主文
1 原告らの本訴各請求を全部棄却する。
 2 訴訟費用は,原告らの負担とする。事実及び理由
第1 請求
1 主位的請求
(第一次請求)
 被告は,原告A及び原告Bに対し,金1042万2783円及びこれに対する平成15年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(第二次請求)
 被告は,原告Bに対し,金1042万2783円及びこれに対する平成15年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 予備的請求被告は,原告Bに対し,金1042万2783円及びこれに対する平成15 年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。第2 事案の概要
1 本件は,原告らが,被告との間に締結された請負契約(以下「本件請負契約」という。)に基づきa市b地内にあるc西側市道の整備工事(以下「本件 工事」という。)を施工,完成させたにもかかわらず,被告がその代金を支払 わないとして,被告に対し,主位的に,原告らの不可分債権として(第一次 請求),仮にそうでないとすれば,原告Bの債権として(第二次請求),本件 請負契約に基づき,その代金1042万2783円及びこれに対する平成1 5年4月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の 支払を求め,予備的に,本件請負契約の締結が認められないとしても,被告は原告Bの損失において同工事代金相当額を不当に利得したものであるとし て,原告Bが被告に対し,不当利得返還請求権に基づき,被告が利得した同 工事代金相当額である金1042万2783円及びこれに対する平成15年 4月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払 を求めた事案である。2 前提事実 当事者間に争いがない事実に加え,証拠と弁論の全趣旨によれば,次の事実が容易に認められる。
  当事者及び関係者
ア 原告Aは,土木工事,建築工事,舗装工事,水道工事などの設計,施 工及び監理などを目的とする会社であり(甲1),原告Bは,土木工事, とび,土工工事の設計,施工,監理などを目的とする会社である(甲2)。被告は,地方公共団体たるa市である。
イ Cは,本件工事施工当時,原告A及び原告Bの取締役であったが(甲1,2),実質的に原告らを経営し,事実上その代表者として,原告らの 契約の締結,代金支払の請求等の対外的業務を行っていた(証人C,弁 論の全趣旨)。なお,Cは,本件口頭弁論終結後の平成19年1月30日, 原告Aの代表取締役に就任した(記録上明らかな事実)。ウ 被告のD課(時期により課の名称が異なるが,「D課」で統一する。) は,主として,a市道の維持保全をその職務とする部課室である(乙3 8,乙42)。Eは,平成13年4月から平成15年3月末までD課係長の職にあり, 同課の担当する工事の発注に多く関わっていた(乙38)。Fは,Eの後 任であり,平成15年4月1日からD課係長の職にある(乙40)。Gは,平成14年4月1日にD課の課長に就任し,平成16年3月31日まで同職にあった(乙44)。
エ 被告H課は,主として,a市道の認定,区域変更,廃止,境界確定等の市道の管理をその職務とする部課室である(乙39)。
 Iは,平成13年4月1日にH課課長補佐に就任し,平成15年4月1日から課長の職にある(乙39)。 オ Jは,b町内会長である。b共同墓地管理組合は,b墓地を使用している7つの町内会により組 織されている組合である(証人J)。 本件工事の概要
ア 本件工事の現場付近は,別紙図面(甲48の添付図面)のとおりである。本件工事は,同図面の橙色部分に当たるa市道の整備工事(路肩工 事)であり,平成15年2月下旬から同年3月末にかけて原告Bが施工 し,これを完成させた。ただし,被告の完成検査は行われていない。イ ところで,別紙図面の黄色部分は,幅員約4メートルのa市道であり, 平成14年当時,既に整備済みであったが,その先の水色部分,橙色部 分及び緑色部分の市道(以下,その市道の全体を「本件市道」といい, 上記黄色部分等以下を順次本件市道の「黄色部分」等という。)は未整備 であった。同図面の駐車場(以下「本件駐車場」という。)付近には,b 共同墓地管理組合が管理する墓地があり,そのため,b町内会では,か ねてより上記未整備市道部分の整備を被告に陳情していたが(甲4の1, 29),同年9月ころに至り,同管理組合が原告Bに対し,本件駐車場, 同駐車場と本件市道橙色部分との間の斜面及び同市道部分の排水溝に係 る工事(以下「本件駐車場等工事」という。)を代金300万円にて発注 し(甲37,38),また,被告も原告A(又は原告B)に対し,本件市 道の緑色部分の整備工事(以下「本件緑色部分工事」という。)を代金72万5550円にて発注し(乙57),同原告は,同年10月ころまでに上記各工事を施工してこれを完成させた。
  小規模工事についてア 小規模工事に関する諸法令 地方自治体における契約の締結は,原則として一般競争入札方式によることとされ,こうした競争入札方式によることなく任意に特定のもの を選んで契約を締結する随意契約方式は例外とされている(地方自治法 234条)。この随意契約方式が認められるのは,特定の者にしか履行を 期待し得ないもの,特定物の購入等「その性質又は目的が一般競争入札 に適さないものをする」ときなど限られた場合である(地方自治法施行 令167条の2第1項各号)。被告においては,同項1号及び地方自治法施行令別表第5の規定に基 づき定められたa市契約規則22条1号により,工事の請負については, その金額が130万円の範囲内のものに限り,随意契約方式による契約 の締結が認められている(乙1)。そして,被告は,このような代金13 0万円未満の小規模工事について,「a市小規模工事取扱要領」を定め(乙 2),施設等の新設,改良及び維持修繕工事で一定の要件を満たすものに ついてこれが適用されるものとしていた(2条)。同要領によれば,担当 者は,同要領2条に該当する小規模工事を発注する場合,課長の決裁を 受けなければならないとされ,課長は,a市競争入札参加資格及び審査 等に関する規程5条の規定により,建設工事の請負契約に係る参加資格 を有すると認めたものの中から指名業者を選定し,指名選定会の議を経 なければならないとされている。そして,課長が指名業者を選定したと きは,小規模工事発注指示書により,当該指名業者から見積書を徴し, これを精査し,適当と認めたときは,当該指名業者を請負人と決定することができるとされている(4条)。なお,請負契約の締結は,契約書によらなければならない(5条)。 イ 小規模工事制度の実際の運用ところが,被告においては,平成4年の小規模工事取扱要領の全面改 正を契機として,小規模工事に係る上記諸法令の定めを逸脱した運用が 行われるようになり,小規模工事の範囲を超える工事であっても,小規 模工事制度を利用し,入札に付さないで,随意契約を締結して工事を発 注し,130万円を超える差額は,次の工事の発注の際に調整するとの 運用がされたり,あるいは,路肩が崩れかけている,転落事故が発生し 危険であるなどの事情で早期施工の必要性が高い場合等にあっては,工 事を区分して各工事の代金を130万円未満に抑えた上,これを随意契 約で発注し,支払手続は複数の小規模工事で発注した形で処理するとの 運用がされたりするようになった。そして,平成11年度ころからは, 大規模工事で当然入札に付すべき工事であっても,早期施工の必要性が 高くない場合にまで複数の小規模工事に分割してこれを発注,施工する ようになり,特に,原告らの事実上の代表者であるCとの関係で,この ような発注,施工の方法がとられることが多くなっていった。そのようなCが関与する工事にあっては,まず,地元町内会からの要 望を受け,EらD課の担当者が現地に出向いて調査をすることから始ま るが,現地には町内会長等の地元関係者や時にCの経営する会社の従業 員が集まっており,これら関係者から執拗に工事施工を求められるため, Eらがついこれを承諾することとなりやすく,一旦工事施工が決まると, その場に上記従業員らCの関係者がいることから,同人の経営する会社 にこれを発注せざるを得ない状況にあった。そして,その場合,Cは, 大規模工事でもこれを分割して小規模工事としての発注を求めることが多く(なお,その場合,1区画の工事を1本と呼んでいた。),工事完了 後は,自ら考える本数分の工事写真帳と工事出来形図を提出し,その本 数分の工事代金の支払手続をとるよう求めていた。このようなことから, Cの関係する工事においては,代金も,請負業者も決められないまま工 事の発注と施工が先行し,工事完了後,Cが提出する上記資料に合わせ, D課において,工事請負請書,着手届,完工届等の必要書類が作成され るのが常態となっており,また,小規模工事においても必要とされる相 見積書も,Cの関係する会社のものだけが提出されているほか,これら の小規模工事を一度に支払処理に回すと,工事写真から同一場所での工 事であることが分かり,会計課に怪しまれるため,少しずつ支払処理に 回したり,工事名や工事場所の位置図に変更を加えたりするなどして, D課による事態の隠蔽が図られていた。なお,Eら担当者が現場において口頭で発注した場合,担当者は,現 場報告書を作成して課長に報告し,その決裁を受けることとされていた が,平成12年度及び平成13年度当時,D課の課長は小規模工事の施 工を担当者任せにしており,そのため,Eらは,簡単に同課長の決裁を 受けることができた(乙38,乙41ないし43,証人E)。ウ 小規模工事問題について 平成14年4月1日,GがD課長に就任した。Gは,当初大規模工事を小規模工事に分割して発注していることを知らなかったが,部下の話 や他業者からの指摘からその疑いをもち,同年7月から8月初めころ, 部下に対し,現地において,口頭で工事の発注をしないよう指示し,さ らに,そのころ予算不足が表面化したことから,調査に当たった結果, 上記分割発注の事実を知った。そこで,Gは,上司に補正予算の編成を 依頼するとともに,同課内において,部下に対し,新規の工事発注については,緊急性と必要性のあるものを課内で検討した上,これを発注す ることとし,部下に対し,その趣旨を徹底するよう指示し,上記補正予 算も同年9月議会において成立した(乙38,乙43ないし46,証人 E)。その後,平成15年2月7日に至り,当時のKa市長は,同市監査委 員に対し,上記補正予算の編成に当たり,D課の所管に係る小規模工事 の執行状況について,その件数及び執行額が増加している反面,小規模 工事以外の工事の件数及び執行額が減少していることが判明したことを 理由として,平成12年度及び平成13年度における小規模工事予算の 執行状況について監査を要求した。同市監査委員は,同年4月30日, 監査結果を報告し,その中で,工事名や位置図の場所で工事が施工され ていないにもかかわらず,工事が実施されたとしているもの,路肩整備 工事等において,複数の小規模工事に分割して施工されているもの,平 成13年度施工工事を平成14年度予算で支払っているものがあるなど との指摘をし,今後の業務執行の改善をするよう意見を提出した(乙4 7,48)。3 争点
 本件請負契約の成否(争点1)
 本件請負契約の代金額(争点2)
 不当利得返還請求における利得の有無(争点3)
4 争点に関する当事者の主張
 本件請負契約の成否(争点1)
(原告の主張)
ア 本件請負契約に至る経緯
b町内会は,被告に対し,本件市道の整備を行うよう再三にわたり要望していたが,平成14年5月17日,町内会長であるJは,L市議会 議員の立会いの下,他の案件とともにあらためてその陳情をした。Jは,同年8月の盆ころ,本件工事現場付近においてEと会い,本件 工事の実施を要望したところ,Eは,本件駐車場からの排水が直接本件 市道に流れ落ち,さらに個人所有地内に設けられた水路に流れ込んでい たことから,これが流れ込まないよう本件工事現場の北側斜面を整備す ること及び排水溝を整備するために本件工事現場南側の私有地の一部を 被告に寄付することが本件工事施工の前提条件であることを指示した。そこで,b町内会は,本件駐車場等工事を計画し,同工事は,b共同 墓地管理組合から発注を受けた原告Bが施工し,同年9月6日ころ,同 工事を完成した。また,b町内会は,Eに対し,本件緑色部分工事を要 望したところ,Eの承認を得られ,被告から発注を受けた原告Aが同工 事を施工し,そのころ,これを完成させた(なお,乙57には,同年1 0月4日着工,同月24日完成となっているが,前記2イの事情(7 丁)から乙57の記載は真実でない。)。J,E,Cらは,同年9月6日,本件工事現場付近に集まり,EとC との間で,本件工事の範囲が本件市道の橙色部分と水色部分との境まで であること,本件工事は10区画に分けて契約することが話し合った。
 また,EとCとの間で,本件工事代金の支払が翌年度になるという話も なされた。J,E,Cは,同月25日,本件工事現場付近で会い,EとJとの間 で本件工事の施工が事実上決まった。それを受けて,同年9月27日, I,J,地権者らが,本件工事現場南側の排水溝整備のため私有地の一 部を被告に寄附することを話し合うべく現場に集まり,分筆登記手続の ための測量等を行い,以後,寄附の手続が進められ,同年12月26日,被告への寄附の登記が完了し,被告が内諾していた本件工事着工の前提が全て整った。
イ 本件請負契約の締結
平成15年2月20日(又は同月25日),J,E,Cらが本件工事現 場付近に集まり,EからCに対して本件工事の発注がされ,これにより, 被告とCが経営する原告ら2社(又は原告B)との間で本件請負契約が 締結された。なお,被告は,Cに発注した工事については,前記2イの事情から, 工事完成後に工事業者名,工事場所,工事年月日などを空欄とした工事 書類を提出させ,その後に請負契約書を作成し,工事代金についても被 告内部の基準に従い算出し,提示していたが,その時点で,発注先を原 告ら2社に適宜振り分け,原告ら2社はそれを無条件で受け入れてきた。
 したがって,本件請負契約の請負人は原告ら2社であり,本件工事の請 負代金債権は,黙示の意思表示により,原告ら2社を債権者とする不可 分債権となる。仮に,かかる黙示の意思表示が認められない場合,原告らは,本件工 事は原告Bが受注し,原告Aが原告Bより本件工事の一部を下請したと 考える。また,代金額については,被告が,工事完成後原告らから提出される 工事書類をもとに積算し,決定することになっていた。ウ 被告の主張イについて 被告は,平成14年度に入って間もなく,被告内部において,随意契約による小規模工事が問題化していたことから,EがCに対して本件工 事を発注するはずがないと主張する。しかし,Eが本件工事をCに発注 したのは,前記のとおり,EがJに対して本件工事着工のための前提条件を示し,b町内会がその前提条件どおりの工事を進めたため,本件工 事を取りやめるわけにはいかず,会計的には次年度処理で切り抜けよう と考えていたところ,そのような処理を内密に行えるような情勢でなく なったため,平成15年3月末の人事異動の際,後任者へ本件工事を申 告し,引き継ぐことができなかったからであり,不自然ではない。(被告の主張)
ア Eは,Cに対し,本件工事を発注したことはないから,本件請負契約は締結されていない。
 Eが最初に本件工事現場に行ったのは,平成14年9月6日である。その際,Eは,本件市道から水が個人所有の水路に常時流れるような状 態はまずいので,それを解決することが必要である趣旨の発言をしたこ とはあるが,これは決してこの問題が是正されれば本件市道の工事を承 認するというものではなかった。本件工事を施工できない問題点の1つ として指摘したにすぎない。ところが,Jは,上記問題が是正されなけ れば,本件工事の話が前に進まないと考え,溝部分の地権者らに本件市 道への寄附を働きかけたものである。平成14年9月6日以降,EとJ,Cとの間で,本件工事について具 体的な話がされたことはない。平成15年2月20日(又は同月25日), Eが本件工事現場付近に赴いたことはなく,まして,Cに本件工事を発 注したことはない。また,Iも,寄附の手続のために現地で立会いをした際,本件工事の 話を全く聞いていない。イ 本件請負契約が締結されていないことを推認させる事情 市道改良工事を施工するのであれば,市道の管理を職務とするH課に おいて,工事に着手する前に工事対象市道と隣地との官民境界の確認をしておく必要があるが,本件工事が施工された市道については,寄附の ための分筆に際して境界を確認したのみで,それ以外に隣接地との官民 境界を確認した事実はない。平成14年4月1日,D課の課長にGが就任し,同年7月から8月初 めにかけて,小規模工事に関するそれまでの運用を改めたことは,前記 2ウのとおりである。したがって,それ以降,EがGの指示を無視し て本件工事を発注することはあり得ない。また,原告らは,本件請負契 約が締結されたのは平成15年2月20日(又は25日)であると主張 するが,同年2月7日には当時のK市長自らが監査委員に対し,小規模 工事に関する監査要求をするまでになっているのであるから,Eが自分 の一存で,本件のような大規模工事を小規模工事に分割する方法で本件 工事を発注することなど到底なし得る状況ではなかった。ウ 本件工事は,従前から被告職員らに不当な圧力をかけ,入札を経ない で工事を受注し,代金額も自分の意のままに過大に受け取っていたCが, 被告内部で小規模工事問題が発覚したことも知らずに,従来どおりにE に圧力を加え,たとえ工事の発注はなくとも,既成事実を作ってしまえ ば,強引に押し切れると判断して見切り発車で施工した工事である。し たがって,本件請負契約が締結された事実はない。 本件請負契約の代金額(争点2) (原告らの主張)
本件工事の請負代金額は金1042万2783円である。
 (被告の主張)被告が本件工事を小規模工事として発注した場合の代金額は金558万 3375円であり,大規模工事として発注した場合の代金額は金655万 4100円であるにすぎない。 不当利得返還請求における利得の有無(争点3) (原告らの主張)原告Bは,資材と労務を提供し,本件工事を完成させた。したがって, 原告Bには請負代金相当額である金1042万2783円の損失が発生し, 他方,被告は,同額相当の利得を受けた。上記損失と利得との間には因果 関係があるから,原告Bは,被告に対し,民法703条に基づき,被告の 不当利得額である金1042万2783円の返還を求める。 (被告の主張)ア 被告には,以下の理由で利得がない。 被告が本件工事につき工事の完成を確認するための検査(a市工事請負契約約款31条)をした事実はなく,本件工事は完成していない。a 市工事請負契約約款31条4項及びa市小規模工事請負契約約款21条 2項によれば,工事目的物の所有権は検査に合格したときをもって被告 に移転する旨規定されており(乙61,62),被告に所有権は移転して いない。本件市道は,被告において整備する必要がないもので,それゆえに市 道整備を断っており,被告において利得と認められるものはない。実質的にも,地方自治体が発注していない工事を業者が一方的に施工 して工事代金を請求するような行為が容認されるはずはなく,利得その ものがない。イ 仮に,被告に利得があるとしても,かかる請求は信義則上認められる べきではない。第3 当裁判所の判断
1 本件請負契約の成否(争点1)について
前記前提事実に加え,証拠(甲22ないし24の各1・2,甲39ないし43,乙35の1ないし6,乙36の1・2,乙37ないし39,乙58, 証人J,同E,同I)と弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
  Eは,平成14年9月6日,b町内会長であるJから本件市道整備の要望があるとの連絡を受け,現地へ赴いた。現地では,JやCらがおり,本 件市道の緑色部分の整備の要望がなされた。Eは,その整備の必要性があ ること,規模の小さな工事であること,当時,D課では,工事を現場で発 注することは禁止されていたが,後に説明をすれば足りると考えたことか ら,本件緑色部分工事を施工することを了承した。その後,Eは,本件工事の要望も受け,JやCらとともに,本件工事現 場である本件市道の橙色部分に赴き,同部分の市道整備の要望も受けた。 しかし,Eは,当時,本件市道の橙色部分は草木が生い茂っている状態で あり,市道として整備工事を行う必要性を認めず,本件駐車場からの排水 が直接本件市道に流れ落ち,さらに本件工事現場南側に位置する個人所有 地内に設けられた水路に流れ込んでいることを問題として指摘した。そこ で,Jは,近隣地権者から排水溝設置のための土地を被告に寄付させ,橙 色部分の路肩に排水溝を設置してEが指摘した上記問題を解決し,本件市 道の橙色部分の整備を実現しようと考えた。 次いで,Eは,平成14年9月25日,本件工事現場付近に赴き,前記 排水溝設置工事のための現地確認をしたが,その際,Jとの間で,同月2 7日午前9時30分にH課のIとJとが現地で落ち合うことが確認された。 Iは,平成14年9月27日,本件工事現場南側に位置する現場に赴いた 上,J,C,地権者などと上記寄付とそのための土地の分筆手続等につい て話し合い,以後,H課として,これを担当することとし,同年12月2 6日,414番等(字名省略)の土地から排水溝設置のための土地部分が 分筆され,同月10日寄付を原因として,地権者から被告へ所有権移転登記手続がされた(甲22ないし24の各1・2)。なお,Iは,その前後を通じ,本件市道の橙色部分の整備工事をする話は全く聞いていない。2 以上のとおりの事実が認められる。しかし,原告らが主張するそれ以上の 事実,すなわち,平成14年9月6日,本件工事の範囲が本件市道の橙色部 分と水色部分との境までであること,本件工事は10区画に分けて契約する ことが話し合われ,同月25日,EとJとの間でこれが事実上決まり,平成 15年2月20日(又は25日),E,J,Cらが本件工事現場に集まり,E からCに本件工事の発注がされたとの事実については,これを認めるに足りる証拠がない。 まず,本件における証拠状況についてみるに,本件においては,前記前提事実2イにおいて認定した事情から,工事請負請書,着手届,完工届等の 必要書類が作成されておらず,これらの書類によって事実を認定することはで きないこと,上記原告ら主張事実に副う証拠としては,証人J,同M及び同 Cの各証言(甲30,31,47の各陳述書を含む。)があるが,一方,その 証言内容を全面的に争い,特に,上記2月20日(又は25日)には本件工 事現場付近に赴いたことすらない旨の証人Eの証言(乙38の陳述書を含む。) があり,これらの各証言自体に照らしてその信用性を検討するも,確定的判 断をすることは困難であること,したがって,その余の証拠に照らして上記 各証言の採否を決める必要があるが,原告らが提出した証拠のうちで最も客 観性があり,信用性も高いと評価されるのは,Jがその都度記載していった 甲42,43の日記の記載であるから,この記載が本件における証拠判断の 基本となることが認められる。そこで,以下,上記日記の記載について検討するに,同日記には,平成1 4年9月6日の欄に,10時本件駐車場でE,C,Jが会い,Eに本件市道 整備の要望書を提出したこと,その際,Eは,工事(証人Jの証言によれば,本件緑色部分工事のことである。)はしてよいと述べたこと,排水溝設置につ いては,地権者から土地の提供を受けたら,H課のIに分筆登記手続を頼む こととなる旨が記載されており,この記載と証人Jらの各証言によれば,同 日,EがJやCらと本件工事現場付近において会い,本件緑色部分工事をC に発注したことが認められるが,同日以降の同日記の記載においてEの記載 が現れるのは,同月25日の欄だけであり,同日1:30本件工事現場付近 でEと⇒HIに立ち会ってもらう,27日(金)9:30との記載があるに とどまる。そして,この記載に加え,同月27日の欄の記載と証人Jの証言 によれば,同月25日午後1時30分,本件工事現場付近においてJがEと 会い,その際,上記排水溝設置のための分筆登記手続のため,同月27日午 前9時30分にIと待ち合わせることが決まり,その約束どおり,同日午前 9時30分,Jと地権者がIと本件工事現場付近で会ったことが認められる。 しかしながら,同日以降の同日記には,Iの記載が現れることはあっても, Eの記載が現れることは全くないのであって,原告ら主張の平成15年2月 20日の欄には,同日午前9時,本件工事現場付近で地権者が集まったこと の記載があるものの,Eら被告関係者が立ち会ったことの記載はないし,同 月24日と25日の各欄にも,Iとの電話やファクスでの遣り取りに関する 記載はあるものの,I以外の被告関係者がJと接触した可能性を認めるに足 りる記載はない。そして,証人Jらの各証言(前記各陳述書を含む。)を精査すると,これら の各証言は,結局のところ,甲42,43の日記の記載に依拠したものと認 められるのであるが,そうであれば,上記説示のとおり,これらの日記の記 載によっては,原告ら主張の平成14年9月6日にEがCに本件緑色部分工 事の施工を了承し,これを発注した事実までは認められるものの,橙色部分 の工事である本件工事の施工を了承してその発注をした事実を認めることはできないし,同月25日,平成15年2月20日(又は27日)には,Eが 本件工事現場に赴いたことの記載さえないというのであるから,証人Jらの 各証言をにわかに採用することはできない。加えて,前記前提事実ウの事実によれば,被告D課においては,平成14 年4月1日,Gが課長に就任し,同年7月から8月初めには,同課長において, 補正予算の編成を依頼するとともに,新規工事については,緊急性と必要性を 課内で検討した上,これを発注することとして,その趣旨を部下に徹底してい たこと,また,被告においては,平成15年2月7日,当時のK市長が同市監 査委員に対し,D課を名指して,同課の平成12年度及び平成13年度におけ る小規模工事予算の執行状況について監査を要求した事実がある。これらの事 実にかんがみれば,原告らが本件請負契約締結の日であると主張する平成15 年2月20日(又は25日)当時,Eはまさに上記監査に関する中心人物であ り,いわば渦中の人となっていたのであるから,原告ら主張のように,Eがた やすく本件請負契約を締結すると考え難い。なお,原告らは,本件工事施工の前提問題として,Eが本件駐車場からの排 水溝整備を指示し,その指示に従って現に排水溝の整備がされた旨を主張する が,平成14年9月25日以降,EがJやCらと本件工事現場付近において会 った事実を認めるに足りる証拠がないことは,前記説示のとおりであり,上記 排水溝整備の事実があるからといって,本件請負契約締結の事実までをも認め ることはできない。以上の次第によれば,本件請負契約締結の事実を認めるに足りる証拠はな く,したがって,同契約に基づく原告らの本訴各代金請求は,争点2につい て判断するまでもなく,理由がない。3 不当利得返還請求における利得の有無(争点3)について 前記前提事実と弁論の全趣旨及び前記1,2で認定,説示したところによ れば,本件請負契約締結の事実を認めるに足りる証拠はないこと,したがって,本件工事は,被告の意思に反して施工された工事というべきこと,また, 本件工事現場付近は山であり,Eにおいても,市道整備の必要性を認めるこ とができなかったこと,それにもかかわらず,原告Bは,本件工事に際し, その請負代金相当額である1042万2783円の費用を要したから,これ が被告の不当利得額となる旨を主張している事案であることが認められ,か かる事実関係に照らして考えると,上記請負代金相当額を被告が利得したと の原告らの主張は,到底これを是認することはできず,せいぜい本件工事に よる本件市道の橙色部分の交換価値ないしその取得価額の上昇分をもって, 被告が原告Bに返還を要すべき現存利益であると解するのが相当である。ところが,原告らは,本件において,その旨の主張も,立証もしていない から,原告Bの不当利得返還請求もまた理由がないというほかはない。第4 結論 よって,原告らの本訴各請求は,全部理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民訴法61条,65条を適用して,主文のとおり判 決する。岡山地方裁判所第1民事部
裁判官 近下秀明
別紙図面(省略)
判例本文

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