平成19年12月26日宣告 平成19年(わ)第206号 税理士法違反被告事件主文 被告人を懲役1年2月に処する。
この裁判が確定した日から2年間その刑の執行を猶予する。
 理由
(罪となるべき事実)
被告人は,平成16年4月ころから任意団体である A 商工会X経理室の室長として,A 商工会法人会員の税務書類作成等の業務に従事していたものであるが, 税理士ではなく,かつ,法律に別段の定めがある場合ではないのに,別紙一覧表 (以下「別表」という。)のとおり,「作成(提出)年月日」欄記載の同年5月3 1日ころから平成18年12月28日ころまでの間,23回にわたり,神戸市a 区 b 通c丁目d番e号所在のB内のX経理室において,同法人会員である「依頼 者」欄記載の株式会社C(代表取締役D)ほか13法人の求めに応じ,税務書類 である「作成税務書類」欄記載の平成15年4月1日から平成16年3月31日 までの事業年度の法人税確定申告書等合計38通を作成し,もって,税理士業務 を行ったものである。(証拠の標目) (省略)
(法令の適用) 被告人の判示各所為は,別表の各番号ごとに,いずれも(同一法人に対する同一時期における法人税確定申告書の作成と消費税等確定申告書の作成とは包括し て)税理士法59条1項3号,52条に該当するところ,各所定刑中いずれも懲 役刑を選択し,以上は刑法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,1 0条により犯情の最も重い判示別表番号23記載の罪の刑に法定の加重をした刑 期の範囲内で被告人を懲役1年2月に処し,情状により同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から2年間その刑の執行を猶予することとする。
 (弁護人の主張に対する判断)1 争点
弁護人は,被告人の外形的な各行為はいずれも争わないものの,1各行為は いずれも税理士法2条にいう税務書類の作成にはあたらず,2仮に税務書類の 作成にあたるとしても,本件期間中,被告人に各行為が違法であることを認識 する可能性はなく,各行為を止める期待可能性もなかったとして,被告人は無 罪である旨主張し,被告人もこれに沿う供述をするので,以下検討する。2 関係証拠によれば,以下の事実が認められる。
 A 商工会及びX経理室の組織概要及び被告人の職歴等
A 商工会は,会員である兵庫県内で商工を営む在日韓国・朝鮮人ないしそ の経営する会社らの依頼を受け,経営指導,会計帳簿の記帳代行等の経理処 理等を行っている任意団体であり,X経理室は,A 商工会の法人会員担当部 署の一つで,兵庫県中部を担当範囲としている。X経理室の構成員は,平成 19年1月当時,室長である被告人のほか,副室長,指導員及び部員(以下 併せて「部員等」という。)合計13名の併せて14名であり,その担当す る法人会員数は約170社であった。室長は,その業務全般を統括しており, 部員等の人事管理,業務計画の立案,部員等が製作(以下,税理士法2条に おける税務書類の作成と区別する必要があるときは「製作」の語を用いる。) した法人会員の法人税等の申告書類(以下「申告書類」と総称する。)の点 検,決済,室長自身が担当する法人会員の経理処理及び税務申告書類の製作, 会計責任者としての金銭の出納管理等をその職務としていた。被告人は,昭和63年に A 商工会に就職してX経理室に配属となり,その 後一貫して同室に所属する中で,簿記2級の検定に合格するなどその業務に 必要な知識経験を蓄え,順次昇進した後,平成16年4月ころから室長とし て活動している。 X経理室の具体的活動内容及び被告人の役割等 本件期間中のX経理室の主な活動内容は,以下のとおりである。すなわち,部員等は,通常,毎月1回程度会員の事業所に赴くなどし,振替伝票,請求 書や領収書等の経理関係書類を預かり,これに基づくデータをX経理室に設 置しているパソコンに入力し,勘定科目を仕分して勘定科目明細等を作り, 更に月次の試算表等を作成する。部員等は,担当する事業所の決算期が近づ くと,税申告に向けて決算内容を整理するため,会員の事業所に赴くなどし て経理関係書類等を預かってX経理室に持ち帰り,その経理データをパソコ ンに入力し,勘定科目の仕分整理をするなどして貸借対照表や損益計算書等 の年次試算表を作り,税申告に必要な決算報告書を作成し,さらに,税務申 告書類の作成ソフトを使用し,当該事業所に係る申告書類を製作する。これ を室長である被告人が点検し,書類の不備等がなければ,申告書類を当該事 業所に持参し,事業主らにその申告内容等を説明し,納得が得られたときは, 同申告書に代表者印を押印してもらい,部員等らがX経理室に持ち帰った上, 室長が最終的に点検し,不備等がないことを確認した上,被告人が保管して いる A 商工会のゴム印を申告書の下部欄外に押印して決済する。その後,事 業主に代わり,部員らが申告書類を税務署に提出して申告手続を行い,申告 内容について税務署から指摘を受ければ,部員らが税務当局に対応する。なお,X経理室の担当する会員の企業規模は様々であり,中には,会員の 代表者等が,確定申告書に添付されている各種別表の内容が理解できない旨 (甲21),税務申告については,指示された銀行の残高証明を用意する以 外のことは全て A 商工会が行ってくれていた旨(甲28),確定申告時期に は,被告人が来社し,税額や合法的な節税方法を説明してくれていた旨(甲 30)各述べるように,税法上の知識がほとんどない者もいた。また,A 商 工会は,会員から,月会費及び決算期に特別会費を徴収しており,その額は, 会員ごとに異なるものの,本件各事実に係る会員の月会費は2万円から10万円,特別会費は5万円から30万円であった。
 3 1税務書類の作成について税理士法2条における税務書類の作成とは,租税に関し,税務官公署に対 する申告等に係る申告書等を自己の判断と責任に基づいて作成することをい い,単なる清書や代書等の機械的作業は含まれないと解すべきところ,上記 2の認定事実,特に,部員等が日頃から会員の経理業務に関与し,会員の決 算期前には経理関係書類を預かるなどして決算報告書等を作成し,これらを 基に申告書類を製作していたこと,会員の中には税法上の知識がほとんどな い者もいたこと,X経理室が会員から決算期に特別会費を徴収していたこと, 被告人が部員等の製作した申告書類を点検の上決済していたこと等によれば, 被告人において,自己の判断と責任に基づいて申告書類を作成していたと認 められる(被告人は,同特別会費はX経理室の維持管理費であり,申告書類 作成の対価ではない旨供述するが,その徴収の時期や額等からして,申告書 類作成の実質的な対価を含むものと認められる。)。この点につき,弁護人は,X経理室ないし被告人が会員に行っていたのは 決算報告書の作成等の税理士法の禁じていない経理会計のサポート業務であ り,申告書類の製作はその一環として税務ソフトを使用して行う機械的作業 にすぎず,申告書類は会員の判断材料として提供する草案ないし準備的書類 であるなどと主張する。しかし,決算報告書等の作成が経理会計業務だとし ても,決算報告書等の項目中の金額を前提として,税務ソフトを用いて申告 書類を作成する場合,一般に,作成者において,同ソフト上で算出された特 定項目の金額に特段の疑義がなければこれをもって同項目についての自己の 判断とする意図であることは明らかであり,殊に本件において,被告人は上 記のとおりその指揮監督する部員等が製作した申告書類を点検し,責任者と して決済していたのであるから,被告人の行為が税法上の判断を要しない機 械的作業であると評価することはできない。会計経理処理と税務処理とを峻別すべきとする弁護人の主張は,その前提を異にし,採用の限りではない。 なお,弁護人は,税務ソフトが広く使用されている現状や自主申告制度の意 義等に鑑み,税理士法上の税務書類の作成の概念を厳格化すべきである旨主 張するが,その現状認識を前提としても,同ソフト使用の有無(現在でも同 ソフトを使用しないで税務書類を作成することがあり得ることは否定できな い。)により税務書類の作成の概念を別異に解するのは相当でなく,同主張 は採用できない。4 2違法性の意識の可能性及び期待可能性の有無について
被告人は,A 商工会への就職後,約20年にわたり,同胞である在日商工業者が経営する会員の経理及び税務に関わる業務に従事しており,自分の仕 事が悪いことなどと考えたことはない旨供述する。同供述は,X経理室その 他の A 商工会が多数の会員を有し,その活動が同種商工業者には相応に認知 され,また,被告人が確定申告書の欄外に A 商工会の印影を表示し,税務当 局からの問い合わせに対応してきたにもかかわらず,これまで税務当局から 税理士法違反であるとの指摘を受けたことはなかったことなどからして,一 概に排斥することはできない。もっとも,仮に被告人において本件についての違法性の認識がなかったと しても,それ自体は被告人の本件における責任ないし故意を阻却するもので はない。そして,被告人は,長年経理及び税務業務に携わり,必ずしも税務 知識に詳しくない会員を相手に,簿記2級を取得するなど業務に関する知識 経験を蓄え,本件当時は既に室長としてX経理室を統括する立場にあったこ と,税理士以外が行うことを禁止されている税理士業務というカテゴリーの 存在自体は認識していたこと,税務当局に会員の税務書類作成に関し,A 商 工会が具体的にどのような形で関わっているのか説明したことはないことな どからすれば,在日商工業者と商工会及び税務当局に関する歴史的経緯等弁 護人が指摘する諸事情を考慮しても,被告人において,本件期間中,税務書類を他人の依頼を受けて作成する行為に税理士資格が必要であり,本件の各 行為が違法であることを認識する可能性は十分に存したと認められ,同様の 理由により,適法行為の期待可能性がなかったとは認められない。5 小括 以上のとおり,本件の各行為が税理士業務にあたり,かつ,被告人に違法性の意識の可能性や期待可能性は十分に認められるから,判示税理士法違反の罪が成立することは優に認められ,弁護人の主張は採用できない。
 (量刑の理由)本件は,任意団体である商工会の一部署の長である被告人が,税理士でないの に,約2年7か月の間に23回にわたり,同商工会の会員である14法人の求め に応じ,税務書類である法人税確定申告書等合計38通を作成したという税理士 法違反の事案である。被告人は,約20年前から A 商工会に勤務し,その職務の一貫として税務書類 の作成等に関与し,途中,X経理室の室長の立場で複数の部下を統括する中で本 件一連の犯行に及んだものであって,その継続性,組織性は顕著であり,会員か ら特別会費等の名目で実質的な対価も得ており,納税秩序の維持及び税理士一般 の品位と信用の保持という見地から税理士独占業務を定める税理士法の趣旨を没 却した程度は小さくない。以上の点に鑑みると,被告人の刑事責任を軽視することはできない。しかしながら,他方,被告人は外形的事実は認めていること,前科がないこと, 保釈までの期間身柄拘束をされていたこと,現在のX経理室において是正措置が 採られていることなど,被告人のために酌むべき事情も認められる。そこで,以上の諸情状を総合考慮し,被告人に対しては,主文の刑に処した上 でその執行を猶予するのが相当であると判断した。(求刑 懲役1年2月)平成19年12月26日 神戸地方裁判所第2刑事部
裁判官 五十嵐 浩 介
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