21む1338
千葉地裁 平成21・8・28
316条の20第1項 棄却
主文
本件証拠開示命令請求を棄却する。
理由
1 本件請求の趣旨及び理由は同日付け証拠開示についての裁定請求書記載のとおりである からこれを引用する(なお,本件請求において,被害者の主治医の住居等同医師らの純粋な 個人情報に関する部分は,開示を求める対象とはされていない。)。2 本件は,被告人が妻である被害者を殺害した事案であるところ,弁護人は公訴事実につい ては争わず,重要な情状事実である犯行動機形成に至る事情として,精神疾患の疑いのある 被害者に対し,被告人が長年にわたって献身的に接してきたことを主張し,被告人と被害者 の生活歴及び関係性を具体的に立証する予定である。そして,弁護人が開示を求める証拠 は,被害者の主治医の供述調書及び被害者の症状等に関して被害者の主治医から聴取した 内容をまとめた捜査報告書であって,非開示部分は,主治医らの被害者に対する問診の結果 等を内容とするものである。したがって,当該非開示部分は,被害者自身の医師に対する申 告に基 づくものであるから,被告人と被害者の生活歴及び関係性を裏付ける証拠であって,前記弁 護人の予定主張と関連する証拠であることは否定できない。しかしながら,前記弁護人の予 定主張についての直接の証拠は被告人の供述であるところ,検察官は同主張について積極 的に争うことを予定していないのであるから,被告人供述以外の証拠をもって被告人の供 述を補強し,あるいはこれに反する証拠を弾劾する必要性は低いというべきである。加え て,弁護人の立証に供しうる証拠が既に検察官から任意に開示されているほか,弁護人自身 も多くの証拠を収集し,その請求に至っており,弁護人の予定主張を裏付ける証拠は十分に 存在するものと考えられる。したがって,被告人の防御の準備の点から本件開示を認める必 要性は乏しいといわざるを得ない。これに対し,弁護人が開示を求める証拠は,前記のとお り,いずれも主治医らの被害者に対する問診内容等であるところ,被害者は,同医師らに対 し,当然に自己の秘密が守られるものと信頼して問診に応じたのであり,同医師らは,同問診 内容等について,捜査のため必要であり,その内容がみだりに公開されないとの前提で捜査 機関に協力したものと考えられる。そうすると,これが広く公開の法廷において取り調べら れることを前提に必要な限度を超えて開示されるならば,一般国民の精神科医師に対する 信頼を損い,精神科医師による患者の問診が困難となるとともに,医師がそのような事態を 危倶し,捜査機関に協力することを躊躇するといった弊害が発生する蓋然性は無視するこ とができない。なお,被害者の主要な遺族が被害者の病状に関する捜査資料一切を裁判に提 出するよう要請書を提出しているが,開示について遺族の同意があったとしても前記弊害 を払拭できるものではない。したがって,本件開示命令請求にかかる証拠を開示する必要性 は乏しいのに対し,開示することによる弊害は無視することができないから,これを開示す ることは相当であるとは認められない。3 よって,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官・渡英敬,裁判官・村川主和,裁判官飯島英貴)
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