主文
1 被告らは,各自,原告Aに対して3103万3269円,同B及ひ同Cに対して各1551万6634円並ひに各金員に対する平成13年12月28日から支払済みまて年5分の割合による金員を支払え。
2 原告らのその余の請求をいすれも棄却する。
3 訴訟費用はこれを10分し,その4を原告らの負担とし,その余を被告らの負担とする。
4 この判決は,第1項に限り仮に執行することかてきる。
事実及ひ理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 請求の趣旨
(1) 被告らは,各自,原告Aに対し5240万4007円,同B及ひ同Cに 対し各2620万2004円並ひに各金員に対する平成13年12月28日 から支払済みまて年5分の割合による金員を支払え。(2) 訴訟費用は被告らの負担とする。
(3) 仮執行宣言
2 請求の趣旨に対する答弁
(1) 原告らの請求をいすれも棄却する。
 (2) 訴訟費用は原告らの負担とする。 (3) 仮執行免脱宣言第2 事案の概要 本件は,亡Dか,被告医療法人E(以下「被告法人」という。)経営の病院て,被告Fにより受けたERCP(内視鏡的逆行性膵胆管造影)検査及ひEN BD(内視鏡的経鼻胆道トレナーシ)後に発生した急性膵炎により死亡したこ とにつき,被告Fには検査義務違反及ひ治療義務違反か,被告法人には使用者 責任かあるとして,亡Dの相続人てある原告らか,被告ら各自に対して,不法行為による損害賠償を請求した(附帯請求は,不法行為後てあり,亡Dか死亡 した日てある平成13年12月28日から支払済みまて民法所定の年5分の割 合による遅延損害金の請求てある。)事案てある。1 前提となる事実(証拠により認定した事実については,かっこ内に証拠を掲 記する。その余の事実については当事者間に争いかない。)(1) 当事者
ア 原告Aは,亡Dの妻てある。
 原告Bは,亡Dの長男てある。 原告Cは,亡Dの長女てある。イ 被告法人は,G病院(岡山市a字bc番地d所在。以下「被告病院」と いう。)を開設・経営している。ウ 被告Fは,被告法人に雇用され,被告病院に勤務する医師てある。 (2) 診療経過ア 平成13年11月30日(以下,特に断らない限り,平成13年の月日 を指す。)亡Dは,風邪の症状て医療法人HIクリニックへ行ったところ,急性肝 炎の疑いかあるとのことて,被告病院を紹介され,同病院へ入院した。亡 Dの担当医師は,J医師となった。同日の血液生化学検査ては,ヒリルヒン,胆道系の酵素か著増しており, 閉塞性黄疸か示唆されたか,腹部CT検査(1回目)ては,総胆管の拡張 ははっきりせす,点滴て経過を見ることにした(乙1)。イ 12月1日 亡Dの担当医師か,J医師(腎臓専門)と被告F(消化器専門)の共同となった(乙1,被告F)。 午前中,腹部超音波検査(1回目)を行ったところ,肝内胆管拡張か認められた(乙1)。
午後2時20分,腹部CT検査(2回目)を行ったところ,肝内胆管拡 張か認められたか,胆石の存在は指摘てきなかった(乙1)。午後4時32分,腹部超音波検査(2回目)を行ったところ,肝内胆管 拡張か認められたか,結石も腫瘍も見えす,総胆管結石か総胆管癌かは判 別てきなかった(乙1)。亡Dは,同日行われた血液検査の結果と2回にわたる腹部超音波検査及 ひ腹部CT検査により,閉塞性黄疸と診断された。被告病院医師は,処置 として,絶食を指示し,抗生剤,輸液2000m l の点滴を開始した。
 (以上につき乙1)ウ 12月2日 亡Dの全身状態に変化はなかったか,便か出ないとの訴えかあったため,J医師は,このまま排便かなけれは,ラキソヘロン(下剤)を増量するよう指示をした(乙1,証人J)。 エ 12月3日
血液検査と血液生化学検査の結果ても,引き続き閉塞性黄疸か示唆され ていた(被告F)。そこて,被告Fは,亡D及ひ原告Aに対し,肝機能か 改善せす,総胆管癌,総胆管結石の疑いかあるのて,ERCP検査を行い, 場合によっては胆管にカテーテルを入れて治療(ENBD)を行う必要か あること,ERCP検査に伴う危険性として,急性膵炎,消化管穿孔,発 熱,誤のおそれかあることを説明し,同意を得た(甲4,乙1,被告 F)。オ 12月4日 午前中,K医師(外科専門)は亡Dに対して胃カメラによる検査を行った。その結果,亡Dは,多発性胃潰瘍と診断された。
 午後,被告F,L医師,M医師ら(いすれも消化器専門)は,亡Dに対してERCP検査を行った。その結果,15×10mmの結石か認められ,亡Dは総胆管結石嵌頓による閉塞性黄疸と診断された。今後,総胆管結石 嵌頓による重症膵炎,化膿性胆管炎を併発し,生命の危険を来す可能性も 考えられたのて,減黄目的の治療としてENBDを行った。(以上につき 乙1)他方,ERCP検査の直後から,術後膵炎の予防として,生理食塩水と フサン(蛋白分解酵素阻害剤)の点滴投与及ひ抗生物質てあるミノマイシ ンを投与した(乙1)。ERCP検査及ひENBD施行の3時間後の血液検査の結果ては,アミ ラーセか728IU/ l てあり,飲水のみを許可した(乙1)。亡Dは,午後10時,腹満感と腹痛を訴えたのて,被告Fは,浣腸,フ リンヘラン(制吐剤)と生理食塩水の点滴,フィシオソール(輸液)の点 滴内にサンタック(制酸剤)を追加することを指示し,疼痛緩和のために ヘンタシンの筋肉注射か行われた(乙1)。カ 12月5日 早朝,亡Dは血液検査を受けた。その結果ては,アミラーセか859IU/ l,CRPか1.61mg/dl,WBC(白血球)か6900てあった。 被告Fか,亡Dを診察したところ,診察時には腸音は前日より増大してい た。(以上につき乙1)被告Fは,午後,膵炎の重症度を判定するため,腹部CT検査(3回 目)を行った。その結果,膵炎の所見は認められたか,重症膵炎の所見は 認められす,内科的治療の範囲内と判断して,フサン及ひミノマイシンの 点滴を続けた。(以上につき乙1,被告F)被告Fは,午後9時30分,自宅から電話て亡Dの病状を確認し,点滴 内にフリンヘランを追加するように指示をした(乙1)。キ 12月6日 被告Fは,日本肝臓学会西部会へ出席するため,高知市へ出張した。被告Fは,出張中,J医師,L医師及ひM医師に代診を依頼していた。(以 上につき被告F)被告Fは,午前8時45分,電話て血液検査を指示した。J医師は,午 前11時10分頃,亡Dを診察し,腹痛の訴えに対してヘンタシンの筋肉 注射を追加した。血液検査の結果,WBC11300,CRP>7.0mg /dl,アミラーセ267IU/ l 等を確認したのて,J医師は,被告Fと電 話て協議して,今まての急性膵炎の治療を継続するとともに,炎症反応の 増強に対して,ミノマイシンからより強力な抗生物質てあるフルマリンと カルヘニンの2剤の投与に変更した。なお,同日の血液検査ては,一般検 血・CRP・総ヒリルヒン値・トランスアミナーセ値・γ-GTP値・血 糖値か測定されているか,膵炎重症度判定の他の検査(血液カス分析,腎 機能,血清蛋白値,血清Ca値,フロトロンヒン値なと)は施行されてい ない。(以上につき乙1,27の1,証人J)J医師は,亡Dに,腹満感か強く,尿量の減少,呼吸か荒くなる等の症 状かあったのて,午後7時ころ,従前からの点滴の続行及ひラシックス (利尿剤)の投与を指示した。また,被告Fは,午後10時ころ,電話て ラシックスの投与を指示した。(以上につき乙1)ク 12月7日 同日の亡Dの血液検査の結果ては,アミラーセは143IU/ l と減少したか,尿量か減少し,腹痛か持続し,呼吸状態の改善も見られなかったの て,J医師は,L医師と協議して,腹部CT検査(4回目)を行った。そ の結果,亡Dは,重症膵炎及ひ腹膜炎と診断された。L医師は,被告Fと電話て協議し,重症膵炎の治療を行いつつ,ICU における集中治療か必須と考えられたのて,亡DをN病院に転院させるこ とにした。J医師,K医師の立会いの下,L医師か,亡Dの家族に,病状 の変遷を説明し,同意を得た上て,午後2時過きにN病院に移送した。(以上につき乙1,証人J)
ケ 亡Dは,N病院て治療を受けたか,12月28日,多臓器不全により死亡した。
(3) 急性膵炎の診断
膵酵素の活性化により膵臓か自己消化され,重症例ては全身の臓器に炎症 か広かるのか急性膵炎の病態てある。極めて多彩な臨床像を来し,死亡率は 中等症て約2%,重症例て20%から30%と,重症度により治療成績か大 きく異なることから,重症度を早期に判断し,的確な治療方針を立てる必要 かある。(以上につき甲10,乙6)1上腹部の急性腹痛発作と圧痛,2血中,尿中あるいは腹水中に膵酵素の 上昇,3画像て膵に急性膵炎に伴う異常の3項目中2項目以上を満たし,他 の膵疾患及ひ急性腹症を除外したものを,急性膵炎と診断する(急性膵炎臨 床診断基準)。(以上につき甲10,乙24)(4) 急性膵炎重症度判定基準 厚生労働省急性膵炎の重症度判定基準と重症度スコア(以下「重症度判定基準」という。)の予後因子は以下のとおりてある(甲10,乙24)。
 予後因子1 ショック,呼吸困難,神経症状,重症感染症,出血傾向,H t(ヘマトクリット)≦30%,BE(血液カス分析)≦- 3mEq/ l,BUN(尿素窒素)≧40mg/dl(又はCr(クレアチニン)≧2.0mg/dl)…各2点
予後因子2 Ca(カルシウム)≦7.5mg/dl,FBS(血糖)≧200mg/dl,PaO2(動脈血酸素分圧)≦60mmHg,LDH (乳酸脱水素酵素)≧700IU/ l,TP(総蛋白)≦6. 0g/dl,フロトロンヒン時間≧15秒,血小板≦10万/ mm,CTGrade(後述)IV,V…各1点予後因子3 SIRS診断基準における陽性項目数≧3…2点
年齢≧70歳…1点 予後因子1を認めす,予後因子2か1項目のみ陽性のものを中等症と判定する。予後因子1か1項目以上,あるいは予後因子2か2項目以上陽性のものを重症と判定する。
(5) 急性膵炎重症度判定基準のCTGrade分類(甲10,乙24)GradeI:膵に腫大や実質内部不均一を認めない。
 GradeII:膵は限局性の腫大を認めるのみて,膵実質内部は均一てあり,膵周辺への炎症の波及を認めない。 GradeIII:膵は全体に腫大し,限局性の実質内部不均一を認めるか,あるいは膵周辺(網嚢を含む腹腔内,前腎傍腔)にのみfluid collection又は脂肪壊死を認める。 GradeIV:膵の腫大の程度は様々て,膵全体に実質内部不均一を認めるか,あるいは炎症の波及か膵周辺を越えて,胸水や結腸間膜根部又
は左後腎傍腔に脂肪壊死を認める。
 GradeV:膵の腫大の程度は様々て,膵全体に実質内部不均一を認め,かつ後腎傍腔及ひ腎下極より以遠の後腹膜腔に脂肪壊死を認める。
2 争点
(1) 被告F及ひ被告病院医師の過失の有無
(原告らの主張)
ア 被告Fは,亡DについてERCP検査及ひENBDか実施された後,急性膵炎か疑われていたのてあるから,急性膵炎か重症化しないように適切 な治療を行うとともに,重症化した場合,直ちに集中治療に移行てきるよ うに経過観察,臨床兆候,血液検査,画像診断を行うへきてあったにもか かわらす,これを怠った。(ア) 12月4日
a 午後5時,ERCP検査及ひENBDを実施して終了したか,被告 病院は「一般的な急性膵炎の治療として,先す膵臓を安静に保つため 食事や水分の摂取は禁し」(乙6)なけれはならないにもかかわらす, 午後6時には飲水を指示し,12月7日,N病院ICUに搬入される まて,飲水を禁止しなかった。b ERCP検査及ひENBD実施の3時間後の血液検査の結果,アミ ラーセ値か急上昇しており,亡Dか急性膵炎を発症している兆候かあ った。急性膵炎の治療は初期の48時間以内の適切な治療にかかって おり,急性膵炎の治療としては,絶食,水分摂取の禁止に加えて抗生 剤とフサンの投与か初期に必要てあるか,被告病院においては,同日, ERCP検査及ひENBD実施後に予防目的てフサンか10mgか投与 されているにすきない。(イ) 12月5日 被告Fは,同日,亡DについてCTを撮影した結果,膵臓か炎症を起こし極端に腫大し,膵炎か悪化していることか認められ,臨床徴候から いえは,亡Dの症状は悪化しており,被告Fも急性膵炎と判断している にもかかわらす,十分な診察や経過観察,急性膵炎重症度の判定に必要 な各種検査をしなかった。カルテ上からも,被告Fか,十分な観察,診 断を行っていた形跡も見えす,被告Fか軽症から中等症の急性膵炎と判 断した根拠はうかかえない。(ウ) 12月6日 亡Dの白血球は著しく上かっており,亡Dか激しい腹痛,呼吸困難を訴え,ヘットに寝たまま何もてきない状態になっていたにもかかわらす, 膵炎の重症度を判定する各種検査もなさす,CT,X線なと画像診断も しなかった。J医師は,午前11時10分の1回たけ亡Dを診察し,そ の際,せき止めをやめ,抗生剤を変更したたけて,急性膵炎に関する十分な治療は行われなかった。
イ 12月5日から同月7日にかけ,ENBDチューフを抜去しなかった過失 亡Dに急性膵炎か発症し,悪化・重症化した主原因は,留置したENBDチューフか膵管口を閉塞し,膵液の流出を阻害したためと考えられる。
 被告Fは,12月4日のERCP検査及ひENBD実施後,ENBDチ ューフか急性膵炎の原因と考えられると推測したにもかかわらす,亡Dの 腹痛等の容態か悪化の一途をたとった同月5日から7日にかけて,確たる検討もせす,ENBDチューフを抜去しなかった。 CT検査の結果,亡Dの急性膵炎か軽症から中等症に達する所見と判断され,亡Dの腹部の異常なまての激痛か継続し悪化していた同月5日の時 点ては,膵炎の重症化防止のため,速やかにENBDチューフを抜去すへ きてあった。ウ ハヒロトミーを行わなかった過失 ENBDは総胆管結石に対する根治的治療法てはなく,総胆管結石の根治的治療には,一般的にハヒロトミー(EST=内視鏡的乳頭括約筋切開 術)か選択される。ENBDを行う際は,膵管開口部の圧迫・閉塞による 急性膵炎を防止するためにハヒロトミーを行うのか医療水準てあり,医療 の常識てある。特に,亡Dの膵管・胆管の合流形態はY字型てあり,ハヒロトミーをし ない限りENBDチューフか膵管口を閉塞することによる急性膵炎の発症 及ひ悪化・重症化の危険性か高かったのたから,ハヒロトミーか選択され るへきてあった。エ 説明義務違反
(ア) 医師は,一般に,現在の病気の状態,2治療行為の内容・効果・危険性,3代替可能な治療行為の内容・効果・危険性,治療しない場合に予測される結果について,具体的に説明する義務を負う。
(イ) 総胆管結石の根治的治療としては,ハヒロトミーやハルーン拡張法(EPBD。以下「EPBD」という。)かある。特にハヒロトミーは, 簡単な手術と一般にいわれ,急性膵炎か発生しても重症化しないとされ ており,出血・穿孔の危険性も大きな問題とはされておらす,重篤な偶 発症も少なく,さらに亡Dはハヒロトミーの困難例にも当たらなかった。そして仮に亡Dに具体的出血・穿孔の危険性かあったなら,ハヒロト ミーてなく同し内視鏡的治療としてEPBDの方法を選択することも可 能てあった。また,ERCP検査及ひENBD実施後,胆のう内結石の存在はなお 「可能性」レヘルにととまっており,胆のう摘出術という外科的手術に は緊急性かない上,必要性にも疑問かあった。亡Dや原告らは,このことを知っていれは,総胆管結石の治療法とし て,内視鏡的治療を選択し,外科的な胆のう摘出術を選択しなかった。
 (ウ) 被告Fら被告病院医師は,総胆管結石の治療法として,ハヒロトミ ーなしにENBDのみを行った理由として,胆のう内にも結石か存在す る可能性かあり,総胆管内の結石を除去しても外科的に胆のう摘出術を 行う必要かあると考えられたのて,ENBDによる黄疸等の軽減後,開 腹手術をすることを予定していたことを主張するか,このような説明は もちろんのこと,ハヒロトミーなしのENBDの危険性について一切説 明しなかった。同意書(甲4)には,手術の目的,手順,危険性につい ての説明かなされた旨か記載されているか,その説明は極めて不十分な ものてあり,ERCPにより胆管を検査し,場合によりENBDにより減黄するとの簡単な説明かなされたのみてあった。 被告Fら被告病院医師は,総胆管結石に関し,外科的な開腹手術に代わる根治的治療方法て,劇的な治療効果か期待てきるハヒロトミーやEPBD等内視鏡的治療法の存在や,内容・効果・危険性に関して,何ら 亡Dや原告らに説明しなかったものてあるから,被告Fらには,前述の 治療行為の内容・効果・危険性,代替可能な治療行為の内容・効果 ・危険性の点につき明らかな説明義務違反か認められる。(エ) なお,12月5日の時点て,被告Fは,ENBDチューフを抜去す るかしないかについても,亡Dや家族かいすれの治療行為を選択するか 決定するために必要な情報として,抜去した場合と抜去しない場合の効 果・危険性等について十分説明すへき義務かあったのに,その説明義務 を怠った。(被告らの主張)
ア 原告らは,12月4日から6日まてに適切な診察,検査,治療等を怠ったと主張するか,被告Fらは亡Dに対し,以下の処置をとっている。
 (ア) 12月4日a 午後7時に血液検査の確認を行い,午後8時30分に診察した。ま た,午後10時に,腹痛かある状態て診察した。さらに,午後11時 40分に診察した。被告Fらは,ERCP検査の直後から,術後膵炎の予防として,生 理食塩水にフサン10mgを加えた点滴を1回,抗生物質てあるミノマ イシン100mgを2回投与した。ERCP検査及ひENBD実施の3時間後に血液検査を行い,その 結果ては,アミラーセか728IU/ l てあった。午後10時には腹満感,腹痛の訴えかあったのて,被告Fは,浣腸, 生理食塩水にフリンヘランを加えた点滴をし,フィシオソールの点滴 内にサンタックを追加することを指示し,疼痛緩和のためにヘンタシ ンの筋肉注射か行われた。なお,被告Fは,午後11時40分に亡Dを診察した際,亡Dの症
状か改善傾向にあることを確認している。
b 急性膵炎に対する治療は,絶食をはしめとした膵の安静(膵外分泌刺激の回避)なとを徹底することか基本とされているか,これは食事 摂取による膵外分泌の刺激を抑えるためてあって,水分摂取ては膵外 分泌刺激はない。なお,原告らは,ERCP検査及ひENBD施行の1時間後に飲水 を指示したと主張するか,被告Fは飲水するように指示を与えたわけ てはなく,検査後すっと絶食にしているため,のとか乾くのて,口の 中をゆすいたり,こく少量飲み込むことは構わないという意味のこと を許可したにすきない。カルテにも「飲水可の指示あり」と記述され ている。(イ) 12月5日 早朝,血液検査を実施してその結果を評価し,診察した。午後も膵炎の重症度を判定するために腹部CT検査(3回目)を行い,その前後に 診察も行った。腹部CT検査(3回目)を行った結果,膵臓の腫大を認めたか,急性 膵炎重症度判定基準のCTGrade分類(第2の1(5))にいうGradeIIIと 診断され,GradeIV又はVに至る重症膵炎の所見は見られなかったこと から,被告Fは,軽症から中等症の急性膵炎と診断した。なお,この診 断か妥当てあることはN病院ても確認されている。早朝,血液検査を行い,その結果ては,アミラーセか859IU/ l, CRPか1.61mg/dl,WBCか6900てあった。被告Fか亡Dを 診察したところ,腹満感はあるものの,自制内てあり,診察時に腸音は 前日より増大していた。午後,膵炎の重症度を判定するため,腹部CT検査(3回目)を行っ た。膵炎の所見は認められたか,ENBDチューフの位置は良好て,重症膵炎の所見は認められす,内科的治療の範囲内と判断して,フサン1 0mgを2回,ミノマイシン100mgを2回,それそれ点滴投与を続けた。被告Fは,午後9時30分,自宅から電話て亡Dの病状を確認し,点 滴内にフリンヘランを追加するよう指示した。(ウ) 12月6日 被告Fは,高知市に出張したか,出張中は,J医師のほか,L医師及ひM医師に代診を依頼していた。
 被告Fは,午前8時45分に電話て血液検査を指示した。J医師は午前11時10分ころ亡Dを診察し,腹痛の訴えに対してヘンタシンの筋 肉注射を追加した。血液検査の結果,白血球(WBC)11300, (CRP)>7.0mg/dl,アミラーセ267IU/ l 等を確認した。J 医師は電話て被告Fと協議して,今まての急性膵炎の治療を継続すると 共に,フサン10mgを2回投与するほか,炎症反応の増強に対してミノ マイシンから,より強力な抗生物質てあるフルマリン1gとカルヘニン 0.5gの2剤の投与に変更した。J医師は,午前11時10分ころ,亡Dを十分診察し,意識,血圧, 呼吸なとを検討している。亡Dは前ショック状態てはなく,酸素投与か 必要な状態てもなく,人工呼吸器を必要とする呼吸困難も来していなか った。亡Dの意識は鮮明てあり,重症感染症,消化管・腹腔内出血を認 める出血傾向なとの臨床的徴候は認めていない。(エ) 12月7日 朝,J医師か診察したところ,症状として尿量の減少か見られ,腹痛か持続し,呼吸状態の改善か見られなかった。 早朝の血液検査の結果ては,Na127mEq/ l,K4.0mEq/ l,Cl90mEq/ l,Ca4.1mg/dl,BUN29.1mg/dl,CRE3. 58mg/dl,アミラーセ143IU/ l,T-Bil10.64mg/dl,D-Bil7.97mg/dl,GOT68IU/ l,GPT107IU/ l,γ -GTP453IU/ l,血糖288mg/dl,CRP49.80mg/dl, 白血球(WBC)11.100,赤血球(RBC)464万,ヘモクロ ヒン15.6g/dl,ヘマトクリット(HCT又はHt)47.8%, 血小板(PLT)21万3000てあった。午前10時ころ,L医師も診察し,J医師と協議して腹部CT検査 (4回目)を行った。その結果,急性膵炎重症度判定基準のCTGrade 分類(第2の1(5))のGradeVに至る重症膵炎の所見を認めた。そこて, J医師とL医師は,被告Fと電話て協議した上,外科のK医師,内科の M医師も加わって臨床徴候,血液検査の結果,腹部CT所見から重症度 スコア8点以上と判断し,亡Dの救命の可能性を向上させるため,N病 院に受入れの許可をもらい,L医師同乗のもとに亡DをN病院に搬送し た。なお,被告病院においても,重症膵炎の治療として,中心静脈にカテ ーテルを挿入して,各種栄養剤,フサン10mg,FOY(抗膵酵素薬) 1000mg,ミラクリット(抗膵酵素薬)30万単位,25%アルフミ ン50ml,ラシックス20mgを5アンフル,サンタック50mgを3アン フル,カルヘニン(抗生物質)0.5gを2回の投与を行った。(オ) 以上のとおり,被告病院においては,亡Dについて,経過観察,臨 床兆候,血液検査,画像診断を十分行っており,急性膵炎及ひその重症 化に対する治療も適切に行っている。イ 12月5日から同月7日にかけ,ENBDチューフを抜去しなかった点 について亡Dについては,12月4日にERCP検査及ひENBDを行った3時 間後の血液検査の結果ては,アミラーセか728IU/ l と上昇しており, 急性膵炎の可能性か考えられた。しかし,重症膵炎てはなく,その原因としても,ENBDチューフによる膵管口圧迫,造影剤の影響,十二指腸乳 頭部の浮腫,胆のう炎等か考えられた。仮に,造影剤の影響,十二指腸乳頭部の浮腫か原因てあれは,ENBD チューフを抜去しても急性膵炎は改善されない。他方,同月5日の血液検 査の結果ては,ヒリルヒンか前日の9.47mg/dl から6.20mg/dl へ下かっていて,ENBDチューフ挿入により閉塞性黄疸は改善してきて いた。また,ENBDチューフを抜去した場合,総胆管結石か再ひ嵌頓し て胆汁の排出を妨け,閉塞性黄疸の悪化及ひ胆管内の細菌感染を来し,急 性化膿性胆管炎を起こして,全身状態か抜去前より悪化する可能性も考え られる。以上の事情に加え,同日の時点ては,急性膵炎は軽症から中等症と判断 されたことから,ENBDチューフを抜去せす,抗生物質,膵酵素阻害剤 による治療を継続した。なお,同日時点てENBDチューフを抜去したと しても,急性膵炎か改善したとはいえない。よって,被告Fか,同日時点てENBDチューフを抜去しなかったこと に過失はない。ウ ハヒロトミーを行わなかった過失について
(ア) ERCPによる胆管造影に引き続きENBDの手術を実施する場合,そのチューフの挿入に先立って,ますハヒロトミーを行うとする見解も あるか,他方,ENBDの手術に先立ってハヒロトミーをすることを不 要とする見解も存する。(イ) また,ハヒロトミーには,合併症として,十二指腸乳頭部の切開部 からの大量出血,腹腔内への穿孔を起こす可能性かある。亡Dには著明な黄疸や肝機能の異常か認められており,もし上記の合 併症を来して緊急開腹手術となった場合には,生命の危険性はかなり高 い。このような場合,黄疸や肝機能の異常か改善されるのを待ってハヒロトミーを行うのか通常てある。
(ウ) ハヒロトミーを行うには,その前提としてERCP検査を行う必要かあるところ,その検査て用いられる造影剤は,急性膵炎や急性胆管炎 や急性胆のう炎のように,急性炎症を生している病態について炎症を増 悪させる可能性かある。よって,急性膵炎の病態にある者に対しては, ERCP検査を行うことは一般的に禁忌とされている(甲8)。亡Dは,12月5日の時点て急性膵炎の病態を示していた上,黄疸や 肝機能の異常かあったことから,ハヒロトミーをするに適当な状態には なかった。よって,同日の時点てハヒロトミーを行わなかったことにつ いて,被告Fに過失はない。エ 説明義務違反について
(ア) 亡Dは,11月30日,被告病院へ入院し,血液検査や2回の腹部CT検査及ひ2回の腹部超音波検査によって,閉塞性黄疸てあることか 診断された。その原因としては,総胆管癌,乳頭部癌,総胆管結石か疑 われたものの,12月4日午前中の時点ては,いまたその原因について の診断は確定していなかった。被告Fは,亡Dに対して,閉塞性黄疸の原因を調へるため,ERCP 検査を行うこと及ひその手技の内容を説明し,併せて,黄疸の症状を軽 減するため,総胆管にカテーテルの挿入か可能てあるときは,ENBD の処置をも同時に行うこと及ひその手技の内容を説明した。したかって,上記のように,ERCP検査及ひENBDの処置をする に当たって,被告Fらは,亡Dに対し上記のような説明をして同意を得 ているのて,説明義務に欠けることはない。(イ) 総胆管結石の治療法としての各種手術については格別説明をしてい ないか,それは,外科的手術に加え,内視鏡的治療を選択することを考 慮しても,手術を実施する際に行えは足りるところてあると考えたからてある。
 そして,12月4日の時点ては,亡Dに著明な黄疸や肝機能障害か認められたのて,それらの症状か改善されるのを待って外科的手術を行う 考えてあった。したかって,同日まての時点て,総胆管結石の治療法と しての各種手術方法に関する説明かなされていないことをもって,説明 義務に欠けることにはならない。なお,被告Fは,亡Dや原告らに対し,ENBD挿入後の処置として, 黄疸の症状かなくなれは,外科的処置により結石を取り除く予定てある 程度の説明は行っていた。(2) 原告らの損害額
(原告らの主張)
ア 被告らの過失により,亡Dは12月7日に重症膵炎に至り,同月28日に死亡した。これにより,亡Dか被った損害は,以下の合計1億0480 万8014円てある。1 治療費 207万6960円
12月7日から同月28日まて,N病院ての治療費。
 2 入院付添費 17万4000円11月30日から同年12月28日まて合計29日間,1日につき6 000円の合計額。3 入院雑費 3万7700円 11月30日から同年12月28日まて合計29日間,1日につき1300円の合計額。
4 文書費 3675円
5 逸失利益 4181万5679円
亡Dは,死亡当時53歳の男子てあり,O株式会社に勤務し,死亡の 前年の平成12年の税引き後の手取り年収は603万4862円(甲11)て,本件不法行為かなけれは,少なくとも67歳まて14年間は同 程度の収入を得ることかてきたはすてある。同年収を基礎にし,生活費を30%控除し,ライフニッツ式により年 5分の割合による中間利息を控除してこの間の逸失利益を算定すると, その額は,4181万5679円(=603万4862円×(1-0. 3)×9.8986)になる。6 慰謝料 5000万円 全く予想していなかった亡Dの突然の死により,亡D本人はもとよりその家族てある原告らも,筆舌に尽くし難い精神的苦痛を受けたことは 明らかてあるのて,その精神的苦痛に対する慰謝料は,5000万円か 相当てある。7 葬儀費用 120万円
8 弁護士費用 950万円
イ 原告らは,亡Dの相続人として,上記損害賠償請求権を,原告Aは2分の1の割合て,同B及ひ同Cは各4分の1の割合てこれを相続した。
 よって,被告らに対し,原告Aは5240万4007円,同B及ひ同Cは各2620万2004円の損害賠償請求権を有する。 (被告らの主張)原告ら主張の損害額については争う。 第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(被告F及ひ被告病院医師の過失の有無)について(1) 被告Fらに,ERCP検査及ひENBD施行後において,亡Dについて 経過観察等を怠り,急性膵炎か重症化しないように適切な治療を行わなかった過失かあるか否かについて
ア 前記前提となる事実,証拠(甲8,9,21,25の1ないし3,乙1,証人J,証人P,被告F)及ひ弁論の全趣旨によれは,以下の事実か認められる。
(ア) 亡Dの血液検査の結果は,12月1日の時点においては,肝機能関係の数値かいすれも高く,CRP値も1.72mg/dl と高かったもの の,アミラーセ値は15IU/ l(基準値33~120),膵アミラーセ 値は5IU/ l(基準値14~41)と低かった。同月4日の術前におい ても,肝機能関係の数値かいすれも高く,アミラーセ値は15IU/ l て あった。ERCP検査及ひENBD施行の3時間後の血液検査の結果て は,アミラーセ値か728IU/ l と上昇した。同月5日の血液検査の結 果,肝機能関係の数値は下かったものの,アミラーセ値は859IU/ l と高いままてあった。同月6日の血液検査の結果,アミラーセ値は低下 したものの,CRP値は7mg/dl と高い値を示していた。同月7日の 血液検査の結果,アミラーセ値は143IU/ l,膵アミラーセ値は12 9IU/ l てあったか,CRP値は49.8mg/dl とさらに上昇した。被告Fは,同月5日午後,腹部CT検査を行い,膵炎の所見は認めた ものの,重症膵炎の所見は認められないと判断した。(イ) 亡Dは,12月4日午後10時ころ,ナースコールをし,腹痛,腹 満感を訴え,吐気,嘔吐の症状もあった。翌5日午前8時30分ころ, 腹部全体の痛みは自制内てあったか,腹満感は強かった。その後,午後 5時になっても強い腹満感は継続しており,同月6日深夜には腹満感か 増強していると訴えた。その後も,同日午前8時30分になっても腹満 感は改善せす,同日午前8時50分,午前11時10分,午後2時,午 後5時と腹満感か続いた。また,同日午前8時50分,午前11時10 分には腹痛か増強した。同日午後7時には,多量の発汗と,呼吸か荒く なる症状か見られた。(ウ) 被告Fは,12月4日午後11時40分ころ,亡Dを診察した。被 告Fは,この時点て,亡Dの急性膵炎の原因として,ENBDチューフによる膵管口圧迫の可能性かあることを意識し,J医師にもその旨告け ていた。J医師は,同月6日には,午前11時10分ころに1回亡Dを診察し たのみてあり,L医師,M医師は,同日,亡Dを診察していない。J医師は,同日,亡DのCRP値か上かっており,亡Dの腹痛の訴え か継続していることを見て,亡Dの状況について注意する必要を感した か,亡Dの症状は前日と変化かなく臨床的に膵炎か進行して重症膵炎に 至っているという所見か示唆されていないこと,また,被告Fと電話て 相談した結果,亡Dの急性膵炎は中程度と判断したことから,CT検査 を行わなかった。J医師は,同日,半日勤務てあり,午後3時ころまては被告病院にい たか,その後は帰宅し,同日午後から夜間にかけての亡Dの症状につい ては看護師から電話て聞き,カルテに記載した。看護師からの電話て, 午後7時ころに亡Dの尿量か減ったという報告を受けて,利尿剤と下剤 の投与を指示した。(エ) 被告病院における治療状況 a 12月4日
被告Fらは,ERCP検査の直後から,術後膵炎の治療として,生 理食塩水にフサン10mgを加えた点滴を1回,抗生物質てあるミノマ イシン100mgを2回投与した。ERCP検査及ひENBD実施の3時間後に血液検査を行い,その 結果ては,アミラーセか728IU/ l てあった。午後10時には腹満感,腹痛の訴えかあったのて,被告Fは,浣腸, 生理食塩水にフリンヘランを加えた点滴をし,フィシオソールの点滴 内にサンタックを追加することを指示し,疼痛緩和のためにヘンタシ ンの筋肉注射か行われた。b 12月5日 早朝,血液検査を行い,その結果ては,アミラーセか859IU/ l,CRPか1.61mg/dl,WBCか6900てあった。被告Fか亡D を診察したところ,腹満感はあるものの,自制内てあり,診察時に腸 音は前日より増大していた。午後,膵炎の重症度を判定するため,腹部CT検査(3回目)を行 った。膵炎の所見は認められたか,ENBDチューフの位置は良好て, 重症膵炎の所見は認められす,内科的治療の範囲内と判断して,フサ ン10mgを2回,ミノマイシン100mgを2回,それそれ点滴投与を 続けた。被告Fは,午後9時30分,自宅から電話て亡Dの病状を確認し, 点滴内にフリンヘランを追加するよう指示した。c 12月6日 被告Fは,高知市に出張したか,出張中は,J医師のほか,L医師及ひM医師に代診を依頼していた。
 被告Fは,午前8時45分に電話て血液検査を指示した。J医師は午前11時10分ころ亡Dを診察し,腹痛の訴えに対してヘンタシン の筋肉注射を追加した。血液検査の結果,白血球11300,CRP 7.0mg/dl,アミラーセ267IU/ l 等を確認した。J医師は電話 て被告Fと協議して,今まての急性膵炎の治療を継続すると共に,フ サン10mgを2回投与するほか,炎症反応の増強に対してミノマイシ ンから,より強力な抗生物質てあるフルマリン1gとカルヘニン0. 5gの2剤の投与に変更した。(オ) 亡Dは,12月7日,N病院に転院された。N病院のP医師らは, 亡Dを診察した結果,亡Dか壊死性膵炎の状態にあり,その原因かEN BDチューフにあると判断し,同月8日午前9時30分,原告らに対し,亡Dに急性膵炎か発症し,それか重症化した原因かENBDチューフの 留置にある旨説明し,同日午後6時,N病院においてENBDチューフ か抜去された。イ 上記認定事実によると,亡Dに急性膵炎か発症し,それか重症化するに 至ったのは,ENBDチューフを留置したことにあると認定することかて きる。そこて,ENBDチューフを抜去しなかったことを含め,被告病院 における亡Dの治療等に過失かなかった否かを検討する。(ア) ENBDを実施した場合,留置したENBDチューフによる膵管開 口部圧迫に起因する急性膵炎か偶発症としてあることかよく知られてい る(甲9)。したかって,施行後,経時的に,特に3時間後の血清アミ ラーセ値をチェックし,腹痛,発熱の有無や腹部の他覚的所見等を注意 深く経過観察することか必要てある。(イ) 前提となる事実のとおり,12月4日のERCP検査及ひENBD 施行の3時間後の血液検査の結果ては,亡Dの血清アミラーセ値は72 8IU/ l と高値てあり,被告Fは,絶食の指示とフサン10mgの投与を した。同月5日には,血液検査により,血清アミラーセ値か測定され, 前日の728IU/ l から859IU/ l に上昇していたことから,画像検 査として腹部CT検査をし,その結果,膵の腫大と膵周囲への炎症の波 及か認められたため,被告Fらは,亡Dの膵炎をCTGradeIIIと診断し, 絶食・補液のほか,フサン10mgを1日2回,ミノマイシン100mgを 1日2回投与した。(ウ) しかしなから,12月5日から6日にかけて,亡Dか強い腹満感を 訴え続け,その腹満感は同日午後5時まて続いており,同日午前8時5 0分,午前11時10分には腹痛か増強し,同日午後7時には,多量の 発汗と,呼吸か荒くなる症状か見られるなと,亡Dの症状は改善せす, むしろ悪化していたにもかかわらす,被告FやJ医師は,これらの亡Dの症状について,看護師から電話て連絡を受けて投薬なとの指示を行い, 同日に,血液検査を午前中1回したのみてあり,J医師か直接診療した のも午前中の1回にととまる。(エ) 前提となる事実認定のとおり,中等症の急性膵炎の死亡率は2%て あるのに対し,重症急性膵炎の場合,死亡率は20%から30%と極端 に高くなることから,急性膵炎か発症した場合,重症化しないように治 療に努めなけれはならない。ところて,被告Fらは,ENBDの実施後 の血液検査や亡Dの症状から,12月4日の夜には,急性膵炎の発症を 疑い,その原因かENBDチューフの留置にある可能性を認識し,同月 5日の腹部CT検査の結果により,急性膵炎か発症したと診断し,かつ, 亡Dの症状か改善しなかったのてあるから,各種の検査を頻回に行うこ とにより,投与している膵酵素阻害剤(フサン)なとの薬剤の効果を確 認し,亡Dの急性膵炎の原因か留置したENBDチューフによる膵管開 口部圧迫に起因するものてあるかの検証を行うへきてあったのに,同月 7日に,亡Dの急性膵炎か重症てあるとの判断をするまて,腹部CT検 査は,同月5日の1度のみて,血液検査の結果も日に1回,投薬につい ても,同月6日に,抗生物質の種類を変更したのみてあり,薬剤の効果 や急性膵炎の原因を探ることを怠り,ENBDチューフ抜去の判断を含 め,亡Dの急性膵炎の治療か適切てなかった結果,膵炎を重症化させた というへきてある。なお,ERCP検査の施行によっても,偶発症として,急性膵炎を発 症することか知られているか,被告病院ての検査,治療は,仮にERC P検査の偶発症としての急性膵炎に対するものとしても,適切とはいえ す,また,前記のとおり,被告病院において,亡Dの急性膵炎の原因を 探らなかったことに,過失かあるといえる。(オ) 被告らは,亡Dの閉塞性黄疸の治療のため,ENBDチューフを留置することか必要てあったと主張し,確かに,12月5日の血液検査の 結果ては,ヒリルヒンか前日の9.47mg/dl から6.20mg/dl へ 下かっていて,ENBDチューフ挿入により閉塞性黄疸は改善してきて おり,また,ENBDチューフを抜去した場合,総胆管結石か再ひ嵌頓 して胆汁の排出を妨け,閉塞性黄疸の悪化及ひ胆管内の細菌感染を来し, 急性化膿性胆管炎を起こして,全身状態か抜去前より悪化する可能性も 考えられたことは認められる。しかしなから,閉塞性黄疸の治療方法は,ENBDチューフによる方 法以外にもあるのに対し,膵炎か重症化した場合には,膵臓の細胞の壊 死か生し,不可逆的状況か生しるのてあるから,膵炎を重症化させない ことを優先すへきてあった。そして,前記認定のとおりの亡Dの臨床経 過によれは,亡Dの膵炎は悪化の一途をたとっていたと認められ,その 原因か留置したENBDチューフによる膵管開口部圧迫に起因するもの てあったのてあるから,被告Fらは,亡Dの膵炎か重症化するまてに, ENBDチューフを抜去することを決断すへきてあった。それにもかか わらす,被告Fらは,各種検査等を怠り,亡Dの膵炎か悪化していると の認識を欠き,亡DをN病院に転院させるまて,ENBDチューフを抜 去することを検討すらしなかったものてある。(カ) よって,被告Fら被告病院の医師らには,亡Dの急性膵炎について, その経過観察を怠り,ENBDチューフの抜去を含む治療方法等につい ても適切さを欠いた過失により,亡Dの急性膵炎を重症化させたという へきてある。(2) 因果関係について Q病院副院長R医師の意見書(乙27の1)には,「仮定の話として,12月6日に腹部CT検査か施行され,また膵炎重症度判定の血液マーカー (血液カス分析,腎機能,血清蛋白値,血清Ca値,フロトロンヒン値なと)を測定していれは重症膵炎と判定されていた可能性は排除てきないか, この時点てN病院に搬送されていても患者の生命を救えたか否かについては 不明てある。」との記載かある。もっとも,医療法人社団STクリニックU医師は意見書(甲30)におい て,「早期に重症度の検査,画像診断と適切な処置かなされ早期に集中治療 か行われれは,不幸な結果に至る可能性は回避てきたかもしれない。」,1 2月「6日に血清アミラーセ値は低下しているか,その変化は重症膵炎の特 徴てもある。それにもかかわらす,検査,指示の変更かないため,早期の診 断かてきす,結果的に7日になって重症膵炎と診断されている。ERCP後 に膵炎を来す可能性は極めて高く,その後重症化することへの認識か少なか ったと判断される。」と述へ,同医師は,同日の検査の不十分性と,同日検 査か行われ早期治療かなされていれは救命てきた可能性を指摘している。そ して,前提となる事実によると,12月5日の時点て,亡Dの膵炎は中等症 と診断しているのてあるから,亡Dの膵炎か重症化していることを疑い,C T検査や膵炎重症度判定の血液マーカー(血液カス分析,腎機能,血清蛋白 値,血清Ca値,フロトロンヒン値なと)の検査等を行っていれは,ENB Dチューフの抜去を含む適切な治療を行い,膵炎の重症化を防き得た可能性 又は重症膵炎に対する治療をより早期になし得た可能性は高いというへきて ある。また,同月6日の時点てN病院に搬送されていれは亡Dを救命てきたか否 かを判断てきない事態となったのは,被告病院医師らか同日CT検査を行っ ていなかったため,同日時点ての亡Dの膵炎の程度を立証てきないからてあ ることに鑑みると,上記事実を立証てきないことによる不利益を原告らに負 わせるのは妥当てないというへきてあるから,上記事実関係の下ては,同日 時点て上記検査等を被告病院医師らか行っていれは,亡Dを救命てきた高度 の蓋然性かあったというへきてある。以上より,被告病院医師らの上記過失と亡Dか同月7日に重症膵炎に至り, 同月28日に死亡したことの因果関係は認められる。2 争点(2) 損害額について
(1) 被告病院医師らの上記過失により亡Dに生した損害額は以下の合計てある。
ア 治療費(12月7日から28日まてのN病院におけるもの)
207万4860円 証拠(甲17)によれは,N病院に支払った入院費のうち,文書料2100円を除く207万4860円か治療費として認められる。
イ 入院付添費 13万8000円 入院患者か近親者に付添看護を求めるのは,愛情のこもった看護を期待 することによるものてあることから,亡Dの症状等を考慮すると,被告F の過失か認められる12月6日から,亡Dの死亡した同月28日まて合計 23日間,1日つき6000円の合計額てある13万8000円をもって相当とする。
 ウ 入院雑費
亡Dについては,被告Fらの過失かなくても,総胆管結石の入院治療の 必要かあったと認められるから,因果関係ある損害とは認められない。エ 文書費 5775円 証拠(甲17,18)によると,2100円と3675円の合計5775円と認められる。
オ 逸失利益 3614万7903円
亡Dは,死亡当時53歳てあり,亡Dか死亡する前年の平成12年の収 入金額は603万4862円てあったことか認められるから(甲11), 定年60歳まての基礎年収を上記金額とする。定年後てある61歳から64歳まての基礎年収は,平成13年度賃金センサス産業計全労働者60から64歳の基礎年収422万3400円(決 まって支給する現金給与額29万0900円×12+年間賞与その他特別 給与額73万2600円)て,65歳から67歳まての基礎年収は平成1 3年度賃金センサス産業計全労働者65歳以上の年収額381万6700 円(決まって支給する現金給与額27万2800円×12+年間賞与その 他特別給与額54万3100円)てそれそれ計算することとする。生活控除費は3割とする。
 以上を前提とすると,計算式は以下のとおりとなる。 603万4862円×(1-0.3)×5.7863+422万340 0円×(1-0.3)×(8.3064-5.7863)+381万6 700円×(1-0.3)×(9.8986-8.3064) ≒3614万7903円カ 葬儀費用 120万円 亡Dは一家の生計を担うものてあることを考慮し,葬儀費用は120万円をもって相当とする。
キ 慰謝料 1700万円
本件における被告Fの義務違反の態様,多臓器不全による死亡の原因か 被告FらによるENBDチューフの留置にあったことの事実経過,亡Dの 総胆管結石による肝機能の低下も認められること等,その他本件口頭弁論 に現れた一切の諸事情を考慮すると,その精神的苦痛に対する慰謝料は1 700万円をもって相当とする。ク 弁護士費用 550万円 本件事案の性質,難易度,審理の経過及ひ認定額等を考慮すると,原告 らか被告らに対し,被告Fの不法行為と相当因果関係のある損害として賠償を認め得る弁護士費用の額は,550万円をもって相当とする。
 ケ 合計損害額上記アないしクの合計損害額は6206万6538円てあるところ,原 告Aか亡Dの妻,同B及ひ同Cは,亡Dの子てあり,いすれも亡Dの法定 相続人てあることは当事者間に争いかないから,相続により,原告Aは亡 Dの上記損害の2分の1てある3103万3269円を,同B及ひ同Cは それそれ4分の1てある1551万6634円を相続した。3 結論 以上によれは,原告らの請求は,原告Aに対して3103万3269円,同B及ひ同Cに対して各1551万6634円並ひに各金員に対する不法行為の 後てあり亡Dの死亡した日てある平成13年12月28日から支払済みまて民 法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度て理由かあるから 認容し,その余は理由かないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき民 事訴訟法61条,64条本文,65条1項本文を,仮執行の宣言について同法 259条1項をそれそれ適用し,仮執行免脱宣言については相当てないからこ れを付さないこととして,主文のとおり判決する。岡山地方裁判所第2民事部
裁判長裁判官 永伸行
裁判官 芹澤俊明
裁判官 松岡洋美
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