平成19年(た)第1号 住居侵入,強姦,強姦未遂再審被告事件
主文 Aは無罪。
理由
第1 公訴事実 本件公訴事実は,下記のとおりである。
1 平成14年5月24日付け起訴状記載の公訴事実(以下「本件公訴事実1」という。) Aは,正当な理由がないのに,平成14年1月14日午前8時30分ころ,富山県内所在の被害者B方に侵入し,同所1階廊下において,Bを認めるや劣 情を催し,強いてBを姦淫しようと企て,Bに対し,「後ろを向け。」などと 申し向けて後ろ向きに立たせた上,所携のナイフをBの右頬に突きつけ,ビニ ール紐でBの両手を後ろ手に縛り,タオルでその顔面を覆った上,Bを同所2 階のBの居室まで連行し,同所において,さらにBに対し「警察に言ったら殺 す。」旨申し向け,Bをベッドの上に押し倒し,着衣を剥ぎ取るなどの暴行・ 脅迫を加えてその反抗を抑圧し,強いてBを姦淫したものである。2 同年6月13日付け起訴状記載の公訴事実(以下「本件公訴事実2」とい う。)Aは,女性を強姦する目的で,平成14年3月13日午後2時40分ころ, 富山県内所在の被害者C方1階8畳間において,Cに対し,ビニール紐でその 両手を後ろ手に縛り,「声を出すな。」と申し向けて,付近にあった布をCの 口に押し込み塞いだ上,所携の果物ナイフ(刃体の長さ約9.5センチメート ル)をCの首に押し当て,「騒いだらこれで刺してもいいんだぞ。」などと語 気鋭く申し向け,Cを押し倒して着衣を剥ぎ取り,その陰部を手指で弄ぶなどの暴行・脅迫を加えてその反抗を抑圧し,強いてCを姦淫しようとしたが,Cに抵抗されたためその目的を遂げなかったものである。
 第2 再審公判に至る経緯本件記録によれば,次の事実を認めることができる。
1 Aは,平成14年5月24日,本件公訴事実1で,同年6月13日,本件公訴事実2で,それぞれ富山地方裁判所高岡支部に起訴された(同裁判所同支部 平成14年(わ)第67号,第84号)。同裁判所同支部は,同年11月27日, 下記の事実を認定して,Aに対し,懲役3年,未決勾留日数中130日算入の 有罪判決を言い渡した。記
Aは
第1 平成14年1月14日午前8時30分ころ,盗みの目的で,富山県内所在の被害者B方の無施錠の玄関から屋内に土足のまま侵入し,同所1階廊 下においてBを認めるや,Bを強姦しようと思い,Bに対し,「後ろを向 け。」などと言って後ろ向きに立たせ,所携のナイフ(刃体の長さ約9. 5センチメートル)をBの右頬に突きつけ,所携のビニール紐でその両手 を後ろ手に縛り,タオルでその顔を覆った上,Bを2階のB居室まで連れ て行き,さらに,同所において「警察には絶対言うな。言ったら殺す ぞ。」などと言い,Bをベッドの上に押し倒し,その着衣を剥ぎ取るなど の暴行,脅迫を加えて,その反抗を抑圧した上,強いてBを姦淫し第2 同年3月13日午後2時40分ころ,富山県内所在の被害者C方1階8 畳間において,Cを強姦しようと思い,Cに対し,その両手をビニール紐 で後ろ手に縛り,「声を出すな。」と言って,その口に布を押し込んでそ の場に押し倒し,さらに,所携の前記ナイフをその首に押し当て,「騒い だらこれで刺してもいいんだぞ。」などと語気鋭く言い,着衣を剥ぎ取っ て,その陰部を指で弄ぶなどの暴行,脅迫を加えて,その反抗を抑圧した上,強いてCを姦淫しようとしたが,Cに抵抗されて時間が経過したこと から家人の帰宅を恐れるとともに,泣いているCをかわいそうに思って姦 淫を断念したため,強姦の目的を遂げなかったものである。
2 前記判決に対する控訴はなく,同判決は確定した(以下,同判決の確定までを「確定審」といい,同判決を「確定判決」という。)。その後,Aは,服役 することとなり,平成17年1月13日,仮出獄し,同年7月19日,刑の執 行が終了した。3 富山地方検察庁高岡支部検察官は,平成19年2月9日,富山地方裁判所高 岡支部に対し,Aに対して無罪を言い渡すべき明らかな証拠があらたに発見さ れたとして,確定判決に対する再審の請求をした。同裁判所同支部は,同年4 月12日,前記請求には理由があると認め,確定判決に対する再審開始の決定 をした。前記決定に対する即時抗告はなく,同決定は確定した。第3 当裁判所の判断
1 関係証拠によれば,確定判決は,Aが本件公訴事実1に係る犯行の犯人である点について,Aが,本件公訴事実1に係る犯行を認める供述をし,さらに, 前記犯行を再現したり,その関係箇所を指示説明したりしている(以下,併せ て「本件自白1」という。)こと,Bが,警察官に対し,写真台帳からAの写 真を選んだ上,犯人にとても良く似ている旨,また,Aを透視鏡越しに5分間 見た上,声の感じもそっくりで,犯人にほぼ間違いない旨供述し,さらに,検 察官に対し,Aが犯人に間違いない旨供述している(以下,併せて「B供述」 という。)ことを根拠とし,Aが本件公訴事実2に係る犯行の犯人である点に ついて,Aが,本件公訴事実2に係る犯行を認める供述をしている(以下「本 件自白2」という。)こと,Cが,警察官に対し,写真台帳からAの写真を選 んだ上,犯人に良く似ている旨供述している(以下「C供述」という。)こと を根拠としていると認められる。2 しかし,次の証拠によれば,本件公訴事実1,2に係る各犯行の真犯人はD であると認められる(確定審提出分は「確」と,再審提出分は「再」とそれぞ れ表示する。)。Dの検察官調書(謄本)(再),警察官調書(謄本)(再)及び任意提出書 (再)捜査報告書(謄本)(再)
医師Eの任意提出書(再)
領置調書(再)
鑑定嘱託書(謄本)(再)
鑑定書(再) 「口腔内細胞等の採取について」と題する書面(再) 鑑識資料採取報告書(再,確) 引当て捜査報告書(謄本)(再) 起訴状(謄本)(再)公判調書(抄本)(再)
鑑識資料送付書(謄本)(確)
現場足跡等対照結果通知書(確) 現場足跡相互間対照結果(同種足跡)報告書(確) すなわち,Dは,本件公訴事実1,2に係る各犯行を自白しているが,前記各犯行の状況については具体的な記憶も一部残存しており,前記各犯行の現場 や関係箇所に警察官を案内するなどしていること,平成14年5月5日に石川 県内で発生した強姦事件(この事件における被害者の膣内容物中のヒト精液の DNA型はDの口腔内細胞のDNA型と合致している。)の犯行現場に遺留さ れた足跡と本件公訴事実2に係る犯行現場に遺留された足跡は同種足跡であり, 同一の運動靴により印象されたものであると推定されること,本件公訴事実1, 2に係る各犯行現場に遺留された足跡は同種足跡であり,合致足跡である可能性が認められることなどから,前記自白は十分に信用することができるといえ る。そうすると,本件自白1,2及びB,C供述は,いずれも信用性のないこと が明らかである。また,本件公訴事実1,2について,ほかにもAの犯人性を疑わせる証拠, すなわち,平成14年3月13日午後2時40分ころ,Aが自宅で電話をかけ ていたことを裏付ける証拠(捜査報告書(再))が存在している(前記のとお り,本件公訴事実1,2に係る各犯行現場に遺留された足跡は同種足跡であり, 合致足跡である可能性が認められることからすると,前記各犯行は同一の犯人 によるものである可能性が相当程度認められるから,一方の犯行についてアリ バイが成立すれば,他方の犯行の犯人である可能性も小さくなる関係にあ る。)。なお,再審において,本件公訴事実1,2に係る各犯行を認めるAの検察官 調書(再),本件公訴事実1に係る犯行を認めるAの弁解録取書(再),勾留 質問調書(再)及び警察官調書(再)並びに本件公訴事実2に係る犯行を認め るAの弁解録取書(再),警察官調書(再)及び検察官調書(再)が提出され ているけれども,これらについても信用性のないことは,本件自白1,2及び B,C供述と同様である。3 以上によれば,Aが本件公訴事実1,2に係る各犯行の犯人でないことは明 らかであって,本件公訴事実1,2について犯罪の証明がないことになるから, 刑事訴訟法336条により無罪の言渡しをすることとし,主文のとおり判決す る。平成19年10月10日 富山地方裁判所高岡支部
裁判長裁判官藤田 敏 裁判官源 孝治 裁判官 大野正男
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