平成19年9月14日宣告 平成18年(わ)第2899号,平成19年(わ)第36号 受託収賄,収賄,贈賄被 告事件主文 被告人3名をそれぞれ懲役2年に処する。
被告人A及び被告人Bに対し,この裁判が確定した日から4年間それぞれそ の刑の執行を猶予する。被告人Cから金1200万円を追徴する。
 訴訟費用は被告人3名の連帯負担とする。理由
(罪となるべき事実) 被告人Cは,千葉県D市長として,D市が発注する各種業務委託契約に関し,その発注方法の選択,発注先業者の選定及び契約の締結等の事務を統括掌理する職務 に従事していたもの,被告人Aは,清掃工場の運転管理等を業とする株式会社Eの 代表取締役であったもの,被告人Bは,株式会社Eの取締役であったものであるが, 第1 被告人Cは,1 平成17年1月ころから同年3月ころまでの間,数回にわたり,千葉県D市 a番地C後援会事務所等において,上記Bから,D市発注に係るF清掃工場の 運転管理業務委託契約に関し,平成17年度の同契約の発注方法を株式会社E との随意契約とするとともに,発注金額を同社が希望する金額にするなどの同 社に有利かつ便宜な取り計らいをしてもらいたい旨の請託を受け,平成17年 3月26日ころ,上記事務所において,上記A及び上記Bから,上記請託に関 する謝礼の趣旨で供与されるものであることを知りながら,現金1000万円 の交付を受け,もって,その職務に関し,請託を受けて,賄賂を収受した。2 平成18年3月29日ころ,上記事務所において,上記A及び上記Bから, D市発注に係るF清掃工場の運転管理業務委託契約に関し,平成18年度の同契約の発注金額を上記A及び上記Bが希望する金額にするなどの株式会社Eに 有利かつ便宜な取り計らいをしたことに対する謝礼の趣旨で交付されるもので あることを知りながら,現金200万円の交付を受け,もって,その職務に関 し,賄賂を収受した。第2 被告人A及び同Bは,
1 共謀の上,平成17年3月26日ころ,上記事務所において,上記Cに対し,上記第1の1記載の請託に関する謝礼の趣旨で,現金1000万円を交付し,もって,上記Cの職務に関し,賄賂を供与した。
2 共謀の上,平成18年3月29日ころ,上記事務所において,上記Cに対し,上記第1の2記載の取り計らいをしたことに対する謝礼の趣旨で,現金200万円を交付し,もって,上記Cの職務に関し,賄賂を供与した。
 (法令の適用)被告人Cにつき 罰条
判示第1の1の所為
判示第1の2の所為
併合罪の処理 刑法45条前段,47条本文,10条により重い
判示第1の1の罪の刑に法定の加重をする 追徴 刑法197条の5後段被告人A及び同Bにつき 罰条
判示第2の1及び第2の2の各所為 いずれも刑法60条,198条刑種の選択 判示第2の1及び第2の2の各所為
いずれも懲役刑を選択する
刑法197条1項後段
刑法197条1項前段
併 合 罪 の 処 理
執 行 猶 予 被告人3名につき
訴 訟 費 用 の 処 理 (量刑の理由)
刑法45条前段,47条本文,10条により犯情 の重い判示第2の1の罪の刑に法定の加重をする 刑法25条1項刑事訴訟法181条1項本文,182条
1 犯行に至る経緯等
(1) 株式会社Eは,D市から,平成2年ころから継続的にF清掃工場の運転管理業務を随意契約により受注し,また,株式会社Eやその副社長である被告人 Bは,被告人Cが平成15年4月にD市長に当選して以降,被告人Cの支援団 体である「K同友会」の会員になり,事務員を派遣したり,被告人Cの主催す るパーティーのパーティー券を購入するなどして,資金的な支援をしていた。(2) D市環境部(以下「環境部」という)の職員らは,平成16年5月,D市 議会議員からF清掃工場の管理委託費が近隣の市町村と比較して高額であると の指摘を受けた。そこで,その旨被告人Cに報告するとともに,F清掃工場の 管理委託費について調査・検討したところ,それまでの委託費が高額であると の結論に至ったため,これを契機に,環境部全体の業務委託契約について契約 方法や発注金額を見直すプロジェクトを立ち上げることとし,その旨被告人C に報告しその了承を得た。(3) これにより環境部が業務委託契約の見直し作業を進めたところ,F清掃工 場の運転管理業務委託契約については,下水道施設を管理する契約の委託料を 積算する基準である下水道施設維持管理積算要領を使用することができ,これ によれば現行委託料の約2億6000万円より約1億円低い約1億6000万 円が妥当であるとの結論が出た。そこで,環境部は,その積算額で設計書を作 成し,発注方法も随意契約から競争入札に変更すべきであると判断して,その 旨被告人Cの意向を伺ったところ,平成17年1月7日に,被告人Cもこれを了承して決裁した。
(4) 一方,被告人Cは,これに先立ち,被告人Bや株式会社Eからパーティー券の購入等の資金的援助を受けていたことから,平成16年12月ころ,被告 人Bに対し,環境部がF清掃工場の運転管理業務について発注方法を競争入札 の方向で検討していることを伝えた。(5) その後,平成17年1月初めころ,被告人Bは,F清掃工場運転管理業務 委託契約の担当職員から,平成17年度は競争入札になるので,契約金額も大 幅に減額されるなどと言われた。被告人Bは,株式会社Eの売上げの約20パ ーセントを占めるF清掃工場の運転管理業務を受注できないと会社経営に大き な打撃となることから,これまでの経緯を説明するなどして担当職員と交渉す るとともに,環境部のOBに口利きしてもらうなどして,その方針を変更して もらおうとしたが,受け入れられなかった。そこで,株式会社Eの社長であっ た被告人A及び同Bは,その当時D市長であった被告人Cに依頼すれば,被告 人Cが担当職員に指示するなどして,同社に有利な取り計らいをしてくれるも のと考え,判示第1の1及び判示第2の1のとおり,F清掃工場運転管理業務 について,D市がこれまで通り株式会社Eとの随意契約を継続し,発注金額も 同社が希望する金額にするよう請託した。これを受けた被告人Cは,前記の決 裁を翻し,担当職員らの反対を強引に抑え,同人らに対し,発注方法について, これまで通り株式会社Eとの随意契約を継続するように指示した上,発注金額 についても,前記の積算価額を基準に交渉を進めていた担当職員らに対し,株 式会社Eの希望を容れるよう強く指示した。その結果,株式会社Eは,F清掃 工場の運転管理業務について,随意契約によりほぼ希望通りの金額である2億 3398万2000円の金額で受注し,被告人Cは,その謝礼として被告人B らから現金1000万円を受け取った。(6) その後,環境部は,平成17年5月に社団法人Lが廃棄物処理施設維持管 理業務に関する統一的な積算基準を発表したことから,これに基づきF清掃工場運転管理業務について積算したところ,委託金額については概ね2億円が妥 当な金額であるとの結論に達した。そこで,その旨被告人Cに報告するととも に,平成18年度におけるF清掃工場運転管理業務委託契約の契約金額は,2 億円台を目標に株式会社Eとの交渉を開始した。一方,被告人Bは,2億20 00万円から2億3000万円の範囲の契約金額を念頭に担当職員と交渉した が,交渉が難航し,契約金額が希望通りの金額でまとまらなかった。そのため, 被告人A及び同Bは,判示第1の2及び判示第2の2のとおり,被告人Cに対 し,前年度と同様,株式会社Eの希望する金額で契約が締結できるよう依頼し, これを受けて被告人Cは,担当職員らに前年度より1000万円程度減額した 金額で合意するよう強く指示した。その結果,株式会社Eはほぼ希望通りの金 額である2億2155万8400円の金額で受注し,被告人Cは,その謝礼と して被告人Bらから現金200万円を受け取った。2 被告人Cの情状について
(1) 被告人Cは,D市長として市民から市政を委ねられた身でありながら,その職責を何ら省みることなく,市長としての権限を利用し,一私企業の利益を 図るため,二度にわたり,被告人Bらの依頼に応じ,本件業務委託契約に関し, 担当職員らに強く指示してほぼその希望に沿った契約を締結させるとともに, その報酬として多額の賄賂を収受したもので,本件各犯行は市民の市政に対す る信頼を著しく失墜させ,本来公正であるべき市政の適正な運営を著しく歪め た悪質な行為である。収受した賄賂も,合計で1200万円と多額である。ま た,被告人Cは,公務の廉潔性を害し,市民の市政に対する信頼を失墜させた だけでなく,本件業務委託契約を適正なものとし,経費を削減しようとしてい た職員らの努力を無視し,むしろこれらを無に帰せしめたのであって,職員の 士気に与えた悪影響も無視し得ないばかりか,株式会社Eの希望に沿った契約 を締結することにより,市財政に少なからざる損出を与えたことも容易に推認 でき,生じた結果も重大である。現今,公務員が特定企業と癒着して公務の公正を歪め,国民の政治不信を招 いた例が多いことから,公務員に対してはこれまで以上に高い倫理意識が求め られている上,厳しい財政状況の折,これまで以上に無駄を廃した公費の適正 な運用が求められているのであって,このような状況において,被告人Cが, あえて一私企業の利益を図るため本件各行為を行ったことについては強い非難 が加えられてしかるべきであり,その社会的影響も無視できない。被告人Cが本件各行為を行ったのは,それまでパーティー券の購入等で何か と支援を受けていた被告人Bらの依頼に応じれば,その後も被告人Bらから資 金的援助等を受けられるのではないかなどと期待してのことであり,また,当 時返済期限の迫っていた和解金の返済資金を捻出するなど専ら個人的な使途に 供する資金を作るためである。被告人Cは,このように,市長としての責任を 顧みず,専ら自己の利益を図って本件各行為を行ったもので,その自己中心的 で利欲的な動機に酌量の余地はない。しかも,被告人Cは,当公判廷において,判示第1の1の事実につき,発注 方法を従前通りの随意契約としたのは,被告人Bの働きかけが原因ではなく, F清掃工場の現状等を考慮した市長としての政治的判断の結果であると供述す るとともに,本件各賄賂も政治献金と認識していたと受け取れるような供述を している。しかし,前記のように,被告人Cはいったん入札への変更案を了承, 決裁しておきながら,被告人Bからの請託を受けた後に随意契約の継続を主張 し始めたのであり,また,捜査段階においては,被告人Bから請託を受けたの で担当職員に随意契約を継続するよう指示した旨供述していたのであるから, 被告人Bの請託が原因となっていることは明らかである上,政治献金と認識し ていたなどという主張は,被告人質問において突然出てきたもので,いずれも 信用できるものではない。このような供述に接すると,被告人Cが自己の責任 の重大さをどれだけ自覚し,本件を反省しているのか疑問なしとしない。また,被告人Cは,本件各犯行において,自ら賄賂を要求してはいない。しかし,被告人Cが,判示第1の1の犯行の際,環境部内部で入札に移行する動 きが出ていることを自発的に被告人Bに知らせていたことなどからすると,被 告人Cは,もともと株式会社Eと癒着した関係にあったと言わざるを得ないの であり,本件各犯行は,このような両者の癒着関係が温床となっていたのであ るから,被告人Cにも本件各犯行に至った原因の一端がある。以上によれば,被告人の刑事責任は相当に重いというほかない。
(2) そうすると,本件各犯行においては,贈賄側である被告人A及び同Bが受 注を失わないようにするという目的を達成するため賄賂の提供をもちかけたも ので,被告人Cから積極的に賄賂を要求したのではないこと,被告人Cが,本 件によって逮捕された直後に自ら市長職を辞し,その後D市に対して300万 円を支払って,市政に対する不信感を市民に与えたことについて謝罪の意思を 表明していること,罰金前科1犯以外には前科がないこと,D市長として約3 年7か月間務めた間,近隣の町村との合併や新しい清掃工場の建設事業等,D 市に貢献する職責を相応に果たしてきたことなど,被告人Cのためにしん酌することのできる事情を十分考慮しても,主文の実刑は免れない。
 3 被告人A及び同Bの情状について(1) 被告人A及び同Bは,F清掃工場の受注業務が株式会社E全体の売上げの 相当部分を占め,これを失うと同社の営業に大きな打撃となることから,本件 契約を継続するとともに,これによる利益を確保するため,被告人Cに二度に わたり賄賂を供与し,希望通りの金額で受注契約をしていたもので,本件各犯 行は本来公正であるべき市政の運営を贈賄によって歪め,D市民の市政に対す る信頼を著しく損なった悪質な行為である。贈賄の額も,合計で1200万円 に上るなど多額であり,金の力によって市政を私物化したと批判されてもやむ を得ない。しかも,被告人A及び同Bは,自分たちの意のままに市政を動かし, その経営する企業の利益を追求するために本件各行為を行ったもので,その利 欲的・自己中心的な動機に酌量の余地はない。ところで,被告人A及び同Bは,本件清掃工場の管理業務は,株式会社Eが 当初D市側から頼まれる形で受注するようになり,その後も長年継続して受注 してきたところ,平成16年になって突然,担当職員らから入札に変更する旨 告げられた上,察知した予定価格の金額もそれまで受注してきた金額より著し く低廉であったばかりでなく,その積算根拠も合理性を欠く不当なものであっ たことが背景にあると主張するようである。しかし,環境部は他の自治体でも 使用されていた下水道施設維持管理積算要領を基に積算していたものであり, また,何が適正な価格かは公正な自由競争の結果決まるものであることを考慮 すると,環境部の予定していた価額が不当であるなどとは軽々に言えず,この ような事情をもって本件各行為を正当化できないことは言うまでもない。また, 被告人A及び同Bは社員の雇用を守るためにやむを得なかったなどとも主張す るようであるが,被告人A及び同Bらが高額の役員報酬を取得していることな どを考慮すると,その主張には疑問が残る。以上によれば,被告人A及び同Bの刑事責任も重いというほかない。(2) しかしながら他方,被告人A及び同Bは,本件各犯行について素直に事実 関係を認め,それなりの反省の態度を示していること,被告人Aにはこれまで 前科がなく,被告人Bにも罰金前科2犯以外には前科がないこと,被告人両名 の妻がそれぞれ監督を約束していることなど,被告人両名のためにしん酌することのできる事情もある。 そこで,これらの事情を総合考慮するときは,被告人A及び同Bについては,それぞれ主文のとおり刑の執行を猶予するのが相当である。
(求刑 被告人Cにつき懲役3年6月,金1200万円の追徴,被告人A及び同B につきそれぞれ懲役2年6月)平成19年9月14日 千葉地方裁判所刑事第3部
裁判長裁判官 栃木 力
裁判官 古 閑 美津惠
裁判官 佐藤由紀
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