主文 被告人を懲役1年6月及ひ罰金70万円に処する。
その罰金を完納することかてきないときは,金1万円を1日に換算し た期間被告人を労役場に留置する。
 この裁判確定の日から3年間その懲役刑の執行を猶予する。 被告人から金3591万3700円を追徴する。理由
(罪となるへき事実) 被告人は,株式会社A(以下「A社」という。)の代表取締役てあったものてあるか,平成17年5月5日,A社といすれもその発行する株券を東京証券取引所市 場第1部に上場していたB株式会社(以下「B社」という。)及ひ株式会社C(以 下「C社」という。)等との間におけるフレス配布資料の作成及ひこれと密接に関 連する業務の請負契約締結,交渉に関し,B社及ひC社の業務執行を決定する機関 か,D株式会社(以下「D社」という。)と共同持株会社を設立するため株式移転 を行うことについての決定をした旨の各社の業務等に関する重要事実を知り,あら かしめB社及ひC社の株券をそれそれ買い付け同重要事実の公表後に各株券を売り 抜けて利益を得ようと企て,法定の除外事由かないのに,別表記載のとおり,同重 要事実の公表前てある同月13日から同年6月23日まての間,E証券株式会社を 介し,東京都中央区日本橋兜町2番1号所在の東京証券取引所において,B社及ひ C社の株券合計2万1000株を代金合計3241万4000円て買い付けたもの てある。(証拠の標目) 省略
(事実認定上の補足説明) 本件公訴事実については,被告人はこれを全て認めるとし,弁護人も公訴事実自体は争わないとしなからも,以下の諸点につき縷々供述ないし主張をしている。当裁判所は,公訴事実を一部改めて判示のとおりの認定をしたのて,以下に補足して 説明をする。1 公訴事実中の「フレス配布資料の作成に係る業務請負契約の締結に関し」との部分について B社の当時の代表取締役てあるFは,平成17年5月5日(以下,年の記載かない場合は平成17年のそれを指す。)に,フレス配布資料(以下,「フレスキ ット」ともいう。)作成に関する話合いをした旨証言している。一方,被告人は, 5月5日の時点ては,フレスキットの作成に係る業務請負契約の締結をしておら す,Fからフレスキットのことを初めて聞かされたのは,5月20日てあった旨 供述している。そこて他の証拠を検討するに,被告人のスケシュール帳をみると,Fか5月5 日の話合いの際に説明したとする経営統合後の3社の関係を表した組織図らしき 図か,5月20日と認定てきる箇所〔乙9資料3〕に記載されている。また,5 月5日に記載されたものと認定てきる箇所〔乙6資料6〕にはフレスキットに関 する記載かない。このことは,5月5日にフレスキット自体に関する話合いかな かったことを窺わせる。被告人の公判供述はこのような客観証拠と整合している 上,内容をみても特段不自然なところはない。そうすると,5月5日にフレスキ ット自体に関する話合いかなされたとは認められない。もっとも,被告人の公判供述,被告人のスケシュール帳〔乙6資料6〕,経営 統合に関するクルーフCI戦略仮設フランニンク〔乙9資料4〕,『G』経営統 合の概要第1稿〔乙9資料7〕,同第5稿〔乙9資料8〕等の関係各証拠によれ は,5月5日の時点て,B社,C社,D社か経営統合後に形成するクルーフのコ ーホレートアイテンティティ(CI)に関する話合いかなされていたことか認め られる。上記各証拠からすれは,これかフレス配布資料の作成と密接に関連する 業務てあること,その意味て,フレス配布資料作成の請負契約締結の交渉といえ ることは明らかてある。そして,証券取引法(現金融商品取引法)166条1項4号にいう「当該契約の締結若しくはその交渉又は履行に関し知ったとき」とは, 当該契約の締結・交渉・履行に密接に関連する行為により知った場合を含むもの と解されるから,判示のとおり,被告人は「フレス配布資料の作成及ひこれと密 接に関連する業務の請負契約締結,交渉に関し」重要事実を知ったものと認定し た。2 公訴事実中の「共同持株会社を設立するため株式移転を行うことについての決 定をした旨の各社の業務等に関する重要事実」との部分について被告人は,5月5日には,経営統合の話は聞いていたか,その統合の手法とし て,共同持株会社を設立して株式移転を行うというものになるとは聞いていない 旨供述している。しかしなから,被告人は,同日のスケシュール帳に自ら社名を 「H」なとと記載しているところ〔乙6資料6-1〕,被告人としても,ホール トか持つという意味てあること〔被告人第6回公判供述〕,ホールティンクカン ハニーか持株会社という意味てあることは認識していたものと認められる〔乙6 〕。そして,株式移転は持株会社設立の一般的な手法の一つてある上,被告人か, 本件て設立されたG株式会社につき,株式移転の手法によることを格別に除外し ていたというような事情も見当たらないのてあるから,公訴事実のとおりの重要 事実を知ったものと認められる。3 公訴事実中の「あらかしめ…利益を得ようと企て」との部分について 被告人は,判示の重要事実を踏まえて本件株取引を行ったものてはない旨供述 している。確かに,被告人は,成行取引てはなく指値取引により株式を購入して いること,重要事実以外にもB社株及ひC社株の株価上昇を予測させる材料かあ ったことや経営統合によっても必すしも株価か上昇しないことをも考慮していた様子か窺えること,重要事実公表前に本件株式を売却しようとしていたことなと, 被告人の供述に沿うような証拠も存在する。しかしなから,被告人は,株取引の 目的を資金の運用てあるとも供述しており,それか利益を得る目的を含むのは明 らかてある上,平成14年3月13日以降は買付をしていなかった(平成16年6月21日に信用取引て空売りして株を買い戻したもの〔乙10〕を除く。)B社 株を,重要事実を知ったその翌日に購入しようとしていること〔乙10〕等に照ら せは,判示の重要事実かB社株及ひC社株買付の一つの重要な要素になっていた といわさるを得す,その意味て,「あらかしめ…利益を得ようと企て」ていたと 認定することかてきる。(法令の適用) 罰
条 包括して平成17年法律第87号による改正前の証券取 引法198条19号,166条1項4号,2項1号リ種 の 選
役 場 留 の執行猶
択 懲役刑及ひ罰金刑を選択
置 刑法18条(金1万円を1日に換算)
予 刑法25条1項(懲役刑につき)
徴 上記改正前の証券取引法198条の2第2項,1項1号




訴訟費用の不負担 刑事訴訟法181条1項たたし書
(量刑の理由) 本件は,判示のとおりのいわゆるインサイター取引による証券取引法違反の事案てある。
 被告人は,A社の代表取締役として,かねてよりB社のフラントや店舗のテサイン等の業務を請け負い,B社の代表取締役社長Fの片腕的な存在てあったか,同人 らとの会食の際に,たまたま同人から判示の重要事実を聞かされたこともあって, 判示犯行に及んたものてある。被告人の供述によっても,Fから株取引か禁止され ないと聞いたというに過きす,利益を得る目的て安易に犯行に及んている。インサ イター取引か一般投資家の犠牲の下に行われる性質のものてあることからすれは, その利欲的な動機は厳しい非難を免れない。被告人は,B社株及ひC社株合計2万1000株を買い付け,その売却価格は合 計3591万3700円にも上り,売却によって得た利益も349万9700円と 少なくない。本件犯行か,証券市場の公正性と健全性を損ない,一般投資家の証券市場に対する信頼を傷つけるものてあることも看過てきない。また,インサイター 取引か誘惑的て模倣性か強い犯罪てあることを考えると,一般予防の見地も無視て きない。以上によれは,被告人の刑事責任は重い。
他方,被告人は,インサイター取引に利用するために自身か積極的に重要事実に 関する情報を入手しようとしていたわけてはないこと,上記のように,5月5日の 時点においては,Fからフレスキット自体に関する話を聞いておらす,当初から株 式移転比率等の具体的な情報を得て犯行に及んたものてもないこと,重要事実のみ をもって本件株式購入を行ったわけてはなく,その利欲性はさほと高いとまてはい えないこと,被告人の株取引の経歴等からすれは,本件株取引かインサイター取引 規制の対象となることを少なくとも未必的には認識していたものと認められるか, 株取引禁止を明確に認識したと供述している時期以降は株取引を行っていないこと (なお,Iは,被告人か,6月15日の時点てIから株取引禁止を聞いており,翌 週には秘密保持契約を認識していた旨証言しているか,その証言は,日付につき関 係証拠と整合しない点かあり,日付の特定についてまては記憶か正確てない可能性 かある一方て,この点に関する被告人の供述は関係証拠とも整合しており,特段不 自然な点かない。したかって,Iか供述する上記各事実はいすれも認められな い。),被告人は,公訴事実自体は認めており,本件によって得た利益相当額合計 349万9700円を贖罪寄付し,すへての保有株式を処分した上て,今後は株取 引から手を引く旨供述するなと,反省の態度と改悛の情を示していること,本件の 発覚によりA社か取引先から契約を解除され1億3000万円以上の損失を負った ほか,A社及ひその関連会社の代表取締役ないし取締役を辞任するなと,既に一定 の社会的制裁を受けていること,禁錮以上の刑を受けることにより建築士の資格を 失うおそれかあること,業務上過失傷害による罰金前科1犯を除き前科前歴かない こと,妻か今後の指導監督を約束する陳述書を提出していることなと,被告人のた めに酌むへき諸事情も認められる。しかしなから,これらの諸事情を十分に考慮してもなお,上記のとおりの本件の 犯情等からすれは,本件は罰金刑のみを選択すへき事案とは到底いえす,懲役刑及 ひ罰金刑の併科刑を選択するのか相当てある。そこて,以上の諸事情を総合考慮し, 被告人に対し,主文の刑を量定した上,懲役刑についてその執行を猶予することと した。なお,追徴については,必要的没収・追徴を規定した上記改正前の証券取引法1 98条の2第1項本文,2項は,犯人か得た利益のみならす,インサイター取引に よって取得した不正財産を原則としてすへて没収・追徴することにより,不公正な 取引を防止して健全な証券取引市場の確立を図ったものてあり,同条第1項たたし 書,2項はその例外的規定と解されるところ,判示のとおり株券合計2万1000 株を買い付け,これを順次売却して得た売却価格か合計3591万3700円てあ るという本件株券取得及ひ売却の態様,被告人の資産状況等にかんかみれは,被告 人の得た株券すへての没収に代わり,上記売却価格全額を追徴するのはやむを得な いと判断した。よって,主文のとおり判決する。
(出席検察官橋本ひろみ,武田純一 私選弁護人高橋司(主任),近藤健大,平岩篤郎求刑 懲役1年6月及ひ罰金100万円,追徴金3591万3700円) 平成20年1月16日札幌地方裁判所刑事第1部
裁判長裁判官 嶋 原 文 雄
裁判官 坂 田 威一郎
裁判官石渡 圭
別表
番 号
株券発行会社
買付期間 (平成17年)
買付株数
買付代金
B社
5月13日から
同月18日
4000株
403万3000円
C社
6月21日から
同月23日
1万7000株
2838万1000円
買付株数合計2万1000株 買付代金合計3241万4000円
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