平成20年7月31日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 平成19年(行ウ)第15号 費用徴収処分等取消請求事件 口頭弁論終結日 平成20年5月29日判決 札幌市a区b条c丁目d番地
原告A
上記訴訟代理人弁護士 B 札幌市e区f条g丁目
被告札幌市 上記代表者市長 C
処 分 行 政 庁 札幌市中央区保健福祉部長 被告指定代理人 D 同E 同F 同G 同H 同I 同J 同K 同L主文
1 札幌市中央区保健福祉部長が,原告に対して,平成18年2月2日付けでした生活保護法78条に基づく費用徴収決定処分のうち,17万円を超える部分を取り消す。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを5分し,その1を原告の負担とし,その余は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求 札幌市中央区保健福祉部長が,原告に対して平成18年2月2日付けでした生活保護法78条に基づく費用徴収決定処分を取り消す。
 第2 事案の概要本件は,生活保護を受けていた原告が,知人であるMから88万円を借り入 れていたにもかかわらず札幌市中央区保健福祉部長(以下「保健福祉部長」と いう。)にその旨を告げなかったことにより,不実の申請その他不正な手段に より保護費を受給したとして,保健福祉部長が平成18年2月2日付けでした 生活保護法78条に基づく88万円の費用徴収決定処分(以下「本件処分」と いう。)は,事実を誤認し,かつ,厚生事務次官通知及び厚生省社会局長通知 の解釈を誤った違法な処分であるとして,原告が,被告に対し,本件処分の取 消しを求めた事案である。1 生活保護制度の概要
(1) 生活保護制度について
生活保護法(昭和25年5月4日法律第144号。以下,単に「法」とい うことがある。)は,憲法25条の生存権の保障を実現するため制定された ものであり,国が生活に困窮するすべての国民に対し,その困窮の程度に応 じて,健康で文化的な最低限度の生活を保障するにとどまらず,更に積極的 にそれらの人々の自立の助長を図ることを目的としている(法1条,3条)。(2) 基本原理について 法は,生活保護制度における基本原理として,無差別平等の原理(法2条),最低生活の原理(法3条)及び補足性の原理(法4条)を規定してい る。このうち補足性の原理とは,法が国民の最低生活を保障するための最後の施策である建前上,まず自力により,又は他の法律による扶助により,生活 の維持のためにあらゆる努力を行い,それでも最低限度の生活を営むことが できない場合に,はじめて法が適用されることを意味する。この補足性の原 理のもとでは,保護を受けるためには,各自がその持てる能力に応じて,最 大限の努力をすることが先決であり,そのような努力をしてなお最低限度の 生活を営むことができない場合に,はじめて法による保護(以下「保護」と いう。)が行われることになる。(3) 保護の種類について 保護には,生活扶助,教育扶助,住宅扶助,医療扶助,介護扶助,出産扶助,生業扶助及び葬祭扶助の8種類がある(法11条)。
 (4) 保護の要否の判定方法保護は,世帯の収入や資産だけでは最低限度の生活を営むことができない 者に対して,最低限度の生活を保障するために行われるものであるから,厚 生労働大臣は,どのような経済状態のときに最低限度の生活を営めないもの とするかを決める保護基準を定めている(「生活保護法による保護」(昭和 38年4月1日付け厚生省告示第158号)。この保護基準は,要保護者の 年齢別,性別,世帯構成別,所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事 情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分であって,かつ,これを 超えないものでなければならない(法8条2項参照)。そして,保護の要否は,上記保護基準に基づき,その者の属する世帯の最 低生活費を算定し,この金額とその世帯の収入とを比較した結果,世帯の収 入が最低生活費を下回る場合に初めて,当該不足分に限り保護が行われる (法8条1項参照)。(5) 補足性の原理の例外について 厚生労働省は,補足性の原理の例外の判断に関し,保護の実施機関の裁量判断の統一性を確保し,被保護者の公平を図るため,統一的な基準として昭和36年4月1日付け厚生省発社第123号厚生事務次官通知(以下「次官 通知」という。)及び昭和38年4月1日社発第246号厚生省社会局長通 知(以下「局長通知」という。)を定めている。次官通知及び局長通知のうち,本件に関係する部分は,別紙1のとおりで ある。2 争いのない事実等(証拠により認定した事実は括弧内に掲記した。) (1) 生活保護支給決定等原告は,平成12年1月20日,生活保護の実施機関であった札幌市中央 区保健福祉部長(生活保護法19条4項及び札幌市区保健福祉部長事務委任 規則(昭和47年3月31日規則第44号)により,札幌市長は,生活保護 の決定及び実施に関する事務を札幌市内の各区保健福祉部長に委任してい る。)に対し,生活保護法7条に基づき保護の開始の申請をした。これに対し,保健福祉部長は,平成12年2月2日,生活保護法24条に 基づき,同年1月20日にさかのぼって保護を開始した(甲1,2,乙1 6)。(2) 本件処分の経緯 ア 本件処分の経緯
(ア) 原告は,平成16年12月16日,Mとの間で,同日付け金銭借用 証書(以下「本件借用証書」という。)を取り交わし(以下「本件契約 1」という。),借主欄に自ら署名押印した(甲4,乙1の1,原告本 人)。(イ) 原告は,Mから,平成16年12月25日に3万円,同月29日に 5万円,平成17年5月2日に5万円,同年7月4日に4万円を,それ ぞれ借り入れ,受領した(乙1の2から5。以下,これらの借入れを併 せて「本件契約2」という)。(ウ) 原告は,上記(ア)及び(イ)の際,保健福祉部長に対し,Mから金員を借り入れた旨の申告をしなかった(甲1)。
(エ) 保健福祉部長は,原告に対し,平成16年12月から平成18年2月にかけて,収入認定において本件契約1及び2がないものとして別紙 2生活保護支給額一覧表記載のとおり,合計184万6820円の保護 費を支給した(甲1,乙12の1から7,乙14の1から8)。(オ) Mは,平成18年1月13日,保健福祉部長に対し,原告が多額の 債務を負っているとして,金銭借用証書の写し5通(以下,これらを併 せて「本件各借用証書」という。)を提出した(乙1の1から5,乙1 3)。(カ) 原告は,平成18年1月18日,ケースワーカーの事情聴取に対し, 本件各借用証書の借主欄の署名押印につき,原告自らがしたものである と述べた(甲1,乙13)。(キ) 保健福祉部長は,前記(ウ)のとおり,原告がMから合計88万円を 借り入れたことを申告しなかったとして,原告に対し,弁明の機会を与 えた上で,法78条に基づき,平成18年2月2日付けで88万円を徴 収する旨の本件処分をし,平成18年2月13日,原告に通知した(甲 1,2)。(3) 本件処分以降の経緯
ア 原告は,平成18年3月22日,札幌市長に対し,本件借用証書記載の71万円については,準消費貸借契約を締結したにすぎず,実際は同日に は借入れをしていないこと,本件契約2による17万円については,その 数日後に返済していたから,収支はほぼゼロであること及び借入金を収入 認定の対象とするのは不当であることを理由に審査請求をしたが,札幌市 長は,平成18年11月27日,この請求を棄却する旨の決定をした(甲 1)。イ 原告は,平成19年5月26日,本件訴えを提起した。
3 争点及びこれに関する当事者の主張
(1) 原告は,本件契約1に際し,実際に71万円を受領したか(争点1)について (被告の主張)
本件借用証書には,「金七拾壱万円也ただし利息 前記の金額を私Aは本 日たしかに借り受け,受領しました。」との記載とともに,原告名義の署名 押印がされ,原告は,本件借用証書の署名押印を自ら行ったことを認めてい る。したがって,原告は,平成16年12月16日にMとの間で消費貸借契 約を締結し,71万円を実際に受領したものであって,同金額の収入があっ た。(原告の主張) 原告は,実際にMから71万円を受領した事実はない。本件借用証書は,原告が生活保護受給前である平成10年から平成11年ころまでにMから借 り入れた,3口(35万円,20万円,16万円)の旧債務をまとめたもの である。したがって,本件契約1は,準消費貸借契約であり,実際に金銭が 授受されたものではない。(2) 原告が本件契約2に際して受領した17万円を収入認定したことが違法 か(争点2)について(被告の主張)
被保護者が入手した金銭が借入れによるものである場合,原則として収入 として認定され,次官通知及び局長通知に列挙された例外事由に該当しない 限り,収入認定を免れない。そして,原告が本件契約2により借り入れた1 7万円は上記例外事由に当たらないから,保健福祉部長が,これを収入認定 の対象としたことは適法である。(原告の主張) Mは,原告の保護費が支給される預金通帳を管理し,原告の生活保護費の支給日に,原告とともに銀行に赴き,引き下ろした保護費から直ちに3万円 から5万円程度を天引きして貸付金の返済に充てていた。そのため,原告は, 生活費に窮し,保護費の受給日の数日後にはMから天引き分とほぼ同額の金 員の返還を求めたが,Mはそれを新たな貸金として扱った。このような経緯に照らせば,原告が本件契約2の個々の借入れの際にもほ ぼ同額の返済が先行しているから,本件契約2により得た3万円(平成16 年12月25日分),5万円(同月29日分),5万円(平成17年5月2 日分)及び4万円(同年7月4日分)は,自分の保護費をMを経由して受け 取ったのと同様であり,借入金とはいえない。仮にこの17万円が借入金に 当たるとしても,非生活保護者である一般市民が給料日前に借入金でその場 をしのぐことと同様であり,「当該被保護世帯の自立更生のために当てられ る額」に該当するから,収入認定の対象とはならないものである。したがっ て,保健福祉部長がこれを収入認定したことは,法及び次官通知の解釈,運 用を誤ったものであり,違法な処分である。(被告の反論) 本件契約2による借入れの前に同額の返済が先行していた事実はない。また,原告の主張を前提にしたとしても,借入れに先行する支払は別個の借入 れに対する返済であり,本件契約2による借入れは新たな借入れであるから, 次官通知及び局長通知に列挙された例外事由には当たらない。第3 当裁判所の判断
1 原告は本件契約1に際し実際に71万円を受領したか(争点1)について(1) 被告は,本件契約1は消費貸借契約であり,原告はMから71万円を受 領していると主張し,Mの陳述書中にも,被告の主張に沿う記載がある。他 方,原告は,本件借用証書につき,それまでの旧債務をまとめる目的で作成 されたものであり,実際に71万円を受領していないと主張し,N及び原告 はこれに沿う供述をする。まず,本件借用証書は,原告が実際に71万円を受領した旨の記載がある が,当該記載は市販の金銭借用証書のひな形の不動文字にすぎず,借用証書 の書換えの際にも市販の金銭借用証書用紙が広く用いられている実情に照ら せば,本件契約1が準消費貸借であり,71万円を受領していないとの原告 の主張があるにもかかわらず,本件借用証書の存在のみから,71万円の受 領の事実を認めることはできない。そこで,Mの陳述書とN及び原告の両供 述の信用性について,以下において検討する。(2) 前記争いのない事実等,甲4,乙1,9,11,16,証人N及び原告 本人の尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められる。
 ア 原告は,約30年前,Mと知り合った。原告は,約20年前から,Mから,経営していた会社の資金繰りのため,まとまった額の金銭を借り入れることがあった。(甲4,乙8,11,原告本人)
イ 原告の経営していた会社は平成10年ころまでに倒産し,原告は,平成12年1月20日から,生活保護を受けるようになった。その後も,Mは, 原告に対し,貸付金の返済を求めたが,他方で,原告の求めにより,金銭 の貸付けを行うこともあった。(甲4,乙9,11,16,原告本人)ウ 原告は,平成16年12月16日,本件借用証書上に署名押印の上,こ れをMに手渡した。本件借用証書は市販の金銭借用証書のひな形を利用し て作成され,「前記の金額を(中略)本日たしかに借り受け,受領しまし た」とある部分は不動文字で印刷されていた。(乙1)エ 原告は,Mから,平成16年12月25日に3万円,同月29日に5万 円をそれぞれ借り入れ,受領した。オ なお,Mは,金銭を貸し付けた相手方に対し,借用証書の書換えを求め ることがあった。(証人N,原告本人)(3) Mの陳述書中には,本件契約1に際し,Mが原告に対して71万円を交 付した旨の記載があるが,Mが71万円を交付したことを裏付ける原資の存在等についての客観的証拠がないこと,原告は,毎月,当面の生活に必要な 保護費を受給していたものであり,本件契約1の当時,生活費の不足分に充 てるため数万円程度を借り入れることがあっても,71万円というまとまっ た金額を借り入れる理由を見出せないことに加えて,Mの陳述書の上記記載 部分が反対尋問を経ていないことを併せ考慮すると,この部分の信用性を直 ちに認めることは困難というべきである。他方で,原告は,原告が本件契約1に際し実際に71万円を受領したこと はない旨を供述し,Nも,その場に同席していたとして,原告の供述にほぼ 沿う内容の供述をする。確かに,被告の指摘するとおり,原告の供述にはあ いまいな部分があったり,原告とNの供述には一部において食い違いがみら れるが,いずれもMと原告との間の20年にわたる金銭の貸し借りの詳細に 係る供述部分であったり,供述時から3年4か月前のやり取りの詳細に係る 供述部分に関するもので,これらの供述部分にあいまいな点や食い違いがみ られるからといって,N及び原告の供述の信用性を直ちに否定することはで きない。そして,上記認定のとおり,Mと原告は,20年にわたって金銭の 貸し借りを続けているのであるから,本件契約1の当時,71万円というま とまった額の貸金が残っているとみても不自然ではないこと,原告が,本件 契約1の数日後には3万円,5万円を借り入れていることは,本件契約1が 金員の交付を伴わないものであり,生活費等の不足が解消されなかったこと を推測させるものであること,Mがこれまでにも借用証書の書換えを求める ことがあったことにかんがみると,N及び原告の供述のとおり,本件契約1 の際も同様に借用証書の書換えが行われた可能性は十分に考えられる。以上の検討を総合すると,Mの陳述書中,原告が本件契約1に際し実際に 71万円を受領した旨の供述部分について,これと対立するN及び原告の供 述の信用性を否定してまで採用しなければならない程度の信用性があると認 めることはできない。(4) したがって,本件契約1に際し実際に71万円を受領したとは認められ ないから,保健福祉部長がこの71万円を収入として認定したことは違法で ある。2 原告が本件契約2に際して受領した17万円を収入認定したことは違法か (争点2)について(1) 生活保護法による保護は,生活に困窮する者が,その利用し得る資産,能力その他あらゆるものを,その最低限度の生活の維持のために活用するこ とを要件とし,その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う 程度において行われるものであり,最低限度の生活需要を満たすのに十分で あって,かつ,これを超えないものでなければならない。したがって,生活 保護法4条1項にいう「その利用し得る資産,能力その他あらゆるもの」及 び同法8条1項にいう「その者の金銭又は物品」とは,被保護者が,その最 低限度の生活を維持するために活用することができる一切の財産的価値を有 するものを含むと解される。(2) そして,生活保護法は,「その利用し得る資産,能力その他あらゆるも の」及び「その者の金銭又は物品」について特に限定をせず,将来返済が予 定されている借入金についても,当該借入れによって,被保護者の最低限度 の生活を維持するために活用可能な資産は増加するのであるから,保護受給 中に被保護者が借入れをした場合,これを原則として収入認定の対象とすべ きである。もっとも,上記のように,補足性の原則を貫徹し,生活保護世帯に対する 金銭給付等のすべてを収入として認定することは,生活保護法の目的である 自立助長の観点から,あるいは社会通念上適当でない場合も生じ得るところ である。そこで,生活保護法は,借入れに係る金銭のうち,どの部分を収入として 認定し,どの部分を収入として認定しないかを,保護の実施機関の専門的技術的裁量に委ねているところ,厚生労働省は,補足性の原理の例外の判断に 関し,保護の実施機関の裁量判断の統一性を確保し,被保護者の公平を図る ため,統一的な基準として次官通知及び局長通知を定め,次官通知及び局長 通知は,借入れに係る金銭を原則として収入認定すべきものとの前提に立ち つつも,次官通知第7の3(3)ウにおいて,「他法,他施策等により貸し付 けられる資金のうち当該被保護世帯の自立更生のために当てられる額」を収 入認定の例外と定め,その具体的内容を局長通知第7の2(3)において定め ている。そして,前記のとおり説示した補足性の原則の趣旨及び一定範囲でその例 外を設ける必要性を勘案すれば,上記のような取扱いには相応の合理性があ るというべきである。(3) 原告は,Mから,平成16年12月25日に3万円,同月29日に5万 円,平成17年5月2日に5万円,同年7月4日に4万円を,それぞれ借り 入れ,受領した。原告は,その借入れ等に当たって,保護の実施機関の事前 の承認を得ていない上,この借入れは局長通知第7の2(3)アからオのいず れの事由にも該当しないのであるから,これが収入認定から除外される対象 となる借入れ等には当たらないと解するのが相当である。(4) これに対し,原告は,本件契約2の際にもほぼ同額の返済が先行してい るから,本契約2により得た3万円(平成16年12月25日分),5万円 (同月29日分),5万円(平成17年5月2日分),4万円(同年7月4 日分)は原告に支給された保護費をMを経由して受け取ったのと同様であり, 借入れには当たらないと主張する。しかし,原告がMに対し,平成16年1 2月25日及び同月29日以前に同額の返済が先行していたことを認めるに 足りる証拠はない。また,原告が,Mに対し,平成17年2月17日時点で 36万円の債務を負い,これについて同年5月1日,同年7月1日に3万円 を返済したことが認められるから(乙10の1,2),5万円(平成17年5月2日分),4万円(同年7月4日分)の借入れに先行する返済は別の借 入れに対する返済であって,要は別の用途に保護費を費消した結果生じた生 活費の不足分を新たな借入れにより補填しているにすぎないとみるべきであ る(保護費から第三者に対する債務の弁済原資を捻出することは生活保護法 の予定するところではない。)。したがって,このような借入れは実質的に 見ても借入れというほかはなく,この点に関する原告の主張を採用すること はできない。また,原告は,仮に17万円が借入れに当たるとしても,非生活保護者で ある一般市民が給料日前に借入金でその場をしのぐことと同様であり,「当 該被保護世帯の自立更生のために当てられる額」に該当するから,収入認定 の対象にならないと主張する。しかし,生活保護法は積極的に要保護者の自 立の助長を図ることを目的とするものであり,被保護者は,実施機関から受 けた保護の範囲内で生活することができるように計画的に生活しなければな らないから(法60条参照),生活費不足分をしのぐために借入れをするこ とは,生活保護法の予定するところではなく,「当該被保護世帯の自立更生 のために当てられる額」に当たると解することはできない。(5) そうすると,原告が生活保護受給中にした本件契約2の借入れに係る1 7万円は,前記「資産」ないし「金銭又は物品」に該当し,保護費から控除 されるべき収入認定の対象となるというべきである。それにもかかわらず, 原告は,上記17万円を受領した後もこれを申告しなかったため,保健福祉 部長は,この17万円を収入認定しないまま保護費を決定し,それを支弁し た。したがって,原告は,不実の申請その他不正な手段により保護を受けた というべきである。(6) 以上のとおり,保健福祉部長の本件契約2に係る17万円についての法 78条に基づく費用徴収決定は,法並びに次官通知及び局長通知の解釈・運 用を誤った違法なものということはできない。そして,費用徴収決定の取消訴訟においては,保健福祉部長が認定した収 入額の適否が問題となるところ,裁判所が,審理の結果,被保護者における 適正な収入額を認定した場合には,当該徴収決定が金額的にどの限度で違法 となるかを特定することができる。この場合には,当該費用徴収決定を全部 取り消すのではなく,当該費用徴収決定のうち裁判所が認定した適正な価格 等を超える部分に限りこれを取り消せば足りるというべきである。第4 結論 よって,原告の請求については,本件処分のうち17万円を超える部分の取消しを求める限度で理由があるから認容し,その余の請求は理由がないからこ れを棄却することとし,訴訟費用について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法 64条本文,61条を適用して,主文のとおり判決する。札幌地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官 坂本宗一
裁判官 鈴木敦士
裁判官 中野晴行
(別紙1)
 関係法令の定め
1 生活保護法 第78条
不実の申請その他不正な手段により保護を受け,又は他人をして受けさ せた者があるときは,保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は,その 費用の全部又は一部を,その者から徴収することができる。2 次官通知
第7 収入の認定
収入の認定は,次により行なうこと。
 3-(3)
次に掲げるものは,収入として認定しないこと。
ウ 他法,他施策等により貸し付けられる資金のうち当該被保護世帯の自立更生のために当てられる額 第8 保護の決定
保護の要否及び程度は,原則として,当該世帯につき認定した最低生 活費と,第7によって認定した収入(以下「収入充当額」という。)と の対比によって決定すること。また,保護の種類は,その収入充当額を, 原則として,第1に衣食等の生活費に,第2に住宅費に,第3に教育費 及び高等学校等への就学に必要な経費に,以下介護,医療,出産,生業 (高等学校等への就学に必要な経費を除く。),葬祭に必要な経費の順 に充当させ,その不足する費用に対応してこれを定めること。3 局長通知
第7 収入認定の取扱い
2-(3) 貸付資金のうち当該被保護世帯の自立更生のために当てられることにより収入として認定しないものは次のいずれかに該当し,かつ,貸付け を受けるについて保護の実施機関の事前の承認があるものであって,現 実に当該貸付けの趣旨に即し使用されているものに限ること。ア 事業の開始又は継続,就労及び技能修得のための貸付資金
イ 就学資金(高等学校等就学費の支給対象とならない経費及び高等学 校等就学費の基準額でまかないきれない経費であって,その者の就学 のために必要な最小限度の額にあてられる場合に限る。)ウ 医療費又は介護費貸付資金
エ 結婚資金
オ 国若しくは地方公共団体により行われる貸付資金又は国若しくは地方公共団体の委託事業として行われる貸付資金であって,次に掲げる もの(ア) 住宅資金又は転宅資金
(イ) 老人又は身体障害者等が機能回復訓練器具及び日常生活の便宜を図るための器具を購入するための貸付資金
(ウ) 配電設備,給排水設備又は暖房設備のための貸付資金
(エ) 国民年金の受給権を得るために必要な任意加入保険料のための貸付資金
(別紙2) 省略
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