主文
 1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
 事実及び理由
第1 請求
1 処分行政庁が原告Aに対し平成18年11月21日付けでした平成17年1 月1日から同年12月31日までの課税期間分の消費税及び地方消費税38万57 00円のうち36万円についての納税の猶予の不許可処分を取り消す。2 処分行政庁が原告Bに対し平成18年11月21日付けでした平成17年分 の所得税10万1500円並びに平成17年1月1日から同年12月31日までの 課税期間分の消費税及び地方消費税13万6700円についての納税の猶予の不許 可処分を取り消す。3 処分行政庁が原告Cに対し平成18年11月21日付けでした平成17年1 月1日から同年12月31日までの課税期間分の消費税及び地方消費税41万51 00円のうち37万3590円についての納税の猶予の不許可処分を取り消す。4 処分行政庁が原告Dに対し平成18年11月21日付けでした平成17年分 の所得税7万7800円並びに平成17年1月1日から同年12月31日までの課 税期間分の消費税及び地方消費税20万6800円の合計28万4600円のうち 27万6000円についての納税の猶予の不許可処分を取り消す。第2 事案の概要
本件は,原告らが,それぞれ処分行政庁に対し,平成17年分の所得税並びに平 成17年1月1日から同年12月31日までの課税期間分の消費税及び地方消費税 (ただし,原告A及び原告Cについては同消費税及び地方消費税のみ)について, 国税通則法(以下「通則法」という。)46条2項に基づき,納税の猶予の申請を したところ,処分行政庁が各申請を不許可とする処分をしたことから,その取消し を求めた事案である。1 関係法令等
(1) 通則法46条2項は,税務署長等は,同項1号ないし5号のいずれかに該当 する事実がある場合において,その該当する事実に基づき,納税者がその国税を一 時に納付することができないと認められるときは,その納付することができないと 認められる金額を限度として,納税者の申請に基づき,1年以内の期間を限り,そ の納税を猶予することができる旨規定している。そして,その4号において「納税 者がその事業につき著しい損失を受けたこと」が,その5号において「前各号の一 に該当する事実に類する事実があつたこと」が掲げられている(同項の全文は,別 紙「関係法令等」1記載のとおりである。また,同項の納税猶予の申請手続につい て,国税通則法施行令15条2項は,別紙「関係法令等」2記載のとおり定めてい る。)。(2) 国税庁長官が発出した通達である昭和51年6月3日付け徴徴3-2,徴管 2-32「納税の猶予等の取扱要領の制定について」(以下「猶予取扱要領」とい う。)は,通則法46条2項4号にいう「事業につき著しい損失を受けた」とは, 納税の猶予の始期の前日の前1年間(以下「調査期間」という。)の損益計算にお いて,調査期間の直前の1年間(以下「基準期間」という。)の利益金額の2分の 1を超えて損失が生じていると認められる場合(基準期間において損失が生じてい る場合には,調査期間の損失金額が基準期間の損失金額を超えているとき。)をい うものであるとし(第2章第1節1(3)ニ(イ)),また,同項5号に関し,「事業 の休廃止又は事業上の著しい損失に類する事実」として,「下請企業である納税者 が,親会社からの発注の減少等の影響を受けたこと,その他納税者が市場の悪化等 その責めに帰すことができないやむを得ない事由により,従前に比べ事業の操業度 の低下又は売上の減少等の影響を受けたこと」(同節1(3)へ(ハ))などを挙げて いる(猶予取扱要領のうち,本件に関係する部分は,別紙「関係法令等」3記載の とおりである。)。2 争いのない事実
(1) 当事者
原告Aは,愛知県津島市内において,「E」の屋号で,料理飲食業を営む個人事 業者である。原告Bは,同県愛西市内において,「F」の屋号で,鉄筋圧接業を営む個人事業 者である。原告Cは,同県津島市内において,「G」の屋号で,鉄工業を営む個人事業者で ある。原告Dは,同県弥富市内において,「H」の屋号で,家電小売業を営む個人事業 者である。(2) 原告らに対する処分の経緯
ア 原告Aについて
(ア) 原告Aは,平成18年3月13日,処分行政庁に対し,平成17年1月1日から同年12月31日までの課税期間(以下「平成17年課税期間」という。)分 の消費税及び地方消費税の確定申告書を提出し,原告Aの平成17年課税期間分の 消費税及び地方消費税額38万5700円の納税義務が確定した。(イ) 原告Aは,平成18年4月10日,処分行政庁に対し,上記消費税及び地方 消費税のうち,納期限内に納付した2万5700円を控除した36万円について, 納税の猶予の申請(以下「原告Aの申請」という。)をした。原告Aの申請に係る納税の猶予の申請書には,納税の猶予を受けようとする理由 として,「国税通則法第46条第2項5号に該当 ここ数年売上げと利益が減少し ている為」と記載されていた。原告Aは,処分行政庁に対し,上記申請書と併せて, 納税の猶予にかかわる営業・生活状況申立書及び延滞税の免除を求める請願書と題 する書面を提出したほか,同年9月11日,原告Aの同年1月から同年4月までの 各月別の売上げ,仕入れ,経費及び人件費の金額を記載した書面を提出し,また, 同年9月12日,平成16年1月から平成17年12月までの各月別の売上金額を 記載した書面を提出した。(ウ) 処分行政庁は,平成18年11月21日,原告Aに対し,通則法46条2項 5号(4号類似)に該当する事実が認められないとして,原告Aの申請を不許可と する処分(以下「原告Aに対する処分」という。)をした。イ 原告Bについて
(ア) 原告Bは,平成18年3月13日,処分行政庁に対し,平成17年分の所得 税の確定申告書並びに平成17年課税期間分の消費税及び地方消費税の確定申告書 を提出し,原告Bの平成17年分の所得税額10万1500円並びに平成17年課 税期間分の消費税及び地方消費税額13万6700円の納税義務が確定した。(イ) 原告Bは,平成18年3月27日,処分行政庁に対し,上記所得税額10万 1500円並びに上記消費税及び地方消費税額13万6700円の全額について, 納税の猶予の申請(以下「原告Bの申請」という。)をした。原告Bの申請に係る納税の猶予の申請書には,納税の猶予を受けようとする理由 として,「納税資金の紛失により,又,売上(利益)がダウンしており生活してい くのがやっとです 国税通則法第46条第2項5号該当」と記載されていた。原告 Bは,処分行政庁に対し,上記申請書と併せて,納税の猶予にかかわる営業・生活 状況申立書及び延滞税の免除を求める請願書と題する書面を提出したほか,同年6 月28日,納税の猶予に関する請願書と題する書面を提出し,また,同年9月11 日,原告Bの平成16年1月から平成18年7月までの各月別の売上金額を記載し た書面を提出した。(ウ) 処分行政庁は,平成18年11月21日,原告Bに対し,通則法46条2項 5号(4号類似)に該当する事実が認められないとして,原告Bの申請を不許可と する処分(以下「原告Bに対する処分」という。)をした。ウ 原告Cについて
(ア) 原告Cは,平成18年3月13日,処分行政庁に対し,平成17年課税期間 分の消費税及び地方消費税の確定申告書を提出し,原告Cの平成17年課税期間分 の消費税及び地方消費税額41万5100円の納税義務が確定した。(イ) 原告Cは,平成18年3月27日,処分行政庁に対し,上記消費税及び地方 消費税のうち,納期限内に納付した4万1510円を控除した37万3590円に ついて,納税の猶予の申請(以下「原告Cの申請」という。)をした。原告Cの申請に係る納税の猶予の申請書には,納税の猶予を受けようとする理由 として,「国税通則法第46条第2項5号に該当 受注が昨年に比べ減少しており 利益が減っています」と記載されていた。原告Cは,処分行政庁に対し,上記申請 書と併せて,納税の猶予にかかわる営業・生活状況申立書及び延滞税の免除を求め る請願書と題する書面を提出したほか,原告Cの妻において,同年9月11日,原 告Cの平成17年及び平成18年の各年1月から5月までの各月別の売上金額と1 か月分の経費を記載した書面を提出した。(ウ) 処分行政庁は,平成18年11月21日,原告Cに対し,通則法46条2項 5号(4号類似)に該当する事実が認められないとして,原告Cの申請を不許可と する処分(以下「原告Cに対する処分」という。)をした。エ 原告Dについて
(ア) 原告Dは,平成18年3月13日,処分行政庁に対し,平成17年分の所得 税の確定申告書並びに平成17年課税期間分の消費税及び地方消費税の確定申告書 を提出し,原告Dの平成17年分の所得税額7万7800円並びに平成17年課税 期間分の消費税及び地方消費税額20万6800円の納税義務が確定した。(イ) 原告Dは,平成18年3月27日,処分行政庁に対し,上記所得税並びに消 費税及び地方消費税の合計28万4600円のうち,27万6000円について, 納税の猶予の申請(以下「原告Dの申請」という。)をした。原告Dの申請に係る納税の猶予の申請書には,納税の猶予を受けようとする理由 として,「国税通則法第46条第2項5号に該当 大型店との競合で商品の値引き と消費税相当分の値引きにより売り上げ減少して利益が減っています」と記載され ていた。原告Dは,処分行政庁に対し,上記申請書と併せて,納税の猶予にかかわ る営業・生活状況申立書及び延滞税の免除を求める請願書と題する書面を提出したほか,同年7月20日,納税の猶予に関する請願書と題する書面を提出した。(ウ) 処分行政庁は,平成18年11月21日,原告Dに対し,通則法46条2項 5号(4号類似)に該当する事実が認められないとして,原告Dの申請を不許可と する処分(以下「原告Dに対する処分」といい,原告Aに対する処分,原告Bに対する処分及び原告Cに対する処分と併せて「本件各処分」という。)をした。3 争点及びこれに関する当事者の主張 本件の争点は,原告らに対して納税の猶予を不許可とした本件各処分が,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した違法なものであるか否かであり,これに関する 当事者の主張は,次のとおりである。(被告の主張)
(1) 通則法46条2項5号の解釈
ア 納税の猶予の許否の判断に関する裁量権 納税の猶予の制度は,納税者が災害等を受けたこと等により,国税を一時に納付することができない場合等に,納税者の申請に基づき,1年以内の期間に限り,そ の納税を猶予することにより納税者の保護を図るものであるところ,通則法46条 2項には「その納税を猶予することができる」と規定され,処分要件が存すると判 断した場合にとるべき処分の内容の選択について,行政庁に裁量権(効果裁量)を 付与する形式で定められている。このような行政庁の裁量処分については,裁量権 の範囲を超え,又はその濫用があった場合に限り,裁判所がこれを取り消すことが できるものである。イ 通則法46条2項5号の判断方法
通則法46条2項5号(3号又は4号類似)の判断基準を定めた猶予取扱要領第 2章第1節1(3)ヘには,「損失」に類する事実として「売上の減少等」((ロ) 及び(ハ))が掲げられているところ,この「売上の減少等」については,数値的 な基準が定められていない。しかし,これは売上金額の減少という数値の減少を指 す事由であり,通則法46条2項4号に類似する事由として定められているのであるから,「売上の減少」の判断は,同号の場合と同様に,調査期間と基準期間の売 上金額を比較する方法によるのが相当である。この点に関し,原告らは,「売上の減少」の判定を行う上での期間設定につき, 猶予取扱要領第2章第1節1(3)ニに規定されている基準期間及び調査期間の方法 にとらわれる必要はないとして,原告らにつき各々相違した基準期間の設定をして いる。しかし,納税の猶予の判定に当たって考慮すべき基準期間は,調査期間の前 年であることが原則である。仮に,原告らが主張するような判定方法が認められる のであれば,納税者自身が恣意的に任意の基準期間を設定できることになり,期限 内納付の例外として,一定の要件を満たす納税者のみを保護する恩恵的な措置であ るはずの納税猶予制度を形骸化させる結果となるから,原告らの主張は失当である。ウ 消費税の納税義務者となったこととの関係
原告らは,従前消費税の納税義務者でなかったが,納税義務者となった者である から,納税の猶予の要件が緩和されるかのような主張をする。しかし,原告らは, 本来すべての物品とサービスの消費に課税される消費税について免税の恩恵が与え られていたのが,本来の納税義務者に戻ったにすぎないのであって,消費税の納税 義務者になったことによって納税の猶予を受ける上での要件が緩和されることはな い。(2) 原告らに納税の猶予を許可すべき事情が認められないこと
納税の猶予の要件充足性についての主張立証責任は,納税者側にあり,税務署長 等は,納税の猶予の申請についての決定までに納税者から提出された資料の範囲内 で許可,不許可の決定を行えば足りる。処分行政庁は,原告らから納税の猶予の申請書が提出されてから,納税の猶予の 要件充足性の判定に必要な資料の提供を求めたが,原告らはこれに応じず,本件各 処分時点において,ごく限られた資料を提出したにとどまっている。本件各処分後 に原告らから提出された書面等は,処分行政庁が本件各処分時に知り得なかった事 情であるから,これらの事情によって,本件各処分の適法性は左右されない。ア 原告Aについて
原告Aは,競合店の進出,競争激化,飲酒運転の取締り強化,生活状況,事業資 金等の返済等の事情を主張するが,原告Aに対する処分当時,処分行政庁に提出さ れた書面のみでは,数値的に著しい損失あるいはこれに類する事実を認めるに足り る客観的な資料があるとはいえない。本件訴訟において,原告Aが主張する売上金 額も,原資料がなく,正確なものであるかは不明である。また,仮に原告Aが本件訴訟に至ってはじめて主張した内容を前提としても,原 告Aの調査期間の売上金額は2102万9560円,基準期間の売上金額は235 6万2200円であり,その余の事情を考慮しても原告Aにおいて著しい損失ある いはこれに類する事実があったと認めることはできないから,原告Aの主張は失当 である。イ 原告Bについて
原告Bは,大口取引先からの受注の減少,生活状況,自身の病気,兄の障害,事 業資金等の返済等の事情を主張するが,原告Bに対する処分当時,処分行政庁に提 出された書面のみでは,数値的に著しい損失あるいはこれに類する事実を認めるに 足りる客観的な資料があるとはいえない。本件訴訟において,原告Bが主張する売 上金額も,裏付ける証拠がなく,原告Bの供述も変遷していて,正確なものである かは不明である。また,仮に原告Bが本件訴訟に至ってはじめて主張した内容を前提としても,原 告Bの調査期間の売上金額は957万1493円,基準期間の売上金額は818万 5170円であり,その余の事情を考慮しても原告Bにおいて著しい損失あるいは これに類する事実があったと認めることはできないから,原告Bの主張は失当であ る。さらに,原告Bは,本件訴訟においてはじめて,兄の障害等の事実を主張し,通 則法46条2項2号該当性を主張するが,猶予該当事実はそれぞれ独立した要素で あり,同項4号又は5号該当を理由にされた本件においては,同項2号該当性が処分の適法性を左右するものではないと解すべきである。仮に原告Bの主張を前提と しても,原告Bの負担は毎月2万円程度にすぎないから,該当する事実に基づき納 付することができないとはいえないので,同項2号にも該当しない。ウ 原告Cについて
原告Cは,リース料の高額化,単価の切下げ,生活状況,事業資金等の返済等の 事情を主張するが,原告Cに対する処分当時,処分行政庁に提出された書面のみで は,数値的に著しい損失あるいはこれに類する事実を認めるに足りる客観的な資料 があるとはいえない。本件訴訟において,原告Cが主張する売上金額も,帳簿書類 等の客観的な裏付けがなく,正確なものであるかは不明である。また,仮に原告Cが本件訴訟に至ってはじめて主張した内容を前提としても,原 告Cの調査期間の売上金額は2160万9756円,基準期間の売上金額は209 8万8725円であり,その余の事情を考慮しても原告Cにおいて著しい損失ある いはこれに類する事実があったと認めることはできないから,原告Cの主張は失当 である。エ 原告Dについて
原告Dは,固定化した仕入価格,大規模小売店舗との競争激化,生活状況,事業 資金等の返済等の事情を主張するが,原告Dに対する処分当時,処分行政庁に提出 された書面のみでは,数値的に著しい損失あるいはこれに類する事実を認めるに足 りる客観的な資料があるとはいえない。原告Dが主張する売上金額も,帳簿書類等 の客観的な裏付けがなく,正確なものであるかは不明である。また,仮に原告Dが本件訴訟に至ってはじめて主張した内容を前提としても,原 告Dの調査期間の売上金額は2424万3320円,基準期間の売上金額は248 2万7818円であり,その余の事情を考慮しても原告Dにおいて著しい損失ある いはこれに類する事実があったと認めることはできないから,原告Dの主張は失当 である。(3) 本件各処分が適法であること
以上によれば,処分行政庁が本件各処分をするに当たり,その裁量権の範囲を逸 脱し又はこれを濫用したと認め得る事情が存しないことは明らかであり,本件各処 分は適法である。(原告らの主張)
(1) 通則法46条2項4号及び5号の解釈
ア 通則法46条2項4号に関する猶予取扱要領第2章第1節1(3)ニ(イ)は,納税猶予の要件として「調査期間の損益計算において,基準期間の利益金額の2分 の1を超えて損失が生じている」という数値的な基準を設けているが,このような 画一的な基準を設けることは,行政裁量の余地を封じ,納税者の実情にかんがみた 柔軟な納税猶予制度の運用を妨げるものであるから,通則法の規定の趣旨に反する ものである。イ 仮に,通則法46条2項4号に関する猶予取扱要領が,通則法の規定の趣旨 に反するものでないとしても,同号にいう「損失」とは,損益計算において損失が 生じていることを前提とする概念ではなく,基準期間と調査期間の「特前所得」 (特別控除前所得。原告らが,純粋な利益の目安となる金額として主張する金額で あり,事業専従者給与控除額及び青色申告特別控除額を控除する前の所得金額のこ とをいう。以下同じ。)の比較において,基準期間の「特前所得」から調査期間の 「特前所得」が減少していることと解すべきである。したがって,猶予取扱要領第 2章第1節1(3)ニ(イ)本文は,基準期間の「特前所得」から調査期間の「特前所 得」への減少幅が基準期間の「特前所得」の2分の1を超える場合のことをいい, 同括弧書きは,基準期間前1年間の「特前所得」から基準期間の「特前所得」が減 少している場合であって,その減少幅よりも,基準期間の「特前所得」から調査期 間の「特前所得」への減少幅が大きい場合のことをいうものである。もし,同号に いう「損失」とは損益計算において損失が生じていることであると解するならば, 所得税の納税については,同号はおよそ適用されないこととなり,不当である。ウ また,通則法46条2項5号に関する猶予取扱要領は,納税者の実情にかんがみて個別具体的に妥当な納税猶予の判断を可能にするよう解釈すべきである。す なわち,猶予取扱要領は,同号につき,同項4号該当事実のような数値的基準を明 示しておらず,「従前に比べ」として,「直前の1年間」のような年限の限定をし ていないことからすれば,同項5号該当事実の判断に当たっては,売上げ又は利益 の減少について,その減少の程度や期間にある程度の幅をもって判断すべきである。(2) 原告らが納税の猶予の要件に該当していること
ア 原告Aについて
(ア) 原告Aの平成17年の「特前所得」は,461万6560円であり,平成16年の「特前所得」511万6000円より49万9440円減少しており,平成 16年は,その前年である平成15年の「特前所得」521万5000円より9万 9000円減少しているから,猶予取扱要領第2章第1節1(3)ニ(イ)の「基準期 間において損失が生じている場合は,調査期間の損失金額が基準期間の損失金額を 超えているとき」に当たり,通則法46条2項4号に該当する。(イ) 原告Aは,平成17年に初めて消費税の納税義務者となったのであり,従前 から納税義務者であった者を前提としている猶予取扱要領に従って判断すべきでは ない。原告Aの平成17年の売上金額2074万1550円は,平成16年の売上金額 2450万7340円から400万円近く減少しており,平成12年の売上金額2 971万1360円及び平成13年の売上金額2815万9870円と比べれば更 に減少しており,「特前所得」も最も高額であった平成14年の「特前所得」53 8万8000円と比べて平成17年は減少しているのであるから,原告Aは,ある 程度の期間でみれば,売上げや利益が大きく減少している。また,その原因は,競 合店の進出による競争激化や飲酒運転の取締り強化に伴う酒類の売上げ低下による ものであって,やむを得ないものである。そうすると,原告Aには,「事業の休廃 止又は事業上の著しい損失に類する事実があった」というべきであり,通則法46 条2項5号に該当する。(ウ) 原告Aは,売上げと利益が減少したこと及び生活状況の困窮を主張して納税 の猶予を申請しており,納税の猶予の申請時に津島税務署の担当者から具体的な資 料の提出を求められておらず,本件訴訟に至って補充的な資料を提出したのであり, 処分時までにすべき主張立証は尽くしている。イ 原告Bについて
(ア) 原告Bは,平成13年から平成16年までは消費税の納税義務者ではなかっ たのであり,従前から納税義務者であった者を前提としている猶予取扱要領に従っ て判断すべきではない。原告Bの平成17年の売上金額1036万6629円は,平成13年の売上金額 1400万8400円及び平成15年の売上金額1445万8699円と比べて大 きく減少しており(なお,平成16年の売上金額は831万1618円である。), 「特前所得」も平成15年の「特前所得」582万5000円と比べて,平成17 年の「特前所得」341万5259円は半分程度にまで減少しているのであるから, 原告Bは,ある程度の期間でみれば,売上げや利益が大きく減少している。また, その原因は,大口の取引先からの受注の減少によるものであって,やむを得ないも のである。そうすると,原告Bには,「事業の休廃止又は事業上の著しい損失に類 する事実があった」というべきである。さらに,原告Bは,10年くらい前から糖 尿病にり患しており,原告Bの兄は,4,5年前に○を患い,介護が必要な状態で あるので,通則法46条2項2号に該当する。仮に該当しないとしても,同号類似 として,同項5号に該当する。(イ) 原告Bは,売上げと利益が減少したこと及び生活状況の困窮を主張して納税 の猶予を申請しており,納税の猶予の申請時に津島税務署の担当者から具体的な資 料の提出を求められておらず,本件訴訟に至って補充的な資料を提出したのであり, 処分時までにすべき主張立証は尽くしている。被告は,原告Bの申請時に原告B及 び兄の病気の事情を主張していなかったとして通則法46条2項2号該当性は問題 にならないとするが,処分行政庁は,申請書に記載された理由に拘束されず,納税者の実情を十分調査して猶予の要件に該当するか否かを判断すべきである。ウ 原告Cについて
(ア) 原告Cは,平成17年に初めて消費税の納税義務者となったのであり,従前から納税義務者であった者を前提としている猶予取扱要領に従って判断すべきでは ない。原告Cの平成17年の「特前所得」465万1980円は,平成14年の「特前 所得」610万3038円と比べて,3分の2程度まで減少しているのであるから, 原告Cは,ある程度の期間でみれば,利益が大きく減少している(なお,平成17 年の売上金額は2180万0024円,平成16年の売上金額は2004万603 8円である。)。また,その原因は,機械のリース料の高額化や加工単価の切下げ を余儀なくされたことによるものであって,やむを得ないものである。そうすると, 原告Cには,「事業の休廃止又は事業上の著しい損失に類する事実があった」とい うべきであり,通則法46条2項5号に該当する。(イ) 原告Cは,利益が減少したこと及び受注の減少を主張して納税の猶予を申請 しており,納税の猶予の申請時に津島税務署の担当者から具体的な資料の提出を求 められておらず,本件訴訟に至って補充的な資料を提出したのであり,処分時まで にすべき主張立証は尽くしている。エ 原告Dについて
(ア) 原告Dは,平成16年は消費税の納税義務者ではなかったが,平成17年に 消費税の納税義務者となったのであり,従前から納税義務者であった者を前提とし ている猶予取扱要領に従って判断すべきではない。原告Dの平成17年の売上金額2544万6967円は,平成12年の売上金額 3544万1761円及び平成13年の売上金額3372万4997円と比べて1 000万円前後減少しており(なお,平成16年の売上金額は2571万6813 円である。),「特前所得」も,最も高額であった平成13年の「特前所得」54 0万6415円と比べて,平成17年の「特前所得」315万6853円は半分程度にまで減少しているのであるから,原告Dは,ある程度の期間でみれば,売上げ や利益が大きく減少している。また,その原因は,仕入価格が高いことや大規模小 売店との競争激化によるものであって,やむを得ないものである。そうすると,原 告Dには,「事業の休廃止又は事業上の著しい損失に類する事実があった」という べきであり,通則法46条2項5号に該当する。(イ) 原告Dは,売上げと利益が減少したこと及び大型店との競合や値引きを主張 して納税の猶予を申請しており,納税の猶予の申請時に津島税務署の担当者から具 体的な資料の提出を求められておらず,本件訴訟に至って補充的な資料を提出した のであり,処分時までにすべき主張立証は尽くしている。(3) 本件各処分が処分行政庁の裁量権の範囲を逸脱し違法であること税務署長は,納税の猶予をするか否かの裁量権を有するが,それは自由裁量では なく,通則法46条が納税の猶予の制度を規定した趣旨にかんがみれば,猶予該当 事実が存在すれば,特段の事情のない限り納税の猶予を認めるべき義務がある。税 務署長が,納税の猶予をするべき場合に該当するにもかかわらず,猶予を認めない 場合は,裁量権の範囲を超え,違法となる。本件において,処分行政庁は,原告らに対し納税の猶予をすべきであったにもか かわらず,その猶予を認めない本件各処分をしたのであるから,裁量権の範囲を逸 脱した違法がある。第3 当裁判所の判断
1 税務署長等の納税の猶予の許否の判断について
(1) 税務署長等の裁量権について 通則法46条2項の規定する納税の猶予の制度は,納税者がその財産につき災害を受けたこと等により,国税を一時に納付することができないと認められる場合に おいて,その納付することができないと認められる金額を限度として,納税者の申 請に基づき,1年以内の期間に限り,その国税の一部又は全部の納税を猶予すると いう納税者の救済のための例外的な制度である。このような制度の趣旨や納税の猶予の要件等に関する同項の規定内容にかんがみれば,同項は,納税の猶予の申請を した納税者について,同項所定の要件の該当性を判断し,納税の猶予を許可するか 否かを,税務署長等の裁量的判断にゆだねているものと解するのが相当である。し たがって,納税の猶予を許可しない処分が違法と評価されるのは,当該処分をした 税務署長等の判断に,裁量権の範囲の逸脱又は濫用があると認められる場合に限ら れるというべきである。(2) 猶予取扱要領の定めについて
前示のとおり,納税の猶予の許否については,税務署長等の裁量的判断にゆだね られているものであるが,納税者間の負担の公平を図り,税務行政の適正妥当な執 行を確保するためには,一定の基準ないし運用方針に基づいて,納税の猶予の許否 の判断がされることは望ましいことであり,猶予取扱要領は,そのような趣旨の下 に定められたものと解される。そして,こうした猶予取扱要領が定められた趣旨に かんがみれば,猶予取扱要領の定めが合理性を有するものである場合には,納税の 猶予の許否に関する税務署長等の判断がその定めに従ってされたものであるか又は その定めに照らして相当なものであると認められる限り,当該税務署長等の判断は, 裁量権の範囲の逸脱又は濫用があるとの評価を受けることはないものと解するのが 相当である。そこで,まず,本件で問題となる通則法46条2項4号及び5号(4号類似)該 当事実の判断についての猶予取扱要領の定めをみることとする。ア 通則法46条2項4号該当事実の判断について
(ア) 猶予取扱要領第2章第1節1(3)ニ(イ)は,通則法46条2項4号にいう 「事業につき著しい損失を受けた」とは,調査期間の損益計算において,調査期間 の直前1年間である基準期間の利益金額の2分の1を超えて損失が生じていると認 められる場合(基準期間において損失が生じている場合には,調査期間の損失金額 が基準期間の損失金額を超えているとき。)をいうものとする旨定めている。同項 の納税の猶予の制度が納税者に対する例外的な救済措置であることや,同項4号が単なる損失ではなく「著しい損失」と限定していることに加え,同項5号が「前各 号の一に該当する事実に類する事実」と規定しており,同項1号ないし4号に該当 しない場合でも同項5号に該当する余地が残されていることを考慮すれば,猶予取 扱要領が上記のような数値的な基準をもって同項4号該当性を判断することとして いることは,合理性を有するものということができる。(イ) 原告らは,猶予取扱要領が上記のような数値的に画一的な基準を設けている ことは,通則法の規定の趣旨に反する旨主張する。しかしながら,納税者間の負担 の公平を図るためには,画一的な基準を定めることはやむを得ないことであり,通 則法46条2項4号に該当しない場合であっても,同項5号に該当するものとして 納税の猶予が認められる余地が残されていることを考えれば,猶予取扱要領の上記 の定めが通則法の規定の趣旨に反するものということはできない。また,原告らは,通則法46条2項4号にいう「損失」とは,損益計算において 損失が生じていることを前提とする概念ではなく,基準期間と調査期間の「特前所 得」の比較において,基準期間の「特前所得」から調査期間の「特前所得」が減少 していることと解すべきであると主張する。しかしながら,「事業につき著しい損 失を受けた」という同号の文言からみて,同号にいう「損失」が前年と比較したと きの利益の減少を意味すると解するのは困難であり,原告らの主張は採用すること ができない。なお,原告らは,同号の「損失」を損益計算において損失が生じてい ることであると解するならば,所得税の納税にはおよそ同号が適用されないことと なり不当であると主張するが,同項は国税一般についての納税の猶予の要件等を定 めたものであって,そのうち4号の規定が所得税の納税について適用の余地がない からといって,そのことは何ら不当なことではない。イ 通則法46条2項5号該当事実の判断について
(ア) 猶予取扱要領第2章第1節1(3)ヘは,通則法46条2項5号該当事実のう ち,同項3号又は4号該当事実に類する事実,すなわち,「事業の休廃止又は事業 上の著しい損失に類する事実」とは,「おおむね次に掲げる事実をいう」として,(イ)「納税者の経営する事業に労働争議があり,事業を継続できなかったこと」, (ロ)「事業は継続していたが,交通,運輸若しくは通信機関の労働争議又は道路 工事若しくは区画整理等による通行路の変更等により,売上減少等の影響を受けた こと」,(ハ)「下請企業である納税者が,親会社からの発注の減少等の影響を受 けたこと,その他納税者が市場の悪化等その責めに帰すことができないやむを得な い事由により,従前に比べ事業の操業度の低下又は売上の減少等の影響を受けたこ と」,(ニ)「納税者がやむを得ない理由により著しい損失(事業に関するものを 除く。)を受けたこと」の各事実を掲げている。これらの事実は,いずれも同項3 号又は4号該当事実に類する事実と評価することができるものであり,猶予取扱要 領の上記の定めは,内容的に相当なものであって合理性を有するものである。(イ) 猶予取扱要領第2章第1節1(3)ヘ(ロ)及び(ハ)には,上記のとおり, 納税者が売上げの減少の影響を受けたことが掲げられているが,これらは,「事業 の休廃止又は事業上の著しい損失に類する事実」として掲げられたものなのである から,そこでいう「売上げの減少」とは,単に従前に比べて売上げが減少したとい うだけでは足りず,事業の休廃止若しくは事業上の著しい損失があったのと同視で きるか又はこれに準ずるような重大な売上げの減少があったことをいうものと解す るのが相当である。また,このような売上げの減少があったか否かは,事柄の性質上,一定の期間を 設けて判断するのが相当であるところ,猶予取扱要領が「事業につき著しい損失を 受けた」といえるかどうかを判断する際に用いている調査期間(納税の猶予の始期 の前日前1年間)及び基準期間(調査期間の直前の1年間)という期間設定の方法 は,上記のような売上げの減少があったか否かを判断する上でも適切なものであり, 基本的には,これによって判断するのが相当である。以上の点に関し,原告らは,猶予取扱要領が,通則法46条2項5号該当事実に ついて,同項4号該当事実のような数値的な基準を明示していないことなどから, 売上げの減少の程度や判断の期間につきある程度の幅をもって判断すべきである旨主張する。しかしながら,原告らの主張が,売上げの減少の程度について,事業の 休廃止若しくは事業上の著しい損失があったのと同視できるか又はこれに準ずるよ うな重大なものでなくとも,同項5号該当事実に当たるとする趣旨のものであるな らば,そのような主張は採用することができない。また,上記のような売上げの減 少があったか否かを判断する期間は,前述のとおり,基本的には猶予取扱要領が用 いている調査期間及び基準期間によるのが相当であり,これによらずに任意の期間 設定を認めることは,納税者の恣意的な期間設定を許す結果となり,納税者間の公 平を害するものとして妥当でないというべきである。2 原告ら各自についての検討
以上のことを前提に,原告ら各自について,納税の猶予の要件に該当する事実が 存するか否かなどを検討する。なお,本件で検討すべき調査期間は,原告C及び原告Dについては,納税の猶予 の申請書において,納税の猶予の始期を平成18年4月1日としているため(乙C 3,乙D3),平成17年4月1日から平成18年3月31日までである。また, 原告Aについては,納税の猶予の申請書において納税の猶予の始期を記載しておら ず(乙A3),原告Bについては,納税の猶予の申請書において納税の猶予の始期 を平成18年5月31日と記載しているが(乙B3),原告A及び原告Bが納税の 猶予を申請した平成17年課税期間分の消費税及び地方消費税の納期限が平成18 年3月31日であることからすれば,原告A及び原告Bにおいても同年4月1日か ら納税の猶予を受けようとしたものであると解される。そうすると,原告らの調査 期間は,いずれも平成17年4月1日から平成18年3月31日までとなるから, 原告らが主張する平成17年の売上金額と,原告らが主張する事実関係を前提とし て計算した場合の調査期間の売上金額との間に差異が生じ,原告らが主張する平成 17年の「特前所得」は,原告らが主張する事実関係を前提として計算した場合の 調査期間の「特前所得」と一致しないことになるが,原告らは,調査期間の売上金 額及び「特前所得」を主張しないので,以下の検討においては,原告らの主張する金額を前提としつつ,調査期間の売上金額についても検討することとする。(1) 原告Aについて
ア 原告Aの主張によると,原告Aの平成17年の「特前所得」は461万6560円であるというのであるから,平成17年において原告の事業につき損失は発 生しておらず,原告Aの主張する事実関係を前提としても,原告Aについて,通則 法46条2項4号に該当する事実が存しないことは明らかである。イ また,原告Aの主張によると,原告Aの平成17年の売上金額は2074万 1550円であり,平成16年の売上金額は2450万7340円であるから,平 成17年において売上金額は376万5790円減少していることになるが,これ は,売上げが前年比約15.4%減少したというにとどまる。原告Aの売上票(甲 A11の4,5)記載の平成16年4月から平成17年12月までの各月別の売上 金額及び原告Aが処分行政庁に提出した書面(乙A8)記載の平成18年1月から 同年3月までの各月別の売上金額に基づいて計算すると,原告Aの調査期間の売上 金額は2102万9560円であり,その前1年間(基準期間)の売上金額は23 56万2200円であるから,調査期間における売上金額の減少は253万264 0円,減少率も約10.7%にすぎない。そうすると,原告Aの主張する事実関係を前提としても,平成17年及び調査期 間において,事業の休廃止若しくは事業上の著しい損失があったのと同視できるか 又はこれに準ずるような重大な売上げの減少があったということはできず,原告A が同年に初めて消費税の納税義務者になったことなど原告Aの主張するその余の事 情を考慮しても,原告Aについて,通則法46条2項5号(4号類似)に該当する 事実が認められないとした処分行政庁の判断は,猶予取扱要領の定めに照らし,相 当なものということができる。(2) 原告Bについて
ア 原告Bの主張によると,原告Bの平成17年の売上金額は1036万662 9円であり,平成16年の売上金額は831万1618円であるから,平成17年において売上げが増加していることは明らかである。原告Bの売上金額入金一覧表 (甲B7の4ないし6)記載の平成16年4月から平成18年3月までの各月別の 売上金額に基づいて計算すると,原告Bの調査期間の売上金額は957万1493 円であり,その前1年間の売上金額は818万5170円であるから,調査期間に おいて売上げは増加している。そうすると,原告Bの主張する事実関係を前提としても,平成17年及び調査期 間において,事業の休廃止若しくは事業上の著しい損失があったのと同視できるか 又はこれに準ずるような重大な売上げの減少があったということはできず,原告B が平成13年から平成16年まで消費税の納税義務者ではなかったことなど原告B の主張するその余の事情を考慮しても,原告Bについて,通則法46条2項5号 (4号類似)に該当する事実が認められないとした処分行政庁の判断は,猶予取扱 要領の定めに照らし,相当なものということができる。イ 原告Bは,本件訴訟において,原告B及び兄の病気を挙げて通則法46条2 項2号に該当する事実があると主張する。しかしながら,原告Bに対する処分がされるまでに,原告Bから処分行政庁に対 し通則法46条2項2号又は同号類似により同項5号に該当する旨の主張がされた 事実は認められない。同項の規定による納税の猶予を受けようとする者は,当該猶 予を受けようとする理由等を記載した申請書を税務署長等に提出しなければならず (国税通則法施行令15条2項),税務署長等は,納税の猶予を受けようとする者 が主張しなかった猶予該当事実を職権で調査すべき義務を負うものではないから, 原告Bの主張に係る事実の有無は,原告Bに対する処分の違法事由となるものでは ない。原告Bの主張は失当である。(3) 原告Cについて
原告Cの主張によると,原告Cの平成17年の売上金額は2180万0024円 であり,平成16年の売上金額は2004万6038円であるから,平成17年に おいて売上げが増加していることは明らかである。原告Cが処分行政庁に対し提出した書面(乙C8)記載の平成18年1月から同年3月までの各月別の売上金額並 びに原告Cの平成16年分及び平成17年分の所得税青色申告決算書(乙C13, 14)記載の平成16年4月から平成17年12月までの各月別の売上金額に基づ いて計算すると,原告Cの調査期間の売上金額は2160万9756円であり,そ の前1年間の売上金額は2098万8725円であるから,調査期間において売上 げは増加している。そうすると,原告Cの主張する事実関係を前提としても,平成17年及び調査期 間において,事業の休廃止若しくは事業上の著しい損失があったのと同視できるか 又はこれに準ずるような重大な売上げの減少があったということはできず,原告C が同年に初めて消費税の納税義務者となったことなど原告Cの主張するその余の事 情を考慮しても,原告Cについて,通則法46条2項5号(4号類似)に該当する 事実が認められないとした処分行政庁の判断は,猶予取扱要領の定めに照らし,相 当なものということができる。(4) 原告Dについて
原告Dの主張によると,原告Dの平成17年の売上金額は2544万6967円 であり,平成16年の売上金額は2571万6813円であるから,平成17年に おいて売上金額は26万9846円減少していることになるが,これは,売上げが 前年比約1.0%減少したというにとどまる。原告Dが処分行政庁に提出した書面 (乙D8)記載の平成18年1月から同年3月までの各月別の売上金額並びに原告 Dの平成16年分及び平成17年分の所得税青色申告決算書(乙D14,15)記 載の平成16年4月から平成17年12月までの各月別の売上金額に基づいて計算 すると,原告Dの調査期間の売上金額は2424万3320円であり,その前1年 間の売上は2482万7818円であるから,調査期間における売上げの減少は5 8万4498円,減少率も約2.4%にすぎない。そうすると,原告Dの主張する事実関係を前提としても,平成17年及び調査期 間において,事業の休廃止若しくは事業上の著しい損失があったのと同視できるか又はこれに準ずるような重大な売上げの減少があったということはできず,原告D が平成16年には消費税の納税義務者でなかったが平成17年にはその納税義務者 になったことなど原告Dの主張するその余の事情を考慮しても,原告Dについて, 通則法46条2項5号(4号類似)に該当する事実が認められないとした処分行政 庁の判断は,猶予取扱要領の定めに照らし,相当なものということができる。3 結論
以上によれば,原告らについて納税の猶予を許可しないとした処分行政庁の判断 に裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した違法があるということはできないから, 本件各処分は適法と認められる。よって,原告らの請求はいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとお り判決する。名古屋地方裁判所民事第9部
裁判長裁判官増田 稔
裁判官 前田郁勝
裁判官 杉浦一輝
(別紙)
関係法令等
1 国税通則法
46条2項 税務署長等は,次の各号の一に該当する事実がある場合(前項の規定の適用を受ける場合を除く。)において,その該当する事実に基づ き,納税者がその国税を一時に納付することができないと認められる ときは,その納付することができないと認められる金額を限度として, 納税者の申請に基づき,1年以内の期間を限り,その納税を猶予する ことができる。前項の規定による納税の猶予をした場合において,同 項の災害を受けたことにより,その猶予期間内に猶予をした金額を納 付することができないと認めるときも,また同様とする。1号 納税者がその財産につき,震災,風水害,落雷,火災その他の災 害を受け,又は盗難にかかつたこと。2号 納税者又はその者と生計を一にする親族が病気にかかり,又は負 傷したこと。3号 納税者がその事業を廃止し,又は休止したこと。
4号 納税者がその事業につき著しい損失を受けたこと。
 5号 前各号の一に該当する事実に類する事実があつたこと。2 国税通則法施行令
15条2項 法第46条第2項又は第3項の規定による納税の猶予を受けようとする者は,次に掲げる事項を記載した申請書を国税局長,税務署長又は税関長に提出しなければならない。
1号 前項第1号,第2号及び第4号に掲げる事項
2号 当該猶予を受けようとする理由
3号 分割納付の方法により当該猶予を受けようとする場合には,その分割金額及び当該金額ごとの猶予期間
4号 猶予を受けようとする金額が50万円を超える場合には,提供しようとする法第50条各号(担保の種類)に掲げる担保の種類,数 量,価額及び所在(その担保が保証人の保証であるときは,保証人 の氏名及び住所又は居所)その他担保に関し参考となるべき事項 (担保を提供することができない特別の事情があるときは,その事 情)5号 法第46条第3項の申請をやむを得ない理由によりその国税の納 期限後にする場合には,その理由3 昭和51年6月3日付け徴徴3-2,徴管2-32「納税の猶予等の取扱要領 の制定について」第2章第1節1 納税の猶予の要件
(1) 要件
通常の納税の猶予を認めることができるのは,次に掲げる要件のすべてに該当 する場合である。イ 納税者に猶予該当事実があること。
ロ 猶予該当事実に基づき,納税者がその納付すべき国税を一時に納付することができないと認められること。
ハ 納税者から納税の猶予の申請書が提出されていること。
ニ 相当な損失を受けた場合の納税の猶予の適用を受ける場合でないこと。
 ホ 原則として,納税の猶予の申請に係る国税の額に相当する担保の提供があること。 (2) (省略)
(3) 猶予該当事実 「猶予該当事実」とは,次に掲げる事実をいう。イ (省略)
ロ (省略)
ハ (省略)
ニ 納税者がその事業につき著しい損失を受けたこと(通則法第46条第2項第4号)。
(イ) 「事業につき著しい損失を受けた」とは調査日(納税の猶予の始期の前日をいう。以下この節において同じ。)前1年間(以下この項におい て「調査期間」という。)の損益計算において,調査期間の直前の1年 間(以下この項において「基準期間」という。)の利益金額の2分の1 を超えて損失が生じていると認められる場合(基準期間において損失が 生じている場合には,調査期間の損失金額が基準期間の損失金額を超え ているとき。)をいうものとする。なお,調査期間以内において,例えば,購入予定の資材の高騰,在庫 商品の価額の下落,取引先の都合による売買契約の解除等の損失発生の 原因となるような事実(季節変動等による恒常的なものを除く。以下こ の項において「損失原因」という。)があり,当該事実の発生した日 (損失原因が継続的に発生していたような場合には,最初にその事実が 生じたと認められる日)の特定ができる場合には,その日以降調査日ま での間に生じたと認められる損失金額と基準期間の利益金額(損失が生 じている場合には,損失金額)のうち損失原因の生じた日以降調査日ま での期間に対応する期間の利益金額(又は損失金額)とを比較して上記 の判定を行っても差支えない。(注) 猶予期間の始期については,この節3の(1)《猶予期間》を参照す る。(ロ) (イ)に該当するかどうかの判定に当っては,調査期間及び基準期間の それぞれについて仮決算を行うこととなるが,調査日又は基準期間の末日に近接した時期において特定の損益計算期間が終了している場合には, その期間の損益計算の結果を基に,前記の利益金額又は損失金額を推計 して差支えない。なお,納税者が帳簿等を備えていない場合又は帳簿等による調査が困 難である場合には,納税者からの聞き取りを中心にする等その状況に応 じ,妥当と認められる方法により利益金額又は損失金額を算定して差支 えない。(ハ) (イ)及び(ロ)の損失の認定に当って,徴収上弊害があると認められる ときは,資金計算上の立場から所要の調整を行っても差支えない。ホ (省略)
ヘ 納税者に事業の休廃止又は事業上の著しい損失に類する事実があったこと(通則法第46条第2項第5号(第3号又は第4号類似))。
 「事業の休廃止又は事業上の著しい損失に類する事実」とは,おおむね次に掲げる事実をいう(通則法基本通達第46条関係12の(2)参照)。 (イ) 納税者の経営する事業に労働争議があり,事業を継続できなかったこと。
(ロ) 事業は継続していたが,交通,運輸若しくは通信機関の労働争議又は道路工事若しくは区画整理等による通行路の変更等により,売上減少等の影響を受けたこと。
(ハ) 下請企業である納税者が,親会社からの発注の減少等の影響を受けたこと,その他納税者が市場の悪化等その責めに帰すことができないやむ を得ない事由により,従前に比べ事業の操業度の低下又は売上の減少等 の影響を受けたこと。(ニ) 納税者がやむを得ない理由により著しい損失(事業に関するものを除 く。)を受けたこと。(4) 猶予該当事実と納付困難との関係
イ 「猶予該当事実に基づき納付することができない」とは,納税者に(3) 《猶予該当事実》に掲げる事実があったことにより,資金の支出又は損失が あり,その資金の支出又は損失のあることが国税を一時に納付することがで きないことの原因となっていることをいう。ロ 「国税を一時に納付することができない」(以下「納付困難」という。) とは,納税者に納付すべき国税の全額を一時に納付する資金がないこと,又 は資金があっても,それによって一時に納付した場合には,納税者の生活の 維持若しくは事業の継続に著しい支障が生ずると認められることをいう。こ の場合において,納付困難であるかどうかは,第7章第2節《現在納付能力 調査》に定める現在納付能力調査に基づいて判定する。(5) 納税の猶予の申請 納税者が納税の猶予を受けようとする場合には,所要の事項を記載した納税の猶予申請書(様式1)を税務署長(国税局長及び沖縄国税事務所長を含む。
 以下同じ。)に提出しなければならない(通則法第46条第2項,通則令第1 5条第2項)。(注) 通常の納税の猶予の申請期限,納税の猶予の申請書に記載すべき事項及び添付書類については,第4章第1節《猶予許可等に関する事務手続》に定めるところによる。 (以下省略)
第2章第1節3 納税の猶予をする期間 (1) 猶予期間
納税の猶予をする期間は,1年以内で,納税の猶予の対象となる国税を納付 することができると認められる最短期間とする(通則法基本通達第46条関係 7)。この場合における猶予期間の始期は,納税の猶予の申請書に記載された 日とする。ただし,その日を不適当と認めるときは,別にその始期を指定する ことができるものとする(通則法基本通達第46条関係8)。なお,具体的な猶予期間及び猶予期間中における毎月の納付予定金額等につ いては,第7章第3節《見込納付能力調査》に定める見込納付能力調査の結果 を基に定めるものとする。(注) 猶予期間の始期は,猶予該当事実が生じた日前にさかのぼることができないことに留意する。
 (以下省略)
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