主文
1 緑税務署長が平成12年4月27日付けで申立人に対してした,平成6年分及び平成7年分の所得税に係る各更正処分及び各重加算税賦 課決定処分,並びに各同年度の消費税に係る各賦課決定処分及び各重 加算税賦課決定処分(ただし,いずれも平成17年11月25日付け の各更正処分及び各重加算税賦課変更決定処分により一部取り消され た後のもの)に係る各滞納国税を原因として,東京国税局長が別紙物 件目録1及び2記載の各物件について行う公売は,当庁平成16年(行 ウ)第41号所得税更正処分等取消請求事件の第1審判決の言渡しが あるまで,その手続の続行を停止する。2 申立費用は相手方の負担とする。
 理由
第1 申立て 東京国税局長が別紙物件目録1及び2記載の各物件について行う公売手続の続行を停止する。
 第2 事案の概要
1 事案の要旨 緑税務署長はA有限会社等の名称で行われていた中古外国産自動車の販売等に係る所得及び売上を申立人個人に帰属するものと認定し,平成12年4月2 7日付けで,申立人に対し,平成6年分及び平成7年分の所得税について各更 正処分及び各重加算税賦課決定処分をし,また各同年度の消費税についても各 賦課決定処分及び各重加算税賦課決定処分をした(なお,上記各課税処分については,いずれも平成17年11月25日付けで一部が取り消されている。以 下,上記取消後の課税処分を併せて「本件各課税処分」という。)。本件は,申立人が上記各所得及び各売上は申立人個人に帰属するものではな く,A有限会社等の会社に帰属するものであるとして,本件各課税処分の取消 しを求めて本案訴訟(当庁平成16年(行ウ)第41号事件)を提起するとと もに,東京国税局長が別紙物件目録1及び2記載の各物件(以下「本件各物件」 という。)について行う公売手続の続行を停止することを求めた事案である。2 基礎となる事実
(1) 本件各課税処分の経緯等
ア 申立人は,下記イの事業に係る収入を収入金額に含めないで,平成7年 3月15日に平成6年分の所得税の確定申告をし,また,平成8年3月1 1日に平成7年分の所得税の確定申告をした。その後,申立人は,平成8 年5月16日に平成7年分の所得税について,所得控除の金額を減額する 旨の修正申告をした(疎甲23,24)。イ 緑税務署長は,A有限会社,B有限会社,C有限会社及びD有限会社等 の名称で行われていた中古外国産自動車の販売及び貸金業に係る所得は申 立人個人に帰属すると認定して,平成12年4月27日付けで,申立人に 対し,平成6年分及び平成7年分の所得税について各更正処分をするとと もに,各重加算税賦課決定処分をした(疎乙33の1及び2)。ウ また,緑税務署長は,上記販売及び貸金業に係る売上を申立人個人に帰 属すると認定して,同日付けで,申立人に対し,平成6年分及び平成7年 分の消費税について各賦課決定処分をするとともに,各重加算税賦課決定処分をした(疎乙33の3及び4)。
エ 申立人は,平成12年6月19日,緑税務署長に対し,上記各課税処分について異議申立てをしたが,緑税務署長は,異議申立てがされた日の翌 日から起算して3か月を経過してもこれに対する決定をしなかった。そこで,申立人は,平成15年4月8日,国税不服審判所長に対し,上 記各課税処分について審査請求をし,国税不服審判所長は平成18年6月 23日付けで上記審査請求を棄却する旨の裁決をした(疎乙35)。なお,申立人は,上記裁決に先立つ平成16年8月10日,上記各課税 処分(ただし,下記オの各処分により変更された後のもの。本件各課税処 分)の取消しを求めて本案訴訟を提起した(疎甲23,24)。オ 緑税務署長は,平成17年11月25日付けで,申立人に対し,平成6 年分及び平成7年分の所得税について,事業所得の金額を減額等する旨の 各再更正処分をするとともに,各重加算税賦課変更決定処分をした。また,緑税務署長は,同日付けで,申立人に対し,平成6年分及び平成 7年分の消費税について,控除対象仕入税額を増額等する旨の各更正処分 をするとともに,各重加算税賦課変更決定処分をした。(2) 滞納処分の経緯
ア 緑税務署長は,平成12年4月27日,前記各課税処分に係る国税について,国税通則法43条3項に基づき東京国税局長に徴収の引継ぎを行った。
イ 東京国税局長は,同日,同年5月29日が納期限であった同課税処分に係る国税について,同法38条1項5号に基づき同年4月27日を納期限とする繰上請求をした(疎乙9)。
ウ 東京国税局長は,同日,申立人に対する国税債権を徴収するため,国税徴収法47条1項,68条に基づき,本件各物件を含む申立人所有に係る 別紙物件目録記載の各物件を差し押さえた(疎乙10ないし14)。なお,本件各物件は申立人及びその家族が自宅として利用しているもの である(疎甲1,2,9,10)。エ 上記差押えの原因となった国税債権には,前記各課税処分に係る国税の ほか以下の各国税(以下「訴外各国税」という。)が含まれていた(疎甲 3,25ないし28,疎乙32,34)。(ア) 平成7年4月分ないし同年12月分の源泉所得税に係る本税1741万9233円,不納付加算税173万8000円及び延滞税 なお,上記本税はその後一部が納付され,現時点での滞納額は242万0033円となっている。
(イ) 平成11年分の所得税に係る延滞税 2万1000円
オ 東京国税局長は,平成18年9月26日付けで,申立人に対し,上記各 物件を近日中に公売する見込みであるから,早急に上記エの国税債務を完 納するように求める公売予告通知を行った(疎甲3,疎乙15)。カ 東京国税局長は,平成19年4月4日付けで,申立人に対し,国税徴収 法96条に基づき,同年5月8日に別紙物件目録記載1ないし7の各物件 を公売する旨を通知した(疎甲25ないし28)。3 当事者の主張
(1) 申立人は,本件各物件は立地や使用資材を吟味して建築された申立人及びその家族の自宅であり,家族で長年居住しており,近隣との付き合い等を 含めて特別の愛着,思い入れがあるものであって,公売によって転居を余儀 なくされるとなると申立人は重大な経済的,精神的な損害を被るから,申立 人には公売手続の続行を停止することにつき「重大な損害を避けるため緊急 の必要がある」(行政事件訴訟法25条2項)旨主張する。その上で申立人は,本件申立ては本案で取消しを求めている本件各課税処 分に係る滞納国税に対応する公売手続の続行の停止を求めているにすぎず, 当該部分の公売手続の続行が停止されれば,その余に訴外各国税の滞納があ るとしても本件各物件の公売は国税徴収法48条1項の超過差押えの禁止の 原則に反することになるから公売は許されないこととなると主張し,相手方 が主張する下記2の主張に対しては,国税局が争いのない滞納国税を争いの ある滞納国税とともに滞納税金目録に記載して公売すれば滞納者は執行停止 の申立てが不能となるということになり,極めて不合理である等と反論して いる。(2) これに対して,相手方は,1 本件各課税処分に違法はなく,本件申立て は「本案について理由がないとみえるとき」(行政事件訴訟法25条4項) に当たる,2 本件申立ての対象となる滞納処分の基礎たる租税債権の一部 について本案訴訟が存しないから,本件申立ては不適法である,3 本件申 立ては「重大な損害を避けるため緊急の必要があるとき」(同条2項)に該 当しない等と主張している。第3 当裁判所の判断
1 本件申立ての適法性について
相手方は,本件申立ての対象となる滞納処分の基礎たる租税債権の一部につ いて本案訴訟が存しないから,本件申立ては不適法である旨主張するので,ま ずこの点について検討する。(1) 行政事件訴訟法25条2項は,裁判所が処分の効力,処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止を命ずるための要件として当該処分について 取消しの訴えが提起されていることを挙げている。本件申立ては既に滞納処分が開始されている不動産の一部(本件各物件) について続行の停止を求めるものであり,上記の規定からすれば,本件各課 税処分の取消訴訟が提起されていることをもって上記「取消しの訴え」が提 起されているといえるかが問題となる。この点,もともと課税処分と滞納処分とは別個の処分ではあるが,国税徴 収法47条にいう財産の差押えは国税が完納されないときに行われるもので あり,同法94条にいう公売は差押財産を換価して滞納国税に充当するため に行われるものであるから,滞納処分は課税処分の続行手続としての性質を 帯びたものといえる。してみれば,本案訴訟として課税処分の取消訴訟を提 起し,当該課税処分に係る国税の滞納を原因とする滞納処分の続行の停止を 求めることは,行政事件訴訟法25条2項にいう処分に係る「手続の続行の 停止」を求めるものとみることが可能である。したがって,本案訴訟として 課税処分の取消訴訟を提起していれば,当該課税処分に係る国税の滞納を原 因とする滞納処分の続行の停止を求めることは許されるものと解される。(2) 次に,本件における本件各物件の差押えや公売(疎甲25,疎乙10, 15)といった滞納処分における手続は,本件各課税処分に係る国税の滞納のほか,訴外各国税の滞納をも原因としており,申立人はこれら訴外各国税 に係る課税処分等については取消訴訟を提起していない。前述のことからすれば,本件各物件の差押え及び今後予定されている本件 各物件の公売は,本件各課税処分の続行手続であるとともに,訴外各国税に 係る課税処分等の続行手続ともいい得るから,本件各課税処分の取消訴訟が 提起されていることを根拠として本件各物件についての公売手続の続行を停 止することは,訴外各国税に係る課税処分等の手続の続行を根拠なく妨げる こととなる。したがって,本件申立てに基づいて訴外各国税に係る課税処分 等の続行手続でもある本件各物件についての公売手続の続行を停止すること ができないことは明らかである。(3) この点について申立人は,本件申立てにおいては本件各課税処分を滞納 国税とした公売手続の停止を求めているにすぎない旨主張している。上記のように,本件各物件について進行中の滞納処分は,本件各課税処分 の続行手続であるとともに,訴外各国税に係る課税処分等の続行手続でもあ るということができるが,手続としては一体のものとして続行されており, 本件各課税処分に係る国税の滞納を原因とするものと,訴外各国税の滞納を 原因とするものといったように,本件各物件のそれぞれについて,各滞納国 税ごとに複数の差押えや公売の処分があるわけではない。このようにみたと きに,申立人の主張する本件各課税処分に係る滞納国税を原因とする公売手 続というものを独立に観念し得るかは疑問の余地がないでもない。しかしながら,滞納処分は滞納国税があることを原因として実施されるも のであり,複数の滞納国税を原因として一つの手続としての滞納処分が行われているとしても,その租税債権間に特別の関連性が必要とされているわけ ではなく,もともと各滞納国税ごとに滞納処分を実施することが可能である ことからすれば,このような滞納処分は各滞納国税を原因とする手続が重畳 的に実施されており,各滞納国税ごとに可分なものと考えることができる。むしろ,滞納処分の原因となっている複数の滞納国税のうち,一部の滞納 国税に係る課税処分が取り消された場合や,一部の滞納国税が国税通則法1 05条1項ただし書に該当し,同国税の滞納を原因とする換価ができない場 合等のことを考えてみると,手続が一体として進められているからといって, これらを一体,不可分なものとして問題のない滞納国税に係る滞納処分まで 解除したり,換価を控える必要もないと考えられることからすると,上記の ように手続が重畳的に行われており,各滞納国税ごとに可分なものとみるの が相当というべきである(ちなみに,国税徴収法基本通達79条関係11に よれば,2以上の滞納国税により,同一の差押調書で差し押さえている場合 において,ある国税に対応する差押えを解除する必要があるとき(例えば, 不服申立てに伴う換価制限があるとき)は,税務署長等は,差押えに係る国 税の一部を解除することができるとされており,このような扱いも上記で述 べたことに沿うものといえる。)。そして,特定の滞納国税に対応する部分 の滞納処分手続の続行を停止するとした場合の処理については,当該滞納国 税を除いた他の滞納国税を原因とする滞納処分として手続を続行すれば足 り,それによって格別の支障が生じるとも解されない。してみると,申立人が主張している本件各課税処分に係る滞納国税を原因 とし,これに対応した公売手続の続行の停止ということは理論的には可能というべきであり,この点に関する相手方の主張は採用できない。
(4) なお,申立人が主張しているように本件各課税処分に係る滞納国税を原 因とし,これに対応する部分の滞納処分の続行の停止が可能としても,上記 のとおり,本件で訴外各国税を原因とする滞納処分の続行を停止する余地は ないのであるから,このような申立てをすることの法的利益ということが問 題となるが,申立人としては本件各物件が公売されることを防止すべく訴外 各国税を完納しようと努力しており,上記のような決定を得ておけば,公売 手続が完了するまでに訴外各国税を完納することによって当面の目的を達し 得るのであるから,このことからしても申立人には上記のような申立てをする法的利益があるものと認められる。
2 行政事件訴訟法25条が定めるその他の要件について
(1) 相手方は,本件申立ては「本案について理由がないとみえるとき」(行 政事件訴訟法25条4項)に当たる旨主張する。しかし,本案事件は所得税法12条及び消費税法11条が適用されるかど うか,すなわち,A有限会社等の名称で行われていた中古外国産自動車の販 売等に係る所得及び売上が申立人個人に帰属するものであるかどうかが争わ れているものであるが,疎明資料(疎甲11ないし24,疎乙1ないし8, 16ないし29)によれば,A有限会社等は相当数の従業員を擁し,法人名 で自動車の売買取引を行い,少なくとも一部の財産は法人名で管理されてい たことが一応認められるのであって,これらの事情に照らすならば,一概に 「本案について理由がない」ということはできない。また,本件各課税処分に係る滞納国税を原因とする本件各物件についての滞納処分の続行を停止することが,公共の福祉に重大な影響があるとまでの疎明はない。
(2) また,相手方は,本件申立てについて 「重大な損害を避けるため緊急の必要があるとき」(行政事件訴訟法25条2項)には該当しない旨主張 する。しかし,疎明資料(疎甲1,2,9,10)によれば,本件各物件は,申 立人及びその家族が長年自宅として使用しているものであり,申立人にとっ て強い愛着のある物件であることが認められ,これが公売され,その留守家 族において転居を余儀なくされる(申立人本人は静岡刑務所に収容中)とい うことになれば,事後的な金銭賠償だけでは償い切れない損害が発生するも のと一応認められるから,行政事件訴訟法25条2項にいう「重大な損害」 が生じるものと解される。3 結論 以上のとおりであって,本件申立ては理由があるから,これを認めることとして,主文のとおり決定する。
 平成19年4月25日
横浜地方裁判所第1民事部
裁判長裁判官 河村吉晃
裁判官 植村京子
裁判官 高橋心平
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