平成20年6月18日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 平成19年第1号 違法公金返還請求等請求事件 口頭弁論終結日 平成20年4月16日判決
主文
1 被告は,A(富山市a町b丁目c番d号)に対して,56万円及びこれに対する平成18年2月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を富山県に対して支払うよう請求せよ。
2 原告らのその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを5分し,その2を原告らの負担とし,その余を被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 被告は,A(富山市a町b丁目c番d号)に対して,100万円及びこれに対する平成18年2月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を富山県に対して支払うよう請求せよ。
 2 訴訟費用は,被告の負担とする。第2 事案の概要
1 本件は,富山県が,上海便を育て発展させる会(以下「発展させる会」という。)に対し,上海便就航を記念する事業として,富山県知事であるAを団長 とする官民合同の訪問団が上海を訪問する「富山-上海線就航記念富山県友好 訪問団派遣事業」を委託したが,Aが,富山県事務決裁規程により補助職員に 専決により処理させた同委託契約に基づく委託料の支払に関し,実質的に地方 財政法4条及び富山県の各旅費支給条例に違反した委託契約を締結し,高額な 宿泊費を含む実支出額としてその支払金額をを確定させたことにつき,指揮監 督上の義務に違反し,故意又は過失により違法な財務会計上の行為を阻止せず,富山県に損害を被らせたとして,富山県民である原告らが,被告に対し,地方 自治法242条の2第1項4号に基づき,Aに損害賠償の請求をすることを求 めている事案である。2 前提となる事実等
(1) 原告らは,富山県民であり,Aは,富山県の知事である(争いのない事実)。
(2) 富山県は,発展させる会に対し,「富山-上海線就航記念事業等業務」(以下「本件委託業務」という。)を委託した(争いのない事実)。
 本件委託業務の中には,1就航記念初便訪問団の派遣,2初便就航記念事 業(歓迎記念式典,初便就航記念祝賀会)の開催,3初便就航時の中国からの訪問団の受入れ業務,4平成17年11月20日から同月24日にかけて, Aを団長とし,富山県議会議長,同県職員等合計26名を団員として,上海 を訪問する「富山-上海線就航記念富山県友好訪問団」(以下「訪問団」と いう。)の派遣事業(以下「本件事業」という。)が含まれる(争いのない 事実)。(3) 本件委託業務の委託契約(以下「本件契約」という。)の締結に当たって は,富山県知事政策室総合交通政策課企画係副主幹Bが,平成17年9月3 0日,支出負担行為決議書を起案し,富山県知事政策室長Cが,同年10月 3日,専決を行い,同日,本件契約が締結された(争いのない事実)。なお, 富山県事務決裁規程によれば,専決とは,常時知事に代わって決裁をするこ とをいい(第2条(2)),部局長が専決をする事項として,1件500万 円以上(公共事業等に係るものにあっては1件2000万円以上,本庁の庁 舎の維持管理に係るものにあっては1件1000万円以上)の委託料の支出 負担行為に関すること(同規程別表第1,1部局長専決事項(17)ウ), 室課長が専決をする事項として,知事の決裁及び部局長の専決に係る支出負 担行為に基づく支出命令に関すること(同第1,1室課長専決事項(33)),知事の決裁及び部局長の専決に係る支出負担行為に基づいて支出すべき 委託料,補助金等の額の確定に関すること(同(34))と定められている (乙1)。本件契約の内容は以下のとおりである(甲2)。 第3条(委託料の限度額) 甲(富山県)は,委託料として金1941万4000円(消費税及び地方消費税相当額を含む。)を超えない範囲内の額を乙(発展させる会)に支払うものとする。 第11条(委託料の額の確定) 甲は,前条の規定により,乙から業務実績報告書の提出を受けたときは,遅滞なく当該委託業務がこの契約の内容に適 合するものであるかどうかを調査し,適合すると認めたときは,委託料の 額を確定し,乙に対して通知するものとする。2 前項の委託料の確定額は,委託業務に要した経費の実支出額(乙が納付 すべき消費税及び地方消費税の実支出額を含む。)と第3条に規定する委 託料の限度額のいずれか低い額とする。第12条(委託料の支払の時期) 委託料は,前条第1項に定める額の確定後, 乙が甲の定める委託料交付請求書により行う請求に基づいて支払うものと する。2 前項の規定にかかわらず,委託業務を実施するため必要があると甲が認 めるときは,乙が甲の定める委託料交付請求書により行う請求に基づき, 委託料の全部又は一部の概算払をすることができるものとする。3(略)
第13条(過払金の返還) 乙が前条第2項に定める委託料の概算払を受けている場合において,その金額が第11条第1項により確定した額を超える こととなったときは,乙は,その超える金額を甲に返還しなければならな い。(4) 富山県の平成17年度予算における本件委託業務の設計額は,総額1941万4000円であり,そのうち本件事業に要する経費は825万2000円であった(争いのない事実)。
(5) 富山県知事政策室総合交通政策課長Dの専決により,平成17年10月21日,委託料の全額1941万4000円について支払命令が行われ,富山県出納長が概算払いをした(争いのない事実)。
(6) 発展させる会は,平成17年11月ころ,本件事業に係る旅行業務を株式会社ニュージャパントラベルに委託した(甲3)。
(7) 訪問団は,平成17年11月20日,富山から上海に到着し,同日,同月21日及び同月23日は上海の西郊賓館に宿泊し,同月22日は北京に移動 して同地の釣魚台賓館に宿泊している。訪問団は,中国滞在中,上海進出企 業との懇談・夕食会の開催や上海広告国際旅遊有限公司等の訪問を行った( 争いのない事実)。宿泊費は,富山県知事及び同県議会議長が1泊当たり5 万円,その余の団員が1泊当たり3万円であった(甲3,4,弁論の全趣旨 )。(8) 発展させる会は,平成18年2月9日,富山県に対し,委託業務実績額を 1730万0753円とする本件委託業務の業務実績報告書を提出し,Bが それを検査した上で,Dの専決により,同月14日,本件委託業務の委託料 の額を上記業務実績報告書のとおり確定し,富山県は,同月22日,発展さ せる会から概算払いの額との差額211万3247円の返還を受けた(争い のない事実)。(9) 原告らは,原告ら訴訟代理人を代理人として,富山県監査委員に対し,平 成18年12月27日,地方自治法242条1項に基づく住民監査請求を行 ったところ,同監査委員は,原告らに対し,平成19年2月23日,上記監 査請求を棄却する旨決定し,同月26日,その通知が原告ら訴訟代理人に到 着した(争いのない事実)。(10) 旅費に関する法令の定め
ア 富山県知事,副知事及び出納長の給料その他の給与及び旅費支給条例( 以下「知事条例」という。)2条及び別表は,知事が職務のため外国に旅 行したときには,国家公務員等の旅費に関する法律に規定する内閣総理大 臣等中その他の者相当額の旅費を支給すると定めており,同法では,中国 諸都市を含むアジア地域は丙地方とされ,内閣総理大臣等中その他の者の 宿泊料は一夜につき1万7400円とされている(同法35条1項,別表 第二,国家公務員等の旅費支給規程17条4号)。イ 富山県議会議員の報酬,費用弁償及び期末手当に関する条例(以下「議 員条例」という。)4条2項及び別表第3は,議長が職務のため外国に旅 行したときには,国家公務員等の旅費に関する法律に規定する内閣総理大 臣等中その他の者相当額を費用弁償として支給すると定めている。ウ 富山県職員等の旅費に関する条例(以下「職員条例」といい,知事条例 及び議員条例と合わせて「本件各条例」という。)30条は,外国旅行の 旅費については,国家公務員等の旅費に関する法律第3章の規定の例によ ると定めており,同法では,丙地方における宿泊料は,指定職の職務にあ る者が一夜につき1万5500円,内閣総理大臣等及び指定職の職務にあ る者以外の者については,職務の級に応じて1万3500円から9700 円と定められている(同法35条1項,別表第二)。3 争点
(1) 違法な財務会計行為の有無(争点1)
ア Cによる契約締結行為の違法性
イ Dが委託料の額を確定する行為の違法性
(2) C及びDの財務会計行為に対するAの監督責任の有無(争点2) (3) 富山県の損害(争点3)4 争点に対する当事者の主張
(1) 争点1(違法な財務会計行為の有無)について
ア 原告らの主張
(ア) Cによる契約締結行為について
a Cは,本件事業の委託を含む本件契約を締結するに当たって,本件 事業で富山県知事等が宿泊する場合には,本件各条例及び地方財政法 4条により,特段の事情がない限り,その宿泊費が本件各条例に定め る上限額を超えないようにするための定めをしなければならないのに, これをしなかった。b 本件における支出は,富山県職員等に対して旅費が支給される場合 ではなく,事業の委託料として支出されているが,富山県職員等が参 加する事業において宿泊費が含まれる委託料が支出される場合も,本 件各条例の規定の趣旨が及ぶ。発展させる会の実務は富山県職員が行 っており,事業費のほとんどを富山県が委託料として支払っているに もかかわらず,委託料であることを理由に本件各条例が適用されない とすると,本件各条例の潜脱を認めることになる。c 本件契約は,委託料について実支出額と契約で定める委託料の限度 額のいずれか低い額とすると定め,事業費を低額にすることも契約の 目的とされていたのであり,上記のような定めをすることは契約の目 的と一致するし,可能であった。(イ) Dが委託料の額を確定する行為について Dは,本件事業の宿泊費が本件各条例の上限額を上回っていたのであるから,事後的に発展させる会が旅行業者と交渉して宿泊費を減額させ られないかを検討し,発展させる会と交渉すべきであったのにこれを怠 り,本件各条例の上限額を超える宿泊費を含む委託料の額を確定させた。イ 被告の主張
(ア) 本件契約は,本件事業を含む本件委託業務全体を委託することによって,効率的かつ弾力的な業務の執行を目的とするものであり,本件委託業務を構成する個々の業務を細分化して個々の業務ごとに委託金額を定 めることは,その目的と一致しない。このことは,宿泊費についても同 様である。したがって,本件委託業務全体についての設計額を下回る金 額で契約を締結し,それを執行した担当職員らの行為に違法な点はない。(イ) 本件契約に定める,実支出額と委託料のいずれか低い額とするとは, 受託者が提出する業務実績報告書において,仕様書に記載されている事 業が現実に遂行されたこと及びそのために現実に要した経費の額が明ら かにされた場合に,現実に要した経費の額と委託料の限度額とを比較し, いずれか低い額が確定額となることを意味するのであって,そこにおい て,現実に要した経費の額の中身まで問題にする余地はない。(2) 争点2(C及びDの財務会計行為に対するAの監督責任の有無)について ア 原告らの主張Aは,財務担当職員が違法な財務会計行為を行わないよう監督する責任 を有していたが,事前に適切な注意を与えず,行為後,速やかに是正する 義務があったのにこれを放置した。(ア) Aが,発展させる会の考えている中国での宿泊費がどうであったか知ることができなかったとしても,事前に契約内容の上限に関する定めをしておくことは可能であり,容易であったのに,これを怠った。
(イ) Aが宿泊した客室は一見して2万円を遥かに超える高額の室料である ことは明らかであるから,直ちにこの点を確認し,より低額の客室に変 更できないか手配すれば,少なくとも翌日以降については低額な客室に 変更でき,本件契約の精算規定により差額を返戻してもらうことが可能 であった。また,変更契約を申し入れ,これに応じてもらうように説得して減額することもできたのに,これを怠った。
 イ 被告の主張
Aは,本来的権限者として,担当職員らに対する指揮監督上の義務に違反し,故意又は過失によって,違法な財務会計上の行為を阻止しなかった と認められる場合でなければ,それによって富山県が被った損害を賠償す る義務を負わない。(ア) Aが,本件契約締結の際,発展させる会が考えている中国における宿泊費が本件各条例に定める宿泊費の額を超えていることを知ることは不 可能であったから,Aに本件契約の締結を阻止すべき指揮監督上の過失 はない。(イ) 本件における支出は,有効に成立した本件契約に基づいて行われたも のであり,Aが中国におけるホテルに入室したときに,そこの宿泊費が 1泊2万円を超えているのではないかという疑問を持ったとしても,発 展させる会が本件契約に基づく義務を履行する以上,富山県は本件契約 に基づく支払義務を免れることはできないのであるから,Aに委託料の 額の確定を阻止すべき義務はない。(3) 争点3(富山県の損害)について ア 原告らの主張
本来Aに対してすら1泊当たり1万7400円までの宿泊費しか払って はならなかったのであるから,確定された委託費の宿泊費相当額(1泊当 たり5万円及び3万円)のうち,少なくとも1泊当たり2万円との差額分 については,上記違法な財務会計行為により富山県が被った損害となる。Dが確定させて富山県が負担した委託料のうちの宿泊費相当額は,34 0万円であり,1泊当たり2万円の場合の宿泊費相当額は240万円であ るから,富山県は,上記違法な財務会計行為により,その差額100万円 の損害を被った。イ 被告の主張 争う。
第3 争点に対する判断
1 争点1(違法な財務会計行為の有無)について (1) Cによる契約締結行為についてCによる本件契約の締結行為は,支出負担行為(地方自治法232条の3 )として支出命令及び支出(狭義の支出)とともに「公金の支出」(同法2 42条1項)に当たる。なお,支出負担行為を行う権限は,本来,予算執行 権を有する普通地方公共団体の長である富山県知事にあるが(同法149条 2号),富山県事務決裁規程(乙1)5条及び別表第1(共通専決事項 1部局長等共通専決事項,部局長専決事項(17)ウ)により,1件500 万円以上の委託料の支出負担行為については部局長(本件では知事政策室長 )の専決事項とされている。しかしながら,本件契約は,本件事業を含む本件委託業務を発展させる会 に委託した内容の契約であり,その委託料として限度額1941万4000 円を超えない範囲内の金額を支払うこと(第3条),委託業務に要した費用 の実支出額と上記限度額のいずれか低い額を支払うこと(第11条2項)な どを定めているにすぎず,本件契約の締結自体が本件各条例に違反する違法 があるものとは認められない。なお,原告らは,本件契約の締結に当たって, 宿泊費が本件各条例に定める上限額を超えないようにするための定めをする べきであると主張するが,証拠(乙3)及び弁論の全趣旨によれば,発展さ せる会の事務局は富山県知事政策室総合交通政策課に置かれ,富山県職員が その事務を担当していたことが認められ,そうすると,発展させる会の事務 局職員は,知事等が本件各条例を遵守しなければならないことは当然に了知 していたものであり,契約の内容として定めなかったことにより本件各条例 の適用が除外されるものではないことからすれば,上記定めを契約の内容と しなかったことが違法とはいえず,原告らの上記主張は採用できない。また,本件事業における宿泊費が,1泊当たり5万円及び3万円と本件各 条例の上限額を超える額での見積もりが行われたのは平成17年11月8日付けの見積書においてであって(甲3),本件契約においては委託料の上限 額が定められているのみでその内訳は何ら示されておらず(前提となる事実, 甲2,弁論の全趣旨),本件契約締結段階(同年10月3日)では,本件事 業における宿泊費が,本件各条例の上限額を超えるかどうかは明らかではな いから,結果的に委託料に含まれる宿泊費が,本件各条例の上限額を超えた からといってCによる本件契約の締結行為自体が違法とまではいえない。(2) Dが委託料の額を確定する行為について
ア Dが発展させる会からの本件委託業務の業務実績報告書のとおり本件契約の委託料の額を確定し,211万3247円を超える返還を不要とした ことは,「公金の賦課」「を怠る事実」(地方自治法242条1項)に該 当し得る。なお,本件契約の委託料の額の確定が本来富山県知事の権限で あり,富山県事務決裁規程5条及び別表第1(共通専決事項
 1 部局長 等共通専決事項,室課長専決事項(34))により,知事の決裁及び部局 長の専決に係る支出負担行為に基づいて支出すべき委託料,補助金等の確 定に関することは,室課長(本件では総合交通政策課長)の専決とされて いる。イ 前提となる事実のほかに,証拠(甲1,4,乙3,4,5,6の1)及 び弁論の全趣旨によれば,本件事業は,富山県知事,同県議会議長及び同 県職員の宿泊を伴うものであり,本件契約の委託料の中には,これらの者 の外国旅行の旅費又は費用弁償に相当する費用が含まれること,発展させ る会の会員には富山県が含まれ,A及び富山県議会議長の地位にある者が 顧問となっていること,発展させる会の事務局は,富山県知事政策室総合 交通政策課に置かれていること,発展させる会の平成17年度収支決算に よると,収入の部の決算額5700万9183円のうち,99パーセント 以上に当たる5675万4598円(補助金3945万3845円及び委 託料1730万0753円)は富山県から支払われていること,本件事業における訪問団の派遣メンバーには,団長のA及び団員として富山県議会 議長の地位にあるEが含まれるほか,事務局長としてCが,事務局員とし てDら富山県職員7名が含まれていること,本件事業の事務はほとんど富 山県職員が行っていたことが認められる。そして,前提となる事実によれば,本件事業に関し,A,E,Cほか富 山県職員が,職務のために海外に旅行したことは明らかであるから,仮に, 本件事業におけるAらの宿泊費の金額がそのまま旅費又は費用弁償として 支給されていたとすれば,それらの支出が本件各条例に違反することは明 らかである。ところで,本件においては,Aらの宿泊費について,富山県が発展させ る会との間で本件契約を締結し,委託料の一部として支払っているところ, 本件契約では,上記委託料について,委託業務に要した経費の実支出額が 委託料の限度額より低い場合は,実支出額によるものとされており(本件 契約第11条,第13条),富山県がAらの宿泊費を把握し,その実支出 額での支払が可能であること(証拠(甲2)によれば,本件契約の第9条 (報告の徴収等)で,「甲(富山県)は,必要があるときは,乙(発展さ せる会)に対し,委託業務の実施状況について報告若しくは資料の提出を 求め,又は必要な指示をすることができる。」と定めている。)からすれ ば,上記委託料の支払が実質的には旅費又は費用弁償として支給されたも のと同視することができる。けだし,委託料という名目で公金が支出され たからといって,本件各条例が適用されないとすることは,直接旅費の支 給又は費用弁償をせず,間に別の団体を介在させて別の名目で公金を支出 することで容易に本件各条例の適用を免れ得ることとなって相当ではない。ウ 地方自治法242条の2第1項の「違法」とは,当該職員が職務上負担 する財務会計法規上の義務(最高裁判所平成4年12月15日第三小法廷 判決・民集46巻9号2753頁参照)に違反することをいうところ,本件事業が,その性質上,富山県知事,同県議会議長及び同県職員の宿泊を 伴い,本件契約の委託料の中にこれらの者の外国旅行の旅費又は費用弁償 に相当する費用が含まれることは上記のとおりであり,Dにおいて,委託 料の中に宿泊費が含まれていることは当然に認識していたはずであり,発 展させる会から提出された業務実績報告書の委託業務実績内訳によれば, 本件事業に伴う中国国内宿泊費として340万円が計上されていること( 甲4)からすれば,本件事業で支出されたAらの宿泊費が本件各条例の上 限額を超えていることが容易に認識できる。そうすると,Dが,本件各条 例の上限額を超える宿泊費を含むにもかかわらず,是正を求めることなく, 発展させる会からの本件委託業務の業務実績報告書のとおり本件契約の委 託料の額を確定し,211万3247円を超える返還を不要としたことは, 当該職員が職務上負担する財務会計法規上の義務に違反し違法である。なお,本件契約の委託料を確定する際に,宿泊費等本件事業に要した費 目を記載した内訳書の提出を求めるなどしてその内訳を確認することがそ れほど業務の効率性を害するとも思われないし,法令を遵守することは至 極当然であるから,たとえ本件委託業務を構成する個々の業務を細分化し て個々の業務ごとに委託金額を確認することが,効率的でないとしても, 上記判断に影響するものではない。エ 訪問団のメンバーのうち,A,E及び富山県職員以外の者については, 本件事業の宿泊費のうちこれらの者に係る部分については,そもそも本件 各条例の適用を受けないから,本件各条例に違反するものではない。また, 本件契約の委託料は,本件事業における宿泊費を1人1泊当たり2万円と して積算された平成17年度予算における本件委託業務の設計額総額19 41万4000円を下回る1730万0753円で確定されていること( 前提となる事実,甲1)及び本件事業の目的等を考慮すると,これらの者 の宿泊費につき,1人1泊当たり3万円相当額を支払ったことが地方財政法4条に違反するとまではいえない。
2 争点2(C及びDの財務会計行為に対するAの監督責任の有無)について(1) 普通地方公共団体の長は,訓令等の事務処理上の明確な定めにより,その 権限に属する財務会計上の行為をあらかじめ特定の補助職員に専決させて処 理した場合,上記補助職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき 指揮監督上の義務に違反し,故意又は過失により上記補助職員が財務会計上 の違法行為をすることを阻止しなかったときに限り,普通地方公共団体に対 し,当該普通地方公共団体が被った損害につき賠償責任を負うものと解する のが相当である(最高裁判所平成3年12月20日第二小法廷判決・民集4 5巻9号1455頁参照)。(2) 証拠(甲6ないし11)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認めら れる。ア 西郊賓館は,上海の西の郊外に位置し,40年以上の歴史を持ち,広大 な庭園を有する中国国内における格付けが5星のホテルである。イギリス のエリザベス女王,日本の天皇及び各国首脳等が上海滞在時に利用したこ とがある。イ 西郊賓館の入口からAが宿泊した7212号室のある7号楼までは,敷 地内を車で移動して約2分ほどかかる。ウ 7212号室は,応接セットの置かれた応接間を有し,7号楼の通常の 客室2室分の広さがある。エ 平成20年4月現在で,7212号室の正規室料は,約3000元(1 元15円(以下同じ。)とすると約4万5000円)であり,7号楼の通 常の客室の正規室料は,約1500元(約2万2500円)である。(3) 富山県は発展させる会の会員であり,Aは発展させる会の顧問であること, 発展させる会の事務局が富山県知事政策室総合交通政策課に置かれ,富山県 職員がその事務を担当していたこと,Aは訪問団長として本件事業に参加して,上海の西郊賓館及び北京の釣魚台賓館に宿泊していることに加え,さら に,上記認定事実からすれば,Aは自己,E及び富山県職員の宿泊費が本件 各条例の上限額を相当上回ることを容易に知り得たものということができる。
 そうすると,Aは,本件事業に伴った中国国内における宿泊費の支払が本件 各条例に違反するものであることを容易に知り得たのであるから,専決を任 されたDが本件各条例に違反して本件事業の宿泊費を含む委託料を確定させ ることがないように是正措置をとるべき指揮監督上の義務があったものとい うことができ,これに対し,Aは,何らの措置をとっていない以上,上記義 務違反があったものと認められる。なお,上記のとおり,富山県職員が本件 各条例を遵守すべきことは当然であること,発展させる会の事務局の構成, 本件契約第9条において委託業務の実施状況について報告等を求めることが できる旨規定していることなどからすれば,本件契約第11条における実支 出額とは,単に発展させる会が実際に支出した額を意味するものではなく, 法令に従った支出であるなどその内容においても実際に支出されるべき金額 をいうと解すべきであるから,本件契約の委託料を確定させる段階で,富山 県が,発展させる会に対し,何らの是正措置を講ずることができないという ものではない。したがって,本件においては,Aが,専決を任された補助職員であるDが 上記財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反 し,過失により上記補助職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止しな かったものと認められるから,その責任は免れない。3 争点3(富山県の損害)について 原告らは,本件契約の委託料のうち,本件事業の宿泊費相当額のうち,1泊当たり2万円を超える部分を富山県の損害として主張しているところ,前提と なる事実及び証拠(甲3,4)によれば,本件契約の委託料のうち,本件事業 の宿泊費相当額が340万円であり,そのうち,A,E,C及びD等富山県職員7名の宿泊費相当額は,136万円(A及びEが1泊5万円の宿泊料で4泊 分各20万円,富山県職員8名が1泊3万円の宿泊料で4泊分各12万円の合 計金額)であると認められる。そうすると,富山県が被った損害は,上記13 6万円のうちの1泊当たり2万円を超える部分である56万円と認めるのが相 当である。第4 結論 以上によれば,原告らの請求は,被告に対し,Aに56万円及びこれに対する不法行為日である平成18年2月14日から支払済みまで民法所定の年5分 の割合による遅延損害金の支払を請求するよう求める限度で理由があるが,そ の余は理由がない。よって,主文のとおり判決する。富山地方裁判所民事部
裁判長裁判官 佐藤真弘
裁判官 大野博隆
裁判官 松本武人
判例本文

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