平成21年3月26日宣告 平成19年(わ)第331号 関税法違反被告事件主文 被告人A1株式会社を罰金2億5000万円に,被告人A2を懲役2年4月及び罰金1500万円に処する。
 被告人A2に対し,未決勾留日数中110日をその懲役刑に算入する。 被告人A2においてその罰金を完納することができないときは,金5万円 を1日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。 訴訟費用は被告人両名の連帯負担とする。理由
(罪となるべき事実) 被告人A1株式会社(以下「被告会社」という。)は,食肉の輸入販売等を営むもの,被告人A2(以下,単に「被告人」という。)は,被告会社の代表取締役と して同社の業務を統括しているものであるが,被告人は,被告会社の業務に関し, 被告会社がB株式会社名義を用いてデンマーク王国から外国産冷凍豚部分肉を輸入 するに当たり,不正に関税を免れようと企て,別紙一覧表記載のとおり,平成16 年1月26日から平成17年2月7日までの間,前後823回にわたり,大阪市此 花区桜島3丁目8番18号所在の大阪税関桜島出張所ほか3か所において,同出張 所長らに対し,情を知らない通関業者の従業員を介し,被告会社が輸入する同冷凍 豚部分肉の正当な課税価格は合計71億1427万1755円であり,納付すべき 関税額は合計65億2424万4300円であったにもかかわらず,課税価格が合 計130億8706万2033円であり,関税額が合計5億6268万4900円 である旨の内容虚偽の輸入申告をして,その都度,大阪税関桜島出張所長らから同 冷凍豚部分肉の輸入許可を受けた上,当該貨物を保税地域から引き取り,もって不 正の行為により,納付すべき関税額と申告税額との差額合計59億6155万9400円を免れた。
 (補足説明) 第1 争点
弁護人は,(1)検察官が,被告会社及び被告人を公訴提起したことは,公訴権 の濫用に当たり許されないから,公訴棄却されるべきである,仮に公訴棄却され ない場合であっても,(2)豚肉の差額関税制度が違憲・無効であり,また,(3)被 告会社は豚肉の関税法上の輸入者には当たらず,納税義務を負わないから,被告 人及び被告会社は,いずれも無罪である旨主張するところ,当裁判所は,判示の とおりの事実を認定し,公訴棄却の申立ても理由がないと判断したので,以下, その理由を説明する。第2 争点(2)(豚肉の差額関税制度の憲法適合性)について
 1 弁護人の主張弁護人は,豚肉の差額関税制度は,被告会社の営業の自由及び財産権を不当 に侵害するものであるから,憲法22条1項,29条1項に違反し,違憲無効 であると主張する。そこで,豚肉の差額関税制度の内容についてみた上で,そ の合憲性について検討する。2 豚肉の差額関税制度の内容
(1) 前掲各証拠(以下においては,後記第3の2(2)イを除いて,同証拠内に乙10の不同意部分は含まないものとする。)によれば,以下の事実を認め ることができる。豚肉の差額関税制度は,昭和46年,豚肉等の輸入完全自由化に伴い導入 された制度である。そして,その内容は,課税価格が1キログラムにつき,1従量税適用限度 価格(基準輸入価格から1キログラムあたりの従量税額を控除した価格)以 下のものについては,貨物重量を基準として課する税率(従量税),2従量 税適用限度価格を超え,分岐点価格(基準輸入価格を3の税率に1を加えた数で除して得た価格)以下のものについては,基準輸入価格と課税価格との 差額(差額関税),3分岐点価格を超えるものについては,貨物価格を基準 として課する税率(従価税),となる3つの税率が設けられている。また,関税暫定措置法7条の6において,当該年度における豚肉等の輸入 数量が,あらかじめ財務大臣が告示する数量を超えた場合には,関税の緊急 措置(セーフガード)が執られることが規定されており,セーフガードが発 動された場合には,基準輸入価格,又は,従量税及び従価税の税率が引き上 げられる。(2) したがって,豚肉を輸入しようとする者は,分岐点価格以下で豚肉を調 達しても,基本的には(極めて低額となる従量税適用限度価格以上である限 り),その価格と基準輸入価格との差額が税額となり,輸入豚肉の国内にお ける流通価格が基準輸入価格を下回らないような仕組みとなっている。3 合憲性の検討
(1) 財産権は憲法29条1項により保障されており,営業の自由も憲法22条1項により保障されるものと解される。しかしながら,これら憲法上の権 利も,公共の福祉による制約を受けるのであって,立法により,公共の福祉 を実現するための積極的な社会経済政策の実施の一手段として,個人の経済 活動に対し,一定の合理的な規制措置を講ずることは,憲法が予定し,かつ, 許容するところである。そして,このような社会経済政策を実施する目的の 規制措置については,裁判所は,立法府がその裁量権を逸脱し,当該規制措 置が著しく不合理であることの明白である場合に限って,これを違憲として その効力を否定することができるものと解するのが相当である。(2) そこで検討するに,豚肉の差額関税制度は,豚肉等の輸入が完全自由化 となり,国内養豚農家の保護と輸入促進との相反する課題を調整するために 導入された制度であり(甲2,951,弁866,888),積極的な社会 経済政策を実施する目的の規制であると認められる。この点,弁護人は,制度導入当初は上記のとおりの目的であったといえる が,現在においては,国産豚肉は主にテーブルミート用,輸入豚肉は主に加 工品原料用というように,市場において両者の棲み分けがなされ,また,国 内養豚農家の大規模化が図られた結果,国内養豚農家の保護という立法事実 は実質的に失われており,食品の安全性に対する意識が高まるなどの事情の 変化を背景として,その制度目的は,主として海外から劣悪な豚肉が国内に 流入することを防止することにより,国民の生命及び健康に対する危険を除 去するという消極目的に変容していると主張する。しかしながら,加工品原料としての豚肉の主流がフローズンポークとなっ ていたとしても,国産のチルドポークも加工品原料として使用され得るし, 保存のためにフローズンポークにすることもあること,輸入豚肉の全てがフ ローズンポークに限られているとは認められないこと,大手の量販店等では 国産豚肉と輸入豚肉を同じところに並べて同じように販売していることもあ ること(弁864,888,証人C1,同C2の公判供述)からすれば,現 時点においても,国産豚肉と輸入豚肉は競合する関係にあるものと認められ る。また,国内養豚農家の大規模化が図られた事実があったとしても,その ことから直ちに,国内養豚農家の保護という積極的な社会経済政策を実現す る目的が失われたとは認められない。そして,豚肉の差額関税制度は,食品 としての安全性についての検査等を前提に許可や承認を要求するものではな く,輸入豚肉に関税を賦課するという規制方法をとっていることからしても, 弁護人が主張するような消極目的の規制と考えることはできない。(3) 次に,手段・態様の合理性について検討するに,豚肉の差額関税制度は, 前記のとおり,1輸入する豚肉の価格が低い場合には,基準輸入価格を下回 る部分を関税として徴収し,基準輸入価格以下での豚肉輸入を防ぐことによ って国内養豚農家を保護する一方,2その価格が高い場合には,比較的低率 な従価税を適用することにより,関税の負担を軽減し,消費者の利益を図るという仕組みで,需要者と国内養豚農家の利益のバランスを図るものである ところ,前掲各証拠,弁888によれば,同制度が導入された昭和46年当 時と現在においては,社会経済の状況,国内養豚農家の大規模化,豚肉市場 が枝肉ベースから部分肉ベースへとその取引形態を変化させつつあること等 の養豚業界の変化などがあり,国内の養豚業をめぐる環境等に変化が生じて いることが認められるものの,国内養豚農家を保護する目的を達成するため に,豚肉の輸入について,一定の制限を設けること自体の合理性に変わりは ない。そして,本来的な豚肉の輸入形態ではない,いわゆるコンビネーショ ン輸入(豚肉のうち,高価格部位と低価格部位を組み合わせて輸入し,1回 に輸入する豚肉全体を加重平均した1キログラム当たりの単価を分岐点価格 に近づけた価格で輸入申告し,関税額が低額になるように輸入を行う方法) が常態化しており,実際には輸入豚肉のうちには基準輸入価格以下で流通し ているものがあること,差額関税制度を悪用して輸入申告価格を偽る不正な 行為が多数発覚していること等から,同制度の改廃を求める動向が強まって いること,これを踏まえ,同制度やその運用のあり方について国会等で度々 議論されたものの,結局,これが維持され現在にまで至っていることが認め られる(前掲各証拠,弁862,863,866,888)。さらに,コン ビネーション輸入により豚肉が輸入されたとしても,低価格部位と高価格部 位を組み合わせて輸入することから,全体的に一定の水準の価格が維持され, また,輸入豚肉の高価格部位の需要自体が低価格部位に比べて量的にそれ程 大きくないし,1頭分の豚肉から高価格部位が取れる割合が少ないこと(前 掲各証拠)から,安価な輸入豚肉が,国内に大量に流通することを防ぐ効果 が認められるのであって,国内養豚農家の保護に資することは明らかであり, その一方で,本制度の下においても,豚肉の輸入が一切禁止されているわけ ではないことなどからすると,上記の目的を達成するための手段・態様にお いても,上記の輸入豚肉に係る課税制度が著しく不合理であることが明白であるとは認められない。
(4) この点,弁護人は,種々の事情を挙げ,差額関税制度は,国内養豚農家の保護には何ら実質的に結び付かないなどと主張する。
 確かに,豚肉輸入業者がコンビネーション輸入を行うために,基準輸入価格以下で輸入豚肉が国内に流通しているが,コンビネーション輸入という方 法を用いたとしても,安価な輸入豚肉が,国内に大量に流通することを防ぐ 効果があることは前記のとおりである。また,セーフガードが発動されると, その期間中は,基準輸入価格が上昇し,流通する輸入豚肉の単価も上昇する のであるから,より国内養豚農家の保護に資することになることは明らかで ある。また,弁護人は,基準輸入価格と畜産物の価格安定に関する法律の安定上 位価格との関係について論難するが,本件当時(平成16年1月から平成1 7年2月),通常期の基準輸入価格(正肉ベースで546.53円)は,同 法の安定上位価格(正肉ベースで640円)を下回っている(甲951参照)。 そして,セーフガードが発動された場合には,基準輸入価格(正肉ベースで 681.08円)が安定上位価格を上回るが,そもそも,セーフガードは, 豚肉の輸入量が一定水準を超えて増えたとき,基準輸入価格を上昇させるこ とにより,国内養豚農家の保護を強化する趣旨のものである(証人C1の公 判供述)から,安定上位価格を上回る事態となったとしても,直ちに不合理 であるということはできない。この点,セーフガードの発動が繰り返されて おり,制度が健全に運用されているとはいえない面があることは否定できな いが,このことから直ちに制度自体が著しく不合理であるとして違憲無効と すべき理由になるとはいえない。さらに,現行の差額関税制度の下においても,豚肉を輸入することが著し く困難となっているというわけではないから,直ちにWTO協定に違反する と認めるべきであるということはできない。なお,豚肉の差額関税制度は,部位別に基準輸入価格が設定されていない こともあり,低価格部位を利用して国内でソーセージ等を加工する場合と, ソーセージ等の加工品を輸入する場合で,関税率が著しく異なる結果,海外 に加工工場を持つ大手のハム・ソーセージ会社とその他の国内豚肉加工業者 との間で,事実上,課税額に差が生じていることは確かである。しかしなが ら,部位ごとに関税率を設定した場合には,手続が煩雑化し,部位を偽るな ど新たな不正が生じるおそれも否定できないこと(証人C1の公判供述)か らすると,部位別に基準輸入価格を設定しないことが直ちに不合理であると はいえないし,結果的な課税額の差はあくまでも他の制度との関係で事実上 生じるものに過ぎないのであるから,このことをもって差額関税制度自体が 不合理であるとはいえない。その他,弁護人は種々主張するが,いずれも,差額関税制度が著しく不合 理であることを基礎づける事情とは認められない。4 結論 以上の検討からすると,差額関税制度実施後の時間の経過により,現状の豚肉市場と適合しない面が顕在化してきた部分があり,立法論や制度の運用とし て改善すべき点があるとの主張には首肯できる面もあるものの,本件当時にお いても,豚肉の差額関税制度が,著しく不合理であることが明白であるとは認 めがたく,これが違憲無効であるということはできない。よって,弁護人の主張は採用できない。
第3 争点(3)(被告会社が納税義務者に当たるか)について
1 当事者の主張と関税の納税義務者の意義について 検察官は,本件各豚肉輸入について,輸入申告の名義上は,B株式会社が輸入者となっているが,関係会社の果たした機能や送金の流れ等からすれば,実 質的な輸入者は被告会社であるので,被告会社が関税の納税義務者に当たると 主張するのに対し,弁護人は,被告会社は,貨物についての処分権限を有するものではなく,利益の帰属の点からしても実質的に輸入の効果が帰属する者で はないから,関税の納税義務者には当たらないと主張する。ところで,関税の納税義務者は,関税法6条にいう「貨物を輸入する者」で あるが,財政収入の確保及び国内産業保護という関税制度の目的からすれば, 「貨物を輸入する者」とは,実質的にみて本邦に貨物を引き取って処分する権 限を有している者,すなわち実質的に輸入の効果が帰属する者に関税を課すべ きであるから,このような者が「貨物を輸入する者」に当たると解するのが相 当である。そして,実質的に貨物の輸入の効果が帰属する者に当たるか否かは, 具体的には,輸出者との交渉,信用状の開設などの信用・保証関係,代金の決 済等の輸入手続への関与の仕方,輸入貨物の国内における処分,販売方法の実 態,当該輸入取引による利益の帰属関係等の事情を総合して判断すべきものと 解するのが相当である。そこで,以下,被告会社が「貨物を輸入する者」に該 当するか否かを検討する。2 本件取引に至る経緯と本件取引の状況について
(1) 前掲各証拠によれば,本件取引に関係する会社の概要は以下のとおりと認められる。
 ア 被告会社
被告会社(本店所在地 千葉県柏市ab丁目c番d号)は,平成4年9 月11日に設立された株式会社であり,牛,豚,馬,鶏等の肉及び内臓の 輸出入並びに加工,販売等を目的としており,設立当初は,被告人の甥が 代表取締役を務めていたが,設立後1年以内には,被告人が代表取締役に 就任し,現在に至るまで,被告人が代表取締役を務めている。イ B株式会社
B株式会社(本件当時の本店所在地 東京都港区ef丁目g番h号。以下「B」という。)は,平成14年12月16日に,農水産物,畜産物の 輸出入及び加工販売等を目的に設立された株式会社であり,Dが代表取締役を務めていたが,実質的な経営者は,Eであった。平成17年10月こ ろ被告会社に買収されてからは,被告人が代表取締役を務め,その本店所 在地も,被告会社と同所となっている(甲35ないし37)。ウ F株式会社 F株式会社(以下「F」という。)は,香港を事業所所在地として,平成13年10月24日に設立され,当初は,被告人が代表取締役を務めて いたが,平成16年9月ころからは,被告人に代わり,Gが代表取締役に 就任した。また,同社の設立資金は,被告会社が立て替えていた(甲24, 25)。エ 有限会社H
有限会社H(本店所在地 東京都足立区ij丁目k番l。以下「H」という。)は,平成11年12月24日,牛,豚,鶏等の肉及び内蔵の輸出 入並びに販売等を目的に設立され,代表者には,Gの母であるIが就任し, 取締役にGが就任している(甲55,56)。オ J株式会社
J株式会社(本店所在地 設立当初は被告会社と同じ。現在は千葉県柏市mn丁目o番p号。以下「J」という。)は,平成14年3月20日に, 牛,豚,馬,鶏等の食肉及び内臓の加工,販売並びに輸出入を目的に設立 されたが,平成17年4月以降,その目的に通関事務の代行が含まれるよ うになった。代表取締役は,設立当初から,Kが就任しているが,平成1 5年4月30日から平成16年12月29日まで,被告人が取締役として 就任していた(甲43ないし47)。(2) 本件各取引の概要
ア 前掲各証拠によれば,本件各取引に至るまでの経緯は,以下のとおりであると認めることができる。
(ア) 被告会社は,平成8年か9年ころから,アメリカ産の輸入豚肉の販売を開始したが,その当初は,L株式会社という牛肉輸入の取引先に豚 肉の輸入申告をしてもらい,同社が輸入申告した豚肉を被告会社が買い 取る形をとっていた。しかし,輸入豚肉の輸入元の会社と交渉するのは, 被告人であり,同社との間では,いわゆるコンビネーション輸入と呼ば れる方法で取引をしていた。(イ) 被告会社は,このようにして輸入豚肉を仕入れて販売を行っていた ものの,コンビネーション輸入した豚肉のうち,加工用の低価格部位は 売れていたが,ヒレ肉などの高価格部位については,すべて売り切るこ とができず,大量の在庫を抱え込むようになった。また,ヒレ肉などの 高価格部位は,1頭の豚肉に占める割合が低く,コンビネーションを組 むことにも限界が出てきていた。そこで,被告会社は,輸入豚肉の取扱 いを開始してから,8か月ないし10か月ほどで,コンビネーション輸 入をやめ,加工用の低価格部位の輸入に特化することとした。(ウ) その後,被告会社は,豚肉を輸入してもらう輸入者をL株式会社か ら,被告人が設立したM株式会社(以下「M」という。)に変更した。
 Mは,豚肉を分岐点価格付近で輸入し,その価格に関税,消費税,通関 手数料を加算した価格で,N株式会社(以下「N」という。)に販売し た。そして,被告会社は,豚肉の販売先から受注した価格を基準に,そ れに被告会社に利益が出るような価格で,当該豚肉をNから購入してい た。被告会社がNから購入する価格は,Mが輸入した際の価格よりも安 い価格であり,Nには,恒常的に赤字が計上されて累積する仕組みであ ったが,被告人は,国内の豚肉流通価格が,分岐点価格より低いにもか かわらず,輸入申告価格を分岐点価格付近で行うことから,その差額を 調整することが不可欠であるとして,赤字を引き受ける会社としてNを 取引に介在させていた。多額の赤字を引き受けたNは,その後,多額の 負債を抱えたまま放置されている。(エ) 平成11年ころになると,被告会社は,アメリカ産の豚肉だけでな く,カナダ産及びヨーロッパ産の豚肉も扱うようになり,その過程で, 本件の豚肉取引においてデンマークから豚肉を出荷したパッカーである O社製の豚肉を扱うようになった。ヨーロッパ産のOの豚肉については,当初は,パッカーである同社か ら出荷され,被告人の姪がカナダに設立したP社を輸出者(エクスポー ター)として介し,Hが輸入者(インポーター)となって輸入された上, Nを経由して被告会社に転売されるという取引形態であった。なお,HとNとの間の取引形態は,上記のMとNとの間の取引形態 と同じであった。(オ) 被告会社がヨーロッパ産豚肉の取扱いを始め,被告会社の輸入豚肉 の取扱量が増加した平成12年ころ,ヨーロッパ産の輸入豚肉を扱う会 社を経営していたEが被告人を訪れ,被告人に対し,威圧的な態度で, 同和関係者などを国内転売先に入れずにヨーロッパ産の豚肉を安い価格 で売ると,同和関係者からの嫌がらせがある可能性があるという話をし た。これに対し,被告人は,被告会社が扱う輸入豚肉について,Eの会 社に輸入者(インポーター)となって取引に入ってもらうことを提案し た。その役割は,同和関係者からの嫌がらせの歯止めとして,いわば防 波堤になってもらうことであり,輸入者としての実務面は,被告人側で 行うというものであった。Eは,これを了承してQ社を設立し,同社が Hに代わって被告会社が扱うアメリカ産及びヨーロッパ産の豚肉の輸入 者として取引に入ったが,Q社の送金事務や通関事務については,Hが 代行し,Gがその事務を行った。なお,被告人とEとの交渉により,E の会社が一連の豚肉取引の赤字を吸収することとなり,被告会社からE の会社に対しては,輸入通関した豚肉1キログラム当たり2円(後にそ の額の1か月当たりの上限を2000万円,下限を1000万円とした。)の口銭が支払われることとなった。 その後,被告会社の扱う豚肉の数量がさらに増えたため,Eは,BとR株式会社を設立して,この2社に,Q社の役割を分担して引き継がせ ることとし,ヨーロッパ産の豚肉についてはBが,アメリカ産及びカナ ダ産の豚肉についてはR株式会社が,それぞれ輸入者となった。Bに対 しても,上記口銭が被告会社から支払われていたが,同金員は,Eが管 理する口座に送金されていた。なお,被告会社とBとの間の取引に関し ては,当初は契約書を作成していなかったが,途中から作成するように なった。(カ) 被告会社の豚肉取引に,Eの関連会社が介在するようになったころ, 被告人が経営する株式会社S(以下「S」という。)とKが半分ずつ出 資してJが設立された。そして,被告会社が取り扱う輸入豚肉のうちの 大阪陸揚げ分について,冷蔵庫業者との交渉一切という丙仲業務をJに 委託し,その後,各冷蔵庫業者との調整も委託するようになった。被告 人は,Jに冷蔵庫関係の調整をやってもらうのであれば,密接に関連す る通関業務なども一手にやってもらうのが効率的であると考え,これを Kに依頼し,B及びR株式会社の通関事務と代金送金事務をJが代行す るようになった。そのため,Bでは具体的な輸入事務には関与せず,通 関後に資料に基づき被告会社に対し請求書を送るなどの事務をしていた のみであった。Jでの通関事務や代金送金事務については,被告会社か らJに出向した従業員が担当し,被告会社から,Jに対し,出向社員の 指導料の名目で月額100万円が支払われた。なお,JがBの業務代行 を行うことは,被告人がKに依頼して始まったもので,Bの実質的経営 者であるEは,これに関与しておらず,後から聞いて知ったものである。 Eは,決算期には,被告会社側から送られてきた資料に基づきBの確定 申告をしていたが,そのままでは多額の損失のためにかなりの消費税還付金が生じてしまうので,売上げを適当に調整し損失が目立たないようにして税務署に確定申告をしていた。
(キ) ヨーロッパ産の豚肉の輸出者(エクスポーター)を務めていたP社は,カナダ産の豚肉も取り扱っていたところ,ヨーロッパ産の豚肉の取 扱量が増大したことから,国別に輸出者を整理することとし,平成15 年4月ころ,ヨーロッパ産の豚肉についての輸出者をFに変更し,Hが Fの事務代行を行うようになった。Fは,輸出者として,O製の豚肉を仕入れ,これをBに販売していた が,当時は,その仕入代金及び売上代金を決算書に計上せず,Bに対す る売掛金も帳簿類に記載しなかった。また,Bとの間で売掛残の確認を 行うこともなかったため,Bに対して幾らの売掛残があるのかを把握し ていなかった(証人Gの公判供述,甲26)。さらに,Bに対して,何 十億円もの売掛残を有しながら,特段これを取り立てることもしていな かった。その一方で,被告人はOと交渉して,FがOから豚肉を仕入れ るごとに同社から1キログラム当たり1円の販売手数料が支払われるよ うにし,これはGが管理するT1銀行のF名義の口座に送金されていた。
 そして,上記決算書では,Fの収入の大半はこの手数料収入であり,こ の収入でFは事務所経費等を賄っていた。イ 前掲各証拠によれば,本件における具体的な取引の過程は,以下のとお りであると認められる。なお,具体的な販売方法が記載された,被告人の 平成19年2月20日付け検察官調書(乙10)の不同意部分について, 弁護人は任意性を争っているが,同供述調書が作成されたころ,被告人の 体調が取調べに支障があるほど不良であったこと,及び弁護人が主張する ような取調官による威圧的な供述の押し付けや不注意に乗じた録取があっ たことなどを疑わせる事情は認められないので,上記不同意部分も証拠能 力を有するというべきである。(ア) 被告会社の一般的な輸入取引の形態 被告会社が,輸入冷凍豚の部分肉を国内販売先に販売する方法には,バック・トゥ・バックとロングという2種類の方法がある。
I バック・トゥ・バックの販売方法とは,次のような手順による販売方法をいう。
1 被告会社が,国内販売先から商品の発注を受け,契約内容の大筋が確定される。
2 被告人が,Fの担当者として,被告会社の国内販売先からの受注単価を考慮し,O等の輸入元(パッカー)に対し,国内販売先が被 告会社に発注した内容と同内容(但し,単価については異なる。) の発注をする。3-i 輸入元がその内容で受諾した場合には,仕入れが確定するの で,被告会社が国内販売先に対して,同販売先からの発注を受諾し, 同販売先への販売契約が成立する。3-ii 輸入元が,その内容で受諾せず,カウンターオファー(内容 を変更した上での新たな販売申し出)をした場合には,被告会社が, 発注を受けた国内販売先に対して,カウンターオファーを踏まえた 販売条件での販売申し出をする。そして,国内販売先がその条件を 受諾した場合には,被告会社と国内販売先との間での新たな条件に よる販売契約が成立するので,Fは輸入元に対して,カウンターオ ファーを受諾して,Fと輸入元との間の契約が成立する。
 このような販売方法は,リスクが少なく,確実な販売方法であるため,被告会社の取引の大部分を占めていた。
II ロングの販売方法とは,被告会社の国内販売先が決まる前に,Fが輸入元から豚肉を買い付け,その後に,被告会社からの国内販売先が 決まるという形態である。この形態の販売方法は,国内販売先を見つけることができなければ, 在庫を抱えてしまうというリスクが生じるため,被告会社においては, あまり行われなかったが,輸入元が在庫をだぶつかせて安い値段での 販売申込があり,かつ,国内販売先の需要が,近日中に出てくると判 断した場合には,この形態で買い付けを行っていた。これについても, ほとんどの場合は,購入した豚肉が日本に到着するまでに国内販売先 に売却していた。(イ) Oとの具体的な契約条件の交渉及び契約に基づく商品の流れ等I 被告会社が,国内販売先からバック・トゥ・バックの販売方法によ る発注を受けると,被告人は,当初は,Fの代表取締役としてOの担当者と交渉をし,FがOから購入する冷凍豚肉の輸入量,豚肉の部位, パッケージ方法などの規格,豚肉1キログラム当たりの仕入れ単価, 海上保険料の支払の有無,おおよその船積みの時期などの契約条件を 決定していたが,平成16年9月ころにFの代表取締役を辞めた後も, 引き続き同様に,被告人がOの担当者との間で上記のような契約条件 を交渉し,決定していた。II このようにして契約内容が決まると,被告人から,Fの役員(後に 代表者)兼同社の業務代行を行うHの役員であるGに対して,その内 容が伝えられ,それとほぼ同時に,Oから,F宛にコンファメーショ ンと呼ばれる契約内容が記載された書面が,Hの事務所にファックス 送信される。すると,Gが,被告人から聞いた契約内容とコンファメ ーションの記載内容に相違がないかを確認し,被告会社の海外チーム (輸入業務を取り扱う部署)にこれをファックス送信する。これを受 信した被告会社の担当者が,豚肉のコンテナにNP番号という被告会 社の管理番号を付し,被告人がサインをして,Hにファックス送信し, さらに,GがこれをOにファックス送信することによって,FとOとの間の豚肉輸入に関する契約が成立する。
III 一方,FとOとの間の契約が成立する前,あるいは,それとほぼ同時に,被告人の指示を受けた被告会社の従業員が,被告会社の諸経費 や利益に相当する額を控除して,Bとの間で,売買単価を決めていた が,Bから被告会社への売買単価については,被告会社に優先的決定 権があり,B側が,被告会社が決めた価格に異議を唱えたことはなか った。また,FとBとの間の契約については,被告人がKに対し,豚肉の 品名(部位)に関わりなく,通常期は,1キログラム当たりの単価を 524円,セーフガード発動期は,1キログラム当たりの単価を65 4円と指示をしており,個別の取引に際し,具体的な交渉は行ってい なかった。IV FとOとの間の契約が成立すると,Gは,Oから送られてくるシッ ピング・アドバイスと呼ばれる船積み案内及びインボイスを基に,O に対する支払日,金額等を把握するための支払予定と題する一覧表を 作成し,これを,電子メール又はファックスで,Bの業務代行を行っ ているJに出向している被告会社の従業員及び被告会社の財務担当者 に送っていた。そして,Gは,FからBに対する契約書であるコンファメーション ノート及びインボイスを作成し,これらとともに,Oから送られてき たインボイス以外の船積み書類をJに送付していた。なお,FがBに 対して発行するコンファメーションノート及びインボイスに記載され る貨物の価格は,上記のとおり,被告人から指示された1キログラム 当たり524円あるいは654円として計算されていた。V その後,商品の豚肉が港に到着すると,Oの許可を得てJが手配し た冷蔵庫業者の冷蔵庫に倉入れされる。VI FからOに対する貨物代金の支払や,BからFへの支払については, Jに出向していた被告会社の従業員が送金手続を行っていた(Fは, 送金に使用される同社の預金通帳や社判などを同従業員に預けてい た。)。Oは,入金を確認すると,商品引渡しを受けるために必要な リリースコンファメーションをFにファックス送信し,GがこれをJ にファックス送信すると,Jが,通関業者に通関手続を依頼する。通 関業者は,FがBに対して発行したコンファメーションノート及びイ ンボイスに記載された貨物の価格を輸入申告価格として関税額等を計 算して輸入申告し,申告どおりに関税等を納付するなどして,輸入が 許可されていた。VII 輸入が許可された豚肉は,通常は,Bから冷蔵庫業者への事前の一 般的な依頼により,そのすべてが即座に被告会社の所有名義に自動的 に変更されることになっており,さらに,同日中に,被告会社が発注 を受けた国内販売先に名義が変更されていたから,被告会社が実際に 冷蔵庫業者から出庫することは極めて稀であった。VIII なお,被告会社は,通関業者を兼ねていた冷蔵庫業者に対し,Bの 冷蔵庫業者に対する冷蔵庫保管料,通関手数料,納付関税に係る立替 金等一切の債務を連帯保証していた。また,Fは,Oとの取引が拡大 したことから,同社から二,三億円の保証金の提供を求められたが, それについても被告会社が資金を出している。(3) 具体的な支払の管理 ア 当事者の主張
検察官は,「本件貨物の代金支払は,被告会社からBに振り込まれた金 員を,Bの業務代行者であるJに派遣された被告会社の経理担当者が,香 港法人の輸出者であるFの口座を経由して,同日中に,Oに送金しており, 本件通関手続及び代金支払業務が,実質的には,被告人の指示により,被告会社の資金によって行われていた」旨主張する。これに対し,弁護人は, 「被告会社とB間,BとF間,FとO間の各送金は,それぞれ別個の豚肉 取引についての支払であり,検察官の主張は前提を欠く。また,BからF に送金された金員は,必ずしも,被告会社から支出されたものばかりでは なく,U又はSなど,被告会社以外の会社とBとの取引に基づいて入金さ れた金員がその原資となっているのであるから,検察官の上記主張には理 由がない」旨主張する。イ 前提となる事実
(ア) そこで,本件豚肉取引における代金の支払状況についてみると,上記(2)イ(イ)VIのとおり,FからOへの支払及びBからFへの支払は, いずれもJに出向していた被告会社の従業員が送金手続を行っていた が,前掲各証拠によれば,FからOへの支払については,上記イIV のとおりGから送られてきた支払予定と題する一覧表に従って,当日が 支払予定日の貨物の価格を合計した金額につき,上記従業員がT2銀行 q支店に開設されたF名義の非居住者円普通預金口座(以下「F送金口 座」という。)からOの口座への送金手続を行っていたこと,BからF への支払については,FがO以外の会社へ支払う予定の金額が記載され た,上記一覧表と同様の資料も合わせて参照し,FからO及び同社以外 の会社へ支払うべき金額を合計して,上記従業員がT2銀行q支店に開 設されたB名義の普通預金口座(以下「B送金口座」という。)からF 送金口座への送金手続を行っていたこと,Jに出向していた被告会社従 業員は,Oへの送金においては,NP番号によりどの豚肉に対する支払 か把握していたが,Fへの送金ではNP番号の特定はなく,Bにおいて は,Fに対する送金日と送金額のみを把握していたに過ぎないことが認 められる。(イ) 他方,前掲各証拠によれば,以下の事実も認めることができる。被告会社においては,財務担当者が,営業などの各部署から回ってく る請求書等を基に,一日ごとに会社全体の入出金を管理する入出金予定 表(本件取引に関するものが甲22に添付されている。以下,これを単 に「入出金予定表」という。)を作成し,被告人の指示があれば修正し, 被告人の決済を受けて完成させていた。その入出金予定表には,左列に その日に入金される予定の金額,中列にその日に支払債務が存在する金 額,右列にその日に実際に支払う予定の金額が記載されていた。そして,入出金予定表の中列の下の方には,「OM DC(あるいは, ヨーロッパ)」などという欄があり(「OM DC」の記載が現れるの は,平成16年6月中旬以降。),この欄には,上記イIVのとおり Gから送られてくる支払予定と題する一覧表に基づいて,その日にFか らO等に支払うべき金額が記載されていた。また,入出金予定表の中列 上段から中段にかけて,「OM V」などという記載があるが,これら は,Bの冷蔵庫業者に対する債務額である。さらに,入出金予定表の中列(その日に実際に支払う予定の金額欄) の下の方にも,「OM DC(あるいは,ヨーロッパ)」という欄があ り,右列の「OM DC」欄の金額が10万の位未満を切上げた数字が 記載されている。また,入出金予定表の中列及び右列には,「OM DC」のほかに, 「OM ヨーロッパ」「OM カナダ」等の記載欄もあり,「OM D C」の記載と同様の記載がなされていた。そして,当日の入出金予定表に沿って,B送金口座には,被告会社, あるいは,T3銀行r支店に開設されたB名義の普通預金口座(以下「B 別口座」という。)又はSの口座から,単独で,あるいは,競合して, 入出金予定表の右列下の方の「OM DC」等の欄の合計金額に対応し た入金がなされていた。ウ 検討
(ア) 以上の事実からすれば,本件取引における輸入豚肉の代金は,Gが作成する一覧表に記載された支払予定日に,同一覧表に記載された金額 が,BからF,FからOに支払われるように送金手続がなされていたも のと認められる。また,被告会社は,同一覧表に基づいて入出金予定表を作成すること により,FからOへの支払について,支払予定日及び支払金額を把握し ていたこと,これをB(OM)とO(DC)両社に関する債務と認識し た上,その支払予定日に合わせて入出金予定表の中列に掲載し,同じ日 の同予定表の右列に,その支払に足りるだけの金額を掲載して,当日の Fへの支払額に足りる金額をBに支払うこととしていたこと,B送金口 座に被告会社,B別口座又はSの口座等から入出金予定表のBに関する 記載(B別口座等に支払われていたとみられる冷蔵庫業者に支払われる べき金額を除く。)に従って,この記載と同額以上の入金がされている ことが認められる。これらのことからすれば,被告人が契約交渉をし,最終的に被告会社 に販売されることとなっていた輸入豚肉について,被告会社が,Fから Oへの支払をすべき期日及び金額を把握し,その支払期日にはB送金口 座からF送金口座を介してOへの支払が行われるように被告会社が資金 繰りをして,支払期日当日ころにB送金口座に支払金額に相当する金額 以上の入金をすることにより,B,Fを介して間接的にOへの支払を行 っていたものと認められる。(イ) この点,弁護人が主張するとおり,1平成16年4月12日,同年 9月24日,同月27日,同年11月25日,同月26日の支払の原資 は,被告会社からの入金だけではなく,BがUから入金を受けた金員が 充てられ,2同年12月28日及び同月30日の支払の原資は,被告会社からの入金だけではなく,BがSから入金を受けた金員が充てられて いる。しかしながら,Uからの入金に関し,Uの実質的経営者であったEは, 「Uは,被告会社からの依頼でその運転資金の調達をする役割を持って いた。私が個人的に付き合いのあるWという会社が融資してくれており, 被告会社から融資を希望する日付と金額及び返済予定日を知らされる と,その金額をUがWから融資を受けてBの口座に振り込んでいた。」「輸入した豚肉の販売にUは関係していない。」と供述しているところ, その供述の信用性を疑わせる事情は特に認められない。また,前掲各証 拠,特に甲22,265,725,729,792,797等によれば, 平成16年4月12日,同年9月24日,同月27日,同年11月25 日及び同月26日の入出金予定表の左列(入金予定欄)下部には,Uか ら入金がある旨記載されており,その金額の記載もUからBへの入金額 とほぼ一致することが認められることからすれば,被告会社がUからB に入金がなされることを認識した上,これを前提として資金繰りをして いたことが明らかである。以上からすれば,弁護人が指摘するUからの 入金は,実質的には被告会社に対する貸付金であり,被告会社の資金繰 りの一環であると認められる。一方,SがBと本件に関する豚肉とは異なる豚肉の取引を行っていた ことは,BからSに対する請求書や,同じ豚肉についてのSからXへの 請求書などの存在から明らかである(弁870,871)。しかしなが ら,前掲各証拠,特に甲22,897,900等によれば,同年12月 28日のSからの入金については,その原資は証拠上明らかではないも のの,被告会社が作成した同日の入出金予定表の左列(入金予定欄)下 部には,「割引手形 S 432,500,000」との記載があり, 同日に同額がSからB送金口座に入金されていること,同月30日のSからの入金については,その原資は,同日の入出金予定表にも記載があ る被告会社のSに対する支払であることが認められ,これは被告会社か らSを介してBに入金されたものとみることができる。これらのSから B送金口座への入金が,被告会社の資金繰りと何ら関係のないものであ れば,上記の被告会社の入出金予定表に記載される理由はなく,Sは被 告人が100パーセント出資して設立した会社であり,被告人が同社の 代表取締役も兼務していること(証人C3及び被告人の公判供述)など も併せ考えれば,弁護人が指摘するSからB送金口座への入金について も,被告会社の資金繰りの一環であると評価するのが相当である。(ウ) なお,弁護人は,被告会社の会計帳簿上,被告会社からBへの代金 支払は,FがOへの支払を行った日よりも遅れて行われた旨記載されて いると主張する。しかしながら,被告会社は,Bに対し,入出金予定表 に基づいて資金繰りをし,送金していたところ,これは,FからOへの 支払を念頭において,その支払に充てるために送金していたものである ことは前記認定のとおりである。そして,本件当時,被告会社では,B に対する各支払がどの取引の代金に対するものかを個別に認識してはお らず,事後的に作成された会計帳簿(弁2)においては,弁護人の主張 に沿う記載となっているものの,これは会計慣行に従って請求書の日付 が古いものから機械的に充当したところ,そのようになったというだけ であり(証人C4の公判供述),被告会社が本件当時そのような認識で 会計を行っていたとは認められない。これらに照らせば,弁護人の上記 主張は理由がない。エ 結論 以上からすれば,本件輸入豚肉に係るOへの代金の支払については,その時期及び金額を被告会社が統括・管理しており,その支払の原資も,実 質的には,被告会社の資金であったと認められる。(4) そこで,これらの事実を前提に,被告会社が,本件豚肉を輸入した者と して,本件取引に係る関税の納付義務者に当たるかについて検討する。ア 形式的な輸入者
前記イの取引関係を整理すると,本件の豚肉取引においては,契約の 形式上,デンマークのOから香港のFへ豚肉が販売され,これがFから国 内のBへと輸入販売された上,Bから被告会社へ,被告会社から同社の国 内販売先へと転売されていく形態になっており,輸入申告の際の輸出者は F,輸入者はBとなるから,関税の納付義務者はBということになりそう である。イ B及びFの取引上の地位
(ア) しかしながら,具体的な契約交渉過程をみると,OとFとの間では,取引対象となる豚肉の種類及び数量並びに1キログラム当たりの売買単 価という契約の基本的条件について,被告会社の代表取締役である被告 人が,Oの担当者と交渉して決定していた。このようにしてFが購入し た豚肉は,そのすべてがBに転売されていたが,その売買単価は,被告 人の指示により,関税を考慮して1キログラム当たり524円又は65 4円と固定されていた。Bに転売された豚肉は,被告会社に転売される が,その売買単価は,買主である被告会社の代表取締役である被告人の 指示により,被告会社の国内販売先に対する売買単価から,被告会社が 取得すべき利益や経費等を控除して決定されており,売主であるBがこ れに異議を唱えることはなかった。そして,被告会社から国内販売先へ の売買単価については,被告会社が国内販売先の希望に添う条件でOか ら豚肉を仕入れることができるかどうかによるにせよ,最終的には被告 会社と国内販売先との契約交渉により決定されていたと認められる。(イ) 以上からすると,Bにおいては,被告人の指示によりFが決めた1 キログラム当たり524円又は654円という売買単価で豚肉を購入し,これを被告人の指示により被告会社で決めた売買単価で販売してい たものであり,何ら契約条件を決定する主体性を有していなかったこと が明らかである。また,Bの販売単価は,その仕入単価に比べて相当低額であり,恒常 的に赤字が発生するような販売単価を受け入れていたこと自体が異常で あるが,Bの実質的な経営者であるEは,被告会社の経営者である被告 人と契約条件について交渉したことはなく,取引された豚肉の価格とは 無関係に,取引量1キログラム当たり2円の金員を販売手数料の名目で 被告会社から受け取ることだけを合意しており,この販売手数料が,本 件取引に係る支払に使用されていたB送金口座やB別口座と異なる口座 に入金されていたことからすれば,B自身の経済的利益は,専ら販売手 数料だけであり,豚肉取引の契約条件や収支とは無関係であったと認め られる。(ウ) 一方,Fにおいては,仕入価格は被告人がOと交渉して決定し,販 売価格は被告人が独断で決めていたと認められる。被告人は,Fの代表取締役であったこともあるが,その役職を辞した 後も同社を支配し,従前と同様にOとの交渉やBへの販売単価の指示を 続けていた。そして,前記のような本件豚肉取引の流れをみると,被告 人は,豚肉が被告会社から国内販売先へ売却されることを念頭において Oとの売買交渉をしていたと考えられる。ところで,Fは,Oからの仕入単価より相当高額でBに豚肉を販売し ていたのであるから,その取引により恒常的に多額の利益が累積するは ずであるが,Fの代表取締役を被告人から引き継いだGは,Bに対する 数十億円に上るとみられる多額の売掛債権の残高を帳簿で管理すること さえしていなかった。また,Fは,Oからの仕入れやBへの販売,及び,これに伴うF送金口座の入出金を,決算報告書に記載しておらず,Fの運営費用は,主と してT1銀行に開設されたF名義の口座にOから豚肉の取引量に応じて 入金される手数料で賄われていた。さらに,前掲各証拠によれば,少な くとも平成15年11月25日から平成17年1月25日までの間は, FのHに対する業務委託料(毎月150万円ないし250万円)が,B 別口座からHの口座に送金されていたこと,この支払は被告会社が入出 金予定表に掲載しており,被告会社がその支払を管理し,そのための資 金繰りをしていたことも認められる。これらのことからすれば,F自身は,本件豚肉取引自体による利益の 回収には無頓着であり,その取引の契約条件や収支にも関心がなかった ものと認められる。ウ B及びFの取引の実態
(ア) Bは,本件取引において,Fから豚肉を受け取って輸入する業務の一切をJに委託しており,輸入が許可された豚肉は,自動的に被告会社 に所有名義が変更されることになっていた。Jにおいても,実際にBか らの受託業務を行っていたのは,代表者のKと出向していた被告会社の 従業員であり,Bの販売単価は,被告人の指示により決定されていた。
 また,被告会社からJに対しては,技術指導料の名目で,月額100万 円が支払われていた。Fは,本件取引において,被告人から指示された販売単価によりBに 対しインボイス等の書類を発行したり,Oから提供される豚肉の到着時 期等に関する情報をBに取り次ぐ業務を行っていたが,これらの業務は Gが役員をしているHが代行していた。Hに対するFからの業務委託料 も,実質的には被告会社が支払を管理して資金繰りをしていた。(イ) また,豚肉取引に係る代金の支払については,前記(3)で検討した とおり,当初の支払予定に従って,BからFへ,FからOへと,Jに出向していた被告会社の従業員により送金手続が行われることとなってお り,その原資はB送金口座に入金されていたが,その資金繰りは被告会 社が管理して行っていたと認められる。(ウ) さらに,FがOと取引を拡大するに当たり,Oから2億円ないし3 億円の保証金の提供を求められた際には,被告会社がこれを融通し,輸 入業務に伴うBの冷蔵庫業者に対する債務について,被告会社が連帯保 証している。エ 実質的な輸入者 以上を前提に,被告会社が,関税を納付すべき実質的な輸入者,つまり実質的に本件豚肉の輸入の効果が帰属する者に当たるかを検討する。 (ア) まず,上記イで検討したとおり,F及びBは,本件豚肉取引の契約 条件について,何ら関心を有しておらず,仕入価格と販売価格の差益により利益を受ける地位にないものと認められる。
(イ) これを対し,被告会社は,国内販売先と販売単価等の契約条件を決めた後,Bからの仕入単価を,その販売単価から自らの利益や経費等を 控除して一方的に決めていたのであるから,OとFとの間の取引条件や, FとBとの間の取引条件について,関心を有しないようにも思われる。しかしながら,被告会社は,前記のとおり,そのほとんどにおいて, 国内販売先への売却交渉をした上でOとの売買交渉をしているのであっ て(ロングの場合においても,被告会社から国内販売先への販売が見込 まれる場合に行われ,多くは豚肉が港に着くまでには国内販売先に売却 されている。),OへFが代金の支払をする時点では,国内販売先に当 該豚肉を引き渡す債務を負う状態となっていた。したがって,被告会社 が,国内販売先に豚肉を引き渡して販売代金を回収するためには,当該 豚肉についてOに対する支払がなされ,同社から冷蔵庫業者への搬入許 可やリリースコンファメーションが出されることが不可欠であり,その売買代金は,前記のとおり,B送金口座に被告会社が資金を準備するこ とにより,F送金口座を介して支払われていたのである。したがって, 被告会社としては,Bとの取引条件にかかわらず,現実には,Oの販売 価格を支払わなければならなかったのであり,Oの販売価格,すなわち OとFとの間の取引条件に直接の利害関係を有していたと認められる。また,FからBへの販売価格を輸入申告価格として関税が計算され, 関税を納付しなければ輸入が許可されず,豚肉を引き取って被告会社の 国内販売先に引き渡すことができないが,関税についても,Bの冷蔵庫 業者に対する支払の一部として,被告会社が入出金予定表に記載して管 理し,資金繰りを行っていたと認められることからすれば,被告会社は, FとBとの間の取引条件についても,直接の利害関係を有していたと認 められる。以上からすれば,被告会社は,本件豚肉取引を実現し,国内販売先に 豚肉を引き渡して売上げを得るためには,OとFとの間の取引条件に基 づいて支払を行い,FとBとの間の取引条件に基づいて計算される関税 を納付しなければならず,国内販売先への販売価格から,Oに支払う価 格及び納付すべき関税のほか,被告会社からB等の関係会社への直接又 は間接の支払を控除した金額が,被告会社の実質的な利益になっていた ものと認められる。このことに加え,被告会社の代表取締役でもある被告人が,OとFと の間の取引条件の交渉に当たっていること,FやBの業務を代行する, G並びにJ及びその担当者も,豚肉を保管する冷蔵庫業者の選定などの 事務的な作業は独自の裁量で行っていたものの,取引書類に記載する売 買単価等については被告人の指示を受けていたものであること,このた め,被告人は,Oから購入する豚肉を国内販売先に売却した場合の被告 会社の利益について,FやBに関わりなく予測ないし計算することができること,BやFの関係者に対して,被告会社から直接又は間接に定期 的な支払がされていたこと,被告会社が,Oへの取引の保証金の融通や, 冷蔵庫業者への支払保証をしていることからすれば,本件豚肉取引は, 実質的には,被告会社がOから豚肉を購入し,輸入していたものと認め るのが相当である。(ウ) この点,弁護人が主張するとおり,FやBは,いずれも形式的には 独立の法人格を有するものである。しかしながら,本件豚肉の取引の実 態が上記のとおりであることからすれば,FやBが取引に介在している ことに合理的な理由や必要性は認められない。それにもかかわらず,この2社が取引に介在しているのは,Oからの 仕入単価や,被告会社の仕入単価にかかわらず,Bの行う輸入申告の申 告価格を分岐点価格に近づけて,関税額を最小にすることが目的であっ たと認められる。FとBとの間で行われた豚肉取引における1キログラ ム当たりの売買単価が,被告人の指示により,Fの仕入価格やBの販売 価格とは無関係に,関税額が最小となる分岐点価格が約524円のとき は524円,セーフガードが発動されて分岐点価格が約653円のとき は654円とされており,被告人が意図的に売買単価を分岐点価格付近 に設定していることは明らかである。Oと被告会社との間に,この2社 の取引を介在させることにより,実質的に被告会社がOから購入して輸 入する豚肉につき,その購入価格にかかわらず関税額を最小にしていた のである。このFとBの取引が正常ものでないことは,最終的な購入者 である被告会社の代表取締役である被告人が,被告会社と国内販売先と の間の契約の前提となるF,Bの仕入単価や販売価格を決めていること, Bが,常に仕入価格より低い価格で被告会社に豚肉を販売し,恒常的に 赤字を累積させていること,Fは,仕入価格よりもかなり高い価格でB に転売しているが,その収支や売掛金の残高を把握しておらず,その回収に関心を示していないことなど,この2社及び被告会社の間での取引 に経済的な合理性が認められないことからも明らかである。そして,こ のような仕組みによる関税額の最小化は,被告人が豚肉取引にMとNを 介在させたときから,介在する会社を変えながら継続的に行われてきた ものと認められる。弁護人は,それ以外にも,2社を本件取引に介在さ せる合理的理由があるとして縷々主張するが,以上のような本件取引の 実態からすれば,いずれも上記認定を左右するものではない。なお,弁護人は,FやBが,本件取引において独自の機能を発揮して おり,本件取引以外の活動もしていることから,独自の経済的主体性を 有すると主張する。確かに,FやBが本件取引以外の独自の取引や活動 をしていることはうかがわれるから,この2社が経済的な実体のないダ ミー会社である旨の検察官の主張は採用できないが,本件取引における 2社の地位や取引の実態が上記認定のとおりと認められる以上,2社が 本件取引において独自の経済的主体性を有しているとはいえないのであ り,弁護人の主張は採用できない。(エ) また,弁護人は,1被告会社においては,ほとんどの取引をバック ・トゥ・バックの方法により行っているから,豚肉が被告会社の名義に 変更される以前に販売先が決定しており,被告会社は当該販売先以外の 者に販売することができなかったし,輸入に係る豚肉は,通関すると同 時にBから被告会社へ,さらに,通関当日中には被告会社から国内販売 先へと名義が変更されることから,輸入時点においては,被告会社は当 該豚肉についての処分権限を有しておらず,これを有していたのは国内 販売先であること,2被告会社が得た利益は僅少で,利益を受けたのは 結果的に安価で豚肉を購入できた国内販売先であるから,本件取引によ る利益の帰属主体は国内販売先であることを理由として,被告会社は実 質的輸入者ではないと主張する。しかしながら,バック・トゥ・バックの方法による場合でも,被告人 及び被告会社は,国内販売先から契約条件の提示を受け,被告人はこれ を踏まえて最終的に被告会社に利益が出るようにOと契約条件を交渉 し,これがまとまれば,国内販売先と契約を締結している。そうすると, 現に豚肉を輸入する時点においては,国内販売先が決定しているものの, それに先だって,国内販売先からの契約条件の提示を任意に受け,これ に基づいて仕入れ先であるOと自由に交渉し,その結果に基づいて国内 販売先と契約を締結しているのであるから,自らの意思で自らの利益も 考慮して販売先及び販売条件を決定しているというべきであり,被告会 社が実質的な処分権を有していることは明らかである。また,被告会社 の国内販売先は,本件取引により被告会社が仕入れた豚肉を安価で購入 することができたという利益を享受しているとしても,それは被告会社 が関税の納付を不正に免れた結果にすぎない。そして,国内販売先は輸 入取引条件の決定や輸入手続に何ら関与していないことからしても,国 内販売先を実質的な輸入者とみる余地はなく,弁護人の上記主張は到底 採用することはできない。(5) 結論 したがって,被告会社は,実質的に輸入の効果が帰属する者であり,実質的にみて本邦に貨物を引き取って処分する権限を有する者に当たるから,関 税法上の「貨物を輸入する者」に該当し,被告会社が本件各豚肉輸入に係る 関税の納税義務者であると認められる。第4 争点(1)(公訴棄却の申立て)について 弁護人は,本件の公訴提起は,1別会社に対する同様の関税法違反事件と比較して,偏頗な公訴提起であり,かつ,2本件各取引における実質的輸入者につい ての調査が不十分であり,差別的な起訴であって,本件の公訴提起は,検察官の 起訴裁量を著しく逸脱した違法なものであるから公訴を棄却されるべきであると主張する。
 そこで検討するに,刑事訴訟法が公訴の提起をするかしないかについて検察官に広範な裁量権を認めていることからすれば,検察官の公訴提起が公訴権の濫用 として無効となるのは,公訴提起自体が職務犯罪を構成するような極限的な場合 に限られると解される。そして,偏頗で違法な起訴であるか否かは,被告人より も有利な取扱いを受けている者がいるかどうかによるのではなく,あくまでも被 告人自身に対する刑事責任の有無,大小に基づいて,被告人が一般の場合と比べ て不当に不利益に取り扱われているかどうかにより判断すべきものと解される。これを本件についてみるに,本件は,1年以上にわたり823件の不正な輸入 申告を繰り返し,約59億円の関税の納付を不正に免れたという巨額の脱税事件 であり,組織的かつ計画的に敢行された重大事案であると認められるところ,弁 護人の指摘する別会社の違反事件がこれよりもさらに重大な事案であるとは認め られない。これに加えて,本件の起訴により被告人及び被告会社が一般の場合と 比べて不当に不利益に扱われたことをうかがわせる事情は何ら認められないし, 本件公訴提起が検察官の職務犯罪を構成するようなものとも認められないことは 明らかであるから,弁護人の1の主張は理由がない。また,前記第3で検討したとおり,本件取引に係る関税の納付義務者が被告会 社であることは証明十分といえるから,弁護人の2の主張はその前提を誤ったも のであるといわざるを得ない。したがって,弁護人の公訴棄却の申立てには理由がない。 第5 結論以上の次第であるから,弁護人の主張はいずれも理由がなく,前掲各証拠によ れば,判示の事実を認定することができる。(法令の適用)
罰 条(被告人及び被告会社につき)
別紙一覧表番号1ないし132の各行為
各行為ごとにいずれも平成19年法律第20号附則4条,平成18年法 律第17号附則6条及び平成16年法律第15号附則5条により,同法 による改正前の関税法117条1項,平成17年法律第22号附則5条 により,同法による改正前の関税法110条1項1号別紙一覧表番号133ないし823の各行為 各行為ごとにいずれも平成19年法律第20号附則4条及び平成18年 法律第17号附則6条により,同法による改正前の関税法117条1項, 平成17年法律第22号附則5条により,同法による改正前の関税法1 10条1項1号刑 種 の 選 択(被告人につき) いずれも懲役刑及び罰金刑を選択併合罪の処理 懲役刑につき(被告人につき)
刑法45条前段,47条本文,10条(犯情の最も重い別紙一覧表番号103の罪の刑に法定の加重) 罰金刑につき(被告人及び被告会社につき)いずれも刑法45条前段,48条2項(各罪所定の罰金の多額を合計) 未決勾留日数の算入(被告人につき)刑法21条(懲役刑に算入) 労 役 場 留 置(被告人につき)刑法18条
訴 訟 費 用 の 負 担(被告人及び被告会社につき)
いずれも刑事訴訟法181条1項本文,182条 (量刑の理由)
本件は,輸入豚肉等の販売等を業とする被告会社の代表者である被告人が,被告 会社の業務に関し,同社が外国産冷凍豚部分肉を輸入するに当たり,情を知らない通関業者の従業員を介して,前後823回にわたり,内容虚偽の輸入申告を行うこ とにより,いわゆる差額関税合計約59億円をほ脱したという事案である。被告人は,国内の豚肉流通価格が,いわゆる分岐点価格以下で推移していること から,国内で流通可能な価格で豚肉を輸入して販売するためには,差額関税を免れ ることが必要不可欠であると考え,内容虚偽の輸入申告を行う等の不正の手段によ って,多額の関税を免れようとしたものであって,犯行の経緯や利欲的な動機,国 家の課税制度を軽んじる態度には,強い非難が向けられるべきである。その態様を見ても,名目上の輸出者及び輸入者を介在させ,被告会社が真の納税 義務者ではないかのように装い,関税額が最も低額となる分岐点価格に極めて近い 価格で豚肉を輸入したように輸入単価を偽装し,納付すべき関税をほ脱していたも のであり,甚だ計画的で,巧妙かつ悪質である。そして,関税ほ脱期間は1年余り に及び,その間に823回もほ脱行為を行い,合計59億円余りの多額の関税をほ 脱したもので,そのほ脱率も約91パーセントと高率である。被告会社が本件取引 により得た販売利益も合計約2億4500万円にも上り,本件各犯行の結果は重大 である。そして,被告人は,被告会社の代表者として,本件各犯行の枠組みを自ら構築し, 関係会社の従業員らに直接指示するなどして,主導的な立場で本件各犯行を遂行し, 本件により多大な利益を享受していたものと認められる。それにもかかわらず,被 告人は,差額関税制度自体が不合理であり,かかる制度の下では,本件取引が最善 の取引形態であると強弁して本件各犯行を否認し,本税を納付する姿勢すら見せて おらず,反省の態度はうかがわれない。以上からすれば,被告会社及び被告人の刑事責任はいずれも重大であるから,被 告会社及び被告人には前科はないことなど,それぞれに有利に斟酌すべき事情を考 慮しても,被告会社に対しては,主文の罰金刑を科し,被告人に対しては,主文の 懲役刑及び罰金刑を併科するのが相当であると判断した。(求刑 被告会社につき罰金2億5000万円,被告人につき懲役3年6月及び罰金2500万円) 平成21年3月26日
千葉地方裁判所刑事第1部
裁判長裁判官 彦坂 孝孔
裁判官 作田 寛之
裁判官 井草 健太
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