事か確 認すへき事項てはない。(2) 信義則違反について (被告の主張)
本件ホテルの耐震偽装か,原告か選定した代理人らにより行われたことか らすれは,原告自身か直接偽装工作を行ったものてはないにしても,欺罔し た相手方てある被告に対して損害賠償を請求することは信義に反する。(原告の主張) 本件ホテルに関し,DやBは,原告から独立して設計・監理業務を行う立場にあったのてあり,原告かそれらの者と身分上,生活関係上一体をなす関 係にあったとはいえないから,原告か被告に対し損害賠償請求することは信 義に反しない。(3) 損害について (原告の主張)
原告は,本件各建築確認により,本件ホテルの改修・休業を余儀なくされ, 以下のとおり,合計1億1384万3564円の損害を被った。ア 改修工事費用 6132万円
原告は,別紙補強工事・休業損害明細表の補強工事欄記載のとおり,E に補強工事を請け負わせ,請負代金として6132万円を支払った。イ 休業損害 4202万3564円 原告は,平成17年12月2日から平成18年4月9日まて,本件ホテルを休業し,その逸失利益は,別紙補強工事・休業損害明細表の休業損害欄記載のとおり,合計4202万3564円てある。
 ウ 弁護士費用 1050万円(被告の主張) 原告は,自ら選定した建築士との契約関係において設計内容を確定し,その設計内容に基つく建築確認を申請し,建築確認を経てそのとおりの建築物を建築したものてあるから,それによる損害を観念する余地はない。 第3 当裁判所の判断1 Aの本件各建築確認の建築主との関係ての国家賠償法上の違法性の有無 建築基準法は,建築物の敷地,構造,設備及ひ用途に関する最低の基準を定 めて,国民の生命,健康及ひ財産の保護を図り,もって公共の福祉の増進に資することを目的としている(1条)。ここて,公共の福祉の増進の方法として, 国民の生命,健康という個人的利益を保護しており,その中に財産も含まれて いる。建築物は場所を固定されているから,そこて保護されている国民は,その建 築物内に居住したり,現にいる者,その近隣に居住する者か中心て,通行人な とも含まれ,建築基準法は,それらの者の生命,健康のみならす,その財産をも保護していることになる。ここて,建築主自身かそれらに含まれれは,保護 の対象となろうか,建築主のその建築物に対する所有権自体を保護の対象にし ているかについては疑義かある。そもそも,建築主かとのような建築物を建築 するかは,原則として自由てあり,仮に建築基準法所定の基準に違反していた ため,倒壊,炎上するなとしても,それは自己の責任てあり,土地の工作物の 所有者として,不法行為責任を負う場合もあるのてあって(民法717条1項), その危険を回避しようとすれは,自ら倒壊,炎上等の危険の少ない建築物にす るよう努めるか,損害保険契約をするなと,自己の責任て行う必要かあるのて ある。また,建築基準関係法令に違反した場合には,その除却等の必要な措置 をとることを命しられることかあり,これに従わなけれは行政代執行をされる こともあるのてある(建築基準法9条)。建築主は,通常,建築の専門家てないから,建築基準法,建築士法は,大規 模又は複雑な建築物については建築の専門家てある建築士の関与を要求してお り,それにもかかわらす上記の倒壊,炎上等か発生した場合には,建築主は, 建築士に対して損害賠償を求めることもてきる。本件においては,原告は,設 計,監理をしたDや構造計算書を作成したBに対しては,その資力の関係もあ ってか,損害賠償を求めてはいないか,元来私法上の関係として処理されるへ きものてある。もとより,建築の専門家てある建築主事においても建築基準関係規定適合性 を確認するわけてあるから,建築主事も建築物の安全性について責任を負うへ き立場にあるとはいえるか,前記のとおり,建築基準法上は,建築物というも のか,その建築物内にいる者,その近隣に居住する者,通行人なとの利益を侵 害する危険かあるものなのて,特に規制をしているというへきてあり,その保 護の対象もそれらの者の利益てあると考えられるのてある。これとは別に,特 に建築物に限ってたけ,その所有権という私権を,建築主事又はその属する地 方公共団体か,後見的に保護しなけれはならない理由は見いたせない。国家賠償法1条との関係ていうならは,建築主のその建築物の所有権につい ては,建築基準法か直接保護の対象としていない以上,建築主事か建築基準関 係規定適合性の判断を誤っても,原則として違法とは評価てきないことになる。原告は,建築確認につき,建築主はもとより近隣住民に抗告訴訟の原告適格 を認めた判例(最高裁判所平成14年1月22日第3小法廷判決・民集56巻 1号46頁なと)を引用して,建築主のその建築物の所有権についても法律上 保護されているなとと主張するか,建築主に抗告訴訟の原告適格を肯定するの は建築確認申請か却下された場合か通常なのてあり,建築確認をした処分につ き建築主の原告適格を認めるかとうかは疑義かあるところてある。いすれにせ よ,抗告訴訟の原告適格という観点から,国家賠償法上の違法性を導こうとす るのは,観点か異なるのて相当とはいえない。2 結論 以上によれは,その余について判断するまてもなく,原告の請求は理由かないから棄却する。
京都地方裁判所第3民事部
裁判長裁判官 瀧華聡之
裁判官 梶山太郎
裁判官 高橋正典
別紙
所 在 家屋番号 種 類 構造 床面積
物件目録
舞鶴市字a小字b c番地d,e番地f,e番地g c番d
ホテル
鉄筋コンクリート造陸屋根8階建
1階 336.32m 2階 199.50m 3階 199.50m 4階 199.50m 5階 199.50m 6階 199.50m 7階 199.50m 8階 199.50m 30.050m高さ
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